この中に1人、ハニートラップがいる!   作:佐遊樹

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色々と世界線が違うお話です。
(本編とは全然関係)ないです


VS空想架空の虚構世界
IF:童貞がIS学園に入学したら、主人公補正でハニトラハーレムを作っちゃいました!?


「誰がオーバーラップ文庫の宣伝しろっつったよオラ」

 

 開口一番に俺はそう言い放ち、教室の黒板に拳を叩きつけた。

 今は文化祭の出し物を決めるお時間で、一組代表、つまり委員長みたいなポジションの俺は議論を取りまとめている。やっぱ委員長であるからには黒髪おさげに眼鏡をかけなきゃいけねえと思ったが箒に全力で阻止されたので泣く泣く諦めた。

 

 兎にも角にも、今黒板(というかまあテキストファイルを拡大表示している電子ボードなんだが)に表示されているクラスメイツが案として出した出し物はひどいものばかりだった。

 

・ありふれたハニトラでIS学園最強を目指すVRMMO

・人工島学園の最深部を目指すVRMMO

・聖剣と魔竜の世界(直球)

・とりあえず異世界に行って魔法が遅れてるとか禁呪が読めたりするアレ

・グリムガルは割とガチで面白い

 

「とりあえずVRMMOか異世界転生なら許されるみたいな風潮やめろ! 大体後半適当に感想言ってるだけじゃねーかッ。ふざけんな真面目にやれよ真面目によォ、でもグリムガルは面白いよなアレ」

 

 俺が教卓をバンバン叩きながら叫ぶと、クラスメイトは顔を見合わせてうんうん唸りだす。

 

「兄様」

 

 不意に手を上げたのは、クラスの一員であり俺の腹違いの妹である織斑円(オリムラ・マドカ)だ。

 なんか一時期家族間の不和から謎の組織に入りそうになっていたが俺と姉さんがノリでその組織を壊滅寸前まで追い込んで『お前に認められなくたっていい! 押しつけでもいい! でもお前は俺の妹なんだよ、お前の力になるのが、お前を支える存在になるのが、俺がすべき――いいや、したいことなんだよッ!』とか言ってたら家に戻ってきてくれた。

 『白雪姫(アメイジング・ガール)』が三次移行して『輝夜姫(ライジング・ガール)』になったのもあの時だった。世界の命運をかけた戦いに勝利して人類を救ったのに世間には知られていないとか俺マジダークナイト。

 

「おしマドカ、こいつらにガツンと言ってやれ」

「女子にしか扱えないはずの兵器を何故か男が動かしてしまった――という設定でやってきた人に周囲に女子しかいない学校生活を味わってもらうというのはどうだろうか」

「なんだそのクソ陳腐な設定は。明らかに時代遅れな上に大して面白くなさそうな題材じゃねーか」

 

 俺がそういうとクラス全員からシラーッとした視線が突き刺さった。

 

「ご本人があそこまで言うあたり、不満がたまってそうですわね」

「まあ間違いなくストレスはたまりやすいだろうしねえ……」

「まったく、少しは私達相手でいいからガス抜きをすべきだというのに」

 

 上から順番にUK代表候補性、フランス代表候補性、ドイツ代表候補性のEU組の発言だ。

 余計なお世話だカス共。

 

「オラオラ案を出せよ、時代が時代なら税を重くするぞ」

「それ間違いなく後で反乱を起こされるタイプの悪徳領主だろう……」

 

 箒が頭痛が痛いって感じの表情で眉間を揉んでいた。ちなみに書記担当なので教卓傍でポチポチと端末を弄ってもらっている。

 そういった反乱ごとに馴染み深そうなデュノア嬢が苦笑いを浮かべている。

 

「重税だけなら大丈夫なんじゃないかなあ、若い娘子供を差し出せって言いだしたらアウトだけど」

「お前の国の貴族って山に住む妖怪かなんかか?」

「さすがシャルロット、多面的に造詣が深いな」

 

 なぜかボーデヴィッヒがドヤ顔で薄い胸を張っていた。

 ええいテメェらはどうでもいいんだよ、今は出し物を決めなきゃならねえんだよッ。

 

「おりむー、二組は中華喫茶で四組はメイド喫茶だってー」

 

 手元のスマホをポチポチと袖の余りまくった手で弄っていた布仏が手を上げて発言した。

 

「なるほど、飲食関連はライバルが2つか」

「どうせならそこで潰し合ってくれればいいのだがな」

 

 マドカの発言にクラス一同が頷く。

 

「なら飲食関連は捨てたほうがいいだろうな。うちのクラスの強みを生かせるモンが理想だが」

 

 改めて既出の選択肢を見ると目を覆いたくなる惨状だなコレ……うちのクラスの強みって異世界転生なのか?

 

「強みって言ったら……」

「本人に自覚はないようですが……」

「愚兄で本当にすまないとは思うが……」

「まあ圧倒的パラメータ補正があるしな……」

 

 気づけば全員が俺を見ていた。

 

「ン? おいおい、いくら俺がイケメンだからってそうまで見つめられるとこのビューティフルフェイスに穴が空いちまうぜ?」

 

 どこからともなく薔薇を取り出して俺が口にくわえると、視線が絶対零度のそれになった。おいやめろ傷ついちゃうだろうか、そういうメンタル攻撃には弱いんだよ。デバフにも弱いんだよ。基本的にはステレオタイプなパワープレイだからな。

 飛鳥文化アタックと一迅社文庫アタックってなんか響き似てね?

 

「……まあこいつの妄言は置いといてだ」

 

 箒が仕切り直しと言わんばかりに声を出した。

 しれっと俺のアピールがなかったことにされてるんですがそれは……

 

「こいつを生かす方向性にすべきなのは、まあ、正直どうかとは思うが、本当にできれば避けたいところだが、まあ、せざるを得ないだろう」

「そこまで忌避することある?」

『わかる』『それな』『ホントそれ』『ゆーてそれ』

「なあ泣いていい? 畜生ッ、お兄ちゃんを慰めてくれルリィイイイイイイイイイイイイイ!」

 

 俺は半泣きで愛する妹の所へ駆けていくと、その薄い胸の中に飛び込んだ。

 マドカは頬を赤く染めて「し、仕方ないな本当にこのゴミ兄は! 今回だけだぞ! でもどさくさに紛れて他の女の名前を叫ぶ兄様は嫌いだ……」とか言って俺の頭を撫でてくれる。今回だけってこの下り俺が織斑家に預けられてから五億回ぐらいやってるってそれ一番言われてるから。

 

「彼女は瑠璃ではない(無言の腹パン)」

「グフッ!! ゴホッガハァッ、ボーデヴィッヒやめろッ! AAICの応用で俺の腹部に腹パンするんじゃないッ!」

 

 あぶねえ、危うく作画が崩壊するところだった。

 AICが自己進化を果たしたAAICになって、なんかこいつが距離を問わず腹パンみたいな衝撃を与えてくるようになってしまった。俺がセクハラするたびに涼しい顔で天誅下してくるからやばい。

 かつてのようにBT兵器と龍砲で狙われていた方がまだ回避できて良かった。今やクリティカルで撃ち込んでくるからなあ……

 

「とにかくそこのゴミを生かす方向で頑張っていこう」

 

 立派に俺の代役を果たしてくれる幼なじみのほうを見ると、箒の瞳からハイライトが消えていた。

 ふぇぇ……やっぱ……ヤンデレ幼なじみって最高やな!

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことがあった、と大体のあらましを語ると、目の前であんパンを頬張りながら更識の妹さんが引きつった笑みを浮かべた。

 

「れ、冷静に考えて、一組って……すごく、キャラが濃いね……」

「やっぱり一夏君ってそういうのを引き寄せる体質なのかしら?」

 

 妹さんの隣でパスタをちゅるんと啜る更識が、『類友』と書かれた扇子を片手で器用に広げてみせる。余計なお世話だ。

 汁無し担々麺に舌鼓を打ちながら、俺は半眼で水色シスターズを睨んだ。

 

 混雑している時間の食堂は、ソロプレイをしていると誰と机を共にするか分からない。

 今日はたまたまこの姉妹と一緒になったわけだ。すったもんだはあったが仲直りできてて良き哉良き哉。

 まあスムーズに二人の仲を俺が取り持つことができたのは、ロシアで更識と知り合ってて、加えて、学園に入学する前から、倉持技研のつながりで妹さんとは仲良くさせてもらってたからってのがデカイな。

『打鉄弐式』の調整のため二人で技研の研究室に泊まりこんでたのはいい思い出だ。冷静に考えて俺の社畜適正ヤバすぎませんかね……

 

「それで結局、出し物は決まったのかしら?」

「……メイド、来てね……?」

 

 無論四組には行く。妹さんに奉仕(意味深)してもらうまでは死ねないって古事記にも書いてあるから。

 

「や、方向性を定めたはいいがどうするかは決まってねえんだよな。なんかいい案あったりしない?」

「それ……ライバルに、聞いちゃうの?」

 

 妹さんが苦笑する。

 結構行き詰っていることがまるわかりのようだ。まあ仕方ない、隠してたって何にもならんしな。

 

「うーん、一夏君を推すんなら、君と何かができるっていう形を取るのが当然だよねえ」

「でも……飲食関連は多いし……」

「オイオイ確かに俺はぶっちゃけ大体のことは平均以上にこなせるハイパー天才イケメンだがな」

「ちょっと黙って」

「ハイ」

 

 俺は汁無し担々麺と向き合って食事を再開した。

 

「一夏の……取り柄…………うん、あんパン美味しい……」

「一夏君の取り柄か…………今日も、太陽が眩しいわね……」

「ブッ殺すぞお前ら」

 

 黙らせといてこの扱いって何殺しに来てるでしょ。納得できねェ!

 

「俺にだって取り柄ぐらいあんだよ! シティトライアルだったら結構な高確率でスタジアムを的中させるし、スマブラならルイージの下投げサイクロン完璧にかまして相川を泣かせたりできてるんだぞオラ!」

『それよ/それッ!』

「……え?」

 

 

 

 一年一組出し物。

『公開休憩スペース~織斑一夏とゲームもできるよ!~』に決定しました。

 あの、俺、完全にサブなんですけど……

 

 

 

 

 

 

 予想外に盛況だった。

 ちなみに色んなゲームを用意している。

 現に、俺のセカンド幼なじみとは今現在デュエル中である。

 

「んー、懐かしいわねこういうことすんの、よくあんたとか弾からデッキ借りてやってたわー」

「すいません遅延はやめてください(パチパチパチパチ」

「……エマコ打ちます、ありますか(パチパチパチパチ」

「ないです(パチパチパチパチ」

「チェーンマスチェ対象ミスト(パチパチパチパチ」

「チェーン聖槍対象ミスト(パチパチパチパチ」

「チッ……エマコサーチ入ります(パチパチパチパチ」

「どうぞ(パチパチパチパチ」

 

 なんでだろう、可愛い幼なじみと二人で遊んでいるとか言うギャルゲ展開なのに、心がすさむ一方なんだけど……

 ちなみにデュエルには勝った。

 

「負けたー!」

「おい大げさに声上げて机に突っ伏すのやめろ。なんか中学時代のクソキモオタイチカを思い出すじゃねえか」

「何それ学名? まああんた珍しい生物だもんね」

「それってISを動かせる男子だからだよな? 元々珍しい、人間じゃない生き物扱いされてたワケじゃないよな?」

「次は魔術師使おーっと」

「聞けよカス」

 

 鈴は冗談よと手をパタパタ振って言った。

 当たり前だ、じゃなきゃ困る。

 

 

 

 

 

 

 

 わざわざ珍獣扱いされてご苦労な事だ、と姉さんが俺に缶コーヒーを投げてよこした。

 

「おっ、サンキュ」

 

 プルタブをカシュッと開けて、カフェオレをごきゅごきゅと飲み下す。

 疲れた体に糖分が染み渡るぅ~~~~。

 

 休憩時間にうろうろしていたら実姉とのデートが始まっていた。

 簪のメイド服はクッソ可愛かったし鈴のチャイナ服は……なんかこう……ちんちんがイライラした。

 

「一組連中はローテーションで休憩スペースを運営しているだけで、手が空きがちのようだな。あちこちで見るぞ」

「まあエンジョイしてるんならそれに越したことはないんじゃねーの? って一夏的には思うけど」

「千冬的にはややお前に負担が集まりすぎだと思うんだがなあ」

 

 そう言って姉さんは、手に持ったブラックコーヒーをちびりと口に含んだ。

 俺は相好を崩し、姉さんの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

 

「うンッ!? い、いきなりなんだ……!」

 

 顔を赤くする姉さんの手から缶コーヒーをかすめ取り、代わりにカフェオレを握らせる。

 

「いや、気を遣ってくれてありがとってことだよ。でも気難しいこと考えすぎるのも姉さんの悪い所だからな。糖分取ってシカクい頭をマルくしなって」

「か、間接キスなんだが」

「ッッ」

 

 まさか真正面から言われるとは想定していなくて、俺の首元から一気に熱がせり上がる。

 姉さんはちらちらと、手元の缶コーヒーと俺の顔を見比べて、意を決したように唇をスチール缶につけた。

 ……あの、目を閉じて、じっくりと、なんかこう……キスしてるみたいに、何してるんですかね。

 やばい実姉相手なのにちんちんスゲーイライラしてきた。やばい。雪片弐型がやばい。このままだとワンオフ発動しちゃう……

 

「……うん、甘いな」

 

 一口をじっくり味わった後、姉さんは、珍しいぐらいの笑顔でそう言った。

 普段は『フッ』って感じのクールさなんだが今は『クスッ』って感じの、一夏的にもレアな笑顔だった。

 あ^~千冬会になる^~

 

 そんなことを考えて、いたら。

 

 すっげー爆発音と共に、窓の外で火柱が吹き上がった。

 

「……連中か」

「……連中だな」

 

 姉弟で顔を見合わせ、溜息をつくと、俺たちは踵を返して別方向へ走り出した。

 

「私は避難指示ッ」

「俺は現場制圧ッ」

 

 示し合わせたかのような役割分担。

 確かな絆を感じて、俺は左胸に手を叩きつける。

 

「来いッ、『輝夜姫(ライジング・ガール)』……ッ!」

『起動』

 

 光と共に、俺の体に白いISアーマーが着想される。

 背部ウィングユニットは『白雪姫』時代と比べ小型化、しかし燃費と出力は度重なる性能向上により格段にアップしている。

 廊下の窓を丁寧に開けてから空中へ躍り出る。すでに迎撃に何名かの代表候補性達が出撃していた。

 俺も手早く『白世』を展開。

 

「どこだ――『亡国機業(ファントム・タスク)』!」

「一夏さん、こちらですわ!」

 

 スターライトmkⅤを構えたまま、オルコット嬢が俺を呼んだ。

 見れば箒などの専用機持ちが集合して陣形を組んでいる。

 

「一夏君注意して!」

 

 更識からの掛け声に身を固くする。何が起きてやがる……?

 破壊されたのは今日は使われていない特別校舎。もうもうと黒煙が吹き上がる中、空中には一機のIS。趣味の悪い金ぴか一色の、なんかこう、セブンソードに撃破されそうなデザイン。

 

「やっぱりテメェか、スコール・ミューゼルッ!」

「久しぶりねえ織斑一夏君! オータムの仇を討ちに来たわよ!」

 

 別に殺してないんだよなあ……

 

「あの子はまだ、君にタコ殴りにされた挙句『レズでババアとか救いようがないからマジで現世は良いことないと思うよ』って真顔で言われたのを気に病んで寝込んでるのよ……!」

「オイ皆俺にそんな冷たい視線を向けるのはやめろ、やめてくれ」

「ちなみに私も傷ついたわ!」

「知らね――――――ンだよババア!」

 

 思い切り大剣を振りかぶり突貫。

 待て一夏! とファースト幼なじみの静止の声が聞こえたが無視。

 

「お・ば・か・さ・ん」

「は?」

 

 瞬間、俺の体を凄まじい衝撃が叩いた。

 何の前触れもなく、眼前の空間が爆発した。

 

「アッハッハッハ! この『ワールド・パージ』が新たに装備したイメージ・インターフェース兵装はね、ステルス機能付きのBT自爆兵器よ! それもナノマシンから無限に製造できる! しかも脳波コントロールできる!」

 

 なるほど、専用機持ちが集合していたのはそれでか、どこに透明な爆弾が潜んでるか分かんねえから集まって弾幕を張って近寄らせないようにしていたのか。どうでもいいけどBT自爆兵器って語感悪すぎだろ。

 

「一夏ァァァァァッ!」

 

 鈴の悲鳴が聞こえた。

 だが――――

 

 

「カスが効かねえんだよ(無敵)」

 

 

 腕の一振りで爆煙を吹き飛ばす。顕現するのは無傷の俺。

 

「なッ……!? な、なんで、どうして!?」

 

 肩に『白世』の刀身を乗せながら、俺はフンと鼻を鳴らして、動揺する亡国機業の首領を見やった。

 

「ぶっちゃけ何かがあるのは分かってたから、対策するのは簡単だったぜ――ナノマシンにはナノマシンを、ってな?」

『起動済:ナノマシン防護被膜バリヤー』

 

 俺の問いに呼応し、ウィングスラスターが上下に揺れる。

 

「ぐぅっ、でもまだ、ここら一帯には無数のBT自爆兵器が――」

「まずネーミングセンスがダメダメ過ぎる。もっと正田作品やりこんでから出直せ」

 

 切っ先を突きつけて言い放ち、俺は続けて不敵な笑みを作った。

 

「大体俺がナノマシン使った時点で気づけ、次の一手を考えろ、俺に断りなく俺の敵が思考停止してんじゃねえよ」

「ッ!? ……ナノマシン、まさかあたりに散布して、BT自爆兵器の位置が!?」

「だから五億回ぐらい言ってんだろ、遅ェんだよ」

 

 瞬間、天空から降り注ぐレーザービームの雨。

 俺が散布したナノマシンはしっかりとステルス状態のBT自爆兵器に付着し、その位置情報を彼女――上空で本物のBT兵器を展開し待機していたマドカへ送り届けていた。

 

「狙いは?」

「完璧に決まっているだろう、兄様とのコンビなわけだからな」

 

 翼をはためかせ、『いばら姫(サイレント・ガール)』とマドカが舞い降りる。

 一体のBT自爆兵器は全てぶち抜かれ、爆発、あるいは推進力を失って地面に落下していた。

 専用機持ちも俺たちへ合流し、もう今からリンチ始めますって感じだ。

 

「こ、今回は私の負けね! でも覚えておきなさい、次こそこの私が織斑一夏、君の首を――」

「『レールガン:穿』」

 

 俺は『白世』を振り上げて、振り下ろした。瞬時に計算され徹底的に出力を増した電磁波が、純白の刀身をはじき出す。残るのは細身の刀――『雪片弐型』のみ。

 

「ひでぶっ!!」

 

 果たして、射出された刀身はものの見事にクリティカルヒットした。

 スコール・ミューゼル、撃破。

 そのまま金ぴかのISは空のかなたに消え、最後にキラッと一等星よろしく光を残した。

 無茶しやがって……

 

 

 

 

 

 

「えーそれではですね、今回の文化祭の集客数ランキングを発表します!」

 

 夏草や 兵どもが 祭りの後

 とはよく言ったものだ、いや言ってねえけど。

 文化祭の全プログラムが終了し、閉会式が現在講堂で執り行われている。

 生徒会長である更識楯無の進行の元、ざわめきもそこそこに進む中――聞き覚えのない言葉が聞こえた。

 

「え、なにそのランキングは」

「知らなかったの? なんかランキング一位だと賞品があるらしいよ」

「前回のようにデザート一年フリーパス系統ではないのか?」

 

 隣のデュノア嬢とその奥の箒と、三人で小声で会話する。

 もう教師陣も大分疲れているらしく、姉さんは教師席で鼻提灯を作っていた。オイそれでいいのか世界最強。

 

「面倒だからサクっと行くね――第一位、一年一組ッ!」

 

 ズビシ、と更識が俺たちが座っている辺りを指さした。そこそこに拍手が沸く。とりあえず俺も拍手しといた。

 ていうかこいつ今面倒って言いやがったぞ。まあ俺も面倒なんだけど。

 

「というわけで代表者一名が賞品を受け取りに来てください」

「え、俺かよ……」

 

 けだるそうなクラスメイトらに見送られ、俺は講堂の壇上に上がる。ン~~めんどくせえ。ぶっちゃけどうでもいいんだよなあ。

 

「賞品は……」

「…………」

『…………』

 

 ……ドラムロールぐらい流せよッ!!

 

「…………」

「……ダ、ダララララララ……」

 

 まさかの俺がドラムロール役だった。

 

 満足そうに楯無が微笑んだので、俺は適当なところでドラムロールを切り上げる。

 

「ラララ……ダンッ」

「わ・た・し・でーす!」

 

 は?

 

「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」「は?」

 

 講堂中が「は?」で満たされた。

 姉さんの鼻提灯がパンッって音を立てて割れた。

 

「ほらほら一夏君、お姉さんが賞品なんだよー? 何したって……いいんだぞ?」

「マジ? じゃあとりあえず二期不人気の責任を負って腹切れよ」

「えっ、何それは(ドン引き)」

 

 何でもじゃないじゃないか(憤怒)

 

 しかし壇上での会話など意に介さないのか、専用機持ちが大声を張り上げて待ったをかけた。

 

「ちょ、ちょっとターイム! いくらなんでも権力の私的濫用が過ぎるんじゃないの生徒会長ッ!」

「ふふふ、鈴ちゃん……権力って言うのはね、正義なのよ」

「腐ってる……この学園腐ってるわよぉ、生徒会長が腐ったみかんじゃないのよ……私達もこのままだと……ッ!」

 

 歯噛みする鈴の肩に、ポンと手が置かれた。

 いつの間にかISを展開したデュノア嬢だった。

 

「ファシズムはね、暴力で打倒するしかないんだよ?」

 

 ほんと……フランス育ちは言うことが違うなァ……

 ちなみにボーデヴィッヒは少し気まずそうに顔を背けていた。

 

 まあ、アレだ。

 何はともあれだ。

 

「今宵の『人魚姫(ストレンジ・ガール)』は、血に飢えているぞ?」

「あははー、そっかー、人って衝撃砲で撃てば死ぬんだー」

「その傲慢さ、私が撃ち抜いて差し上げますわ」

「じゃあラ・マルセイエーズ合唱しようか! 伴奏は生徒会長の断末魔ね!」

「なんか色々とすまないとは思うが、今回は同盟を結ばせてもらうぞ!」

「……日独伊、イタリアはいないけどよろしく、ね?(ニッコリ)」

「残念だ、兄様の目に付くところで乱暴な真似をすることになるなんて……」

 

「あらあら、学園最強がどれくらい強いのかそんなに知りたいのかしら……いい機会ね、教えてあげる、一夏君のキスの味もねっ」

 

 IS展開組の頭から血管が切れる音が聞こえた。

 

 とりあえず講堂が戦場になるのだけは分かった。

 俺はすばやく全校生徒に合図を出すと、全員一斉に駆けだした。

 同時に銃声レーザー音爆発音斬撃音すべてが響き、俺もまた、耳をふさいで駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

「……疲れた」

 

 案の定更識は敵対する連中を手早く仲間割れさせて、乱戦に持ちこんでいた。

 まああの人数相手は流石に一人じゃ勝てねえからな。そらそうよ。

 

 ちなみに乱戦は最終的に姉さんに鎮圧されていた。なんかもう爆発オチレベルで安定感あるわ。

 更識だけすげえ執拗に痛めつけられていたような気もするが……まあ気のせいだろハハ……

 

「お疲れッ、色んな意味で」

「ホントだよ」

 

 寮のバルコニーに、俺と相川清香は二人で並んでいた。

 淹れたばかりのホットココアを二人で飲みながら、星空を見上げる。

 今日は色々とありすぎた。いやホントに……

 

 専用機持ちはたっぷりと絞られた反動か、部屋で速攻で寝てるっぽい。クラスメイトもさすがに疲れ果てていて、結果としては俺と相川が二人きりというわけだ。

 

「一夏君が一番疲れてるはずなのに、最後まで騒動の中心だったね」

 

 苦笑しながらそう言われては素直にうなずくしかない。

 なんかこう、こいつにはあんま逆らえないんだよな。

 

「まあ人を引きつけちゃうからね、良くも悪くもだけど」

「うっせーな……」

 

 ココアを啜りながら減らず口を叩く、そんな様子の何がおかしかったのか、相川は口元を手で隠してクスクスと笑った。

 

「でも、良かったよ」

「あ?」

「楽しそうで、さ」

 

 そう言ってこちらを向いて笑う、その瞳の色は、やっぱり俺が苦手な――誰にでも優しい女の子の瞳だった。

 苦手なのに、どうしてこんなに惹かれるんだろう。こんなに惹かれるのに、どうしてこんなに遠く感じるんだろう。

 

 世界最強の称号なんかより、俺にとっては、相川清香の瞳を手に入れることの方が難しいとさえ思えた。

 

「一夏」

 

 ノックと共に姉さんの声が聞こえた。

 

「見回りお疲れ、そろそろ寝るよ」

「そうか、今日はご苦労だった。ゆっくり休めよ」

 

 反射的にそう声を返すと、多分姉さんも疲れてるんだろう、ドアを開けることすらせずに立ち去っていった。

 だがしばらくは全ての部屋を回るため廊下に居続けるだろう。

 

「……どうする?」

「……床、貸して」

「いや別に……ベッドでいいけど」

「え、いやそれは」

「俺床でも気にしないしさ」

「付き合ってもないのに同衾は」

 

 相川が人差し指をツンツン突き合わせながら何か言ってた。

 自分の勘違いに気付いたのか、相川の顔が首元から順に赤く染められていく、俺もつられて頬が熱くなる。

 

「じゃ、じゃあ……ベッドで、寝るか」

「え、ええと……うん、うん、そうだね」

 

 我ながらやや強引に話を進めてしまったが、今この体を満たす衝動は誰にも止められない……!

 一緒にベッドに入って、背中を向け合った。

 

 やれやれ、色々と疲れる一日だったが……最後の最後にいい思い出ができたぜ。役得役得。

 俺は少し頬を緩めると、そのままゆっくりと睡魔に身をゆだねていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後事態を改めて確認してメチャクチャ目が冴えた。

 

 そして朝になって俺と相川がお互い顔を真っ赤にしながら部屋から出てきたところと専用機持ち絶望の起床がたまたまかぶって寮が7割吹き飛んだ。

 

 爆発オチなんてサイテー!




書き終えた後ハニトラ要素皆無な事に気付いたんですけど書き直す手間めんどくせえなって思ったんで突っ込みました
東京は暑いです部屋の中が30度超えてます溶けて死にます

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