この中に1人、ハニートラップがいる!   作:佐遊樹

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あんまり改定とかしてません。
サクサク進むおー。


VS貴族お嬢様系ハニトラ
コードハニトラ 反逆のイチカ


すでにホームルームが始まった時間、俺は一人でトボトボと廊下を歩いていた。

 

「俺は負けねえ……めげねえ……諦めねえ……」

 

ちょっとサウザー様っぽくなってしまったが、現在俺の心境は世紀末と言われても問題ないほどすさんでいた。少し出歩けばモヒカンと出くわすレベル。

残念なことに南斗爆殺拳しか使えない俺は、北斗神拳伝承者と出会った場合逃げる一択になってしまう。俺より強い奴に会いに行くと言うが、正直ユダ様あたりと遭遇したら俺は手持ちのダイナマイト全てを投げ捨てて命乞いをする自信がある。あれ逃げるんじゃなかったっけ俺。まあいいか。

 

古来より織斑家に伝わる必殺の謝罪法を持ってすれば懐柔ならぬ服従など容易い。

ただフリーザ様みたいに平然と味方を使い潰すようなのが相手だと死に物狂いで抵抗することになる。

 

「一年一組……名前一夏だし、1つながりでいいカンジだし、彼女くれねえかな」

 

何を言っているのか、張本人たる俺でもちょっと分からない。もはや自分で自分の思考を疑うはめになりそうだ。

 

時たま俺の精神が勝手に理性を突き破って口から出ることがある。その場合もれなく場が紛糾するのであまりよろしくない。

無論ソースは俺。

 

「最初はなんて言おう。ここはインパクトのあるセリフだな。あー、ゴホンゴホン……この織斑一夏には『夢』がある! 世界最強になり、彼女をつくるという夢だ!!」

 

完コピしたジョジョ立ちと共に叫ぶ。

ん~~、ジョルノは俺には合わない気がする。主に血筋的な意味で。つかGERとか手に入れてもなんか嬉しくない。あれバグだろバグ。

 

「大体俺、外見のインパクトが小せぇしな。黒髪短髪とかマジ特徴ナッシング」

 

やはりジャギメットは持ってくるべきだった。インパクトを大幅に追加してくれるっていうかインパクトしかない。

ただあれを装着すると「ヒャッハーァ!」としか叫べなくなるので少々不便だ。ちなみに中は熱くてだるい。

弾と一緒に作った時俺もヤツもあまりの無駄な努力っぷりに数日間燃え尽き症候群にかかったのは記憶に新しい。

 

「そうこうしている内に教室到着である……やっべぇ今更緊張してきた」

 

ドアに向き合うとこまでは行ったがもう体が動かない。なにこれ金縛りかよ。

一説によると金縛りは過去の怨念が体に絡みついてるんだとか。廊下で金縛りとか俺どんだけ恨みかってんだ。

 

「イチカ・ヴィ・オリムラが命じる……体よ、動け!」

 

自分にギアス。入学初日に。やべぇ最上級の無駄遣いなんじゃないのこれ。鏡ないけどさ。

 

いざ入室。扉に手を伸ばし、俺が触れる前に勝手に開いた。

……ああ、自動ドアでしたねここ。

 

ヤバい、すっげえ恥ずかしい。

 

「……し、失礼します」

 

口から出たのはありふれた言葉。おいどうした一夏、お前はこんなもんじゃないはずだろうが。萎縮しているのか、視線が床から上がらん。

どうしよう俺のビビり方がガチ過ぎて笑えない。

 

「あ、え~っと、織斑君ですよね。ちょうど良かった、今最後の人が自己紹介をしていたところなんです」

「…………」

 

落ち着け、落ち着け。

ここで黙り込むと暗い奴みたいになっちゃうだろ。彼女を作るためには、こんな所で立ち止まってられないんだ。

 

『お前に彼女はできない』

 

さっきの姉さんの言葉がフラッシュバックする。

認めたくない。だが、結局はそれが事実なのか。思考が埋没し前後不覚になっていく。顔を伏せた。何も聞こえなくなる。

ただ姉さんの声がエコーを引いて小さくなっていく。

 

俺を支えていた欲望が……可愛いコを口説いて部屋に連れ込んで俺の×××をその子の××××にズルズルヌコヌコギシギシアンアンするという夢が、性欲が崩れ去っていく……!

 

ああ……童貞のまま死にたくない……せめて、ニーソ装着の足で×××されたかった…………

 

 

……違う。

 

 

俺は何を。何を勝手に諦めてるんだ、俺は。

 

さっきも言ったじゃないか。俺は負けねえ、めげねえ、諦めねえ。

 

何のために15年間生きてきたと思っている。何のために脳内妄想で大人の階段を上る予習をしてきたと思っている。

 

「違う」

「――?」

 

外野がうるさい。今こっちは大変なんだ、騒ぐな。

 

「断じて違う!!」

「――!?」

 

意識が浮上する。自分を貫く芯を改めて固定し、細胞の一つ一つを凝固させる。

 

「俺は、一人の男として! そんなことを認めるわけにはいかない!!」

 

瞳に力が宿るのが、自分でも分かった。

理屈を抜きにして、男として、俺を止めるものは何もない。ハニートラップがなんだ。そんなもの華麗に回避してやる。

 

拳を握り顔を上げる。さあかかってこいよハニトラ野郎(♀)! この俺と――

 

「――勝負だッ!!」

「決闘ですわ!」

 

……!?

今、完全に俺の理解を飛び越えたことが起こっていた。

いつの間にか一人の生徒が立ち上がって俺を指差している。顔は怒りに赤く染まり、指先が震えていた。

 

え、ちょ。

 

何これ。

 

何なのこれ。

 

誰か説明! 説明プリーーーーズ!

 

「……何の騒ぎだ」

 

俺の心の叫びに応えるかのように扉が開き、フォーマルスーツを着込んだ姉さんが入ってきた。俺が聞きてえよその質問。

 

「あ、えっと、その……織斑君とオルコットさんが、その」

 

教壇に立っている緑色の髪をした女性が困ったように口を開いた。どうやら先生のようだ。そういえば俺が教室に入った時、声をかけてくれた気がする。

しかし、ヤバい。

とにかく、ヤバい。

 

「何て言ったらいいんでしょう……挑発にのったというか。どうもISバトルで決着をつけたがっているというか」

 

たゆん。

 

たゆんたゆん。

 

先生……その……あなたの肉まんが、組んでる腕の上に乗っています……

なんという絶景。なんという戦闘力。明らかにこいつは国宝級だ。

 

「ほう、なるほどな。ならば決闘だ。時間は?」

「今からで構いませんわ! ちょうどあちらも、専用機をお持ちのようですし!」

「…………」

 

お、おかしくないか。俺何も言ってないのに、なんかあの金髪と戦う流れになってる。

落ち着け俺。これは陰謀だ。腐った官僚どもが俺をハメようとしているんだ。

 

「で、ハンデはどれほどお付けになりますの?」

「……ハンデ?」

「当然、私はユナイテッド・キングダム代表候補生、セシリア・オルコットですもの。下々の者に合わせて差し上げるのも高貴な者の努めでしてよ」

 

ノブレス・オブリージュってやつか。あれ、こんな意味だっけ。

 

ついでに言うとUK代表候補生ごときがさもこの俺より格上のように振る舞っているのはどうも納得いかない。

決闘自体は嫌じゃない。断る理由もないしな。ただこの上から目線は死ぬほどイラつく。見下してんじゃねぇ。

 

「そうだな、ハンデぐらい自由に決めていいぜ」

「……は?」

「だから、ハンデだよ。どうする、瞬時加速(イグニッション・ブースト)禁止でやるか? それともスラスター出力30%オフ?」

 

実際それぐらいじゃ俺の圧勝は揺るがないと思うがな。

しかし俺は妥協しない男なのだ。

どうせ勝つなら、二度と挑む気すら起きないほどの大差をつけて勝つ。

ここでだめ押しの一言。

 

「下々の者に合わせてやるのも、格上の仕事だからな」

 

俺が不敵な笑みを浮かべてオルコット嬢を見やると、意味を理解したのだろう――彼女は顔を憤怒の色に染めて、両手を机に叩きつけた。

 

「このッ、私を……! 愚弄しようと言うのですか……!」

「UK代表候補生サマにしちゃ豊富な語彙じゃねえか。いいぜ、日本男子の力、見せてやるよ」

 

俺がそう言うと、なぜか教室を爆笑の渦が包んだ。

 

「ちょっと織斑君、何言ってるのー?」

「男が女より強かったのって、十何年前の話だよー」

 

見れば相川も笑っていた。視線が合うと気まずげに目を伏せた。

俺は革靴が床を叩く音を存分に慣らしながら彼女のとこに向かった。

 

「相川」

「ひゃい!?」

 

俺はわざと大げさに片足を振り上げて、相川の机を踏みつける。

そのままズイと顔を寄せると、彼女の小さなあごを指で掴んだ。無理やり顔をこちらに向かせ目を覗き込む。

 

「専用機は?」

「え、えッ?」

「お前、専用機は持ってるか?」

「い、いいえ」

「ISの操縦経験は?」

「入試の時に一回……」

「その時飛行は?」

「で……できませんでした」

 

なぜか敬語で話す相川。どうやら顔にリキ入れすぎたらしい。

昔からキレると悪人顔と名高い俺だ、純情可憐な乙女の心にはさぞ深い傷を残しただろう。何それ、何やってんだろ俺。彼女できる気がしなくなるじゃん。

 

以前九歳ほどの近所の女子を一発で泣かせた時は弾も同情してくれた。一番泣きたかったのは俺だっつの。

 

まあそんな俺の心の古傷は置いといて、俺は満面の笑みで振り返る。

どう満面なのか具体的に言うと顔を合わせたオルコット嬢が一歩引いて巨乳先生が悲鳴を上げるレベル。もう帰っていいかな俺。トラウマが増える一方なんだけど。

 

「他に」

『……?』

「オルコット嬢以外に、自分はISを扱うのに自信があって、男なんて片手で捻り潰せる矮小な生命体だと断言できるやつ」

 

俺がそう言うとほとんどの人が顔を伏せた。まあそりゃそうだ、そのISの操縦を習いにここに来てるんだから。

 

「分かるか? 分かるだろう? お前ら、俺を笑う資格なんてないんだよ」

 

改めてオルコット嬢に向き合った。

見極めたい、こいつが果たして女尊男卑を利用しているのか、はたまた呑まれているだけなのか。

 

「お前は、どう思う?」

「当然ですわ! 男なんて、ただ女性の言うことに従って這いつくばっていればいいんですわ!」

「どうして?」

「それは――男にはISが使えませんもの。軍事力において絶対的な位置を占めるそれが使えない以上社会的な地位が下がるのも回避できないでしょう。守るものと守られるものの間には格差も起こりますわ」

「合格だ」

「は?」

 

俺は笑いをかみ殺しきれなかった。

上々だ、ただ思考を放棄しているだけではなかった。まだマシな分類だ。

 

姉さんに振り向く。我ながらイイ表情だったと思う。多分薬を摂取したばかりのジャンキーみたいな表情だったに違いない。

 

「先生、今日中にやりましょう」

「よし。決闘は30分後、第三アリーナにて行う! ……ちょうどいい、勝った方はクラス代表になれ」

「分かりましたわ」

「…………」

「あなた、先ほどから黙りこくったり急に喋ったりしていらっしゃいますが、統一したらどうですの!?」

 

なぜか責められる俺。

こうして、俺のIS学園デビュー戦が決まった。

 

役不足になるか力不足になるかは分からんが、とりあえず超スピードとか催眠術とかチャチなもんじゃない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わってしまった。

ありのままを説明するとか敗北フラグじゃないですか。あ、違う? 俺は好きだけどね、ポルナレフ。

 

 

 

 

 

 

 

「よっす相川」

「あ、織斑君。どうしたの?」

 

ネイビーカラーのISスーツに着替えた後――まあ制服の下に着込んでたからジャケットとズボン脱いだだけなんだけど――俺は観客席に向かうクラスメイトの中から、本日の知り合い第一号を引っ張り出した。

 

ちなみに俺が今着ているISスーツは何でも実験用の特殊モデルらしく、上も下も七分丈だ。

どうせならガンツスーツみたく全身黒タイツの方がまだ諦めがつくもんだが、なぜこんな中途半端な代物なのか。

各企業から是非とも使ってくださいと化粧品の試供品みてえにバンバン送られてくるので、俺の手持ちのスーツは二十着を越えるのだ。正直マジ勘弁してほしい。

 

「いや……さっき教室で何があったんだ?」

「へ?」

「だから、何で俺、あのオルコットさんとやらにケンカ売られてんの?」

「え、えッと……覚えてないの?」

「まったく」

 

自慢げに言うと、相川はぐったりと脱力した。

いつの間にか俺を見る目が出川や山崎をみるそれになっている。すげぇバカにされてないか俺。

 

「俺はいつだって全力で今を生きてるのさ。逆説的に考えて過去なんて知らない。でも時々足跡を振り返りたくなるんだ」

「足跡っていうか歩いてきた道を覚えてないじゃん」

「不可抗力だ。俺はいまいち道筋を覚えきれないんだよ」

「人生の方向音痴だなんてイヤすぎる……」

 

俺も嫌だっつーの。

雑談はほどほどにして、話を本筋に戻そうや。

 

「で、何があったんだよ」

「うーんと、何ていうかな……」

 

相川は少し考えると、口を開いた。

少し長くなるという前置きを置いて、壮大なる相川の語りが始まる。

 

 

――始まりは、嵐の夜だった。

――その日、幾多の雷雨を超えて、数多の竜巻を破って、男はやって来た。

――手にしたボロボロの剣はヒビがいくつも入り、もう片方の手には、不気味なほど静かな赤子を抱えて

 

 

「オイ待て」

「はい?」

「誰がお前の妄想ロマンサーガ語れっつったよ」

「妄想じゃないもん! 想像だもん!」

「ええいうるせえ、そんな微妙なニュアンスの違いをことさら強調してんじゃねぇ!! 大して変わんねえだろうが!」

「違うよ違うよ全然違うよ! たった一文字で世界観が変わるよ!」

 

俺以上にはっちゃける相川。相手をするのすらしんどくなってきたが致し方ねーな。大まかな流れぐらい俺も知っときてぇしよ。

 

「いいから早く話せ」

「はいはい……」

 

 

 

教室。先ほどの俺の登場直後。

巨乳先生に促されながらも一切の応答を返さずにいた俺に対し、クラスからの視線がいっそう強くなった時――しびれを切らした一人の生徒が、机を叩いて立ち上がった。

 

「ちょっと、黙ってないで何か喋りなさいな!」

「…………」

 

黙ったままの俺に業を煮やしたのか、その生徒はさらに言葉を続ける。

 

「大体、入学式であのような騒ぎを起こしておきながら謝罪の一つもないとは、器が知れますわ!」

「…………」

「これだから男は!」

 

俺は答えなかった。

 

「あなた達みたいな下等生物、さっさと絶滅するべきではなくて!?」

「…………」

「男なんかがこの私と同じように専用機を持つなど、片腹痛いことですわ! そもそもあなたのように男は皆周りに」

「違う」

 

沈黙。

唐突な切り返しに、思わずその女子生徒は固まった。

 

「な、何を……?」

「断じて違う!!」

 

雰囲気が、変わった。何がどう変わったのか具体的には分からない。だが――何かが、鋭くなった。

身を裂かれそうなその空気に、勇んで立ち上がったはずの女子生徒が一歩後ずさった。

 

「この感じ……貴方、一体!? どうして!?」

 

答えは叫びだった。

 

「俺は、一人の男として! そんなことを認めるわけにはいかない!!」

 

織斑一夏が顔を上げた。双眸の光を伴い、真っ直ぐな眼光を秘め、男は拳を握る。

先ほどまでの女子生徒――英国代表候補生、セシリア・オルコットの発言を踏まえて考えれば、俺はこう言ったのではないだろうかと推測されたらしい。

 

男が専用機を持って何が悪い。

 

「……そうですか、ああそうですか! いいでしょう、織斑一夏さん!」

 

オルコット嬢は腕を振り上げた。それより先に俺が声を荒げた。

 

「――勝負だッ!!」

「決闘ですわ!」

 

 

 

 

 

「というわけなんだけど……どうしたの織斑君、急に頭抱えて」

 

おおおおおおお。

ぐおおおおおおおおおお。

何それ、想像以上にややこしいじゃねーか。

つーかアレか、ってことは俺、オルコット嬢から敵意むき出しの状態で戦わなけりゃいけねーのかよ。

 

「ヤだなぁ……」

「そーだよねー。やっぱ代表候補生相手とかキツいでしょ?」

「いや、これから少なくとも1年は一緒に学園生活を送る相手を衆人環視の中でボッコボコにするなんて、後味わりーし」

「…………」

 

それ以上に、あのタイプの女は敗北を根に持つタイプっぽいからなぁ。ソースは俺。

相川は何とも言えない目で俺を見てきた。しゃーねえよな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

ピットで出撃を待つ。後付装備(イコライザ)として標準的なライフル二丁を拡張領域(バススロット)にぶちこんどいた。

ちょいとカスタマイズはしたが大きさ的には変わりない。反動の再演算は数値をインプットしといたので俺が通常パターンとカスタムパターンを選択するだけだ。

 

「時間だ」

「あいよ」

 

光が散る。体の内側から染み出すように純白の装甲が顕現した。背部の非固定浮遊部位(アンロックユニット)は度重なる改良によって肥大化し、大きなウイングスラスターが二つ、どちらも4つに先割れしている。

 

「行くか、『白雪姫(アメイジング・ガール)』」

 

呼応するようにウイングユニットが上下した。カタパルト上に機体を浮かせ、シグナルが点灯するのを待つ。

 

「……一夏」

「なんスか」

 

姉さんが個人秘匿回線(プライベート・チャネル)を開いて話しかけてきた。

右上に表示された姉さんの顔は、少しキリッとしていた。

 

「お前はまず間違いなく男としては世界最強だ。私が保証する。だかお前とて人間だ、ミスをすることもある。だから」

「俺の負けには相応のリスクがつく、ってことだろ?」

 

俺もキメ顔で返す。この俺ほどのレベルになればニコポだけでなくキリポも容易い。なんかピノコの亜種みたいになったな。

 

「……そうだ」

「ならこっちからも一つ」

 

シグナルが青になった。

 

「俺が勝ったら、3DS買ってくんねーかな」

「時間だ、出ろ」

 

凄まじい形相で睨まれた。せっかくいい感じにマジな雰囲気だったのでごり押ししたら何とかなると思ってたら全然そんなことはなかったぜ。

 

「分かった分かった」

 

スラスター微調整。

点火準備完了。

対G体勢。

 

「じゃあ行くか」

 

ほんのそこまで散歩に行くのと同じだ。ただ邪魔な石っころ――石は石でも英国産だ――を蹴飛ばすだけ。

アリーナに飛び出す。思ってたより広いな。ただ障害物がないのはどうかと思う。サバゲーもできねぇしよ。

 

「遅刻ですわ!」

「わり、待たせたか?」

「まあ、そんなには待っていませんが……」

「オイ今俺らちょっとカップルっぽくなかった?」

「頭が沸いているのではなくて……?」

 

非常にいい笑顔で、先に待機していたらしいオルコット嬢がライフルを向けてきた。

確か……何だっけ、スターライトブレイカー? 後マークⅡとかついてた気がする。黒いガンダムは正直大好きだったんだけどな。外付けの頭部バルカンとかカッコよすぎると思います。

さすがに勝手におっぱじめるワケにはいかねーので肩をすくめて無抵抗。

 

「やっと来ましたわね、わざわざ無様に敗北しに」

「あークラスでトトカルチョとかやってたっけ。オイ主催者、倍率は」

 

俺もオルコット嬢も客席を見た。ISの視覚補助機能が谷本を拡大する。

 

『へっ!? な、何で知ってるの!?』

「いいから早く」

「そ、そうですわ! そんなことをしているのなら教えなさいな!」

『えー。えーっとね……織斑君が四十倍近くになってるね』

 

……わ、わわ分かってたし! べ、別に動揺したり落ち込んだりなんかしてないんだからね!

まァ第三者からすれば得体の知れない男子と確かな実力の英国淑女だ。そりゃあっちに入れるだろうよ。

 

「だ、そうですわよ」

 

勝ち誇ったようにオルコット嬢が鼻を鳴らす。すっげえうぜぇ。

俺はそれを無視して両手にライフルを召還した。簡易的に照準を絞っておく。

 

「なるほどそれが答えですか。ならば」

 

――敵ISのセーフティのロック解除を確認。射撃体勢に移行、トリガーうんたらかんたら。

『白雪姫』が相手の状態を教えてくれた。ただだるかったので途中で読み飛ばした。

要は一言で済む話だ。ついでに疑問文を付けてやってもいい。

 

相手さんはやる気だ。……ならこっちはどうする?

 

決まってる、その売られた喧嘩を、全力で買うだけだ!

 

「お別れですわね!」

 

オルコット嬢がライフルを掲げるように振り上げ、そして銃口が俺に向けられる。

閃光がほとばしった。

スナイパーライフルから放たれたそれが俺の左肩をかすめる。

そして。オルコット嬢の背部に備えられていた4つのフィンが稼働し切り離され――内2つが即座に爆散した。

 

「…………え?」

 

オイオイ、これぐれーで驚いてんじゃねーよ。この一夏サマのショータイムはもっと刺激的だぜ?

呆然としているオルコット嬢に弾丸を撃ち込む。左右脚部のブースターを狙ったが、そこは代表候補生のはしくれらしく急加速して逃げた。

 

「何をしたのですかッッ!」

 

教える義理はないんだけどなー。俺サマは優しいから教えてやろうかな。まァただの早撃ちなんだけど。

お前、ライフルを構える時いちいち銃口を上に向けんなよ。俺がお前をロックしてるのは分かってんだから、お前の視界が上に向いた瞬間に撃てば、お前が引き金を引く頃に独立した『ブルー・ティアーズ』に風穴開けれるだろ。

 

急加速と急旋回を繰り返し、複雑な軌道を描きながらオルコット嬢はこちらをしっかり補足しライフルを連射。

 

「知りたいならさ、もっと激しくしてくれよ。こんぐらいじゃァ満足できねーんだよおおお!」

 

左右のトリガーをムチャクチャに引きまくる。同時に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を2つのスラスターで別々に発動させた。

結果的には、星と星を繋いでいったような複雑な軌道でオルコット嬢に迫ることとなる。

 

「――!」

 

残るBT兵器2つとスナイパーライフルが俺に狙いを定めた。

甘えよ。

ライフル二丁を投げ捨てる。

単純な軽量化。

同時に二度目の瞬時加速(イグニッション・ブースト)――俺の十八番である高速連続瞬時加速(アクセル・イグニッション)。もはや音を置き去りにして疾走。

そして召還。

 

 

『白世』

 

 

「その大剣はッ!」

 

始業式で見せたヤツだよな、それぐらいは覚えてるよな。ついでにハイパーセンサーで長さや質量、それに伴う威力も分かるだろ?

これが当たったら……どうなるかも分かるよな?

 

「くっ、この程度で!」

 

でもオルコット嬢は引かねえ。それがプライドによるものなのか、それともきちんと結果を予測してのことなのかは、知らねえ。

ただどの道、この女は見誤った。この剣を、そして俺を。

 

三発のレーザーを、バカでけぇ大剣の腹を盾にして弾く。対ビームコーティングが十二分に蒼の閃光を無力化してくれた。

攻防一体。

 

両手で柄を握り締め、立てた剣身を倒し切っ先を敵に向け、勢いのままに貫く。

ハイ詰み。

 

「キャアアアアアアッ!」

 

体勢が崩れた所に斬撃。想像を絶する重さのそれがライフルをへし折り、そのまま胸部ISアーマーを砕いた。ついでに起きた風圧がBT兵器のPICを狂わせ、まとめて吹き飛ばした。

 

反射的だったのだろう、ロクな狙いもつけずに腰部の弾道型のBTが作動する。ミサイルが放たれる前に迎撃準備。大剣を片手に持ち替え、量子化していたハンドガンを召還、すでに初弾は装填されている。

トリガー。直撃。

放たれる寸前にミサイルが散る。誘発して脚部のブースターが炎を伴って中から弾けた。爆風が俺の前髪を揺らす。被ダメージはほぼ0。初めに受けた射撃ぐらいか。

 

俺は至近距離からハンドガンを突きつけた。眉間にポインティング。

ここから撃てば、絶対防御が発動せざるを得ないだろ。致命傷になるはず。

試合開始から――約22秒だ。

 

「『矛盾』って言葉を教えてやる。こいつは中国の故事成語なんだがよ」

「……それぐらい、知っていますわ……ッ!」

「なら早ぇ。その話での『矛盾』を解決するためにはどうすればいいと思う?」

「……解決できないから、『矛盾』なのではなくて?」

 

あー、こいつすげぇ。ちゃんと日本語理解してる。マジメだ。

ただマジメなだけじゃあダメなんだな。俺みてーにある程度ぶっ飛んでなきゃ人生は面白くねえ。

 

「簡単だろーが。その矛と盾を一つの武器として溶接すりゃいい」

「――――――――」

「答えになってないって? いいんだよ俺的にはそれで万事解決なんだから」

 

あらゆる盾を貫く矛とあらゆる矛を通さぬ盾。

それを兼ね備える、ということだ。

 

「この『白世』は至高の剣(ツルギ)だ」

「びゃく、せ……」

「ああ。いい名前だろ?」

 

こないだ弾が飼い始めたインコにびゃくせって名前付けようとしたらキレられたけどな。何でだよ、最高にいい名前じゃねーか。

腹いせにインコに卑猥な言葉を吹き込みまくったのは今じゃいい思い出だ。

 

「俺もお前もいい名前だ。俺は『一』ってのがお気に入りだが織斑も悪かねぇ。つっても親の顔知らねーけどよ」

「……え?」

 

オイ、何感情的な表情してんだよ。別に同情してほしくて言ったわけじゃねーのによ。つか観客の連中まで静かになってんじゃねえか。オイオイ。俺はこんな空気にしたくて暴露したわけじゃねーぞ。軽く笑えよ。笑えって。

 

「だからって両親は恨んでねーよ。姉さんと二人で生きてこれたし、そもそも俺たちを生んだ時点でそいつらの仕事は終わったんだ。この世に傑物を二人も生み出したわけだからな」

「……あなたも、織斑先生と同じような人物だと?」

「当たり前だ」

 

俺はハンドガンを量子化した。

そして告げる。

 

 

「覚えとけ。刻め。俺の名前は織斑一夏――この学園で彼じあっヤベ間違えた」

 

 

……………………しまらねえ。

俺は『白世』を両手で握り締めた。

 

「え? え、えッ?」

「やっぱシールドエネルギーはゼロにしとかなきゃなー」

 

振り上げて、振り下ろす。直撃。悲鳴を上げる間すらなくオルコット嬢は地面に向かって一直線に落下して行った。

びーっ。勝者ー、おりむらいちかー。

アリーナに響く機械的なアナウンスがやけに寂しかった。勝利ってのはいつでもむなしいモンなのさ。

 

 

さすがにこの空気で、自分のことを『この学園で彼女を作る男』だなんて言えなかったわ。

 

 

 

 

 

 

 

さてさて……実を言うと先ほど話に挙がっていたトトカルチョ、俺も参加していたりする。ちなみに俺に5000円賭け。完璧すぎる。しめて20万近くの利益になった。容赦せずに搾り上げたが何の問題もないよな。ゲームみてーに現金で追加装備が買えたりスラスター改良したりできたらいいんだがな。

ただ谷本の話によると、俺に賭けたのは俺以外にも一人いたそうだ。

物好きがいたもんだぜ、まったく。

 

シャワーを浴び終わり、食堂へ向かう。

なんでもウチのクラスが貸しきって、クラス代表決定パーティーを行うらしい。これオルコット嬢居づらすぎるだろ。

 

「んー、何があっかなー。できればクラスの女子たちとアド交換ぐらいしたいもんだけど」

 

ポケットの中のケータイを撫で、ルンルン気分で歩く。なかなかどうして、好スタートじゃねえの?

ただ試合に関してはまだ改善の余地がありそうだ。あれぐらい瞬時加速(イグニッション・ブースト)なしで圧倒せねば。

 

「あ、織斑君! 遅いよー!」

 

食堂に足を踏み入れた途端に声がかけられた。相川の後ろの席の子だ。名前は知らねえ。

 

「ワリワリ。もう始まってるのかな?」

「うん、正直美味しそうだったから食べ過ぎちゃった」

 

笑いながら告げられる。食べすぎで気分が悪くなったりしたのだろうか、どうやら外の空気を吸いに来たようだ。

俺は彼女に軽く会釈してから中に入る。予想通り、みんなワイワイキャイキャイ騒いでいた。もうグループができてる辺り女子ってすごい。

かと思いきや、やはり何人かは孤立しているようだ。つまらなさそうにケータイを弄ったり、ぼうっと天井を眺めたり、一人で無言で食事をしていたりする。……なんか生々しいな。

あいにく俺には道端に転がってるトラブルを一つ一つていねいに解決して行くような根性はないので、そういう子はスルーさせてもらう。

 

身勝手? そうだろうな。

自己中心? 当たり前だ。

そんなんだからモテない? …………。

 

……………………。

…………………………………………。

 

 

なるほど、それが原因だったのか……。

 

 

そうとなれば話は早かった。

 

「ねえ、君」

「ひゃいっ!?」

 

一人でサラダを器に盛っていた女子に声をかける。本人も驚いているし、テーブルで俺の到着を今か今かと待っていた女子たちも驚いていた。

とりあえずは会話を続行。

 

「慣れてるね、サラダ盛るの」

「え、まあ、はあ……」

「ワリぃけど、俺の分もやってくれない? 俺、栄養バランスとか考えるの苦手でさ」

 

ちなみに真っ赤なウソである。バイト先に持ってく弁当はすべて俺のお手製で、先輩方に大好評だったからな。

だがここでは俺のことをほぼ知らないメンツばかりだ。だからこんなウソも平然とつける。新天地マジヒャッハーァ!

 

「俺はチキンをもらおう」

「あ、美味しそう……」

「野菜ばっかじゃなくて、こういうのも食おうぜ」

 

俺は二つの皿に同時に肉系を盛り付けながら言った。

さっきまでこの子が座っていたトコからサラダボウルを持ってきて、今まさにパーティーの中心となっているテーブルまで持ってくる。肉を盛り付けた皿を2つ置き、戸惑いながらその子も俺に頼まれたサラダを置いた。

 

「あ、これ君の分」

「え……」

「言ったろ、肉も食ったほうがいいって」

 

ちなみにちゃんと軽めに選んだ。あんまり脂っこいもの好きそうじゃないしな。

危うくから揚げにレモンをかけるところだったが俺がやられた時のことを考えると相手を八つ裂きにしてしまいそうだったので止めた。あんなの人間のすることじゃねぇよ。

 

「待たせたな」

「あ、ああうん!」

 

フリズっていた女子たちがやっと再起動した。遅ぇよお前ら初期のパソコンかよ。

俺の隣にサラダ子ちゃん(仮名)が座った。かなり遠慮がちだったが、すぐに慣れるだろう。

ちなみに反対側の隣に座っているのは相川だった。

 

「じゃあ主役が来たし、そろそろ乾杯するー?」

「お、乾杯か。いいぜいいぜやろうぜ。音頭はもちろん相川が取るんだろ?」

「えーそこはやっぱりねー。空気を読まなきゃ」

 

やはり俺がやる展開か。

咳払いした後、ウーロン茶入りのジョッキを掲げる。まあこういう役回りは嫌いじゃないからいいんだけどさ。

 

「今回の調子で今後も勝って、一組が最強のクラスだって学園に知らしめてやりまーす! カンパーイ!」

『カンパーイ!』

 

俺のジョッキにみんなぶつけてきやがった。いくつかこぼれだして、俺にかかったんだが。

 

「オイ誰だオレンジジュースこぼしたの! 目! 目に入ったイデデ!」

「ごっめーんそれ私」

 

相川が大して申し訳なく思ってなさそうな声で言ってきた。この野郎。女だけど。

俺が相川と箸でつつき合いをしている内にサラダ子ちゃんは女子の輪の中になじんでいた。ふとサラダ子ちゃんがこちらを見た。視線が合う。

 

「あ……ありが、とう」

「気にすんな」

 

微笑みかけてやれば、サラダ子ちゃんは照れくさそうに俯いた。それを見てなぜか相川も笑顔になる。ニヤニヤしながら俺の方に目を向けてきた。

いや、こういうのを見たら誰だって笑顔になるよな。

 

……こういうのだよ。俺は、こういう青春がしたかったんだよ!

そうだ、俺はこういうのに憧れていたんだ! 中学の時は女子と話すことはあれどトキドキイベントなんて欠片もなかったし思い出したくもないことばっかりだったからな!

 

フフ、フフフ。フフフフフフフフフ。

 

俺、今すっげえ良い奴だよな。完全にイケメンだわ。正直完璧だわ。やっべぇ。俺やっべぇ。完全にモテルート入ってる。

何だよハニートラップとかいるわけねえじゃん。それこそ不二子ちゃんみたいにさぞかし色っぽくてやたら露出の激しいおねーさんが俺を誘惑してくるんだろ? そんなのいないしいたら目立つし大体ウチのクラスのみんなは純粋そう――――

 

会って初日なのに、なんで純粋だなんて分かる?

 

背筋を寒気が走った。

こいつら……。……本当に、素か? 演技、入ってないか?

もしかしたら。もしかしたら、これらが全て、俺を陥れるための演技だとしたら?

俺を取り囲む女子の笑顔が、急に剥がれ落ちるような気がした。その仮面の裏では、俺がいつ崩落し愚かにも遺伝子情報を与えてくれるのか舌なめずりしながら待っている――そんなヴィジョン。

 

「どーしたの?」

「ひッ!」

 

隣に座る相川が俺の肩に手を置いた。オイ、待て、待て。現実的に考えて、会って初日の男の肩に、普通手なんて置くか?

疑念が増す、どんどん疑り深くなっていく……ヤバイ、俺、今、どつぼにハマってる。負のスパイラルに巻き込まれてる。

何も信じられなくなり、どうすればいいのか分からなくなった。フリーズ。硬直。

 

「まあ、もう始めていらっしゃったの」

「あ」

 

と、オルコット嬢が来た。髪は完璧にセットされ昼と同じ優雅さだ。

助かった! 俺、というか男をあれだけ毛嫌いしていた彼女なら、俺を冷たく突き放したりしてくれるはずだ!

彼女はブレないだろうと確信を持って言える。オルコット嬢なら安心に違いない。

俺は嬉々として彼女を招いた。

 

「やあやあオルコットさん! こっちだよこっち!」

『ふん、アナタなどに案内していただかなくとも席ぐらいつけますわ! その薄汚い口をお閉じになられては!? 部屋の空気が汚れますもの!』

 

脳内でオルコット嬢の返答が勝手に再生された。

こんな感じの言葉が返ってくるに違いな

 

「まあ、わざわざお招きくださりありがとうございますわ」

 

……!?

何!? 何だ!? 今この女何つった!?

オイ、HRでのつっけんどんっぷりはどうした。態度変わりすぎだろいくらなんでも……これは……

 

「お隣、よろしいでしょうか?」

「あ、ああ……」

 

サダラ子ちゃんを押しのけてオルコット嬢が俺の隣を陣取った。

すでに薄々、俺の中にはある確信が芽生えつつあった。だがまだ勝手に決定するのは良くない。様子を見るんだ。

冷や汗をダラダラと流しながら、オルコット嬢のグラスにジュースを勧める。彼女は頬を少し上気させて、恥ずかしそうに俺の酌を受け取った。

 

「あの、先ほどは申し訳ありませんでした」

「?」

「色々と、失礼な態度を取ってしまい……」

 

怖い。何これ怖い。キャラが180度変わってる。何でだよ、お前は最後まで俺を敵視する役でいてくれよ。

しかしここでそんなことを指摘すれば、明らかにKYである。とりあえずは無難に返しておく。

 

「気にするな」

「ですが……」

「あの時はまだ、お前は俺のことが分かってなかった。だがそれは俺も同じだ、俺もお前のことが分かってなかった」

 

そこで手を差し出した。確か西洋だと挨拶はお辞儀じゃなくて握手なんだよな。日本じゃ湿度が高くて手が汗ばんじゃうから握手は用いられないとか何とか。

 

「これから分かり合おうぜ……オルコット嬢」

「…………」

 

少し逡巡してから、オルコット嬢は俺の手を取った。周囲から万雷の拍手が上がる。彼女は恥ずかしそうに俯きながらも、それでも、俺の手をぎゅっと握った。

 

……嗚呼。嗚呼、あああああああああああああああ。

黒だ。

確定だ。

見つけた。

間違いない。

分かってしまった。

 

 

この女―― ハ ニ ー ト ラ ッ プ だ。

 

 

ねえよ! ありえねえよ! 半日の間に何があったらこうも変わるんだよ!?

どうせUKから来た他の生徒が政府に彼女の態度をチクって、試合が終わった後彼女に指令を出したんだろう!?

どうも彼女はプライドは高いが、政府からの命令だと不満をこぼしながらもしっかりとこなすタイプっぽいからな! だが俺は見抜いたぞ!

演技にしても激しすぎるって! どんだけ祖国に忠実なんだよ!

 

「……これで一つ目、か」

 

いいや、俺はクラスメイトを見回す。

もうこの中にまぎれているのかもしれない。入学初日からとんでもない騒動になったが、これを好機として俺に近づいてくる連中がいるかもしれない。

 

まだだ。まだオトされねえぞ。

いいぜいいぜいいぜ上等だ。

俺の表情がやたらキマっていたのであろう、周囲が静まり返った。狂気を十二分に自覚し、俺は嗤う。

 

 

あの日――初めてISを動かした日から俺はずっと嘘をついていた。

この手に『白雪姫』を手に入れたときも嘘をついた。

 

覚悟も嘘。

信念も嘘。

嘘ばっかりだった。

 

まったく変わらない人間関係に飽き飽きして。

でも、嘘って絶望で諦める事もできなくて。

だけど手に入れた……機会を、チャンスを。

 

彼女ができるかもしれないという希望を!

 

 

だから……!

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、ちなみに本日の決闘でつぶれた授業時間は後日の補習に回されました、テヘッ。

 

 


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