この中に1人、ハニートラップがいる!   作:佐遊樹

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やっと夏休み終わり。
そろそろストックがなくなってきたなんてことはない。


ハニトラの夏、ISの空/Disc3

・ultra soul

 

「一夏……当たってしまった」

 

困った表情で箒が俺を見てくる。

箒の手によってゲーム三昧だった自堕落的夏休み(エンドレスエイト寸前)から引きずり出された俺は、捕獲済みの宇宙人が如くレゾナンスに連れてこられていた。

大騒ぎだった前回に比べ静かなモール内を色々見て回ったのだが、あの客の入りの少なさはやはりまだ占拠事件が後を引いているんだろうか。

 

……何はともあれ、箒も満足したらしく、昼食も済ませたりしていよいよ帰宅というところで福引き会場が目に入った。誰も並んでねーんだけど大丈夫なのかレゾナンス。

偶然にも衣服購入の時に福引き券を一枚手に入れた箒は、ホイホイとガラガラに手をかけてしまい――見事一等賞当選と相成ったのである。

 

「一泊二日、温泉旅館ペア招待券だと……」

「コッテコテの内容だな。山菜メインってことは内陸の方か?」

「出雲大社への御参りもできるみたいだな」

 

手渡されたパンフレットとにらめっこを始めてしまった箒。俺はやれやれと首を振ってプラットホームのベンチに、つまり箒の隣に腰かけた。

IS学園行きのモノレールが来るまで2分ある。

 

「何を悩んでんだよ。行けばいいじゃねーか」

「うむ、そのだな……ペア、だろう?」

 

言いよどむ箒は、視線をさまよわせながら言葉を続けた。

 

「ペアで行ってくれそうな友達が、いないんだが」

 

寒々しい風がホームを吹き抜けた。俺の幼なじみは友達が少ない。

 

「おィィ……」

「な、なんだその目は! こればっかりは私のせいではないだろう!?」

 

いやたぶんお前のせいだろ。確かに言われてみれば、みんな結構お前のこと『みなつ……篠ノ之さん』とか『しののののさん』とか『しののーん!』とか呼ばれてるもんな。最後の一つはもれなく正解。

と、ホームにモノレールが滑り込んできた。車両へ入るのにIDカードのパスが必要な特別製のモノレールは、学園の生徒以外は乗れない仕組みになっている。というわけで車内にはIS学園の生徒がたくさん。結構こっちを見てきてるな……みんな私服かわいい。

 

「妹さんはどうだ? こないだ映画見に行ってたじゃねえか」

「あれは半ば簪に引きずられていただけだ。結局見れていないしな」

「オルコット嬢とか、デュノア嬢とか、鈴とかボーデヴィッヒとか」

「ぶっちゃけそんなに仲良くない」

「束さんは……」

「まだ、少し、早い。……それは、な」

 

まあそりゃそうだよな。

最終兵器の姉さんがいたりするがさすがに論外だろう。

箒の望みは、分かっている。そして箒の望みの奥にある目的も予想がつくから俺は頷けない。

いい加減まともな青春を送らせてほしいもんなんだがな……

少しばかり目尻に涙を溜めて、箒は俺にすっと視線を上げてきた。なにこいつかわいいなおい。

 

「一夏」

「ダメに決まってんだろ俺は別にいいけど世間的にあれだよ年頃の男女が二人でとかマジでダメだから常識的に考えて」

「できれば専用機持ちやクラスの誰かを一人紹介してほしいんだが……えっ?」

「えっ」

 

普通にまともな提案だった。

暴走してたのは俺ですねハイやべえすっげぇ恥ずかしい。

 

「な、なんだその、ええと……行きたかったのか?」

「はい?」

「だ、だからだな」

 

モノレールが停車した。

ぷしゅー。

 

「おっ、お前は私と二人で温泉旅行に行きたいということなんだな!?」

「……オワタ」

 

聞き耳を立てていた車内の女子全員がすっ転び、俺は天を仰いで自分の不運を嘆いた。

己の身を呪えってことですかハマーン様ァッ!

 

 

 

 

 

帰ってから女子たちのヒソヒソ話(当社比16倍)に晒されるという度し難い罰ゲームを受けた俺は部屋で不貞寝していた。

それだけでなく、『織斑一夏が篠ノ之箒を泊りがけデートに誘ったらしい』という噂が修正不能レベルで学園中に広まってしまったらしい。さっきから部屋のドアがガンガン鳴ってるのは気のせいだろうか。

箒からメールを受信。

 

『すごく居辛い。肩身が狭い。今すぐ出発しよう』

「大賛成だよバカヤロウ」

 

とりあえず、40秒で支度しなと返信しておいた。

荷物をさっさとまとめ、お泊りセットを準備。窓から飛び降りると同時部屋の扉が破られた。巨大なアクアランスって楯無お前かよォォォォーーーーッ!?

一気に決死の逃避行と相成ったわけだが、落ち合った箒が『紅椿』の最大速度で俺を引っ張って飛行してくれたおかげでなんとかなりました。展開装甲の応用で俺を守ったらしいがこいつの応用力高すぎ笑えない。

 

「なあ箒……外泊許可とってねぇけど、大丈夫かな?」

「う、うむ……駆け落ちということだな……」

 

頬を赤らめながら箒がそんな世迷いごとを口にした時点で、俺はこの先の外泊がロクなものではないと知って絶望した。

どーすりゃいいんですかね。あ、詰みですかそうですかチクショウ。

 

 

 

 

 

旅館に着く前にアポだけ取った。急な予約に驚いていたが、どうやら部屋は空いているらしい。

バレたらヤバすぎるのでずっと空中にいた。目撃者はいない。旅館に着く前に箒が買ってきたニット帽とマスクで適当に変装してる。芸能人のお泊りデートかよ。

荷物を下ろし、部屋を見渡す。いい部屋だ。

若干挙動不審になりながら箒が荷物を整理している。とにかく今夜は眠れない。こいつの出す飲食物一切を警戒しつつ夜を徹してこの危機を回避しなくてはならない。

なんでこんなことになってんだ……女の子と外泊ってもっと楽しくてドキドキするもんじゃないの? いやドキドキしてるけどな。ドキドキしすぎて一夏心臓破裂しそう。ああ破れるのは胃か、ストレスでマッハ的な意味で。

 

「風呂まで少し時間があるな……急な移動で疲れたし、何よりお前は『紅椿』かっ飛ばしてて汗でもかいたんじゃないのか。少し早めに入るか?」

「ん、いや……もう少し経ってからでいいぞ」

 

となると暇だ。トランプやUNOも急いで準備したので入れ損ねている。

なんか暇つぶしはないものか。

 

「勝負事がいい。ジャンケンでもするか。私のチョキはすごいぞ、なんといってもパーに勝てる」

「お前実はテンパってるだろ」

「はうぅ」

 

ダメだこいつ。

俺はどうにかこうにか頭を働かせて、なんとか案を振り絞ってみた。

 

「そうだな……野球拳なんてどうだ」

「バカのいい見本例だなお前は」

 

倒置で罵られた。というか俺の煩悩漏れやすすぎワロタ。

箒がいつの間にか冷たい視線でこっちを見てきてる。まあ確かに今の俺の発案クズすぎてワロエナイ。

 

「じゃあ何するんだよ……」

「私は、そうだな……うむ、私のしたいことは」

 

箒はそっと顔を伏せた。

 

「茶が、飲みたい」

「今すぐ淹れます淹れさせていただきます箒サマっ!!」

「一夏っ!? いきなりすごいスピードで給湯ポットにしがみついてどうしたんだ!?

 

そういう魂胆かよッッ!

きたないハニトラきたない。

俺は箒に一部の隙もみせず、一切合切を俺の手で行った。100%メイドイン俺。

安心して飲めるぜはふう。

 

「一夏、おまんじゅうが食べたい」

「イエスマムお手を煩わせる必要もありませんんんん!!」

 

この一夏が箒サマの忠実なるしもべですからねハハッ☆

クロックアップもかくやという速度でまんじゅうをかっさらう。つぶあんこしあん完備だ。今の俺に隙などない。ハニトラ回避のエキスパートたるパーフェクトソルジャーをなめるなよ。

もちゃもちゃとまんじゅうを咀嚼する箒。クスリを注入された痕跡もないので俺は安心して甘味を楽しめるぜはふう。

 

「一夏……」

「はイイイイなんでございま」

「お前、何を隠してる?」

 

目前に切っ先を突きつけられた。全身を突き抜けるレッドアラート。頭蓋骨の中で『白雪姫』が思い切り警戒警報を鳴らした。

網膜に数十のウインドウが同時に投影される、『空裂』の展開、篠ノ之箒を敵性存在と断定、緊急展開の推奨。

なんだよこれ。

なんだよこれ。

 

「私よりお前の方が挙動不審だ。お前は何かに怯えている。お前が、怯えている」

 

お前以外の何に怯えてるんだよ。逆になんで自分に思い当たらねえんだよ。

この子怖い。目がレイプ目なんですけど。光が宿ってないんですけど。

 

「お前、私と戦え。いつか絶対にお前と戦わなくちゃならないと思っていたんだ。だからここで戦え」

「テ、メッ……何ワケ分かんねーこと言ってやがんだ……!?」

「戦え――織斑一夏ァァァッ!!」

 

斬撃。思考がスパークする。

極彩色の混迷は一瞬で果て、俺の身体は迎撃の姿勢を取った。

封印解除――『白雪姫』、起動。俺の全身を白い装甲が覆い、箒の肢体を紅色の甲冑が包む。

互いに激突。弾きあうようにして部屋の反対側の壁を突き破った。俺は屋外へ、箒は隣の部屋へ。すぐに体勢を整えた彼女は俺を追撃しようと迫る。

 

「私はッ、お前の強さの秘密を知りたい! お前のルーツを知りたいッ!」

「いや特にないんですけど」

 

二刀の連撃を『白世』と『虚仮威翅:光刃形態』でいなす。

無茶苦茶なスピードすぎるだろ……スペックダンチすぎて『白雪姫』涙目。

まあ速いってことはさ。

攻撃をぶつけさえすれば、相対速度のおかげですごいダメージが跳ね返るってことなんですけどね。

ではICHIKAの華麗なクッキングをご覧あれ。

 

「言いたい放題勝手にぶちまけてんじゃねえぞオラァッ!」

 

まず前蹴り。あっさりいなされる。

箒はカウンターに斬りつけてくるがそれを『虚仮威翅』の実体剣部分で受け止めた。箒がちらりと視線を逸らす。お返しに『白世』の切っ先で抉るような突き――箒の姿は、俺の視界になかった。

消えた。そうとしか言いようがない。

でも、さ。

 

「そいつのスペックを完全に引き出すことで起こる瞬間移動にしか見えない高速移動……確か束さんは『超間加速(オーバー・イグニッション)』って呼んでたな」

 

俺が振り向いて一回転分の勢いをつけて振り抜いた『白世』は、俺めがけて攻撃しようとしていた箒の横腹を思いっきり斬りつけた。

 

「か……ハッ……!?」

「視線が移動先に向くよなお前。『福音』の時もそうだった」

 

ISアーマーを砕き散らしながら墜落していく箒。まあ死にはしないだろ。

俺はふうと息を吐き出した。こりゃ姉さんにめちゃくちゃ怒られるな。

と、『白雪姫』がなぜか警戒アラートを鳴らした。

ゾッとしながら、地に蹲る箒に視線を落とす。

まさか。まさか、まだやれるのか。

 

「まだだ……『紅椿』、まだ私は……戦える……お前だって、お前だってそうだろうッ!!」

『承認――――』

 

爆発的な光の奔流。

第二形態移行が、目の前で始まる。

 

「『絢爛舞踏』……それが切り札か、私たちの」

 

笑みを漏らして、箒は立ち上がる。

装甲から傷が消え、粒子から追加ブースターが生成される。頭部に二本のブレードアンテナが顕現し、進化が完了した。

おいおいおいおいおいおい。マジでやめてくれ。もうこっちは半泣きなんだよ。

 

「『人魚姫(ストレンジ・ガール)』――行くぞッ!!」

「行かなくていいんだよォォォォォッ!!」

 

俺は生命の危機とか敗北とかに直面してたっていうのに、なぜか、箒のことを。

綺麗だと、思ったんだ。

 

「――っ、やられるかよォォッ」

 

すれ違いざまの一閃。俺の反応速度の限界を、『白雪姫』が底上げする。

対する箒も『超間加速』でランダムに自分を飛ばす。今度こそ予測などできない絶対の一撃が飛んでくる。だが反応する。できなくてもやれる! 俺と『白雪姫』なら!

 

「篠ノ之流剣術・陽ノ型・極之太刀――『真:天叢雲剣』」

 

俺は。

振るわれる『空裂』も『雨突』も――真正面から断つ。

上段から振り下ろす『白世』に、クロスさせるように閃いた二刀が激突。インパクトが、俺の手元から相棒たる大剣を弾き飛ばした。

二刀には限界を超えた出力でエネルギーが充填され、刀身は黄金色に輝いている。出力通常の3倍とかメじゃねえ。

でもさ。

『白世』があんまりにも軽く弾かれたって、今お前だって気づいてんだろ?

 

「ッッ」

 

一瞬の呼吸すら許さず、箒は次の斬撃に移ろうとする。だが遅い、はるかに遅い。

準備ならこっちがとっくの昔にできている。

片手に握っていた限界出力の『虚仮威翅:光刃形態』を神速で抜刀。真一文字にレーザーブレードを振るう。

二刀の、柄。

エネルギーの溜め込みがなされていない持ち手を俺は断った。

 

「な、ァ――ッ?」

 

刀身を失った『空裂』と『雨突』。輝きを失い鋼鉄の刃が地に突き刺さる。

残った柄だけを握り、半ば呆然とする箒。行き場を失ったエネルギーがあふれ出し、柄が内側から弾け飛んだ。

俺はハンドガンを召還し、額にポインティングした。

 

「俺の勝ちだ」

「――ッ、まだ負けてない!」

 

その猛りに呼応するかのように『人魚姫』が鳴動する。いやもういいって! マジでもういいって!

いい加減にしろと思いながら、またヴンという音だけ残して掻き消える箒を感覚的に追う。

とにかく全身の神経を集中させ――ようと思った瞬間、ボチャンと何かが水に落ちるような音が聞こえた。

 

「ん?」

 

来ると思った攻撃が飛んでこない。こういう時が一番ヤバい。俺に予測できない攻撃である可能性が高く、俺には反応できないレベルの速度の必然性が出てくる。

俺のエネルギー残量と速度的に一撃もらったら終わるな……

だが来ない。

いくらなんでも遅すぎる。実は退避して機を窺っているのか?

確かに箒は主な攻め手を失っている。その可能性は十分にあるだろう。

なら話は早い。こちらから仕掛けてやる。

 

「『白雪姫』、スキャン」

 

システム、スキャンモード。なんてな。

周囲のISの反応を探る。ステルス機能とか『紅椿』についてたっけな……『人魚姫』になって追加されましたとかだったら笑えない。

 

「反応なし……? 生体反応はどうだ」

 

こっちはビンゴ。

どうやらISを解除しているらしい。俺かよ。

箒らしき人がいる方向へ行く。俺と箒が使う予定だった部屋だ。

確か一部屋ごとに露天風呂があるんだっけ……でもよ。

 

「箒、お前、そんなに風呂入りたかったの?」

「ち、違うっ! いきなり『人魚姫』が解除されたんだ!」

 

ISスーツ姿で風呂につかる箒の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

「一夏……」

「んだよ」

 

旅館の、露天風呂。

空中での戦闘を終えて、俺たちは二人で絶景のお風呂を堪能していた。

 

「私はアメリカに使われたり、日本に召還されたり、正直言ってつらいことばかりだった」

「そうか」

「それでも私には才能があった。ISで戦う才能だ。適性もSで、時間さえあれば千冬さんにだって追いついてみせるさ」

「そうか」

「……でも。才能なんて欠片もないお前に、私は勝てない」

 

箒のIS『紅椿』改め、『第二形態:人魚姫』はその単一仕様能力によって戦闘継続可能時間を極端に伸ばしていた。

『絢爛舞踏』というのは、端的に言えば普段は使えないエネルギーを戦闘用に回すものだ。

ISの装甲や基本機能を維持するための非常用エネルギーを戦闘用に回すことで総エネルギー量を通常の3倍にまで高めることができる。よってよりえげつない展開装甲の使い方もできるが、如何せんエネルギーが尽きたら本当に終わる。装甲形成もできずISスーツ姿になってしまう。

でも学園での試合だとそのデメリットもほとんどないから実質チートはなはだしいんじゃないですかねぇ……

 

「まるで魔法使いだな、お前は」

「俺の勝利は偶然や奇跡じゃなくて、きちっとした技術と確信に裏打ちされたものですー」

 

背中合わせの箒に向かって文句をつける。

『人魚姫』のエネルギー残量はゼロ。帰るんなら俺の『白雪姫』を使うしかねーんだなコレ。

 

「本当に、勝ちたかったな……」

「そうかよ。でも、まだお前には早かったな」

「むう」

 

半ば箒の自爆に近いとはいえ、勝ちは勝ちだ。学園に帰ったら即効で修理だな。

なんでもダメージレベルDだそうです。若干箒が睨み付けてきているのは本当に申し訳なく思っている。

『紅椿』は急激な進化と急激な酷使に耐え切れず、極端にエネルギー放出をしてしまったらしい。箒の操作ミスと言い換えることもできるが本人が断固として拒絶したのでこの言い方は封印。まあ確かにあんなバカげた量のエネルギーを同時に扱うテクニックとか前人未到だよな。逆説的にそれをマスターすれば箒は一つ上の世界にいけるってわけだ。

 

「才能がなくても、お前は、強い。強くなった。すごいよ」

「……結局お前、何がしたかったんだ?」

「生きていたかった」

 

箒は即答した。

 

「怖いんだ。最近、ずっと自分が死んでいるような気がして。『福音』と戦っている時、私は最高の気分だった。生まれてから、あんなに自分の生を実感したのは初めてだった。だから、まるで自分が死んだまま生活しているようで、そのまま腐り落ちてしまいそうで、怖かった」

「…………」

「あのスリルが、私を生かしていたのかもしれない」

 

ああ、そう、だ。

こいつはずっと死んでいた。束さんのせいで家族と引き離され、名前を変えられ、アメリカでISを動かし日本でもISを動かすパーツとして扱われ。

死んだような生きているような、その区別すらつかない人生。

だから。

 

「でも今お前は生きている」

「……ああ」

「死人っていうのは、俺や姉さんや束さんのことさ。お前は生きているじゃないか」

「……どういう……ことだ?」

 

俺は目を閉じた。

 

死という言葉に、俺は世界で一番馴染んでいる。その自覚がある。なにせ二回死んでるからな。二度あることは三度あるというがそれは勘弁してほしい。

一回目に俺が殺された時。第二回モンド・グロッソ決勝戦当日。

決勝戦を投げた姉さんとすべての技術や情報網を駆使して駆けつけた束さん。その目の前で俺は射殺された。

ぶっちゃけよく覚えていないが、誘拐グループの中で仲間割れがあったらしい。それで俺は殺された。犯人たちは束さんが皆殺しにした。

姉さんと束さんがいくら呼びかけても俺は応じなかったらしい。その時の俺の瞳や、肌、口元から滴る血などを正確に思い出せると束さんは言う。姉さんも同じなのかもしれない。

そして束さんは俺の心臓を、その場で摘出した。

代わりに『白騎士』のコアが、俺に埋め込まれた。

 

あとは、ずっと、倉持技研と協力して、戦う日々だった。

姉さんも束さんも、俺の訓練には協力を惜しまなかった。国家代表と戦うことも多々あった。

そして今の俺がいる。

 

でも……姉さんと束さんは。

あの二人は。

まだ、俺が死んだところにいる。あの時から一秒も、彼女たちの時間は動いていないんだ。

 

「束さんさ、変わっただろ? 俺何回か会った時、あの人先生か保母になりたいって言ってたんだぜ」

「ほ、本当か!?」

「ああ。今も先生やってるみたいだし……変わったんだよ、本当に」

 

あの人は世界を嫌っていた。

俺が死んだ。

あの人は世界を悲しんだ。

自分のせいでいかに世界が歪んだのか、その時あの人は自覚した。

それ以来、束さんの行動原理はほとんどが罪滅ぼしだ。

少しでも世界の役に立ちたい。少しでも世界の救われない人々を救いたい。その気持ちだけが彼女を動かしている。名を隠して、発明を世間に広めていることだってある。

でもISは……ISにだけは、もう携わらない。そう誓っていた。

 

「私は……こいつを手に入れて、本当に良かったのか?」

 

手首に巻いた紅色の紐。水の滴るそれを見やり、箒は憂鬱そうに端整な顔を歪めた。

俺は迷うことなく頷く。

 

「ああ。それがお前の望んだ道なら」

 

そうか、と箒は笑った。

……おいそろそろ言わせてもらうがお互いちゃんとタオルは巻いてるからな!? こいつが一緒に入りたいって馬鹿力で俺を引きずってもそこだけは譲らなかったぞッ!?

 

 

 

 

 

旅館ではてんやわんやの大騒ぎ。らしい。

俺と箒は風呂から上がって、謎の爆発が発生したらしい旅館のニュースをテレビで見ていた。

今俺たちがいるのは別の旅館で、滑り込みで予約を入れて泊まっている。

これ見る人が見たらIS同士の戦闘の跡だってすぐバレるよなぁ……部屋に泊まっていた身元不明の男女は行方不明とか言われてるし。岩本夫妻? 偽名かって夫妻って何だおい箒テメェ。

修理代として、俺と箒で合わせて300万ほど旅館に送りつけることにした。もちろん岩本名義で。

 

「寝るか」

「せやな」

 

若干疲れた。あんなに緊張感を持って戦う羽目になるとは思わなかったぜ。

布団を敷いて電気を消す。疲れていたんだろう。体が泥みてーに動かない。

ああ、眠いぃ……

……

…………

………………オイ。

 

「箒ィ」

「んっ」

 

なんか布団の中に潜り込んでくるバカがいた。

つまみ出そうとして、彼女の顔を見て、動きが止まる。

寝ながら、泣いていた。

……ずっと死んでいた、か。

なら、生きた人間と生きた人間が二人で寝るなんて、こいつからしたら雲の上の話だったのかもしれない。

俺も甘い。本来なら容赦せずつまみ出すべきだが、なぜか、そうはしたくないと思えちまってるんだからな。

 

「寝苦しくなりそうだな……」

 

苦笑して俺はふと横を見た。

暗くてよく見えないが、箒の荷物がある。急な話だった分、やっぱりあんま整理されてない。

なんか袋みたいなのがはみでてるしな……常備薬か?

錠剤っぽいのが落ちてる。自重に負けたのか、ちょうど別のものが袋から零れ落ちた。

目薬。

俺は思わず箒のほうを見た。

 

「――出ろこのメギツネがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「ふみゃっ!? な、なんだいきなり本気できゃぁっ!?」

 

華は華なりて華のごとし――ならば、蜜は蜜なりて蜜のごとし。

オレは生まれてはじめて よろこんで女の子を投げ飛ばす!!

 

……ホント、いつになったら童貞卒業できるんですかねぇ……

 

 

 

 

 

・IT'S SHOWTIME!!

 

「8巻が売れたら、新装版の特典としてイズルのブロマイドカードを配布しよう」

 

私のお姉ちゃんの元カレさんは、昼下がりぐらいにそんな頭の沸いたことを言い放った。

こないだ無断外泊で死ぬほど怒られたらしく、保健室に来たのは不貞寝目的だったのかもしれない。

 

「イズルはゲーマーズの特典で、メイトは新しい絵師さん、とらのあなは……okiuraでいいんじゃないかな」

「さすがにそれはダメ」

 

学戦都市から怒られちゃう。

 

「うおおお楯無の妹さんかよビビったァッ」

「……ずっと隣で寝てたのに……」

「ごめんちょっと誤解を招いちゃいそうだからヤメテ」

 

ずっと隣のベッドで寝てたのに。

私は頬を膨らませて、カーテン2枚越しに織斑君を睨んだ。

どうして彼が再起動プロジェクトをでっち上げていたのかは知らないけど、私の安眠を邪魔されたのは腹立たしい。

 

「保健室睡眠って俺と同類じゃねえか……」

「……私のは病気、総合病院の……診断書付き」

 

カーテンをシャッと開けると、あっちも同様にシャッと開けてきた。

上着を脱いでYシャツ姿の彼が問う。

 

「何の病気なんだ?」

「……オーバーラップアレルギー」

「おい」

「新装版と……『黒鍵編/ワールドパージ』は、そっちのアニメ組でやって……」

「バッカお前、ぬるぬる動けなかったからって拗ねんなよ。倉嶋が最終的には更識姉妹描いてくれてたじゃねーか。ていうか八巻以降の内容は俺にはどうにもできん」

 

割と必死感満載で織斑君がまくし立ててきた。私が来た朝早くは静かだったのに、うっとうしい。

私はカーテンを閉めた。

 

「おいっ! コミュニケーション放棄かよ!」

「せっかくの……休暇、寝てゲームしてネットして寝て過ごしたい」

 

ダメ人間でごめんなさい。

あんまりな発言に織斑君は絶句する。

ていうかそろそろ部屋に戻ってパソコンを開こうかな。ルームメイトも一緒に歌い手漁り。

 

「せめて外に行くとかさあ……」

「何で?……ああ、CDショップとか?」

「へぇ、どんなの聞くんだよ」

「神聖かまってちゃん」

 

…………

こういう沈黙慣れてる。私は少しも動揺せずベッドに潜り込んだ。

いざ口を開こうとしてもどもりまくって無駄に三点リーダーを量産するのは私の美点。

その瞬間、私の懐がブブッと震える。

 

『時をッ、越~え~ろ空をッ、駆~け~ろこのほーしのーためー』

「!」

「!?」

 

夏休みのIS学園保健室に突如響き渡るてつをボイス。

私のメール着信音だ。

 

「また……お姉ちゃん」

「ていうかBLACKかよ、せめてRXにしてやれよ」

 

織斑君が『光の、オーロラ、身に纏い~』と口ずさむ。そのサビの盛り上がりは異常。

……!? ひょっとして織斑君って昭和イケる口!?

ガバッ! と私は毛布を弾いて跳ね起きた。

 

「おおおお織斑君さん様男爵」

「あ?」

「しッ、しし知ってるの!?」

「え、あ、うん。てつを好きだしな」

 

ベッドを飛び降りる。必死の形相で織斑君の肩を掴むーー多分私の表情怖い。

 

「すごい……仲間がいたなんて……」

「今までいなかったのか?」

「見てるだけ……みたいな人、なら。でも……そこまで……自分で言うのもなんだけど、私ぐらいディープなの、は……」

「お、おう」

「普段は、正直私……その、コミュ障だし、あんまり他人と喋らないんだけど」

 

彼は、あー大体分かった、といった表情になる。

趣味のことになるといきなり饒舌になるパターンだからか、中学の時からあんまり友達はいない……私は友達が少ない。ポジション的に開発者になって理科室登校しなきゃ。あ、でもBLそんなに好きじゃないや……

 

「別にいいんじゃねえの? 好き嫌いっていうよりその辺は個人の趣向の違いだろ。俺は昭和も好きだけど平成だって面白いと思うし。暇な時は一組に来いよ。話し相手ぐらいにはなる」

 

なんだか不憫に思えたのか、織斑君は頭を撫でてきた。

……少しくすぐったい。

 

「うわおッすみません!」

「……、?」

 

私は首をかしげる。

真っ赤な顔で手をさすりながら、織斑君は「落ち着け……冷静に考えたらこいつ同年代じゃねーか……」と何やらブツブツ呟いていた。

 

「まあなんだ、お互いもう元気みたいだしさ、ほら、保健室出ようぜ」

「……まだ寝たい」

「オラッ起きろッ。部屋で寝やがれ、保健室の戸締まり俺が任されてんだよッ」

 

力づくでベッドから引き剥がそうとしてくる。これは訴訟して勝てるレベルの狼藉。どうにか必死にベッドにしがみつく。

リアクション的に、織斑君は本当に休養に来てたっぽい。普通にベッドの寝心地を求めて来た私とは大違いだった。

部屋に戻って歌い手漁りもいいけど、今はMOVIE大戦が見たい。1人で劇場に乗り込むのはまだ慣れないけど。……どうせならついて来てもらおうかな。

 

「出ーろー」

「やだー」

「出ろよッ」

「MOVIE大戦アルティメイタムに連れてってくれたらいいよ」

「分かった分かっただから早く出ろ」

 

言質は取った。

そこからは素早かった。

猫のようなしなやかさでベッドから飛び出し、私は鮮やかに着地する。

呆然とする織斑君に振り向き、イタズラっぽく微笑んだ。

 

「約束」

「……お、おう」

 

織斑君のケータイをさっと抜き取りアドレスを見る。覚えた。並行して私のアドレスも打ち込んであげる。

戸惑いながらも、彼はケータイを受け取った。

 

「なにこの急展開……まさかこいつハニー……オイ妹さん、どういうことなのか説明をッ」

 

織斑君がそれ以上言葉を続ける前に、私はじゃあねと手を振って走り出した。

前回のMOVIE大戦とHDDに溜め込んであるウィザードを最初から見直して、復習しないと!

 

 

 

 

 

待ち合わせ当日。

さすがに恥ずかしい格好はしたくないので、私はそれなりにおめかしした格好で外出していた。

待ち合わせ場所にはもう織斑君がいた。やっぱりイケメンだし、周りからチラチラ見られてる。……さっきニュー速で『男のISパイロットがうちの最寄り駅にいたwwww』ってスレ立ってたのはここなんだろうなぁ。

 

「よっ」

「……待った?」

「特に待ってねーよ」

 

夏だし、涼しげな格好。ドットデザインが入った白いポロシャツにカーゴパンツ。ループタイがちょっとお洒落でむかつく。ブレスレットとかしてるし生意気。

見に行く映画がラブロマンスや感動巨編だったら完璧かもしれない。

 

「んじゃー行くか。最近レゾナンス行きっぱなしだな……」

「便利、だから……仕方ない」

 

連れ添って歩きながら、どうでもいいことばっかり話し続ける。

でもこういう何の生産性もない会話が、織斑君は楽しいみたい。荒んだ心を癒す清涼剤ってやつなのかな。……昨日読んだSSの表現を使ってしまった。

 

「んで、前売り券は?」

「はい」

 

劇場に着く。もうすでにかなりワクワクしている自分がいる。

織斑君はどうなんだろう?

 

「いやー映画って言うかなんていうか、すげー緊張するわ」

 

ジト目でそんなことを言ってきた。

 

「そんな態度、してたら……女の子に……モテない、よ?」

「…………そうだったのか……!」

 

雷に打たれたみたいな表情で織斑君は呟いた。本気にしてるっぽい。

おかしくなって笑う。彼は憮然として私に食って掛かってくる。

 

「テッメ、からかったのかよ」

「いいから、行こう……予告も、見る派だから……私」

「はいはい」

 

連れ添って私たちは歩き出す。

横で織斑君が、割と深刻な声色で聞いてきた。

 

「さっきのって、マジ?」

「……私みたいな粘着質でジメジメしてて冗談を冗談と取れなくてジメジメしたコミュ障の意見は参考にしないほうがいい」

「お、おう」

 

静かになった。

 

 

 

 

 

席はもちろん隣だった。

間違って手が触れたりとか息がくすぐったかったりなんてイベントもなく、私たちは淡々と映画を見終わった。

なんともいえない雰囲気で外に出る。

 

「……なあ」

「皆まで言わないで」

「俺は懐古厨なんだ……仕方ないだろ……こんなの……ッ」

「私は!!」

 

思わず大声を上げてしまった。

 

「私は……オチは、それとフォーゼの部分だけは……評価できると思う、からッ!!」

「分かってるよ……」

 

私たちはどこか哀愁漂わせながら、近場のロッテリアに転がり込んだ。

絶品チーズバーガーとか美味しすぎて財布が軽くなりがちだよね。倉持でのテスパのお小遣いとかお母さんからのお小遣いも結構カツカツだし、ここは頼むしかない。

 

「男気じゃんけんしない?」

「えっ」

 

織斑君は呆気に取られたように私を見た。頬張っていたバーガーからハンバーグの欠片が落ちる。

 

「最初は」

「え、ちょ、え」

「パー!!」

 

私は意気揚々とパーをかかげた。

咄嗟に織斑君が出したのは、チョキ。……ん?

 

「あ、俺勝ったわ」

「……私の『暴虐の壊邪符(パー)』が、負けた……?」

「すっげぇルビの振り方だな……まあ、なんだ。俺の『断世の衝罪剣(チョキ)』に勝つのはまだ早かったってことだな」

 

一拍置いて、同時に笑い出した。

下らない……でも、結構、楽しい。

 

「お前なんかホント、あれだな。他のヤツらとは違うわ」

「?」

「いや雰囲気っていうかさ。最初は警戒してたけど……いや、なんでもねーよ」

 

そう言うと、彼はすごくリラックスしたように椅子に浅く腰掛けた。

少し考えてみれば、彼がこんなに脱力しているのを見たのは初めてかもしれない。

食べ終わり、映画の感想を言い合って、帰ってからオンラインで他の劇場版を見ることにした。彼のオススメはアギトらしい。確かにG4は素晴らしい。

 

「でも龍騎も捨てがたいな……」

「私は、カブトを……推す」

 

カバンの中に入れていたタブレットでオンラインのDVDショップを適当に漁る。

学園に戻るモノレールを待つ間、私と織斑君は同じベンチに座って楽しく話していた。

だから気づかなかった、結構距離が近かったり普段あまり笑わない私が笑っていたり織斑君もいつになく自然体だったが故に――傍から見れば『そういう関係』に見えてもおかしくなかったことに。

 

「ねえ……携帯鳴って、ない?」

「うわ、俺か」

 

織斑君が電話に出た。

近かったからか、その声は私にも聞こえた。

 

 

 

『 か ん ち ゃ ん の 隣 は 居 心 地 い い で す か ? 』

 

 

 

気づいたら私たちは、身を寄せ合って必死に震えを誤魔化していた。

見えないよ。私見えない。ホームの外、どう考えても床がない空中からお姉ちゃんが顔をのぞかせているなんて知らない。あんな光のない瞳の人なんてお姉ちゃんじゃないし。ねえ織斑君。

 

「あああああうんそうだよなHAHAHAHAHAHA」

「そそそそそうだよねはははふふふふふふふふふふ」

 

あはははふふふふ。

壊れた笑い声がホームに空しく響いた。

 

 

(2人はこの後更識家当主がおいしく頂きました)

 

 

 

 

 

・もう一度キスしたかった

 

「ああ? 俺と楯無がまた噂になってる?」

 

食堂で遅めの朝食を取っている時、俺の正面で豆乳を啜りながら鈴が提供してくれた話題に、俺は思わず水の入ったグラスをテーブルに叩きつけた。水がいくらかこぼれる。斜め前に座るオルコット嬢は突然不機嫌になった俺に少し驚いたようだった。

まあ理由自体は分かる。簪と出かけた後、帰る時にはなぜか楯無のヤツが引っ付いてきやがって……妹さん以上に目立ってんじゃねーよ。

 

「……お姉ちゃんは、満更でも、なさ……そう」

 

横でシーザーサラダをザクザク噛んでいた簪がふとつぶやいた。

この間の外出でハニトラの香りを感じず、俺の中での株価がストップ高になった簪。本人が『妹、じゃ……個人だって判別、できない。名前で……呼んで』と言ったので下の名前で呼ぶことにした。本当に親友みたいでなんか楽しい。

 

「ねえ……一夏」

「あん?」

 

今日は少し時間にゆとりがある。というか訓練以外にあんまりない。

最近は鈴やオルコット嬢と共にやってるし、暇ではない。

でも今日は。

 

「お姉ちゃんと、どうして知り合ったの?」

 

 

 

 

 

レゾンデートル。所謂存在意義。

私にはそれがない。『更識楯無』にはあるかもしれないが、私にはない。

IS学園生徒会室で一通り書類整理を終え、私はふうと息を吐いた。

正面の席には織斑先生が座っている。

 

「ずっと前からの約束でしたね」

「ああ」

 

その約束を果たす条件は、彼が自分で前に進もうとすること。私は彼が入学して一年以内に自分を取り戻すと賭け、織斑先生は半年以内に賭けた。

結果はもちろん先生の勝ち。

 

「でー、なんでしたっけ?」

「ロシアであいつに何があったのか教えろ。まだ私の知らないことが何か眠っているはずだ」

 

うげー、勘よすぎでしょ。

でもまあ確かに、話さなくちゃいけないことがある。

私、生きて帰れるのかなぁ……

 

 

 

 

 

「あれはそう、ロシアに俺が着いてすぐだったかな」

「あれはそう、ロシアに彼が来てすぐでした」

 

 

 

 

 

俺は寒がりなんだよ……なんでロシアなんかに来なきゃいけねえんだ。

まだ中坊に過ぎない俺が一人でこの極寒の地に飛ばされてきたのにはワケがある。人類最強の名を欲しいままにする姉さんのせいで色々大変な目にあった俺は、まあ要は色んな人と戦ってISパイロットとして強くなりなさいと命じられているのだ。

さっきまではアメリカにいた。コーリングさんにボコボコにされた体がまだ痛むレベル。マジで人間じゃねえよ国家代表は。

 

「こんにちは、織斑一夏君だね」

 

厚い毛皮のコートを着込んだおっさんが出迎えてくれた。

俺がISを動かせるというのは各国の一部の人間にしか知らされておらず、俺がIS学園に通えるような年になるまでは極秘扱いの情報なのだ。

事実、このことを知ってしまった俺の親友は名を変えさせられ妹ともに国内を転々とする羽目になっている。

 

「どうも」

 

ロシア語にはまだ慣れない。結局はペーパー上の勉強ではなく実地での会話こそ最高の練習だと英語のケースで学んだ俺は躊躇なく話し掛けまくった。

 

「急な話で、ええと、すみませんね。ああそうだ、例の、あー、えー、サラシキさん? はどこですか?」

 

日本語にするとこんな感じ。俺キョドりすぎワロタ。コミュ障感満載ってレベルじゃねーぞ。

おっさんは赤ら顔を朗らかに微笑ませながら、背後にそびえる軍事要塞を親指で指す。

 

「中でお待ちかねだ。もう早速やりたいとさ」

「了解。飛行機はノロくて我慢ならなかったんだ、存分に暴れさせてもらうぜ」

 

今度はうまく話せた。独り言だとうまくいく。あれ……ひょっとして俺のぼっち力、高すぎ……?

 

 

 

 

 

「で、私、織斑君に結構やられちゃったんですよ」

「初対戦でか」

「もちろん最終的には勝ちましたよお。でもかなりヤバかったですね」

 

私はコーヒーを織斑先生に出した。

多分先生はここまでは知ってる。

でもここからは。

 

「話を、続けますよ」

 

 

 

 

 

私はシャワーを浴びながら、唇をかみ締めていた。

――あそこまで追いつめられるなんて、不覚。

ISを動かして2年も経っていない素人に、負けそうになった。

濡れた髪もそのままに、適当に服を着て更衣室を出る。そこに彼がいた。

 

「あー、サラシキさん? だっけ?」

「……日本語でいいわよ」

 

ぎこちないロシア語で話しかけてきた彼に私はそっけなく返した。

こんな限界寸前まで追い込まれたんだ、正直下に見られても仕方ないかもしれない。

 

「さんきゅ。こっちの方が気楽だわ。……いやーさすがロシア代表、すげえ強いんだな」

「ハァ……ッ!?」

 

皮肉か。

この更識家次期当主を、初対面でありながら皮肉でなじる気か。

カッと頭に血が上り、平手を振り上げる。

 

「ふざけんじゃ――!」

「だから、頼む」

 

私がぶつ直前。彼は、床を水平に腰を折っていた。

 

「俺に、戦い方を教えてくれ」

 

息を、呑む。

彼はまだ強くなりたいという。何故。

存在自体がイレギュラーの彼はまだ強くなりたいという。何故。

 

「な、んで」

「守れるようになりたいんだ。今度こそ。守られるんじゃなくて守る存在になりたい。だからここにいる」

 

顔を上げる。

その瞳に、思わず魅入ってしまう。何もかもを飲み込むようなその深い色。その奥の暗がりが、私を招いてるように見えて。

 

 

 

 

 

冷静に思い出したら俺のセリフ恥ずかしすぎだろ……

両手で顔を隠しイヤイヤとしている俺に対し、食器類を片付け終わった専用機持ちは続きを急かしてきた。いつの間にか箒とボーデヴィッヒまで来てるし。

仕方ない、よな。

 

「それでさぁ、それからなんだけど」

 

 

 

 

 

訓練は熾烈を極めた。ぶっちゃけ死ぬ。アホじゃねーの考案者。

身体を苛め抜くという面ではコーリングさんの訓練も大して変わりなかったが、ここでの訓練は一味違う。最高速度で針葉樹林を抜けたりリアルスターウォーズじゃねえか。

 

「そういえば君のIS、『白式』だっけ? まだ第一形態なのよね? 待機形態いい加減見せてよ」

「やだね。ていうか形態移行ならそっちもそうだろ。『ミステリアス・レイディ』だっけ」

「まだ未完成だけどね」

 

こうして気兼ねなく話せるようになったのも大進歩ではないだろうか。

ぼっちからのブレイクスルー。さよなら過去の俺。こんにちは美少女侍らせ体質の俺。

 

「……本当に君、なんていうか、自由だよね」

「あん?」

「私ほら、対暗部用暗部だよ? 人殺しとかしてるんだよ?」

 

いつもどおり基地の外で射撃訓練を終え、俺と彼女は連れ添って帰還するところだった。

突然言ってきてテンパる俺。

いや噂には聞いてたけどいきなりどうしたの。

 

「んなこと言われても、別に関係ねえだろ。お前は俺からすればただの鬼教官だ」

「……うるさい!」

 

後で聞いたことには、こいつの親父さんが後を継ぐように手紙で言って来ていたらしい。

ロシア国家代表として華々しく表舞台に立つ自分。

更識家当主として裏の世界を駆け抜ける自分。

どちらが本当の自分なのかなんて、そりゃ混乱しちまうだろうよ。俺の不真面目というか適当な発言も後押しだったんだろう。

彼女は、俺に銃口を向けてきた。

発砲、直撃。

突発戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

先生は普通にキレてた。

 

「……ほう。一夏を撃ったのか、お前」

 

いやあれですよ。IS展開してたんですよ。悪意があったんじゃなくて、なんていうか、自分でも何してるのか分かんなかったっていうか。

ああダメだこの人私がなんて弁明しても、私を三枚に卸す気だ。私オワタ。

 

「ああでも、話終わってないですから。ほら、ね?」

「チッ」

 

話し終わったら『ミステリアス・レイディ』展開して最速で逃げよう……

 

「まーでも。結局私、その時、負けたんですよ」

 

 

 

 

 

純白の刃が、私の喉を突いた。全身を覆っていたISアーマーが形状を失い粒子に還元されていく。

 

「あ、え……?」

「これがァァァッ、第二形態――『白雪姫(アメイジング・ガール)』ッ」

 

息も絶え絶えに彼は宣言した。大剣とハンドガンを巧みに操り、彼は私を見事打ち倒してみせた。

PICの効力を失い、私の体は雪原に落ちる。ISスーツ姿だとさすがに寒いな、なんて変に世俗じみた考えがよぎった。

 

「ハァッ、ハァッ、強ぇッ、どンだけ強いんだよあんたァッ……ハッ、ハッ」

 

傍に降り立った彼は、そのままアーマーを消すと私と同様に倒れこんだ。

 

「あー無理無理。動けねーって。『白雪姫』になって一気に扱いピーキーになってるし。ちょっと待ってくれよ本当にさあ」

 

笑いながら彼は言う。

 

「てゆーか、自分が更識家だって簡単に言っていいもんなの?」

「……いいじゃないの別に」

 

私は顔を横に向けた。耳が雪に触れる。ひんやりとした感触。違和感。

彼と視線が合った。違和感。

何かが足りない。違和感。

――自分の拍動がいやに大きく聞こえる。拍動? そう、雪を伝って彼からも聞こえる拍動。聞こえるはずの心音。

聞こえない。

 

「俺も秘密を教えるよ」

 

彼のその時の雰囲気を私は忘れない。彼のその時の無表情を私は忘れない。彼のその時の――聞こえるはずの拍動がない、静寂に包まれた心音を私は忘れない。

本当に彼は、壮絶で、悲壮で、切実で、何より永久だった。

 

「俺さ――前に一度、死んでるんだ」

 

時が、止まる。

私の呼吸が、止まる。

彼の心臓は、止まったまま。

 

「『白雪姫』の待機形態、気になってたろ? こいつの待機形態は俺の心臓だよ。こいつは俺の心臓の代わりなんだ」

 

 

 

 

 

そこまで言って、食堂で聞き耳を立てていた生徒たちが気まずげな表情になった。

俺の想定以上に聴衆が多いんだが。

ていうかこっから先は割とマジで語りたくない。でも雰囲気的にここで逃げるのはムリっぽいな……正面の鈴が視線が先を促した。

やれやれだぜ。

 

 

 

 

 

基地に接収されたからは適当に事情聴取を受けた。

さほど年を食ったわけではない男が、取調室で俺の対面に座っている。

 

「災難だったねぇ君も。今頃更識さんは大目玉だろうさ」

「まあ俺が怒られたら、そりゃ筋が違うってもんでしょう」

 

半分ほどは雑談だったと思う。

やはりISを動かせる男、という肩書きは俺との接し方に大きく影響する。この人みたいに気さくに話しかけてくれる人や、露骨に嫌悪――嫉妬と言い換えてもいい――の色を瞳に滲ませる人だっている。

知っちゃこっちゃない。俺は俺の道を進むだけだ。強くなる。何者にも負けず、何物だって守りきれるぐらい、強くなる。

 

「……うんまあ、気にすんなよ」

 

独房にぶちこまれた彼女を訪れた。何て言ったらいいのか分かんねえから、とりあえず鍵使って中に入った。ここは割と堅牢というか、規律の厳しい要塞なので今現在俺たち以外に独房入りを果たしているヤツはいない。無論外に見張りの衛兵はいるが。

俺はボチシチの皿を差し出した。とにかく赤ぇ。

彼女は無表情で俺を見てくる。

その目尻に、涙がたまり始めた。

 

「ごめん、ね」

「うっせぇな食え食え」

 

お前がどうやって『お前』になるかなんざお前以外の誰が決めるんだよ。

俺にそんなことで当たってくんな。

ISの待機形態である奥歯を抜かれ、いまや彼女はただの少女だ。

 

「私、私ね、『楯無』になるよ。名前変わるとかそんなんじゃなくて、在り方も変えるでも、ロシア代表だって諦めない」

「……そっか」

「可愛い妹もいるから、日本に帰る。帰って、それで、それでね」

 

堰を切ったように、これからのことを話し続けた。

彼女の生き方が切々と綴られていく。俺は一つ一つに相槌を打っていった。

 

「……またいつか、会えるよな」

「うんっ」

 

俺らしくもない弱気な発言だった。

 

「会える。会えるわよ。だから……会えるように、おまじない」

「…………」

 

彼女はじっと俺を見てきた。

唾を飲み下す。

 

「なまえを、よんで」

 

消えて無くなる彼女の名前。世界の暗がりに埋もれていくそのたった一人の少女の名前。

俺は、その名を呼んだ。

お互いに目を閉じて――――

 

 

 

 

 

 

織斑先生はそこまで聞いて息を吐いた。

……ああ、どうしよう。すっっごく顔が熱い。

 

「キス、は、初耳だな」

 

先生の目は据わっていた。生命の危機を告げるアラートが頭の中で鳴り響いてる。

どーすんの私。

 

「だが、それでどうしたんだ?」

「いえ……翌朝になったら一夏君、消えてたんですよ」

 

そう言うと、先生の眉が跳ね上がった。

何かまずいことを言っちゃったのかな……?

 

「逆に聞くが、お前、知らないのか?」

「え?」

 

先生は、また息を、深く深く吐いた。

 

 

 

 

 

うっわヤベェマジやべぇ。顔熱い。どうしよう。

俺は自室のベッドで枕を抱え悶々ごろごろという乙女チック大勝利な行為に及んでいた。この様子を録画しといて後で見せられたりしたら俺は迷うことなく『白雪姫』と共に太陽に突撃するだろう。

にしても。

 

「女の子の唇って、柔らかいんだな……」

 

つーっと、自分の唇を人差し指でなぞる。うわ俺キメェ。この様子を録画(ry

 

「やめだやめ! 乙女おりむーなんざ需要ねぇよ!」

 

そう叫んで俺はコートを引っ張り出した。外に走り出る。意味もなく走り回る。

青春とかそんなん、縁がないと思ってた。でも……うああああああ。

雪に足を取られすっ転ぶ。

ははっ。

明日からどんな顔して会えばいいんだよ……

顔面を雪原に押し付ける。

 

ざくっ

 

あーあ、結構勢いにノせられた感はあるな。

 

ざくっ

 

でも確かに彼女は美人だしな。

 

ざくっ

 

嬉しいよ、すっげぇ嬉し……

 

ざくっ

ざくっ

ざくっ

 

……誰か、いる。

『白雪姫』が感知した。三人いる。基地の人かと思ったが、基地とは逆方向であることに気づいた。

 

「止まれ! 何者だ!」

 

ロシア語で叫んだ。『白雪姫』自体を起動し、絶対防御を発動させる。

どうするべきか。

 

「――!!」

 

男たちは身を翻すようにして、コートの中から得物を抜き放つ。サプレッサー付きのサブマシンガン。

発砲して来やがった!

体が反応する。パワーアシストの恩恵を受けて俺はその場から跳ね退いた。傍の草むらに飛び込む。

 

「チクショウ、見られた!」

「どうする!? 始末しに……」

「落ち着け、俺が確実に殺す。お前らは早く目標を片付けろ」

 

息を潜める。できれば『白雪姫』を使わずに済ませたい。ISを動かせる男子の存在などありえないのだから。

不幸なことに今の俺は基地との連絡手段を持っていなかった。

よく耳を澄ませば、足音が増えていく。車の駆動音まで聞こえてるじゃねえか……多分、強襲部隊だ。武装もまちまちだし、男たちも色んな人種から構成されている。どっかの企業お抱えの多国籍部隊ってとこか。

 

「更識家への牽制だ、あの家は厄介という言葉では言い切れん」

「監視カメラによれば対象は独房にいる。お遊びは抜きだ、すぐに殺せ」

 

その言葉だけが、俺の耳を上滑りしていった。

ロシア語に不慣れだからだろうか、どうも、おかしな言葉が聞こえた。

まるで俺の意思を汲んだかのように『白雪姫』が周囲のマップを表示させる。推定戦力もある。

今基地に攻め込まれたらどうなるだろうか。

独房入りということで、楯無はISを没収されている。もし、もしこいつらの狙い通りにことが進めば。

それは。

それは。

 

許容できないと、感じた。

 

全身を純白の装甲が覆う。『白世』とハンドガンを召還。

男たちの視界に、躍り出る。

驚愕に瞳を見開く男たち。

俺は。

剣を、振るった。

 

 

 

その晩。

フランスからの差し金だったらしい強襲部隊は――ロシア代表候補生の中でも抜きん出た実力を持つ少女を殺すために送り込まれた部隊は――あるISの手によって殲滅された。

生き残りはいなかった。

ロシア政府は事態の処理と共に非公式ながらフランス政府を強く非難した。

また情報の漏洩、並びにフランス政府の報復を恐れ、今回の事態に深く関与した当事者――織斑一夏は、夜が明ける前に音速旅客機でロシアを脱出した。国家が総力を挙げて隠蔽したこの事件。

もちろん、彼女が、俺の出国を知ることはなかった。

 

 

 

 

 

やれやれだぜ。

俺はアリーナへと歩を進めながら、あまりにシリアスな雰囲気にドン引きしていた食堂のみんなの表情を思い出した。

いや話しすぎだろうか……俺守秘義務とかあんま守らないタイプだからさぁ。

『白雪姫』の調整に余念はない。鈴やオルコット嬢も後で付いてくるだろう。とにかく彼女たちの訓練もだが、俺だって欠かさず鍛錬だ。真の強者は油断慢心の一切を嫌うものなのだ。

 

「ん?」

 

男子更衣室、実質俺の専用スペースとなっている部屋の前に、見慣れた少女が立っている。

なにしてんだよ、暇人か?

 

「よう」

「あ、うん……」

 

少し息が乱れている。どっかから走ってきたのかもしれない。頬も火照ってるし。

 

「あ、あのさ」

「あん?」

「全部、聞いたから。ロシアでのこと」

 

すぐに思い当たった。妹さんだろうか。

女子高生間の情報の伝達早すぎだろ……もはや次世代のコミュニケーションツール筆頭と言っても過言ではないレベル。

 

「……別にいまさらだろ。俺は大して気にしてねーよ」

「名前!」

 

ビクゥと肩が震えた。いきなり大声出すなビビる。

 

「名前……覚えてる?」

「そういう聞き方、卑怯だろ」

 

忘れるわけねーだろバカか。

俺は懇切丁寧にその名前を呼んでやった。口にするのも久々だ。

いくらこの名前が人に見えない影の中に沈んじまったとしても、俺は覚えてんだ。

 

「……一夏君」

 

後頭部をがしっと掴まれた。え?

え。

えっ?

 

「大好き」

 

ズキュゥゥゥゥゥン!!

 

 

 

 

 

この光景を偶然見かけた布仏によっていよいよ俺と楯無のデキてる話が真実味を帯びてきたり。

俺の睡眠が夜な夜なドアを叩いて詰問に来る少女たちに削られたり。

姉さんが割と本気で楯無を真っ二つにしようとしたのも、まあ、夏休みにはよくあるこった気にすんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・熱き鼓動の果て(第二章嘘予告)

 

「同士諸君、審判の日がやってきた」

「流した血を、零した涙を無駄にするな。それらが撃鉄を起こし、我らの炸薬を弾けさせる」

「一発の弾丸となり、女神の心臓を射抜くことこそが諸君の宿命だ」

「時は満ちた――ここに、ワールドパージ計画の発動を宣言しよう!」

 

投げられた刃は、明快なまでに、凶悪なまでに、世界に突き刺さる。

 

「これが、私に足りなかったもの……理の向こう側、篠ノ之流最終秘奥義へのッ……最後のピース……ッ!!」

 

少女が顔を上げた時、眼下に広がるのは夢の海か結末の荒野か。

 

「この『アルカディア』は、疑似ISコア20個を搭載した戦略兵器だ! 貴様一人で何ができる!」

「一人じゃねえよ……そうだろ、『白雪姫』」

 

希望を貫く槍に立ち向かい得る、無二の戦士。

 

「そうか……君が、そうなんだな」

「ああ。織斑千冬の実の妹にして、クローン体として生まれたお前、織斑一夏のコピー元。……初めまして。愛する、私の兄さん(フェイク)」

 

本物の家族が、その携える銃口が、彼を撃ち抜く。

開かれた災厄の箱に、希望は在るのか、それとも、その希望こそが最大の絶望なのか。

 

「織斑一夏を、国家反逆者と断定。駆逐する」

「飯島さんッ、なんであんたが……!」

 

迫る陰謀。

 

「一夏。お前はもう、私の弟ではないし、IS学園の生徒ですらない……去れ。そして、好きに生きろ」

 

訪れる別れ。

 

「はろー、いっくん。また世界を救えなかったみたいだね」

 

零落する英雄。

 

『始めまして、イチカ。私は『白雪姫』と呼称される人工知能――あなたの力になるため生み出された存在です』

 

総てを巻き込んで、『ものがたり』は『おわりのはじまり』へと突き進む。

 

 

 

「さよなら織斑君。もう織斑君は戦わなくていいんだよ……もう二度と、目を覚ますこともなく」

「何でだッ、何でお前がそこにいて、俺に剣を向けてやがんだよぉッ……相川ああああああああ!!」

 

Coming Soon...

 

 

 






予告は残らず回収(白目)

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