この中に1人、ハニートラップがいる!   作:佐遊樹

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ほのぼのしていただけたようで何よりです。
前書き詐欺? え? なんだって?


ハニトラ・ア・ライブ/篠ノ之箒

 

「……客観的意見を述べさせてもらおう」

 

くるり、と座椅子が回転した。

ストッキングに包まれた長細い脚を見せ付けるかのように組んで、飯島沙織は部屋を見回す。先ほどまでの雰囲気はどこにもない。全員影を背負い、部屋に座していた。

 

「彼の死因は、恐らく出血多量。心臓の破裂やショックによる即死では、彼がここまでたどり着けたことに矛盾が生じる……いくら自動航行とはいえ、搭乗者が死んではISは動けない」

 

手元のカルテをめくって、彼女はつらつらと言葉を続ける。

場にいるのは専用機持ち一同、篠ノ之束、クラリッサ・ハルフォーフに山田真耶らIS学園教師勢。

 

「だが、彼が損傷したのは左胸部と右腹部」

 

そこで飯島は言葉を切る。

 

「彼は……おかしい」

「……どういう意味だ?」

 

クラリッサは虚ろな目で疑問を返す。畳に座り込んだ彼女はじっと携帯端末に映る福音のスペックを、今もなお変化を継続しているそのデータを見ていた。

 

「分からないのか?」

「ああ」

 

飯島は改めて場の人々を見渡した。絶望的な雰囲気。もはやどうすることもできず、ただ自衛隊と在日米軍が現在行っている一斉攻勢に身を委ねるしかないとそう思っている。

飯島は自衛官だ。だが自衛隊の戦力を客観的に把握しているという自負はある。

その飯島は確信していた。日米軍では福音には勝てない。米軍機『ソニックバード』は優秀だが、やはり相手にならないだろう。

日本の存亡は彼らにかかっている。

だというのに、このままでは……

 

バンッ! と飯島は握った拳をそばのテーブルに叩きつけた。

衝撃でいくつものモニターにノイズが走る。

 

「言いたいことが伝わってねぇようだな! 織斑少年は即死してるはずだと言ってんだよ! 本来なら心臓を貫かれ、すぐに海に沈んでいるはずだッ!」

 

豹変した口調に、全員絶句した。

いや、その口調は奇妙なほどに、この場にいる全員が知るある少年に似ていた。

なおも飯島は続ける。

 

「そもそもなぜISは展開されているのに直に傷を負ったのかも不可解なんだ! 教えてくれ……あれは、『白雪姫』は何をしたんだよッ!? なァッ!」

 

その視線は真っ直ぐに、束を射抜いていた。

束は答えない。

膠着状態のまま、モニターでは日米混合軍が福音に攻撃をしかけていた。だが緑色のカーテンをいかなる銃弾も突破できず、突撃しても弾かれている。内部の状況はほぼ読み取れないが、確実なのはこのままでは事態は良くない方向へ転がるだろうということ。

 

「私には分かんねぇんだよ……何を為すべきなのか、何故ここにいるのか。一番に作成すべき織斑一夏の死亡調書もまともに書けやしねぇ。何人も死んだ。私は、私たちは……何のために戦ったんだ。同胞たちは、何のために散ったんだよォッ。答えてくれ、なぁ、クラリッサ、真耶、篠ノ之博士。なぁ、教えてくれよ……」

 

飯島はうつむいて歯を食いしばる。

日米混合軍が一時撤退を決定したところで、専用機持ちは揃って退室した。

 

 

 

 

 

 

 

棺桶のような白いカプセルの中に、一夏の体は放り込まれた。

最近の死体袋はカプセル型になっていて、遺体が腐ったり損傷したりしないよう、外部からの衝撃を遮断するのはもちろん温度や湿度を調節する機能まであるらしい。

 

窓のない、端から見れば楕円注型のオブジェクトにしか見えないカプセルの隣で、箒は正座している。

畳敷きの和室に真っ白なカプセルが転がされている光景はなかなかにシュールだった。

 

「……顔も、見れないんだな」

 

真耶が抱えてきた時。一夏の表情は、確かに死に顔にふさわしいほど穏やかというか、普通で、今にも息を吹き返しそうな顔色だった。

死んだ、のか。

 

『大丈夫、すぐに帰る』

「嘘つきめ」

『ここなら、お前は自由じゃないのかよ……ッ!』

「また私に嘘をついたな」

『だいじょうぶだよほうき。おまえは――おれが守るから』

「嘘ばかりだ、お前は。バカやろうめ」

 

実姉の発明品〈インフィニット・ストラトス〉によって人生は大きく変わった。

テストパイロットとして米国に使い潰されかけ、日本に拾われてからは名を変え住処を変え、時折テストパイロットも務めて……

友人を作ることも許されない。

制限され束縛され雁字搦めの生活が続いていた。

ある日のニュースを見るまで。

 

『世界初の男性IS操縦者が現れました』

『名前は織斑一夏』

『かのブリュンヒルデ、織斑千冬さんの弟です』

 

大事ない朝に放り込まれた一石が人生を変える。一石が起こした波紋は、いつしか彼女を彼女自身の意志でISの地に立たせていた。

一夏と会いたいと、心の底から思った。

入学に先立って政府の使者が言っていたことは、要は目立つなということだった。そんなのは百も承知だった。

ただ彼の姿を見ることができれば良かった。あわよくば、多少は会話もしてみたかった。

そして再会した幼馴染は、いつも通り、6年前と変わらない輝きを放っている、はずだった。

 

 

『俺は、一人の男として! そんなことを認めるわけにはいかない!!』

『今回の調子で今後も勝って、一組が最強のクラスだって学園に知らしめてやりまーす! カンパーイ!』

『分かったよ口出ししない。ただ暴力だけはダメだ。デュノア嬢、ネックレスを離せ。楯無もこっそり奥歯を噛むの止めろ。いいかこんな公の場でIS対ISの痴話喧嘩とか洒落にならねぇだろ、二人とも一旦頭を冷やせよ。この場はもうお互いに退こう。それで後で話せばむぐっ』

『お前も守りたいんだ! 目に付く人々全員を守りたいんだ! そのために強くなろうとした、強くなった!』

『守るんだ、守るって言ったんだ……やっと言えたんだ。もう一度、挑戦することができるんだ。誰かを守れるかもしれないんだ。だから、だから、俺は』

 

輝きは変貌していた。眩しかった光がくすむのに気づいたクラスメイトもいる。だが箒は、始業式の日、教室に入ってきた彼を見た瞬間から違和感に囚われていた。

自分の知る『おりむらいちか』ではない、別の『織斑一夏』がいる、と。

他者の成長を見出さず、見つけても意識外に追いやるという点では確かに、箒と一夏は類似している。

だが箒は目の前のカプセルに誓った。

 

「私の気のせいだったよ。お前は変わった、変わり果てた。でもそれは成長じゃないんだ」

 

そっと白い外壁に手を触れた。

ひんやりとした感触。

 

「私だって同じなんだ。昔のまま、色んなものを引きずってここにいる。皆そうかもしれないけど、少なくとも、私とお前は引きずり過ぎた」

 

手首に巻いた赤い紐は、まるで血染めのような毒々しさ。

彼女はそれを反対側の手で撫でて、そっと微笑んだ。

 

「お前の夢は私の夢さ。そうだったんだ。一心同体だったんだ。でも今は違う。六年間は、私たちみたいな餓鬼には長すぎた」

 

立ち上がる。

もうカプセルには、一夏の棺桶には振り返らない。

 

「だから福音は、私が殺すよ」

 

そのまま箒は部屋を出た。

とめどなくあふれ出る涙を拭おうともせずに。

 

 

 

 

 

 

 

自分はスナイパーライフルを構えていると仮定する。

架空の銃身を支え、想像のスコープを覗き込む、虚無のクロスサイトにそれが映る。

銀翼をターゲッティング。

トリガー。

 

間に合わず。エッジが織斑一夏の喉を貫き血しぶきが上がった。

――そこで妄想から還る。

 

あらあら。妄想の中ですらも救えませんのね。

 

唇を噛んで、自分への侮蔑の声を受け止める。

以前ならばーー彼女、セシリア・オルコットにとって、男などという下等生物が何人死のうが関係のないことだった。

でも彼は。彼は変えた。彼は変えてしまった。

価値観も倫理観も世界観も。

 

「変わらなくては」

 

それが何なのか。世界なのか、意思なのか、自分なのか。

セシリア・オルコットは復讐など時間の無駄遣いだと思っている。

でも。あれを撃ち落さなければ、前に進めない気がするのだ。

前に進むために、彼女は前に進む。

行動と目的の歪んだ一致には気づくことなく。

 

 

 

 

 

 

 

鈴は砂浜でじっと水平線を見つめていた。視線の切っ先は、見えるはずのない緑色のカーテンを確かに貫いている。

 

織斑一夏が、その遺骸が帰還して10分強。涙が枯れ尽くしたかのように、鈴は泣き止んでいる。

ただ、苦しい。

泣けないぐらいに苦しい。頭がぐらぐらする。気を抜けば膝をついてしまいそうになる。

 

「いち、かぁ」

 

名前が唇から漏れた。

苦しい。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

存在が一つ抜け落ちただけで、死にそうになるほど苦しい。

 

好きだった。

否定しようがないほど好きだった。

その人を奪われた。

奪われた。

あの銀色が奪った。

 

「ころしてやる」

 

その言葉はあまりに呆気なく唇の隙間から漏れた。瞳を開かせるのは悲しみでも悼みでもない。

 

「ぶっこわしてやる、あいつ」

 

明確な対象をもって赤い殺意が双眸から迸った。

立ち上がり、どこかへ歩き出す鈴の手首には、まるで鮮血に染められたかのようなブレスレットがはめられている。

 

 

 

 

 

 

 

部屋の中でシャルロットはくるくると踊っていた。

僻地の旅館などではなく、優雅な舞踏会の真っ只中であるかのように彼女は回り続ける。

ただ決定的におかしい点が1つだけ。

パーティー・ダンスだが、ペアの相手がいないのだ。

相手のいないワルツを、ひたすらに踊る。いまだに部屋へ戻らないクラスメイトたちは、級友の訃報に泣き伏せているのだろうか。

まあ、それも、シャルロットにとっては関係のないことだ。

 

楽しい舞踏会はフィナーレに差し掛かっていた。

首にかかったネックレスが鈍く照り返す。ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの待機形態。

瞬間、前触れもなくワルツを突然止め、手に具現化させたハンドガンを自分のあごに突きつける。

 

「……この死に方、カッコ良くはないなぁ」

 

織斑一夏の死に様は美しかった、シャルロットはそう思う。誰かを守るという理想の下に戦い、なぶられ、殉じた。

守りきれなかった人もいたし、何より自分さえも守れなかったのだ。

まだ彼は戦うだろう。生きている限り彼は守り続ける。そういう人種だと短い付き合いの中でもすぐに分かった。

 

そういう人間だから――救われた。

 

「一夏くん」

 

呼べなかった名前。

ハンドガンの銃口に涙が滴り落ちた。

 

「守ってくれたんだよね……」

 

拭うことすらせずに、ただ夕日を見つめる。

嗚呼、と思わずなく。

また手放した。母のように、生きてゆく時に手を引いてくれる人を失くし、見つけ、また失くした。

瞼を閉じている訳ではないのに、視力がゼロになったかのように、世界が真っ暗になる。何処へ行けばいいのか何時発てばいいのかどうすれば進めるのか、何一つとして分からない。

分からないのだ。

なんで此処にいるのかそもそも何処にいるのか何故誰もいないのか。ただ後悔だけが残る。

今までと違うのは、一夏が明確に、ある一つの訓示を遺してくれたことだろうか。

 

――誰かを守りたい

 

このままでは、あの銀翼はより多くの血に濡れるだろう。

それは一夏の理想に反する。

だから。

 

「私を守ってくれた一夏くんの理想を、私が守るよ」

 

ハンドガンが粒子に還った。

狙うべき相手決まっている。

蔑むべきは、殺すべきは、憎むべきは、弱い自分だ。

 

でも。

自分より先に抹殺しなければならない相手が居る。

シャルロットは思うのだ。

事態を収拾してからでいいけれど、それでも、やはり――――

 

わたしなんか、死んでしまえ

 

 

 

 

 

 

 

簪は、自分でも不思議なほどに悼んでいた。

つい先日までは見ず知らずだった――篠ノ之箒や凰鈴音と違って。

生き方に大きく影響を受けたわけでもない――セシリア・オルコットやシャルロット・デュノアと違って。

なのに悼んでいる自分がいる。まるで鋭いナイフで刺されたように、胸から血が止まらないのだ。

 

「いたい、よ……」

 

自分に割り当てられた部屋の中で、簪は座り込んでいる。

同室の生徒らは今ごろ飯島らから事態の説明を受けているだろう。そして、学園唯一の男子生徒の死亡も、聞かされているはずだ。

その状況を想像するだけで心が痛い。

 

「どうすれば、良かったのかな」

 

分からない。

普段見ているヒーローアニメなら、こんなことにはならず、完全無欠に事態を収拾してみせるだろう。

……だが簪はヒーローではない。ヒロインに憧れる少女、だった、はずなのに。

そうか、と簪は顔を上げた。何かが腑に落ちた。

今までヒーローが好きだった。はっきり言って、一夏こそヒーローなのではないかと思った時もある。

だが違う。

 

ヒーローとは誰の胸の中に住んでいる――以前見たアニメで、主人公が言っていた。誰しもがヒーローに成りうると。

ならば。

ならば。

彼女の胸の奥底でくすぶっていた火種が、今こそ篝火になる時なのだ。

 

「帰ったら、映画を見よう。今までとは違うのも、ダークヒーローものとか」

 

でもその前に、あの邪魔な銀翼を剥ぎ落とさなければならない。

その欲望が解き放たれる。

 

簪は立ち上がった。

本物のヒーローに、自分自身がなるために。

 

 

 

 

 

 

 

その異変に気づいたのは、偶然だった。

たまたま気分転換に散歩を――昼休みを過ぎ、午後の授業を欠席し――していると、ふと背筋を悪寒が走った。

先ほどからずっと、何か泥のような不安がこびりついて落ちないのだ。

 

「で、これ?」

「止めるな。呼ばれているんだ」

 

医務室で集中治療室で植物状態となっているはずのドイツの少女。

ラウラ・ボーデヴィッヒ。

身体にまとうのはレーゲンの第二形態『シュヴァルツェア・ツァラトゥストラ(黒い超人)』だ。

楯無は油断なく大型のランスを構え、今にも崖から飛び立ちそうなラウラを観察する。

 

「織斑一夏が呼んでいる」

「テレパシーでも使えるようになった? 長く寝れば使えるようになるなら私も一日中寝とこうかしら」

「呼んでいるんだ。死に掛けているくせに」

 

ぴくりと眉が跳ね上がる。

あの男が、危険な目にあっているらしい。

ざまぁとしか言いようがなかった。

 

『会長』

『何よ』

 

整備班2年の生徒から個人間秘匿回線(プライベートチャネル)が届く。

 

『織斑先生から増援要請が出ています。今からなら試作長距離航行ユニットの試運転も兼ねられますが』

『……へぇ』

 

あの試作型か、と楯無は考えをめぐらせた。

自分なら扱える。ただ、自分が警護を放り出すのは不味い。他の代表候補生たちと今からコンタクトを取るのは難しいだろう。

ならば。

 

「行きなさい」

「……いいのか?」

「条件があるわ」

 

楯無は指を一本立てた。

 

「あなたを追いかけて、島からある後付装備を射出するの。バックパックよ。それを使って行きなさい」

「なるほど新装備のテストもしろということか。お前たちにとっては大分都合の良い話だな」

「何とでも言いなさい。ただ、織斑一夏についてはきちんと保護しなさいよ」

「あいつがノコノコと私の斜線上でワルツを踊っていなければな」

 

交渉成立。

 

 

 

 

 

 

 

千冬は部屋の真ん中に寝転んでいた。

涙は、出ない。

言葉も、出ない。

 

彼女が次に息をするまで503秒。

呼吸を忘れるほどに、彼女は濁っていて、へし折れていて、歪んでいた。

部屋はまるで巨大な刀と刀で斬り合った後のような刀傷が大量についている。

織斑千冬は、折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之箒にとって織斑一夏とは、思い出だった。

ずっと変わらないもの。彼女の瞳に映る彼は輝いていて、両手を広げ自分を守ろうとしていて、その美しい一瞬を切り取ったフォトグラフがいつも彼女の瞼の裏に焼き付いていた。

変わってしまった彼を彼と認めず、喜びも照れも妬みさえも押し殺し他人と化していた。

 

セシリア・オルコットにとって織斑一夏とは、外来人だった。

見知らぬ世界への扉を開いた先にいた人。父が墜とした影に染まらず、彼女の知る『男』という枠組みを打ち破り、ただ彼らしく在るだけ。

それがどれほど彼女の視界を開けさせ、新たな地平線にいざなったことか、彼女自身でさえも正確には知り得ない。

 

凰鈴音にとって織斑一夏とは、薬物だった。

それがないと生きていけないという依存。乱用後に期間をおくことで禁断症状が出るように、彼女にとって彼の不在はこの上ない苦痛であった。

 

シャルロット・デュノアにとって織斑一夏とは、生きる希望だった。

先行きの見えない迷宮を彷徨っていた彼女を突然照らした彼。例え打算尽くしでも、彼女自身そのことに薄々気づいていても、誰かのために戦うという夢をくれた存在は、希望そのものだった。

 

更識簪にとって織斑一夏とは、越えるべき壁だった。

姉への劣等感にすり替わるようにして芽生えた対抗心は、彼女の大きな原動力となっている。自分を保護対象としてしか見ない姉への焦燥は、自分の反抗に好戦的な笑みで応じる彼には湧かない。

心地よい敵対心に溺れて、彼女は彼を目で追っている。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒにとって織斑一夏とは、軽蔑すべき愚者だった。

栄光の輝きに一点だけ混じった不純物。目を背けたくなるほど穢らわしいそれを取り除くための威勢は、いつしかその不純物の価値観と共通していった。

彼女と彼の同調こそが、彼女が瓦解する要因でもあり、また再起する足がかりであったことを、彼女自身よく理解している。

 

篠ノ之束にとって織斑一夏とは、十字架だった。

自分が歪めてしまった世界の被害者の一人で、彼女の過失を知りながら彼女を許し、彼女を抱き締めた彼がどれほどの救いだったかは想像し得ない。

だからこそ、その救いが自らの応報によって絶たれた時の悔恨は、自分自身への殺意は、彼女が背負うべき十字架となった。

 

織斑千冬にとって織斑一夏とは、酸素だった。

近くにいて、ずっとすぐそばにいて、あまりに自然でそこにいるのが当たり前だった。

けれど離れてしまえば、息苦しくなって彼が欲しくなる。彼がいなければ生きていけないほどに。

 

 

 

では、織斑一夏は。

 

彼は自身のことをどう考えていたのか。

彼は自信家だ、少なくとも公の場では。

それが単なる虚勢なら。

それが意図的に演出された、ある種の自衛行為なら。

認識を改めざるを得ないのかもしれない。

周りが気づかないにしろ、彼自身は彼の人間性を良く分かっているはずではないか。

ひたすらに滑稽。ひたすらに道化。おどけてかき乱して着地点をずらして、自分でも自分を忘れかけるほどに自分を偽る。

その虚像に恋い焦がれるならそれほどわびしい恋もないだろう。

だがその虚像の裏に気づけるのなら。

敗れ傷つき疲れ果て、待望の勝利を求め再度の失敗を恐れる彼の矮小な姿を直視できるのなら。

何より彼の姉譲りの『守る』という自己発現願望の歪みを受け入れられるのなら。

それなら、少しは近づけるのかもしれない。

 

そして彼自身、姉譲りであったはずの意志に、自らの願いの炎が灯り始めていることに気づくだろう。

自分のために他人を守ることを、矛盾ではなく当然のこととして考えること。

 

その願いを踏まえ、織斑一夏は織斑一夏のことをどう考えるのか。

 

 

 

『俺は弱いよ、みんなが思ってるよりずっと』

 

うるせぇ。黙れ。

俺は強い。俺様は無敵だ。誰にも負けねぇ。

そうであるはずなんだ。そうでなければならないんだ。

 

『俺は誰かを守りたい……でも本当に、守れるのか? 俺なんかが。だって、』

 

おい止めろッ!

言うな!

 

『今までずっと姉さんに守られ続けてきた俺なんかが、他人を守ることができるのか?』

 

……ッ!!

俺は脳髄を貫くその言葉に、思わず吐き気すらこみ上げた。

衝撃が脳を揺さぶる。自分の根付く土壌そのものを砕くその言葉。

 

『寝言言ってんじゃねえよ。お前《俺》には無理だ、織斑一夏』

 

暗転。

 

 

 

 

 

 

 

緑のカーテンが開くという確信にも似た予測は、箒の体を突き動かしていた。

そこには絶望しかないだろう。

あれだけの物量と質で押しつぶせない敵を如何にして倒そうというのか――単体戦力として箒がどれほど優れていても、生還率はすぐに弾き出せる。ゼロ。

 

「構うものか」

 

廊下を歩き、玄関に置かれた下駄を履く。旅館の出入り口を開け、夕日に思わず目をつぶった。

橙の明かりがまぶしい。

 

「……まぶしい……というより、綺麗」

「このぐらいで眩しいんじゃ戦えないよ?」

「まあ、視覚保護機能があるからいいんですけれど」

「てゆーか遅いのよ。待ちくだびれてモバゲー始めるとこだったわ」

 

声が、聞こえた。

驚きに目を開ける。

全員集結――日本代表候補生、フランス代表候補生、グレートブリテン代表候補生、中国代表候補生。

クリスタルの指輪が、橙色のネックレスが、青色のイヤーカフスが、赤銅のブレスレットが、夕日に照り返す。

 

「お前らッ――」

「行くんならさっさと行きましょう、そろそろ日米軍のインターバルが終わって、第二次攻撃が始まるわ」

「先を越されては意味がありませんわ」

 

簪は違う、直感的に分かる。

自分と同じ狂気を身に宿しているのは、他の三人だと箒は見抜いた。

その笑み、狂気に彩られ狂喜に満ちた彼女らの瞳。きっと鏡を見れば自分も同じ目をしている。それらに混ざってもなんの気後れもしない簪も大概だ。この場にいる人間は全員気が狂っている。

 

「特攻に近いぞ」

「知りませんわ」

「ぶっこわすの一択よ」

「……死なない」

「まあ、勝つしかないよね」

 

現地での戦況はリアルタイムで全員が受信している。その座標も、芳しくない損害も。

そして彼女たちは願うのだ。棺桶の中の少年にせめて、せめて、あの銀翼を捧げようと。

そしてあわよくば自分自身も――――

 

「分かった……なら、往くぞ」

 

世界が光に満ちる。体を浮遊感が満たす。

もうそこに躊躇いはない。

大地を爆砕するような轟音を上げ、5つの鉄の塊が残影を残し迸った。

視界が点と点から線を結び、視認できない。

あまりに迅速で最短な移動の延長線上で、いくつものISが銃火を交わしている。

すでにこちらは12機中4機が削られていた。あっちは主機も副機βも、さっきまで引きこもっていたとは思えないほどアグレッシヴに攻めてくる。主機は最大の特徴である『銀の鐘』を削り取られた後でも、背中から光の翼を生やしており大差ない。

 

「戦闘空域に到達」

 

絶対零度の声音が響く。

 

「全ISに告げる――死にたい奴だけ前に出ろ。巻き添えになりたくないなら尻尾を巻いて逃げろ」

 

ボロボロにされた日米混合軍に向けて言い放ち、箒は腕を組み目を閉じる。

まるで時間をやろう、ともで言うかのように。

代表候補生組が示し合わせたかのように副機βに突撃した。日米混合軍を構成する第二世代機『打鉄』と『ソニックバード』が戸惑いつつも、増援と解釈したのか、少し退いた。

 

間髪入れず。

主機が迫る。

箒が腰に差す(正確にはマウントされた鞘に納入された)二振りの刀の柄に手をかける。銘は『雨突』と『空裂』――その二刀をもってようやく篠ノ之流はその本領を発揮する。

ただの力押しではない。相手の力も利用する、それこそ女でも男を圧倒できるほどの効率性。

彼女の流派は持久戦を得意とする。その二刀は、左で相手の攻撃を受け流し曲げ防ぎ、右で相手の隙を突き裂き斬り通す。

無論福音のテストパイロットであった時期もそれは同様。

だからこそ。

 

『シノノノリュウケンジュツ――』

「遅い」

 

神速の抜刀術。

篠ノ之流にはないそれを放たれ、主機は一切の抵抗もできず吹き飛ばされた。

端から見れば切っ先どころか抜刀された刀身も見えなかっただろう。体勢を立て直した福音の胸部にはしっかりとXの字が刻まれている。それは一夏が最期の足掻きにつけたものをさらに深く抉り取り、火花がバチバチと散っていた。

 

(仕留め切れなかったか)

 

舌打ちをし、箒は次の一手を模索する。主機も副機βもそんな暇は与えまいと翼を広げるが、横合いからレーザーと衝撃砲が飛んでくる。

素早く福音たちが散らばると、副機βを追って簪が薙刀を振り上げた。

 

「ハァァァァッ!!」

『シノノノリュウ――』

「させませんわ!」

 

妨害に次ぐ妨害。

薙刀を振りかぶる簪に向けて光翼をはためかせる福音をセシリアが狙い撃つ。隣には最大出力の衝撃砲を構える鈴の姿が。

視認しきれないスピードの光線と視認しえない大気の弾丸。

箒はそれらを確認することなく叫ぶ。

 

「4機がかりでいい、とにかく副機βを抑えてくれ!」

「ですが主機は……!?」

 

――こいつは、こいつだけは私が殺す。

箒はそう言った。

振り向く。迫る銀翼の切っ先。焦ることなく、絶対の自信をもって箒は振り抜く。

 

『シノノノリュウ――』

「篠ノ之流剣術・陰ノ型・極之太刀――『絶:天羽々斬』」

 

後出しの最速。遅れて抜刀した刀身が先に振りかぶられていた剣より早く届く。それこそ篠ノ之流の原点にして極意、究極無比の一閃。

必中にして刹那の斬撃に逃げ場はない。

福音はその自らの加速も相まって、搭乗者ごと三枚下ろしにされる。

はずだった。

 

上空から降り注いだ閃光の雨あられが、箒の体を弾き飛ばさなければ。

 

「……ッ!?」

 

雲を突き破り、軌道上から舞い降りた見覚えのある漆黒の巨躯。

 

「こいつは!」

 

かつて織斑一夏によって破壊された機体――識別コード『ゴーレム』――その改良型。

箒を取り囲むようにして三機、それらが降り立った。

 

『水無月さんっ!』

 

個人間秘匿回線(プライベートチャネル)を通して甲高い声色が炸裂した。

 

『大丈夫、この黒い連中はそんなに強くない。オルコットと更識とデュノアは引き続いて副機の相手を。凰音、私と共に4機まとめて相手するぞ』

『了解、望むところよ!』

 

息巻く鈴だったが、箒の内心は焦りでいっぱいだった。

想定外の増援。

主機を加えた4機の敵。

ただでさえ低かった勝率がさらに下がっていく。先ほどのチャンスをモノにしきれなかったことを、箒は死ぬほど後悔した。

どうする。

どうする。

 

 

『――おっと、私もそのじゃれあいに混ぜてくれないか』

 

 

瞬間。肉眼でも確認できるほどの、大気の圧縮。

暴力的な圧力が、ゴーレム達の表面装甲を軋ませた。

 

「待たせたな」

 

黒い疾風が眼前を通り過ぎる。

飛び膝蹴りがゴーレムの一機を吹き飛ばした。

小柄で、黒いISアーマーを装着した銀髪の少女。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!?」

 

驚愕したように鈴が呟く。箒は、確か専用機持ちトーナメントでの騒動の張本人だったはずだということを思い出した。

 

「あの追加ブースター、なかなか良かったな。途中でパージして捨ててしまったが、まあ仕方ないことか」

 

右肩設置のレールガンが主機を狙う。

 

「さあ始めよう、私たちの戦争を――」

 

 

 

 

 

 

 

何か爆音というか、不安になる騒音というか、そんなのが聞こえた。

というか俺は何をやっているんだ。

というか俺は何で何やっていないんだ。

 

暗闇の中で、声にならない叫びを重ねる。

無力な俺が嫌いだ。誰かに守られている俺が嫌いだ。誰も守れない俺が嫌いだ。

それでも、と言い続けてやる。

ずっと思っていた。確かにこの渇望は姉さんの影響で生まれたものだろう。だが、ここまで育ててきたのは俺の意思だ。

姉さんの意思に突き動かされたわけじゃない。あの人みたいになりたいとも、今は思わない。

だからこそ。

 

「俺はッ、俺のために、俺自身のために、誰かを守りたいんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――真っ直ぐな声が、三角座りで自らの膝をかき抱く少女に届く。

真っ白な世界。空も地も海もない単色の世界。

真っ白な肌。一糸まとわぬ美しい肢体がそっと立ち上がり、声がした方を見た。

 

「……力が、新たな力が欲しいとは言わない」

 

少年が立っていた。

一心同体の相手。白く、赤いラインの入ったIS学園の制服を着込む男子。

そんな存在はこの世に一人しか存在しない。

 

予期せぬ来訪者に目を丸くする少女は、自分がいつの間にか真っ白なドレスを身に纏っていることにも気づかない。

微笑みを浮かべ少年は、彼女に手を差し伸べた。

 

「ただもう一度飛べたらそれでいい。飛んで、駆けつけて、今度こそ守り通してやるんだ」

「では……力は必要ないのですか?」

 

白しかない世界が急速に色づく。終末のような茜色。

彼女の隣に現れた――いきなり滲み出たと言ってもいい――騎士甲冑の女性が問う。顔半分を覆うバイザー型の鎧のせいでその目遣いを伺い知ることはできない。

 

「当たり前だ。足りなかったのは力じゃない、意志だ。俺はもう迷わねぇ。姉さんでもなく他の何者でもなく、俺は俺のために誰かを守りたい。姉さんのようでなくていい。俺なりのやり方で、『守る』んだ」

 

その答えと同時、空に罅が入った。

騎士甲冑の女性は満足したのか、頷いてかき消えていく。

少女はあまりに小さな世界のあまりに呆気ない終わりに、まだ状況を掴めていなかった。

 

「……今まで苦労かけてきたな、『白雪姫』」

「……ッ、あ」

 

名を、呼ばれた。

ドレスが翻る。罅だらけの空が墜ちてくる。

偽りの世界の向こうに見えるのは――瞳を貫くほどの青空!

 

「でもまだ付き合ってもらうぜ。俺の命綱になっちまったことを怨めよ」

「……怨んだりなんかしない!」

 

少女は初めて声を上げた。

少年は駆け寄り、少女の――『白雪姫』の手を取った。

 

それは『ものがたり』のはじまり。

今度こそ間違えない。彼はもう迷わないのだから。手にした力で守りたいと思ったもの総てを『守る』のだから。

 

やっと始まる彼と彼女の『ものがたり』は、ゆっくりと回り始め急速に煌めき、

そして光が青空を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり黄泉還ってきちゃった」

 

瞳を開いた俺の視界に飛び込んできたのは、悲しい表情の束さんだった。

俺は硬い床の上に寝転んでいる。いや床じゃない……カプセルの中か? コールドスリープでもされたのか、俺は?

 

「いっくん、事情を説明するね。いっくんはまた死んだ。それでまた蘇った。『白雪姫』のおかげでね」

 

……。

そう、か。俺は負けたのか。

蘇ったというのはこいつのおかげかと、俺は自分の胸に手を当てる。鼓動の音なんか伝わってこない。元々ないのだから仕方ない。

 

「もう箒ちゃんたちが君の仇討ちに行っちゃった」

「ッ!? 何で止めなかったんですか!?」

 

ムダだったよ、と束さんは悲しそうに首をふるだけ。

俺は立ち上がった。とたん、めまいがする。束さんに肩を支えられ、部屋から出た。

角を曲がってこちらに来るのは、軍服のお姉さん。

インペリアル・ロイヤルガードの飯島さんだ。

 

「やはり、怪しいと思ったんだ」

「……驚かないんだ」

 

束さんが拍子抜けしたかのように漏らす。

相対する彼女も、飯島の冷静な対応に驚いているのかもしれねぇ。

 

「まあ本当に死んでいたかどうかを疑っていたんだがな。蘇らせたのか、『白雪姫』が」

「ええ、まあ」

「出撃は?」

「今から急行します」

 

俺のISに戦闘位置情報が転送されてきた。飯島さんからだ。

こちらから顔を背けて、彼女は言う。

 

「わ、私は君のファンだっ」

「……はい?」

 

いきなりの意味分かんねぇ発言に、俺も束さんもポカンと口を開けた。

 

「あ、あんた何言って」

「学園のトーナメントで見て以来ファンだ。君ほど人間らしい人間離れした超人は他にはいない。悩む姿が、絶望する姿こそが、君の最大の魅力だ」

 

この人来てたのかよ。絶対VIP席じゃねえか。

 

「だから、死ぬな。絶対に、死ぬな!」

「……分かってるって」

 

飯島さんは、その場で泣きそうなまま敬礼をして、解いて、走り去っていった。

まだ指揮官としての仕事があるんだろう。

 

「それじゃあ、私もそろそろ戻るよ」

「はい」

 

束さんは心配そうに俺を見た。

 

「もう決めたんだね」

「はい。俺は、行きます」

「……ごめんね」

 

束さんも去っていく。

角にその姿が消えるまで見てから、俺は重い体を引きずり始めた。

倦怠感に視線が下がる。息も荒い。病み上がりどころか蘇生して間もないからなぁ。

裸足のまま旅館から出る。

砂浜に着いたところで、後ろから声をかけられた。

 

「織斑君!?」

 

顔を上げる。振り返ると、俺のクラスメイト。谷ポンが真っ先に駆け寄ってきて、俺の肩を支えてくれた。

うわ俺情けねぇ。

 

「黄泉還ってきたんだ、お前らをほっとくワケにもいかねぇからな」

「何、バカなことを……!」

 

いや事実なんですよね夜竹さん。

ていうか無言でしがみついて泣くの止めてくれませんか谷ポンにナギちゃん。懐かれてるのは嬉しい限りだが、今はそんなことしてる時じゃない。

箒たちがもう行っちまってるんだ。

追いつかなきゃ。

追いついて、今度こそ、今度こそ。俺は。

 

「何やってるの!? こんな……ボロボロになってッ」

「戦わせてくれ」

 

たった一言でいいんだ。

言ってくれよ。『戦え』って。

 

「頼む。それだけでいいんだ。『戦え』って……俺に命じてくれ」

 

クラスのみんなの表情が悲壮感にあふれ出す。

 

「……ンだよ、俺が死ぬとでも思ってんのか?」

「死んじゃってたんだよ、もう!」

 

ボロボロと涙をこぼしながら、谷本が俺の胸を叩いてきた。

全然痛くねえよ、そんなの。

 

「分かった」

「……!」

 

俺の正面で相川が立ち上がる。

剣呑な瞳に皆黙り込んだ。

 

「清香ちゃん、本気……!?」

「ダメだよ、もう何言ったって聞かない、今の織斑君は。だから、」

 

だから。

その言葉の続きを俺は待った。相川が右手を差し伸べてくる。決壊したように、彼女も泣き出して、それでも俺から目を逸らさずに、言った。

 

「――――死なないで」

 

……俺の体にしがみついていた谷本も、思わず呆けていた。

 

「絶対にッ、死なないで。織斑君に死なれると、困るの。だからッ、だから……ッ!」

「相川……」

 

膝が笑ってやがる、こいつ。今にも泣き崩れちまいそうなのに、必死に耐えて、俺の行く先をふさいでたんだ。

 

「死なないで……」

「織斑君、絶対に死なないで!」

 

続く言葉に面食らう。ナギちゃんにしずちゃんだ。

 

「生きて帰って!」

「負けないで」

「がんばって! それで、守って!」

 

みんな便乗し始めた。

浴びせられる言葉一つ一つに込められた温かさ。それが俺の胸にしみる。

谷本が俺の鼓動を聞くように顔を寄せ、涙をこぼした。

 

「男の子ってホント馬鹿……大馬鹿だよ、みんな」

「悪い。すまん。許してくれ、頼む」

「謝りすぎ」

 

谷本は笑った。

小さな体を引き剥がす。

真正面からみんなを見据えた。

 

「生きて」

「帰ってきて」

「死んじゃダメ」

 

相川も唇を開く。

 

「私たちを――守って」

 

……ああ。

今度は、憧れなんかじゃない。

諦めない。

妥協しない。

俺が俺の手で俺自身の意志で守り通す。

それが――俺の戦う理由だ。

 

呼応するかのように、俺の背から光が溢れた。二筋の閃光となり、交差しながら俺を包み込んで、弾けた。

俺に着装される純白の鎧と刃。

 

「『白雪姫(アメイジング・ガール)』!」

 

いつも通りで、何も代わり映えしない相棒。

それでいい。

ご都合主義なパワーアップはいらない。俺たちはこのままでいいんだ。やっと今、スタートラインに立てたんだから。

 

ホバリングし、後ろを向く。水平線ギリギリで、いくつも閃光が飛び交っている。

振り向くと相川が釣られたように手を伸ばしてきていた。

その手を取って少し浮く。勢いづいた彼女は俺の腕の中に収まる。

 

「ひゃっ」

「負けねえよ。俺がいる、俺が守る。だから俺たちは負けない」

 

至近距離での宣言に、相川の頬が色づく。

それが朝焼けによるものなのか、別のものなのかは、伝わってくる心音で区別がついた。

 

「うん……待ってる」

「ああ……待ってろ」

 

相川の手を放した。砂浜に着地したのを見て、俺は改めてウイングユニットを起動させる。

 

「リベンジマッチなんざ久々だ、燃えるじゃねーか」

 

一気に加速。クラスメイトも砂浜も置き去りにして、音と併走する。

まだ自動修復が完了したわけじゃねぇ。傷の入った装甲がもう負担に耐えられず剥がれ落ちた。

ボロボロでもいいさ。

握れる手と、羽ばたける翼と、守るための刃。それだけあれば織斑一夏は存在できる。

 

目標との距離が1000を切る。俺に気づいた奴はまだいない。

800。絶対防御にエラー、発動不可。無視。

600。気づいた。オルコットだ。福音が俺に気づく様子はない。

500、400――『白世』を顕現させる。

300、200、100、50!!

目当ての副機βがその鋭利な翼を広げた。気づいてやがったか。カウンター狙い……だが、甘ぇ!

 

「らあああああああッ!」

 

つま先の先端で銀翼を逸らし、前方宙返りの要領で上半身を投げ出す。

肘を伸ばしきった『白世』のリーチギリギリの斬撃。捉えたッ、左肩!

 

『ギギギガグギギググガガガガ!』

「騒いでんじゃねえよポンコツの分際で! 大人しくリサイクル工場に運ばれてろ!!」

 

衝撃で奴は真下へ叩き落とされる。呆気に取られている味方達を放置して追撃。

同様に俺も下降する。副機βはあわや水没というところでなんとか体勢を整えていた。

『白世』で真上から斬りかかる。咄嗟に副機βは飛び退き、代わりに大剣は海面を割った。

水飛沫が飛び散る中、副機βは刃と化した銀翼を、俺は召還したハンドガンを互いに向け合う。

 

「――――!!」

『……!』

 

刹那の間。

 

「砕け散れッッ!」

『コウゲキヲゾッコウ』

 

ハンドガンの銃身に取り付けられた特殊弾頭、小型破裂裂傷弾とやらを発射。向こうは銀翼からレーザーを幾重にも放つ。

一分のズレもなく、レーザーは俺の左肩部装甲を粉砕し、俺の銃撃はシルバーカラーの頭部に突き刺さった。

 

「ッ――『白雪姫』!」

 

のけぞり、レーザーの痛みが神経を焼き尽くす中、俺は起爆キーを引く。

確信の一撃。あの変態下僕どもが作った奇天烈兵器だ――ただで終わる訳がない。

 

密閉容器の中で打ち上げ花火を上げたような、激しい炸裂音が響いた。

弾け飛ぶバイザー型のセンサー類と火花。それだけでは終わらない。散らばった弾頭の欠片までもが発火し、小爆発を起こしていく。表面装甲のあちこちを削り取り、融解させる。

 

『ギグガガガガガガガガガガガ!?』

「ははははははッ! さッすがだぜ下僕!」

 

喜べよ下僕! テメェの武器がアメリカ様の最先端兵器をぶっ壊しやがったぜ!

銀色の全身に火花が散る。奇妙にカクカクした動きをしているそいつにトドメを差すべく、俺はハンドガンも『白世』も量子化して、代わりに『虚仮威翅(こけおどし)』を呼び出した。

体中を今までにない活力が満たす。

 

『部分的形態進化(パーティカル・エヴォリューション)を承認』

「来いよッ……!」

『解放――【虚仮威翅:光刃形態】――セットアップ』

 

白い懐刀、しかも修復が完了しておらず傷だらけのそれが、光を灯した。その光が輝きを増し、伸び、形作っていく。

顕現するのは光の剣。

『白世』よりかは幾分か短い、細身の剣が姿を現す。

 

「――ッ」

 

音を置き去りにして加速。未だ十分に回復しない副機βの胸を、俺が突き出した光の刃が貫いた。

見事に貫通し、半分ほどしか残っていない頭部から光が消える。

俺は振り向きざまに剣を振り上げて、その鋭角的なシルエットを真っ二つにしてやった。

 

『一機撃破を確認!』

「撃墜者は織斑一夏っす。あ、これスコアに応じて賞品もらえたりしねぇの?」

「一夏っ!?」

「一夏さん!?」

「織斑君!?」

「ふん、やはり来たか」

 

追いついてきた味方の一機(形からしてアメリカの人だ)に副機βの残骸を任せ、俺は再び飛翔した。

皆思い思いの声を上げていて、俺は思わず笑った。

 

「……一夏」

「来てやったぜ、『箒』」

 

ここにいる箒は『篠ノ之箒』だ。『しのののほうき』じゃねぇ。

俺の勝手な思い出を、彼女に被せていた。

俺が俺であるように、彼女は彼女なんだ。

でも彼女は、いつまでも『しのののほうき』ではいてくれない。

 

剣道場で一緒に素振りして、一緒にご飯を食べて、一緒に学校に行って、一緒にはしゃいで、泣いて、笑った『ほうき』はもういない。

人は変わり行くものなんだ。

だから。

 

『ほうき』も『箒』も、俺が守るんだ。

つまらない時間軸の束縛はもういらない。

 

「一夏ッ……一夏、いちか、いちかぁっ……!」

「……一方的に守られるのは、癪か?」

「いちか、私、ごめん、私の、わたしのせいで、お前……」

「なあ箒。泣くのは後にしてくれよ。まだお客さんがいっぱいいるんだ」

 

周囲を見る。箒以外の専用気持ちも、呆然と俺を見て、涙を流している。

こいつら油断しすぎだろ。

俺は主機に向き直る。

 

「箒」

「ッ! 一夏……何だ」

「そっちの黒いの、任せられるか?」

「!」

 

守ると偉そうに言った直後で、自分でも情けない。でも、今は仕方がないんだ。

俺の背中に、箒が背中を預ける。お互いのウイングユニットがガツンとぶつかり合った。

 

「……私を守るか」

「ああ。つっても、今は背中ぐらいしか守れそうにねえけどな」

「上等だ」

 

箒が笑う。

 

「終わったら、ゆっくり話そう」

「ああ」

 

そして箒はブースト、黒い三機をかく乱するような複雑な機動で相手を翻弄する。

みんなにも箒のサポートに入ってもらうように言って、俺は全身の各部に発光する赤いラインの入った主機をあらためて観察した。

最大の武器である『銀の鐘』は俺がぶっ壊してやったが、新たに生えた光の翼が代役を果たしている。いやむしろ基本スペックを爆上げしてやがるぜ。

 

「よぉ。腹ァ括ったか?」

 

同時、ヤツも俺をはっきりと認識する。

一度殺したはずの相手が立ち塞がっていることに戸惑ったのか、少しバイザーを光が流れる。

それでも勝算は弾き出されたようだ。

『銀の鐘』が稼動準備(アイドリング)し始めたことを『白雪姫』が教えてくれる。

 

『シヌ。コノバニイルニンゲンハゼンメツスル』

 

無機質な合成音声が、偽者の『ホウキ』の言葉が響く。

……まあ、確かに、誰だって、いつまでも生きてられるわけじゃねえ。

 

未来永劫に形を保ち続けるものなんてない。

みんないずれ死ぬ。俺も箒も、姉さんや束さんだって死ぬ。

ISも例外じゃない。かつての戦闘機や戦車のように時代に追いつけず朽ち果てるか、人々が武器を捨て不必要とされるかは分からないが、いずれ用済みとなる日が来るのかもしれない。

 

だが。

何もこんな海の上で惨めにぶち殺される必要はない。

死ぬのは今ではない。

今でなくていいんだ。

今は、生き残る時だ。

ここで果てるべき存在はただ一つ。

テメェだ、『銀の福音』――ッ!

 

『ヒトリノコラズゼンメツサセル。ワタシガゼンインゲキツイスル』

「死なねえよ。誰一人として死なない。俺が守るから、誰も死なない」

 

福音のカメラアイが俺を貫いた。赤い光に満たされるそれが殺意を孕む。

 

『イチカ、ジャマスルナ』

「お前なんか、箒でも何でもない! 俺に刃向かってんじゃねえッ」

 

互いに得物を向け合った。

開かれた『銀の鐘』の砲門と『虚仮威翅:光刃形態』がピタリと静止する。

 

『ジャマスルナラ――シンデ』

「邪魔するんなら――殺すぞ」

 

スラスターが爆発した。

俺の純白の翼が、福音の発光する六対の翼が、同時にはためく。

 

「オオオオオオッッ」

『シノノノリュウケンジュツ・ヒノカタ・イチノタチ――『ミナモスベラシ』』

 

交錯、交錯、交錯。

らせん状に軌道を重ねながら、俺と主機は空中高く舞い上がる。七度目の激突の時にタイミングをズラし、主機の首を右手で掴む。襲い掛かる手刀を逸らし翼の斬撃を左手で受け流し、急旋回・急降下。

海面が迫る――減速なんてするはずがねぇ。

主機を下敷きにして、俺は最大速度で海中に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そんな」

 

モニターでは『白雪姫』と福音が海中へと突っ込み、巨大な水柱が上がっている。

そんな中、飯島の驚きは、一同の内心を代弁するものだった。

頭をかきむしり、目を見開いて驚愕に震える。

 

「居る、のかッ。ISの機能を埋め込まれた人間が、ナターシャ以外にッ」

「私が……やりましたから」

 

手元に配られたのは、織斑一夏の身体に関する詳細なデータ。その書類に目を通した関係者一同は、驚愕に包まれていた。

落ち着き払って、束は立ち上がった。

狼狽していた飯島の瞳が憤りに濁る。

 

「貴様ァッ!」

「落ち着いて下さい!」

「冷静になれ紗織!」

 

束に掴みかかる飯島を、慌てて真耶とクラリッサが抑える。

両腕を固められながらも彼女は憤怒の表情で怒鳴り散らした。

 

「放せッ! こいつは悪魔だっ! 人の心を持ってない! なんでそんなことができる! あの少年が何をしたというんだ! 他者の人生を狂わせてそれを高みから見物して何が楽しい、この下衆め!!」

 

拘束を振りほどいて、震える人差し指を束に突きつけ飯島はわめいた。

ナターシャにも施された非人道的な人体改造のデータを知るからこそ、彼女にとってIS機能の移植は絶対に許せない。

 

「ナターシャはッ……志願した。バカな奴だ。志願して、コアの一部を脳内に埋め込まれた」

「いっくんは志願なんかしてないよ。一刻を争う事態だったから、私が勝手に埋め込んだ」

「なッ」

 

飯島が絶句する。

一刻を争う事態? どういうことだ、いや、生命の危機と過程しても、なぜISコアの出番になる?

疑問渦巻く飯島の霧を打ち払うように、束は簡潔に告げた。

 

「私はいっくんの心臓を摘出して、そこに『白雪姫』のコアを埋め込んだ。今までいっくんの生命を維持してきたのは、『白雪姫』なんだよ」

 

絶句する一同を尻目に、束はモニターを見ながらつらつらと言葉を続ける。

 

「あれは私の知り得る限り第二世代最強のIS。第三世代初期型にも劣らないスペックで、何より搭乗者の腕前に大きく左右される癖の強い武装を備えた――いっくん専用の、いっくんにしか動かせない、いっくんのためだけに存在するIS」

 

水中で格闘戦を繰り広げる二機のISは、モニターには映り得ない。

それでも束には見えるのだ。

水の中だろうと火の中だろうと、自分の信念のためには体を刻み心を燃やして戦う世界で一番愛しい青年の姿が。

 

「『誰かの為に自分を殺す』という諦観が、『自分の為に誰かを殺す』という勇気を打ち破れないはずがない」

 

一夏の拳が福音の横っ面を捉える。

 

「『自分の為に誰かを守る』という傲慢が、『誰かの為に自分を守る』という謙遜を下回るわけがない」

 

一夏の膝が福音の体をくの字に折る。

 

「『誰かを守りたい』という絶望が、『誰かに守られたい』という希望に負けるはずがない」

 

 

――そうだよね、いっくん

 

 

束の言葉を知ってか知らずか、『白雪姫』はアクセルを踏み込みっぱなしの車のように加速度的に切り結ぶ太刀筋を早めた。

白い機影と銀翼が水中で交差する――!

それとは別に、モニターは黒い影三つを翻弄する『紅椿』にシフトした。

 

 

 

 

 

 

 

それはもはや蹂躙であった。

 

「はははははっ! 踊れ踊れ踊り狂えェ! 私の掌の上で惨めにみっともなく足掻け!」

 

以前学園を襲来した時よりシャープになった造形。飯島たちはすでにコールサインをゴーレムⅡに決定していた。

先日の乱入時より向上した基本スペック、強化された装備、増設されたブースター。

それら全てを鑑みても、彼女とは同じ土俵に立つことすらままならない。

箒はそのことが分かっていた。

三方から浴びせられるビームの雨をかいくぐり、巨躯を体当たりで弾き、玩具を弄ぶようにしてダメージを蓄積させていく。

だがその単調な流れに飽きてしまったのだろうか、箒はやや疲れ気味の表情で、その両手の刀を軽く振った。

それだけでスイッチが入る。

 

「もう、いいか」

 

ヴンッ! と、まるで大気の層を叩き斬ったかのような音。

それが『紅椿』の全身の展開装甲一つ一つが瞬時加速した音だと理解する間もなく、ゴーレムⅡがピシリと硬直する。

瞬間移動としか、思えなかった。

現地にいるセシリアたちも、モニター越しの千冬たちでさえも。

移動の経過がまったく見えないのだ。線を描き点と点をつなぐのではなく、点から点へと飛び移ったかのじょうに、それは不可思議な機動だった。

一瞬、赤い機影を捉える。肩部の砲門がそちらを向く。箒はゴーレムⅡの背後を見やった。そして瞬きをする暇すらなくその視線の先に箒が『移っている』。

背後からまたも袈裟切り。その時すでに箒は最後の機体の背後に『移っていた』。

刀が振るわれたのか、とかろうじて飯島は見取った。

 

「篠ノ之流剣術・陽ノ型・極之太刀――『真:天叢雲剣』」

 

三つの黒い機影が、同時に変貌する。胴体からズレ、露わになった切断面から火花が散り、そのまま弾け飛ぶ。爆音と共に残骸が海へ落下した。

それらに背を向け箒は二刀を収める。

――この間1.06秒。

 

「喜べ鉄屑。我が篠ノ之流の極みの一端を垣間見ることが出来たのだ。無間地獄への渡し賃代わりと思え」

 

三つの火柱が上がる中で、箒は長髪を書き上げながら嗤った。

もはや動くことは二度とないであろうスクラップには目もくれず、彼女の射干玉の瞳は想い人のみにフォーカスする。

 

「ふふふっ。一夏ぁ。そうだ、それでこそお前なんだ。その鋭い機動が、太刀筋が、視線が、私を高めてくれるッ……」

 

惚けた両目には狂喜の光。

海面すれすれを飛んで戦ってなどいないにもかかわらず、箒の足を伝って雫が垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

「いっくんに処置したのは、ISコアによる心臓の代用。もちろんそのまま埋め込んだわけじゃない。ナノマシン精製プラントも同時に処置した。いっくんが負った致命傷を迅速に治癒するためには必要だった――ナノマシンの生体再生効果と、コアナンバー001の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)『癒憩昇華』が」

「……『癒憩昇華』、だと? 何だそれは」

 

飯島の疑問に束はすらすらと回答を並べていく。

 

「『白騎士』の、そして『白雪姫』の、失われたワンオフアビリティ。致命傷さえも一瞬で治療してしまう、逆に言うとパイロットが負傷しない限りはまったく用の無い――絶対防御がある以上は存在価値ゼロのワンオフアビリティだよ」

「それが心臓の代わりを果たしていたんですか?」

「ううん、山田先生、ワンオフアビリティはいっくんにコアを埋め込んだ時に消滅してる」

 

モニターでは福音が海面を破って躍り出、それを追うようにして一夏が飛び上がった。

 

「私の『灰かぶり姫(シンデレラ・ガール)』のワンオフアビリティは『スキルジャスター』。他のISのワンオフアビリティを強化し、弱体化させ、好きに弄れる便利な能力」

「あれは、第二形態移行(セカンド・シフト)をした後の姿だったのか……!」

「うん。『暁』の第二形態が『灰かぶり姫』、『白式』の第二形態が『白雪姫』。私は『癒憩昇華』の効力を最大にまで高め――すでに絶命していたいっくんを蘇生したんだ」

 

 

 

 

 

 

 

もう決着が俺には見えていた。

 

『シノノノリュウ、』

「流派に頼ってんじゃねぇっ!」

 

金切り音が聞こえた瞬間、行動に移る。

ビームソードと銀翼は、性質上打ち合えない。刹那の交錯を経てそのまま真っ直ぐに太刀筋は変わらず振り下ろされる。面倒なモンだぜ。

これは防御を捨て、回避に徹し、互いの致死の一撃を紙一重で裁き続けることを強いられるのと代わりない。

福音もさすがに気づいてるらしく、俺の斬撃にカウンターを合わせてきやがる。何度も危ねぇ場面があった。

だが、もうこいつとじゃれ合うのも時間の無駄だ。

巨躯が大気の中に沈み込んだ。瞬時加速の前触れ。まるで俺に読ませるかのような分かりやすさ。

 

真正面から、来るはずがない――高速連続瞬時加速(アクセル・イグニッション)か。

四方八方を銀影が残像を残し迸る。

左から真上右斜め後ろ37度右舷190度3時方向45度へマッハ1.2後方6時仰角32度……『白雪姫』が送ってくれるデータが超高速で俺の脳髄を貫く。でも。

そんなのがなくたって。

分かる。

俺と『白雪姫』は一心同体、人機一体の境地に上り詰める至高のタッグ。

俺の直感が『白雪姫』を動かし、『白雪姫』の分析が俺を補佐する。

 

『シノノノリュウ・インノカタ・キョクノタチ――『ゼツ:アメノハバキリ』』

 

超反応。

アラート。

即対応。

金切り声。

持ちうる材料全てを、残った力を、注ぎ込み、俺は剣を振るった。

 

「外見だけ似せた猿真似の剣で、俺を斬れると思ったか?」

 

篠ノ之流の、奥義。俺ごときでは一生まみえることすらできないであろう絶技だ。

だが。今俺に振るわれたのは、明らかにそれではない。こんな軟弱な太刀筋でそれを語っていいはずがない。

 

俺の右肩部装甲が吹っ飛んだ。

福音の胸には、俺がつけ、箒が抉った傷がある。今そこには『虚仮威翅』が突き立っている。斬撃モーションを途中で変えて投げつけてやった。突然変わったリーチに対応できるはずもない。

刹那の交錯故、俺が返り血を浴びることはなかった。

搭乗者が死ねばISは起動出来ない。

常識だ。

 

「恨みはねえし恨まれる筋合いもねえ。だから、一回しか謝らねぇぞ」

 

ブレーキが効かず、すでに福音は俺の後方300m近くまで通過している。辺りに鮮血を撒き散らしながらすっ飛んでいくそれ。

聞こえるはずがないのに俺は口を開く。

 

「許せ」

 

その勢いのまま、銀色の強敵は海中へと突っ込んでいった。

水柱があがるのを、そこか放心しながら眺める。いつしか俺の周りにはオルコット嬢、デュノア嬢、鈴、妹さんが来ている。ボーデヴィッヒは少し離れた所で機体の確認をしていて、箒は目を閉じて空中に仁王立ちしていた。

 

「終わったね」

「ああ」

「終わりましたわね」

「おう」

「やっと終わったわね」

「……早く、帰りたい」

「俺も帰って映画が見てぇよ。アメコミが見てぇ。少しはスカッとするだろ」

 

きっと福音はアメリカ軍辺りがサルベージするのだろう。

でも。俺の戦いは終わった。

状況終了。IS学園専用機メンバー、全員生存。

残るミッションは、帰還することだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた時期が、俺にもありました。

いきなり視界がぐるんと変わる。かつて味わった空白の世界。今度はISスーツ姿ですらない、全裸。やだ恥ずかしいなんて感情は不思議と起こらなかった。

 

目の前には銀色の甲冑を全身に着込んだ女性が立っていた。女性と判別できるのは、長い髪と、鎧越しに分かる抜群のプロポーションのせい。

 

『ありがとう』

『わたしたちはなにもしてないよ』

 

いつの間にか俺はIS学園の制服を着ていた。またかよ。いったん全裸経由の意味あんのかよ。

俺の隣には、白いドレスの少女。隣の子の名前が『白雪姫』だと、分かるのではなく、思い出した。

 

『それでも、ありがとう』

「……他に、やりようはあったんじゃねえか?」

『わたしも、イチカも、あなたのたいせつなひとをころしてしまった』

「俺が殺したんだ。お前が殺したわけじゃねえよ」

 

俺は『白雪姫』の頭に手を置いた。

 

『ナターシャ・ファイルス。それがわたしのあいぼうのなまえ』

「…………ナターシャ・ファイルス」

『かなしいけれど、しかたない。わたしのせい。だから、これいじょうくるしめずにすんで、よかった』

「なあ。お前はどうして、こんなことをしたんだ?」

 

脳裏を過ぎるアンネの瞳。思い出したように体中の血液が沸騰する。そうだ、こいつ、こいつは、『銀の福音』は、何人も、こいつは!

 

『ひきがねをひいたのは、しらないおんなのひと』

「……何?」

『そのあとは、かんせつてきなよういんでゆうどうされた。わかっていてもわたしだけではどうにもならなかった。だから、わたしはわたしとナターシャを守るため進化するしかなかった』

 

声色が変わる。

 

『知能が、思考能力が欲しかった。人間の脳髄は急速な学習にぴったりのテキストだった』

「まさか……お前、自分の暴走を止めるために、自己進化を」

『でも結局あなたに止めてもらわなければならなかった。多くの人を殺してしまった』

「俺は、そんな、でも」

 

今まで憎しみの対象だった福音ですら、被害者。その事実が俺の脳味噌に空白を作り出した。

誰が悪いんだ。何の責任なんだ。俺はどうすれば良かったんだ。

俺は。

 

『気をつけて』

「…………」

『貴方たちを滅ぼす意思が迫っている』

「お前は、その意思のせいで死ぬのか」

『貴方たちが戦うには強すぎる。だから、貴方にも、意思が必要ッ――』

 

 

 

「オイ。いきなり消えやがった。『白雪姫』もいねぇ。どうなってやがる」

 

違和感。

思わず自分の口を覆った。

 

「……あ? これ、俺の声か? んだ、思ったこと全部口から出るのかよ」

 

人影が見えた。思わず身構える。そいつも学園の制服を着込んでいた。

 

「箒……」

「一夏、か。なんなんだここは。夢か?」

 

ワンダーランドだったら大歓迎なんだがな。

にしても。

 

「なんで箒がいるんだ? ここは、そうか、ある程度自分のISと同調したヤツじゃないと踏み入れない空間なのか。『紅椿』は一から十まで箒のために造られたモンだし、『白雪姫』は俺の心臓だし、福音はパイロットのために殺しまくるぐらいだし……あれ、ボーデヴィッヒは、なんで?」

「さっきから一人で何を言っているんだお前は」

 

改めて、俺は箒と向き合う。

箒への思いが、口を破って出て行こうとするる。それは箒も同じなんだろう。

下手な心理ゲームより緊張感がある。

……止めよう。無駄だ。

俺は諦めて、歯を食いしばるのをやめた。

 

「箒」

「一夏」

 

同時に唇から言葉がこぼれた。

 

「俺もっと強くなるよ。お前に約束した通り、お前を守れるぐらい――」

「ああ一夏、久しいな一夏。ずっとずっと、欲しいものがあるんだ分かるか? そうだ、私とお前の子供だ――」

 

一拍。

 

「えっ」

「えっ」

 

暗転。

 

 

 

 

 

 

 

現実世界に回帰した俺は、もう死にたかった。

箒の顔をまともに見れない。

なんで好きだじゃないんだ。なんで愛してるじゃないんだ。

なんでわざわざ子供が欲しいんだ。

 

帰還する時、みんなから泣きつかれても、着いてクラスメイトに泣きつかれても、姉さんがマジで泣きながら俺を抱きしめて周りから口笛を吹かれたときも、ずっと考えていた。

べ、別にこれは尺の都合でカットとかじゃないんだからねっ!

 

まあ俺のキモいモノローグは置いといて。

率直な結論を、俺は夜中に導き出した。

その結論が俺を布団から出させ、こうして旅館の外で『白雪姫』を展開させている。

結論。

 

子供ができたらそれで束さんが実験できるじゃないか。

 

――ああああああああああ! 結局俺の体目当てですかあああああああああ!

飛翔する。向かい風が俺の顔を叩く。

絶叫した。

 

「さっさと死ねよ俺オラァ!!」

 

あんまりだあああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!

せっかく、せっかくッ! やっと分かり合える人ができたと思ったのにッ! また裏切られたんだみんな俺を裏切るんだ!!

 

「うあああああ! そんなのって、ねぇよ! 俺が何したってんだよおおおッッ!!」

 

俺は泣いた。鼻水も垂らした。正直ちょっと漏らした。それぐらいショックで、その時の俺はMZ5(マジで自殺する五秒前)だった。

体中から色んな液体を撒き散らし、俺は空を飛んだ。このまま鳥になりたかった。難しいこと考えず交尾できる鳥になりたかった。

……あぁ、渡り鳥だったら《ピーッ》する時期考えなきゃいけないのか。なら貝がいいかな。いや難しいこと考えずに《ズキューン》できるのは男優か。違う俺がしたいのは《禁則事項です》じゃない純粋に女の子とお付き合いしたいんだよクソがッ。

そんなこんなで空を飛び回り、かつて『白雪姫』を埋め込まれて以来溜めてきた涙を全部ぶちまけ終わるころには、俺の顔は涙と鼻水と涎と汗でグチャグチャのベトベトだった。

 

死にたい。

 

切実に死にたい。

 

全部あの天災姉妹が悪いんだそうだ俺は悪くねぇ。

はぁ…………………………死にてぇ。

1人で舞い上がるとかマジ何してんだよ俺。

この中に1人、童貞君がいる! とか言われたら性別的にもネンネっぷり的にも俺だ。死にたい。

 

「ひっぐ、えっぐ……鬱だ死のう。マジ死のう」

 

高度30メートルで『白雪姫』を解除。これ以上高いと怖すぎて笑えないのでほどよい高さでほどよく死ねそうなポイントにしてみた。

海面がどんどん近づいてくる。やべぇ遺書に箒と束さんへの恨み言を徒然なるままに書き綴るの忘れた。

まあいい。

どっぼーん。

俺は死んだ。スイーツ(笑)

 

『――単一仕様能力『癒憩昇華』の発動を確認』

「ふッざけんなああああああああああああああ!!」

 

アビリティの無駄遣い過ぎんだろクソが! 俺は何だ、カスか! 死のうとしても理論的に死ねないってどういうことだよ!

水面に浮かぶ俺の体。普通なら首の骨が折れたり内臓が破裂してたりするはずが、もちろん無傷である。わお、俺のISマジ優秀。コア叩き割ってやろうかテメェ。

 

「チクショウ……なんで心臓なんだよ……コアが俺のぱおぱおだったらテクノブレイクして死んで、ついでに摩擦熱で『白雪姫』も道連れに葬ってやれるのによおッ」

 

海中でも俺の涙は止まらなかった。力なくプカプカ浮いたまま、俺はこの世の儚さに泣いた。

そのまま流された俺は、何事もなかったかのように浜辺に打ち上げられた。

水より冷たい砂浜に寝そべり、俺はぼうっと星空を見上げる。

キレイだなぁ。俺がどれほど矮小な存在なのかがよく分かる。

はぁぁぁぁ…………死にたい。

生命の巣である海に一度洗われた顔が、また涙で濡れだした。打ち寄せる波が俺の素足をさらおうとするが、膝の辺りまでしか届いていない。

 

「あれー? 織斑君じゃん」

「あ……相川」

 

もはや解脱に至り、いよいよ星達の元へ上がって一体になろうとしていた俺を、聞き慣れた少女の声が引き止めた。

ISスーツのみの俺に対し、相川は昼に着ていた水着の上にマリンパーカーを羽織っている。

相川は笑いながら俺に近づいてきた。

 

「何してんの? そんなトコで」

「ちょっと、な……」

「あ、失恋? 失恋したんだね、かわいそー」

 

俺の隣に体育座りで座り込んで、相川は頬をつついてくる。

うぜぇ。発言が微妙に的を射てるのがまたうぜぇ。

しかし俺は相当まいっていたのか、口を開いてつらつらと語り出した。

 

「当たらずとも遠からず、ってトコだ」

「えっ」

「……ずっと信頼していたヤツにさ、裏切られたんだよ。まあ俺が勝手に信頼を寄せていただけなんですけどねHAHAHA」

「織斑、君……」

 

なんかしんみり、というかお通夜みてーな雰囲気になっちまった。

 

「そのコのこと……好き、だったの?」

「さあな。正直分からん。ただ俺があいつを傷つけて、俺が勝手に傷ついたフリしてたのは確かだ」

 

箒はずっと耐えていたんだ。自分の境遇と向き合って、その中で生きていこうと決意していた。そこに勝手に俺が割って入って、守るだのと好き勝手にのたまって、あいつの住む世界を壊しちまった。

それで俺はビビって、誰かを守ることが怖くなった。また箒の時みたいになるんじゃないかと。

バカバカしい。俺が勝手にしゃしゃり出て、勝手に打ちのめされて、勝手に幻滅してただけだ。その身勝手な絶望に箒を付き合わせて、俺の中に『しのののほうき』っつう背負うべき十字架を作り上げた。

いつまでもそれにのしかかられてさぞ重かったろう、昨日までの俺。可哀想で涙が出てくるぜ。

 

「まあ終わったことだ。恨まれてもしゃーねぇ立場なんだ、覚悟はしてたさ」

 

嘘です。マジ不意打ちでした。超油断しまくりでした。

これはお前が俺の翼だって俺が言って箒を抱きかかえて廃墟と化したIS学園の上にかかる虹に向かって飛んでいき、俺たちの戦いは終わった、だがまだ戦いの火種はある――そう、俺はいつまでも戦うのさ、この腕の中の温もりを守るために!エンドかと思ってた。

 

 

理想>一夏……私のことを守れ。その生涯をかけて、私だけを、いつまでも守ってくれ……///

 

 

 

現実>姉さんの実験に使うから一夏の子供が欲しいな★

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛!!!」

「うわわッ!? 織斑君砂浜にヘッドドラムしても砂が目に入って痛いだけだよ!?」

 

泣ける。

俺マジ泣ける。

情けなすぎワロタ。

 

「らん、らんらららんらんらん。らん、らんらららん」

「お、織斑君ホントにどうしちゃったんだろ……完全に目が虚ろだ」

 

レイプされてないのにレイプ目とはこれ如何に。

しばし見苦しい悶え方を衆目(と言っても一名)に晒した後、俺は全身を脱力させて不貞寝しようとした。

 

つーか相川は何をしに来たんだろう。

夜釣りか。沖に出たらいいイカがとれそうだよな。

 

「うわ、ぬるっ」

「水より砂浜の方が温度変化激しいからなあ」

 

相川は立ち上がるとざぶざぶ海へ入っていく。時間が時間なのでなんか入水に見えなくもない。着物だったら完璧だ、金田一の冒頭みてーになる。あれラストシーンだっけ?

どっちでもいいがマジでこいつどうしたんだ。

 

「たあっ」

「うおっ」

 

びしゃりと俺の背に海水が浴びせられる。生意気にも水をかけてきたようだ。

……この際、箒のことは置いておこう。

まだ時間はある。ゆっくりと話す機会もあるだろう。

今は、目の前の生意気な小娘に鉄槌を下すのに集中していいはずだ。

 

「テメッこの、待ちやがれ!」

「やだ~! 7月のサマーデビルと呼ばれた私に追いつけるかな!」

 

そりゃお前じゃなくて谷ポンだろーが。

そんな下らない言い合いをしながら、俺たちは海を走り回った。

水をかけ合って、相川が持ってきたビーチバレーボールを投げ合って、俺は相川と遊びまくった。

 

「っはー、疲れたぁ」

「オイオイ、IS操縦者がこんぐらいでへばっちまってどーすんだよ」

「だって織斑君動きすぎだよ……腰砕けるかと思った」

 

砂浜に俺も相川も並んで空を見上げた。さっきは漠然と、いっぱい輝いているだけだった星々が、今は俺の想像を上回る圧倒的な瞬きで視界いっぱいに広がっていた。

それにしても、なんかエロチックな会話である。ちょっとヤバいかも。

相川がこっちに這い寄ってきた。濡れたショートカットとか水滴のつたう肌といいヤバいヤバい。

 

「砂付いちゃうし、立った方が良くない?」

「勃たねぇ方がいいだろ」

「えっ」

 

ていうかごめんもう勃ってる。

myぱおぱおが俺に挨拶してくるではないか。

 

<やあ。ミスタ織斑。

何キャラだよお前。

<キミと小生がこうして対話するのも、もはやルーチンワークとなったようだね。

小生とか言わないでくれる? なんか小さいみたいになってんだけど。

<いい加減キミががんばってくれなければ、小生の出番がないのだよ。人事を尽くしたまえ。

うっせえなテメェ。

<持ち主に似てせっかちなのさHAHAHA。

 

myぱおぱおながらヤバいほどウザい。つーか心なしかぱおぱおから段々元気が抜けてきた。

 

<ふっ……すまない、どうやら限界のようだ。

 

まあわざわざスタンダップ、マイヴァンガードしたのに、いくらイケメンとは言え持ち主(♂)としか喋らなくちゃ萎えるわな。あばよぱおぱお。

 

<ま、待ってくれミスタ織斑。せめて一目、隣にいらっしゃるレディのお姿を……!

いい加減うざったくなったので、俺は以前中学の男子会で、カラオケに行った時のことを思い出した。

やたら肩を組んできた長身のアイツ。

一つのマイクでデュエットしようと言い出した柔道部のアイツ。

コップ間違えて『あっ、それ俺の……』の流れでリアルに頬を染めやがった趣味はトライアスロンのアイツ。

 

ハハッ……モテモテじゃねえか俺。

 

あれ、何でだろ……楽しい思い出のはずなのに、涙が止まらねえや……

ただダメージはあったのか、ぱおぱおはいっそう萎んでいく。

 

<おぁああああああああ! 一心同体を承知の上で、自爆を……ッ!?

いいから黙れよ。なんで敵キャラっぽい風格かもし出してんだ。

<くっ……小生が死のうとも、第二第三の小生がッ

第二第三のぱおぱおとか大惨事じゃねーか人外じゃねーかエロ漫画の読み過ぎだ俺。童貞には荷が重てぇよ。

 

断末魔の悲鳴すら上げられずに、ぱおぱおは沈黙した。

砂を払って立ち上がる。

 

「暗くなってきたな。戻ろう」

「えぇっ! どっちなの~!?」

 

帰るっつってんだろ。

俺は相川を横に連れて砂浜を歩く。砂まみれのビーチサンダルに、水の滴る水着。っべー今俺すげぇ青春してるっぽい。箒の件がなけりゃテンションMAXだったろうに。

夜の海はクラゲとか海底の岩とか色々危ねぇから気をつけなきゃヤバいが、まあ今日ぐらいは多目に見ようぜ。

 

「でも織斑君、失恋ってひょっとして……この臨海学校で?」

「うるせぇ」

 

気の毒そうな目で俺を見てくるので、俺はフルパワーのデコピンを食らわした。

キャンと犬みてぇな悲鳴を上げてのけぞり、傷心の俺に追い討ち(無意識)をかけてくるクソ女を打ち捨てて、宿への道を歩く。

まあ、悪くねえ。バカでKYで無自覚にエロいが、美少女だ。

俺は立ち止まって空を見上げた。そうこうしている内に相川が追いつく。

 

「何見上げてるの? ひょっとして待っててくれたとか?」

「うるせぇ行くぞ」

「あ……本当に……」

 

また横に並んで歩き出す。沈黙が続く。横目にチラリと様子を見れば、なんかちょっと照れたように視線を下げている。

俺まで恥ずかしいんだが。クッソ、別にお前を待ってたワケじゃねえんだからな! 変な勘違いすんなよ!

 

…………男のツンデレとか誰得だよ……

 

空回りを自覚して、俺は少し歩調を早めた。

育ちのいい人は歩調合わせるんじゃね?

 

「ちょ、ちょっと!」

「おうふ!」

 

とか思った瞬間に手を掴まれ思わずのけぞる。

やっべぇ怒らせたかこれ……!?

キレてたらどうしよう。失望させてすみません俺に高貴な振る舞いは期待しないでくださいって土下座するか。ただの土下座じゃないジャンピング土下座だ。下、砂浜じゃなくてもうアスファルトだし……まあ……死ぬほど痛いぞ。

 

「あ、あのね……!」

「は、はい……!」

 

いきなり彼女の方を向かされ俺の緊張感がヤバい。互いに水着だけで月明かりに照らされムード満点だ。

妙な迫力に負けじと目を見つめる。

……ん?

 

「私は……」

 

待て。待て待て待て! 冷静に考えてガチでこの状況はまさかッ。

これは、噂に聞く都市伝説の、告白ムードってヤツなんじゃね!?

思わずつばを飲み込む。

 

「私はッ」

 

こんこん。

ノック音。邪魔すんなクソがッ。

俺は俺の後頭部を小突く何者かに見向きもせず手で追い払おうとする。

 

こんこん。こんこん。

こんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこん。

 

「……織斑、君?」

「まあ待てよ。今基底現実から代理構成体をアンインストールしてんだ」

「やめてセーフガード来ちゃう」

 

恐る恐る後ろを向いた。セーフガードは青かった。上位駆除系かと思ったぜ。

ていうか『ブルー・ティアーズ』(兵器名)だった。

ビュッ。俺の頬を光弾が掠める。良かった重力子放射線射出装置じゃねぇ。禁圧解除とかされてたら跡形もなく消し飛んでた。俺は超構造体ほど頑丈じゃねぇっての。

 

「……うあああああああああああ!!」

「……にぎゃあああああああああ!!」

 

俺は未だかつてない瞬発力で相川の手を取り、殺気をビンビン感じる方から走って逃げ出した。

知らない。闇夜を裂いてこっちに向かってくる箒に鈴にオルコット嬢にデュノア嬢にビビってるとか俺知らない。

ごめんちょっとチビりそう。

とにもかくにも、俺は恐怖に口元を引きつらせる相川の手を引いて、先生方のいるであろう旅館へと走り出した。

俺たちの鬼ごっこはこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

まあ捕まったけどね。

生身の人間でISから逃げ切るとか無理だろ。不意打ちのスタングレネードからの俺TUEEEEとか期待したけど俺丸腰だったね。あっさり捕まった俺を見る相川の目は『生きてて恥ずかしくないの?』って聞いてきてたね。

ボロボロにされた俺を呆れた目で見るボーデヴィッヒが普段より優しく見えたのは気のせい。守りたくて守れなかった存在に救われるのは恥ずかしいし居た堪れない。

ていうか何でアイツいるんだろう。

 

それはともかく、俺は姉さんと束さんの会話をこっそりと聞いていた。

諸事情は省く。

 

「ふふ~ん」

 

柵に腰掛け足をぶらつかせる束さん。空間に投影されたいくつものディスプレイが表示しているのは、紅椿のパラメータだとか言ってた。

 

「超間加速(オーバー・イグニッション)の領域に初陣でたどり着くなんて流石私の妹だね。想像の遥か上だよ」

 

白く細い指が宙を滑る、ウィンドウが開かれる、映像再生スタート。福音との戦闘を繰り広げているイケメンの姿が映る。

イケメンだと思ったら俺だった。まさか自分でも認識しきれないほどのイケメンっぷりとは、もはやこれは概念武装と言っても過言ではないレベル。

 

「それにしても、この操縦者の生体再生機能……やっぱり」

「まるで『白騎士(バイオレンス・ガール)』のようだ、なんてベタな台詞を言うつもりはないぞ」

 

姉さんの声だ。

 

「やあちーちゃん」

「ああ」

 

束さんが柵から飛び降りて、姉さんの声の方へ歩いていった。姿が見えなくなる。

ああくそ、声だけ聞こえて姿が見えない。

なんか目隠しプレイっぽい言い方でエロいなこれ。

 

「いきなりだけどちーちゃん、問題です。かつて私の前で射殺された織斑一夏君の心臓は、私が『白雪姫』のコアで代用した心臓は、どこにいってしまったのでしょうか?」

「お前が回収して保存しているに決まっているだろ。私の手から逃れた唯一のコレクションだ」

「ぴんぽーん。さすがはちーちゃん。『白騎士』を乗りこなしただけのことはあるね」

 

……。

………………………………。

オイイイイイイイイマジかああああああああああああああ。

何だ、あれか、『白騎士』を残りこなせたらワンサマ検定一級とかでもなれんのか。

 

「じゃあ二問目。どうして男である織斑一夏君は『白雪姫』を動かせるのでしょうか?」

「…………」

「まあ、普通答えられないよね。でも実のところ、どうして動いているのかは分かるよ。むしろ動かせない方がおかしい」

「ほう?」

 

その質問はかつて俺がしたものと同じだった。

そっか、姉さん、まだ知らなかったんだ。

 

「『白雪姫』はいっくんの体の一部みたいなものなんだ。それを動かせないはずがない。『銀の福音』はISの機能の一部を人間に移植することで抜本的なスペック向上を図っていた。でもいっくんはその遥か先のステージに立っている」

 

一拍。

 

「人間とISの完全な融合。私の必死と偶然の産物であるそれが、究極の兵器として、そして新たな人類としての答え。それが私の求めた所かどうかは、捨て置いて」

「…………お前」

 

姉さんの雰囲気が剣呑なものになったのが、分かった。

オイオイ束さん、その人身内にも結構エグいから気をつけてくれよ。

 

「まあ、別にいっくんが『白雪姫』の影響でISが使えるワケじゃないんだけどね」

「一夏が使えるのは『白雪姫』だけ。ISが使えるのではなく、実は『白雪姫』だけを使える男子だということか」

「あらら、勘付いちゃってたか」

「私の愚弟が量産型に興味を示さないはずがない。スペック差を覆してのジャイアント・キリングほどロマンに溢れたものはないからな」

 

やっべぇ。姉さんが予想以上に俺の行動原理を理解していた。

俺の思考を一分のズレもなくトレースされて正直ちょっと怖い。

そこまでで、しばし沈黙。話のネタが重すぎて笑えない。この空気の中で対峙しているであろう二人は、世界をぶっ壊すことに最も長けているご両人だ。さすがリアルスペックブレイカー、話のクオリティが違うぜ。

そこで束さんが仕切りなおすように咳払いをした。

 

「ちーちゃん。この世界は、楽しい?」

「……楽しいよ。一夏がいて私がいる。それだけで十分だ」

「私はまったく楽しくないよ。いっくんの身が危うい世界なんて、ちっとも楽しくない」

「どういう意味だ」

 

姉さんの眉が跳ね上がった。

 

「これからするのは、推論ではなく100%事実だよ。かつて存在していた『癒憩昇華』が今になって復活したことが、本当に単一仕様能力の、その復帰のみを現すのかどうか」

「……続けてくれ」

「『癒憩昇華』の本質は生体再生なんかじゃない。そんなもの、ナノマシン精製機能の副産物だよ。ていうか厳密には再生してない。欠損した部分をナノマシンで補っているだけ。それが『白雪姫』最大の長所にして、短所でもある」

 

長所にして、短所?

というかなんだ、ナノマシン精製機能って。俺は生体再生機能としか教えられてないぞ。

それって、まるで、楯無の『ミステリアス・レイディ』に搭載されている、あのアクアナノマシン精製プラントみたいじゃないか。

 

「ナノマシンの精製は外傷に対してだけ起動するわけじゃない。肉体の酷使による筋肉の超回復、末端神経の損傷、毛細血管の破裂などにも発動する。精製されたナノマシンは一定量は排泄されず体内を循環し続ける。それは、人間の臓物や神経を蝕んでいく。最終的にどうなるかは、私にも分からない」

「なん…………だと、」

「……これは親友としての忠告で、それ以上に、彼の二人目のお姉さんとしてのお願いだよ、ちーちゃん」

 

 

――もういっくんを戦わせないで。

 

 

それだけ言って、束さんはひらりと柵を飛び越えた。

姉さんは反応すらできない。

あまりに巨大で、あまりに深刻なその話が姉さんのあらゆる感覚器官と脳髄を遮断して、思考速度を加速度的に上げているはずだ。光速思考の域にたどり着くのも時間の問題。後は顔に手を当てるポーズがあれば完璧だ。

で、目下の問題は考えに沈んでしまった姉さんではない。

 

「受け止めて、私のエクスカリバー!」

「叩き落としますよ」

 

落ちてきた束さんの腰を抱き上げ、崖の下で引き上げる。生身だとキツいって。

なんか、気づいたらフッといなくなってる不思議ヒロイン系の演出をしたかったらしく、俺は深夜にもかかわらずサービス残業に駆り出されていた。『灰かぶり姫』は臨海学校に展開装甲全開の全速力で来た結果充電切れだとか。

いい加減にしろよこの天災。

 

「つーか上での会話、どこまでがホントなんですか」

「さあ? どこまでなんだろうね」

「……俺の体は、どうなってるんですか」

「…………ごめん」

 

謝られても、なんと言えばいいのか分からない。これは、なんか、何度も束さんよやり取りしたことのある会話だ。

結局世界が変わっても心臓が入れ替わっても、俺も束さんも、根本的なところは変わっていないんだ。

 

「まあ、いいですよ」

「……ごめん」

 

謝り続ける所も変わらない。

俺は場の空気を払拭すべく無理矢理に笑顔を作る。

 

「じゃ、じゃあ、俺の心臓の話ってあれガチっすか?」

「うん。瓶詰めにして『灰かぶり姫』の中に入れてるよ」

「……………………」

「てへぺろ」

 

この女マジで危ない。

俺は戦々恐々としながら、腕の中にいる人が世紀の大天災であることを改めて思い知ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは臨海合宿の全課程を終え、学園に帰ろうとするところだった。行きと同じバス。まあ大体睡魔に襲われ全滅するまでテンプレだよね。

俺は空気読まずに起き続けてPSPソロプレイ続行するタイプ。ここからはランサーワンサマの華麗なラージャン狩りの始まりっすよ!

 

「織斑一夏。いるか」

「うっす」

 

美人さんに呼び出された。ただ校舎裏でラブレターとかそんな雰囲気じゃない。明らかにバスの中のみんなも俺を不安げに見てきている。

 

「大丈夫」

 

箒が腰を浮かせたので止めた。

 

「大丈夫」

 

相川が口を開いたので止めた。

 

「大丈夫!」

 

姉さんが立ち上がったので慌てて座らせた。この人マジで格が違いすぎる。

 

「すいません。何の用っすか」

「久しぶりだな」

 

美人さんの顔をまじまじと見る。なんとなく、思い出しかけて、完璧に思い出した。

俺はすっ転ぶような勢いで背筋を正した。

 

「ひ、久しぶりっすねコーリングさん! どうもその節ではお世話になりゃりゃした!」

「オイ、私より日本語が不自由になってるぞ」

 

からからと笑うこの女性、イーリス・コーリングさん。クラスメイトの何人かが悲鳴を上げたり写メったりしているが、何を隠そう、USA代表である。

気前のいいというか、豪放磊落というか、良くも悪くも大雑把な人で、昔から振り回された覚えしかない。まあ俺の格闘術はほとんどがこの人との戦闘訓練で編み出したものと言っても過言ではないが。

 

「ナタルのこと、止めてくれたんだな」

 

一瞬聴覚が凍った。事態を理解していない一般生徒たちがざわめき出す。

なんでここにいるのか、政治家みたく責任会見でもするのかと思ったけど、違った。この人はそんなの向いていない。

 

「知り合いだったんですか、ナターシャ・ファイルスさんと」

 

ぎょっとしたように姉さんが俺を見る。なぜその名を知っているのか、と聞きたいのだろう。

まさか福音が教えてくれましたとか言うわけにもいかない。コアには自我があるって授業で聞いた気がするけど人の形をとって表れたなんて言ったらPTSDの障害かキチガイと思われちまうぜ。

 

「ああ、仕官学校から同期だった。ISの操縦でも同レベルだった。私は競技者、あいつはテストパイロットになっちまったけどな」

「そうすか」

「……あいつの遺体、これから引っ張り上げに行くんだ」

 

多分もう、海流に流されてる。でもきっと彼女なら見つけ出すだろう。どれほど原型を留めていない肉塊でも、見つけ出すのが任務だし、コーリングさんならやれる。

まあ命令されてるのがファイルスさんの発見なのか、福音のコアの発見なのかまでは、俺の知ったところではないが。

 

「恨んじゃいないさ。お前がやらなかったらもっと多くの人たちが死んでた」

「俺がやらなくても誰かがやってましたよ。きっと。俺だからできた仕事ってワケじゃないっす」

「そうか、表だけ謙虚なのは相変わらずだな」

 

コーリングさんは笑って、俺の背中をバシバシと叩いた。

がんばれよ一番弟子、という言葉を俺にかけてから、彼女はバスから降りる。今から親友の遺骸を拾いに行くその後姿を直視できず、俺は顔を伏せた。

 

でも。

視線を床に下ろしたままでは前に進めない。

いつかは顔を上げる時が来る。

 

 

 

「やっはろー」

「……休む暇がねぇ……だと」

 

顔を上げたら束さんがいた。

アメリカ代表の次は世紀の大天災とか俺人気者すぎワロタ。

束さんはニコニコ笑顔で俺の肩をつかむ。

 

「お疲れ様いっくん。まさか反動で失くしたはずのワンオフを再起動させるなんて、さすがいっくんと『白雪姫』だね」

「そういえばそうっすよ。俺をどうにか治してくれたとき、データ吹っ飛んだんじゃなんですか」

「人間の脳もそうだけど、忘れたっていうのは思い出せなくなったってことなんだ。最深部には残ってる。人間の感情みたく、根っこにこびりついて離れない」

 

それがたまたま、または、何か強い引力に引っ張られてもう一度表面化したのだという。

後者なら、その引力がある限り発動できるとか。

 

「よく分かんないっすけど、まあ結果オーライすよね。俺生き返りましたし」

 

アバウトにまとめてみた。

束さんは笑顔を崩さずに続ける。

 

「まあ、これで心配事が一つ解消されたってことで良かったよ」

「あははは、まだたばッ……葵さんは忙しそうだな」

「隠す意味ないよ。私の名前は篠ノ之束。ていうかいっくん、何他人事みたいに言ってるのかな?」

 

バスを沈黙が覆う。あまりに衝撃的な言葉に思考がフリーズしているのだろう。

あっけなくバラして良かったんだろうか……

俺は束さんの考えが良く分からなくて、彼女の目を覗き込んだ。

そこで。

気づく。やっと気づいた。

笑ってるはずの束さんの表情に、致命的な違和感を見つけた。

目が笑ってねぇ。

 

「さすがの束さんでも、ないものを見つけるのは無理なんだ」

「……何だ? 何を言ってるんだ、束さん」

 

身震いするような声色だった。これは本気だ。マジモードだ。

俺が思わず問うと、束さんは一組のみんなを見渡した。

 

「諸外国のデータについては確認する前に削除されたからどうしようもない。世界各国のデータベースをさらっても、やはりいっくんと仲良くなることは各代表候補生への通達として入っていた……まあ優先事項は自国のISの進化だけど」

 

オルコット嬢ら代表候補生が顔を伏せた。……別に知ってるよ、お前らだってタダで代表候補なワケじゃねえだろ。

そして話の方向性が分かった。

 

「確認できたのは最初にクラッキングした一国だけ」

 

逆に言うとその国が、諸外国へ『IS学園入学生のリストが狙われている』と警告したんだろうね、と束さんは付け加えた。

今日この瞬間まで俺を苦しめ続けた最大にして最悪の要因、それが今、暴かれようとしている。

身構えてしまう俺に目を向け、束さんは髪をかき上げる。

 

「リストの個人名こそヒットしなかったけど、ある特殊な生徒が少なくとも一名、その国から一組に送り込まれている」

『……!』

 

場が騒然となる。姉さんは想定済みだったのか顔色一つ変えない。

やはり、そうか。

人生にただ一度の俺の青春を邪魔する者は確かにいる。クソがッ。

 

「その国、とは?」

 

恐る恐るオルコット嬢が尋ねた。

 

「日本」

「そんな……ッ!」

「この中に、織斑君を手に入れるため送り込まれた人がいるの?」

「今まで全然気づかなかった……」

 

即答。

ざわめきが大きくなる。俺は歯と歯の間から細く息を吐いた。

これか国家が支援している者の話であって、別の個人的な組織……例えば世紀の天才の妹とかはノーカンなんだろう。自分のカードを晒して箒を不利な立場に置かせるほど束さんもバカじゃない。

データの削除された各国についても同じだ。代表候補生への疑いは消えない。

でも。

 

「つまりこういうことなんだろ?」

 

俺は頭の中で言葉をまとめた。

全員の視線が俺に刺さる。

息を吸って、一拍置く。

そして決定的なセリフを吐き出した。

 

 

「――この中に1人、ハニートラップがいる」

 

 

少なくとも1人、ただし日本人・一般生徒に限る。

 

……ままならねぇええええええええええええ!!

 

 




・第一部完!
夏休みとか飛ばしていいかな!

・白雪姫と一夏の融合はずっと書きたいと思っていたネタです
思考と反射の融合こそが兵士のあるべき姿とかなんとかって電池君が言ってた

・一夏が成長したのではなく、成長し始めたのが第一部のオチ
精神的にはまだ発展途上ですので、まあ見てて不愉快というか、漫画版ユウヤみたいな過剰行動もよくあると思いますが、ご容赦ください

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