魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

99 / 101
今回で、本編更新は最後となります。
まだあと1話、残っておりますが・・・これまでお付き合い頂きまして誠にありがとうございます。
最後までお付き合い頂ければ、幸いです。
物語が展開すればする程に、続きが書けてしまいそうになってキリがありませんが・・・今話で、区切りとさせて頂きます。
この後は、皆様の心と想像の中で、続きをご覧に頂ければと思います。
では、どうぞ。



最後だからと言うわけではありませんが、今話内では原作の設定を採り入れつつ、インフィニ○ト・ストラトスとガンダムダブ○オーの設定が絡む可能性があります。
どのような形かは・・・今話をご確認くださいませ。


王室日記⑤「女王アリア即位20周年記念式典・後編」

Side アリア

 

王室御座船「ウェスペルタティア号」、またの名を・・・「田中Ⅲ世(テールツォ)」。

言ってしまえば、豪華客船「田中さん」。

私達と国内外のお客様が乗り込んだのは、そう言う船です。

 

 

旧世界連合と我が国の工部省が協力して建造した船で、まさに新旧両世界の技術の粋を集めた船です。

ハカセさんによって人工知能を備えつけられ、これが船のライフライン管理や警備用ロボット制御、運航などを全て自動で行います。

そしてそれを行うのが、田中さんの頭脳です。

厳密には頭脳じゃありませんけど・・・でも、私達の家族が管理している船です。

 

 

「完成したばかりの船で恐縮ではありますが、こうして国内外の友人の皆様をお招きできたことを、とても嬉しく思います。どうか今宵は普段の激務を忘れ、心行くまでお楽しみください」

 

 

全長400メートル、総トン数は実に25万トン、しかも並の軍艦よりも強い武装を備えています。

何しろ、最新鋭の精霊炉を6基も備えているモンスター船ですからね、その気になればトラ○ザムもできそうな豪華客船です。

その他、レストラン、バー、プール、シアター、フィットネスクラブなどを備えています。

 

 

私達がいるのは、その豪華客船「ウェスペルタティア号」の大型レストラン、立食形式(ビュッフェ)での夕食会の会場です。

白を基調とした大広間は、煌びやかなシャンデリアと豪華な食事で彩られています。

 

 

「それでは、まずは我が国自慢の料理の数々を、お楽しみくださいませ」

 

 

乾杯、とグラスを掲げると、各所で同じようにグラスが掲げられます。

ここに招待されているのは、国内外の有力者300名前後。

極端な話をすれば、ここにいる300人で魔法世界人12億の運命を決めることができます。

 

 

だからこそ、こうして私の即位20周年式典にも参加してきているのでしょう。

午後に私が闘技場で「オスティア・フォステース」の試合や「奇跡の箱(パンドラ)」のサーカスを観覧している間にも、クルトおじ様は各国首脳と実務者協議を行っていたのですから。

そしてその結果も、私はすでに報告を受けています。

 

 

「いやぁ、相変わらずお美しくあらせられますな、女王陛下」

「まぁ、お上手ですこと」

「いえいえ、本音ですとも・・・おっと、ご夫君の前で失礼を」

「・・・いえ」

 

 

次々と私にお世辞をかけて、私の前に傅いて手の甲にキスをしてくる人達。

私のもう片方の手はフェイトの手を取っているので、自然、片方の手を取って口付ける形になります。

黒の正装を来た「紳士」の方々は、私の気を引こうと必死な様子ですね。

 

 

まぁ、慣れましたけど。

タチが悪いのは、私の愛人になりたいとか言ってきますから。

そう言う方は、2度と私の前には現れられなくなりますけどね・・・。

 

 

「お久しぶりです、女王陛下」

「はい、そ・・・・・・あら、アルトゥーナ執政官、ご無沙汰しております」

 

 

途中で、1人の男性とも挨拶を交わします。

その人に対しては、私は他の方よりも優しい心地で手を差し出すことができました。

そして手の甲に口付けを受ける一瞬、私はその人と少しだけ切ない視線の交差を行うのでした・・・。

 

 

 

 

 

Side ミッチェル・アルトゥーナ(メガロメセンブリア執政官)

 

・・・僕だけが長々と挨拶を続けることはできない、そんなことはわかってる。

だけど、少しだけ・・・気持ちが通じ合ったような気がするのは、きっと僕が幼馴染だから。

それ以上では、けして無い。

 

 

それは、ここ10年・・・あの白髪の夫君との生活を伝え聞く度に感じていたこと。

でも僕はそれでも、今でも・・・。

 

 

「いやぁ、すげーすげー」

「あ・・・リカードさん」

 

 

たくさんの人に囲まれるアリアさんを遠目に見ていると―――本当に、遠い人になっちゃったな―――リカードさんが、お酒のグラスを片手にやってきた。

・・・何が凄いんだろう?

 

 

「いや、さっきこのグラス貰った姉ちゃんがやけに別嬪さんでよ」

「はぁ・・・」

「しかもお前、それがロボットだって言うからマジで驚いたぜ・・・そういや、あの給仕の姉ちゃん、女王の所の茶々丸とか言う女官長に似てたな、うん」

 

 

リカードさんの言葉に、僕は周りを見てみる。

すると確かに、各所に見える侍女や給仕はほとんどがロボットで、アリアさんの所の女官長に確かにそっくり・・・少し幼い感じだけど、妹みたいな物かな?

 

 

そしてその誰もが、普通の人間と何も変わらない対応をしている。

こう言うのを見ると、ウェスペルタティアの技術力は本当に凄いや。

でもこんなにロボットが普及してなお、ウェスペルタティア人の完全雇用を維持してるって凄いな。

メガロメセンブリアなんて、未だに失業率は20%近いのに・・・。

 

 

「羨ましいねぇ」

 

 

同じ事を考えていたのか、リカードさんが白髪の増えた頭をガリガリと掻いていた。

・・・でも、これでもこの10年間でメガロメセンブリアも持ち直してきた。

経済成長率も20年ぶりにプラスに転じたし、新連邦に加盟して国際貿易網にも復帰できた。

貿易赤字も少しずつ減ってるし、ウェスペルタティアとメガロメセンブリアの政府系投資ファンドが協力して、3億ドラクマ規模の共同投資ファンドを設立できたし・・・。

 

 

艦隊の保持はまだできないけど、メルディアナ側の要望もあってゲート修復の事前協議も始まった。

少しずつだけど、各国との交渉も進んでる。

1歩ずつ、小さな歩みだけど・・・。

 

 

「・・・わっ?」

「きゃっ・・・」

 

 

その時、何か小さな物が僕の足にぶつかった。

小さな声も聞こえて、見てみると・・・そこに昔のアリアさんがいた。

 

 

・・・そう思うくらい、アリアさんにそっくりな女の子がいた。

金色の髪に赤い瞳の女の子は、僕にぺこりと頭を下げるとピュ~っと走り去って行った。

少し離れた位置にいた髪の長い侍女の所に行って・・・えと、確か調・・・さん、だっけな。

 

 

「あの子は・・・?」

「ありゃあ、ベアトリクス王女だろ。王国の・・・確か2番目の王女殿下」

「ベアトリクス・・・様、か」

 

 

そっか、アリアさんの娘さんか・・・。

本当に、アリアさんに似ていたな。

僕がそんなことを考えていると、不意に夕食会の会場が薄暗くなった。

な・・・何?

 

 

『お楽しみの所を申し訳ありません、皆様・・・私、ウェスペルタティア王国宰相クルト・ゲーデルと申します』

 

 

ぱっ・・・一部だけ明るくなって、王国宰相の姿が見えるようになる。

そして天井から・・・四方に映像を映すスクリーンが設置された大きな機械が降りて来る。

・・・シアターでも、始まるのかな・・・?

 

 

『これより・・・我が国の新たな事業を、夕食の席の余興に発表させて頂きたいと思います』

 

 

新たな・・・事業?

何だろう、スケールが大きそうな話のような気がするのだけど・・・。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

こうした国際親善のための集まりは、もうそれだけでホスト国の国力を招待客に教えることになります。

なので、こうした場で経済レセプションを行うのも大切なパフォーマンスの1つです。

特に、ファリア殿下の足場固めをしようとされているアリア様のためにも。

まずが午後の「イヴィオン」会合での決定を周知、軽いジャブですね。

 

 

今回の会合で、「イヴィオン」加盟30カ国は個々の金融政策機関を統合してオスティアへの「イヴィオン中央銀行」設置が合意されたこと、企業や個人の課税逃れを多国間で取り締まる「税務行政執行共助条約」が発効されたこと、龍山連合の希少金属鉱山でランタンやセリウムなどを年間6000トン生産する共同事業が発足したこと・・・等々ですね。

そして・・・本番、これは度肝を抜くことになるでしょう。

 

 

「そして我が国の次なる目標は・・・・・・ずばり、宇宙開発でございます!」

 

 

私の言葉に、会場の人々が互いに囁き合ったり、にわかにザワめきます。

私は眼鏡を押し上げつつ、片手を挙げてザワめきを静まるのを待ちます。

まぁ、元々魔法世界には「宇宙空間」と言う概念はありませんからね、驚くのは無理もありません。

私とて、旧世界連合経由で学ぶまでは碌に気にしたことがありませんでしたから。

 

 

しかし理論上、すでに我が国の精霊炉空母などは成層圏での活動が可能です。

と言うか、この豪華客船でも行けないことはありませんよ。

いろいろな理由で酷い目に合うでしょうけど。

 

 

「我が国はこれより、新たなフロンティアとして魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の外部世界を目指し・・・引き続き魔法世界において主導的な役割を担うことになるでしょう」

 

 

まぁ、まだまだ構想段階で、私が生きている間には形にならないでしょうね。

とはいえ超長期的プランとしては悪くありません、魔導技術や精霊炉を活用すれば十分に可能です。

まだ机上の空論の枠を出ませんが・・・魔法世界(わくせい)の静止軌道の向こうまで「軌道エレベーター」を建造し(総事業費200億ドラクマ)、宇宙への玄関口とします。

 

 

同時に宇宙空間での活動のための専用船(1隻2000万ドラクマ)、及び宇宙空間での活動を可能とする「新世代型機竜(第6世代機竜)」の開発・・・試作品はすでに完成しております。

魔法世界の月である「フォボス」と「ダイモス」に月面基地を作り(王国領化した上で)、さらなる外宇宙への進出を目指します。

宇宙空間に無数に存在する資源を地上にもたらし、さらに人類のフロンティアを拡大する。

 

 

「我々魔法世界人の可能性はまさに無限大、統一された魔法世界(ムンドゥス・マギクス)連邦市民1人1人が協力し合えば、できないことなど何もございません」

 

 

心にも無い事を言いつつ、私は計画の概要を説明します。

壮大で、人の心を掴む、そんな夢想の話を。

そして成功すれば、ウェスペルタティアが宇宙(ソラ)から他の諸国を威圧するであろう計画の話を。

 

 

そしてこの計画は、第6世代機竜の名を取って・・・。

こう、呼ぶことに致します。

 

 

「その名も、『無限の(プロジェクト・)成層圏計画(インフィニット・ストラトス)』!!」

 

 

パパッ・・・とライトが集まり、照らされるのは・・・白銀に輝く新型機竜。

おぉ・・・とお歴々がどよめく中、私はにこやかに説明を続けます。

100年か200年かはわかりませんが、魔法世界人は宇宙へと生存圏を広めていることでしょう。

そしてそこに、ウェスペルタティア王国が君臨する。

私は、その礎となるのです・・・。

 

 

・・・まぁ、その最初の1歩として、ファリア殿下には早くご婚約して頂かないと。

どなたか、気に入って頂ける美少女・美女がおられれば良いのですが。

あ、アリア様には内緒ですよ?

 

 

 

 

 

Side ファリア

 

夕食会の後は、舞踏会が始まる。

舞踏会のために用意された大きな部屋は、円形の壁で覆われているんだけど・・・それは外の景色が見えるようになっていて、月の光に照らされるオスティアの様子が見える。

 

 

豪華客船での、「空の舞踏会」。

こう言うことができるのは、暦によるとウェスペルタティアだけらしいけど。

ただ僕にとっては産まれた時からこれが当たり前で、外国の方の感覚はちょっとわからない。

クルトおじさんの言う「宇宙開発」と言うのも、良くはわからないけど・・・。

 

 

「ははは・・・あ、これはこれは。殿下、こちらはカーナヴォン伯爵、王国西部において農場経営に才腕を発揮しておられる御方で、王室とも遠戚関係にあり・・・」

「は、はぁ・・・」

「そしてこちらがカーナヴォン伯爵のご令嬢でございます。まだ10歳と言う若さながら気立てが良いと評判で・・・」

「・・・は、はぁ」

 

 

何故か、舞踏会が始まってから人に囲まれている。

特に、娘さんがいる上流階級の人達が多いみたいなのだけれど・・・。

と言うか、どうしてクルトおじさんが1人1人の女の子について細かく説明してくれるんだろう。

 

 

「・・・ああ、これはこれはキャリスブルック侯爵。殿下、ご紹介致します」

「は、はい・・・」

「そしてこちらがキャリスブルック侯爵のご令嬢、領民に対する慈善活動を精力的に行っておられまして、休日には・・・」

「・・・そ、それは素晴らしいですね」

 

 

ニコニコと笑いながら、貴族の人とか娘さんとか(比率的に、1対9くらい?)を紹介してくれる。

一応、僕の紹介と言うか、顔見せみたいなのも兼ねてるらしいのだけど。

う、うーん・・・?

 

 

クルトおじさんが僕に紹介してくれる女の子は、皆、綺麗だと思う。

母様や妹達には及ばないかもしれないけど、たぶん、美人・・・だと思う。

女の子の美醜は、僕にはまだ良く分からない。

髪の長い子や短い子、背の低い子や高い子、優しそうな子や気が強そうな子、ハキハキと喋る子やお淑やかそうに微笑む子・・・。

 

 

「初めまして、ファリア・アナスタシオス・エンテオフュシアです・・・」

 

 

何度目かの自己紹介をして、女の子達の手の甲に口付ける。

社交と言うか、礼儀としてだけど・・・。

うーん・・・何と言うか。

 

 

どうして女の子達は皆、僕を見ると頬を染めるんだろう・・・?

僕、何かしたのかな。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

あら・・・?

ファリアが女の子に囲まれていますね、珍しい。

まぁ、社交の場ですからある程度は仕方が無いのでしょうけど。

 

 

ファリアはハンサムさんですから、女の子が放っておかないのでしょう。

何と言ってもフェイトの息子ですし、優しくてカッコ良いと来ればモテモテに決まってます。

でも何か、私の所に来てくれないのが少し面白くないのは何故でしょう?

 

 

「ベアトリクスは、もう眠りましたかね?」

「そうだね、調が連れて行くのを見たよ」

 

 

とは言え私の子供はファリアだけでは無いので、他の子供達のことも気にしなければなりません。

アンは熱を出して夕食会前に離脱、幼いベアトリクスとアルフレッドも夕食会後はすぐに寝室に引っ込み、後はファリアとシンシアだけです。

・・・シンシアの姿が見えませんけど。

 

 

そして私は女王、しかも今日の式典の主役です。

舞踏会の間も、フェイトと踊るだけで無く無数の方々の相手をしなくてはなりません。

こう言う場では、できるだけたくさんの方に顔を見せなければならないので。

ファリアの将来のためにも、頑張らないと。

 

 

「女王陛下、本日はお招き頂きましてありがとうございます」

「あら、ごきげんよう・・・テオドシウス尚書」

 

 

もちろん、王国の大貴族と顔を合わせるのも大事なお仕事です。

すでに閣僚を引退したクロージク侯爵や、国防尚書のアラゴカストロ公爵。

そして今は、外務尚書のグリルパルツァー公爵。

毛先の色がかすかに違う妖精族(エルフ)の貴族は、可愛らしい女の子を1人、連れておりました。

 

 

「こんばんは、ヴィクトリア?」

 

 

私の挨拶にドレスのスカートの端を両手で摘んで礼をしたのは、テオドシウス尚書の娘さんです。

長男はファリアの幼馴染ですが、この子とも交流があると聞きます。

フルネームは確か、ヴィクトリア・ローデリヒ・フォン・グリルパルツァー。

誰かを思わせるダークブラウンの髪とアイスブルーの瞳が特徴的です。

 

 

「いや・・・しかし、驚きましたね。閣僚の私も初めて聞いた時は驚きましたが・・・」

「ええ、そうですね」

 

 

話題はやはり、クルトおじ様がぶち上げた宇宙開発、『無限の(プロジェクト・)成層圏計画(インフィニット・ストラトス)』。

まぁ、私はあらかじめ詳しい説明を受けていましたけど・・・後、旧世界連合の方にも。

何でも、ハカセさんが「燃えて」いるらしいです。

・・・まさか、田中四世(クァールト)を宇宙戦艦にしたりしませんよね。

 

 

「・・・でも、少し楽しみですよね」

「そうですね・・・最も、我々の世代が見れるかはわかりませんが」

「私は心配しておりません、子供達がいますもの・・・ね、フェイト?」

「・・・そうだね」

 

 

第6世代機竜・・・振り向いて、舞踏会場の奥に展示されている白銀の試作機を見ます。

あれは現在、王室、特に女王のための機体と言うことになっています。

その名も、女王限定機「グラース・オ・スィエール」。

天使を象ったようなデザインと、女性的な流線を描くような様式美。

基本色は白銀、胸の装甲に苺の模様が紅で入れられているのがポイント。

 

 

最も、私がそれを宇宙で使えるかは本当に微妙ですけどね。

女性しか触れてはいけないとの触れ込みなので、シンシアやベアトリクス、アン・・・あるいは、私の子孫の誰かが、使うことになるのかもしれません。

 

 

「・・・本当に、楽しみですね」

 

 

遠い未来、宇宙に進出するのは、私の子孫かもしれない。

そんなことを考えつつ、私は未来に思いを馳せるのでした・・・。

 

 

 

 

 

Side テオドラ

 

宇宙開発・・・宇宙開発のぅ、まぁ、夢は広がるのかもしれぬが。

どうなのかの、ちょっと想像できぬわ。

妾とか、普通に生きてそうじゃから特に。

 

 

「・・・まぁ、寿命しかアドバンテージが無いのじゃから、大事にすべきかの」

「向こうにはエヴァとかいるけどな」

 

 

うんうんと妾が納得しておると、横からジャックが茶々を入れてきおった。

やかましい、それでも王族の平均寿命では勝っておるんじゃ。

言いたくは無いが、偉大である分、女王アリアの死後に王国がどうなるかは不透明なのじゃ。

それよりも先に、宰相クルトやアリカ達の方が先に逝くじゃろうが・・・。

 

 

寂しいが・・・いや、それは個人的な感傷に過ぎぬな。

今の妾はヘラス帝国皇帝、それだけで良い。

 

 

「サラーニン、港の皆の様子を見て来てくれぬか?」

「はい、陛下」

 

 

にこやかに笑って静々と妾から離れて行くのは、ティファ・サラーニン。

王国の「王宮侍女隊」に対抗する目的で組織した「帝国侍従隊」の1人で、眼鏡をかけた侍女じゃ。

妾の専属で・・・なかなかに優秀じゃ。

 

 

ただ、あまり良く無い噂も聞く・・・何でも、「ふじょし」? とか言う奴らしく・・・。

“メイドと主のイケない関係”とか“執事と主”と言う本だとか、“白き王女と鬼畜宰相――真夜中の背徳の執務室――”とか言う本を出しておるとか聞く。

・・・まぁ、配下の趣味について深く詮索するつもりは無いが。

うーん、でも人選を激しくミスったような気がするのは何故じゃろう。

 

 

「あら、ちょうど良かったわ」

「おお、セラスではないか」

 

 

その時、セラスがやってきおった。

最近はアリアドネーも随分と変わったらしいが・・・相変わらず総長をやっておる。

まぁ、国で無くなっただけとも言えるが。

 

 

「改めて紹介するわね。昨年の次期総長選考で選ばれた、私の後継者になる子よ」

「ほぅ、アリアドネーに次の総長か・・・」

 

 

それは興味深いの、そう思って視線をセラスの後ろに向けると・・・。

びしっ、と姿勢良く敬礼をするドレス姿の若い娘が2人。

 

 

1人は、長い金髪の女性で、切れ長の赤い瞳には生気が溢れておる。

端正な顔立ちの中に、生来の生真面目さが滲んでおるな。

もう1人は対照的に、どこか脱力した印象を相手に与える獣人の女性じゃ。

短い金色の髪に、眼鏡の奥に垂れ目気味の緑の瞳。

2人とも、黒を基調としたドレスが褐色の肌に良く映えておる。

 

 

「次期アリアドネー総長(グランドマスター)を拝命しております、エミリィ・セブンシープです!」

「同じく、次期戦乙女旅団団長を拝命、コレット・ファランドールであります!」

 

 

元気良く挨拶をしてくる2人に、妾は目を細める。

先程も言ったように、ヘラス族は魔法世界でも最も長命な種の1つじゃ。

じゃからこそ・・・世代交代、と言う物には特に感慨が深い。

 

 

かつて、「紅き翼(アラルブラ)」の時代。

妾達が、上の世代を越えようとしていたように・・・いつかは。

いつかは下の世代に、追い抜かれてしまうのじゃから。

 

 

 

 

 

Side ファリア

 

「・・・ふぅ」

 

 

疲れた・・・小さく息を吐いて、僕は会場の隅の方の椅子に座り込んでいる。

何か知らないけど、50人くらいの女の子にずっと囲まれてて・・・。

・・・あんなにたくさんの女の子と話したの、初めてだった。

 

 

でもこれも王子として必要なことだから、頑張らないと。

母様の子として、笑われないようにしないと。

・・・でもやっぱり、女の子に囲まれるのはちょっと苦手かもしれない。

ベアトリクスが人見知りになるもの、わかる気がする。

 

 

「はは、お疲れさんどす」

「王子様も大変ですね」

「あ・・・レオ、月影」

 

 

隅の方で休憩がてら隠れていると、旧世界連合大使の息子と、グリルパルツァー公爵家の御曹司、2人の僕の幼馴染がいた。

そっか、2人の親も招待されてるよね当然・・・。

 

 

月影は両手に飲み物のグラスを持っていて、片方を僕に渡してくれる。

苺のジュース・・・うん、素直にありがとうと言おう。

 

 

「・・・で、ウェスペルタティア王国の王子様はどの娘が好みなんやね?」

「ぶふっ・・・!」

 

 

むせた、理由は推して知るべし。

と言うか、月影が凄く嫌な笑顔を浮かべてるんだけども。

レオはレオで、我関せずを貫きながらチラチラ見て来るし・・・と言うか。

 

 

「・・・何、それ」

「へ? いやほら、何と言うか・・・王子が舞踏会で女の子集めとったら、普通そう言う話にならん? あっちにおった娘ら、お嫁さんがどうとか話とりましたえ?」

「僕もそう聞きましたよ」

「レオまで・・・お嫁さんって、そんなこと考えたことも無いし・・・」

 

 

口元を拭いて、息を吐く。

この幼馴染達は、どこで何を聞いたのか知らないけど。

 

 

「大体、僕のお嫁さん探しのために女の子を集めるなんて・・・そんな非常識な。大体、それで気に入ってお嫁さんだなんて、相手の子に失礼だよ」

「・・・・・・何でやろ、僕、凄く自分が汚い物みたいな気持になりましたえ」

「うん、何か負けた気分になりますよね・・・」

「・・・?」

 

 

良く分からないけど・・・お嫁さん、か。

そう言えば、良くシアが僕のお嫁さんになりたいとか言ってくるけど。

でもシアは妹だし、無理だよね。

もちろん、シアのことは愛しているけど。

 

 

「んー・・・でも、好きなタイプとかありますやろ?」

「えぇ・・・好きなタイプとか言われても・・・」

「ほら、とりあえず眼ぇ閉じて・・・えーと、髪の色とか性格とか、何と言うか・・・一緒にいて落ち着くとか、ドキドキするとか、そう言う相手、おりません?」

「えぇ・・・?」

 

 

んー・・・髪の色・・・・・・緑とか、良いかも。

一緒にいて落ち着く、ドキドキする・・・落ち着くなら母様だけど。

でも、そう言うのじゃ無いよね、たぶん。

 

 

性格・・・何て言うんだろう、優しいけど厳しくて、甘やかしてくれるけどダメなことはダメって言ってくれて・・・悪いことをしても怒らないけど、とても哀しそうな顔をする。

産まれた時からずっと一緒で、もしかしたら母様よりも長い時間を過ごしているかも・・・。

・・・あれ? 好きな女性のタイプについて考えてたんだよね・・・?

と言うか、今、僕が考えてたのって・・・。

 

 

「はいっ、じゃあ、そこで1番最初に思い浮かぶ相手は?」

 

 

 

 

茶々丸。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・っっ!?」

「ビンゴどす、その娘が貴方の理想のお嫁さんやえ!」

「い、いや違っ・・・その、今の違・・・だ、だってナニーで・・・」

「「ナニー?」」

「な、何でも無いよ、うん」

 

 

茶々丸はその・・・そう言うのじゃ、無い、はず。

だって茶々丸は僕にとってお姉さんみたいな人で、そりゃ茶々丸がお嫁さんだったら・・・いやいや。

綺麗で優しくて、凄く温かくて・・・何でもできて、僕にもいろいろ教えてくれるし・・・いやいや。

でも最近、着替えとかお風呂で茶々丸にお世話されるのが恥ずかしくて、でも。

 

 

「人はそれを、恋と呼ぶんや!」

「恋と呼ぶらしいですよ」

「え、えぇ・・・そうなの・・・?」

 

 

何か、月影のテンションが上がってるんだけど。

そしてレオ、キミ適当に合わせてるだけだろう。

 

 

「その人とずっと一緒におりたい言う気持ち、それはつまり恋やと思います」

「・・・恋」

「ちなみに僕も恋しとります」

「そ、そうなの・・・?」

「はい、せやからわかります・・・王子はその人に、恋をしとるんどす」

 

 

・・・僕が、恋?

・・・・・・茶々丸に?

 

 

・・・そう考えた途端、どうしてだろう、凄く胸がドキドキする。

鼓動が速くて、胸が凄く苦しい。

その人と、ずっと一緒にいたい気持ち。

・・・恋。

 

 

「おや・・・こんな所におられたのですか、殿下」

「あ・・・クルトおじさん」

「ご無沙汰しとります、天ヶ崎月影です」

「レオパルドゥス・マリア・フォン・グリルパルツァー」

 

 

クルトおじさんが来たのはそんな時で、2人も普通に外交モードで挨拶してた。

それから2、3話して離れて・・・僕はまた、クルトおじさんに20人ほど女の子に引き合わされた。

でも正直、良く覚えて無い。

 

 

僕が・・・茶々丸に、恋。

僕は・・・。

茶々丸が、好き。

・・・凄く、しっくり来た。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

ピークは過ぎたとは言え、ダンスに誘ってくる輩は結構いる。

毎回毎回断るのは面倒だし、護衛と言う当初の仕事に支障を来すからね。

だからまぁ、そう言うわけさ。

 

 

「そんな理由で僕を呼んだのかい?」

「まさか、そんな理由で相棒を呼ぶわけが無いじゃないか」

「・・・」

 

 

・・・そう睨むなよ、坊や。

何て冗談は良いとして、私は舞踏会場でドレスを着てアリア先生の護衛任務中さ。

私の他にも、傭兵隊の何人かがアリア先生の周囲を密かに囲んでいるよ。

後、王子様や王女様の傍にも何人かね。

 

 

そして私の隣にはアーウェルンクスの5番目、5(クゥィントゥム)が正装で立っている。

舞踏会場の中での仕事なのだから、正装なのは当然だろう?

だから本当に、男避けに置いてあるわけじゃないよ。

 

 

「・・・本当だろうね?」

「お姉さんの言うことは信じる物だよ、坊や?」

「坊やじゃない」

 

 

クク・・・と喉の奥で軽く笑うと、気のせいか5(クゥィントゥム)は不機嫌になった。

最近、少しだけだが感情表現が豊かになったね。

ま、乏しいことには違いないけどね。

 

 

「・・・そう言えば、近く近衛と傭兵隊、親衛隊の組織体系を変えるらしいよ」

「ああ、そうらしいね」

「平和の世には傭兵は不要と言うわけだね、キミはどうするんだい?」

「別に何も」

 

 

各国の要人に囲まれているアリア先生を遠目に見ながら、5(クゥィントゥム)と取りとめの無い会話をする。

傭兵隊の組織改革もそうだけど、女王の居城ミラージュ・パレスの七つの塔にそれぞれ守護者をつけるって話、どうなったのかな。

 

 

女王が住まう『水晶宮(クリスタル・パレス)』を取り巻く、七つの塔の守護者。

いつだったか、どこかの仕事で12くらい部屋を突破したことがあったな。

アレと似たようなような物かな。

 

 

「私はあくまでアリア先生との個人的な傭兵契約でここにいるからね、他の連中がどうなるかは私が考えることじゃない。それに貧乏暇なしって奴さ、考えている暇も無い」

「・・・記憶では、キミはすでに億万長者なはずだけど」

「さぁ、どうだったかな」

 

 

アリア先生は実に良い顧客だよ、金払いも良いしね。

ただお給金の大半は養護施設に送っているから、手元に残るのは僅かだよ。

戦災孤児やら何やらで拾った子供達を見つけては施設に預けて資金援助・・・金はいくらあっても足りない。

 

 

それに金を送れば良いという問題じゃない、根本的な解決が必要だ。

経済と教育、まだまだ金も人も足りない。

・・・まぁ、アリア先生が死ぬまではここで働くさ。

私は半魔族(ハーフ)だから、アリア先生よりは長く生きる。

 

 

「・・・まぁ、頑張りなよ、坊や」

「坊やじゃない」

 

 

・・・ああ、そうそう。

最近どうも、私と5(クゥィントゥム)の仲がどうと言う話が王宮や市井に流れているらしいけど。

5(クゥィントゥム)は将来有望だけど、残念ながら違う。

 

 

・・・私は昔、1人の男に心を捧げた。

だからもう、私は誰かに捧げる心を持っていないのさ。

心は、1つしか無いかけがえの無い物。

・・・だろ?

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「それじゃ、私はまた舞踏会場に行くからな」

「・・・はい、お母様」

 

 

午後10時、未成年はお家に帰る時間だ。

とは言え私は今日は仕事で屋敷に戻れそうに無いからな、アリアに頼んで『水晶宮(クリスタル・パレス)』にユエのために部屋を取って貰った。

 

 

ユエは先程まで、私と一緒に舞踏会場にいた。

で、未成年お断りの時間になる少し前に、ここに送り届けに来たわけだな。

うん、気のせいで無ければ親らしいことをしているかもしれん。

これからまた、港まで戻って小型鯨に乗って舞踏会のある豪華客船に乗り入れて・・・はぁ、面倒くさいな。

 

 

「それではな、温かくして寝るんだぞ」

「・・・はい、お母様」

「ん・・・ユエを頼む」

「畏まりました」

 

 

ユエの世話を茶々丸の姉に任せて、私は舞踏会場に戻る。

ああ、面倒だ・・・仕事だから仕方ないか。

・・・・・・いかん、アリアのが移ったかもしれん。

 

 

「あの・・・お母様」

「ん・・・? どうした?」

「その・・・えと・・・い、行ってらっしゃいませ」

「・・・ああ。早く寝ろよ」

 

 

そう言って、ユエが廊下の向こうに消えるまで見送る。

・・・ふと窓の外を見れば、2つの月が私を見下ろしていた。

・・・美しいな。

 

 

ユエはたぶん、私が母親じゃ無いと考えているだろう。

 

 

そんなことは、随分と前からわかっていたことだ、事実だしな。

と言うか、成長しない母親など、気味が悪くて当然だろう。

自分との違いを察して、疑いを持つのも当然と言える。

だから、あと2年・・・ユエが15歳になったら。

 

 

「全部教えて、手放す」

 

 

旅に、出そうと思う。

手放して、好きにさせようと思う。

その結果、どこに辿り着くのだとしても・・・受け入れてやるさ。

私は、「母親」だからな。

 

 

「マスター、こちらにいらしていたのですか?」

「・・・ああ、ユエを送りにな」

 

 

水晶宮(クリスタル・パレス)』の中を歩いていると、茶々丸とすれ違った。

どうやら、ベアトリクスやアンの様子を見に来たらしい。

特にアンは体調を崩したらしいからな・・・。

 

 

そのまま、静かに会話を続けながら正門へ向かう。

すると、玄関ホールの方が騒がしく・・・ああ、ファリアが戻ったのか。

・・・シンシアの姿が見えないが、どうしたんだアイツ?

 

 

「エヴァさん・・・・・・あ、茶々丸・・・」

「お帰りなさいませ」

「よぅ・・・うん?」

 

 

階段を上がって来たファリアと、挨拶を交わす。

傍にいるのは暦だけど、他は近衛を除いて誰もいない。

まぁ、それは良いが・・・私達を見た。

 

 

見た途端、急速に顔を赤くしてアワアワし始めた。

気のせいで無ければ、若造(フェイト)が特定の行動を取った時のアリアに似ている。

・・・親子だな。

 

 

「・・・どうした?」

「え、えと・・・」

 

 

近付いて顔を覗き込むと、ますますアワアワする。

・・・何だ、何かの病気か?

不味いな、明日はファリアにとって大事な・・・。

 

 

「い、いえ具合が悪いとかじゃ無くて・・・その・・・」

「・・・あん?」

 

 

何なんだ・・・ユエと言いファリアと言い、最近の若者はハッキリしない奴が多いな。

まいったな、こう言うのは苦手なんだよ。

と・・・その時、ファリアがとても眠そうに欠伸をした。

 

 

「ふ・・・まぁ、今日はもう寝ろ、明日も早いぞ」

「・・・ん」

 

 

普段は9時には寝る優良健康児なお坊ちゃんだからな、仕方が無い。

もう10時半だ、それに今日は働き詰めで疲れただろう。

話はまた、いつでもできる。

 

 

それにまぁ、私も仕事があるからな。

私は茶々丸に後を任せて、港に向かうことにした・・・。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「さぁ、ファリアさん。もう少しでベッドですよ」

「・・・ん」

 

 

マスターと別れてから、暦さんがベッドメイクをしてくれている間にファリアさんをお風呂に入れてしまいます。

ファリアさんの抵抗がいつもより強かったような気が致しますが、半分お眠りになっておられましたので、どうにかお風呂とお着替えを済ませることができました。

 

 

その後は、ファリアさんを支えるようにしてベッドまでお運びします。

と言うよりも、最終的にはほぼ抱っこ状態です。

もう12時近くになっていますから、無理もありません。

・・・昔に比べると、本当に大きくなられました。

 

 

「・・・さ、今日はゆっくりとお休みなさいませ」

「ん・・・」

 

 

ベッドにファリアさんの身体を下ろして、後は失礼するだけですね。

明日も朝が早いので、ゆっくりと休んで・・・。

 

 

「・・・茶々丸・・・」

「・・・?」

 

 

どういたことでしょう、ベッドにファリアさんの身体を下ろしたは良いのですが・・・ファリアさんが私の首に両手を回して、ぎゅっと抱きついて来ています。

離してくれませんね、どうしましょう。

 

 

でも、嬉しいです。

最近はあまり、こうしたスキンシップがありませんでしたので・・・。

 

 

「・・・好き・・・」

「・・・! はい、ありがとうございます」

 

 

抱き締め返して、ポンポンと背中を叩いて差し上げます。

小さな頃は良くこう言うこともしていたのですが・・・久しぶりです。

眠気で、少し退行しておられるのかもしれません。

 

 

言葉にするのは不敬ではありますが、私もファリアさんが大好きです。

お守りします、何があろうとも。

お傍におります、マスターと共に・・・。

 

 

「・・・お嫁さんに・・・なって・・・」

 

 

むにゃむにゃと、ファリアさんが「お嫁さんになって」と言います。

これは・・・私に向けてのお言葉でしょうか。

だとすれば、とても微笑ましい気持ちになります。

 

 

そこまで想って頂けるのは、本当に嬉しいです。

いつか大人になってしまわれれば、忘れておしまいになるでしょうが・・・。

 

 

「はい、楽しみにしておりますね・・・」

 

 

お母様には、内緒にしておきますね。

そう言って、私はファリアさんの腕を離し・・・ベッドから離れます。

ぺこり、頭を下げてから部屋を出ようと・・・。

 

 

「・・・はぅー・・・」

「・・・シンシアさん?」

 

 

そこにはすでにお休みになられているはずのシンシアさんが、眠そうに目を擦りながら立っておりました。

・・・これは、お説教が必要でしょうか?

 

 

 

 

 

Side シンシア

 

ん~・・・兄様の帰りがこんなに遅いとは思いませんでした・・・。

しかも茶々丸が「夜更かしはいけないことです」って凄く怒るから。

眠い・・・けど、兄様と一緒に寝たかったんだもん・・・。

 

 

私がそう言うと、茶々丸は凄く困ったみたいに溜息を吐いた。

でも私は凄く眠くて、ふらふらするの・・・。

 

 

「はぁ・・・では、今日だけですよ?」

「はぁい・・・」

 

 

こう言う時、茶々丸が甘いのを私は知ってる。

茶々丸は私を抱っこすると、兄様のベッドに連れて行ってくれた。

兄様はもう随分前に育児部屋(ナーサリールーム)から個室に移ったから、一緒に寝るのは凄く久しぶり。

昔は、いつも一緒に眠ってくださったのに・・・。

 

 

でも良いの、今日は一緒に眠れるから。

明日になったら、また改めて茶々丸に怒られるでしょうけど・・・。

兄様と同じベッドに入れられた途端、どうでも良くなりました。

 

 

「では・・・お休みなさいませ」

「はぁい・・・」

 

 

茶々丸が出て行くのを待って、私はシーツの中をモゾモゾして、兄様の傍に移動する。

 

 

「・・・兄様・・・」

 

 

すやすやと眠る兄様のお顔は、他のどんな男の子よりも綺麗。

眼も鼻も、瞼も睫毛も・・・全部綺麗、他の男の子みたいに偉そうじゃないし、凄く優しい。

そして何よりも、私をとても大切に扱ってくれるの・・・。

 

 

お嫁さんなんて、嫌。

ずっと私の傍にいてほしい、兄様さえいてくれれば何もいらない。

・・・やっぱり、パパとママと妹達と弟、あと茶々丸とエヴァさん、お祖母様とお祖父様も・・・。

・・・でも、一番は兄様です。

 

 

「・・・ん、シア・・・?」

「・・・兄様、好き・・・」

「・・・ん」

 

 

ぎゅ・・・兄様が抱き締めてくれて、凄く嬉しい。

兄様に抱かれて眠るのは、やっぱり凄く落ち着きます・・・。

私の永遠の兄様・・・。

 

 

「・・・にぃさま・・・」

 

 

クママの婆やが教えてくれた、赤ちゃんの作り方。

大人になった男の子と女の子が一緒に眠ると、赤ちゃんができるの。

そうすれば、私が兄様のお嫁さんになれるわ。

 

 

だから朝に目が覚めたら、コウノトリさんが私と兄様の赤ちゃんを届けてくれているはず。

兄様の赤ちゃん、きっと可愛い。

楽しみ・・・そう思いながら、私は兄様に抱きついて眼を閉じました。

えへへ、にぃさま・・・♪

 

 

 

 

 

Side アリア

 

朝になってからは船を降りて、オスティアの島々の間をパレードです。

私の即位20周年を祝う行事である以上、私の姿を市民に見せるのも必要とのことで。

島から島へ、王室専用の馬車と御座鯨を乗り継いでパレードします。

 

 

『ウェスペルタティア王国、万歳!』

『女王アリア陛下、万歳!!』

 

 

兵と民の声が唱和する中を、私は進みます。

かつての新オスティア国際空港から、市街地を抜けてかつての旧オスティアへ。

そして最終的には、浮遊宮殿都市(フロート・テンプル)へ。

 

 

お祭り好きな国民達は、今日もお祭りを楽しんでいる様子ですね。

外国から来たお客様も楽しんでおられるようですし、経済官僚と財政官僚は経済効果や臨時税収などを考えているでしょう。

 

 

「・・・元気な国民達だね」

「そうですね」

 

 

馬車の上、私の隣に座るフェイトも呆れたように道々の国民を見つめています。

まぁ、確かにお祭りが大好きな国民性ですからね。

他の国の方々に比べて、我が国のお祭りの開催度合いが大きいのは事実ですし。

 

 

そして浮遊宮殿都市(フロート・テンプル)の大広場に用意された会場に到着すると、私とフェイトは待ちます。

私達の傍には、ファリアを除いた子供達もおりますが・・・何か、シンシアが不機嫌です。

朝から不機嫌なのですが、何か「婆やの嘘吐き・・・」とか言っていたような。

 

 

「・・・来たよ」

「あ、はい・・・」

 

 

フェイトの声に前を見ると、貴族や政治家、多くの方が立ち並ぶ間を私達の息子が歩いてくるのが見えます。

ファリアが、長く紅いカーペットの上を歩いて・・・そして、私達の前へ。

 

 

ファリアがその場に跪くと、私は手に持っていた王家の黄金の剣を横に持ちます。

それを、ファリアに渡します。

受け取る際、ファリアと眼が合います。

フェイトに似た顔立ちと髪、私の魔眼を受け継いだ赤い瞳・・・。

ファリアの瞳には、うっすらと赤い五方星が浮かんでいます。

 

 

「ファリア・アナスタシオス・エンテオフュシア」

 

 

ファリアは、まだ何も答えることは許されません。

ただ跪いて、私の言葉を待ちます。

 

 

「今日より貴方に、この剣を授けます・・・この剣はまだ、剣としての重みしかありません」

 

 

剣をファリアの手に乗せて、剣と共に言葉を授けます。

母と子では無く、女王と王子として。

 

 

「いずれ国と民、全ての重みが加わるでしょう・・・支えられるよう、精進なさい」

「はい、どうかこれからも私をお導きください・・・女王陛下」

 

 

ファリア・・・私の可愛い王子。

これで、ファリアは公式的に王太子として認められたことになります。

あと2年間は勉強が必要でしょうが、15歳になれば王族、王太子としての仕事が増えるでしょう。

 

 

楽隊が「始祖よ女王を守り給え(アマテル・セーブ・ザ・クィーン)」の演奏を始め、集まった人々が祝福と忠誠の声を上げます。

ファリアを受け入れてくれているようで、ほっとしました。

もちろん、これから先にもいろいろ、大変なこともあるでしょう。

 

 

「ウェスペルタティアの民に・・・幸福が訪れんことを」

 

 

隣にはフェイトがいて、周りには子供達がいて・・・。

エヴァさんがいて、茶々丸さんがいて・・・皆がいます。

私はもう、独りでは無いことを知っていますから。

 

 

皆がいてくれる限り、何も怖くなんてありません。

だからきっと、大丈夫・・・。

・・・私がそちらに行ったら、たくさん自慢話をお聞かせしますね。

 

 

 

 

 

――――――シンシア姉様。

アリアは、幸せです。

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

―――――この後。

後世の歴史家により『良き女王(グッド・クィーン)』の模範と称えられることになる女王アリアの治世が、本格的に幕を開くことになる。

 

 

ウェスペルタティア王国史上、最長の在位記録を誇ることになる女王アリアの治世。

その期間は、実に88年と3ヶ月に及んだ。

この記録の更新は、後の女王フェリアの時代を待たなければならない。

 

 

彼女はウェスペルタティア王国の最も輝かしい時代の象徴となり、「君臨すれども統治せず」の立憲君主制の理念によって議会制民主主義を貫き、宰相クルト・ゲーデルや夫君フェイトの支えによってウェスペルタティア王国を繁栄させた。

この間の治世の輝きによって、女王アリアは<中興の祖>と後々にまで称えられることになる。

 

 

その治世はアリア朝と呼ばれ、クルト・ゲーデルを始めとする大政治家・大経済家がきら星のごとく登場した時代でもあった。

また夫君フェイトとの結婚生活は国民の羨望と尊敬を受ける程に円満なものであり、女王アリアは2男3女を王室にもたらして、王室の将来を安泰たらしめた。

 

 

また『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)連邦』構想を主導し、かつ実現した。

それは魔法世界に平和と統一の時代をもたらし、戦乱に疲弊した魔法世界を回復させ、各地で多くの文化を勃興させることになった。

彼女の名は数百年後にまで残り、アリア通り、アリア大河などの地名に彼女の名を見ることができる。

 

 

 

 

―――――アリア・アナスタシア・エンテオフュシア。

そして、アリア・スプリングフィールド。

彼女の生涯は、波乱の多いものであったが・・・。

 

 

 

 

最後まで、多くの人間(みうち)に囲まれた人生であったと言う。




ヴィクトリア・ローデリヒ・フォン・グリルパルツァー:リード様提案。
グラース・オ・スィエール(IS):剣の舞姫様提案。
帝国侍従隊・ティファ・サラーニン:黒鷹様提案。
ありがとうございます。


アリア:
アリアです。
では今回は前回に続き、他の方の子供達についてご紹介しますね。

フェイト:
・・・うん。


天ヶ崎月影
千草とカゲタロウの息子、その後天ヶ崎家の事実上の世襲となる旧世界連合大使の地位を後に受け継ぐ。ファリア王子の友人の1人であり、お調子者だが憎めない性格。なお、性格形成には遊び相手であった天ヶ崎小太郎と天ヶ崎月詠の影響を受ける所大である。なお、初恋は王国のシンシア王女 (フラれる)。後、ファリア王子とはマザコン仲間。


レオパルドゥス・マリア・フォン・グリルパルツァー
グリルパルツァー公爵家の跡取り息子、ファリア王子より1歳半下。
王子と共に王宮で家庭教師アレテ・キュレネ(政治学者)に政治学・地理学などを学ぶ。ファリア王子とはマザコン仲間、子供の頃は互いの母親の話で三晩ほど徹夜できた仲。
未来においては母の跡を継ぐ形で、王国外務尚書の地位に就くことになる。


ヴィクトリア・ローデリヒ・フォン・グリルパルツァー
グリルパルツァー公爵家の末娘、典型的な貴族の令嬢として育つ。
将来におけるウェスペルタティア王国王太子妃、王妃。
つまりはファリア王子の正妃となる女性。


クロエ・ゲーデル
宰相クルト・ゲーデルの子、実子である説と養子である説がある。
幼少時から政治学・帝王学と経済学を学び、そしてそれ以上に王家の歴史と現在の王室の素晴らしさを教え込まれた。結果、王室への忠誠心を幼少時から養うことになった。宰相クルト・ゲーデルの跡を継いだ後のヘレン宰相の下で経験を積んだ後、庶民院議員に。女王アリアの5人目の宰相として歴史に名を残すことになる。


ロナルド・フォルリ
シオンとロバートの息子、後の王国経済産業省運輸局局長。
叔母である両親の妹に良く懐いており、幼少時の頃も大人になっても彼女の力になり続けた。どうやら王家の「苺の呪い」とは別の呪いが、フォルリ家にはかかっているようである。
王子ファリアとも友人として付き合いを続け、良き相談相手となる。


ルチア・コンスタンツァ・ココロウァ
アーニャ・ユーリエウナ・ココロウァの娘、王国貴族ペイライエウス公爵(アーウェルンクス家)に連なる人間。第4王女アリアと誕生日を同じくし、生涯の親友となる。母親の気質を受け継いで快活で活発、父からは「炎」の才能を受け継いだ。第4王女アリアの死後、その子のナニーとなる。


ユエ・マクダウェル
ネギ・スプリングフィールドの娘、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの養子。15歳の時に実の両親を探す旅に出る。その過程で旧世界に渡り、女王の教え子だった古菲(その時点では結婚して超菲)の息子と出会い、小さな恋のメロディを鳴り響かせる。その後、再び魔法世界に渡って実の母親の下を訪ねることに成功する。彼女が王宮のエヴァンジェリンの下に戻ったとき、彼女はユエ・マクダウェルでは無く、ユエ・チャオと名乗っていた。
そして後に、超鈴音(チャオ・リンシェン)の祖母となる人物を出産することになる。


アリア:
・・・以上です。
そして今回のお話で、本編は完結となります。

フェイト:
・・・僕達の人生は、まだ続くけどね。

アリア:
そうですね・・・では、次回。
「エピローグ」。
また、お会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。