魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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王室日記②「女王一家ご静養」

Side ファリア・アナスタシオス・エンテオフュシア(6歳)

 

・・・何かがモゾモゾしているのに気が付いて、僕は眼を覚ました。

すると、ヌクヌクしたシーツの感触がはっきりとわかるようになる。

僕はまだ起きたく無くて、グシグシとシーツに顔を押し付ける・・・。

 

 

モゾモゾ。

 

 

・・・?

やっぱり、何かが僕のシーツの中でモゾモゾしている。

僕よりも小さくて温かいそれは、下の方から少しずつ上に来ているような気がする。

 

 

「・・・なに?」

 

 

それが気になって、僕は眠れない。

眼を擦りながら、僕はシーツをめくろうと・・・。

 

 

「・・・ばぁ――っ!」

 

 

・・・僕がシーツをめくろうとしたら、そのシーツが勝手にめくれた。

めくれたと言うより、シーツの中にいた子が両手を上にして起き上がって、勢い良く飛び出してきんだ。

 

 

白いシーツが宙を舞って、ぶわっ・・・と風が吹いたみたいになる。

ベッドで眠っていた僕のすぐ横にまで来ていたその子の金色の髪が、シーツと一緒に広がる。

青い眼は得意そうに細まってて、とても嬉しそう。

 

 

「えっへへへ・・・びっくりした? した? ・・・わぷっ」

 

 

両手で万歳したままのその子に、宙を舞っていたシーツがかぶさる。

白い布オバケみたいになって、またモゾモゾと動き出す。

・・・シーツ越しに、「みえない~」って聞こえた気がする。

 

 

仕方が無いから、シーツを取ってあげた。

そうしたら、中から出て来た金色の塊が、僕に凄い勢いでぶつかってきた。

僕が受け止めてあげると、小さなその子は僕にむぎゅ~ってくっついて来る。

 

 

「にぃさまっ、おっき!」

「・・・うん、起きたよ」

「えへへ・・・しあ、おてつだい、できた?」

 

 

お手伝い、たぶん僕を起こすのがお手伝いなのかな。

僕が頷いてあげると、しあ・・・シア、シンシアは凄く嬉しそうに笑った。

綺麗な笑顔の女の子、シンシア・アストゥリアス・エンテオフュシア。

僕の妹、3つになったばかり。

 

 

「にぃさまっ、にぃさまっ」

「・・・どうしたの?」

「んとね、えっとね・・・・・・あれ?」

 

 

シアは何かを思い出そうとしているみたいだけど、忘れてしまったみたい。

うーんうーんと頑張ってるけど、思い出せないみたい。

・・・たぶん、朝ご飯とかだと思うのだけど。

 

 

「・・・王子、王女」

「朝食の時間です」

 

 

その時、別の声が聞こえた。

声の主は僕のベッドの側にいて、2人いる。

同じ顔で同じ服の、僕と同い年くらいの子達。

 

 

えっと・・・カノンとセンって言う名前だったかな。

昨日会ったばかりだから、まだ良く分からない。

母様のお友達の、子供。

黒い髪に、黒い眼、黒い法衣って言う変わった服を着てる。

何だか、凄く大きな魔力を感じる双子。

 

 

「あっ、そうだ! にぃさまっ、ママがね、あさごはんですよって!」

「・・・うん、わかった」

「えへへ・・・しあ、わすれなかったよ。えらい? えらい?」

「・・・うん、偉いね」

 

 

頭を撫でてあげると、シアが凄く嬉しそうに笑った。

そんな僕達を、カノンとセンがじーっと見つめてた。

父様みたいに表情が無いから、何を考えてるかわからない。

 

 

「にぃさまっ、すきー」

「・・・うん、僕もシアが大好きだよ」

 

 

でもとりあえず、むぎゅーって抱きついて来るシアの頭を撫でてあげる。

お兄ちゃんは、妹を喜ばせるものだから。

 

 

 

 

 

Side アリア・アナスタシア・エンテオフュシア(23歳)

 

仕事に目途を付けることに成功―――2日ほど徹夜が必要でしたが―――し、どうにか時間を作ることができました。

その時間を使って行ったのは、旧世界訪問。

 

 

厳密には、旧世界の麻帆良・メルディアナへの訪問ですね。

ファリアと、将来的にはシンシアのメルディアナ通いの下見も兼ねています。

ファリアはすでに王室付き教師によって基礎教育過程を終えていますが、できれば学校生活と言う物を経験させてあげたいので。

そして詠春さんの好意で、「別荘」のあるエヴァさんのログハウスを宿泊先として・・・。

朝までの6時間、別荘内で6日間の時間を過ごすことができます。

 

 

「あのね、あのね、しあはね・・・あ」

「シンシア、はしたないですよ?」

「あぅ・・・」

 

 

朝食の席で、口元にパンの苺ジャムをべったりつけたシンシアの顔を白いナプキンで拭いてあげます。

むー・・・と唸っているシンシアはとても可愛いのですが。

ファリアは静かに食べているのですが、シンシアはとてもお喋りな子です。

食事中でも良く喋るので、食べるのも遅くて・・・どうやって躾をしようか、茶々丸さんも悩んでいる所です。

 

 

朝食の席についているのは、私とフェイト、ファリアとシンシア、茶々丸さんとチャチャゼロさん。

それから、今やこの別荘とログハウスの主人であるスクナさんとさよさん、及び晴明さん。

そして・・・法衣姿で、髪型も口調も同じなために見分けが難しいカノンさんとセンさん。

 

 

「・・・よ、良く食べますね」

「え? そうですかー?」

「これくらい、いつも普通だぞ!」

「・・・女王」

「お気になさらず」

 

 

ダメです、親であるさよさんとスクナさんは感覚がマヒしているようです。

スクナさんがご飯を凄く食べて、お櫃を5つ空にするのは良いのですが。

まだ6歳であるはずのカノンさんとセンさんが、それぞれお櫃を2つずつ空にすると言うのは・・・。

・・・お、大食い一家?

さよさんの躾が良いのかお行儀良く食べている分、何ともシュールです。

 

 

「・・・」

「・・・ユエ」

「は、はい・・・申し訳ありません、お母様」

 

 

それから、エヴァさんと・・・ユエさんです。

1人だけお留守番と言うのもアレと言うことで、エヴァさんが連れて来たのですが。

カノンさん達の食べっぷりに眼を奪われていたユエさんがスプーンをスープのお皿にぶつけてしまい、エヴァさんが静かに注意していました。

何と言うか、貫禄を感じます。

 

 

そんなエヴァさんに少しだけ怯えたような声で返事をしたのが、ユエ・・・ユエ・マクダウェルさん。

ファリアやカノンさん達と同い年で、腰まで伸びた黒髪とルビーのような赤い瞳が特徴的です。

服はカノンさん達とは対照的なまでにフリフリした黒ドレス・・・確実にエヴァさんの趣味ですね。

エヴァさんの娘・・・そして・・・。

・・・いえ、良しましょう。

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

一方で、フェイトとファリアは隣同士ですが会話がありません。

2人とも、黙々と朝食を食べています。

ファリアやシンシアには、こう言う庶民的な朝食は珍しいでしょうか・・・。

 

 

・・・フェイトとファリアは、仲が悪いわけでは無いのです。

無いのです、が・・・少し緊張した関係にあるようです。

たぶん、フェイトが家族の中で子供達を叱る役目を担っているからだと思います。

私は、あまり強く叱れないので・・・自然、そうなってしまいました。

 

 

「ファリアさん、シンシアさん、朝食のデザートは私特製の苺のアイスクリームですよ」

「ほんとう!? わぁいっ!」

「・・・うん」

「ケケケ、ヨカッタナ」

「・・・静かにね」

 

 

茶々丸さんの言葉に、子供達が・・・と言うか、シンシアが歓声を上げます。

シンシアはファリアと違って、フェイトに叱られてもへこたれない子なんですよね。

何と言うか、いろいろな意味で強そうな。

 

 

事実、食事中は静かにするようにとのフェイトの言葉を、ファリアは守りましたがシンシアは守りません。

・・・この自由っぷりは、誰に似たのでしょうね。

いずれにせよ、かなり無理と無茶を通して作った時間です。

子供達と、たくさん遊んであげられると良いのですけど・・・。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

レーベンスシュルト城。

闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)>時代の吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)が暗黒大陸(アフリカ)に持っていた居城、現在は「別荘」として機能している。

 

 

6年ほど前に破損したらしいけれど、直後には修復されたらしい。

城、ジャングル、砂漠、氷河に田園エリアとも繋がっていて、さながらリゾート施設のような場所だ。

僕達は基本的に、外のリゾートにプライベートで行けないからね。

貸切りもできるけど、アリアは公務以外でそうした行為をしたがら無い。

 

 

「だが、ここならばプライバシーも安全性も保てると言うわけだ」

「旧世界に来なければ使用できないけどね」

「仕方が無いだろう、新世界側に運ぶとどんな影響があるかわからないんだ」

 

 

別荘の海エリアで、僕はパラソルの下の椅子に寝転んでいる。

隣の椅子には、吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)が僕と同じ姿勢で寝転んでいる。

僕は黒の水着に白のパーカー、吸血鬼(エヴァンジェリン)は小さな青いリボンのついた白のワンピースの水着を着ている。

そして僕達の傍には、茶々丸が給仕として静かに控えている。

 

 

僕達の椅子の間には小さな白のテーブルがあり、トロピカルジュースとアイスコーヒーのカップが置かれている。

まさに、南国リゾートと言う雰囲気だね。

 

 

「パパ~っ」

 

 

そんな僕の所に、アリアに良く似た顔立ちの女の子が頼りない足取りで駆けて来た。

その後ろには転移ポートが見えて、水着姿のアリアがゆっくりと歩いて来ているのが見えた。

アリアは落ち着いた色のワンピースだけれど、女の子・・・シンシアはフリルとリボンに包まれた桃色の可愛らしい水着を着ている。

 

 

僕とアリアの娘で、3歳になったばかり。

シンシアは嬉しそうに僕の所に来ると、可愛らしく首を傾げた。

 

 

「パパ達は、なにしてるの?」

「・・・ゆっくりしているんだよ」

「あそばないの?」

「遊んでいるよ」

「・・・???」

 

 

僕の答えに、シンシアは反対側に首を傾げ直した。

シンシアにとっての「遊ぶ」は、跳んだり跳ねたり走ったりだからね。

僕や吸血鬼(エヴァンジェリン)のような楽しみ方は、まだ少しわからないのかもしれない。

どう言って説明しようかと、悩んでいると・・・。

 

 

「あ、にぃさまだっ」

 

 

その前に、シンシアは波打ち際でスクナの子供達や吸血鬼(エヴァンジェリン)の娘と遊ぶファリアを見つけて、そちらへと駆けて行った。

どうやら晴明とチャチャゼロを砂に埋めているようだけど・・・大丈夫かな。

関節に砂が入ると思うのだけれど、本人達が良いなら大丈夫なのだろうね。

 

 

「フラれたな」

「かもしれないね」

「・・・フェイト、エヴァさん」

 

 

吸血鬼(エヴァンジェリン)の皮肉に言葉を返していると、アリアがやってきた。

海から吹いて来る風に靡く髪を片手で押えながら、微笑みかけて来る。

 

 

「お昼はここでこのまま、バーベキューにするんだそうです。今、スクナさんとさよさんが田園エリアで野菜とお肉を用意してくれているそうです」

「おいアリア、肉って畑で用意できる物だったか?」

「さぁ、そこは私も聞いて無いの「まぁまぁ~~っ!」で・・・はい、今行きますから!」

 

 

視線を動かすと、砂浜でシンシアが片手を振ってピョンピョンと跳びはねていた。

もう片方の手はファリアと繋がれていて、横では双子とユエが黙々と準備体操らしきことをしている。

・・・そう言えば、シンシアは海は初めてだったかな。

だから、あんなに元気なのかもしれない。

 

 

「じゃあ、私は子供達の傍にいますから・・・」

「・・・あんまり、身体を冷やさないようにね」

「ええ、わかっていま「ママッ!」す・・・って、あんまり走ると転びますよ?」

「へーきだもんっ」

 

 

その時、待ち切れ無かったのかシンシアがまた駆けて来た。

ぶつかるようにアリアの足にしがみ付いて、やっぱりピョンピョンと跳びはねる。

 

 

「あのねっ、あのねっ。おみずがね、どーんって言ってね。おすながざざざーって、すごいんだよっ」

「はいはい、わかりましたから・・・」

「ママもっ、ママも!」

「はいはい・・・」

 

 

やけに元気なシンシアの様子に苦笑しながら、アリアがシンシアに手を引かれて波打ち際の方へ歩いて行く。

・・・ふと、視線を感じた。

見れば、ファリアが僕のことを見ていて・・・僕と目が合うと、そそくさとアリアの方へ駆けて行った。

 

 

「・・・」

「・・・おい、若造(フェイト)」

「何だい?」

「お互い、子育てには苦労するな」

 

 

それがどう言う意図での言葉だったのかはわからないけれど、僕は返答しなかった。

だから、それ以上の会話は無い。

ただ、子供達の歓声を聞くばかり。

 

 

・・・苦労を感じたことなんて、実の所、無いけど。

だけど困惑を覚えなかったかと言えば、嘘になるね。

インストールすれば何でもできるわけじゃない、それを学んだ気がするのも確かだ。

・・・子育て、か。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

海でたくさん遊んだ後は、浜辺でバーベキューです。

自家製のお野菜とお肉(豚肉と牛肉、「自家製」ですよ?)をスクナさんにご用意して頂いて、浜辺でそのまま切って調理します。

 

 

金串に通して焼くのがセオリーですが、子供が多いのでバラバラで焼くとしましょう。

日本産の黒炭を使用し、じっくりと火格子式のグリルでお野菜とお肉に火を通していきます。

もう一つ別に鉄板タイプもご用意し、こちらでは焼きそばを作らせて頂きます。

お米もたくさん炊きましたので、観音(カノン)さんや千(セン)さんのお腹も大丈夫でしょう。

お2人とも、お父様に似てとても良く食べますので。

 

 

「お味の方はいかがですか?」

「・・・うん」

 

 

私の言葉に、ファリアさんは頷きます。

モフモフとお肉をお召し上がりになっておられるようなので、お野菜をお皿に乗せてお渡しします。

バランス良く、お召し上がりくださいませ。

 

 

なお、今回は立食形式とさせて頂いております。

ファリアさんも立食パーティーに参加したことはおありでしょうが、こうした形でのバーベキューは初めてかと思います。

 

 

「ユエ、ちゃんと肉も食べろよ」

「は、はい・・・お母様」

「肉を食べないと、体力がつかんからな」

 

 

マスターは逆に、お野菜しか食べないユエさんのお皿にお肉を積んでいます。

ユエさんは小食な上にお肉が苦手なので、少し辛いかもしれませんね。

でも、バランス良く食べないと発育に悪影響が出ますので。

 

 

「さーちゃん、おかわりだぞ!」

「・・・ママ」

「おかわりです」

「はーい、3杯目からはそっと出してね~」

 

 

一方、さよさんのご家庭は良く食べ良く寝て良く育つを地で行っている様子です。

用意されたお米は全てスクナさんの作物なので、いくら食べても問題は全くありませんが。

 

 

「すごいね~、どうしてそんなにたべるの?」

「・・・王女」

「お父上のように大きくなるためです」

「どれくらい?」

「・・・お父上」

「80m程でしょうか」

 

 

それは、流石に大きくなり過ぎだと思いますが。

シンシアさんの問いかけに、観音(カノン)さんと千(セン)さんが順繰りに答えます。

具体的な大きさを想像できなかったのか、シンシアさんは首を傾げています。

 

 

「シンシア、もう食べないんですか?」

「あっ、たべゆー!」

 

 

お母様であるアリアさんの声に、シンシアさんは嬉しそうにパタパタと駆けて行きます。

お皿を片手にしゃがみ込んだアリアさんが、小さなフォークをシンシアさんに渡しました。

それで小さく切り分けられたお肉を取り、嬉しそうに口に入れようとして・・・。

 

 

「・・・たべないの?」

 

 

と、私に聞いて参りました。

私はガイノイドですので、食べる必要はありません。

ひたすら、皆様のためにお肉や焼きそばを作るのみです。

ですが、シンシアさんにはそれをどう説明した物か・・・。

 

 

「・・・はい!」

 

 

私が思考を進めていると、シンシアさんがフォークにお肉を刺して差し出して参りました。

・・・食べろと言うことでしょうか?

 

 

「シンシア、お行儀が悪いよ」

「えぅ・・・」

 

 

フェイトさんに叱られて、シンシアさんがしゅんと落ち込みます。

それでも何かを一生懸命に考えて・・・不意に、ファリアさんが何かをシンシアさんに囁きました。

シンシアさんは破顔して、今度はお皿ごと私に差し出して参ります。

 

 

「はい、どーぞ!」

 

 

・・・フェイトさんやマスター、アリアさんの様子を窺った後、私はシンシアさんに視線を合わせるようにしゃがみ込みます。

それから、両手でシンシアさんのお皿を受け取りました。

 

 

その時の、シンシアさんの嬉しそうな顔・・・。

・・・永久保存です(じー)。

 

 

 

 

 

Side ファリア

 

・・・海。

王国の海と似てるけど、少し違う気がする。

お昼ご飯の後は、また皆で遊ぶ。

 

 

「にぃさまっ、にぃさまっ」

 

 

僕の後ろには、いつもシアがついてきている。

僕が歩くと一緒に歩きたがるし、僕が座ると隣にちょこんっと座る。

ぱしゃぱしゃと僕が海の水を蹴ると、シアは真似をしようとして転んだ。

 

 

「・・・ふえぇ・・・にぃさまぁ・・・えぐっ」

「・・・よしよし」

 

 

頭から水をかぶることになって、泣きそうになるシアを助けてあげる。

そうすると、ぴったりくっついて離れてくれなくなる。

・・・困った。

 

 

キョロキョロと周りを見ると、茶々丸が僕達のことをじっと見てた。

でも、どうしてか動かなかった。

カノンとセンは、お父さんのスクナさんと「かき氷」を食べて頭を押さえてる。

チャチャゼロと晴明は・・・ユエに砂から掘り起こされてる。

えっと・・・。

 

 

「まぁ、シンシアはどうしたんですか?」

「・・・かぁさま」

「ママッ!」

 

 

母様が来て、シアを抱っこした。

シアが僕から離れて、母様にむぎゅ~っと抱きつく。

・・・良いな。

 

 

「まぁまぁ~・・・ふええぇぇっ」

「ああ、はいはい・・・泣かないで、シンシア」

 

 

母様は困った顔をして、シアの背中をポンポンと叩く。

母様、困ってる・・・?

母様を困らせるのは、いけないこと。

なのに、シアは全然泣き止まなくて・・・。

 

 

「ファリア」

「はい・・・」

「ファリアは、いつもシンシアの面倒を見てくれて・・・とても良い子ですね」

「・・・ん」

 

 

母様に褒められた、恥ずかしい。

俯くと、シアを抱っこしたまま、母様が僕の頭を撫でてくれる。

母様が、褒めてくれた。

嬉しい。

 

 

「流石、お兄ちゃんですね」

「・・・ん」

 

 

サラサラ、母様が僕の頭を優しく撫でてくれる。

何だかほっぺたが熱くて、僕は頭を撫でてくれてる母様の手に両手で触った。

母様の手、凄くあったかい・・・。

 

 

「む~・・・!」

「・・・え」

 

 

シアが、ほっぺたを膨らませていた。

どうしてだろう、凄く怒ってる。

母様も不思議そうに、シアの顔を覗き込む。

 

 

「あら・・・シンシアは、ご機嫌斜めですか?」

「ななめ!」

 

 

ほっぺたを膨らませて、シアはプンプンしてる。

それから、僕に手を伸ばして・・・。

 

 

「わたしも、にぃさまなでたいっ」

「え、うーん・・・ファリア、良いですか?」

「はい」

「良かったですね、シンシア・・・お兄ちゃんにありがとうは?」

「ありがと?」

 

 

母様がしゃがむと、シアは僕の頭に手を置いてグシグシした。

ちょっと、痛い。

でも、シアはとても嬉しそうだった。

 

 

「シンシアは、本当にお兄ちゃんが大好きなんですね」

「うんっ、にぃさま、だいすきっ!」

 

 

・・・僕、お兄ちゃんだから。

ほっぺたが、何だか熱いや・・・。

 

 

「・・・女王、王子、王女」

「お母上達が、そろそろ冷えるから戻ろうと言っています」

 

 

山盛りのかき氷(苺ミルク)を両手に持ったカノンとセンが迎えに来て、海で遊ぶのは終わり。

・・・まだ、食べてたんだ。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

海に入った後は、入浴と言うことになる。

何しろ、砂や塩水をつけたまま夕食や団欒をするわけにもいかないからね。

この城にはいくつか浴場があるけれど、諸々を考えて男女別で入ることになった。

 

 

つまり、父親である僕にはファリアの面倒を見る義務が生じることになるね。

と言うわけで、ファリアと一緒に浴場へ行ったわけだけど。

 

 

「・・・良く洗うようにね、ファリア」

「・・・ん」

「返事は『はい』にすること。頷くだけじゃわからないよ」

「・・・はい」

 

 

ファリアはアリアにはとても良く甘えたりするのだけど(見る目があると言わざるを得ないね)、僕に対してはそう言うことはしない。

アリアは仕事が忙しく、叱ると言うことがあまりできない。

自然、比較的に時間のある僕が子供達を叱る役目を引き受けることになる。

 

 

ファリアやシンシアの躾は基本的には茶々丸や暦君達の仕事だけれど、僕やアリアは彼女達に子供達のことを任せきりにするわけにはいかない。

いつまでも親として傍にいてあげられるわけじゃないから、ある程度は僕達も子育てに関与する。

アリアと話し合って、そう決めた。

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

とは言え、叱り役を引き受けたおかげでファリアには苦手に思われてしまったらしい。

今も黙々と、自分の頭を洗っている。

そしてその隣で、僕も自分の身体を洗ったりしている。

ファリアはお風呂が嫌いだからね、こうして見張って無いとカラスの行水なんだよ。

まったく、誰に似たのだろうね・・・。

 

 

「・・・お父上」

「ダメだぞー、ちゃんと綺麗にしないとママとお姉ちゃんに嫌われるぞー」

「・・・お父上」

「ダメな物はダメだぞー、我慢我慢だぞー」

 

 

一方、僕達の横にいる2人は非常に騒がしいと言うか、コミュニケーションが活発だね。

スクナと、その子の千(セン)。

スクナは千(セン)の頭をワシャワシャとシャンプーで洗ってあげていて、その後はシャワーで洗い流したりしている。

 

 

何かにつけて千(セン)が声を上げているけれど、2人の間でどう言う意思疎通がされているのかは僕にはわからない。

けど、スクナには千(セン)の言いたいことがわかるらしいね。

 

 

「・・・父様」

「何だい、ファリア」

「・・・お父上」

「仕方が無いなぁ、1回だけだぞ?」

 

 

僕がファリアの声に答えている間に、スクナは子供を抱えて湯船に飛び込んだ。

比喩では無く、プールのように広い湯船に走って飛び込んだんだよ。

大きな音を立てて、水柱・・・この場合、湯柱が立つ。

・・・作法として、間違っているけれど。

 

 

「・・・お父上!」

「なはははは~っ」

 

 

まぁ、当人達が楽しそうだから良いかな。

ここは王宮じゃないしね・・・ファリアの教育には、悪いのかもしれない。

だけど、ファリア自身はスクナ達の方をけして向かない。

理由は、すぐにわかった。

 

 

「・・・父様」

「何かな、ファリア」

「あの・・・・・・センって、女の子・・・ですよね?」

「・・・」

 

 

一瞬、何を言われたのかわからなかった。

けれど、ファリアにふざけている様子は無い。

となると、本気で千(セン)のことを女の子だと思っているらしい。

 

 

観音(カノン)の方は、確かに女の子で・・・千(セン)もそっくりだからね。

まだ男女の区別がしにくい年齢だし、勘違いしたのだろう。

千(セン)が観音(カノン)と同じ格好をしていて、しかも可愛いと言うのもあるのだろうけれど。

 

 

「千(セン)は、男の子だよ」

 

 

千(セン)は、観音(カノン)の「弟」だからね。

双子で・・・姉弟。

そう教えて上げると、ファリアはとても驚いていた・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

フェイトとファリアは、仲良くお風呂に入れているでしょうか。

ファリアはこちらに来たがっているようでしたが、一応、躾も兼ねて男女で分けました。

スクナさん達もおりますし、大丈夫だとは思いますが・・・。

 

 

「ママ~ッ」

「わっ・・・もう、シンシア、人を驚かせてはいけませんよ」

「えへへ~・・・」

 

 

そんなことを案じつつ広い湯船の端の方で湯に浸かっていると、後ろからシンシアに抱きつかれました。

高低差があるので、肩にシンシアの小さな頭が乗っている形になります。

シンシアの綺麗な金色の髪は濡れていて、すっかり洗われていることがわかります。

 

 

シンシアはファリアと違ってお風呂が大好きなので、入浴では苦労せずに済んでいるようです。

女の子ですから、大事なことですよね。

私が肩越しにシンシアの頭を撫でてあげていると、茶々丸さんがやってきます。

 

 

「さぁ、シンシアさん。お湯の中に入りましょうね」

「ママのおひざのうえがいい~」

「え・・・もう、本当に仕方の無い子ですね」

 

 

苦笑して、私はシンシアの小さな身体を両手で抱えて膝の上で抱きます。

私は半身浴な感じですが、シンシアにとっては肩まで浸かることになります。

3歳頃のファリアは甘えん坊さんでしたが、シンシアはそれに輪をかけて甘えん坊さんです。

そして私やフェイト以上に、ファリアが大好きな子。

今はまだそれで良いですけど、将来が少し心配かもしれません。

 

 

庶民的かもしれませんけど、アレです。

伝説の「わたし、○○のおよめさんになる~」の「○○」がフェイトになるのかファリアになるのか・・・。

ファリアに「母様をお嫁さんにする」と言われる日を、実は私すごく楽しみにしています。

言ってくれると良いのですが・・・。

 

 

「お隣、良いですか~?」

 

 

私と茶々丸さんがチャプチャプとお湯を跳ねて遊んでいるシンシアを見つめていると、さよさんとエヴァさん達がやってきました。

それぞれ、娘さんを連れて・・・。

 

 

「はぁい、ちゃんと肩まで浸かって100数えるんですよ~」

「一、二、三、四、五・・・」

「すごーい、おねぇちゃん」

 

 

さよさんの言いつけに従って100まで数え始めるカノンさんを、シンシアが尊敬の眼差しで見つめています。

カノンさんの頬が赤いのは、お湯の熱さのせいだけでは無いかもしれません。

一方、エヴァさんとユエさんはとても静かに入浴して・・・。

 

 

「あ・・・その痣は?」

「え・・・あ、これは、お母様との訓練で」

 

 

ユエさんの身体には、あちこちに小さな痣があります。

多くは魔法薬で治療されていますが、いくつかは残っているようで。

・・・訓練って、やっぱりエヴァさんのですよね。

 

 

・・・エヴァさんの、訓練。

あ、いけません・・・思い出したら何故か物凄く吐き気が。

と言うか、6歳の子供にエヴァさんの基礎訓練はヤバいです。

エヴァさん自身はユエさんのためを想ってのことなのでしょうが、訓練を受けた経験のある身からすると同情を禁じ得ません。

 

 

「か・・・身体の調子は、いかがですか?」

「え・・・か、身体の調子、ですか?」

「ユエ」

 

 

どことなく困惑しているユエさんに対して、エヴァさんは厳しさを滲ませた声音で言います。

 

 

「もっとハキハキと喋れ、鬱陶しく聞こえるぞ。それでも私の娘か」

「・・・はい、申し訳ありません・・・」

 

 

途端に尻すぼみになるユエさんの声。

エヴァさんはそれを横目に見ながら、舌打ち寸前の表情をしています。

何と言うか・・・スパルタなのでしょうか、教育ママなのでしょうか?

 

 

「・・・九十八、九十九、百」

「おねぇちゃん、すごーい!」

 

 

その時、カノンさんが100まで数を数えて、シンシアが歓声を上げました。

さよさんと茶々丸さん、そしてエヴァさんはそれをとても優しい眼で見つめています。

そしてそんなエヴァさんを、ユエさんは何とも言えない眼で見つめていました・・・。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

風呂の後、少し団欒した後に夕食になる。

いつもそうだが、一日と言うのは短いな。

仕事に追われている時はそうだが、家族で過ごしているとまた早く感じる。

 

 

一日と言う時間に限らずとも、年月でも同じことが言えるだろう。

少し前まで赤ん坊だったユエやファリア達はもう6歳だし、年月が過ぎるのは本当に早い。

アリアは23歳で、さよなど28歳だ。

・・・早いな、本当に。

残り時間もあっという間に過ぎてしまうのでは無いかと、怖くなってしまう程に。

 

 

「しっかり食べたか、ユエ」

「はい、お母様」

「そうか、茶々丸の作る食事は美味いからな」

 

 

ユエとそんな会話をしたのは、夕食後のデザートとお茶の時間になってからだ。

それまでは、ユエはカノンと共にシンシアの相手をしながら食事をしていたからな。

シンシアは年長の子供達に良く懐いているようで、いつ見てもニコニコと笑っている。

ファリアはそれほど表情が豊かな方では無かったから、面食らう時もあるが。

 

 

気のせいで無ければ、シンシアの存在は上手い具合に潤滑油になっているのだろう。

子供達は「妹」としてシンシアを扱うのを楽しんでいるようだし、何となく微妙な若造(フェイト)とファリアも、シンシアを間に挟むとそれなりにやれているようだしな。

 

 

「初めて食べる料理ばかりでした」

「・・・そうか。美味かったか?」

「はい、エヴァお姉ちゃん」

 

 

ファリアの言葉に、私は頬が緩むのを感じる。

ファリアやシンシアは普段、王宮の料理人の作る料理しか食べないからな。

茶々丸の作る和食や中華は、食べる機会も無いだろう。

・・・ところで、私はいつまで「お姉ちゃん」でいられるんだろうな?

 

 

「・・・ん? どうした、ユエ?」

「・・・あ、いえ、何でもありません・・・」

「・・・そうか?」

 

 

ユエが私を見ていたようなので声をかければ、手元のケーキに視線を落として何でも無いと言う。

・・・ユエはどうも、自己主張が苦手らしい。

まったく、もっとハッキリと喋れないと生きていけないぞ。

 

 

「ママ、いちごほしい」

 

 

その時、テーブルの隅で面白いことが起こっていた。

有り体に言えば・・・娘(シンシア)が母親(アリア)のショートケーキの苺を欲しがっているわけだが。

アリアの苺好きを知っている立場からすると、なかなかに興味深い。

さて、アリアはどうするのか・・・。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

あっさりと、アリアは娘にショートケーキの苺をやった。

10歳の頃、「ショートケーキの上に乗っている苺こそ、至高・・・!」とかわけのわからんことを言っていたアリアが、躊躇なくシンシアに苺をやった!

流石は母親、それに23歳にもなって苺で泣いたりはしないようだ。

 

 

「わぁいっ」

「ふふ・・・ゆっくり、味わってくださいね」

 

 

アリアは笑顔だが、だがしかし私にはわかるぞ。

茶々丸もわかっているようで、絶賛録画中だ。

・・・アレは、擬態だ!

 

 

実の所、アリアは物凄い衝撃を受けている。

その証拠に、紅茶のカップを持つ手が震えているからな・・・!

 

 

「・・・ヘイワダネェ」

「坊らが1つか2つの時は、我らはしゃぶられまくったからのぅ・・・」

 

 

晴明とチャチャゼロが何か言っているが、そんなことは知らん。

ベビーベッドの中で涎まみれにされていた奴らがとやかく言うんじゃない。

とか何とか言っている内に、若造(フェイト)が自分の分の苺をアリアにやっていた。

流石は夫、妻の気持ちを良く分かっているじゃないか・・・。

 

 

「ママ・・・」

「・・・う」

 

 

そしてその苺を、シンシアはまた欲しがる。

・・・実の所、茶々丸が台所にどれだけの苺を用意しているかを知っている私としては、笑える光景ではある。

 

 

「まったく、キミは本当に仕方が無い子だね」

「ちがうわ、パパ。しあはね、ちいちゃなおんなのこなのっ」

 

 

そしてその苺もまんまとせしめたシンシアに、若造(フェイト)が苦言を呈した。

すると、シンシアはむしろ胸を張って言った。

自分は小さいのだから、良いのだと。

・・・それは、流石にどうかと思うが?

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

夕食の後、8時にはお子様達はお休みになられます。

夜更かしは厳禁です、小さい内は素早く眠ることが好ましいのです。

と言うわけで、ある意味で最大のお仕事である「寝かしつけ」を断行します。

 

 

「ちゃちゃまる、ごほん~」

「はい、わかりました」

 

 

今日はファリアさんと眠るのだと言ってきかないシンシアさんは、ファリアさんとベッドに潜り込んだ後に絵本を読むように催促されました。

こうなると絵本をお読みするまでお休みになりませんので、仕方がありません。

では今日は、シンデ○ラでも・・・。

ベッドの傍にスツールを寄せて、私は絵本を読み始めます。

 

 

「むかしむかし、ある所に・・・」

 

 

絵本と言っても3歳用なので、字はほとんどありません。

それでも、作りこまれた絵にシンシアさんは興味津々といったご様子です。

ファリアさんにしがみついたまま、絵本に夢中で・・・ついには。

 

 

「ねぇねぇ、ちゃちゃまる」

「はい、何でしょうか?」

「わたしも、おひめさまになりたいっ」

 

 

貴女はすでにお姫様ですよ、シンシアさん。

 

 

「さぁ、そろそろお休みに・・・」

「ちゃちゃまる・・・」

「はい・・・?」

 

 

手強い・・・ファリアさんはそうでもありませんでしたが、シンシアさんは本当に手強いです。

何と言うか、次から次へと・・・。

 

 

「・・・どうしたんですか?」

「・・・ぅ~」

 

 

しかし今度は何をしてとは言わず、顔を隠してモゾモゾとしております。

・・・はい、お手洗いですね。

 

 

「にぃさまも・・・」

「え、僕も・・・?」

「にぃさまもっ!」

「・・・うん」

 

 

そして、ゴリ押しでファリアさんもご一緒に行くことになりました。

・・・本当に、手強いですね。

将来が非常に楽しみです。

 

 

それから、ファリアさんとシンシアさんをお2人とも抱っこします。

シンシアさんの我慢がどのくらい保つかわかりませんので、可及的速やかにお手洗いへ向かいます。

お2人ともがぎゅっとしがみついて来てくださるので、録画しつつお手洗いへ。

ほどなく複数の個室からなる共用のお手洗い(学校やホテルにあるようなお手洗いです)に到着し、せっかくなのでファリアさんも済ませて頂きましょう。

 

 

「・・・はい、ではお2人とも降りてくださいましね」

「はい」

「はぁいっ」

 

 

ファリアさんは静かに、シンシアさんは元気良く返事をして、床へ降ります。

お手洗いのドアを開けると、3つの個室が・・・ええと、灯かりはどこでしたか。

 

 

「・・・茶々丸」

「はい、何でしょうか?」

「明るい・・・」

 

 

ファリアさんの言うように、真っ暗なはずのお手洗いは一部が青白く光っております。

そもそもお手洗いはシンシアさんのことも考えて、絶えず電気がついているはずなのですが。

事実、ここに来るまでの廊下は明るかったわけで。

 

 

しかし今は、何故か一部だけが青白く・・・。

その時、一番奥の個室の扉がギギギ・・・ッ、と音を立てて開きました。

そこから、暗がりの中でぼんやりと浮かぶ青白い火の玉と、宙に浮かぶ小さな電球。

・・・ホラーです。

ホラーです、が、これは・・・もしかして。

 

 

「・・・ふぇ・・・」

 

 

私はすでに正体見たりな気分でしたが、シンシアさんは違ったようです。

ファリアさんにしがみついて、涙ぐんでおられ・・・あ、これは不味いです。

私が、そう思った次の瞬間。

 

 

「・・・ふぇえええええええええええええぇぇぇぇぇんっっ!!」

 

 

シンシアさんが、大声で泣き始めました。

お、オロオロ・・・。

 

 

 

 

 

Side ファリア

 

「ふえええぇぇんっ、ふええええぇぇっ!」

 

 

シアが、泣いてる。

綺麗な眼からポロポロと涙を流して、大声で泣いてる。

・・・これは、良く無いこと。

 

 

とても良く無いこと、シアが泣くのは良く無いこと。

トイレに行ったら、オバケが出た。

オバケが出て、シアが泣いた。

シアが・・・僕の妹が、怖がって泣いた。

 

 

「・・・!」

 

 

こう言う時、どうしたら良いんだろう。

どうしてだろう、わかる気がする。

まずはシアを僕の後ろに隠す。

 

 

それから、「視る」んだ。

両眼が、熱くなるぐらいに・・・「視る」んだ。

そして・・・どうするんだろう。

それから先は、まだわからない―――――。

 

 

『ま、待ってくださーいっ』

「さよさん!」

「え・・・」

 

 

その時、茶々丸が母様のお友達の名前を呼んだ。

すると、青白い火の玉みたいな物が出て来たトイレから、火の玉よりも大きな青白い何かが・・・人?

・・・良く「見る」と、本当に母様のお友達だった。

 

 

『ご、ごごご、ごめんなさい。驚かすつもりじゃ無くて・・・ここのお手洗いの電球が切れてたのを思い出して、交換に来ただけなんです』

「どうして、霊体で・・・」

『あ、それは・・・子供達を寝かしつけた時に、離してくれなくて・・・身体は置いてきました!』

「・・・はぁ、そうだったんですか」

 

 

さよさんは、どうしてか半分くらい透明だった。

・・・霊体って、何のことだろう。

 

 

オバケじゃないとわかって、僕はほっといた。

何だか熱くなった両眼も、熱く無くなって・・・。

・・・何で、熱くなったんだろう?

 

 

「・・・ひっ・・・ふぇえ・・・っ」

「あ・・・」

 

 

いけない、シア。

僕が後ろを見ると、シアはまだ泣いてた。

明かりがついた後も、グスグスと泣いていて・・・。

 

 

「・・・ふぇえぇ・・・っ」

「もう大丈夫だよ、怖くないよ」

「・・・うぇっ・・・ぐすっ・・・ふぇっ・・・もっ・・・」

 

 

それでも、シアは泣き止んでくれなかった。

両手でグシグシとしても、シアの涙は流れて、足元の水たまりに・・・。

・・・・・・あ。

 

 

「まぁまぁ・・・」

『わ、わ・・・大変です。すぐにタオルと着替えと・・・お風呂の準備をしてきますー』

 

 

・・・えっと、シアの頭を撫でて「よしよし」する。

茶々丸とさよさんがパタパタと動いていて、えーと・・・よしよし、泣かないで。

 

 

「・・・ひっ・・・にぃさま・・・ふぇ・・・」

「・・・うん」

 

 

まだ少しグスグスしてるけど、少しだけ泣き止んでくれた。

茶々丸が傍に来て、シアを抱き上げようとして・・・。

 

 

「・・・大きな声が聞こえましたけど、どうかしたんですか?」

「・・・シンシア?」

 

 

母様と父様が来た。

すると、シアは母様の方を見て・・・あ、泣いちゃうかな。

シアはぐすっ、ぐすっ・・・としながら。

 

 

「ま・・・ママ、ママ・・・ふぇえ・・・ふぇええええええぇぇぇぇぇぇんっっ!!」

 

 

・・・泣いちゃった。

やっぱり、僕にはできなかった・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ええと、さよさんが霊体でいる段階で大体の想像がついてしまったのですが。

まぁ、3歳のシンシアには怖かったかもしれませんね。

さよさんも、リアルにヘコんでいるようですし・・・。

 

 

さよさんはそのまま、自分の身体に戻った上でお風呂の準備をしてくれるとか。

また鉢合わせて泣かせてもいけないから・・・とのことです。

それから、茶々丸さんはシアの着替えを・・・。

 

 

「えぐっ・・・ぐっ・・・ひっ・・・」

 

 

シンシアは私に抱っこされて、胸に顔を埋めたまましゃくり上げています。

フェイトが頭を撫でてもさっぱり効果が無いので、これは本当に怖かったようですね。

足元では、ファリアがとても心配そうにしています。

 

 

「・・・ファリアは、良い子ですね」

「・・・?」

「シンシアを、守ろうとしてくれたのでしょう?」

 

 

シンシアをあやしながら、私はファリアにそう言います。

茶々丸さんとさよさんの話を聞く限り、ファリアはさよさんからシンシアを隠したのだとか。

・・・おかげで、さらにさよさんがショックを受けていましたけど。

 

 

「だから、ファリアは本当に良い子です。流石はお兄ちゃんですね」

「・・・うん、そうだね」

 

 

・・・おや、珍しい。

 

 

「・・・偉い、よ」

「・・・ん」

 

 

本当に珍しいのですが、フェイトがファリアを褒めました。

しかも、頭まで撫でて・・・ファリアは少しびっくりしながらも、顔を紅くしている所を見るに嬉しいみたいです。

 

 

「・・・にぃさま、ありがと・・・」

「・・・ん」

 

 

私に抱っこされたシンシアも、まだ少しぐずっていましたが・・・ファリアにお礼を言いました。

そのせいか、またファリアの顔が赤くなって・・・。

 

 

「・・・アリアさん、お風呂とお着替えの準備が整いました」

「あ、はい・・・さぁ、シンシア」

「・・・ん」

「ファリアも、ついでに行って来てください・・・そんな顔をしてもダメです。シンシアについていてあげてくださいね」

「・・・にぃさまもいっしょ」

「・・・・・・・・・ん」

 

 

私とシンシアのお願いを受けて、ファリアも茶々丸さんに連れられてお風呂へ。

すっかり冷えてしまったでしょうし、シンシアもお兄ちゃんと一緒の方が嬉しいでしょう。

私も一緒に行きたいのですが・・・。

 

 

「・・・大丈夫かい?」

「ええ、まだ何とか・・・私も、着替えが必要ですね」

 

 

衣服はシンシアの涙やら何やらでちょっと・・・アレですし。

それと、私がお手洗いに来たのはシンシアの泣き声を聞いたからですが。

フェイトに伴われて寝室を出たのは、別の理由です。

 

 

・・・私自身の体調が、夕食の時から芳しく無くて。

具体的に言うと、吐き気と言うか胸のムカつきと言うか、それが強くて。

あと、できればすっぱい目の苺を頂きたいなと・・・。

そして気のせいでなければ、私はこう言う症状をこれまでの人生で2回ほど経験していまして。

 

 

「・・・3人目、かな」

 

 

フェイトには聞こえないように、可能性の話をしてみます。

まぁ、覚えはあるかと言われれば無いはずが無いと答えるしか無いので・・・。

・・・戻ったら、ダフネ医師に診てもらうとしましょう。

 

 

もし、本当に私の考えが正しいのであれば。

十月(とつき)経ったら、シンシアもお姉ちゃんですね。

確証の無い、ただの勘ですけど。

さ、早く着替えて、お風呂から出てくる子供達を迎えに行かないと・・・。




法衣:灰色様提案。
ありがとうございます。

茶々丸:
茶々丸です。
皆様、ようこそいらっしゃいました。
お久しぶりです・・・現在、私はファリアさんとシンシアさんのお世話で充実した日々を送っております。

それに加えて・・・アリアさんに、またもやご懐妊の気配アリです。
3人目が産まれるとしたら、男の子でしょうか女の子でしょうか、双子と言う可能性もありますね・・・。

カノンさんとセンさんは、今の所は見た目で性別を見分けるのが苦労する年齢。
スクナさんも同じ服を着せるので、その点も苦労しますね。
似合ってはおりますが、法衣。
もちろん、私のメモリーに全て保存です。

私の保存データは、様々な場所で活躍中です。
例えば・・・随分と以前のお話になってしまいますが、アリアさんがフェイトさんとご結婚された次の年。
旧世界の新田先生宛てに、ばっちりと「結婚しました♪」な年賀状を送らせて頂きました。

では次回、さらに時間が進みます。
ファリアさんが10歳になり、休日と言うことで様々な「親子」が水晶宮にお集りになります。
・・・では、シンシアさんに呼ばれておりますので、これで・・・。

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