魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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その後、なお話の第一弾です。
3歳児視点での挑戦ですが、失敗した面があるかもしれません。
3歳児の気持ちになる、って難しいですね・・・。
と言うか、ほのぼの路線を目指したのに何故、な出来です。
じ、次回こそは・・・!

*今話は、ほぼファリア王子視点オンリーです。


王室日記①「ファリア3歳・王子様の一日」

Side ファリア・アナスタシオス・エンテオフュシア(3歳)

 

 

  ◆ ◆ チャチャゼロの場合 ◆ ◆

 

かぁさま、かぁさま・・・。

僕が呼ぶと、かぁさまはにっこりと笑ってくれる。

たくさん呼ぶと、かぁさまはもっとニコニコしてくれる。

 

 

いつも、「おしごと」で忙しいかぁさま。

かぁさま、もっと遊んで。

そうお願いすると、かぁさまはとても困ってしまう。

とても困った顔になって、「ごめんね」と言って僕の頭を撫でてくれる。

 

 

「・・・」

 

 

かぁさまにもっと遊んでほしいけど、頭を撫でられるのは好き。

ぎゅってするのは、もっと好き。

かぁさまの胸にモフモフすると、とても良い匂いがしてポカポカする。

かぁさまの胸で眠るのが、一番好き。

 

 

でも、かぁさまはいつも「おしごと」で忙しいから。

だから、一緒に寝るのもあまりできない。

一緒にいられる時間は、少ししかない。

 

 

「・・・・・・」

 

 

かぁさま、かぁさま・・・。

大好きなかぁさま。

優しくて、ポカポカで、あったかくて。

 

 

僕はいつか、かぁさまのお役に立ちたい。

かぁさまは「おしごと」で忙しいから、お手伝いをしたい。

僕がそう言うと、かぁさまは「ありがとう」と言って僕の頭を撫でてくれる。

かぁさま・・・。

 

 

「・・・・・・・・・ん」

 

 

ぱちり、と眼を開けると、かぁさまの笑顔が消える。

その代わりに目の前にあったのは、怖いお人形だった。

 

 

「ケケケ、アサダゼ」

 

 

大きなベッドで眠る僕の目の前に座っているそのお人形は、僕を見ながらカタカタと喋った。

喋るお人形、凄く怖い。

でも、このお人形は怖くない。

 

 

「・・・ちゃちゃぜろ・・・」

「ケケケ、オキヤガレ」

「・・・うん・・・」

 

 

こくりと頷いて、シーツの中からモゾモゾと出る。

枕元に座ってたチャチャゼロを掴んで、ぎゅっとする。

・・・固くて、痛い。

 

 

「ドウシタ、コワイユメデモミタカ」

「・・・ううん・・・」

「ケケケ・・・」

 

 

片手で眼を擦りながらチャチャゼロを離すと、少し不満になる。

・・・かぁさまが良い。

でも広い僕の部屋には、僕とチャチャゼロしかいない。

 

 

かぁさまは、「おしごと」で忙しいから。

あまり、朝も一緒にいてくれない。

 

 

「ケケケ、オキルジカンダゼ」

 

 

チャチャゼロがカタカタと歩いて、ベッドの横の机から銀色の鈴を取って軽く振った。

涼やかな音が響いて、部屋の外から誰かが入ってくる。

だけど僕は、かぁさまに会いたい。

かぁさまが良い。

 

 

かぁさま、かぁさま・・・。

・・・かぁさま、今、どこにいるんだろう。

 

 

 

  ◆ ◆ 絡繰茶々丸の場合 ◆ ◆

 

「おはようございます、ファリアさん」

「・・・おはよう、ございます・・・」

「はい、良くおできになりました」

 

 

そう言って僕をぎゅっとして両方のほっぺにキスをしてくれるのは、茶々丸。

緑色の髪の、僕のナニー。

侍女服の真っ白なエプロンに顔を押し当ててグリグリすると、頭を撫でてくれる。

 

 

茶々丸にぎゅっとされるのも、とても好き。

茶々丸はとても優しくて大好きだけど、ちょっとだけ怖い時もある。

 

 

「さぁ、朝のお風呂に参りましょう。その後、お着替えと朝のホットミルクをご用意致しますね」

「・・・・・・やだ」

 

 

お風呂は、嫌いだ。

シャンプーが眼には入ると痛いし、熱いお湯は苦手だし、あと・・・なんだか怖い。

だから、お風呂はいやだ。

でも僕がそう言うと、茶々丸はいつも怖い顔をする。

いつも優しいけど、僕が良くないことを言うと怖い顔になる。

 

 

「いけません、きちんとご入浴されませんと」

「やだ」

「ファリアさん」

「・・・やだ」

 

 

逃げようとすると、後ろから抱っこされて捕まる。

抱っこは好き、でも今は茶々丸に抱きつかないでブラブラしてる。

お風呂は、いやだ。

 

 

「ファリアさん?」

「・・・」

「・・・はぁ」

 

 

どうしよう、茶々丸が困ってる。

でも、お風呂はいや。

 

 

「・・・ご入浴いただけたなら、朝食にはデザートに苺のアイスクリームをお出ししますから」

「・・・うん」

「それにお綺麗にしておかないと、お母様もお困りになりますよ」

「うん」

 

 

かぁさまにも、「ちゃんとお風呂に入りましょうね」って言われてる。

あと、苺のアイスクリーム・・・。

僕がしゅんとしていると、茶々丸が僕を抱っこしたまま頭を撫でてくれる。

 

 

「はい、ファリアさんは良い子ですね」

「・・・ん」

 

 

褒められた、恥ずかしい。

茶々丸が僕を降ろして、前からぎゅってしてくれる。

僕も茶々丸に抱きついて、茶々丸の胸に頭をグリグリする。

 

 

茶々丸は柔らかくて温かい、ぎゅってされると嬉しい。

一番はかぁさまだけど、茶々丸も大好き。

・・・でもやっぱり、お風呂はやだ。

 

 

「・・・茶々丸」

「はい、何でしょうか?」

「・・・チャチャゼロ、持って行っても良い?」

「オレモカヨ」

「うーん・・・はい、良いですよ」

「イイノカヨ、オイ」

 

 

1人だと怖いから、チャチャゼロも持って行く。

チャチャゼロの手を持つと、チャチャゼロはカタカタと笑いながら僕の手を引いて歩き出す。

その後ろを、茶々丸がついてくる。

 

 

それから、お風呂に入った。

茶々丸にお湯をかぶせられて、やっぱりシャンプーが目に入った。

・・・お風呂、嫌い。

 

 

 

 ◆ ◆ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの場合 ◆ ◆

 

朝のお風呂の後は、朝ご飯。

茶々丸の作ってくれるホットミルクが、好き。

かぁさまは「おこうちゃ」を飲むけど、僕はまだダメだって。

とぉさまの「こーひー」も、ダメ。

 

 

僕も、かぁさまやとぉさまと同じのが良い。

でも、そうお願いするとかぁさまが困った顔をする。

かぁさまが困るのは、いけないこと・・・。

僕がご飯を食べていると、1人のお姉ちゃんが部屋に入ってきた。

 

 

「おお、ファリアじゃないか。おはよう、今日も元気か?」

「・・・エヴァお姉ちゃん」

「ファリアさん、朝にお会いした時は何と言うのですか?」

「おはようございます、エヴァお姉ちゃん」

「ん・・・ちゃんと挨拶できたな、偉いぞ」

 

 

そう言って僕の頭をグリグリと撫でてくれるのは、エヴァお姉ちゃん。

茶々丸に言われた通りに「おはようございます」と言うと、いつも褒めてくれる。

キラキラした金色の髪の、お人形さんみたいなお姉ちゃん。

 

 

かぁさまも、「困った時はエヴァお姉さんに言うんですよ」って言ってた。

僕とも良く遊んでくれる、優しいお姉ちゃん。

ちゃんと挨拶できたから、茶々丸が苺のアイスクリームを出してくれる。

 

 

「・・・あむ」

「ふふ、美味いか?」

「・・・うん」

「そうか、たくさん・・・食べるとお腹を壊すからな、気を付けるんだぞ」

「うん」

「そうか、ファリアは良い子だ」

 

 

グシグシと頭を撫でられた。

褒められた、恥ずかしい。

それから僕は、苺のアイスクリームをスプーンで掬って食べる。

すると、チャチャゼロがカタカタと笑う。

 

 

「ウマイカ?」

「うん」

「ソウカ、ヨカッタナ」

 

 

・・・冷たくて甘くて、美味しい。

苺は、好き。

僕があむあむと苺のアイスクリームを食べていると、茶々丸とエヴァお姉ちゃんが何かをお話してるのが聞こえた。

 

 

「・・・アリアはど・・・」

「でしたら・・・で・・・」

 

 

・・・かぁさま?

僕はスプーンを置くと、言った。

 

 

「かぁさまに会いたい」

 

 

すると、茶々丸とエヴァお姉ちゃんが僕の方を見る。

困った顔をするのが見えて、僕はいけないことをしたんだと思った。

ごめんなさいと謝ると、また困った顔をした。

俯くと、エヴァお姉ちゃんがまた頭を撫でてくれた。

 

 

「お前のお母様は、仕事が忙しいんだ・・・すまないな」

「マスター、それは最悪の慰め方かと」

「う、うるさいっ」

 

 

かぁさまは、「おしごと」で忙しい。

かぁさまを困らせるのは、良くないこと。

僕が良い子にしていないと、かぁさまが困る。

 

 

かぁさま、かぁさま・・・。

僕、良い子にしてるよ。

でも、かぁさまに会いたい。

 

 

 

 ◆ ◆ クルト・ゲーデルの場合 ◆ ◆

 

朝ご飯の後は、お勉強の時間。

たくさんご本を読んで、お勉強をする。

かぁさまはたくさんの絵本をプレゼントしてくれているから、それを読んで過ごす。

 

 

「これはこれは王子殿下、ご機嫌麗しゅうございます」

「・・・こんにちは、クルトおじさん」

「おや、絵本ですね。ふむ・・・王子殿下は、このような物には興味がおありですか?」

 

 

今日は、クルトおじさんがやってきました。

紙の束をたくさん持って、ひょっこりと僕の部屋に。

 

 

「おわかり頂けますでしょうか、王子殿下。ここが殿下のお国でございます」

「おくに・・・?」

 

 

クルトおじさんは、変な人。

難しいことをたくさん言うけど、ほとんど良くわからない。

でも、かぁさまを褒めてくれるのは嬉しい。

だけどかぁさまは、「そこまでじゃ無いですよ」って言っていた。

 

 

今日はクルトおじさんが、僕に世界地図を見せてくれた。

難しい字はまだ上手く読めないけれど、絵ならわかる。

クルトおじさんは、地図の真ん中あたりを指差していた。

 

 

「ここ・・・?」

「はい、ここにございます。ここに殿下のお城・・・お家があるのでございます」

 

 

ニコニコしながらクルトおじさんが指差した場所は、赤い色で塗ってあった。

地図の真ん中に、小さな赤い「おくに」。

ここが僕のお家だと言うのは、良くわからないけど。

 

 

「より厳密に言えば、オスティアにございますね」

「おすてぃあ、は・・・知ってる」

「流石でございます、殿下はお母君に似て聡明でございますね」

「・・・ん」

 

 

褒められた、恥ずかしい。

その後は、クルトおじさんはいろいろな「おくに」の話を聞かせてくれた。

えと、「ありあどねー」とか「へらす」とか「めがろめせんぶりあ」とか・・・。

 

 

絵本でしか見たことの無い乗り物とか動物とか、たくさんあるんだって。

クルトおじさんは、かぁさまはほとんど全部の「おくに」に行ったことがあるって言った。

僕はおすてぃあの他は良く知らなくて、外のことは良くわからないけど。

 

 

「僕も、かぁさまと一緒に行きたい」

 

 

そう言うと、クルトおじさんはにっこりと笑ってくれた。

何だか、ちょっと怖かった。

 

 

「ええ、近い内に全てが殿下のお庭になりますので。その時はどこでも殿下のお気の召すままに、お出かけすることができますよ」

「ほんとう?」

「ええ、もちろんにございます。このクルト・ゲーデルは嘘を申したことが無いと巷で評判の男にございますれば・・・ああ、その地図は差し上げます。どうぞ色塗りにでもお使いくださいませ」

「うん・・・えと、ありがとうございます」

「いえいえ・・・ではでは」

 

 

いつか、かぁさまと一緒にいろんな「おくに」に行きたい。

地図を眺めながら、僕はそう思った。

 

 

「あ、クルト宰相・・・こちらにおいででしたか」

「やぁ、茶々丸さん」

 

 

茶々丸がやってきて、クルトおじさんと何か話し始めた。

本当は、クルトおじさんはあんまり好きじゃない。

クルトおじさんが来ると、かぁさまの「おしごと」が増えるって僕、知ってるから。

 

 

僕は机からクレヨンの赤色を取って、手に握る。

そして、クルトおじさんに貰った地図の他の白い部分を赤く塗っていった。

 

 

 

 ◆ ◆ フェイトガールズの場合 ◆ ◆

 

お勉強をして、お昼ご飯が終わった後は、お昼寝の時間。

ちゃんとお昼寝をしないと、後で眠くなってしまうから。

でも、今日はあんまり眠く無い。

 

 

「お昼寝、したく無い・・・」

「えぇ~、ダメですよ殿下。ちゃんとお昼寝してくださらないと」

「この間も、晩御飯が食べられなくなってお母様に叱られたでしょう?」

 

 

そうしたら、暦と調がちゃんと寝るようにって言ってきた。

でも今日は、本当に眠くない。

だから今度は、大丈夫。

 

 

「大丈夫じゃありません、ちゃんと寝てくださいましね?」

「・・・」

「殿下、ちゃんと寝る」

 

 

暦が腰に手を当てながら、そして環が僕を着替えさせながらそう言う。

着替えた後も僕が黙っていると、焔が僕を抱っこしてくれる。

焔の身体はとても温かくて、他の人よりもヌクヌクする。

 

 

「仕方ない、眠くなるまで何かお話でもしましょうか?」

「・・・ん」

「ああっ、環ズルい!」

「何がだ、何が・・・」

 

 

僕は焔にベッドの上に降ろされて、枕元のチャチャゼロの隣に座る。

その時、焔がポンポンと頭を撫でてくれて、嬉しい。

すると栞がホットミルクを持ってきてくれて、僕はそれをクピクピと飲む。

 

 

栞のホットミルクは、茶々丸のホットミルクとはちょっと違う味がする。

どうしてって聞いても、栞は教えてくれない。

いつも「禁則事項です」って言って、もう少し僕が大きくなるまで内緒って言う。

よく、わからない。

 

 

「さて、今日はどんなお話をしましょうか」

「ん~・・・童話とか?」

「・・・絵本とか」

 

 

焔や環、暦が僕の絵本をいくつか持ってきている間に、調が僕の頭を撫でてくれた。

調が頭を撫でてくれると、とても良い気持ち。

お庭にいる時みたいな、気持ち良い感じ・・・。

 

 

「・・・さぁ、今日もお休みなさいませ」

「うん・・・」

 

 

ミルクのカップを栞に渡した後、調がシーツをかけてくれる。

その間も、お庭にいる時みたいな気分は続いてる。

とっても、安心できる。

 

 

「はい、じゃあ今日はガ○バー旅行記と○太郎ですよー」

「・・・定番?」

「まぁ、定番だな」

 

 

それから、皆に囲まれてお昼寝をした。

皆が、僕に絵本を読んでくれた。

茶々丸もだけど、皆も優しい。

 

 

皆が、とても好き。

僕がそう言うと、皆が笑って僕をぎゅってしてくれた。

でも、「ふぇいとがーるず」って呼ぶとダメって言われる。

・・・どうしてだろう?

 

 

 

 ◆ ◆ アリカ・アナルキア・エンテオフュシアの場合 ◆ ◆

 

ここは、どこ・・・?

広いお部屋、机の上にはたくさん紙がある。

そのお部屋にはエヴァお姉ちゃんやクルトおじさん、茶々丸がやってくる。

 

 

机の椅子には誰かが座っていて、白い羽根のペンが揺れてる。

何をしているのかは、わからないけど・・・でも。

そこにいるのは、か・・・。

 

 

「・・・」

 

 

・・・もぞ、と動くと、スベスベしたシーツの感触が顔に当たる。

誰かに頭を撫でられたような気がして、起きた。

眼を開けて、ゴシゴシと目を擦ると・・・。

 

 

「む・・・お、起こしてしもうたかの?」

「いえ、そろそろ起きて頂こうと思っていたので」

「・・・ふみゅ・・・」

 

 

誰かの声と、茶々丸の声。

ベッドの上で起きると、そこにはアリカおばぁさまがいた。

金色の髪に青と緑の目の、僕のおばぁさま。

僕の頭を撫でてくれていたのは、おばぁさまだったみたい。

ベッドの横に座っていたおばぁさまに、抱きつく。

 

 

「おばぁさま・・・」

「ん・・・どうしたのじゃ?」

 

 

ぎゅって抱きつくと、おばぁさまにはかぁさまみたいな温かさがある。

僕を抱き締めてくれて、頭の後ろを優しく撫でてくれる所も一緒。

僕が顔を胸に擦り付けると、ぎゅってしてくれる所も。

 

 

「かぁさまの、夢を視ました」

「・・・そうか」

 

 

さっき、かぁさまがいたような気がする。

朝も、お昼寝の時も・・・かぁさまの夢。

かぁさま、かぁさま・・・。

 

 

「かぁさまに、会いたいです」

 

 

僕がそう言うと、おばぁさまは凄く困った顔をした。

僕がかぁさまに会いたいと言うと、皆が困った顔をする。

僕は、とてもよくないことを言っているみたい。

 

 

「そうじゃな・・・母に会いたかろうな」

「・・・うん」

「うむ・・・じゃが、その、主の母は忙しい上、今は少し身体が・・・」

「・・・ん」

 

 

おばぁさまの胸に顔を埋めると、おばぁさまの手が僕の頭を撫でてくれる。

かぁさまは、「おしごと」が忙しい。

だから、僕と一緒にいてくれない。

「おしごと」が終わらないと、会えない。

 

 

「・・・かぁさまには、夜に寝る前にしか会えないです」

「うむ・・・寂しいかの?」

「ん・・・」

「・・・そうか。じゃが王族たる者、そうした感情を内に閉じ込めねばならぬ。主にはまだ難しいかもしれぬが・・・」

 

 

だから、かぁさまを困らせないように良い子にしてないといけない。

僕は、かぁさまが大好きだから。

 

 

「・・・はい」

「・・・うむ、良き子じゃ」

 

 

最後にぎゅってして、おばぁさまから離れる。

ゴシゴシと目元を擦って、それで・・・。

 

 

「何なら、ウチ来るかぁ?」

「・・・おじぃさま」

「・・・それ、まだ慣れねぇなぁ」

 

 

おばぁさまから離れると、ナギおじぃさまがドアの所にいた。

僕はベッドから降りて、とてとてと走っておじぃさまにも抱きついた・・・。

 

 

 

 ◆ ◆ 龍宮真名の場合 ◆ ◆

 

僕の家からおじぃさま、おばぁさまの家までは遠いから、お馬さんの乗り物に乗っていく。

おじぃさまとおばぁさまは別の乗り物、僕は1人で乗る。

一緒に乗ると、「しめしがつかない」から。

 

 

「ケケケ、バシャッテイウンダゼ」

「うん・・・ばしゃ、お馬さん」

 

 

でも、チャチャゼロも一緒だから寂しくない。

カタカタと笑って、僕の横に座ってる。

でも、他の人にはチャチャゼロのことは「内緒ですよ」って、かぁさまが言ってた。

 

 

それと、「ばしゃ」にはもう1人いる。

僕の前に座っている、黒い髪のお姉さん。

ちょっと、怖いお姉さん。

 

 

「・・・うん? どうかしたのですか、王子様?」

「ううん。何でも、無いです」

「そうかい」

 

 

僕の「ごえい」の、マナお姉さん。

かぁさまとも仲が良くて、ちょっと怖いけどカッコ良いお姉さん。

じぃっと見つめていると、マナお姉さんも僕を見つめてくる。

 

 

「何でしょうか、王子様?」

「何でも、無いです」

 

 

マナお姉さんが、クスクスと笑った。

・・・恥ずかしい。

僕は、チャチャゼロを前に押す。

 

 

「コラコラ、オスナオスナ」

「ふふ・・・可愛いですね、王子様は」

「・・・ん」

「ケケケ・・・」

 

 

ガラガラと揺れる「ばしゃ」の中で、マナお姉さんとチャチャゼロが笑った。

・・・恥ずかしい。

 

 

「・・・王子様、ナギ様とアリカ様が好きですか?」

「・・・うん、おじぃさまとおばぁさま、好き」

「そうですか。まぁ、嫌いよりは良いでしょうね」

 

 

ナギおじぃさまとアリカおばぁさま、優しいから好き。

一番はかぁさまだけど、おじぃさまもおばぁさまもとても好き。

かぁさまの、パパとママ。

 

 

「でも王子様? 王子様がナギ様とアリカ様のお家に行くのも、結構大変なんですよ」

「・・・ん」

「今はまだ良くわからないかもしれませんが・・・いつか、わかる時が来ると良いですね」

「・・・うん」

 

 

マナお姉さんは、時々クルトおじさんみたいに難しいことを言う。

でも、ちゃんと聞く。

かぁさまが、「お姉さんのお話はちゃんと聞くんですよ」って言ってたから。

 

 

「『水晶宮(クリスタルパレス)』から『蒼玉宮』まではすぐですから、もう少しお待ちください」

「・・・うん」

 

 

それから、マナお姉さんは眼を閉じて何もお話してくれなくなった。

マナお姉さんは、ちょっと怖いお姉さん。

でも、好き。

 

 

マナお姉さんも、優しいから。

だから、とても好き。

僕がそう言うと、マナお姉さんはちょっとだけ笑ってくれた。

 

 

 

 ◆ ◆ アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアの場合 ◆ ◆

 

おじぃさまとおばぁさまのお家は、僕のお家よりもちょっとだけ小さい。

僕のお家よりも大きなお家を見たことが無いから、良くわからないけど。

壁に大きな穴の開いているお部屋で、おじぃさまとおばぁさまが遊んでくれる。

 

 

「おばぁさま、コレはなぁに?」

「それは暖炉じゃ、冬に薪を燃やすのを見たことがあろう。覚えておらぬか?」

「あれ? 暖炉って使ってたっけか?」

「主が忘れてどうする・・・」

「いやぁ、だって最近は普通に空調機(エアコン)使うしよ」

 

 

おじぃさまとおばぁさまは、とても仲良し。

とぉさまとかぁさまの次くらいに、いつも一緒にいる。

いつもは、とぉさまとかぁさまと同じでとても忙しい。

 

 

でも今日は僕と遊んでくれる、嬉しい。

おじぃさまのお膝の上で絵本を読んだり、おばぁさまと積み木で遊んだりする。

チャチャゼロとも、ボール遊びをした。

 

 

「・・・あっ」

 

 

僕がボールを受け取り損ねて、ボールがコロコロと転がっていった。

そのボールはお部屋のドアの隙間から外に出てしまって、僕もそれを追いかけて行く。

とてとてと走って、ドアの隙間から手を伸ばすと・・・。

 

 

「・・・はい」

「あ・・・ありがとう、ございます」

 

 

かぁさまの言い付け通りに、ボールを拾ってくれたお姉さんにお礼を言う。

廊下に立っていたお姉さんは、オレンジ色の綺麗な髪のお姉さんだった。

お姉さんは僕にボールを返してくれて、僕から離れる時に頭を撫でてくれた。

 

 

「・・・気を付けて」

「うん・・・わぁ、わんわん?」

 

 

お姉さんの横に、ネズミさんみたいな色のわんわんがいた。

僕よりもお姉さんよりも大きなわんわんで、ちょっと怖い。

 

 

「・・・わんわんじゃない、狼」

「おおかみ?」

「・・・カムイ」

「かむい?」

「・・・そう」

 

 

そう言って、お姉さんはどこかに行ってしまった。

だけどわんわん・・・かむいは、そのままだった。

じーっと僕を見て、ぺろんっとほっぺを舐められた。

 

 

「くすぐったい」

「・・・(ペロペロ)」

「うふっ、うふふふふっ、くすぐったい!」

 

 

かむいはとっても大きなわんわん、僕を背中に乗せても全然平気。

のっしのっしと部屋の中を歩いてくれて、凄く楽しかった。

ボール遊びもできるし、積み木遊びもできるんだ。

 

 

かむいと一緒に遊んで、かむいが好きになった。

それにかむいは、とってもモフモフ。

抱きついてスリスリすると、とっても温かい。

僕はずっとかむいにスリスリして、それで、何だか・・・ねむ・・・く・・・・・・。

・・・かぁさま・・・。

 

 

 

 ◆ ◆ アリア・アナスタシア・エンテオフュシアの場合 ◆ ◆

 

かぁさま、かぁさま・・・。

僕が呼ぶと、かぁさまはにっこりと笑ってくれる。

たくさん呼ぶと、かぁさまはもっとニコニコしてくれる。

 

 

かぁさまは、いつも「おしごと」でとっても忙しい。

だから皆、僕がかぁさまに会いたいって言うと困った顔をするの?

僕は、かぁさまに会っちゃいけないのかな。

 

 

「・・・かぁさま・・・」

 

 

茶々丸もチャチャゼロも、暦も環も・・・皆、優しい。

優しいから、僕は皆がとても好き。

でも・・・。

 

 

やっぱり、かぁさまが良い。

かぁさまに会いたい。

かぁさまと、もっと一緒にいたい。

 

 

「かぁさま」

 

 

かぁさまと、もっとたくさんお話したい。

もっと、一緒に遊びたい。

でも僕は「おうじさま」だから、我慢しなくちゃいけない。

 

 

やっぱり、僕がかぁさまと会っちゃいけないのかな。

かぁさまは、僕と一緒にいたく無いのかな。

かぁさま、かぁさま・・・。

 

 

「・・・かぁさまぁ・・・」

 

 

いつものシーツとは違う、モフモフした何かにスリスリする。

かぁさまに会えなくて、寂しい。

でもかぁさまは「おしごと」が忙しいから、我慢しなくちゃいけない。

 

 

「・・・ぐすっ・・・」

 

 

かぁさまを困らせるのは、良くないこと。

だから・・・だから、だから。

・・・ふぇ。

 

 

「かぁさま・・・」

「・・・はい、何ですか?」

「・・・!」

 

 

ネズミ色のモフモフから、顔を上げる。

僕はかむいのモフモフに包まれていて、それで、えっと。

その中から、かぁさまが僕を抱っこしてくれた。

かぁさまが両手で僕を抱っこして、頭を撫でてくれて・・・。

 

 

「・・・かぁさま?」

「はい、お母様ですよ」

「・・・かぁさま!」

 

 

両眼を手でグシグシと擦って、それからかぁさまに抱きつく。

ぎゅってすると、凄く良い匂いがする。

グリグリと顔を擦りつけると、凄くポカポカする。

 

 

「かぁさまっ、かぁさまっ」

「今日は、いろんな人に遊んで貰ったんですね?」

「あ・・・えと、ごめんなさい・・・」

 

 

僕が謝ると、かぁさまは凄く困った顔をした。

困らせた、どうしよう。

どうしよう、かぁさまを困らせた。

 

 

「・・・ファリア」

「あ・・・とぉさま」

 

 

とぉさまも近くに来て、僕を見た。

僕はかぁさまの胸に顔を埋めて、とぉさまから隠れる。

とぉさまは好きだけど、怒るから怖い。

かぁさまを困らせると、とぉさまに怒られる・・・。

 

 

「・・・ファリア、ファリア。お父様も私も、怒っているわけじゃ無いですよ」

「・・・・・・ほんとう?」

「はい、本当です」

 

 

・・・かぁさまの胸からちょっとだけ顔を上げると、かぁさまがニッコリしてた。

とぉさまも、怒って無い?

すると、かぁさまが僕をぎゅってしてくれた。

 

 

「・・・さ、今日はどんなことがあったのか、お母様に教えてくれませんか?」

「・・・・・・うんっ」

 

 

かぁさま、かぁさまっ。

僕はかぁさまに抱きついたまま、えと、今日のことを教えてあげる。

えっと、えっとね・・・!

 

 

それから、かぁさまとたくさんお話をした。

とぉさまにも、それにかぁさまのお腹にいるって言う弟か妹にも・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア・アナスタシア・エンテオフュシア(20歳・妊娠6カ月)

 

ファリアが産まれた時、可能な限り傍にいてあげたいと願いました。

私自身があまり親の愛情を受けずに育ったと言うのもありますが、何より可愛いので。

でも、現実には思うように傍にいてあげることができていません。

 

 

前世でも今でも、子供の傍にいてあげない大人、と言うのを軽蔑していた時期がありました。

でも自分が大人になって子供を持つ身になって初めて、時間に対する不自由さを知りました。

傍にいてあげたいと言う想いと実際そうできる時間は、必ずしも比例しないのだと言うことを。

 

 

「・・・ファリアには、寂しい想いをさせています」

 

 

深夜10時、すっかり寝付いたファリアの頭を撫でながら、私は息を吐きます。

今日は育児部屋(ナーサリールーム)で無く、私とフェイトの寝室で眠らせています。

ベッドの上で私の膝を枕に眠る小さな身体は、とても温かくて、柔らかい。

 

 

「ここの所、国内外で難しい案件が立て続けにあったからね。仕方が無い」

「・・・仕方が無い、で済ませたくは無いのですけど」

 

 

フェイトの言葉に、また溜息を吐いてファリアの頭を撫でます。

ファリアは聡い子です、だから自分が我慢しなければならない立場だと言うことを感覚的に理解しつつあるのだと思います。

でも、やはりまだ3歳です・・・今日のように、寂しくて泣いてしまうこともあります。

 

 

身の回りの世話は茶々丸さんや暦さん達がしてくれますし、それに今日のように、お母様達が休息時間を利用して気にかけてくれたりもします。

王宮内であれば、ファリアもそれなりに自由にできるのですが・・・。

 

 

「この子が産まれて、落ち着いたら・・・やっぱり例の件をできるだけ早く進めましょう」

「・・・そうだね」

 

 

プライバシーと安全性を確保された離宮か別荘を、どこかに作ろうと言うエヴァさんの案に乗ることにします。

オスティアや国内の離宮では、私達は常に他者の目に晒されてしまいますから。

ファリアを甘えさせてあげることも、思うようにできませんし・・・。

 

 

旧世界のウェールズか麻帆良、たぶん後者。

私達の、思い出のあの場所・・・旧世界なら、魔法世界側の目をシャットダウンすることもできますし。

でも、あまり私が座を離れることもできませんし・・・それに。

 

 

「ファリアも、楽しみにしているようですし・・・」

 

 

さっきまで今日あったことを一生懸命に話しながら、私のお腹を撫でていたファリア。

お兄ちゃんになる、と言うことを具体的にわかっているのかはわかりませんが。

いずれにせよ、楽しみにしてくれていることはわかります。

 

 

私とフェイトの、2人目の子供。

もうすぐ7カ月、ここからが大変な時期ですね。

膨らんできたお腹では、ファリアを抱っこするのも一苦労ですから。

 

 

「・・・かぁさま・・・」

 

 

眠りながら、私の膝に顔を擦りつけて私を呼んでくれるファリア。

それがいじらしくて、可愛くて・・・頭を撫でずにはいられません。

可愛い、私の息子。

寂しい想いをさせて、ごめんなさい。

 

 

「・・・寝ようか」

「はい、そうですね・・・」

 

 

灯かりを消した後、私とフェイト、ファリアの3人で川の字になって眠ります。

・・・1つのベッドで眠る際も、川の字って言うのでしょうか?

とにかく、私とフェイトの間にファリアが入る形で眠ります。

 

 

ちゅっ・・・と、まずはフェイトとおやすみのキス。

それからフェイトと2人でファリアの頬にキスを落として、ファリアの幸福を祈ります。

おやすみなさい、良い夢を・・・。

 

 

「愛してる、私達の可愛い子・・・」

 

 

耳元で囁きかけて、抱き締めながら眠ります。

すり寄ってくるファリアの顔が、笑うのを見つめた後。

私も、眼を閉じました。




アリア:
アリアです・・・この方式は物凄く久しぶりな気がします。
20歳になりました、読者の皆様と出会ってから作中時間で10年経ったと言うことができるかもしれませんね。

最近は国政とかよりも、子育てに悩んでいます。
子供の傍にいるなんて簡単なことのように思っていましたが、思ったよりも難しいことだと気付きました。
やるべきこととか義務を放置して子育てに没頭できないのが、酷く辛いです。

いえ、私は良いのですがファリアが・・・下の子が産まれたら、本当にどこかで家族の時間を持ちたいですね。
オズボ○ンとは言いませんが、どこか・・・家族水入らずで遊べる場所が欲しいです。

と言うわけで、次回。
旧世界・別荘・・・久しぶりに登場の予定です。
・・・子供達と、交流できると良いのですが。
それでは、またお会いしましょう。

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