魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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今回からプラム様・Fligel様・ライアー様の要素が入る予定です。
では、どうぞ。


アフターストーリー第25話「11月の憂鬱」

Side ラカン

 

あー・・・と口を開けて、右手に持ったフランクフルト・ソーセージを勢い良く噛み千切る。

マスタードがたっぷりついていて、なかなか美味いぜ。

やっぱ宮廷のチマチマした飯じゃ、腹が膨れねぇからな。

 

 

提供はラカン財閥、より正確にはラカン食品株式会社だ。

帝都からの脱出も、財閥の株式会社ラカン物流の手伝いで成功したからな。

いつでも逃げ出せるようにしておくもんだな、備えあれば何とやらだぜ。

・・・あ? バカ言え、オーナーは俺じゃねーよ。

 

 

「んー・・・良い感じに燃えてるじゃねーか」

 

 

俺は今、ちょっとした岩山の上にいるんだが・・・目の前の小さな盆地には、3隻ほどの帝国駆逐艦が沈んでやがる。

ゴウゴウと音を立てて燃えてるそれは、まぁ、俺が沈めた。

それも一撃で、3隻ともな。

 

 

何か知らねーが、攻撃してきやがったんだからしゃーねーだろ。

俺一人ならともかく、連れがいるんじゃなぁ。

コルネリアとトゥペーロのおっさんは、ラカン財閥の奴らがプロメテ方面からアリアドネーに抜けさせる手はずになってる。

俺らは逆に、アルギュレー方面からじゃじゃ馬(テオ)の勢力圏に入るつもりだ。

 

 

「・・・っと、追加が来たら面倒だな」

 

 

さっさと移動するか・・・ここはアルギュレーの南端、ガレ湖の近くだ。

じゃじゃ馬(テオ)の軍がアルギュレー北部に集結してるってラカン通信株式会社から聞いてるからな。

一応、そこに向かってみるつもりなんだが・・・あー、面倒くせぇな。

俺一人なら、要塞でも戦艦でも正面突破なんだけどなー。

 

 

「よーっす、飯は食ったか・・・って、何してんだオイ」

 

 

いくつか小さな岩を越えた先に、岩をくり抜いて作った洞窟がある。

その中に、ラカン家具に用意させた簡易ベッドと焚火の跡があるんだが・・・。

・・・灰色のローブを着こんだ義姉貴(あねき)が、焚火の跡の前で途方の暮れてやがった。

 

 

帝都での綺麗な絹の服とかは、逃亡中には無理だからな。

そこは我慢してくんねーと、でも今はそんな感じじゃねーやな。

ローブの間からサラリと流れる金の髪と、何故か俺と違って煤一つつかねー褐色の肌、赤い瞳。

そしてその手には・・・俺がさっき食ってたのと同じ、フランクフルト・ソーセージ。

・・・いや、何でまだ朝メシ食ってねーんだよ。

 

 

「・・・あの・・・これ・・・どうやって食べれば・・・」

「ありがちだなオイ!」

 

 

そんなモンお前、ガッと食やいーだろ、じゃじゃ馬(テオ)は普通に食ってたってーの。

 

 

「・・・ナイフと・・・フォークは・・・」

「ねーよ! てか、いい加減に慣れようぜ、一ヵ月以上経ってんぞー?」

「・・・はぁ・・・」

 

 

この一ヵ月間はアレだ、こいつのお嬢様ぶりに呆れた回数の方が戦闘より多かったぜ。

まぁ、神殿から出たことが無いってんだもんなーコイツ。

ある意味、じゃじゃ馬(テオ)以上の箱入りか・・・?

 

 

義姉貴(あねき)はそれからたっぷり一分間は考え込んだ後、ようやく小さく口を開けた。

それから、両手で持ったソーセージの先にゆっくりと口を付ける。

それはそれは、もう本当に微々たる齧り付きなもんで・・・。

 

 

「・・・いや、食う気あんのか、お前」

「・・・大きくて・・・」

「いやいやいや・・・ソーセージ一本食うのに何時間かけるつもりだよ」

「・・・初めて・・・ですから・・・」

「マジで!? どんだけ箱入りだよ!?」

 

 

まー、普段は庶民のソーセージなんざ口にはしないんだろうけどよ。

でも、なんつーか・・・何か、違うだろ。

はぁ・・・いつになったら出発できるかわかったもんじゃねーな・・・。

 

 

 

 

 

Side テオドラ

 

編成し直してみれば、妾の指揮下に入る帝国軍はそれなりの数にはなった。

ただしそれは書類上のことであって、実際にアルギュレー北部に全軍が集結するには1ヵ月は見なければならん。

さらに寂しいことに、妾の命令が十全に届くのは帝国全軍の3割に満たない。

 

 

・・・6年前のリィ・ニエのクーデターの時にすら及ばぬ。

まぁ、それでも少なからぬ軍将校が妾に忠誠を尽くすと言ってくれておるし、有難く思わねば。

ただ不思議なのは、これだけの危機にあって兵士達の士気が高い気がするのは何故じゃろうか。

 

 

「嬉しいのでしょう」

 

 

クワンに問うてみた所、予想外の声が返って来た。

祖国を失ったも同然じゃと言うのに、何が嬉しいのか。

 

 

「僭越ながら、陛下はこれまで何かあるとラカン殿下のみを頼って参りました。それは結果として正しく、また犠牲も少ない選択であるとは思います。しかし、それでは我ら軍は何のために存在しているのですか」

「それは、帝国の民を守るためであろう?」

「然りです。そう、我らは帝国の民を守るために存在します。しかし陛下はラカン殿下の力のみで帝国を守ろうとなさいました。それは・・・我らの存在意義を否定するに等しい行為なのです」

 

 

ジャック一人で、大概のことはどうとでもなる。

しかしそれは帝国軍や文官の仕事を奪い、自尊心を傷つけ落ち込ませることに繋がる。

結果として、それが犠牲を増やすことになるとしても・・・彼らは、自分を頼ってほしいと思っている。

 

 

・・・クワンのその言葉は、妾にとっては酷く新鮮な物に思えた。

思えば26年前から紅き翼(アラルブラ)の連中ばかりと付き合って、皇族としての認識が弱まっていたのやもしれぬ。

元々、紅き翼(アラルブラ)の連中を重宝するようになったのは緊急避難的処置であったはずなのにな・・・今でこそ、仲間意識が強くあるとは言え。

 

 

「それと陛下、アリアドネーの帝国大使館経由での報告がございます」

「何じゃ」

「コルネリア補佐官とトゥペーロ補佐官の両名が、無事に帝国領を抜けてアリアドネー領に入ったそうです」

 

 

アルギュレー北部、旧連合領ヴァルカン近郊の野営地で、妾は軍の陣頭指揮を取っておる。

とは言え、実務的な指揮は全てクワンが執っておるわけじゃがな。

それにしても・・・そうか、コルネリア達も無事であったか。

・・・良かった。

 

 

「・・・ジャックは、今はどこにおるのじゃろうな」

「・・・」

 

 

口に出してみたその問いに、クワンは答えぬ。

当然じゃ、妾は答えを求めてはいないのじゃから。

第一、ラカン財閥経由で定期的にジャックからの連絡は受けておる。

 

 

いつ、どこでどうしているのか、そしていつ頃ここに到着するのか。

・・・誰と、いるのかもの。

 

 

 

 

 

Side セラス

 

帝国の内乱への介入に関しては、アリアドネーは原則として中立を貫くことになるわね。

王国・帝国側からの出兵要請も無いし、あったとしても容易に受諾することはできない。

中立を国是に据えている以上、容易に旗色を鮮明にすべきでは無いから。

 

 

ただ同時に、分裂した帝国と言うのも容認はできない。

オスティアでの首脳会談では、同時に「一つの帝国」の原則も再確認されたから。

帝国全土を統治する権限は、ヘラス帝国及びヘラス皇帝にのみ認められる。

これは王国側のリップサービスと見るか、帝国側の外交的勝利と見るかで見解が変わるけど・・・。

 

 

「建前としては、統一帝国を支持せざるを得ないわ」

 

 

アリアドネーへの帰還途上、私は移動用の政府専用機の中で後継者候補にそう説明する。

噂では、王国のクルト宰相も秘書の一人に後継者教育を施しているとか。

世代交代の波が、近くまで来ているのかもしれないわね。

 

 

私の後継者候補は、未だ戦乙女旅団の騎士服を着た5人の娘。

エミリィ・セブンシープを筆頭とする、かつて女王アリアやマクダウェル尚書とも関わりがあった娘たちよ。

バロン先生の大使就任挨拶の際に、外交的な顔見せデビューを果たしてもいる。

 

 

「む、難しいニャ・・・国際情勢は複雑怪奇ニャ・・・」

「フォン・カッツェ! 情けないですわよ!」

「ええ~? じゃ、委員長にはわかるの?」

「委員長じゃありません! このくらい当然ですわ!」

 

 

・・・今はまだ、学生の気配が残ってるけどね。

でもセンスは悪く無いわ、いずれはこの5人がアリアドネーをリードすることになるはずよ。

私の目が、正しければね。

 

 

『総長、本国より通信です』

「何かしら、帝国の補佐官の件なら聞いているけど?」

『いえ、それとは別のようです』

「・・・? 繋げて頂戴」

『はっ』

 

 

機長経由で繋がった通信画面には、アリアドネーの一般騎士が映っていたわ。

階級は高そうだけれど、一般騎士の通信が私に繋がるのは珍しいわね。

5人の娘達も、今は静かにしてくれているわ。

 

 

『帝国国境警備隊より、報告であります』

「何か?」

『プロメテの帝国軍と反政府武装勢力が国境付近で衝突、帝国軍に40名の死者が出たそうです』

「・・・こちらに来るかしら?」

『現在の所、その兆候は見られません。一時国境に近付きましたが、双方に警告を発した所、撤退しました』

「そう、ご苦労様」

 

 

まぁ、国境付近で戦闘があったのは憂慮すべきだけれど・・・。

でも、それだけで私に繋ぐ理由にはならないわね。

他にも、何かあるわね。

 

 

「それから?」

『は・・・それに関連して、我が国の精製工場に隣接する鉱山数ヵ所が同反政府武装勢力数百名に襲撃され、事務所や車両を破壊した模様です』

「・・・そう」

『現地のアリアドネー人65名の安否は確認できましたが、我が軍に保護を求めています。・・・いかがすべきでしょうか?』

 

 

・・・その報告に、私は冗談では無く頭を抱えたわ。

帝国領内のアリアドネー人の保護のためには、騎士団を越境させなければならない。

中立を宣言したばかりなのに・・・。

 

 

・・・とは言え、保護を求めてきている以上、無視はできない。

サバ地域では、王国軍が同じような立場で戦っているはずだけれど・・・。

 

 

 

 

 

Side グリアソン

 

元々、王国・帝国の国境は双方の多数の兵力が睨み合う緊張地帯ではあった。

女王陛下とヘラス皇帝の間で友誼が結ばれていたとしても、互いに相手こそが自国に比肩し得る軍事大国であることを承知していたのだろう。

 

 

「・・・まぁ、まさかヘラス皇帝の承認を得てヘラス領内に侵攻するとは思わなかったが」

「確かに、冗談しては出来過ぎておりますな」

「まったくだ」

 

 

幕僚の声に笑みを浮かべるが、自分でも少し笑みが強張っていることを自覚せざるを得ない。

何せ、冗談にしては本当に質(タチ)が悪いのだからな。

帝国側には、過去5年間で建造された難攻不落の要塞線が存在する。

 

 

要塞線を三重にした縦深陣地群がそれであって、それぞれの要塞線に3つないし2つの要塞がある。

合計8つの要塞があり、帝国側はこの要塞線のためにのべ150万人の労働力と合計6億ドラクマをかけたとされる。

ただし毎年の維持費に帝国軍事費の47%がかかるため、帝国軍の近代化を遅らせる要因にもなった。

おまけに要塞線を機能させるには大量の兵力が必要なので、他の方面への機動的な兵力移動ができない。

 

 

「結果、軍事費が財政を圧迫する好例を生んでしまったわけだが・・・」

「しかし総司令官、あの要塞線を正面から抜くのには骨が折れますぞ」

「そんなことは、わかっている」

 

 

平時には金食い虫でも、戦時には効果を発揮するのは目に見えている。

要塞線の合計全長は約2000km、エネルギー供給施設と弾薬庫は地下深くにあり、要塞前面には対戦闘車両・対歩兵用の鉄骨・鉄条網地帯「竜の歯」、要塞前面の壁の熱さは350㎝以上、さらに各区画は装甲鉄扉で区分されている。

それから、20万の兵力と合計3万以上の砲塔・・・。

 

 

俺の手持ちの兵力は陸軍・艦隊戦力の合計で約5万。

だが、正面から攻略にかかればかなりの犠牲を覚悟しなければなるまい。

・・・正面からなら、な。

 

 

「帝国軍の奴ら・・・いや、もう帝国軍じゃ無いんですかね? とにかく、出兵の条件に要塞線の図面を提供させたなんて夢にも思っていないでしょうね」

「ああ・・・」

 

 

実際、俺の司令部の指揮用端末には敵要塞線の全図面がインプットされている。

強い所から弱い所まで、全てが筒抜け。

まぁ、100%信用はできんだろうが・・・要塞を攻略する上でこれ程の優位はあるまい。

帝国の分裂で、敵兵が一枚岩でいられるかも重要だ。

 

 

だが、どうも腑に落ちんな。

この度の出兵は、女王アリア即位以降の未曾有の経済発展の果実を失いたく無いと言う民の焦りから生まれた物のはずだ。

ならば何故、資源地帯のシルチスでは無くサバに我が軍を侵攻させるのか・・・。

・・・あのクルト・ゲーデル、何を考えているのやら。

 

 

 

 

 

Side ヘレン・キルマノック

 

この人は本当に、何を考えているのだろう。

宰相付きの秘書官として働くことになってから、もう何回この人のことを考えたんだろう。

でも、私は一度だってこの人の意図を見抜けたことは無いです・・・。

 

 

「ええ、安心してください皆さん。大丈夫、皆さんの資産の返却に就いては政府が責任を負いますよ」

「ほ、本当でしょうな、宰相閣下」

「サバの工場が動かないと、銀行の負債が・・・」

「もちろんですとも。政府としても皆さんの功績を高く評価しておりますので」

 

 

クルト宰相はニコニコ笑顔ですが、その実、何を考えているのかはさっぱりです。

王国軍のサバ侵攻を聞き付けて押しかけて来た財界人の方々を前にしても、笑顔を崩しません。

彼らはサバ地域に投下した資本の補償を求めていて、クルト宰相はそれについては確約しました。

サバ地域には過去5年で累計455件、27億ドラクマの投資が行われていますから。

でも、戦争なのにお金の心配と言うのもあまり・・・。

 

 

「固定要塞など、人類の作った愚かな記念碑でしかありません。グリアソン元帥ならば1カ月でサバを制圧してくれることでしょう」

「そ、そうですか、それなら・・・」

「しかし、それでも数カ月後には原料不足で恐慌が起こりかねない。資源地帯にまで軍を広げるべきでは無いのか」

「国内の物価も、今月は先月比で2%増だ。インフレの兆候が出ているのでは・・・」

「まぁまぁ、皆さん落ち着いて」

 

 

・・・でも経済界はサバ地域の奪還と同時に、シルチス・アルギュレーの穀倉・資源地帯の確保を求めています。

でもクルト宰相は軍事介入をサバ地域に限定して、シルチスは「イヴィオン」に、アルギュレーは帝国軍に任せてしまっています。

 

 

実はそのことで、クルト宰相は国内から攻撃されているんです。

国内の主戦派を抑えて、それでいて反戦派に迎合するわけでも無く。

左右の強硬派に挟撃されて、支持率がジリジリと下がっているんです。

ただでさえ、「極左主義者鎮圧法」の制定で人権派に責められているのに・・・。

 

 

「・・・やれやれ、潤いの無い時間でしたね」

「・・・お疲れ様です」

 

 

財界人の方々との会談を終えた後、私はクルト宰相にコーヒーをお出しします。

 

 

「戦時需要で儲けているくせに・・・いやはやまったく、ああ言う連中こそ最前線で死ねば良いですのにね」

 

 

何とも賛同し難い意見を出しながら、クルト宰相はコーヒーに口を付けます。

そしていつものように美味いとも不味いとも言わずに飲み干して、仕事を続行します。

気のせいか、アリア先ぱ・・・陛下が休養されるようになってから仕事量が増えたような気がします。

 

 

「・・・いや、アリア様が休養されていて助かりましたね」

「え・・・」

「でなければ、あの守銭奴共はアリア様の下に行ったでしょうから・・・」

 

 

・・・この人は本当に、何を考えているのだろう。

最近、私はクルト宰相のことばかり考えています。

お兄ちゃんに、怒られるかな・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

拝啓、さよさん・・・今になって、先月の段階で「休め」と言われた理由がわかるようになりました。

8ヵ月目に入って、お腹が急に大きくなったような気がします。

何か、胸とかお腹とか、いろいろと中から押し上げられているような気がするんですけど・・・。

 

 

何より以前から感じていたお腹の「重み」が、ここに来て凄いことに・・・腰、痛いんですけど・・・。

手とか足とかのむくみが酷くなって、何にもやる気が出ないんですけど。

 

 

「はいはい、大丈夫ですからねぇ・・・」

「あぁ・・・気持ちいーです・・・」

「この時期は、手首の靭帯がむくみやすくなりますからねぇ」

 

 

白髪混じりの金髪を頭の上で結っているお婆さん、ルーシア・セイグラムさんが、むくんだ私の手をお湯を入れた洗面器に浸して、マッサージしてくれます。

やたらに気持ち良いです・・・私は目を細めてホニャっとします。

 

 

ルーシアさんは、ほんにゃりとした雰囲気を持つお婆さんで、王宮付き医務官だった方です。

過去形なのは、すでに引退しているからです。

御年79歳、お母様の出産に立ち会った経験もあるとかで・・・お母様が呼び寄せてくれたそうです。

現在、一時的に復帰して私のケアを・・・お祖母ちゃんって、こんな感じでしょうか。

 

 

「はい、そろそろ終わりましょうねぇ」

「うぅ、もう少し・・・」

「ダメですよ陛下、あんまり長時間やるとお腹が張りますからねぇ」

 

 

うぅ、そんな殺生な・・・むくみ辛いですよぉ・・・。

・・・うぐ、な、何かお腹がモゾモゾと・・・。

 

 

「あらあら、大変。茶々丸さん、陛下をベッドに寝かせて差し上げてくださいな」

「はい、セイグラム先生」

「うぅ・・・私、死ぬんですか・・・」

「大丈夫ですからねぇ、少し赤ちゃんが疲れただけですよ」

 

 

穏やかに言われますが、私の気分は全く穏やかではありません。

だって、物凄くダルいんですもん・・・最初の頃の気分に逆戻り、憂鬱です。

違いは、最初の方はお仕事で誤魔化せましたが、今はそれも叶いません・・・しかも。

 

 

「茶々丸さん、苺・・・欲しい・・・」

「申し訳ありません。食事中以外の間食は侍医団に止められております」

「うぅ~・・・」

 

 

お腹の張りは、ベッドで横になれば多少は楽になります。

でも、最近とても甘い物が食べたくなるようになりました。

苺、食べたい・・・です。

 

 

「お腹の赤ちゃんが、糖分を欲しがっていますからねぇ」

「じゃあ、食べなきゃですねー・・・」

「でも食べ過ぎると、かえっていけませんからねぇ」

「我慢してください、アリアさん」

 

 

我慢・・・してますよー・・・凄く凄く、してますよー・・・。

お仕事したいです・・・でも、自分があんまり動けないこともわかってます。

自分の身体を、思うように動かせません。

凄く・・・ストレスです。

 

 

私のお仕事は、クルトおじ様とかお母様とか、お父様とか・・・フェイトとかが代行してくれています。

代行、できてしまっています・・・。

 

 

「・・・茶々丸さん、暑い・・・」

「はい、空調・・・は、ダメなので。仰ぎますね」

 

 

7ヶ月目と、8ヵ月目。

ただの1ヵ月の違いなのに、どうしてここまで違うのでしょう・・・。

・・・ズルい。

 

 

きっと今頃、皆、楽しくお仕事しているんでしょうね。

私はこんなに憂鬱なのに、ズルいです・・・。

 

 

 

 

 

Side リュケスティス

 

人が仕事を好きになる条件はいくつかあるが、その内の一つには順調さと言う物があるだろう。

自分の携わる事業が順調か、あるいは順調になりつつある場合、人はより積極的にその仕事に取り組もうとするだろう。

まぁ、中には我が女王のように、順調かそうでないかに関わらずやる気を刺激される変人もいるが。

 

 

エリジウム大陸の場合、とても順調とは言え無い部類に入るだろう。

特に南エリジウムは旧宗主国である帝国の混乱の影響をモロに受け、物価・失業率の上昇と食糧・エネルギー供給・工場稼働率・犯罪検挙率の低下と言う「6重苦」に見舞われている。

俺が元々受け持っていた北エリジウムも、南エリジウムの危機とは無関係ではいられない。

北エリジウムも、信託統治領の統合の影響で様々な指標が悪化しつつあるのだ。

 

 

「さて、ここで問い正しておきたいことがあるのだがな、政務官」

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、何ですかのぅ」

 

 

建設途上にある新グラニクス、そこに開設された新たな総督府の執務室において、俺はある老害を呼び出している。

その老害の名は、近衛近右衛門と言う。

 

 

ここ1ヵ月間で、俺は60人程の豪商や軍需産業関係者を処断した。

全て南エリジウムの者達であり、有り体に言えば総督の俺に賄賂を贈ってよしみを結ぼうとした連中だ。

どうも、旧連合や帝国の連中とはそうやって付き合っていたらしいな。

北でも同じようなことがあったが、やはり処断した。

まぁ、問題は・・・。

 

 

「その豪商達と政務官とは、私が本国から戻る間に接触があったと聞く。それもほぼ全員とだ、事実かな?」

「事実ですな」

 

 

あっさりと、近右衛門は頷いてみせた。

その胆力と言うか、図々しさには称賛の念すら感じるから不思議ではある。

彼はたっぷりと質感のある髭を片手で撫でながら、何度も頷いて。

 

 

「総督がご不在の際には、私が総督への会見を代行する責任があるかと思いましてな。余計なことでしたなら、甘んじてお叱りを受けますぞい」

「確かに余計なことだが、それはこの際、置くとしよう。問題は、豪商達は政務官にも賄賂を贈ったと言うことだが・・・?」

「事実ですな」

 

 

それにもあっさりと頷くと、近右衛門は懐から紙袋を一つ取り出し、提出した。

 

 

「ここに銀行の預金証明書と貸金庫の鍵、それと彼らの収賄現場の映像記録ディスクが入っております。これを証拠として裁判所にご提出されるのが、よろしかろう」

「・・・まさかとは思うが、わざと受け取り、後に証拠として提出するためだったとでも言うつもりか?」

「無論ですじゃ。鋭敏な総督閣下のこと、彼らを必ずや処断なさるでしょうからの。ワシのような者が出しゃばることもありますまいて」

 

 

・・・おそらくだが、1アスも手を付けてはいないのだろう。

だからこそ、こうして俺の前に出てきていけしゃあしゃあとこんなことを言っている。

そして実際、贈収賄の事件を解決に導く有効な方法であることも確かなのだが・・・。

 

 

「・・・最近、南エリジウムを中心に小規模なデモが頻発しているのだが」

「おお、存じておりますぞい」

「そのデモの首謀者達とも接触していると聞くが、何故かな?」

「それはもちろん、女王陛下と総督閣下の御ために、社会的衝突を避けるための交渉ですじゃ。総督閣下がご不在なため、少しでもお役に立てればと思いましてのぅ」

 

 

髭を撫でながら、やましさなど欠片も感じさせることの無い、献身的ですらある声音で近右衛門は言う。

だが、何故か不快だ。

この後頭部の異様に長い政務官は、相手を苛立たせる才能があるのかもしれない。

もしそうなら、交渉を優位に進めるにうってつけな才能だろうな。

 

 

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ・・・」

「理由はどうあれ、収賄を受けた以上は重要参考人として拘引せねばならんが・・・」

「ふぉっ、ふぉっ・・・もちろん、ワシは総督閣下に協力致しますぞい」

「・・・・・・連れて行け」

 

 

部下に命じて、近右衛門を連れて行かせる。

これであの老害の顔を当面は見なくて済むかと思うと清々するが・・・。

・・・同時に、俺の中の冷徹な部分が警告を発するのを感じる。

 

 

これまで何一つこちらに口実を与えなかった男が、なぜ今になってこんなあからさまな失点を?

・・・今になって、目立った失態を犯す理由は?

例えば、何かから目を逸らすため・・・とか?

・・・考え過ぎ、か・・・?

 

 

 

 

 

Side ガイウス・マリウス(旧メガロメセンブリア提督・現エリジウム総督府軍事顧問官)

 

新グラニクスにリュケスティス総督が入られてからは沈静化したが、この1ヵ月間でエリジウム大陸におけるデモ活動は増加の一途を辿っている。

ほとんどは新たに王国の信託統治下に入った南エリジウムで起こっており、帝国軍の撤退と王国軍の進駐による武力の空白時間を衝いての突発的な物だろうと思われる。

 

 

しかし突発的な物とは言え、頻発すれば統治の効率を落とし結果、市民生活に影響することになる。

また、彼らの主張は部分的には正当な物も存在するのだから・・・。

 

 

『農地を返せ!』

『我々の職場を返せ、食糧を返せ!』

「皆さん、落ち着いてください! 皆さんのデモ活動は申請した地点外に出つつあります!」

 

 

例えば現在、数百m先で部下達が必死に統制しようとしているデモ隊にしてもそうだ。

ここはボレア地方と言う場所で、グラニクス地方とは川を挟んで隣り合う関係にある。

漁業・交易によって栄えてたグラニクスとは違い、ここは平地に位置するために農業が主産業なのだが・・・。

 

 

『我々の大切な農地を返せ!!』

 

 

見ての通り、街道の一つをデモ隊によって占拠されてしまっているのだ。

ボレア地方東端の街から西端の街までの示威行進自体は、事前に総督府に申請されている。

あくまで行進を許可したのであって、占拠までは許可していない。

我々がこうして出動せざるを得なかったのも、街道の占拠に対し商工組合から抗議があったからだ。

ブロントポリス軍港からの異動の直後に、こんなことになるとは・・・。

 

 

事の発端は、帝国の委任統治時期にまで遡る。

遡ると言っても、1年足らず前のことだが・・・。

ある帝国資本が、ボレア地方一帯の農地11000ヘクタール・・・比率に置いてこの地方の半分以上の農地を一方的に借り上げてしまったのだ。

さらに言えば現地の農民をそのまま雇わずに帝国本土の農民を連れて来て、追い出してしまった。

つまり、彼らは帝国に土地を奪われたのだ。

 

 

「皆さん、どうか冷静に! これ以上の占拠は法令違反になります、申請通りに行進を続けてください!」

 

 

しかし元々の地主と企業の正式な契約であるので、我々には介入することができない。

そもそも我々がここ南エリジウムに進駐してまだ1ヵ月、対応への時間など無い。

しかも悪いことに、奪われた農地で生産された農作物は北エリジウムに輸出されている。

 

 

帝国の混乱の影響をモロに受けた南エリジウムは、若年層の失業率が20.9%にまで上昇している。

それに対して北エリジウムは総督の施政効果もあり、9.1%に抑えられている。

ちなみに、ウェスペルタティア本国は0.5%だ。

物価上昇率も南が7.1%なのに対し北は2.9%、つまりは「豊かな北、貧しい南」と言う格差が固定化しつつある。

デモの根底にあるのは、同じ信託統治下にありながら発生する格差への不満・・・。

 

 

『農地を返せ!』

『帝国に手を貸す奴らの法など、守る必要は無い!』

『帝国主義者め!』

『資本家の横暴を許すな!』

「・・・!」

 

 

そしてついに、決壊する。

投石が始まり、次いでかろうじてデモ隊の膨張を抑えていた規制線の警備兵達が突破される。

兵士達が投石に怯んだ隙に、デモ隊が怒涛の如く押し寄せ、街道の両端に配置していた装輪車を引っ繰り返し始める。

数千人の人の波が、数百の兵士達を飲み込もうとしていた・・・。

 

 

「て、提督!」

 

 

隣の部下が悲鳴を上げた時には、私のいる装輪車のすぐ目前にまで群衆が押し寄せてきている。

そして我々の後ろには、怯えた商人達が引き籠っている街があるのだ・・・。

 

 

「・・・鎮圧せよ!」

 

 

デモ隊・・・いや、暴徒の鎮圧を命じる。

苦渋の決断ではあるが、かろうじて実弾の使用を禁じることには成功する。

そして同時に、不味い、と思わざるを得ない。

 

 

これまで一貫して市民の味方であり続けていた王国が、市民の敵になるかもしれないのだ。

それも、帝国資本の一方的な収奪を擁護するような立場で。

せめて、軍が市民を殺傷するような事態だけは避けねばならないが・・・。

・・・それもいつまで保つか、自信は無かった。

 

 

 

 

 

Side デュナミス

 

「ふーむ・・・女王の休養が宣言されて1ヵ月でコレか」

 

 

遺跡発掘者達の街ヘカテスで話を聞き付けてやってきて見れば、随分と大事になっているようでは無いか。

街道が占拠されてしまい村に帰れず難儀していたのは確かだが、武力鎮圧とは穏やかでは無いな。

 

 

南エリジウムの暴徒鎮圧に、王国軍が専用の放水車などで対応している。

アレは魔法世界では珍しい方法だが、旧世界では割と主流らしいな。

旧連合であれば、すでに実弾での鎮圧が始まっているだろう。

いずれにせよ、王国は帝国の失敗の結果だけを押し付けられた格好になったわけだ。

 

 

「さて・・・ここは悪の大幹部として、どう動くべきか」

 

 

目の前のデモ隊は、王国軍の鎮圧行動によって散り散りになりつつある。

ボレア地方の街道封鎖解除も時間の問題で、一般の商人や旅行者などは胸を撫で下ろしているだろう。

最終的には100人前後の逮捕者を出し、かつ逮捕者のほとんどを一日以内に釈放して収束するだろう。

 

 

「ただのタイミングなのだろうが、女王が責任を取れない時期に暴発するか・・・」

 

 

これでは感情的にはともかく、理性的には女王を攻撃することができない。

むしろ、どちらかと言えば女王の不在を守れない宰相や総督の権威に傷がつくだけだろう。

無論、女王の任命責任を問うことはできるが・・・どうかな。

産休中の女性を攻撃すると言うのは、健全な悪の大幹部としてどうだろう。

 

 

それに北エリジウムの例を信じるのであれば、南エリジウムの混乱もいずれは収束するだろう。

失業率を抑え、産業を振興し、将来の独立に向けた環境整備が始まるだろう。

今回はたまたま、帝国の混乱の負の部分が燃え上がったに過ぎない。

 

 

「まぁ、とりあえずは村に帰るとしよう」

「お土産もたくさんですしね」

「うむ」

 

 

隣で顔の正面が見えない程に箱をいくつも持っている6(セクストゥム)の言葉に、頷きを返す。

とは言え、私も同じような状態だ。

しかも、両肘に多くの紙袋を提げている。

全て、村人達へのオスティア土産だ。

 

 

何しろ祭りだったからな、村の子供達も喜んでくれるだろう。

何より、今回は良い友人と出会うこともできたしな。

妻帯者で無ければ、勧誘している所だったぞ。

 

 

「日が暮れる前に戻るぞ。魔物が出ては面倒だし、王国軍に見つかってもつまらんからな」

「はい」

 

 

我らの村の名は、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』。

グラニクス難民の一部を吸収して、将来の悪を育てる根拠地を築いてみた。

ふふふ、いずれは必ずや世界を我らの手に・・・。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

・・・アリアの魔法具、『魂の牢獄』。

ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・へルマン伯爵と言う爵位級悪魔を封印している、魔法具。

正直な所、僕がこれをいくら見ても、何にもわからない。

 

 

「・・・凄いな、どう言う造りになってるんだろ」

 

 

薄暗い、廃墟の個室。

ヘルマンが持ち込んだ見たことも無い魔法書とかが、無造作に積まれている。

机の上にはビーカーと紙、羽根ペン。

数式を書き込んでは消す作業、なかなか根気がいる。

 

 

・・・そう言えば、メルディアナにいた頃は良く書庫に籠ってたな、僕。

それから・・・・・・他は、あんまり覚えて無いや。

と言うか、他に何かしてたっけ、僕・・・。

 

 

「・・・気のせいか、こう言う数式、どこかで見覚えがあるんだけど」

 

 

呟きながら、ヘルマンの封印解除式の仮定式が書かれた紙を持ち上げる。

パラパラと、何枚か見つめて・・・うん、やっぱり覚えがある。

どこかで、見たことがあるんだけど。

 

 

例えば・・・メルディアナで。

例えば・・・麻帆良で?

僕は、誰かがこんな数式を考えてるのを、見たことが・・・ある?

でも、誰だっけ・・・?

 

 

「・・・っ」

 

 

ズクンッ、と、身体の中で鈍い音が響く。

それと同時に、身体の右半身から左半身へ、熱を持った何かが這い進むような感覚を覚える。

それは、ここ数年間・・・慣れ親しんだ感覚。

 

 

つまる所、「闇の魔法(マギア・エレベア)」の副作用。

むしろ、詠唱魔法が無い今となっては副作用しか無いんだけど・・・。

徐々に、身体が蝕まれていくのがわかる。

 

 

「・・・ぐっ・・・ガッ・・・」

 

 

ギシッ、ギシッ・・・と筋肉や骨が軋む。

闇の魔法(マギア・エレベア)」の紋様は、日を追うごとに全身に広がりつつある。

徐々にだけど、紋様の形も異様に、かつ黒くなってきているような気がする。

 

 

こ、これは・・・結構、本気で不味いかも・・・。

ラカンさんやエヴァンジェリンさんは、かなり危ないって言ってたけど。

でも、だからと言って何か効果的な処方箋があるわけじゃないし・・・。

・・・つまり、放置するしか無いわけで。

 

 

「・・・あと、どれくらいかな」

 

 

ギュルギュルと渦巻く、「闇の魔法(マギア・エレベア)」の刻印。

闇の魔法(マギア・エレベア)」の・・・。

・・・それは、闇なる力を受け入れ、昇華し同化する技法。

 

 

・・・ただ封印を解いて、ヘルマンを自由にするくらいなら。

ネカネお姉ちゃんや、のどかさんの身体と魂を危険に晒すくらいなら。

少しは、試してみる価値があるかもしれない。

こんな、僕でも・・・。

 

 

「・・・ああ」

 

 

そうだ・・・そうだったね。

いつだったか・・・見たことがあったよ。

メルディアナの図書館で、僕がいた場所とは反対側で、アーニャとかと一緒に。

一生懸命、何かを計算していたよね・・・アリア。

 

 

アレは、何をしていたんだろう・・・。

今さらだけど、少し気になった。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

あぁ・・・私、もう・・・ダメかも・・・。

朦朧とする意識の中で、私は様々な人に別れを告げます。

だってもう、こんな生活、無理。

 

 

お仕事が無いとか、無理。

苺を食べちゃダメとか、無理。

あと、お腹が重くて無理です・・・腰が痛いです、舐めんなちくしょーです。

・・・さよなら、皆・・・ガクリ。

 

 

「うん、お休み」

「・・・普通に明かりを消さないでくださーい・・・」

 

 

私のアカデ○ー賞級の名演技を無表情に無視して、フェイトは寝室の明かりを消しました。

同時に、ベッドの中で半身を起こして読んでいたらしい本をベッド脇に置きます。

いや、たま○クラブって貴方・・・。

 

 

「・・・間違ってる?」

「いえ、大正解は大正解なんですけどね・・・まぁ、良いです・・・」

 

 

ぶっちゃけますと、突っ込む元気もあんまり無いです。

何か、ここ数日すぐに疲れちゃうんですよね。

だって、常にお腹が張ったり息切れたりダルくなったり・・・ああ、憂鬱です。

 

 

仰向けになると圧迫感が半端無いので、眠る時は横向きになります。

すると決まって、フェイトはお腹に圧力がかからないように注意しつつ、抱き締めてくれます。

今日も生活するだけで疲れると言うストレスの溜まる一日でしたが、ベッドでこうしていると少しは落ち着きます。

今日も、フェイトの赤ちゃんをちゃんと育てましたよ・・・なんて。

 

 

「うん・・・ありがとう」

「・・・何にも言って無いですよ」

「うん、そうだね」

 

 

・・・はぁ、と溜息を吐きます。

それから、顔を隠すようにフェイトの胸でモゾモゾします。

この夫、もしかしてずっとこんな感じなのでしょうか・・・。

 

 

「・・・今日もお仕事ができませんでした」

「書類にサインはしてたよね」

「30枚ちょっとです・・・苺も、食べれませんでした」

「夕食で出てきたよ」

「3個きりです・・・フェイトは分けてくれませんでした」

「キミのためにね」

 

 

そう言われると・・・溜息を吐きます。

何でもかんでも、私のためですか。

はいはい、そうですかそうですか・・・・・・はぅ。

 

 

「・・・シャワー」

「何?」

「お風呂で、シャワー浴びるんですけど・・・お腹とか」

「うん」

 

 

重いし、身体を思うように動かせないし、しんどいし。

お仕事だってできないし、苺も制限されて本当に最悪なんですけど。

でも・・・。

 

 

「お腹にお湯を当てると・・・逃げるんですよ」

「誰が?」

「赤ちゃんがです。こうシャワーのお湯から逃れるように、うにょにょにょ~って」

 

 

いや、初めて見た時は超ビビリましたよ。

赤ちゃんが動くのは知ってましたけど、いや、本当に動くとわかるものなんですね。

例えばシャワーのお湯をお腹の右側に当てると、お腹の赤ちゃんが左側に逃げるのがわかるんです。

まさに、「いやいや」な感じに。

ちょっぴり、感動と言うか・・・悪戯心と言うか。

 

 

「・・・この子、きっとお風呂嫌いです」

「それは、わからないね」

「いいえ、きっとお風呂が嫌いな子です。どうしましょう・・・」

 

 

きっとアレです、いつまでも一人で頭が洗えなかったりするんですよ。

シャンプーハットが友達だったりするんですよ。

・・・用意しておいてもらわないと、シャンプーハット。

 

 

・・・そう言えば・・・。

・・・誰か、お風呂が昔から嫌いな人がいたような気がします。

 

 

「・・・おやすみなさい、フェイト」

「おやすみ、アリア」

「・・・」

 

 

・・・誰だった、かな。

そんなことを考えながら、私はフェイトの腕の中で眼を閉じました。




新登場キャラクター:
ルーシア・セイグラム:フィー様提案。
ありがとうございます。

ウェスペルタティア王国宰相府広報部王室専門室・第23回広報:

アーシェ:
いよーしっ、23回目に突入だーっ!

ザジ・レイニーデイ:
(ぱちぱち)

アーシェ:
今回から何と、女王陛下は蚊帳の外です!
政治的にほぼ遮断状態、国家転覆クラスのことが起こらない限り出てこないかも?
まぁ、出産間近なら仕方が無いよねー・・・って言うのが一般的な反応?

ザジ・レイニーデイ:
・・・。

アーシェ:
とは言え、王様だから仕事がゼロになることは無いですからねー。
いやいや、王族って言うのは大変だねコレは、うん。

ザジ・レイニーデイ:
・・・。

アーシェ:
え、えー・・・それでは今回のキャラ紹介。
今回はちょっと変則で・・・行くよ!


・ラスカリナ・ブブリーナとインガー・オルセン。
女王陛下の座乗艦「ブリュンヒルデ」の艦長さんと副長さんだね。
大軍を指揮したりとかは苦手だけど、1艦の操艦の腕前は凄いんだよ?
ちなみに2人とも女性。
と言うか、「ブリュンヒルデ」には一部を除いて女性しか入れないから。


アーシェ:
さてさて、ここから1話ごとに情勢は悪くなります。
・・・あれ? それって最悪じゃね?

ザジ・レイニーデイ:
・・・私も、出る。

アーシェ:
・・・って、喋れたの!?

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