魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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今回から短編では無く、10話前後の長編になります。
アフターストーリー(第4部)、後半です。
今話より伸様・リード様・Big Mouth様のご提案部分が入ります。


アフターストーリー第19話「7月事件」

Side アリア

 

「違和感はありませんか、女王陛下」

「はい、大丈夫です」

 

 

お腹のひんやりとした感触に、多少はくすぐったいと感じます。

でも、違和感とか痛みとかは感じません。

 

 

「・・・経過は順調です。13週目に入りましたので、そろそろおつわりも落ち着いてくると思いますが」

「はい、ここ数日は大分・・・」

「それでしたら、食欲も戻るかと思います。体重の増加に注意が必要ですが、どうぞ心行くまで飲食なさることです」

 

 

私のお腹に小さな魔導機械を当てて赤ちゃんの成長の経過確認をしてくれているのは、テレサ・ハラオウン先生。

王室お抱えの産婦人科の先生で、今は旧世界で言う超音波検診をしてくれている所です。

ボブカットの金髪に緑の瞳、おっとりとした20代後半のお姉さんです。

7月の半ばのある日、お昼前に寝室で定期健診を受けている所です。

 

 

私とフェイトの赤ちゃんは私のお腹の中でスクスクと育っているようで、少しだけお腹が膨らんできているように思います。

うーむ、この中に赤ちゃんがいると思うと、不思議ですが。

そろそろ、マタニティ用の衣装が必要になってくるとか。

 

 

「血圧、体重その他についても現在の所は順調です。ですがまだまだ安心はできませんので、良くお休みになってくださいますように」

「はい・・・あ、ところで・・・」

 

 

私の衣服を治してくれているダフネ先生に、私は恐る恐る聞いてみます。

 

 

「えーとですね・・・お仕事の方は、どの程度まで・・・」

「それはもちろん、少なければ少ないほどよろしいかと思いますが」

 

 

3秒でダメ出しを喰らってしまいました。

しかし、諦めるつもりはありません。

つわりも治まってきたことですし、最近は身体の調子も良いですし。

むしろ、お仕事をしている時の方が落ち着きますし・・・。

・・・お仕事が無いと、時間をもてあましてしまいますので。

 

 

今日はオスティア難民問題に関するシンポジウムと、それとオスティア・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会に出席することになっております。

実はどちらも、フェイトが名誉職に就いている団体なのです。

フェイトには政治的役職がありませんが、最近ではその周辺の組織の名誉職を引き受けることが増えているんです。

これは私にとっても喜ばしいことで、是非とも出席したいのですが・・・。

 

 

「その程度であれば、問題は無いかと思います」

「ですが、ご無理はなさりませんように・・・結局、それが一番ですわ」

「ありがとうございます」

 

 

ダフネ先生とテレサ先生の許可が得れたので、私は両手を合わせて喜びます。

お腹の赤ちゃんには、古典音楽が良いと言う話を聞いたことがあるような気がしますし。

ちょうどその時、寝室がノックされました。

入室を許可すると、そこには暦さんが・・・。

 

 

「失礼致します、フェイト様がお越しですが・・・」

「フェイトが?」

「まぁ・・・」

 

 

その時の私の顔を見てどう思ったのか、テレサ先生がおっとりと自分の頬に片手を当てて、微笑みました。

 

 

「想われておりますね、女王陛下」

「・・・」

 

 

その言葉に、私は気恥ずかしく微笑むことしかできませんでした。

そんな私を見て、暦さん達はまた優しげに微笑んでくださるのでした・・・。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「そうか・・・順調か」

 

 

昼食後の休憩時間に私がマスターの下を訪れアリアさんの妊娠生活の経過をご報告すると、マスターは安心されたようなお顔をされました。

アリアさんのご懐妊が確認されてからと言うもの、マスターは実母であるアリカ様以上にアリアさんの体調を気にかけておいでです。

 

 

そんなマスターの側には編み物籠と小さな棚が置いてあり、執務の合間の休憩時間の度に増えていく赤ちゃん用の衣類やぬいぐるみの類が整然と棚に並べられております。

フリルなどが多めですが・・・男の子だった場合、どうなさるおつもりでしょう。

 

 

「さよの方もいろいろと問題はあるが、順調に育っているそうだ」

「喜ばしいことです」

「ああ、本当にな・・・」

 

 

コト・・・と何やら製作途中の編み物を置いて、マスターは執務用の椅子に深くもたれかかれました。

上質な皮製の椅子が、かすかに音を立てます。

椅子を回転させて、背後の窓の方を向くと・・・若干、遠くを見るような目をされています。

 

 

「さよもアリアも新しい命を産んで・・・そして育てていく。それで良い、人間として当然のことだ」

「・・・マスター」

「ケケケ、ナニヲタソガレテンダカ」

「ふん・・・まぁ、改めて考えることもあるんだよ」

 

 

姉さんの皮肉に、マスターは笑みを浮かべて答えます。

・・・こう言うやりとりは、まだ私にはできません。

その意味では、姉さんが羨ましいです。

 

 

「さよがな、私に言うんだ。赤ん坊を抱いてやってほしいと・・・アリアも、産まれたら抱っこしてやってほしいと言ってくれてる」

 

 

それは、とても素晴らしいことだと思います。

さよさんやアリアさんのお子様を、マスターがお抱きになる。

私としても、この上ない喜びであると・・・。

ですが、マスター自身はどこか微妙な表情をされております。

執務卓に頬杖をつきながら、もう片方の掌と甲を何度も繰り返しながら・・・。

 

 

「・・・嫌、なのですか?」

「嫌じゃないさ、嬉しいに決まってる。決まっているが・・・」

 

 

マスターは口元で笑っておられますが、目には別の感情を宿しているような印象を受けます。

ただ、じっと・・・ご自分の手を、見つめておられます。

ただそれも、長い時間のことではありませんでした。

不意に椅子を正面に戻すとマスターはいつも通りの鋭い、どこか他者をからかうような笑みを浮かべられて、話題を転じました。

 

 

「・・・まぁ、こう言うめでたい時期にいらんことをしそうな奴もいそうだがな」

「はぁ・・・」

「アン? ダレノコトダヨ」

「ふん、この国で余計なことをする奴と言えば、一人しかいないさ」

 

 

・・・マスターはこう申し上げると、全力で否定されるでしょうが。

 

 

「クルト・ゲーデル」

 

 

クルト宰相のことを話す際には、とても活き活きとされるような気が致します。

・・・ただそれは、親愛や友愛とは正反対の意味で、ですが。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

ふむ、誰かに噂されているような気が致しますね。

誰でしょう・・・おそらく非友好的な噂だと思うのですが。

と言うか、友好的な噂をしてくれる人間に心当たりがありませんのでね。

 

 

「いかがなされましたかな、宰相閣下」

「・・・ああ、いえいえ。これは失礼、少し考えごとをしておりましてね」

「まぁ、今をときめくウェスペルタティアの宰相閣下ともあろうお方の考えごととは、どのようなことでしょうか」

「はは、大したことではありませんよ」

 

 

空になった昼食のお皿を見下ろしつつ、口元をナプキンで拭います。

私は現在テオドシウス外務尚書と共に、龍山連合(40代後半の女性)とアキダリア外相(50代前半の男性)を招いての非公式の昼食会を催しております。

政治的な会談を兼ねる物なので、宰相府の小食堂を借り切っての催し物です。

私とテオドシウス外務尚書の向かい側に、アキダリア外相と龍山連合の外相が座っています。

非公式なので、給仕以外は誰もおりませんが・・・。

 

 

「いや、それにしても両国の間を取り持てたのは、喜ばしいことです」

「我々としましても、貴国のおかげで平和的に問題を解決でき喜ばしい限りです」

「ええ、本当に・・・」

 

 

ははは・・・と笑いながら、外相3人と談笑を続けます。

魔法世界北方に位置する龍山連合とアキダリアは、数年前から国境の島々を巡って紛争を起こしておりましたが・・・我が王国が仲介する形で今日、和平協定に調印することができました。

 

 

比較的に軍事力が弱い龍山連合と、南にパルティアと言う敵を控えているアキダリアの間で妥協が成立したのです。

アキダリア・パルティア間の紛争と異なり、民族問題が絡んでいないのも理由の一つでしょうが。

我が王国としても、該当諸島近海の海底資源の権益の30%を得ることができましたし、上々です。

とは言え、まだ非公式の協定ですが・・・。

 

 

「そう言えば、貴国は近々パルティアに鉄道を敷設されるとか・・・」

「これはお耳が早い」

 

 

アキダリア外相の言葉に、私は大仰に驚いてみせます。

それに対して、私の隣に座るテオドシウス外務尚書が冷たい目を向けているような気が致しますが、まぁ、気のせいでは無いでしょうね。

 

 

実際、王国南部イスメーネ・パルティア東部エルファンハフト間の街道を鉄道に発展させ、最終的にはモエル・ゼフィーリアまで繋ぐと言う計画が存在します。

これは、アキダリアを経ずにエリジウムから王国本土までを陸上で結ぶ計画でもあるわけですが。

当然、パルティアと緊張関係にあるアキダリアの外相としては面白く無いでしょうが・・・。

 

 

「宰相閣下にはご存知でしょうが・・・近年、パルティアは我が国固有の領土であるユートピア海上の島々に政府高官を派遣し、道路や港を不法に整備しておるのです」

「ほぉ・・・それはそれは」

「・・・その件に関しましては、また別の席で」

「そうですわね、せっかくの食事会ですもの」

「む・・・」

 

 

同じ女性だからと言うわけでも無いでしょうが、テオドシウス外務尚書と龍山連合の外相が話題の転換を促します。

アキダリア外相は面白く無さそうな表情を浮かべた物の、話題がアキダリアに建設される予定の精霊炉を利用したエネルギー供給施設の物になると、そちらに意識が行ったようです。

まぁ、ウェスペルタティア資本の進出があってこその計画ですがね。

 

 

「・・・」

 

 

外相3人の話に耳を傾けながらも、私は同時に別のことを考えています。

同時に複数のことを考えるくらい、軽い物です。

 

 

・・・アキダリアの主張は別にしても、「イヴィオン」内では比較的に軍事大国であるパルティア。

最近、我が国への要求が拡大する一方で、どうも協調を欠きます。

国内の複雑な部族問題もさることながら、同じ亜人国家である帝国の不安定化も原因なのでしょうが。

近い内に牙を一本、抜いておいても良いかもしれませんね・・・。

 

 

 

 

 

Side ナギ

 

ああ~・・・めんどーくせーなー・・・。

机の上に積まれた紙の束を見ながら、俺はそんなことを考えてた。

誰もいねーのを良いことに、机に足を乗せて思い切り椅子の背もたれにもたれかかって、おまけにペンを鼻と口の間に乗せてダラダラする。

ああ~・・・マジでめんどくせー・・・。

 

 

「なぁ~んたって、俺がこんなことしなけりゃなんねーんだよ」

「グダグダ言わずに仕事を進めよ、まったく、文句ばかり言いおって・・・」

 

 

宰相府の俺の執務室・・・っても、先月くらいまではまるで使ってなかったわけだが。

ぶっちゃけ、俺に書類仕事させるとか意味わかんねぇし。

任せようとする奴に至っては、頭がおかしいんじゃねーかとか思うし。

 

 

だけどそれ以上におかしいのは、アリカだな。

誰に何を言われたのか言われて無いのかは知らねーが、何で俺の執務室に机と椅子と自分の仕事を持ち込んでんだよ。

 

 

「主が一人では書類の決裁ができんからじゃろーが!」

「わーかった、わかったって、怒るなよ。・・・皺が増えるぜ?」

「・・・」

「・・・スミマセン」

 

 

・・・すげぇ、睨まれた。

 

 

「・・・アリアが以前ほど仕事ができん以上、政治に関わりの薄い仕事がこちらに回ってくるのじゃ。これも身重の娘の負担を減らすためじゃ、精進せよ」

「ああ~・・・?」

 

 

政治に関わりが薄いったって・・・何十枚あんだよ書類。

つまり、アリアにとってはこれ、仕事の一部でしか無いってわけだよな・・・?

・・・アイツ、ほんとに俺の娘か?

 

 

「それでも、主の性格に合っておる物を選んで渡しておるのじゃ。なんなら私の方を処理するか?」

「・・・そっちって何だよ」

「オスティア美術館で催されるメガロメセンブリア芸術展に関する物と、アリアドネーの魔法騎士団候補学校と我が国の王立ネロォカスラプティース女学院が合同で行う学術シンポジウムの」

「わかったわかった! こっちをやるよ!」

 

 

半分悲鳴を上げて―――どんな戦場でも、上げたことねぇのに―――俺がそう言うと、俺の嫁さんは鼻を鳴らして手元の書類に視線を戻した。

・・・はぁ、ジャックの野郎も俺みてーなことになってんのかねぇ、リカードやセラスは良く続けられるなマジで・・・。

 

 

諦め半分、面倒さ半分で、俺は自分に任された書類を読み始めた。

あー・・・10月のオスティア平和記念祭か、確かに祭りは好きだけどよ。

これは、何か違うだろ。

 

 

「戦没者慰霊に始まって、前の終戦記念祭に平和記念を混ぜて・・・」

 

 

俺らが戦った大戦の終戦を祝うだけだったオスティア祭は、今じゃアリアの時代の戦争の終戦祝いって意味合いの方が強いんだな。

・・・時代を、感じるぜ。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

王国傭兵隊の宿舎は、実は宰相府の敷地内には無い。

王室お抱えと言うには粗雑に過ぎる、市街地内にある築何十年かの古い木造アパートに少し手を加えただけの建物、それが王室傭兵隊の宿舎だ。

何故かと言うと、私達は正確には女王アリアの臣下では無いからさ。

王室私有戦力の一つには数えられているけど、結局は金で雇われたならずもの集団。

 

 

お綺麗な宮殿には似つかわしく無いし、私達も宮殿の空気は好きじゃない。

私を含めて、正式な仕官を勧められる奴もいるが・・・私が知る限り、受けた奴はいないね。

代金を受け取って、契約した通りの仕事をする。

それだけの存在だよ、傭兵なんて言うのはね。

 

 

「さて、今日の仕事はいつも通り、女王陛下の護衛だ。何か質問はあるかい?」

 

 

今日は、午後からアリア先生が外出する。

妊娠してから外へ出る公務の頻度は減ってるけど、それでも宰相府に閉じこもっているわけじゃない。

たまには外に出て、臣民に姿を見せることも必要なのさ。

それが、先生の「仕事」だからね。

黙々と仕事をこなす姿勢は、個人的には好ましいと思うよ。

 

 

「じゃあ、セルフィ、ユフィーリア、ラウラ、いつも通り頼むよ」

 

 

私がそう言うと、傭兵仲間はそれぞれ会議室から出て行く。

興奮すると語尾が変わったり、可愛い物が好きだったりする個性的な連中だけど、良い仕事をする連中だよ。

まぁ、でなければ傭兵なんて職業で生き残れるはずが無いからね。

その分、それなりに気心が知れた仲だと思っているけれど・・・。

 

 

「・・・で、こんな所に何の用だい?」

 

 

女王陛下(クライアント)からの依頼を説明するだけの、会議とも言えない会議が終わった後・・・一人だけ、私以外に残っている奴がいた。

そいつの名前は、クゥァルトゥム・アーウェルンクス。

4番目のアーウェルンクス、アリア先生の専属騎士。

5番目の方と違って、ここに来るのは本当に珍しい。

 

 

「・・・貧民街(スラム)の連中が、気になる話を持ってきてね」

「貧民街(スラム)?」

 

 

オスティアも都市である以上、貧困層と言うのは存在する。

ただ、それとこの目つきの悪いアーウェルンクスがどう関係するのかはさっぱりだ。

 

 

「で、何だい?」

「・・・最近、見慣れない連中が新オスティアに入り込んで来ているらしいよ」

「見慣れない・・・?」

 

 

これからアリア先生の護衛につこうとしている私に教えると言うことは、たぶん、そう言う話なのだろうけど。

それなら、近衛騎士団や親衛隊にでも教えれば良いだろうに。

・・・ああ、このアーウェルンクスはあの手の連中が嫌いだったね。

嫌われている、と言っても良いけど。

 

 

「・・・伝えたよ」

「まぁ、気に留めておくよ。・・・ところで」

 

 

ふと気になったので、聞いてみることにした。

この嫌われ者のアーウェルンクスは、どうして急にアリア先生を守るつもりになったのか。

 

 

「どうして、わざわざ伝えに来てくれたんだい?」

「・・・」

 

 

4番目のアーウェルンクスは、何も言わなかった。

両手をポケットに突っ込んで、不機嫌そうな顔で部屋から出て行く。

 

 

「・・・女はうるさい・・・」

 

 

最後に、それだけ呟いて。

・・・女、ね。

アリア先生の王子様(フェイト)もそうだけど、アーウェルンクスは女に弱いのかな。

だとすれば、意外な弱点だ。

 

 

さて・・・あの4番目に何かを吹き込める女と言うと。

・・・誰のことかな?

 

 

 

 

 

Side トサカ

 

「よぉ、トサカじゃねぇか、今日は休みかい!?」

「ちげーよ! 酒樽3つ頼むわ、今日の祝勝会で使うんだよ」

「何だよ、試合前に勝ったつもりかい?」

「うっせ、今日のナイトゲームは頂きだっつの・・・おおっ、ジョニーの旦那じゃねぇか!」

 

 

夕方、俺らの拳闘団の行きつけの酒場・・・オスティアの市街地の外れにあるジェイス・ストガヤツルカの旦那の酒場に行くと、カウンター席に見た顔が座っていやがった。

ジョニー・ライデインっつー黒髪のおっさんは、俺を認めると「おお」と手を上げてきた。

 

 

「久しぶりじゃねぇか、何だ仕事か?」

「それ以外に何があるってんだよ。運送屋はここん所、大忙しだからな」

「おっ、景気良いのか?」

「まぁまぁだな」

 

 

ジョニーの旦那とは、もう5年以上の付き合いになるな。

つっても、俺もジョニーの旦那とはめったに会わねぇけど。

ジョニーの旦那は魔法世界中を飛び回ってるから、仕方がねーやな。

 

 

「新聞で見たぜ。お前の所のチーム、頑張ってんじゃねーか」

「へへ、まぁな。今夜はアレだ、オスティア記念祭の拳闘大会に向けての予選の準決勝なんだぜ?」

「へー、すげぇな。てか、そんな奴がここにいて良いのかい?」

「ママが王宮に取られてから、その分の仕事が俺に回って来てよー、大変なんだよ」

 

 

今夜の準決勝も大事だが、何と言っても決勝戦だな。

決勝戦は女王一家も観戦に来るって話だからな、久々のチャンスだな。

バルガスの兄貴も燃えてるし、今日は頂きだぜ!

 

 

で、ジョニーの旦那は今でも例のエイ型飛行鯨で運送業をやってるんだが・・・。

最近、テンペにも戻れねーくらい忙しいってよ。

拳闘もそうだが、今は本当に景気が良いからな。

ただ、南の帝国の方が最近どうも怪しいらしい。

 

 

「はぁん・・・つっても、前々からキナ臭かったじゃねぇか」

「いやいや、今回のはマジでヤバいらしい。だってよ・・・」

 

 

ジョニーの旦那が声を潜めて、隣に座る俺の耳元に囁いた。

うん? ふんふん・・・あぁ!?

 

 

「帝国が攻めてくるだぁっ!?」

「声がでけぇよ! それにあくまで噂だ、噂!」

「噂ったって・・・そりゃねーだろ旦那」

 

 

帝国が、ウェスペルタティア王国に攻撃を仕掛けてくるらしい。

・・・なんて噂を、ジョニーの旦那は帝国国境付近での運送中に聞いたらしい。

まぁ、一昔前ならあったかもしんねーが。

 

 

いや、でも、無いだろぉ。

ここんトコ王国(ウチ)と帝国は仲良いし、こないだも結婚式だって友好ムードバリバリだったぜ?

拳闘団で定期購読してるオスティア・メール(大衆新聞・日刊紙)だって、帝国の結婚式は王国(ウチ)に負けず劣らず素晴らしかったって書いてたぜ?

 

 

「俺もおかしいなぁとは思ったんだけどよ、それがな・・・」

 

 

パリンッ・・・。

ジョニーの旦那が続きを話そうとした時、騒がしい酒場が一瞬、静まり返った。

振り向くと、カウンター近くのテーブルに座ってた客が皿を落としたらしい。

床に皿の破片が落ちてやがる、間抜けめ。

 

 

「ちょっとお客さん!」

「・・・」

 

 

店主のジェイスの旦那が声を上げるが、そいつは何も言わなかった。

頭まですっぽり覆ったボロを着た奴なんだが、亜人っぽいな。

そいつはジェイスの旦那にいろいろ言われた後、すごすごと酒場から出て行った。

すぐに、酒場に喧騒が戻ってくる。

 

 

「何だぁ、あいつ・・・」

 

 

軽く首を傾げるが、特に俺は気にしなかったね。

今の女王アリア様が即位してから、亜人なんてこの街じゃ珍しくもねーしな。

あんま見ない奴だが、外から来た労働者か何かだろ。

俺はそのことをすぐに忘れて、自分の仕事を思い出すまでジョニーの旦那と話し込んだ・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

午後5時、私はフェイトを伴って新オスティアの公会堂で催されたオスティア難民問題に関するシンポジウムに出席しました。

大体は壇上の貴賓席に座って、学者の講演を聞いたり帰還難民の訴えを聞いたりするだけです。

 

 

私のお仕事は、開会の宣言と宮内省の用意した挨拶文を読み上げることです。

後は、王室としてシンポジウムの運営委員会に資金を寄付するくらいです。

いるだけ、お金を出すだけと言うのは、何やら居心地が悪いです。

他にも何かできることは無いかと、クルトおじ様に聞いてみたことがあるのですが・・・。

 

 

「君主は学者や芸術家にお金だけ出していれば良いのです。必要以上に好みを持ったり博識な所を披露したりすると、かえって問題を起こしますからね」

 

 

と、やんわりと何もしなくて良いと言われてしまいました。

まぁ、実際・・・私も学問や芸術にそれほど通じているわけではありませんし。

専門家に任せればそれで良いと言うのは、理解できますけど。

・・・でも、だったらクルトおじ様が私のことを書いた本を本名を隠して出版しているのは何なのでしょう。

 

 

「な、ななな、なんのことやら」

 

 

・・・あざといくらいにわざとらしい、クルトおじ様の声が聞こえた気がしました。

ここにはいないと言うのに、返答が予測できる私も凄いですけど。

そうこうする内にシンポジウムは終わり・・・最後に、新任の国際奴隷制度撤廃推進委員会委員長であるフェイトが、閉会の言葉を読み上げます。

 

 

宮内省の文官が起草した短い文章ですが、これまで公的な仕事を何もしていなかったフェイトとしては、十分すぎる程の公務です。

オスティア難民を未だに縛る奴隷制度―――お母様がかつて通した奴隷制度―――は、早急に完全撤廃したい所なのですが・・・。

 

 

「・・・奴隷制度は、人道的精神に反する・・・」

 

 

100万人のオスティア難民の内、重度の債務を抱えて奴隷になってしまった方は約20万人。

その内の半分はここ数年の運動と法整備の甲斐あって、なんとか・・・。

最低限の身分保障はあるとは言え、奴隷は奴隷。

 

 

魔法世界全体で施行されてしまった「死の首輪法」の完全改正には、諸外国の協力がどうしても必要ですし・・・。

旧連合関連の富裕層や悪徳商人・政治家の下にいた奴隷の方々は無償で救済できるのですが、正規の手順で奴隷を獲得した商人や奴隷のままでいても良いと言う方は、どうにも・・・。

 

 

「・・・魔法世界文明の黒い汚点である・・・」

 

 

フェイトの挨拶が終わると、5000人の聴衆が詰め掛けた公会堂全体から、フェイトに向けて惜しみない拍手が贈られました。

当然、私も精一杯の気持ちを込めて拍手します。

問題はまだまだ多いですが、いつかきっと解決できると信じています。

・・・とても、難しいですが。

 

 

シンポジウムが終わった後は何人かの学者や帰還難民の方々と懇談して、次の予定地へ向かいます。

皆がフェイトのことを褒めてくれるので―――社交辞令だとしても―――嬉しくなってしまいます。

まぁ、フェイト自身は何も思っていないようですが。

 

 

「女王陛下万歳!」

「ウェスペルタティア王国万歳!」

「お世継ぎ様万歳!」

 

 

公会堂の外に出て、フェイトと共に王室用の馬車に乗り込みます。

道の両側には公会堂にいた聴衆の他、何百人もの人々が詰め掛けて、近衛騎士団の規制の向こう側から熱の籠った歓呼を私達に浴びせています。

私とフェイトは、いつものように馬車の上から民衆に手を振って応えます。

 

 

特に私達の赤ちゃんの誕生を望む声には、私も胸の内が温かくなります。

皆が待ち望んでくれていると言うのはプレッシャーですが、それ以上に嬉しくもなります。

それに・・・。

 

 

「女王陛下!」

 

 

その時、歓呼とは別種の声が、私の耳朶を打ちました・・・。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

外部からの指摘を受けるまでも無く、僕はすでに動いている。

隣のアリアの身体を左腕で抱き込み、右手に漆黒の剣を生み出す。

 

 

「きゃっ・・・」

 

 

小さく悲鳴を上げるアリアはひとまず置いて、僕は視線を左に、つまり馬車のアリア側に転じる。

そこには、道端の民衆や幾人かの近衛を弾き飛ばしてきた男がいる。

明らかに非友好的な態度を取っているその男は、どうやらゴリラの亜人であるようだった。

 

 

身に纏っていたボロは、殴り伏せられた近衛が手を離さなかったために破れていた。

毛深い筋骨隆々とした、亜人らしいガッチリとした身体つき。

何か気合の入った雄叫びを上げていたその男は、すぐに黙ることになる。

左手でアリアの目を覆った上で、僕の投げた黒剣が彼の喉を貫いたからね。

白目を向いて亜人の男が倒れ、民衆の中から女性の物らしき悲鳴が上がる。

・・・配慮が足りなかったかな。

 

 

「グエッ!?」

 

 

直後、馬車の反対側から鶏が潰れたような声が聞こえた。

振り向くと、まさに鳥の亜人が取り押さえられている所だった。

空から急襲するつもりだったのかはわからないけど、2枚の翼と2本の腕のそれぞれを白い刀で貫かれていて、その上には和装の白髪の女性・・・女王親衛隊副長の知紅が乗っている。

 

 

「助かるよ」

「・・・陛下の安寧のためですから」

「そう」

 

 

短いやり取りの後、アリアがやんわりと僕を押しのけた。

まず左側の事切れた亜人を見て・・・次いで、取り押さえられた右の亜人を見る。

その眼は・・・どことなく、哀しげに揺れているような気がする。

道の両側に詰め掛けていた民衆も、今は静まり返っている。

アリアが、何か言おうと唇をかすかに開いた時・・・。

 

 

「危ない!」

 

 

民衆の誰かが、悲鳴を上げた。

見れば馬車の斜め前方に、ボロを纏った人族の男がいた。

亜人の乱入で混乱した近衛の規制線を破ったらしい男は、両手に銃を持っていた。

その銃口は当然・・・アリアに向けられている。

 

 

アリアの魔眼は、物理的な物からは守ってはくれない。

当然、僕はアリアを守るために動こうとして・・・。

 

 

「・・・っ」

 

 

ギシリッ、と、身体の内部から軋むような音がしたような気がした。

何・・・?

そして僕がそれに戸惑っている間に、目前の男が発砲した。

アリアは、それに反応できない。

しま・・・。

 

 

金属が弾かれるような、甲高い音が響いた。

 

 

アリアに向かうはずだった2発の銃弾は、アリアに届く前に「撃ち落された」。

僕の目には、銃弾が銃弾で弾かれた様子が見えている。

弾き合った計4発の弾丸が、地面にめり込む。

こんな芸当ができるのは・・・龍宮真名か。

 

 

「ぬ・・・うあああぁぁっ!」

 

 

外れたことを知った狙撃手の男は、音程を外したような声を上げて再び銃を構える。

だがそれは、叶わなかった。

・・・民衆の中から投げられた石が、彼の側頭部に命中したから。

 

 

「じ・・・女王陛下を守れ!」

「そ、そうだ、俺達の陛下をお守りしろ!」

「賊を逃がすな!」

 

 

元々、近衛騎士団より民衆の方が数が多い。

近衛の規制線を破った民衆が、アリアを狙った男に一斉に群がって行った。

頭を殴り、銃を奪い、腕に噛み付き、足を蹴り折り、背中を踏み付け、地面にねじ伏せる。

圧倒的な数の暴力は、賊の生命をあっと言う間に踏み躙り・・・民衆の熱は危険な方向に向かい始める。

民衆の「女王万歳」の声が、「亜人追放」に変わり始めた所で・・・。

 

 

 

「やめなさい!!」

 

 

 

半ば呆然としていたアリアが、座席の下から金色の『檻箱(スピリトゥス・ディシピュラ)』を取り出し、放る。

数秒後に箱は開放され、魔導具の中に込められていた魔法が、空砲のような音を立てる。

驚いた馬が嘶き、御者がそれを必死に宥める。

それは極めて危険な行為だったけど、民衆は驚いて動きを止める。

・・・民衆の足の間から、先程の賊の物と思われる手が朱に塗れて倒れているのが見える。

 

 

民衆の暴力的な声が収まった後には・・・子供の泣き声が各所から聞こえている。

馬車の座席に立ったアリアは、何も言わなかった。

何も言わずに、ただ・・・ぺこりと、頭を下げた。

感謝なのか、謝罪なのか、それはわからない。

ただ少なくとも・・・民衆は冷静さを取り戻したようだった。

我に返った近衛が民衆を押し戻し、男を殴打したと思しき民に話をして同行してもらう・・・。

 

 

「銀髪の小娘!」

 

 

だからこそ襲撃者の中で唯一生き残った鳥族の亜人の声は、良く響いた。

女王アリアに対する不敬罪を平然と犯したその亜人は、知紅に圧し掛かられたままの体勢で叫ぶ。

 

 

「銀髪の小娘! 血塗られた専制君主、独裁者よ! 軍事力で周辺国を威圧し、自らの信望者で周囲を固める偽善者よ! 貴様が善政と言う名の飴でどれほど民衆を手懐けていても、飢え死にした者は貴様の豊かな生活を覚えているぞ!」

 

 

それは、過激な共和主義者が良く使う論法だった。

そして一方で、事実でもある。

 

 

「労働者が失業と飢えに怯えている間、貴様がたらふく食っていたことを覚えているぞ! 貧しい者が寒さに震えている間、貴様が煌びやかに着飾っていたことを覚えているぞ! 貴様の持つ宝石一つでいったい何人が救えたか、覚えているぞ!」

「・・・」

「貴様の玉座は、無数の屍の上に立っているのだ! 旧公国しかり、エリジウムしかりだ! いつか貴様はヴぇっ・・・」

 

 

男の言葉は、知紅が男の嘴を刺し貫いたことで止まった。

地面に口を縫い付けられた男は、黙らざるを得ない。

・・・それ以上のことをどうすれば良いのか、知紅は指示を求めてアリアを見た。

一方のアリアは、感情の見えない眼で自分を弾劾した男を見下ろしていた。

そして一言だけ、医者を呼んでやるように告げると馬車に座った。

 

 

「出してください」

「は、はいっ・・・」

 

 

ようやく馬を落ち着けた御者に馬車を出すように告げ、近衛によって整然さを取り戻した民衆の間を進み始める。

何事も無かったかのように笑顔を浮かべ、民衆に手を振って見せる。

するとアリアの無事に安心したのか、民衆の雰囲気も元も戻っていった。

 

 

そしてその後は、予定通り演奏会に出席した。

ただ・・・僕の手を握り続けていた彼女の手は。

ずっと、震えていた・・・。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

「・・・それで、その後はアリア様はどのように行動されましたか?」

「ご予定通り、オスティア・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会をご鑑賞された後、宰相府にお戻りになられました。ただその際、ご予定よりも遠回りでお帰りになられたとか・・・」

「ああ、それは構いません」

「はぁ・・・」

 

 

私の言葉に、宰相府の職員は訝しげな顔を浮かべました。

・・・暗殺事件が起こった後にアリア様がそそくさと宮殿に引っ込めば、民衆はアリア様が民衆への信頼感を失われてしまったのでは無いか、と疑心暗鬼に駆られるでしょう。

 

 

それでは結局、共和主義者の思う壺です。

だからこそアリア様は、ことのほか時間をかけて民衆にお姿を晒されたのでしょう。

後は宮内省の報道官を通じてメッセージでも出せば良し・・・。

 

 

「しかし、大丈夫でしょうか。女王陛下は共和主義者の弾劾に反論されなかったそうですが・・・」

「はは、冗談でしょう?」

 

 

捕らえた暗殺犯の持ち物リストが書かれた書類に目を通しながら、職員の言葉を笑い飛ばします。

王制への弾劾に対する反論など、君主自らがする必要はありません。

そんな物は、我々下々の者がやれば良いのです。

だいたい、君主や政府などと言うものは罵詈雑言を叩き込まれてナンボです。

 

 

「なぜ、我らが女王陛下が賊ごときの主張に耳を貸さねばならないのです?」

「は、はぁ・・・」

「我が女王は愛すべき民の声に耳を貸し給う、しかし賊の主張に貸す耳は無く答える口はありません・・・まぁ、それは良いでしょう、それで?」

「は、はい。それで、現場で賊を殺害してしまったと言う数名の男が自首してきておりまして・・・」

「法に則って扱いなさい、詳細は司法の手に」

「は、しかし・・・」

「返事は?」

「は、はっ、承知いたしました!」

 

 

個人的には特赦を与えても良いのですが、それは拙い。

殺人は殺人、理由はどうあれ・・・後は裁判所の仕事ですがね。

職員が執務室から出て行った後、私は一人で笑います。

女王を守るために人を殺め、それを罪に感じる民。

・・・素晴らしいではありませんか。

 

 

「・・・加えて」

 

 

改めて、賊の持ち物リストを眺めます。

その中に、興味深い物が3つあります。

旧世界製の銃器、これまた旧世界製の「共産党宣言」と言うタイトルの本、そしてウェスペルタティア労働党の意匠・・・。

 

 

ウェスペルタティア労働党は王制廃止、重要産業国有化、労働者「主権」、私有財産の否定などを掲げる急進左派の政党組織です。

最近増加している外国人労働者階級に、特に支持者が多いのですが・・・ウェスペルタティア人からの支持はあまり得られておりません。

過激派は特に「人民戦線」と称して暴力行為を行っているのですが。

今はまだ合法的な組織ですが、さて・・・。

 

 

「失礼します、宰相閣下・・・お呼びでしょうか」

「ああ、ヘレンさん」

 

 

最近は私の個人秘書になっているヘレンさんが入室してきたので、私はいくつかの書類を彼女に手渡します。

身体を張ってアリア様を賊から守った近衛騎士団員達への、アリア様からの感謝状です。

今回の騒動で負傷した騎士達に贈る物で、感謝と共に良く療養するように書き添え、快復の後に勲章と特別手当てを与える・・・と言う内容です。

 

 

「明日の朝一番に陛下の下に赴きサインを頂いた後、各々の騎士に送付なさい」

「はい・・・でもコレ、宰相閣下が書かれたのですか?」

「いいえ? アリア様のサインがあれば・・・それは全て陛下のお手紙ですよ」

 

 

自首してきたと言う民にも、アリア様からお手紙を出して頂かないと。

まぁ、アリア様のことですから気付き次第、ご自分で書き直すでしょうが。

私は困惑した表情を浮かべるヘレンさんの顔を、楽しげに見つめておりました・・・。

 

 

 

 

 

 

Side ネカネ

 

もう、すっかり日が暮れた頃・・・。

私がいつものように倉庫から出てきた時、すでに村中がアリアの話題で持ちきりだった。

アリアが、新オスティアの市街地で亜人に襲われたと言う話だった。

村の大人達は皆、アリアのことを娘か孫みたいに想っているから・・・。

 

 

「心配だなぁ、こりゃスタンさんには教えられねぇよなぁ」

「そうねぇ・・・あら、ネカネちゃんじゃない、どうしたの?」

「い、いえ・・・」

 

 

村の人達との会話もそこそこに、私は自分の家に向かって足早に歩く。

持っている物を、両手で抱き締めるようにして・・・。

 

 

「おお、ネカネ。どうしたんじゃ、そんなに慌てて・・・」

「す、スタンさん・・・急いでますから、失礼しますっ」

「お、おぉ・・・?」

 

 

途中、スタンさんに出会った時には心臓が止まるかと思ったけれど・・・。

何とかごまかして、村外れの私の家へ。

部屋が一つしかない、こじんまりとした小屋。

もっと良い家を皆に勧められたこともあるけど、一人で暮らす分には十分だし。

ネギとのどかさんがいれば、別でしょうけど・・・。

 

 

周りをそれとなく確認した上で、家に入る。

背中で扉を閉めるようにして、大きく息を吐く。

ほっ・・・と胸を撫で下ろして、手に持っている物を見る。

それは・・・。

 

 

「・・・近右衛門さんからの、お手紙・・・」

 

 

一つは、エリジウムにいる近右衛門さんからのお手紙。

あの人は、今はエリジウム総督府で働いているらしいけれど・・・。

・・・手紙には、ネギとのどかさんが心配だと書いてあった。

2人が置かれている状況は、薄氷の上と言っても過言では無い、そんな状況。

でもこの先、アリアはともかく周囲の人間がどう言う行動に出るかわからないと・・・。

 

 

近右衛門さんだけじゃなくて、のどかさんからもお手紙が来ることがある。

そっちは検閲があるけど、でもとても不安そうな文面で・・・。

ネギは、手紙を書くような子じゃないし・・・。

 

 

「私が・・・」

 

 

私が、2人の面倒を見てあげないと。

・・・村の人達も、アリアのことばかりでネギのことはあまり気にして無いみたいだし。

でも、私が何を言っても・・・。

 

 

「でも、私には2人を助けてあげられない・・・」

 

 

私には、そんな力は無いし。

でも、ううん・・・だから・・・。

けど・・・。

 

 

 

『何も迷う必要は無い』

 

 

 

・・・そう、でも、迷っている場合じゃない。

だって、こうしないとネギとのどかさんが・・・。

・・・同じ赤ちゃんなのに、どうしてこうも反応が違うのかわからない。

近右衛門さんのお手紙をズラすと、そこには倉庫から持ち出した一枚のカード。

黒尽くめの老紳士が描かれた、そのカードは・・・。

 

 

「・・・仕方が、無いのよ・・・」

 

 

私には、他に方法を思いつけない。

薄暗い部屋の中を、ゆっくりと歩く。

それから私は果物籠から果物ナイフを取り出すと、机の上に魔方陣を描いて中心にカードを置いた。

・・・少しだけ躊躇して、それでも・・・。

 

 

「・・・っ」

 

 

ツプッ、と小さな音を立てて、ナイフで指先を深く切った。

そして・・・。

 

 

・・・ポタタッ・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ぞくり、と、嫌な感触が背筋を走ったような気がします。

何でしょう、何か・・・。

 

 

「アリアさん、いかがなさいましたか?」

「・・・いえ、何でもありません」

 

 

柔らかな照明と湯気に覆われた宰相府の王室専用浴場の湯船の中で、感じるはずも無い悪寒を感じたような気がします。

でも湯船の縁に座って私を心配そうに見つめる茶々丸さんを、これ以上は心配させたくありません。

ちゃぷ・・・と掌でお湯を掬いながら、そんなことを考えます。

 

 

「・・・茶々丸さん」

「はい」

「この浴場の維持費って、いくらぐらいでしょうか・・・」

「年間で約2万4千ドラクマですが」

「そうですか・・・」

 

 

・・・自分が、全ての人に受け入れられている人間だなどと思ったことはありません。

君主制廃止論や共和主義など、王制国家が生まれた時から存在する物です。

でも久しぶりに他人から弾劾されて・・・少し、キてますね。

 

 

何より民衆に人を・・・殺めさせてしまいました。

何より怖いのは、私を守るためなら人を殺めても良いと、一時的な熱狂のためとは言え民衆が思ってしまうことです。

民が私を慕ってくれるのは嬉しいのですが、狂信や妄信は困ります。

どうすれば・・・良いのでしょうか。

 

 

「・・・上がります」

「かしこまりました」

 

 

ちゃぷ・・・とお湯を跳ねながら立ち上がり、湯船から出ます。

浴室から脱衣所に向かう間に、茶々丸さんが私の身体を丁寧に拭いてくれます。

特に少し膨らんできたお腹は、慎重に。

・・・こう言う扱いを受けられるのも、私が女王だからでしょうか。

 

 

「・・・たとえアリアさんが女王で無くとも、私は同じように致します」

「え・・・」

 

 

脱衣所で着替えを受けながら言われた言葉に、驚きます。

心を、読まれたのでしょうか。

 

 

「そのように考えられては・・・悲しいです」

「・・・ごめんなさい」

「いえ・・・それから、アリアさんの生活費は王室領からの収入で賄われております。政府税収とは切り離された個人収入ですし、一部は福祉・教育・育英事業に寄付されております。またアリアさんは王国国民6500万人の生活と財産を支える重要なお仕事をされておりますし、過ぎた収入とは思いません」

「えっと・・・私の収入っていくらでしたっけ」

「アリアさん個人で年間約460万ドラクマ、王室全体で年間約2700万ドラクマ、土地・不動産などの価値は合計約8億ドラクマ、その他証券・債券が・・・」

 

 

うん、暗殺されて当然な収入でした。

と言うか、資産とかあまり考えていませんでしたが・・・。

 

 

「・・・それに」

「はい?」

 

 

就寝用のネグリジェに着替え終わった後、茶々丸さんは不思議な色合いの瞳を向けてきました。

 

 

「私はアリアさんやマスター、姉さん達が豊かな生活を送れるのであれば・・・他の方が貧しくとも構わない、とも考えます」

「・・・茶々丸さん、で「バカなこと言ってるんじゃ無いよぉ!」「はぶっ!?」って、茶々丸さん!?」

 

 

突然、茶々丸さんの頭にチョップが。

何かと思えば、傍で控えていたクママさんでした。

クママさんは茶々丸さんからバスタオルを奪い取ると、私の身体をゴシゴシと・・・痛いです痛いです!?

 

 

「陛下もあんまり気にすると、お腹の子に障りますよ!」

「は、はぁ・・・」

「あ、私のお仕事が・・・」

 

 

よ、良くわかりませんが、励まされたようです。

身体を拭かれながら、何だか子供に戻った気分で頬を掻きます。

う、うーん・・・。

 

 

身体を拭いた後は就寝用のネグリジェを着せられて、終わりです。

そして、外に出た時・・・。

 

 

「お疲れの所を申し訳ありません、女王陛下。ヘラス帝国の大使館・領事館より急報でございます」

 

 

浴場から通路に出た所で、宰相府の女性職員が跪いて私にそう言いました。

そしてまた、ウェスペルタティア人が私に保護と救いを求めてくるのです・・・。

 

 

 

 

 

Side テオドシウス(ウェスペルタティア王国外務尚書)

 

グリルパルツァー公爵家は言うに及ばず、有力な貴族は王都に屋敷(タウンハウス)を持っているのが常識だ。

いちいち領地と王都を言ったり来たりできるわけじゃないし、その方が経済的だしね。

 

 

「・・・ふぅ」

 

 

私も外務尚書と言う役職上、王都にいることの方が多い。

領地の屋敷は祖父の代からいる管理人に任せているし、王都の屋敷(タウンハウス)でも暮らす分には問題無いしね。

領地経営その物は、今上陛下(アリアさま)の改革で名ばかりの物になっているしね。

 

 

とは言え、50室からなるこの屋敷(タウンハウス)も豪邸には違いない。

私は新オスティアの貴族住宅街にあるこの家で、1年の大半を過ごしている。

今も寝室に隣接している小さな浴室(大きいのもあるけど、好きじゃないんだ)で、シャワーを浴びていた所。

タオルで髪を拭きつつ、バスローブを身に着けて隣の寝室に入る。

使用人は、私が子供の頃から世話してくれてる爺やを含めて3人しかいない。

まぁ、だからある程度は自由に・・・。

 

 

「・・・だーれだ」

 

 

寝室に入って照明をつけようとした時、背後から誰かにやんわりと両目を塞がれた。

悪戯とも呼べない稚拙な悪戯で、私は溜息を吐く。

 

 

「勝手に淑女の寝室に入らないでくれないか・・・マリア」

「あれ? バレちゃった?」

 

 

声の主は、マリア・ジグムント・ルートヴィッヒ。

魔族の血を引く男で、さらりとした銀の髪と菫色の瞳と言う色素の薄い奴だ。

一応、外務省の私の部下・・・のはずだ、うん。

 

 

「あーあ、つまんないの~」

「・・・何か用?」

 

 

ごく自然にスルリとバスローブの胸元に手を入れようとしたマリアの手を抓りつつ、何の用件か尋ねる。

今日は難しい交渉を纏めて疲れてるんだから、変な悪戯はやめてほしい。

と言うか、後ろから抱き付いて肩に顎を乗せるのやめてくれないかな・・・。

 

 

「報告だよ、尚書閣下・・・僕よりも仕事を取るなんて、妬いちゃうなぁ」

「気持ち悪いことを言うな・・・・・・女王陛下が?」

「ああ、それね。なかなか『美味しかった』よ?」

 

 

悪魔のマリアが「美味しい」と言う場合、そこには人間の負の感情が存在したと言うことだろう。

・・・公会堂前で襲撃、陛下もお腹の子供も無事。

良かった・・・。

 

 

「可愛い女王様だよね、ちょっと何か言われたくらいで揺らいじゃってさ・・・ま、僕は『美味しい』感情を食べれたから、良いけど」

「・・・今のは聞かなかったことにするよ」

 

 

バスローブに手を入れて腹部を撫でようとしてきたマリアの手を抓って、そう言う。

今のは十分に不敬罪に値するよ、マリア。

そのマリアの持ってきた書類の続きを読むに、どうやら我が宰相閣下は女王陛下ほど胸を痛めてはいないようだ。

明日の朝の閣議も嫌な物になりそうだ・・・労働党の非合法化ね。

 

 

「それと・・・ヘラス帝国か」

「うん、そっちも『美味しそう』だよね」

 

 

私の太腿を撫でているマリアの手を叩いて、私は溜息を吐いた。

・・・また、戦争か。

本当に飽きもせずに良くやるなぁ・・・迷惑を被るのは民だろうに。

 

 

それにしても、今回の報告はちょっと信じられない。

「ジャック・ラカン戦死」って・・・あり得ないだろ。

 

 

 

 

 

Side テオドラ

 

「ジャックが死んだ・・・じゃと?」

「はい、皇帝陛下」

 

 

妾の問いに、皇帝補佐官のコルネリアは淡々と答えてきた。

あまりにも淡々と言ってきたので、聞き違いかとすら思った。

何故なら・・・それは、あり得ないことだったのじゃから。

 

 

ジャック・ラカンが「神聖ヘラス帝国」との会戦で戦死した。

そのような噂が、帝国中を駆け巡っておるらしい。

そのコルネリアの報告に、妾は衝撃を受けた。

衝撃を受けざるを得まい、最愛の夫が戦死したと言うのじゃから。

・・・それに。

 

 

「・・・ジャックは、ここにおるが」

「あ?」

 

 

妾の声に、隣で高級葡萄酒(ワイン)をラッパ飲みしておったジャックが間抜けな声を上げおった。

極めて五体満足、先月に「神聖ヘラス帝国」の砦を5つ潰して戻って来たのじゃが・・・アホ面で上半身裸じゃぞ?

皇帝の寝室に夜分に訪れて何かと思えば、コルネリアも妙なことを言う奴じゃのぅ。

 

 

「・・・その噂に触発されて、帝国各地で火の手が上がりましてございます」

「・・・何じゃと!?」

 

 

火の手・・・叛乱か!?

何故じゃ、ここの所は静かじゃったと言うのに。

 

 

「まぁ、ラカン殿下の武名で抑えられていたのですから、ラカン殿下がいなくなった途端に叛乱するのは合理的かと思いますが」

「落ち着いておる場合か!? だいたい、ジャックはここにおるぞ!?」

「陛下、ここで問題なのはラカン殿下の生死では無く、帝国各地の政治・軍事指導者がラカン殿下が死んだと思いたがっていることです。そして現実に、叛乱は起きているのです」

 

 

じ、ジャックを婿に迎え、「夫君王(キング・コンソート)」の称号を与え帝国の共同統治者としたことに批判があったのは事実じゃ。

じゃが、それでも帝都の民は受け入れてくれたと思っておったのに。

 

 

「すでに第50軍団のボルゲーゼ将軍、アルギュレー方面軍のシュマルカルデン将軍とイェライッチ将軍、シルチス方面軍のムスタファ参謀長がそれぞれの任地で武装蜂起。ノアチス地域の軍事貴族ルドヴィカ家、ティレナ地域の大貴族カウニッツ家に不穏の気配があります。また東方艦隊のクルーゼンシュテルン提督、西方艦隊のヴィルヌーブ提督と連絡が取れなくなりました。さらにサバ地域で市民が蜂起、人民政府の樹立を宣言し・・・」

「待て待て待て! そんなにか!?」

「はい」

 

 

落ち着いた口調で、コルネリアは頷いた。

いや、と言うかそれ・・・ほぼ帝国全域で叛乱が起きておるでは無いか!

 

 

「それから」

「まだあるのか!?」

「オスティア駐在大使ソネット・ワルツからの急報で、ウェスペルタティア女王夫妻が暗殺されかけたとか」

「何じゃと・・・?」

「どうも犯人が亜人だったらしく、反帝国感情が増しているとか・・・」

「帝国の民じゃったのか!?」

「さぁ、そこまでは」

 

 

む、むむむ・・・と、とにかく今は、帝国の統一を保たねばならぬ。

妾はキッ、と隣でアホ面を浮かべておるジャックを睨んだ。

 

 

「ジャック!」

「嫌だね」

「叛乱を鎮圧・・・って、お前の国のことじゃぞ!?」

「知らねーよ、何で俺がそんな面倒なことしなくちゃいけねーんだよ。しかもタダで」

「皇帝の夫じゃろーが、お前は!」

 

 

手元の兵力が少なくて、とても全部に鎮圧軍を派遣できんのじゃ!

ジャックなら一人で撃破できるじゃろ!?

良いから、行って来い!

 

 

「・・・それにしても、何故にそのような噂が」

「調査によれば、エリジウム駐屯軍から流れてきたとか」

「・・・何で、そんな所から?」

「さぁ、そこまでは・・・」

 

 

ま、まぁ良い。

ジャックが健在とわかれば、叛乱も治まるじゃろ。

さぁ、行くのじゃジャック、妾の最愛の夫よ!

 

 

「夫を戦場に蹴り出すってどーよ?」

「やかましい!」

 

 

・・・しかし、本当に誰が噂を流したのじゃろうか。

見つけたら、タダではおかぬ。

我が帝国と帝国の民を苦境に立たせた落とし前を、つけさせてやるからの・・・!

 

 

 

 

 

Side リュケスティス

 

俺が女王夫妻暗殺未遂の報を受けたのは、総督府を兼ねているホテルの自室に戻ろうとした時だった。

午後10時近くのことで、いつもより仕事終わりがかなり遅かった。

来月、女王に直接信託統治領の統治状況を報告するためにオスティアに戻るので、その準備が忙しくてな。

 

 

「ほぅ、女王陛下がな・・・」

「ええ、お労わしいことです」

 

 

それを伝えに来た文官は心にも無い(そう見えるのは、俺の性根が捻くれているからかもしれんが)ことを言って、哀しそうに胸を押さえて見せた。

一方で俺はと言えば、別に哀しみを表現する必要を感じないので何もしない。

 

 

「それよりも、一時的とは言え俺は王都に戻る。俺の不在の間マリウス提督らと協力して、よろしく頼むぞ」

「はぁ・・・」

 

 

俺が自分に同調してくれなかったのが不満なのか、文官は気の無い返事をした。

その文官にいくつかの指示を残して、執務室から出る。

ふん・・・。

 

 

・・・むしろ我が女王が共和主義者や左派のテロリストや亜人の凶刃に倒れるようであれば、それこそ興ざめと言う物だろう。

あの若く美しい女王がそのようなことで倒れるはずも無いし、倒れるとすればもっと早くに歴史の表舞台から姿を消していただろうさ。

現に今回もテロを歯牙にもかけずに、無事息災で生き残っているでは無いか。

・・・それで良い、我が女王は。

 

 

「おお、これはこれは総督閣下」

「・・・」

 

 

部屋に戻る途中、俺は会いたくも無い奴に会ってしまった。

相手は・・・元新メセンブリーナ連合評議会議員、近衛近右衛門。

異様に長い後頭部のその男は、どう言うわけかこの総督府の政務官になりおおせている。

 

 

「何でも、総督閣下は近く王都に戻られるとか」

「・・・そうだが、何かあるのか」

「ふぉふぉふぉ・・・いや何、ちょっとした噂を小耳に挟みましてのぅ」

「噂?」

 

 

俺が片眉を上げて不快を示すと、「ふぉふぉふぉ」と言う笑い声が返ってきた。

 

 

「総督閣下は王国随一の将帥、ワシのような老害が侘しい知恵をお貸しする必要は無いと思いますが、心配でしてのぅ」

「わかっているのなら、黙っていることだな。失礼する」

 

 

くだらん、時間の無駄だ。

俺は近右衛門の傍を通り過ぎて、部屋に戻ろうと・・・。

 

 

「・・・何でも、リュケスティス元帥が王都に収監中の公王ネギを攫いエリジウムで独立叛乱を起こすと言う噂が、まことしやかに囁かれているとか・・・」

 

 

・・・足を止めて振り向いた時、近右衛門はもうそこにいなかった。

ただ、「ふぉふぉふぉ」と言う笑い声が響くばかり。

・・・くだらん。

この俺がネギ・スプリングフィールドを擁して独立?

笑えん冗談だ、本当にそんな噂が存在するなら噴飯物だな。

 

 

「・・・あのクルト・ゲーデルでも、もう少しマシな噂を流すだろうさ。それに・・・」

 

 

もし俺が、本当に我が女王に叛すると言うのであれば。

叛するので、あれば・・・。




新登場キャラクター:
テレサ・ハラオウン:剣の舞姫様提案。
ボルゲーゼ将軍・クルーゼンシュテルン提督・ヴィルヌーヴ提督:伸様提案。
ありがとうございます。

ウェスペルタティア王国宰相府広報部王室専門室・第17回広報:

アーシェ:
復・活!
このまま干されるかと思ったけど、そんなことは無かったよ!
久々の広報・・・今回は宰相閣下もお越しです、どんどんぱふぱふ~!

クルト:
ハハハ、どうも、ウェスペルタティアで最も私心の無い男、クルト・ゲーデルです。

アーシェ:
自分で言ったよ・・・。

クルト:
さて、今回から本格的に登場したアリア様の新たな「敵」、労働党についておさらいです。

アーシェ:
う・・・うっス。でも・・・本当に敵なんですか?

クルト:
何か問題でも?(ニヤリ)

アーシェ:
(ぶんぶんぶんぶんっ)


ウェスペルタティア労働党:
労働者達の受け皿を自称する政党。王制廃止・共和制支持、大企業分割・重要産業国有化、政府による労働者保護(低負担・高福祉)、反エリート層・反知識層、農民・労働者独裁・・・などを掲げる極左勢力。

ウェスペルタティア人には支持されないが、外国人労働者に支持者が多い。
その関係でその組織基盤は王国内よりも帝国領に多く、ジェームズ・ハーディ氏が率いるウェスペルタティア労働党本体とは区別して「人民戦線」と名乗っている。この「人民戦線」はテロも辞さない武装勢力であり、帝国・王国域内で闘争を続けている。今回、女王アリアを狙ったテロや帝国サバ地域の市民勢力の蜂起はこの勢力による物とされる。



クルト:
・・・かように、とてもとても危険な組織なのですよ。

アーシェ:
ほぅほぅ、それは危ないですねぇ。
おーっと、時間が・・・。
次回は8月のお話、王国はどんどん強くなりますが、帝国は・・・。
では、また!

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