魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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前後編・私的な新婚旅行です、今回は前編。
リンクス様・ライアー様・☆HINA☆様ご希望。
予想通り、ストーリー性、ほぼゼロ・・・!
では、どうぞ。
後、今回から後書きの形式を変えてみました。


アフターストーリー第1話「新婚旅行・前編」

Side 近衛騎士(女・独身・21歳)

 

私はしがない近衛騎士、名前はまだ無い。

・・・いや、冗談だ、名前はちゃんとある。

だが、自己紹介したい気分では無い。

理由は・・・。

 

 

「・・・フェイト、フェイト、ほら、騎竜の赤ちゃんですよ」

「・・・可愛いね」

 

 

理由は・・・できれば、聞かないでほしい。

私は近衛騎士、自分の職務に疑問を感じたことは無い。

王室を守るべく私心を捨てることは私の義務であるし、上からの命令に従って王族を守るのが仕事だ。

 

 

給料にも待遇にも、十分に満足している。

高給で休暇も多く、ついでに言えば年金も高い。

 

 

「お、おおぅ・・・け、結構、重いですね。ドロシーはいつも背中にくっつけていたんですが・・・」

「アリア、危ないよ・・・」

「大丈夫ですよ、私にはルーブルと言う経験がですね・・・」

 

 

・・・繰り返すが、私は自分の職務に限界を感じたことは無い。

だが今は、いささか気分が悪い。

と言うより、酷い胸やけを感じるんだ。

 

 

ああ、そうか、コレが噂に聞く高山病と言う奴かな。

ここは山だからな、おいガイド、お前は平気なのか・・・。

 

 

「慣れていますので」

 

 

そうか・・・流石はガイドだな。

コレに慣れると言うのは、凄いなガイド・・・。

 

 

「ひゃっ・・・わ、わわわっ・・・っと」

「・・・だから、言ったのに」

「ご、ごめんなさい・・・でもこの子、大人しい子ですよ?」

「問題は、キミの方だけどね・・・」

「あ、酷いです」

 

 

・・・重ねて繰り返すが、私は自分の職務に疑問を感じたことは無い。

だが、限界を感じたことはある。

今がその時だ。

 

 

「最近わかったんですけど、フェイトは意外と意地悪ですよね」

「・・・キミは、意外と落ち着きが無いね」

「・・・本当、意地悪です」

「キミに対してはね・・・」

「・・・」

 

 

もう嫌だ、こんな仕事辞めたい。

だけど、そんなこと言ったらシャオリー団長、怒るだろうなぁ・・・。

いつもは部下想いの方なのだけど、女王陛下関連だと沸点が低いんだよなぁ・・・。

何たってこんな任務の時に、当番になっちゃったんだろ。

 

 

「フェイト・・・」

「・・・アリア」

 

 

・・・私はしがない近衛騎士、名前はあるが自己紹介する気にはなれない。

現在、ある任務で人生何度目かの挫折を味わいそうになっている所だ。

 

 

・・・何の任務かって?

女王陛下の新婚旅行の護衛と言う、意味不明な仕事だ。

独り身の私に対する、一種のパワーハラスメントじゃないだろうか・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

結婚式から10日後、私はフェイトとウェスペルタティア王国南部、グリルパルツァー公爵領のオンカ・アテーナ近郊の山岳地帯におります。

オンカ・アテーナはヘラス帝国との国境に近い王国辺境の山岳地帯に位置する人口3500人程度の町で、ウェスペルタティア第三の山と美しい湖を持ち、風光明媚な観光地としても有名です。

 

 

とは言え、ここに来たのは昨日の話でして・・・。

結婚式の2日後から1週間の日程で、「公的な」新婚旅行は始まっておりました。

そちらはウェスペルタティア東部の3つの貴族領、イギリカ侯爵領・クロージク侯爵領・旧ヒュプシスタイ伯爵領(叛乱により取り潰し)を巡るスケジュールでして、公務としての色彩が強い物でした。

領主主催の食事会、住民代表による歓迎式典、行政機関への表敬訪問、戦災被害者の慰霊碑訪問、学校・病院訪問、現地駐屯軍の演習閲覧・・・etc。

旅行と言うより、多くの民との触れ合いが主目的でしたね。

 

 

「テオドシウスさんには、感謝ですね」

「・・・そうだね」

 

 

領地の名称でおわかりかもしれませんが、ここは外務尚書テオドシウス公爵の領地です。

私達のために、公爵家所有の山荘「ツム・テュルケン」を貸切にまでしてくれて・・・。

今は標高1000m程の場所にある騎竜の養育場で、騎竜体験をさせて頂いている所です。

山荘から山一つ越えた場所にあって、今日は私達で貸切です。

 

 

今は「私的」な新婚旅行で、民の目も少なく・・・のびのびできます。

昨日はテオドシウス公爵の居城で祝宴などもありましたが、今日からはそう言った物もありません。

つまり、人目少なく、フェイトと2人きりになれたりも・・・。

 

 

「・・・何?」

「な、何でもありませんよ?」

 

 

不思議そうに首を傾げるフェイトからごく自然に視線を外しつつ、私は抱っこしていた騎竜の赤ちゃんを地面に下ろします。

騎竜の赤ちゃんは小さな首を伸ばして、ニーニーと鳴いています。

か、可愛いですね・・・クリクリお目々に生え揃っていない鱗とか特に。

昔のルーブルを思い出しますねぇ・・・。

 

 

「女王陛下、乗竜のご経験はおありでしょうか?」

 

 

私が騎竜の赤ちゃんに心癒されていると、この養竜場付きの観光ガイドの若い女性が、そんなことを言ってきました。

乗竜・・・まぁ、つまり騎竜に乗ったことがあるかと。

 

 

「いえ、ありません」

「でしたら、いかがでしょう。あちらに成竜の乗竜場がございますが、ご経験されてみては・・・?」

「ほほぅ・・・」

 

 

うーん、正直、興味はあったんですよね。

たまにグリアソン元帥の演習とか親衛隊のアクロバット訓練とか見学しますが、私自身はやったことないので。

・・・ちらっ、としゃがみ込んで騎竜の赤ちゃんの頭を撫でつつ、傍のフェイトを窺い見てみます。

フェイトはそれに気付くと、少しだけ首を傾げて・・・。

 

 

「・・・良いよ」

「本当ですか?」

「キミが望むならね・・・でも、危ないことはダメだよ」

「はぁい」

 

 

軽く敬礼して返すと、フェイトは肩を竦めました。

ふふ、こう言う所は甘いですよねー・・・。

 

 

「じゃあ、お願いします」

「かしこまりました」

 

 

一礼して、慌ただしく駆けて行くガイドさん。

・・・それにしても。

 

 

随員の近衛騎士の方々が、とても居心地が悪そうなのですが。

・・・動物が、嫌いなんですかね?

都会っ子ですからねー・・・仕方ありませんね。

忘れられがちですけど、私もウェールズの田舎育ちなのですよ。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

オンカ・アテーナの山岳地帯はいくつかの山稜が重なり合う山紫水明な土地で、山と川と森が至る所で絵心を誘うような景観を見せている。

標高が最大で4000mに及ぶ山脈の頂きは空と交わり、その一部には氷河が見える。

 

 

頬に触れる空気は冷たいけれど、寒いと言うことは無い。

と言うのも、僕の腕の中にアリアがいるからね・・・。

 

 

「例えて言うなら、パ○ーとシ○タ的な体勢ですよね・・・!」

「・・・何の話?」

「いえいえ、こちらの話です」

「そう」

 

 

バイザー付きのフライトヘルメット越しに、アリアの声が聞こえる。

耳元の通信機から響くそれは、聞き間違いようも無い。

バイザーと布製のマスクを着けているから、お互いの顔は良くは見えない。

とは言え厚い乗竜用のスーツの上からでも、触れ合っている箇所を通じてお互いの温もりはわかる。

 

 

僕が騎竜の手綱を持って2人乗り用の鞍の後ろに座り、アリアが前に座っている。

手綱を握っている僕の両手の間に細い身体を収めて、背中を僕に預ける形になっている。

本当は、養竜場付きのプロの飛行士がやる役目なのだろうけど、僕も騎竜の2人乗りくらいはできる。

10年ぐらい前に、いろいろとね。

そう言うわけで、アリアとタンデム飛行しているわけなのだけど。

もちろん、付近には近衛が乗る騎竜が3匹程。

 

 

「綺麗ですねー・・・」

「・・・そうだね」

 

 

ギシッ・・・と手綱を強く引いて、硬度を維持する。

アリアが顔を向けている方向には、いくつかの川の水源となっている大きな湖がある。

深い渓谷と滑らかな湖岸線が融合する場所でもあるそこは、午後の太陽に照らされて、水面に近隣に山々を映している・・・。

 

 

そしてその湖水の近くには何匹かの騎竜が水を飲んでいて、親竜が子竜の水浴びを手伝っている光景も見ることができる。

このあたりの土地は、養竜場の職員を除けば彼らの物だからね。

 

 

「・・・気分は?」

「最高です」

「そう」

 

 

軽く興奮しているのか、アリアの気分は良いらしい。

体質にもよるけど、人によっては気分が悪くなったりする物だけどね。

まぁ、良いなら良いで越したことは無いけど・・・ね!

 

 

「ひゃああああああっ!?」

 

 

グンッ、と手綱を操り、騎竜を降下させつつ速度を上げる。

魔法や魔法具でもっと早く飛んだこともあるだろうに、アリアは控え目と言うには大きすぎる悲鳴を上げた。

鞍に備え付けられた手すりにしがみ付いて、突然の加速の衝撃に耐える。

・・・目論見が、外れたかな。

 

 

速度を上げた後は上昇して、より高度を上げる。

そこでようやく、騎竜は姿勢を安定させた。

 

 

「ちょ・・・何で急加速!?」

「特に理由は無い・・・って言ったら、怒るかい?」

「当たり前ですよ!」

 

 

それにしても最近、僕は少し、おかしいのかもしれない。

何故かはわからないけど、アリアを困らせてみたくなることがあるんだ。

例えば、今とかね。

 

 

 

 

 

Side 暦

 

「あー、もうっ、腹立つ――――――っ!」

「暦、うるさい」

「ごめん!」

 

 

何て会話をしつつ、ブンッ、と腕を振るい、環が投げて来た薪を爪で割る。

何をしてるって、今夜の暖炉とか炊事とかお風呂とかに使う薪を割ってるの。

オスティアと違って、こう言う別荘地は・・・えーっと、あなろぐ? って言うの?

とにかく、不便なのよ。

 

 

ここはグリルパルツァー公爵家所有の山荘「ツム・テュルケン」。

シンプルな木造の山荘で、部屋数は30室くらい。

庭にプールがあるくらいで、後は普通に森の中に建ってる別荘でしかない。

まぁ、公爵家所有にしては小さいし、女王陛下の新婚旅行先としては質素なのは間違いない。

私達5人で3日だけとは言え、管理できちゃうくらいにはね。

 

 

「で、何が腹が立つの?」

「何がって・・・・・・フェイト様と女王陛下のことに決まってるでしょ!?」

 

 

ここには今は私達フェイトガールズ(公称・いつまで使えるんだろ・・・)しかいないけど、念のため周囲を見渡してから、小さな声で言ってみる。

 

 

「リビングに7人くらい座れそうな大きなソファあるじゃない? 昨日の昼に覗いたら、1人分しか使って無くて・・・って、何が言いたいかわかる? つまりフェイト様の膝の上に・・・!」

「・・・だから?」

「羨ましい!!」

 

 

いや、私達はもうフェイト様に未練は無い・・・わけじゃ無くも無いけど。

でも、まぁ、横恋慕とかしたいわけじゃなくて、むしろ応援してるって言うか・・・。

だけど・・・だけどさぁ!?

 

 

あーもうっ、羨ましい!

そう思っちゃうのは、仕方が無いでしょ!?

 

 

「それにしても、新婚だからって四六時中ベタベタベタベタ・・・当てつけかっ!?」

「何だ、そんなこと?」

「そんなことって・・・じゃあ、何だと思ったわけ?」

「・・・・・・夜とか」

 

 

・・・そ、そこにはあえて触れないけど。

フェイト様って・・・意外と。

 

 

「おーい、暦、環。薪割りまだか・・・って、どうした暦、風邪か?」

「え・・・ええ!? まっさかぁ、薪、うん、薪割りね、終わる終わる!」

「そ、そうか? なら、良いんだが・・・」

 

 

山荘の中から、焔がひょっこりと顔を出してきた。

中の掃除、終わったのかな。

じゃあ、私達も薪を集めて戻ろうか・・・。

 

 

その時、森の方で何かがガサガサと音を立てていることに気付いた。

豹族の私の聴覚には、はっきりと聞こえてる。

 

 

「・・・来る」

 

 

環の呟きの直後、それは現れた。

グルルルッ・・・と威嚇しているそれは、竜だった。

 

 

「何だ・・・鷹竜(グリフィン・ドラゴン)じゃないか、この時期に珍しい」

 

 

山荘の窓で頬杖をつきながら、のほほんと焔が言った。

焔の言った通り、そこにいたのは鳥に羽根をつけたような竜がいた。

下級の竜種、どちらかと言うと魔獣に近い。

・・・養竜場が近いから、そこのかな。

 

 

その割には、何だか変な竜だけど。

角は2本とも折れてるし、顔には火傷の痕がある。

まるで昔、誰かに爆弾でも投げつけられたかのような。

 

 

クルァッ!

 

 

その鷹竜(グリフィン・ドラゴン)が、威嚇のレベルを上げた。

風の障壁を纏い、一歩こちらに踏み込んで来る。

 

 

「   」

 

 

不意に、環が私達には理解できない言葉を使った。

多分、竜の言語なんだろうなーって思えたのは、相手の鷹竜(グリフィン・ドラゴン)がやたらに怯えた鳴き声を上げて飛んで行ったから。

別の山の方に行ったけど、このあたりは養竜場だから、問題は無いと思う。

 

 

「・・・下級の竜で良かった」

「ありがと。ところで、何て言ったの?」

「・・・人に言うような言葉じゃ無い」

 

 

それだけ言って、環は薪を整理し始めた。

・・・まぁ、良いけどさ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

おっかしぃですねぇ・・・フェイトってもうちょっとこう、ストイックなキャラだったはずですが。

最近どうも、私に対してだけキャラがおかしいです。

・・・私に対してだけ。

 

 

い、いやいや、そこで喜んじゃダメですよ私。

ああ、でも私に対してだけなら、仕方が無いですよねーとか普段ならウザいとしか思えないようなことを考えてしまうのは、どうしてでしょうか。

 

 

「・・・まだ、怒ってる?」

「怒ってます。すごくすごーく、怒ってます」

「そう」

 

 

もちろん嘘です、実はそれほど怒っていません。

でも、フェイトの声に笑いの微粒子を感じましたので、逆のことを言ってしまいました。

私は、悪く無いです。

意地悪なフェイトが悪いんです。

 

 

「・・・そろそろ、降りるかい?」

「んー、そうですね・・・そうしましょうか」

 

 

左手のスーツの袖口をめくって時計を確認すると、すでに40分ほど飛んでいます。

騎竜も疲れるでしょうし、ガイドの人によれば1時間が限度とのことですし。

何より私も、良い感じに疲れて来ましたし・・・。

 

 

「じゃあ、あの山をぐるりと回って養竜場に戻るけど、良い?」

「お任せします」

「うん」

 

 

今度はゆっくりと騎竜を動かすフェイトさんに背中を預けながら、私は夕焼けに染まりつつある景色を見つめることにします。

のどかな自然が広がるその光景は、どこかウェールズの村が重なって見えて・・・。

何と言うか、郷愁を誘われます。

 

 

「・・・そう言えば、あの山の裏手にあるの、私達の泊ってる山荘じゃないですか?」

「そう?」

「そうですよ、だってホラ・・・」

 

 

私が指差した方向に、フェイトが騎竜を動かします。

今までよりも比較的に低空飛行で近付くと、やっぱり、遠目に木造の山荘が見えます・・・。

 

 

クルァッ!

 

 

その時、何かが私達の前を通り過ぎました。

騎竜よりも一回り以上大きな何か・・・何か、大きな鷹に似た動物だったのですが、それが突然、山荘近くの森の中から飛び出して来たのです。

 

 

「ひゃあっ!?」

「・・・っ」

 

 

それに驚いて、私達の騎竜が身体をのけ反らせました。

私は驚きましたけど、フェイトは落ち着いて手綱を捌いて、すぐに体勢を整えます。

さ、流石ですね・・・。

 

 

・・・と、思ったんですけど、な、何かあの鷹・・・こっちに戻って来てませんか?

ん、んー・・・?

アレは鷹竜(グリフィン・ドラゴン)じゃないですか、どこかで戦ったことがあります。

アレは確か・・・と私が記憶を精査する間もなく、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)が風のブレスを放ってきます。

な、何か私達に恨みでも・・・?

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「「「女王陛下! 公爵閣下!」」」

 

 

僕達の後方を飛行していた近衛が即応して、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)を後方から半包囲しようとしているのが見える。

ただ騎竜よりも鷹竜(グリフィン・ドラゴン)の方が大きいからか、思うようには動けていないようだ。

 

 

さて、どうするかな。

殺してもいいなら即座にやれるけど、養竜場の竜だとすると面倒だしね。

それにしても、やけに攻撃的だな・・・。

・・・仕方無い、か。

 

 

「アリア」

「はい?」

「ちょっと、持っててくれる?」

「へ?」

 

 

一旦、開けた空間に騎竜を上昇させて、手綱をアリアに渡す。

アリアが慌てたように僕を振り向くけど、その頃には僕はいなかった。

何しろ、そのまま後ろに跳んでいた物でね。

 

 

「え、ちょっ・・・フェイト! 私、馬だって一人で乗ったこと無いのに――――――っ!?」

 

 

そんなアリアの声を聞きながら、二度ほど虚空瞬動を繰り返して――――。

 

 

後方にいた鷹竜(グリフィン・ドラゴン)の首の後ろに、膝を叩き込んだ。

 

 

風の障壁が多少はあったようだけど、僕にとっては大したことは無い。

ナギ・スプリングフィールド曰く、大概チートな物、だからね。

グギッ・・・と骨が軋む鈍い音がして、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)が奇妙な声を上げて落下を始める。

殺してはいない、まぁ、しばらく飛べないだろうけどね。

 

 

「後、任せるよ」

「は・・・はっ」

 

 

近衛の返事を聞く前に、3度ほど虚空瞬動。

僕が追いついた時、アリアの操る騎竜はとても、何と言うか。

ヨロヨロと、飛んでいた。

流石に観光用に訓練されているだけあって、インストラクターに教えてもらった基本さえ守っていれば、墜落したりはしない物だよ。

・・・初めてのアリアは、とても困っているだろうけど。

 

 

「お、おぉ・・・お? おおおぉぉ・・・?」

「ただいま」

「おおぉ・・・お? あ、フェイト、見てください! ひょっとしたら私、騎竜の才能があったのかも・・・!」

 

 

僕がアリアの後ろに戻った時、何故かアリアは調子に乗っていた。

まぁ、初心者にはありがちなことだと思うけど。

 

 

「よ、良くわかりませんが、とりあえずやってみる物ですね・・・!」

 

 

非常に拙い動作だけど、それを補う程に一生懸命に手綱を操るアリア。

それに合わせて、騎竜もゆったりとした動作で飛ぶ。

まぁ、飛び出しと着地以外は、意外と簡単な物だから。

 

 

バイザー越しでも、アリアの目が興奮に彩られているのがわかる。

他人には見せないけれど、アリアは時々、妙に子供っぽくなることがある。

もちろん先日までの「公的な」新婚旅行では、最初から最後まで「女王」だったけどね。

その差異に戸惑いを感じることもあるけれど、それも僕の前だけど思えば・・・。

 

 

「アリア」

「はい・・・って、ひゃっ?」

 

 

アリアの手の上に自分の手を重ねて、手綱を握る。

それから・・・グイッ、と、急旋回した。

 

 

「ちょ、だから急加速はやめてって――――――――!」

 

 

アリアのそんな声を耳に入れつつ、僕は騎竜を養竜場の方向に向けた。

・・・それにしても、さっきの鷹竜(グリフィン・ドラゴン)は何だったのかな。

 

 

 

 

 

Side 調

 

タンッ・・・と、お肉を包丁で叩いた体勢のまま、私は動きを止めました。

今夜はフェイト様と女王陛下は別の場所にお泊りになりますので、今日は私達5人しかいないのですが・・・。

 

 

「・・・どうかして、調?」

「あ、いえ・・・何と言うか、こう・・・」

「・・・?」

 

 

シチューをかき混ぜていた栞が、不思議そうに私の方を見ています。

私自身、何とも言えない感覚なのですが・・・。

 

 

「・・・何か、フェイト様からお叱りを受けそうな気がします」

「嫌に魅りょ・・・具体的な予感ですわね」

「そうですね、まぁ、気がするだけで実の所どうかは・・・」

 

 

虫の知らせならぬ、精霊の知らせとでも申しましょうか。

私や焔は、精霊の気配が強い場所では力が増しますが、そうでない所では逆に弱くなります。

ここは森の中ですから、私の調子が上がるのは確かですが。

まぁ、別に予言とかができるわけじゃないので。

 

 

新婚と言うだけあって、フェイト様は女王陛下にかかりきりですから。

まぁ、今さら・・・どうと言う話でもありませんが。

・・・ふぅ。

 

 

「今日は私達の分だけで良いのですよね?」

「そうですわね、フェイト様と女王陛下は今夜はレウカーバードにご宿泊の予定ですわ」

 

 

レウカーバードと言うのは、麓の温泉街です。

近隣でも有名な温泉街の一つで、王国最大規模の豊富な湯量を誇るとか。

今夜は、ホテルの一つがフェイト様と女王陛下のお2人で貸切になっているはずです。

まぁ、随員の近衛が10人ほど同行しているでしょうけど。

先日までの公務の疲れを癒してほしいとの、周囲のお気遣いでしょう。

 

 

フェイト様と女王陛下は、今日は珍しくお昼までお休みになっておりました。

昼食後に山一つ向こうの養竜場を訪れた後、レウカーバードに向かう予定のはずです。

今頃は、すでにホテルに到着された頃でしょうか。

 

 

「・・・温泉ですか」

「憧れます、調?」

「そうですね・・・温泉は好きですね」

 

 

樹の精霊に連なる一族ですので、私。

・・・でも油断すると、根を張りそうになるんですよね、なんて。

 

 

「・・・そう言えば、茶々丸さんはどうされたのでしょうか?」

「茶々丸さんなら、すでにホテルでスタンバってるはずですわ」

「・・・今夜は、2人きりにして差し上げるのでは無いのですか?」

「茶々丸さんが、そのあたりを抜かるわけがありませんわ」

 

 

・・・まぁ、そうですね。

でも正直、わざわざ2人きりにする必要があるのでしょうか。

だってあの2人・・・公務が終わった後、いつも・・・いつも・・・。

 

 

「調?」

「い、いえ、お肉、焼きますね」

「・・・?」

 

 

・・・新婚って、怖い。

私もいつか、素敵な殿方とああ言う生活ができるのでしょうか。

無理な気がするんですが、でも新婚だと私もああなるんでしょうか・・・。

想像、できないです。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

新婚旅行。

それは、結婚したばかりの夫婦にとっては外せないイベント。

特に公務と言う性格が常に行動に付きまとうアリアさんにとっては、この「私的な」新婚旅行3日間は非常に重要です。

 

 

無論、王室女官長であり広報部室長でもある私は、「公的な」新婚旅行にも同行しておりましたが。

アリアさんとフェイトさんは旧ヒュプシスタイ伯爵領から直接ここグリルパルツァー公爵領に来られたのですが、私は一旦、オスティアに行かねばなりませんでしたので。

 

 

「皆さん、昨日一日、私の不在にも関わらず良く陛下のお世話をしてくれました」

「茶々丸殿・・・我々は、もうダメであります!」

「あの空気に当てられる上、先程も失態を・・・!」

「気持ちは、良くわかります」

 

 

私はホテル「アルベリュウム」の一室で、泣き崩れる近衛の方々を励ましております。

端的にいえば、「あの2人、イチャつき過ぎなんだよ!」と言っている方々に対して「新婚なのですから、大目に見て差し上げてください」と言っているのです。

特にアリアさんの場合、先日までの公務で我慢を強いられておりましたので、反動もありましょう。

 

 

「さぁ、元気を出してください、陛下の旅程の安全をお守りできるのは、貴女方だけなのです」

「ち、茶々丸殿・・・!」

「我々が間違っておりました!」

「そうだ、我々は近衛騎士団! 王室をお守り参らせるのが存在意義!」

「王室の繁栄こそ、我らの目的!」

 

 

わあぁ・・・と、近衛の方々が元気を取り戻します。

肩を組んで円陣を組み、お互いを励まし合います。

何と言うか、凄まじい一体感です。

 

 

「・・・それで、陛下と公爵閣下は今、どちらに?」

「・・・・・・混浴スパでご一緒に入浴中です・・・・・・」

 

 

私の質問に、一瞬でテンションが元通りになりました。

私も今、到着したばかりなのですが・・・なるほど、ご一緒に入浴中ですか。

 

 

とは言え、ここは温泉とは言っても日本の物とは違いますので。

どちらかと言えば、スパリゾートと言った方が正しいでしょう。

日本のような露天風呂もありますが、そうした温泉を中心に、ストレス解消や美容のための各種トリートメント、エステ、マッサージルーム、リラックスルーム、ジャグジーやプール、サウナなどがあります。

おそらく、アリアさんとフェイトさんがいるのは水着で入る大浴場かと。

 

 

「・・・一応、5人程がお傍に控えていますが・・・」

「わかりました、では私達はお2人の部屋の準備をしましょう」

「は、すでにスイートをご用意しております」

「わかりました」

 

 

新婚旅行の夜。

先週の旅程では夜の時間はおろか、2人きりになれる時間も少なかったですからね。

ここは、なるべく良いムードを作りたい所です。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

大理石の床と柱、同じ素材の壁にはギリシア風の模様が描かれた高級感の漂うお風呂。

動物や鳥などの白い石像から優雅にお湯が注がれ、水面を波打たせています。

ちょっとしたテニスコートよりも広い湯船には至る所に大理石の島があり、小さな橋や階段で他の足場と繋がっています。

そしてガラス張りの窓からは、綺麗な山々の夜の風景を一望できます。

 

 

コレもこの施設の設備の一つでしか無いのですから、驚きですね。

さっきまでは私、ジャグジー風呂で泡に包まれたり薔薇風呂で香りを楽しんだりしておりましたし。

貴族と言うのは、こう言う所で休暇を楽しむのですねぇ・・・まぁ、私は王族ですけど。

 

 

「・・・まぁ、そうは言っても、私も結構贅沢しているような気もしますし」

 

 

服とか料理とか、最高級ですしね。

寝起きしてる部屋の調度品やベッドも、一級品ばかりですし。

休憩がてら、浮き島の一つに腰かけて・・・水面を蹴ったりします。

 

 

・・・今はまだ、私が全権力を掌握して仕事してますから、良いですけど。

2年後になれば行政権は内閣に、4年後には立法権が議会に移譲されて、憲法によって私は国事行為を行うだけの存在になるでしょう。

そうなった時、私は自分がどうなるか・・・少し、自信がありません。

私がすべき仕事が無くなる、あるいは少なくなった時、私はそれに耐えられるのでしょうか・・・?

 

 

「あれ・・・?」

 

 

不意に、浴場全体が薄暗くなりました。

照明が消えて、一瞬の暗闇。

・・・暗殺かとも思いましたが、その考えはすぐに消えました。

 

 

ポッ、ポポッ・・・と、浮き島の隅に設置されたお椀のような形をした石像の中に小さな炎が灯り、浴場を照らしたからです。

薄暗くなったことで、ガラスの向こうの夜景が夜空と共にはっきりと見えるようになって、大理石や水面には炎の明かりを反射して、とても幻想的な雰囲気を演出しています。

とても、素敵です・・・。

 

 

「アリア」

 

 

声が聞こえた瞬間、お湯の中に戻りました。

別に逃げたわけでなく・・・何となく、恥ずかしかっただけです。

ちゃんと、水着は着てますよ。

首の後ろで結ぶタイプの紺色のリボンビキニと、同色の2段フリルスカートのセットの水着です。

 

 

「アリア? ・・・どうしたの?」

 

 

案の定、フェイトがやってきました。

・・・思うんですけど、何で男の人の水着は下だけなんでしょうね。

何と言うか・・・恥ずかしいです。

 

 

「・・・何で、下を向いてるの?」

「・・・・・・ば、バタ足でもしようかと」

「・・・まぁ、止めはしないけどさ」

 

 

先程まで私が座っていた場所に座って、フェイトは足だけをお湯につけます。

お湯を蹴るようなことはしませんが、傍にフェイトがいると思うと・・・。

・・・不思議。

 

 

結婚する前から、これ以上ない程に好きだったはずだけど・・・。

・・・結婚した後も、まだ好きになれる自分がいます。

 

 

「・・・綺麗だね」

「そう、ですね・・・」

 

 

フェイトと2人、幻想的な明かりに揺らめく浴場と、ガラスの向こうの夜景を眺めます。

・・・先日までは、こんな穏やかな時間は取れませんでしたからね。

スケジュールをこなすので、体力のほとんどを使っちゃいますし。

なので、まぁ・・・いろいろと。

2人きりでゆったりとできるのは、久しぶりで・・・。

 

 

ちゃぷ・・・。

 

 

水面が揺れて、フェイトが私の隣に入って来ました。

水深が深いので、立って入るんですけど・・・。

髪を洗ったばかりなのか水滴が滴り、幻想的な明かりがフェイトの白い身体を・・・いやいやいや。

冷静に観察してどうしますか、私・・・。

 

 

「・・・ん・・・?」

 

 

見つめているのに気付かれたのか、フェイトが私の方を見ました。

その時には、私はフェイトから目をそらしていたので・・・どんな顔で見られているかは、わかりません。

 

 

「どうしたの・・・?」

「・・・別に、どうもしませんけど」

「・・・そう」

 

 

ちゃぷっ・・・と、今度は小さく水面が揺れました。

何を思ったのか、フェイトは水面に浮かぶ私の髪の一房を手の取ると・・・。

 

 

そっと、その髪先に口付けました。

 

 

・・・っ!?

い、いえ別に、髪にキスされたぐらい、どうってことないですけど。

も、もっと凄いことしたわけですし・・・初夜と昨日で2回も・・・。

お、大人ですから、どうってことないです。

 

 

「どうかした?」

「・・・べ、別にぃ・・・」

「そう」

 

 

・・・笑いの微粒子を含んだその目が、なんかヤです。

他人には、無表情に見えるのかもしれませんけど。

 

 

・・・とんでもなく意地悪で、でも大好きな人。

まったく・・・まったく、もう。

・・・困った人。

 

 

 

 

Side 近衛騎士(女・独身・21歳)

 

私はしがない近衛騎士、名前はまだ、言いたくない。

突然だが、今なら血で辞表が書ける気がする。

 

 

私達は近衛騎士だ。

昨年のエリジウム侵攻戦では女王陛下に従い、当地の治安維持や敵兵の残党狩りなどを行っていた。

命の危険に陥ったことも、一度や二度では無い。

だが我々は臆することなく任務に従事し、見事生還した。

私達は自分を、いかなる困難な任務にも立ち向かう勇敢な騎士だと自負している。

 

 

だがそれも、仕事のジャンルによる。

正直今は、新婚夫婦の護衛を命じられるくらいなら、公爵級悪魔と戦えと言われた方がマシな気分だ。

何故なら悪魔にはこちらから仕掛けられるが、新婚夫婦には仕掛けられないからだ。

 

 

「・・・アリア」

「フェイ、ト・・・?」

 

 

かふっ・・・私の隣にいた同僚が、湯の中に沈んだ。

私達は近衛騎士、女王陛下と公爵閣下の身辺警護が仕事だ。

無論、女王陛下達の邪魔になってはいけないので、少し離れた位置から見ている。

 

 

誤解をしないで欲しいが、別に覗きたいわけじゃない。

むしろ、今すぐここから逃げたい・・・。

と言うか、この仕事辞めたい。

できれば、今すぐに。

 

 

「あの・・・のぼせちゃいます、よ・・・?」

「・・・ああ、だからか」

「何がですか・・・?」

「顔が、赤い」

「・・・そ、それは・・・その」

 

 

げはっ・・・と、また一人、湯に沈んだ。

視界を巡らせれば、反対側にいる連中も似たような状態になっていた。

激しく胸やけを堪えているかのような表情をしている。

しかし護衛のため、目が離せない。

何だ、この生き地獄。

 

 

おかしいな、先日までの女王陛下達の公務中にはこんなこと、無かったはずなのにな・・・。

やっぱりアレだな、戦場を離れて鈍ったかな。

前線勤務に転属願、出そうかな・・・。

今なら、大概の状況に耐えられる気がするんだ。

 

 

「フェイト・・・」

「・・・アリア」

 

 

・・・私はしがない近衛騎士だ、名前はまだ、あえて言わない。

そろそろ、ゴールしてもいいだろうか・・・。

ちなみに繰り返すが、私は独り身だ。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

少し長湯してしまったけど、アリアはのぼせずに済んだようだった。

お風呂から上がった後、少し休んで・・・7時頃、夕食をとった。

ハニーワインとチーズ料理を中心としたメニューだったんだけど、覚えのある味だったね。

 

 

その後は、アリアとのんびりホテルの中を歩いて回った。

特に珍しい物は無かったけれど、それはそれで構わなかった。

貸切だから、職員や随員の他には誰もいないしね。

 

 

「そろそろ、部屋に行きましょうか?」

 

 

適当な飲み物を飲みながらテラスで話していると、眠くなったのか、アリアがそう言った。

話の内容自体はとりとめも無い物で、特に続ける意味も無い。

特に反対するでもなく、了承した。

テラスに備え付けられていたテーブルに空になったグラスを置いて、今夜の宿に向かう。

 

 

僕達の部屋は、9階建てのホテルの最上階のスイートルーム。

もちろん、僕とアリアは同じ部屋だよ。

 

 

「・・・素敵な、お部屋ですね?」

「そうだね」

 

 

部屋の一部を見ないようにしながら、アリアが部屋を褒める。

それが少しおかしくもあったけど、特に指摘することでも無いと思った。

 

 

「では、我々はここで・・・」

「あ、はい。ご苦労様、今日もご迷惑をおかけしました」

「いえ、任務ですので・・・では、また明日」

 

 

どこかやつれた感のある近衛達とは、ここで別れる。

・・・ちなみに、昼間の鷹竜(グリフィン・ドラゴン)だけど。

アレはどうやらアリアドネーからメガロメセンブリアに返還された物の、メガロメセンブリアが養えないと言うので、ウェスペルタティアで保護した魔獣らしい。

普段は大人しいらしいけど、今日に限って何故か、興奮していたとか。

・・・それを聞いたアリアは「あー・・・」とか言いながら、何かを思い出している様子だった。

大したことじゃないと言って、特に説明はしてくれなかったけど。

 

 

部屋自体は、なかなかの広さの部屋で・・・白を基調とした落ち着いた雰囲気の部屋だった。

ソファや照明などの調度品も質素な造りで、清潔感のある部屋だった。

うっすらとした明かりと、ダブルベッドの向こうにのテラスから覗く夜景が美しい、そんな部屋だ。

何となく、爽やかなアロマの香りがする気もするし・・・光量も意図的に調整されている気もするけど。

 

 

「今日も疲れましたし・・・も、もう、休みますか・・・?」

「・・・そうだね」

 

 

相も変わらず、部屋の一部を見ずに言うアリアが、何だかおかしかった。

どこを見ていないかは、あえて言わないけど。

 

 

「じ、じゃあ・・・着替えて来ますね」

「・・・どうして?」

 

 

・・・涙目で睨まれた。

そのまま備えつけの浴室に駆けて行くアリアを見送りながら、ふむ、と考え込んだ。

・・・何か、不味かったのかな。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

おのれ、テオドシウスめ・・・いつの間にアリアを招待したのか。

と言うか、茶々丸の奴~~~・・・!

 

 

「オラオラゴシュジン、サッサトハンコオセヨ」

「やかましぃわ!」

 

 

私は今、新オスティアにいる。

アリアのいるオンカ・アテーナでは無く、新オスティアだ。

アリアが新婚旅行に出ているからと言って、国政が止まるわけじゃない。

テオドシウスも今日の昼には領地から帰ってきたし、他の閣僚も普通に政務に携わっている。

 

 

で、私が何をしているのかと言うと、工部省の解体作業の書類決裁だ。

解体と言うよりは、権限・機能の分散と言った方が正しいが・・・。

現在の工部省は、国営の鉄道・造船・鉱山・通信事業の運営・展開から技術開発・経済活動までを幅広くやっている巨大な官僚機構だからな。

これを2つか3つに分けて、スリム化を図ろうと言うわけだ。

他にも、宰相府や社会秩序省を再編して内務省と宮内省を新設したりと、いろいろと動きがあるわけだが。

 

 

「それにしても茶々丸め、アリアの新婚旅行に続きがあるのを隠していたとは・・・!」

「アイツダケジャネーケドナ」

「お前とかな!」

 

 

2日前までの新婚旅行は、地方訪問、つまりは公務としての色彩が強かったが、今回は違う。

静養を兼ねた正式な休暇だ。

あのアリアが休暇を、と感慨深くも無くは無いが、だがしかしだ!

 

 

「どいつもこいつも、私にだけ隠していたとはどういうことだ!?」

「キュウカノコトハツタエタダロ」

「オスティアでの休暇だと思ったんだ!」

 

 

しかも、ここぞとばかりに尚書の決済が必要な仕事を集中して持ってくるとは、どう言う了見だ!?

アレか、私を自由にすると確実に邪魔をしに行くとでも思ってるのか!?

良い読みしてるじゃないか!

だが末端の兵士にまで言い含めているとか、どれだけ周到なんだよ!

 

 

くそっ、バックは誰だ。

茶々丸かゲーデルかナギかアリカか・・・それとも全員か、スタンと言う線もあるな!

あの裏切り者、曾孫がどうのと日和おってからに・・・!

 

 

「茶々丸の奴、戻ったら巻く、絶対に巻いていやる。泣いて許しを請うまで巻いてやるからな、うふふ、うふふふふふふふ・・・!」

「イイカラシゴトシロヨ」

「いつか、お前のナイフコレクションを悉く砕いてやるからな・・・!」

「ハイハイ」

 

 

私の従者は、どいつもこいつも主人をないがしろにする奴ばかりだな!

くそぅ、いったい、どこで教育を間違えたのか・・・。

 

 

私と言う抑止力がいない以上、あの若造(フェイト)め、きっとアリアにあんなコトからこんなコトまで・・・そ、そんなコトまで!?

おのれ許さん、帰ったら殺す。

絶対、殺すからな・・・!

 




ウェスペルタティア王国宰相府広報部王室専門室・第1回広報

アーシェ:
皆さん、こんばんわー!
王国撮影班ブラボー4、アーシェでーす!
今回から、後書きでの広報活動を任されちゃいました!
今回は私一人ですが、次回からはお手伝いの方一人と私の対談形式になる予定です。

そして今回は、女王陛下と公爵閣下の新婚旅行の様子をお送りしました。
うーん、恋人が欲しくなっちゃうかも。
まぁ、私はカメラが恋人だけどね!
そんな私の今日のベストショットは、こぉちらぁーっ!(じゃ、じゃんっ)


「混浴スパで公爵閣下が、女王陛下に手を伸ばした瞬間」!


髪にキスした後、公爵閣下は女王陛下がのぼせていないか、女王陛下のおでこに手を伸ばし確かめようとされたのですが・・・。
幻想的な湯殿の雰囲気と、存在を疑う程に白く、美しい女王ご夫妻。
そして何より・・・この瞬間の、女王陛下のお顔をご覧ください!

この、目をかすかに細めて顔を赤らめ、期待と不安がない交ぜになった「待ち」のお顔! くぅ~・・・たまりませんね!
明日の一面、コレで頂きです!
表のじゃなくて、裏の方ですけどね!
茶々丸室長の監査の下、親衛隊ルートで流通、数量限定ですよ!
守秘義務を忘れずに願います!
マクダウェル尚書とかに見つかっても、喋っちゃダメですよ~。


アーシェ:
それでは次回も、女王ご夫妻の旅行風景を追います!
次回の後書きのお客様は・・・げ。
ま、マクダウェル尚書・・・!?
2回目にして、私、死ぬんじゃ・・・。

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