魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第3話「100キロ箒レース、そして」

Side クルト

 

「・・・何ですって?」

 

 

従卒からもたらされたその報告に、私は思わず、そう声を漏らしました。

眼鏡を外し・・・もう一度かけ直してから、目の前で姿勢良く立つ従卒に視線を戻して。

 

 

「はは・・・いや、すみません。どうも最近疲れているようで」

「はぁ」

「もう一度、聞きましょう・・・何ですって?」

「アリア・スプリングフィールドが、アリアドネーから姿を消しました」

「何ですって!?」

 

 

ズダンッ・・・と机を叩き、立ち上がる私。

その拍子に、机から何枚かのカード―――アリア様達へのオスティア祭への招待状―――が落ちました。

しかし、そんなことに構ってはいられません。

 

 

アリア様が、アリアドネーから姿を消した?

何故、あの環境なら何もご不満な点などあるはずも無いでしょうに・・・はっ。

よもや、ネカネ嬢の居場所を知りながらお伝えしていないのが知られた・・・?

いや、偽ナギの件が伝わったのかも・・・しかし旧ウェスペルタティア領に入ってでもくれない限り、下手なことはできませんし・・・。

それとも、アレか、いやもしかしたらあの件やも・・・。

 

 

「どうも、拐かされたようです」

「何ですってっ!?」

 

 

拐か・・・誘拐!

だが、いったい何者が・・・そもそも、アリア様が遅れを取るなど。

と言うか、あの吸血鬼共は何やっていたんですか。

ち、思ったより役に立たない・・・。

 

 

「元老院か!?」

「いえ、それがどうも違うようで」

「・・・」

「オストラ伯クリストフ」

「あのご老体か・・・」

 

 

旧ウェスペルタティア崩壊後、東部一帯の領地を糾合し、今日までもたせてきた老人。

アリカ様とも近しかった存在で、オスティア難民の領地内受け入れでも、かなりお力添えを頂きました。

政治的には穏健派に属するはずですが、それが何故このような・・・。

 

 

「その件について、騎士ジョリィから報告が入っております」

「ジョリィから・・・?」

 

 

従卒が手渡してきた書類に、素早く目を通します。

そこには、今回の件に関する一部始終が記載されていました。

・・・ふむ。

 

 

「・・・詳しい報告を、聞きましょう」

「は、ではまず、当時のアリアドネーの状況から・・・」

 

 

執務室の椅子に座り直し、私は従卒が続ける報告に耳を傾ける体勢をとりました。

さて、今回の件がどう繋がるか。

 

 

それによって、魔法世界の歴史が変わるやもしれませんね。

 

 

 

 

 

Side エミリィ

 

オスティア記念祭警備任務・選抜試験3年生会場。

参加すると思われる生徒を一通り見てみましたが、ビーを除けば私に勝てる者はいませんね。

ビーは、私の侍従であると同時に幼友達でもあります。

とても、優秀なのですよ?

 

 

「フ・・・この面子なら楽勝ですね」

 

 

これでオスティア行きが決まれば、私が生ナギ様に会える。

そして運命的な出会いを果たした私は・・・あふぅ。

 

 

「とりあえず、お嬢様の考えているようなことにはならないかと・・・」

「何か言いましたか、ビー?」

「いえ、何も」

 

 

まったく・・・とにかく、生ナギに会うのは私!

本物のナギ様の死亡説がニュースで流れた際、ショックのあまりお倒れになったお母様のためにも!

・・・まぁ、今でもお元気ですけど。倒れた理由は風邪でしたし。

 

 

「では、栄えあるオスティア記念式典警備隊選抜試験を始めまーす! ではまず志願者の紹介からー」

「む、始まるようですね」

「はい」

「まずは3-C委員長エミリィ・セブンシープ! 同じく書記ベアトリクス・モンロー!」

「「「委員長、頑張ってー!」」」

 

 

クラスの声援に応えながら、私とビーはスタート位置につきました。

その後も、他の参加者の名前が呼ばれていきます。

まぁ、それほど多くはありませんが・・・。

 

 

3-FのJ・フォン・カッツェとS・デュ・シャ。

3ーGのマリー・ド・ノワールとルイーズ・ド・ブラン。

3-Jのメアリー・クロイスとアンナ・ヴァンアイク・・・。

顔ぶれを改めて見渡して、ふと気付いた。

・・・あら、結局あの人達は来ないの・・・。

 

 

「ではー・・・あ? あっと、最後に3-Cのコレット・ファランドールと、サヨ・アイサカ!」

 

 

申し込み締め切りギリギリで会場に駆け込んできたのは、先日衝突した2人。

留学生のサヨさんと、成績最下位の落ちこぼれ、コレットさん。

 

 

2人とも、特にコレットさんの方ですが、特訓でもしてきたのか、随分とボロボロです。

ふふん、今さらどんな努力をしようと、落ちこぼれは落ちこぼれです。

たかが数日で実力差が埋まるわけでも無し。

結果は、変わりません。

 

 

貴女達は、この栄えある任務に相応しくありませんわ。

 

 

「良かったですね、お嬢様」

「はぁ? 何がですの?」

「・・・いえ、何も」

「・・・? おかしなビーですね」

 

 

ビーは、いつも無表情で、常に冷静なのですが。

たまに妙なことを言うのですが、何なのでしょうね?

・・・まぁ、今はそんなことよりも。

 

 

「では、各選手、位置についてぇ!」

「ビー、後衛は任せますわよ」

「はい、お嬢様」

「スタートォッ!」

 

 

ドンッ!

箒に魔力を込めて、一気に飛び出す!

 

 

勝負です!

 

 

 

 

 

Side コレット

 

む、むむむー、始まった~・・・!

青い箒に乗ったサヨのすぐ後ろを飛びながら、私は緊張で渇いた唇を舐めて湿らせた。

 

 

「さ、サヨッ、大丈夫!?」

「はい、大丈夫です。コレットさんは?」

「ち、ちょっとダメかもだけど、けど、頑張るよ!」

「はい!」

 

 

サヨと声を掛け合いながら、少しずつ加速する。

今の順位は3位・・・てっきりビリだと思ったけど、でも3位!

それにしても、サヨは緊張とかしないのかな・・・。

 

 

「エヴァさん・・・エヴァンジェリン先生の修ぎょ・・・授業よりマシです!」

「エヴァにゃん先生の・・・」

 

 

目を閉じて思い出すのは、『魔法の射手(サギタ・マギカ)』の雨の中を潜り抜けたあの日。

・・・うん。

 

 

「大丈夫、私もイケる気がしてきた!」

「うん!」

 

 

そうこう言ってる間に、2位の組に追いついて来た。

あれ? 私ってこんなに早く飛べたっけ?

 

 

「やるじゃないカ、落ちこぼれ!」

「先には行かせませんよ!」

 

 

2位のフォン・カッツェさんとデュ・シャさんが杖を構えた。

それを迎え撃つべく、私とサヨも杖を構える。

 

 

この箒レース、妨害もアリだからね!

直接攻撃魔法はダメだけど、『武装解除』とか魔法障壁はアリ。

毎年、壮絶な脱がし合いになるから、嫌なんだけど・・・。

女子校だし、今年はなんでかレースコースから男性排除のお達しが出てるから、まだマシ!

 

 

「アネット・ティ・ネット・ガーネット!」

「パクナム・ティナッツ・ココナッツ!」

「オスク・ナス・キーナ・カナラック!」

「ハイティ・マイティ・ウェンディ!」

 

 

全員が始動キーを宣言。

精霊が集まり、術式に魔力を流し込んで、魔法発動。

サヨが魔法障壁を張って、私が・・・。

 

 

「『風花(フランス)武装解除(エクサルマティオー)』!」

「『熱波(カレファキエンス)武装解除(エクサルマティオー)』!」

 

 

サヨの魔法障壁が、相手の『武装解除』を弾いた。

そして逆に、私の『武装解除』が相手に直撃、杖を弾き飛ばした。

や、やたっ! 通った!

 

 

「バ、バカニャ!?」

「今です、コレットさん!」

「うん!」

 

 

ぐんっ、と左右に分かれて、2位の組をぶち抜く!

そして、私達が2位になった。

 

 

自分でも、ちょっと信じられないけど。

ぐっ・・・と、新調したばかりの箒の柄を握り締める。

そして、サヨと頷き合った後、前方の1位、委員長の組を見据えて・・・。

 

 

「『加速(アクケレレット)』!」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「それで? お前は何をやったんだ?」

「特に何も・・・ふあぁ・・・」

 

 

あふ、と欠伸をしつつ、私は大スクリーンに映るレースの様子を見つめていました。

大スクリーンの周りには、たくさんの生徒や先生がいます。

皆、箒レースを楽しんでいるようですね。

 

 

私の周囲には、エヴァさんや茶々丸さん、田中さんやチャチャゼロさんがいます。

スクナさんですか? 最前列でさよさん応援してますけど何か?

と言うか、一応茶々丸さんとスクナさんは他校生扱いになるのですけどね。

 

 

「嘘を吐け、こう言う言い方は好きじゃないが、コレット・ファランドールはフォン・カッツェやデュ・シャに追いつける程箒が上手くは無かったはずだ」

「いや、実際に私ができることって何も無かったですし」

 

 

私は箒にも乗れませんし(魔法具は別です)、『武装解除』も使えませんし。

魔法具が便利すぎて忘れられがちですが、私は精霊に協力を求めるこの世界の一般的な魔法が使えませんので。

 

 

「私が教えたのは、箒の作り方です」

「作り方・・・ですか?」

 

 

可愛らしく首を傾げて、茶々丸さんが問い返してきます。

茶々丸さんが両手で持つお皿から、チョコレートでコーティングされた苺―――六花亭ストロベリーチョコ―――を一つ取り、食べます。

ん~・・・この酸味と甘味のコントラストが何とも♪

先日のタルトも大変美味しかったですけどね。

 

 

「ここの生徒が使用している箒は、大抵支給品です。まぁ、オーダーメードの個人用箒は高いですからね、無理も無いですが」

「じゃあ何か、お前はその材料を用立ててやったと? 気前の良いことだな」

「まさか、そこまで人間できてませんよ。コレットさんが集められる範囲の材料で、時間をかけて、一緒に箒を作ったんです」

 

 

今、コレットさんが使っている箒は、葦の一本に至るまで、彼女自身が選んだ物。

道具は、持ち主を選ぶ・・・とまでは、言いませんが。

あの箒には、コレットさんの魔力が隅々にまで染み込んでいます。

コレットさん以外の人が乗っても、彼女より上手くは乗れないでしょう。

それ以外は、純粋に彼女達の努力ですよ。

 

 

後は、役割分担。

さよさんは、障壁や結界、索敵などが得意な方です。

障壁の位置を調整して、先ほどの相手の『武装解除』を、上手く受け流すような形に持って行きました。

 

 

そしてコレットさんは、獣族系の亜人だけあって、基本能力値自体は高い。

何より、目、耳、鼻などの五感分野では、人族を上回る潜在力を持っています。

それを十二分に活用しての、『武装解除』一点突破。

相手の障壁の弱い部分に、自分の魔法を集中する術を。

 

 

「あの『武装解除』の術式、普通のとは少し違うな」

「流石はエヴァさん・・・術式を少し弄って、教えてあります」

 

 

映像からそれを見破れるのは、まさにエヴァさんクラスの魔法使いだけでしょう。

私の右眼は、『複写眼(アルファ・スティグマ)』。

魔法の構築式を弄ることに関しては、これ以上に頼りになる魔眼は無いでしょう。

 

 

コレットさんが今使用している『武装解除』は、他の『武装解除』とは異なり、いわば一点集中型の魔法になっています。

よって、相手の障壁を突破しやすく、かつ相手の杖のみを吹き飛ばしました。

なので、相手の衣服はほぼ無傷です。

 

 

「脱げるのは、可哀想ですから・・・」

「と言って、他の奴に教えるわけにもいかず・・・無茶な徹夜で男子禁制のレースになるよう働きかけたわけだな、お前は」

「え、えーっと・・・あふぅ・・・」

 

 

くぁ・・・と、再び出た欠伸を噛み殺します。

いや、だって仕方が無いじゃないですか。

年頃の乙女が人前で肌を晒すなんて・・・普通に男子禁制ですよそんなの。

 

 

「あとはまぁ、他にも・・・途中の森なんかの魔獣を安全地帯に移動させたり、コース中の危ない物を排除したりと、色々やったので・・・眠いです、あふぅ・・・」

「お前は・・・また仕事を増やして・・・」

「ショーガネーヤツダナ」

「アリア先生、め、です」

 

 

茶々丸さんに怒られました。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

魔法の術式を弄るなど、常人にできる物ではない。

『武装解除』の術式を弄って、しかもそれを人に教えることができるとはな。

既存の魔法の運用を変えただけとは言え、やはり恐ろしい。

こいつはやはり、前に出るタイプでは無い、と言うことだろうか・・・。

 

 

おお・・・!

 

 

その時、周囲の人間達がドヨめいた。

スクリーンを見てみれば、さよとファランドールのペアが、委員長達のペアをかわし、トップに躍り出ていた。

さよが防ぎ、ファランドールが攻める。

互いの役割をはっきりと分担した上での、効率的な戦い方の結果だな。

 

 

一方で委員長は、自分の相棒を置いて一人で戦いを挑んだ。

リスクを取った割に、結果は散々だったな。

杖を弾かれて、さよ達に抜かされた。

 

 

「あの委員長が、落ちこぼれのコレットに・・・」

「マ、マグレよ、あんなの」

 

 

私達の近くにいる生徒達が、そんなことを言っているのが聞こえた。

は・・・アレがマグレに見えるなら、その程度の目しか持っていないのだろうさ。

能力的には、依然として委員長の方が上だが。

このレースのルールの枠内で言えば、ファランドールの方に天秤が傾きつつある。

 

 

「ん・・・?」

「近道、ですかね。ふぁ~・・・」

「半分寝てるだろ、お前・・・」

 

 

その委員長達が、コースアウトして行くのが見てとれた。

規定のコースを外れて、「魔獣の森」と呼ばれる森に入って行く。

アリアの言う通り、ショートカットのつもりか?

あいつらの実力では、あの森を突っ切るのはまだ無理だと思うがな。

 

 

まぁ、さっきアリアが危険なものは排除したと言っていたから、危険は無いとは思うが。

だからアリアは、私の隣で苺の菓子など食っていられるわけだ。

それに、ルール違反では無いしな。

 

 

・・・どうでも良いが、茶々丸はいつもアリアにばかり菓子を持ってくるのだが。

やはり私の威厳は、失われつつあるのだろうか・・・?

 

 

「・・・なっ!?」

 

 

しかし次の瞬間、状況は急変した。

委員長達が急に森から飛び出したかと思えば、その後を一匹の竜種が追いかけてきたのだ。

しかも、その場にさよ達まで居合わせると言うタイミングの悪さ。

 

 

アレは・・・鷹竜(グリフィン・ドラゴン)か!?

しかも、かなり興奮している。

縄張りでも荒らしたか、いや、それにしても・・・。

しかし、アリアが見落とすか? いや、アリアが調べた後、巣穴から出てくるなりしたのかもしれんが。

森は広いしな・・・。

 

 

「え・・・?」

 

 

隣のアリアも、どこか呆然と声を漏らしている。

こいつも、取り漏らしがあるとは考えていなかったようだ。

 

 

「ちっ・・・!」

 

 

舌打ちしつつ、その場から歩きだす。

周囲の生徒や教員が騒ぐ中を、すり抜けるように動く。

 

 

バカ鬼は・・・いないな。まぁ、さよのことだしな。

 

 

「田中もついて来い。まさかとは思うが、茶々丸と調べてほしいことがある」

「了解致シマシタ」

 

 

バサッ・・・と黒のマントを羽織り、私は外に向かった。

市街地の外だからな、結構遠い。

まったく・・・。

 

 

「帰ったら説教だ、アリア」

「・・・はい」

 

 

その時のアリアは、なんとも情けない表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

翼を持つ鳥のような獣!

鷹竜(グリフィン・ドラゴン)。確か今は子育ての時期だから、元々気が立ってたんだと思うけど。

それでも、森の外にまで出てくるなんて。

 

 

「委員長の奴ぅ、近道しようとしてとんでもないの拾ってきちゃったのね!」

「いや、でもコレは・・・」

 

 

頭の中で、警戒信号が鳴り響きます。

エヴァさんとの訓練の成果とも言える私の危機管理能力が出した結論は、「逃亡」。

幸い、あの竜は委員長さんに気を取られていますから、今なら逃げられるはず。

でもそれには、「委員長さんを見捨てる」と言うアクションを必要とします。

 

 

「お嬢様!」

 

 

でもそれは、委員長さんと一緒にいるベアトリクスさんも同じはず。

でも、ベアトリクスさんは逃げない。

竜に吹き飛ばされて倒れた委員長さんと竜の間に立ちはだかって、委員長さんを守ります。

大切なんだ、あの人が。

 

 

死なせたくない程に。

自分の命を、賭けても良いと思える程に。

 

 

「コレットさん!」

「がってんしょーち!」

「え、何が!?」

 

 

私は、「逃げて」って言おうとしたんだけど。

でも何故か、コレットさんは握り拳で、笑顔。

 

 

「委員長を助けて、恩を売るよ!」

「思ったよりも、邪な理由だね!?」

「うっるさいなー、私だって逃げたいよ! でもね!」

 

 

でもその笑顔は、どこか強張っていて・・・。

 

 

「サヨを残して行けるわけ無いでしょ・・・!」

「コレットさん・・・」

 

 

エヴァさんやアリア先生なら、「いいから逃げろ」とか「足手まとい」とか言うのかもしれない。

でも、私は・・・。

その時、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)が大きく身体を逸らしました。

アレは・・・。

 

 

「カマイタチブレス!」

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)氷の一矢(グラキアーリス)』!」

「サヨ!?」

「コレットさんはベアトリクスさんを!」

「わ、わかった!」

 

 

カマイタチブレスが放たれる寸前、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)の嘴に無詠唱の魔法の矢を直撃させた。障壁で消されたけど・・・。

それでも驚き、よろめく鷹竜(グリフィン・ドラゴン)。

それでも、カマイタチブレスを数秒遅らせるだけ。

 

 

その隙に、私の箒『青き稲妻』を最大速度に設定、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)の前から委員長を攫います。

同時に、コレットさんがベアトリクスさんを。

直後、私達のすぐ後ろでカマイタチブレスが炸裂した。

幾重もの風の刃が、全てを切り裂いて爆ぜます。

 

 

・・・私達の障壁では、とてもじゃないけど防げない。

・・・アデアット・・・!

 

 

「・・・委員長さん、ベアトリクスさん、飛べますか!?」

「え、えぇ・・・」

「大丈夫です」

「どうするのサヨ!」

「特殊戦闘技術講座マニュアル、17頁から21頁にかけての内容で対応しましょう!」

「特殊戦技!? い、いえそれより貴女、それ・・・」

 

 

私のアーティファクト、『探索の羊皮紙』。

最大半径10キロの範囲内で、特定の人間の動きを探ることができるアーティファクト。

・・・救援は、すぐに来る!

 

 

「大丈夫、助かります!」

 

 

だから、私達がやるべきは・・・勝つ戦いじゃない。

と言うか、勝てないから・・・。

 

 

負けない戦いを、します。

 

 

 

 

 

Side ベアトリクス

 

サヨさんが立てた作戦は、簡単な物でした。

と言うより、学生の私達ができる作戦の中で、これが一番マシと言うことでしょう。

 

 

「ヒットエンドアウェイ。4人で散会して、驚かせる程度の魔法で牽制しつつ、逃げる」

 

 

お嬢様は懐疑的でしたが、私もそれしか無いと思います。

サヨさんの言を信じるのであれば、救援はすぐに来る。

それならば、4人で互いにカバーし合いながら逃げに徹した方が良い。

 

 

サヨ・アイサカ。

旧世界からの留学生と言うことですが、しかしあの羊皮紙はアーティファクト。

すなわち、魔法使いの従者(ミニステル・マギ)

 

 

「では、マニュアル通りにお願いします!」

「あ、ちょ・・・もう、わかりましたわ!」

「ま、マニュアル~」

「了解!」

 

 

特殊戦闘技能。

やはり旧世界から来た教員、エヴァンジェリン先生の講座。

マニュアル17頁から21頁にかけて。

 

 

『敵を前にした時、その敵を超えようと思ってはならない。それでは自分よりも強大な敵に出会った時にひとたまりも無い。それよりも、敵の弱点を探すべきだ―――』

 

 

「これはひ弱なお前達に限った話だがな」とは、エヴァンジェリン先生の言葉。

弱点・・・鷹竜(グリフィン・ドラゴン)の弱点は?

個体の弱点はわかりませんが、竜種は主に角が弱点です。

ならば、そこに『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を集中させれば、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)の気を引き、仲間から意識を逸らすことができるはず。

 

 

『弱点を見つけたのなら、後は実行するのみだ、恐れずに。それが何であれ、弱点が一つでもあるのならば、打つ手は無限にある―――』

 

 

大まかに言って、そう言う指導を受けています。

別の先生は、「規律ある騎士団員」として、高いレベルでの命令の完遂こそが肝要だと言う話をしていたことがありますが・・・。

いざ、自分が勝てない相手を前にした時、個人レベルで命の危機に直面している時。

 

 

まず生き残る手段を模索するのは、仕方のないことなのでしょう。

そんなことを考えた時、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)がお嬢様の方に顔を向けました。

いけない!

 

 

「お嬢様!」

「・・・! ビー、違う!」

「!?」

 

 

無詠唱の魔法の矢を3本、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)に向けて放ちました。

一本は前足、一本は左の翼、そして一本は角に・・・障壁に弾かれても構わない。

注意が引ければ・・・。

 

 

クルァッ!

 

 

竜が鳴き、大気が震える・・・少なくとも、震えたように感じました。

しま・・・身体はお嬢様の方を向いていても、顔は私の方を。

嘴の先に風が集まるのを見て、杖を構え直しますが、間に合わない――――!

 

 

爆発音。

 

 

衝撃に備え、キツく目を閉じた直後、小さな爆発音がしました。

目を開くと・・・鷹竜(グリフィン・ドラゴン)の頭のあたりから煙が吹いていて、ブレスが打ち消されていました。

 

 

さらに視点を転ずれば、サヨさんが無茶な体勢で手を竜の方へ向けていて―――ほどなく、箒から落ちて、地面に―――何が起こったのか、目を閉じていた私にはわかりません。

ただ、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)が今度はサヨさんの方を向いて・・・。

 

 

「サヨさんっ!」

 

 

 

 

 

Side コレット

 

い、今何が起こったの!?

サヨが何か、黄色いアヒルみたいなのを投げたと思えば、障壁ごと竜の頭をふっ飛ばした!

鷹竜(グリフィン・ドラゴン)には、あんまりダメージ無いみたいだけど。

でも、今まで障壁を突破できなかったはずなのに!

 

 

「・・・!」

 

 

地面に落ちたサヨは、すぐに体勢を整えると手をかざした。

先の方に飛んで行っていたサヨの青の箒が、戻ってくるのが見えた。

何で戻ってくるのか、コレもわからない。遠隔操作魔法!?

 

 

それより重要なのは、サヨがそれらの行動を終える時にはもう、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)がブレスを吐こうとしているってことで!

 

 

「くっ・・・ビー!」

「り、了解!」

 

 

委員長達も杖を構えて牽制に行くけど、間に合わない。

でも!

 

 

「てぇやあぁ――――――っ!」

 

 

サヨのすぐ近くにいた私なら、間に合う!

と言うか、間に合え――――――――っ!

 

 

「コレッ―――!?」

 

 

サヨの声が耳元でした気がするけど、良く分からない。

私がサヨの身体を抱え込んだ直後、すぐ後ろで何かが炸裂した。

そして、ガクンッとバランスを崩して、サヨともつれ合うように地面に落ちた。

ああ、これが慣性の法則かー、なんて。

 

 

嘘、ごめん。かなり痛い。

そして怖い。

身体を起こして、顔を上げた時、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)がブレス発射態勢で待ってた。

 

 

「落ちこ・・・コレットさん!」

 

 

委員長が杖を振り上げて、攻撃魔法の詠唱に入っているのが見えた。

でも、ブレスの方が早――――。

 

 

「す・・・」

 

 

サヨを庇ってるんだか、逆に庇われてるんだかわからないような体勢でサヨと抱き合う。

怖い、嫌だ、こんなの・・・!

 

 

「す――ちゃ――ん―――――――っ!」

 

 

サヨの悲鳴が耳元で響くのと、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)がブレスを吐くのと。

あと、その鷹竜(グリフィン・ドラゴン)が吹き飛ぶのと。

 

 

「『千の魔法』№91、『我は紡ぐ光輪の鎧』―――――――」

 

 

私の視界一杯に、白い髪が舞うのとは、ほとんど同時だった。

同時に、光の輪を組み合わせたような不思議な障壁が、私達を守った。

弾き飛ばされる風の刃が、目の前に立つ人の髪を巻き上げる。

 

 

「・・・思ったよりも寂しい物ですね、危機の際に名を呼ばれないと言うのも」

 

 

・・・?

その人、アリア先生は、こっちを見ながら。

 

 

そんなことを、言った。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「すーちゃんっ!」

「さーちゃっ・・・!」

 

 

さよさんがスクナさんに飛びついて、見た目よりも力の強いスクナさんがそれを受け止め、抱き合いながらクルクルと回っていました。

・・・いーなー。

 

 

視線を転じると、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)が氷漬けになっていました。

凍らせたのはもちろん、エヴァさんです。

加えて鷹竜(グリフィン・ドラゴン)の巨体が半ば地面に埋もれているのは、スクナさんの仕業です。

私がブレスを防いだ際、竜をボコ殴りにしたのはスクナさんですから。

 

 

「え、ちょ・・・えええええ」

「・・・」

「わわわ・・・」

 

 

委員長さんとベアトリクスさんと、あとコレットさんが何やら赤い顔をしていますが、彼女達の視線の先を見る勇気がありません。

・・・何か背後から、凄く恥ずかしい声が聞こえてくるのですが。

 

 

「・・・まぁ、レースは中止ですかね?」

「さぁな。他の連中はゴールしたらしいからな・・・今回のアクシデントを考慮して、再試験なり特別枠を設けるなりするだろう。それより・・・」

「ええ・・・この鷹竜(グリフィン・ドラゴン)、どこから?」

 

 

今しがた確認をとった所、アリアドネーの管理する竜種は一匹も減っていません。

つまり、この鷹竜(グリフィン・ドラゴン)はアリアドネーの外から来たことになります。

 

 

「アリアドネーの調査隊が来るまでに、一通り調べるか。茶々丸、田中」

「わかりました」

「オ任セクダサイ」

 

 

茶々丸さんと田中さんが、今や半ば標本と化している鷹竜(グリフィン・ドラゴン)を調べ始めました。

さて、私も・・・と思った時、再び眠気の波が。

流石に3日目になると、キツいですねぇ・・・。

 

 

「・・・あふっ・・・」

「あの、アリア先生」

 

 

口元を押さえつつ振り向くと、さよさん達が・・・コレットさん達はまだ少し顔が赤いですが。

・・・い、いったい、私が目を逸らしている間に、何が。

 

 

「ああ、皆さんはもう戻って良いですよ・・・ここは私達が」

「アリア、お前も帰れ」

 

 

こちらに背中を見せたまま、エヴァさんが言いました。

何ですか、お説教は戻ってからの約束ですよ。

 

 

「欠伸をしもって調べ物などされてもかなわん・・・帰って寝ろ」

「え、でも・・・」

「竜の一匹ぐらい調べるのに、お前の助けなどいらん」

「で」

「帰れ」

 

 

・・・コレ、何を言っても覆りませんね。

厳しい言葉と語調。でも、不思議と傷つかない口調。

 

 

「わかりました・・・じゃ、部屋で寝ます」

「ああ」

 

 

ヒラヒラと背中越しに手を振るエヴァさん。

傍らの茶々丸さんも、静かに私を見ています。

チャチャゼロさんも、茶々丸さんの頭の上から。

クス・・・と、私は少しだけ笑って。

 

 

「・・・はい、じゃあ学校に戻りましょうか、皆さん」

「あ・・・アリア先生、コレ・・・」

 

 

コレットさんがおずおずと差し出してきたのは、真っ二つに折れた箒。

最後のブレスの際、砕けたのでしょうか・・・。

せっかく、コレットさんが一生懸命に作った物なのに・・・。

 

 

「・・・また、一緒に直しましょうね」

 

 

私がそう言うと、コレットさんは笑顔を見せてくれました。

さよさんも笑顔でコレットさんの手を握り、委員長さんとベアトリクスさんも、どこかほっとした表情を浮かべていました。

 

 

仲良くなれたようで、何よりです。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「まったく、しょうがない奴だな」

「アリア先生は、仕事が大好きですから」

「イツモノコトジャネーカ」

「最近は、少しマシになったと思ったんだが・・・」

 

 

アリア先生やさよさん、スクナさん達を見送った後、マスター達とそんな会話を交わしました。

アリア先生の仕事中毒(ワーカーホリック)については、目下の所私達の緊急課題です。

麻帆良における新田先生が、こちらにはおりませんので。

 

 

私達の目の前には、氷像と化している鷹竜(グリフィン・ドラゴン)がいます。

この場にいるはずの無い魔獣。

しかし確かにこの場に存在している、魔獣。

田中さんと協力して、血液検査・・・ありていに言えば、薬物検査を行います。

加えて、周辺の空気中の成分も調べます。

 

 

「・・・どうだ?」

「該当ナシデス」

「しかし、類似する効果を発する薬品があります。名称の特定は候補が多く断定はできませんが、興奮剤の投与が認められます」

「ジュウナンセイノサダナ」

「・・・何ト」

 

 

姉さんの言葉に、どことなく田中さんが落ち込んでいるように見えました。

柔軟性、はたしてそこまでの差が私と田中さんにあるとも思えませんが。

 

 

「・・・興奮剤・・・」

 

 

口元に手を当てて、マスターが思案を巡らせているようでした。

興奮剤の他、この鷹竜(グリフィン・ドラゴン)の表皮や羽毛には、竜自身の物とは別の魔力痕がありました。

これを報告する段になって、マスターの表情はますます険しくなります。

 

 

ここで仮設を立ててみます。

①この鷹竜(グリフィン・ドラゴン)は、この森の竜では無い。

②つまり、他のどこかから転移魔法等で運び込まれた可能性がある(渡り鳥ならぬ渡り竜である可能性も否定できませんが)。

③しかも薬品によって、故意に興奮状態に置かれた可能性がある。

 

 

「そうだな、その可能性はある。だが問題は・・・」

「ダレガナンノタメニッテコトダナ」

「・・・そうだな」

 

 

姉さんがマスターの台詞をとりました。

マスターは無言で、いつの間にか自分の頭の上に乗っていた姉さんをはたき落としました。

 

 

「・・・まぁ、加えて言えば、コレが誰に対するアクションなのか、と言うことがあるな」

 

 

例えば、アリアドネーに対するものか。

それとも、エミリィ・セブンシープに対するものか。

あるいは、騎士団候補学校の生徒に対するものか・・・。

さらに・・・。

 

 

「・・・まぁ、今ここで考えても仕方がないな」

 

 

とりあえず、短期的には「保留」と結論付けたのか、マスターがそう言いました。

確かに、精密な検証が行われない段階で議論しても、客観的な結論には至れないでしょう。

しかし、いったい誰が、どう言う目的で?

 

 

・・・私達がその理由を知るのは、もう少し後のことです。

 

 

 

 

 

Side のどか

 

ノクティス・ラビリンス近くの小さな村に、私はいました。

街頭のテレビでネギ先生のメッセージを受け取って、数日。

オスティアと言う街に行くための準備を、私は進めている所です。

ネギ先生が、そこで待ってる。

 

 

「しっかし、嬢ちゃん。本当に一人でオスティアまで行くつもりなのか?」

(こんな嬢ちゃんがオスティアまで行けるのかね・・・危なっかしいからなー)

「あ、はいー・・・旅費は貯まりましたのでー」

 

 

ガヤガヤと騒がしい宿の食堂で、私を助けてくれたトレジャーハンターの人達とお話をしています。

明日、私はオスティアに行くことになってます。

まずは大きな街に行って、オスティア行きの船に・・・。

 

 

「ん~・・・やっぱ俺達が送ってってやるよ。あんた一人じゃ心配だかんな、なぁ皆?」

(ここで目ぇ離すと、何かモヤモヤしてしょうがねぇからな)

「え、ええ、そうね」

(な、何よクレイグの奴、ノドカに妙に優しいわね・・・はっ、まさか!?)

「まぁ、私は良いけど」

(少なくとも、アイシャの考えが外れていることはわかる)

「僕も別に良いよー、お祭りが近いって聞くしね」

(僕はアイシャの傍にいられればそれで・・・)

 

 

クレイグ・コールドウェル。

アイシャ・コリエル。

リン・ガランド。

クリスティン・ダンチェッカー。

 

 

このトレジャーハンターグループの人達の、名前。

ううん、今の私は、周囲の人達の考えがすぐにわかるようになっています。

 

 

このトレジャーハンターの人達にくっついて遺跡に潜って、私の『いどのえにっき(ディアーリウム・エーユス)』を補完できるアイテムを2つ、手に入れることができました。

鬼神の童謡(コンプティーナ・ダエモニア)』と、『読み上げ耳(アウリス・レキタンス)』。

名前を見破るアイテムと、文字を読み上げるアイテム・・・コレがあれば、私のアーティファクトを最大限活用できるコンボになります。

 

 

指名手配されてることもあるし、周囲の人間の考えが読めることは、大事なことだと思う。

今も・・・。

 

 

「で、でもー、そこまでお世話にはー・・・」

「ガキが遠慮すんなって」

(どーもほっとけねーぜ・・・故郷の幼馴染の小さい頃に似てるんだよな)

「・・・・・・ありがとうございますー」

 

 

ああ・・・でも、少しうるさいかも。

外さない限り、皆の心の声が耳元で響き続けるから。

でも、頑張らなくちゃ。

 

 

待っててください、ネギ先生。

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

「う、う~ん・・・」

 

 

晩夏の候、立秋とは名ばかりの暑い日が続いております・・・。

な、何か違うなぁ・・・。

 

 

私は、何枚目かの便箋をグシャグシャっと丸めると、ゴミ箱へ投げ入れた。

う、うーん、もっとこう、フランクな感じの出だしに。

えっと・・・。

 

 

「や、やっほー、小太郎君、元気にしてるかなっ・・・う、うーん」

 

 

・・・キャラが違うっ!

いやいや、もっとこう、年上のお姉さんらしくしないと。

うう、こういう手紙ってどう書けば良いんだろ?

 

 

きちんとした形で書けば良いのか、それとも言葉を崩して書けば良いのか。

友達・・・うん、友達? 年下の子に書くんだから、ある程度はちゃんとしたのを書かないと。

友達にメール送るのとは、また違う気がするし。

ひょっとしたら、あのお姉さん達も見るかもしれないし・・・。

 

 

あー、もう!

 

 

「あら、夏美ちゃん。何をしているの?」

「わひゃあっ!?」

 

 

ズバシャアッ、と、反射的に机の上に置いていたペンとか便箋とかを払い落とした。

床に散らばったそれらを見て、後ろから声をかけてきたちづ姉は、「あらあら」と自分の頬に手をやって。

 

 

「反抗期かしら?」

「違うよっ、と言うか何でちづ姉に対して反抗・・・何、その葱」

「お味噌汁に入れようと思って」

「何で、今持ってるの・・・?」

 

 

左手に何故か葱を持っているちづ姉。

たぶん、夕飯を作ってる最中だったんだと思うけど・・・。

 

 

「あら、なぁにコレ?」

「あ、ちょっと!」

 

 

床から、便箋の一枚を取り上げて読むちづ姉。

ちょ、それは失敗した奴で・・・!

 

 

「えーっと、『私の小太郎君へ、貴方がいなくなってから寂しい日々を過ごしています』・・・まぁ、大胆ねぇ」

「いや、書いてないよそんなこと!?」

 

 

と言うか、何でそんな流れるように文章が出てくるの?

 

 

「うーん、でもねぇ夏美ちゃん。コタちゃんにはこういう文章はまだ早いと思うわよ?」

「書いてもいない文章で怒られた!?」

 

 

と言うか、何で相手が小太郎君前提なのよ!

も、もしかしたら、別の誰かが相手かも知れないでしょ!

 

 

「あら、そうなの?」

 

 

心を読まれた!? 特○エスパー!?

 

 

「じゃあ、誰に書くつもりなの、このお手紙?」

「そ、それは、ええっと・・・」

 

 

見つめ合うこと数秒。

目を逸らしたのは、私。

 

 

こ、小太郎君だけどさ・・・相手。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「貴女達4人には特別枠を設け、オスティア記念式典警備任務の栄誉を与える物とします」

 

 

セラス総長の名前で出されたその宣言が、このレースの結果となりました。

これにより、結果としてトップでゴールしたデュ・シャさんとフォン・カッツェの2人と、あわせて6名がオスティア記念式典への警備任務参加が認められました。

 

 

しかし、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)を倒したわけでも無いのに、何故・・・。

私のその疑問に答えてくれたのは、バロン先生でした。

 

 

「そうでなければ、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)の件について、セブンシープ家から苦情が来る」

 

 

アリアドネーの管理外の竜のせいで順位を落としたとなれば、責任問題となる。

それくらいならば、オスティア行きの資格を与えた方が波風が立たない。

事実、鷹竜(グリフィン・ドラゴン)と短時間とは言え渡り合える実力があるのだから・・・。

 

 

「素直に感情を表現できる貴女は好ましく思える。だが今は休んだ方が良いだろう」

 

 

私の顔を見て、帽子を深くかぶりながら、バロン先生がそう言いました。

・・・寝不足と苛立ちで酷い顔をしているでしょうね、私は。

 

 

私の生徒を政治的な理由で処した件については、まず眠ってから・・・。

寝不足で軽く頭痛を感じる頭をコツコツと叩きながら、私はそう判断しました。

この体調では、冷静な判断など覚束ないでしょう。

 

 

多くの生徒に囲まれるさよさん達をその場に残して、私は自分の部屋に向かいました。

と言うか、なぜスクナさんまで女生徒に囲まれているのでしょう。

・・・さよさんの目が軽く怖いです。

それにしても、眠ると決めてから、また一段と眠気が・・・。

誰もいない廊下を、トボトボと進みます。

 

 

 

「お久しぶりでございます、王女殿下」

 

 

 

そして、その人は私の部屋の扉の前にいました。

 

 

地面に片膝をつき、頭を垂れる女性。

ショートの髪の中で、一房だけが長い。

黒を基調とし、銀のラインの入った軍服のような服。

胸に刺繍された紋章は、アリアドネーのそれとはまた違う形のようでした。

 

 

ジョリィさん。

まぁ、なんとなく私の近くにいるだろうとは思っておりました。

 

 

「・・・クルトおじ様から、何か?」

 

 

どうやって入ったとか、そう言うことは聞きません。

どうにかしたのでしょう。

私の問いに、ジョリィさんは顔を上げないまま。

 

 

「いえ、新オスティアのクルト様よりの言伝はありません」

「・・・?」

「本日は王女殿下を、ウェスペルタティアの地に招聘せしめよとの、さる方の命で参上いたしました」

「さる方?」

「我らオスティア難民を今日まで支えた功労者なれば・・・」

 

 

・・・良くはわかりませんが。

その件に関して、私は無関係です。知ったことではありません。

 

 

不快な気持ちと、同時に目の奥で暴れる眠気による痛み。

こめかみを指先で軽く押さえます。

両目を掌で覆い、目を軽く擦ります。

 

 

ああ、もう。

こんなに眠い時に、面倒なことを持ち込まないでください。

難民がどうとか、私の知ったことではありません。

なんというか、もう・・・。

 

 

「勝手になさい・・・」

 

 

半ば吐き捨てるような気持ちで、私はそう言いました。

・・・この時の私は、いくつかの判断ミスをしていました。

 

 

第一に、アリアドネーの安全性を過信したこと。

そして第二に、ジョリィさんが「私に危害を加えるはずが無い」と言う、奇妙な「信頼」を持っていたこと。

そのどちらも、状況や条件によっては変化し得るのだと言うことを、失念していたのです。

 

 

「御免」

 

 

ですから、ジョリィさんの横を通り過ぎ、ドアノブに手をかけた瞬間。

私の口元に押し付けられたハンカチのような布を、私はかわせなかった。

濡れたハンカチ、鼻につく香り。

どこかの推理小説で見たようなシーンですね・・・などと思った直後には、私の意識は闇に落ちようと・・・。

 

 

薬品、睡眠薬・・・魔法薬・・・。

エ・・・。

・・・ち・・・。

 

 

『後悔する日がくるヨ』

 

 

最後に脳裏に浮かんだのは、エヴァさんでもシンシア姉様でもなく。

何故か、超さんの顔でした。

 




さよ:
相坂さよです。こんばんは。
今回は、箒レースの様子をお届けしました。
私が途中で使った黄色いアヒルさんは、魔法具のあのアヒル隊さんです。
今回の件で、私はアリアドネーの魔法騎士見習いとしてオスティアに行くことになるみたいです。
うーん、本気で騎士になってみようかな?


今回、登場した魔法とお菓子は。
黒鷹様より「六花亭 ストロベリーチョコ」。
「我は紡ぐ光輪の鎧」:魔術師オーフェン、提供はグラムサイト2様です。
ありがとうございました~。
ちなみに作中で出たエヴァさんの「弱点」云々の話は、オーフェンからとっているそうです。


さよ:
次回は、現段階でお知らせできることが少ないので、わかりません。
誰にもわかりません。
では、また会いましょうね。


次回、第4話「オスティア難民」。

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