魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第3部第10話「女王」

煌びやかな衣装の上に新メセンブリーナ連合評議会議員の―――元々はメガロメセンブリア元老院の―――ローブを纏った数十人の人間が、荘厳な作りの円形議場にそれぞれ座している。

普段は薄暗い照明しか無いこの議場も、今日に限っては評議員の顔がはっきりと見えるほどに照らされている。

 

 

と言うのも、普段は秘密に行われる討議が今日は公開されることになっているからである。

議場の一隅に、国営・民間の報道機関の記者が詰めかけているのがその証左である。

 

 

「では、これより多国籍軍を称する外部勢力の要求に対する動議の採決を始める」

 

 

議長らしき男が、一段高い位置から厳かに宣言すると、議場全体が異様な熱気に包まれた。

所々でざわめきと囁きが起こる中、動議の内容が再確認された。

過去1週間に渡って話し合われた―――全ての評議員がその話し合いに参加できたわけではないが―――内容であるために、議場にいる人間はほとんどが知っている内容だった。

 

 

「では、まず第一に・・・」

 

 

議長が厳かな声を作って宣言した動議の内容は、以下の通りである。

①多国籍軍を称する勢力とその政府の宣言は、新メセンブリーナ連合の主権を侵害する物である。

②宣言は我が連合の結束と尊厳を傷つける内容であり、我が連合の解体を狙った物である。

③「悪の諸勢力」による、このような「邪悪な宣言」は断固として拒否せざるを得ない。

④かねてからの経済封鎖も非合法的かつ非人道的であり、即時の撤回を求める。

⑤また多国籍軍を称する勢力が指摘するような反政府組織は、我が連合とは一切の関わりが無い。

⑥諸勢力が主張しているような人体実験などと言う非人道的で、恥知らずな活動の事実は一切、無い。

⑦ただし我が連合は、経済封鎖解除と人道支援開始を前提に、対外諸勢力と対等の外交関係樹立に向けた協議に応じる用意がある。

 

 

「最後に、このような軍事的恫喝は我が国の主権と独立を侵害する物である。そして我々の主張は魔法世界の多くの民衆の理解を得る物だと、確信している。オスティア宣言なる者は一部の邪悪な専制者共が、侵略の口実のために作り上げた虚構でしか無い。もし専制者とその奴隷達が我が連合の国境を侵そうものなら、我が連合の国民軍が総力を挙げて迎え撃つであろう。共和政治万歳、専制者を倒せ、独裁者に死を!」

 

 

盛大な拍手と共に歓迎されたその宣言は、多国籍軍の共同宣言「オスティア宣言」に対して「グラニクス宣言」と呼称されることになる。

 

 

この動議はすぐに採決に出され、やはり厳かな雰囲気の中で、評議員達がそれぞれ票を採決用の投票箱にそれぞれの意思で投票を行った。

結果は・・・賛成票87、反対票0、棄権票1。

圧倒的賛成多数で、「グラニクス宣言」は成立したのである――――。

 

 

・・・なお、唯一賛成票を投じず棄権したのは、近衛近右衛門と言う旧世界出身の老人であった。

もっとも、新聞やニュースにその名が載ることは無かったが。

いずれにせよ魔法世界の人々の視線はオスティアからグラニクスへ、そして再びオスティアへと移るのであった・・・。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side アリア

 

・・・エリジウム大陸グラニクスから、魔法世界全体に向けて放送された評議会の映像。

それを見ていた私は、別におかしくも無いのに、何故か笑いたい気持ちになりました。

 

 

今日の私はいつもの薄桃色のドレスでは無く、白と淡い青のオーガンジーが幾層にも重なり合った軽やかなドレスを身に纏っています。

小さなレースや小さな髪飾りなどもアクセサリーもあしらわれた一品です。

加えて、私の手には「阿古女(あこめ)」の号を持つ京扇子。

扇面の素材は絹で、天然素材の顔料で苺の花が描かれています。

いずれも先日、王室に納められたばかりの品々です。

 

 

「・・・と、言うわけです」

 

 

それが消えた後、私は宰相府最奥の会議室に集まった面々を見渡しました。

四方を近衛兵の詰め所に囲まれた窓の無い会議室。

今日はここで、クルトおじ様を含む王国首脳部でグラニクスの評議会の「返答」に対して今後どうするか、の会議を行うことになっています。

 

 

ここで行われる「国家安全保障会議」は先年創設されたばかりの諮問機関であり、王国の安全保障政策に関して外交・軍事の面から女王に助言するための機関です。

参加メンバーは私の他、宰相を含む重要閣僚、幕僚総監を含む制服軍人など10人前後です。

 

 

「グラニクスの評議会とやらの返答は形式に則った物ですが・・・要するに侮辱されて腹立たしいけれど、戦争は嫌です、でも経済援助はしてください、と言うことでしょう」

 

 

扇子を開いて口元を隠しつつ、会議室に居並ぶ首脳陣に向けてそう言うと、一部は笑い、一部は肩を竦め、一部は顔を顰めました。

どうやら表現を間違えたようで、あまりウケませんでした。

 

 

「国家安全保障会議」に参加しているメンバーは、以下の通りです。

王国宰相クルト・ゲーデル、工部尚書エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、財政尚書ヨハン・シュヴェリン・フォン・クロージク侯爵、国防尚書アドメトス・アラゴカストロ公爵、外務尚書テオドシウス・エリザベータ・フォン・グリルパルツァー公爵。

以上5名が文官代表の出席者になります。

 

 

そして武官代表である幕僚総監カスバート・コリングウッド艦隊元帥、スティア・レミーナ艦隊元帥兼女王親衛艦隊司令官、親衛隊防諜班長ナターシャ・ダヴィード・フーバー少将、ベンジャミン・グリアソン陸軍元帥、そして今日のためにグレート=ブリッジ要塞から中央へ出向いてくれたレオナントス・リュケスティス陸軍元帥、以上5名。

 

 

以上10名に書記官、秘書官を含めた十数名が、我が王国の「国家安全保障会議」のメンバーです。

文字通り、我が国の最高幹部が揃っています。

 

 

「拒絶された場合の対応は先の『オスティア宣言』に盛り込まれておりますが、具体的な行動計画についてはまだ立案されておりません。今日の会議は、それを決定することを目的として召集した物です・・・すなわち、エリジウム大陸への侵攻及び占領政策の基本方針について、この会議で決定致します」

 

 

U字型のテーブルに両膝をついて、私は左右の文武官の代表者の顔を見渡します。

いずれも、それぞれの形で緊張の面持ちを作っています。

この5年、コレに近いメンバーでの会議は何度も行ってきたので、それなりに気心の知れた仲だと思っています。

 

 

「・・・では、これよりウェスペルタティア王国、国家安全保障会議を開催致します」

 

 

私がパチンッと扇子を閉じると、議事進行を務めるクルトおじ様が会議の開始を宣告しました。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

基本方針を定めるとは言っても、実際には先だっての主要国会議の場で各国の分担は決まっています。

今回の会議は、その範疇での我が国の行動を決定するための物です。

まずは、そのことについて再確認しましょうか。

 

 

先の主要国会議において、我がウェスペルタティア王国を始めとするイヴィオン統合軍はエリジウム大陸北部から侵攻することになっています。

魔法世界最北端、龍山連合首都「盧遮那」から南下することになります。

逆に帝国・アリアドネーの混成軍はシレニウム、ゼフィーリア方面からグラニクスへ向けて北上する手はずになっております。

 

 

「動員戦力は我が王国単体でイヴィオン統合艦隊所属の第一、第三、第七に親衛艦隊を含めた4艦隊298隻、陸軍1万・・・となる予定です」

 

 

この兵力に、イヴィオン統合軍に所属するパルティア、アキダリア、龍山の艦隊・陸軍が追加されます。

3個艦隊278隻、陸軍1万人、装備などは旧式ですが、数は力と言うことで。

艦艇576隻、陸軍2万、動員兵力合計20万人。

それが、エリジウム大陸侵攻を目的とするイヴィオン統合軍の戦力です。

過半数は我が王国軍、まさに主力ですね。

 

 

我が国始まって以来とも言える壮大な軍事行動に、会議室が仄かに熱気を孕みました。

もっとも、南方の帝国軍は我が国よりもさらに多い兵力を投入する予定ですが。

 

 

「財政省としては・・・」

 

 

最初に発言したのは、財政尚書のクロージク伯爵です。

ブラウンの髪を七三分けにした実直そうな壮齢の男性で、この5年は税制度改革と財政改革を進め、王国の財政を健全化させた有能な閣僚です。

 

 

「財政の健全化が進んでいる最中での大規模な軍事行動には、賛成しかねる。今でこそ国家予算は黒字になっている物の、地方自治制度の整備や総選挙の準備で財政が今後も均衡できるかは瀬戸際の状態なのだ。女王陛下が民意を第一に考えておられる以上、増税はできない。無論、国債に頼るなどもってのほかだ」

「実行面で見ても、20万もの動員兵力を養うだけの補給態勢は整えられるのか、疑問だな。我が軍だけでも10万もの兵力だ。加えて言えば龍山に本営を置くのは良しとしても、龍山やアキダリアが兵站基地・補給ルートとして機能し得るか、甚だ疑問だ」

 

 

財政面での疑問を呈するクロージク伯爵に対し、実行面での疑問を呈するのはリュケスティス元帥です。

反対することで非難されると言うことは良くありますが、この2人にそれを言う人間はいないでしょう。

 

 

「しかし外交的な方針としてすでに出兵が決まっている以上、いかにして出兵を成功させるかと言うことを考えるべきでしょう。もちろん、補給を軽視して良いわけではありませんが・・・」

「幸い、補給物資と資金はメガロメセンブリアを始めとする旧連合領諸都市から提供されることになっているので・・・後は輸送の問題が残るわけですが、そこは幕僚部が上手く計画しますよ」

 

 

それに反論するのは、軍部の中でも親女王派として知られるレミーナ元帥。

彼女はどちらかと言うと、「女王の意思の完遂」を第一に考えているようですが。

そして幕僚総監であるコリングウッド元帥が、収まりの悪い黒髪を掻きながら、補給計画について保証しました。

そこから数分かけて、コリングウッド元帥が補給について説明した後・・・次に口を開いたのは、親衛隊防諜班のフーバー少将です。

 

 

「それよりむしろ、占領後のことを心配すべきでしょう。我が親衛隊防諜班の調査によれば、エリジウム大陸の食糧事情は余りにも酷い。占領した後、占領地域の住民に食糧を供給することをご考慮頂きたいのですが・・・」

「ふむ・・・確かに、その点は重要だな」

 

 

旧世界出身のフーバー少将は、ユダヤと言う民族の血が入っている女性です。

かつては3重スパイをしていたと言う意味不明な経歴を持っているのですが、今は王国諜報機関のトップでもあります。

その筋では恐れられているとも聞きますが、アリア様の前ではその片鱗は余り見せません。

 

 

それはそれとしても占領地の食糧問題ですか、確かに問題ですね。

将来、占領地域の総督になるリュケスティス元帥も、無関心ではいられないようです。

 

 

「・・・古来、餓えた民衆ほど国を傾かせる物は無いからな」

 

 

静かにそう発言したのは、国防尚書のアドメトス・アラゴカストロ公爵。

5年前の旧公国との戦闘において、ほぼ独力で自領を守りきったアラゴカストロ公爵家の現当主です。

彼の父は優秀な将軍でしたが、彼自身は軍政官としての才能を持っているようです。

 

 

「長期に占領行政を行うと言うのであれば、食糧供与は絶対に必要だろう。敵があえて我々に餓えた民衆を抱えさせ、我が軍の補給に過大な負担をかける策に出る可能性もあるが・・・」

 

 

一堂の視線が、会議の成り行きを見守っていたアリア様に注がれます。

旧世界連合からの献上品である京扇子で口元を隠していたアリア様は、パチンッ、と扇子を閉じると。

 

 

「・・・占領地住民の生活保障を、第一に。派遣兵力の縮小も視野に」

 

 

・・・では、その方向で話をまとめましょうか。

さて、エリジウム大陸北部の住民を養うためには、どれだけの食糧が必要ですかねぇ。

・・・そう言えば。

 

 

「マクダウェル尚書、確か工部省が開発中の技術に、食糧増産に関する物がありましたね?」

 

 

珍しく何も言わずに黙っている吸血鬼に声をかけたのですが、何やら難しい顔をして腕を組んでいます。

・・・おや?

アリア様を見ると、どこか困ったように笑みを浮かべております。

・・・・・・おやおや?

 

 

「・・・エヴァさん」

「あ? ・・・あ、ああ、うん。食糧増産の研究か、もちろんあるが・・・」

 

 

アリア様に声をかけられると、吸血鬼は慌てたように手元の資料を持ちました。

・・・一応、話は聞いていたんですね。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

会議の内容を耳に入れつつも、私は別のことを考えていた。

何を考えているかと言われれば、昨夜のアレだ。

千草から旧世界で妙な連中が刹那達やさよ達を襲ったと言う連絡が来て、アリアの部屋に行ったまでは良いのだが・・・。

 

 

途中から記憶が欠落しているのだが、覚え違いで無ければ・・・。

アリアと若造(フェイト)が、同じベッドにいたような。

・・・いやいやいや、まさか、結婚前だぞ?

いや、だが、しかし・・・。

 

 

「・・・エヴァさん」

「あ? ・・・あ、ああ、うん。食糧増産の研究か、もちろんあるが・・・」

 

 

いかんいかん、私事で仕事を滞らせるわけにはいかんな。

そう思い直して、私は手元の資料を参考に会議に参加している面々に説明を始める。

 

 

内容は、要するに魔導技術で食糧増産はどれだけできるかと言うことなのだが。

まぁ、正直に言って、そこまでの成果は望めんぞ。

魔導技術を用いた農具や肥料と言っても、そこまで凄い物では無い。

バカ鬼印の種だって、そこまでの数があるわけじゃない、成長速度は半端無いのは確かだが。

 

 

そうだな・・・占領地の耕作状況を見ないと何とも言えんが、もし占領地のエリジウム大陸北部の民衆を恒久的に飢餓から救うつもりならば、機材と技術を現地に持ち込んでフル稼働しても・・・一ヵ月はかかる。

最短で一ヵ月だ、その期間、私達は占領地の民衆に食糧や生活物資を供給し続けなくてはならない。

 

 

「・・・と言うわけで、工部省の職員が徹夜続きで踏ん張ったとしても、来週の出兵までに穀物を5万トン増産できるかどうかだろう。無駄とは言わんが、根本的な解決にはならんぞ」

 

 

そもそも、食糧増産に関する魔導技術の開発は、王国の民衆が飢えぬようにするために開発が進められているんだ、いきなり占領行政に適応させろと言われても困る。

占領した後で機材を持ち込んで、と言う形ならともかく。

今から来週の出兵までに間に合わせろと言われても、国内備蓄用の生産分を回すくらいしかできん。

 

 

ついでに言えば魔導技術で作った穀物や作物は、市販の物に比べて死ぬほど不味いぞ。

まぁ、味など飢え死にしそうな奴にとっては、どうでも良いだろうが、

 

 

「そうですか・・・では、他の方法を考えるしかありませんね」

「すまんな、こっちも開発を急いではいるんだが」

「いや、マクダウェル殿が謝罪することは無い、皆の責任なのだから」

「・・・あ、ああ、そう言ってもらえると助かる」

 

 

アリアに謝ったんだが、何故かグリアソンが私を庇うようなことを言った。

何故か知らんが、奴は私に対して良く気を遣ってくるように思う。

奴の隣に座っているリュケスティスは、何故か生温かい目をしているし・・・何なんだ。

 

 

「少し待ってもらいたい。どうも即座に出兵する物と考えている方が多いようだが、そもそもオスティア宣言には直接的に宣言の拒否が出兵に直結するとは記載されていないはず」

 

 

ここで論戦に加わったのは、外務尚書のテオドシウス・エリザベータ・フォン・グリルパルツァー公爵。

5年前まではアラゴカストロ公爵と共に「侯爵」だったが、「イヴィオン」結成を演出し、平和的な国際環境を整えた功績で「公爵」に格上げされた女だ。

旧公国領で唯一アリア側についたアラゴカストロ公爵家、そしてクロージク侯爵家と並んで、今の王国の三大貴族とも呼ばれている。

・・・若造(フェイト)の公爵授爵は、そのあたりの力関係を考慮した物でもある。

 

 

テオドシウスはエルフと人間のハーフで、項のあたりで一つにまとめた背中の中頃まである毛先が銀色の水色の髪と、青銀色の切れ長の怜悧な瞳が特徴的な女。

年齢は20代前半でどこか中性的な容貌、女にしては背が高い。

片目に銀の台座にシンプルで小粒なガーネットとサファイアのついた片眼鏡(モノクル)を着用していて、それに指先で軽く触れながら、メンバーを見渡す。

 

 

「物言いはともかく、新メセンブリーナはこちらに交渉を求めてきている。それを全く無視して開戦して良い物かどうか・・・少し外務省に時間を貰えないだろうか」

「ですが、我が国と新メセンブリーナには正式な外交関係がありません。それに我が防諜班の調査とメガロメセンブリアの提供した情報によれば、エリジウムに人体実験の施設があることは明白なのに、彼らはそれすら認めていない。これでどのような交渉が可能だと言うのです?」

「最終的な出兵は止むを得ない、それは認める。だが短絡的な出兵は計画面で無理が出る、その負担は国民に行くんだ、簡単に決めるべきでは無い」

 

 

親衛隊防諜班のフーバーの反論に、テオドシウスはあくまでも慎重論を唱える。

それに反論したのは、グリアソンだ。

 

 

「だが、敵は外交的に孤立している。また5年に渡る経済封鎖で補給状況も劣悪だろう。数で上回っている多国籍軍が電撃的に侵攻すれば、勝利の可能性は極めて高い。交渉で時間を与えれば、むしろ戦争を長期化させることになるのでは無いか?」

「戦争だけを見ればそうかもしれない。多国籍軍と言うことで負担も分散される。だが現地住民が我々に非協力的であれば、負担は長期化するだろう。私はそれによって我が国の民の負担が増すのが心配なんだ。占領行政に失敗すれば各国の非難の的にもなる」

「現地住民への情報の流布は、すでに我が防諜班が・・・」

「だが、占領地にかまけ過ぎると国内での食糧価格の高騰の可能性も・・・」

「しかし・・・」

 

 

会議は、それぞれの主張が交錯して紛糾している。

だが・・・と、私はアリアを見た。

 

 

・・・私は、私達は奴らを許さない。

奴らは・・・新メセンブリーナの連中はともかく、「Ⅰ」は許さない。

触れてはならぬ物に、触れたのだから。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

会議開始から3時間後、意見も出揃い、かつ調整も済んだ時点で採決がとられました。

会議に参加している文官、武官代表の10名の意思表示は、以下の通りです。

 

 

即時出兵賛成:

王国宰相クルト・ゲーデル、工部尚書エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、親衛艦隊司令官スティア・レミーナ艦隊元帥、親衛隊防諜班長ナターシャ・ダヴィード・フーバー少将、ベンジャミン・グリアソン陸軍元帥、幕僚総監カスバート・コリングウッド艦隊元帥・・・以上6名。

 

 

即時出兵反対:

国防尚書アドメトス・アラゴカストロ公爵、外務尚書テオドシウス・エリザベータ・フォン・グリルパルツァー公爵、財政尚書ヨハン・シュヴェリン・フォン・クロージク伯爵、レオナントス・リュケスティス陸軍元帥・・・以上4名。

 

 

「・・・陛下、会議の結果が出揃いました」

 

 

クルトおじ様の言葉に、頷きます。

皆の視線が、再び私に集まります。

会議の結果がどうなろうとも、最終的な判断を下すのは私です。

この5年間、常にそうでしたから。

 

 

可能な限り公正に、可能な限り公平に、可能な限り民意に沿って、そして可能な限り多くの者のためになる選択を・・・そう心がけて来ました。

この5年間で王国市民は徐々に権利意識が芽生え、以前よりも主張するようになっています。

しかし、最終的には私が決めます。

 

 

憲法が施行されない限り、三権及び軍権の全てが私一人に集中しているからです。

国民の総意によって君臨しているはずの私に、誰も逆らえない。

誰も歯向かえない、誰もが私の命令に服従しなければならない。

無制限の、権力・・・専制的独裁者、絶対君主制。

・・・その意味では、新メセンブリーナの言い分は的を射ているわけですね。

 

 

「オスティア宣言に基づく出兵を許可します。編成は冒頭で述べた通りとし、帝国、アリアドネー、イヴィオン各国と連携しつつ盧遮那に全軍を集結させなさい。エリジウム大陸への侵攻開始は、主要国会議における非公式会談で決定された通り、11月1日正午とします」

「「「「仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)」」」」

 

 

私の言葉に全員が立ち上がり、唱和します。

私はそれに頷くと、テオドシウス外務尚書の方を向いて。

 

 

「テオドシウス外務尚書」

「は、何か」

「オスティア駐在の各国大使と協議した上で、最後通牒文書の作成を行ってください。また、それを新メセンブリーナが受け入れた場合には外交交渉の可能性もあることを通達。外交関係が無いので文書の手渡しは不可能ですが、今夜、私が多国籍軍代表として最後通牒文を読み上げます。なお、ウェスペルタティアがその役目を担うことはすでに各国首脳の承認を得ています」

「・・・は、ただちに」

 

 

・・・とはいえ、「オスティア宣言」を受諾できない以上、最後通牒も儀礼的な結果になりそうですが。

一応、グラニクスの評決への返答もしなければならないので、ちょうど良いでしょう。

 

 

「・・・うん? 多国籍軍代表として・・・とは、陛下、どう言うことでしょうか?」

「言葉の通りの意味です」

 

 

疑念を持ったらしいクルトおじ様の声に、私はそっけなく答えます。

パラ・・・と扇子を開いて、口元を隠します。

 

 

「多国籍軍・・・特にイヴィオン統合軍は、私が率います」

「ご親征あそばす・・・と言うことですか!?」

「アリア様!?」

「女王陛下・・・!」

 

 

あー・・・やっぱり、そう言う反応になりますよね。

わかってはいましたけど。

ちなみに一番最初に反対の論陣を張ったのは、少し意外なことにクルトおじ様では無く、リュケスティス陸軍元帥でした。

 

 

「我が女王よ、もし御身に万が一のことがあらば、我が王国は瓦解し、時代は旗手を失いかねませぬ。どうかオスティアにあって、前線の労苦は我らにお任せください」

「リュケスティスの申し上げる通りです。追い詰められた敵が窮鼠と化し、最悪の事態になるやもしれません。賊軍の討伐は我らにお任せあって、陛下はどうか後方で我らの戦いぶりを督戦して頂きたく」

「第一、新メセンブリーナが関与を否定する「Ⅰ」の動向が気になります。これ見よがしの挑発行為の数々は、陛下をエリジウム大陸へ呼び寄せるための布石ではありますまいか」

 

 

リュケスティス陸軍元帥に加えて、グリアソン陸軍元帥まで反対しました。

さらに最後には親衛隊のフーバー少将が「Ⅰ」の危険性を説き、私にオスティアに残るよう説得にかかります。

参加者の過半は、同じような考えのようですが。

 

 

「アリア・・・陛下」

 

 

エヴァさんだけは、直接的な反対はしていません。

・・・旧世界にいて、「Ⅰ」とか言う連中がさよさん達を襲ったと聞きました。

さよさんだけでなく、刹那さん達や旧3-Aの方々も。

まぁ、今や卒業して、立派に生きている3-Aメンバーはともかく。

さよさん・・・私の家族に手を出したことは、許し難い。

目の前にいたら、確実に・・・思い知らせてやるのに。

本当は、今すぐ乗り込んで・・・皆殺しにしてやりたいくらいなのに。

 

 

・・・5年前の私であれば、それだけで全軍を動かしたでしょうね。

でも今は私の家族を傷付けられたこと「だけ」を理由に、兵士を死地に送るようなことはできません。

 

 

「・・・もし「Ⅰ」の挑発行為が、私をオスティアに押し込めるための布石だったとしたら?」

「は・・・?」

「数々の挑発行為は、確かに私をエリジウムに呼び寄せる罠かもしれません。しかし、そう思わせるために、わざと目立つようなテロ行為に及んだ可能性はありませんか?」

「それは・・・」

「出兵によって、相対的にオスティアの警備は緩くなります。すでに彼らは2度に渡り私の近くにまで侵入していました。出兵によって警備が緩くなった場合、どうなりますか? むしろ大軍の中にあった方が、私の身は安全ではないでしょうか?」

 

 

こう言う言い方は、保身を図っているようで嫌いなのですけどね。

とは言え、私一人の身体ではありませんので・・・。

 

 

「そして、イヴィオン統合軍は各国の寄り合い所帯で指揮系統が複雑です。共同元首である私がいれば、表向きの指揮権は私を頂点として安定させることができます」

 

 

パルティアやアキダリアのように、国境紛争を抱えている国もあるのです。

盟主国元首であり、共同元首でもある私の存在は、統合の象徴として機能します。

 

 

「それに、これは個人的な我儘に分類されることですが・・・私は安全な所から命令だけして、兵士だけを死地に立たせることを良しとはできません。前線の将兵の方々には負担をかけるとは思いますが、どうか・・・聞いては頂けないでしょうか?」

 

 

最終的には命令では無く、お願いになってしまいました。

そんな私に、その場にいた全員が困ったような顔をしていました・・・。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

新メセンブリーナ連合。

エリジウム大陸の諸都市によって構成される国家連合。

国家連合とは言え、グラニクスの連合評議会が実権を握る超国家機構でもある。

事実上の、エリジウム「連邦」。

元々の農工生産力は魔法世界でも有数の物やったらしいけど、ここ数年の経済封鎖で生産力は下降する一方。

今では、ピーク時の3分の1にまで生産力が減少してもうとるらしい。

加えて言えば、域外に逃げ出す難民は年々増え取って、社会問題化しつつある。

 

 

そして、「Ⅰ」。

その新メセンブリーナ連合の所属するとされる、謎のテロリスト組織。

新メセンブリーナ連合の人体実験の被害者が、その構成員らしい。

その他のことは、良くわかっとらん。

 

 

「・・・って言うのが、こっちでわかっとることです」

『なるほど、こちらとほぼ同じですね』

 

 

目の前に置いた銀盆の中の水面に映った長―――旧世界連合初代事務総長、近衛詠春―――は、神妙な顔で頷いた。

5年前に比べると、渋みが増した顔立ちになっとる気もする。

 

 

オスティアの旧世界連合特使の大使館で、うちは長と通信で会談しとる所や。

内容は当然、今後の魔法世界の情勢について。

とは言え、情勢は悪化の一途を辿っとるわけやけど。

問題は、その情勢に旧世界連合としてどう対応するか、やけどな。

 

 

『・・・こちらで得た捕虜から話を聞けたのは、2時間と少しだそうですからね、実質』

「2時間どすか、そら・・・自白の術を使っても大した情報は得られへんかったでしょうな」

 

 

コツ、コツ、と銀盆の端を指で叩きながら、うちは適当な相槌を打った。

 

 

「実際の所、どうなんでしょうなぁ。テロや言うんやったら、何か目的がある思うんですけど」

 

 

うちも、元テロリストやさかい。

やから、わかる。

テロって言うのは、自分を含めた他の物に興味を持てへんようになった奴がやることや。

唯一、興味が持てるとすれば・・・。

 

 

テロの結果、得られる物だけや。

連中にとって、テロで得られる唯一の結果がどないな物なのか。

 

 

『さぁ・・・ただ、彼女ら「Ⅰ」がどう言う意図で生み出され、そして使われるはずだったのか・・・と言う点については、私も無関係ではありませんが』

「・・・25年前の戦争の結果、みたいな物ですからなぁ」

『ええ・・・しかし、だからと言って、「Ⅰ」を放置はできません。また、どう言う意図にせよ旧世界連合の管理区域に対して攻撃を仕掛けたのは事実です』

「・・・まぁ、そうどすな」

『よって、我が旧世界連合は「Ⅰ」及びその元凶と思われる新メセンブリーナに対し、報復行動をとることが旧世界連合常任理事会によって決定されました』

 

 

・・・とどのつまりは、今回の戦争に肩入れする言うことか。

経過はどうあれ、戦況はアリアはんらに有利に動くはずやし、そこで恩を売って魔法世界での発言権を強化する・・・か?

 

 

「・・・狸やな」

『いえ、友好関係にある魔法世界の諸組織に対し協力するだけですよ』

「無償で?」

『・・・・・・』

 

 

黙って笑うなや。

 

 

「はぁ・・・わかりました。こっちで調整しますわ」

『頼みます』

「はいな・・・・・・ところで、長、その・・・」

『・・・小太郎君なら、無事ですよ』

「・・・おおきに」

『では、また』

 

 

銀盆の水面から、長の顔が消えた。

それに合わせて、うちは溜息を吐いた。

 

 

・・・無事やったなら、ええわ。

 

 

もう一度、溜息を吐いて・・・椅子に深く座り直す。

うちが今おるんは、大使館の自分の執務室や。

5年前は街角の事務所やったけど、今や5階建ての石造りのビルみたいな建物や。

随分、待遇も変わったもんやけど・・・仕事のキツさは変わらへんわ。

いや、むしろキツくなっとる。

 

 

「千草殿」

「・・・カゲタロウはんか」

 

 

その時、執務室の扉がノックされて、黒づくめの兄ちゃんが入って来た。

5年前からうちの仕事を手伝ってくれとる、カゲタロウはんや。

仮面の下の素顔は、たぶん、うちしか知らへん・・・。

 

 

「何やね?」

「宰相府のクルト・ゲーデルから、至急、会いたいと」

「・・・マジか」

「うむ」

 

 

さらに溜息を吐いて、うちは天を仰いだ。

・・・仕事が増える予感しか、せぇへんかった。

 

 

 

 

 

Side アリカ

 

「戦争になるのか・・・?」

「はい、オスティアが戦場になることはありませんが」

 

 

オスティアが戦場にならない、と言う言葉に少し安堵を覚える。

そして同時に、ウェスペルタティアの兵が傷つくのではないかと憂慮する。

そして最後に、アリアが陣頭に立つと言う話を聞いて、心配になる。

 

 

午前の重要な会議を終え、遅めの昼食をとったアリアは、食後の紅茶を楽しんでおる。

付け合わせのスコーンを指先で弄りつつ、アリアは何かを考え込んでおるようじゃ。

 

 

「・・・主が自身で前線に赴くのは、旧世界の友人のためか?」

「友人・・・友人以上の存在ですが、まぁ、それも無いと言えば嘘になりますね」

 

 

執務室の椅子に深く腰掛けて、アリアは溜息を吐いた。

白と淡い青のフリルが幾層にも重なり合ったオーガンジードレスを着ておる様は、まさに16歳の少女じゃ。

だが、その肩にのしかかっておる責任は、どれ程の物であろうか。

 

 

「・・・でも、哀しいことに、それだけでは軍は動かせないんです。私個人の感情で動かして良い物なら、どれ程、楽か・・・」

「・・・そうじゃな」

 

 

・・・葛藤、迷い。

そうした物を、アリアの表情から読みとることができる。

かつては、私もあのような顔をナギに見せておったのじゃろうか。

 

 

「・・・どの道、パルティアとアキダリア、そして龍山との国境問題が絡んだ対立は、私しか調停できません。出兵自体は先の主要国会議で決定された物で、今さら変更はできませんし・・・環境の整備と準備さえ間に合うなら、国民投票でもしたいのですけど・・・」

 

 

それは、どこか自分に言い聞かせるかのような独白じゃった。

自分の行動を正当化するための理由を探しているような、そんな行為。

 

 

実際、アリアの言い分は間違ってはおらぬ。

オスティアに残るにせよ軍の先頭に立つにせよ、「Ⅰ」と言う存在がどのような組織であるのかがわからぬ以上、危険度は変わらぬやもしれぬ。

むしろ、精鋭を集めてその中にいた方が、確かに安全やもしれぬ。

そう考えたからこそ、最終的にはアリアの意思が通ったのじゃろう。

 

 

「・・・女王は主じゃ、アリア。主の思う通りにするが良い・・・」

「・・・お母様」

 

 

そして私は、そう言うことしかできぬ。

私は先代であり・・・かつ、本当ならばここにいないはずの人間なのじゃから。

政に関することは、何も言えぬ。

 

 

「・・・紅茶のお代わりは、いかがですか?」

「・・・頂こう」

 

 

茶々丸と言うアリアの侍従が紅茶を注ぐのを見つめながら・・・私は悩むアリアを見つめておる。

昨日、結婚が不安だと泣いておった16歳の娘は、そこにはいなかった。

そこにいるのは・・・多くの命に責任を持つ、女王じゃった。

 

 

 

 

 

Side スタン

 

天気も良いことじゃし、夕飯の食材の買い出しにでも行くかと言うことで、村の連中を引き連れて新オスティアにやって来た。

しかし、どうもいつもと様子が違うの・・・。

 

 

「・・・何じゃ、あれは?」

「え? 何がです?」

 

 

新オスティアに買い出しに来ておったワシらの目に、通りを練り歩く妙な連中の姿が映った。

何百人か、それ以上か・・・とにかく多くの人間が、横断幕やら旗やらを掲げて通りを練り歩いておる。

ワシの目がおかしくなっていなければ、デモのようにも見えるの。

 

 

「ああ・・・アレは、開戦派の市民デモですよ」

「市民デモ?」

「ええ、最近、政治活動の自由がアリアちゃん・・・アリア陛下から布告されたんで、ああやって自分たちの要求を伝えようとする活動が増えているんですよ」

 

 

そう説明するのは、ココロウァ夫人、有り体にいえばアーニャの母親じゃな。

6年間、石化しておったので・・・娘の年齢の割には若い。

まぁ、そこはワシもじゃが。

 

 

「あの人達は、ええと、何だったかしら・・・女王陛下を襲撃した勢力を許すな、と言うキリスト教民主同盟って言う政党の人達を中心に、人道に対する罪を犯した新メセンブリーナ連合を倒せ、と言う風に主張しているんですよ」

「ふん・・・若いモンは元気があって良いの」

「ご年配の方も参加してますけどね・・・」

「・・・む、アレは何じゃ?」

 

 

通りの反対側から、別の集団が歩いて来るのが見えた。

開戦派とやらのデモに比べれば、数が少ないように見えるが・・・。

 

 

「アレは、反戦派の市民デモですよ」

「今度は反戦派か・・・」

「ええ、健全な政治活動の結果です・・・アリア陛下は、自分への反対を嫌がりませんから」

 

 

ココロウァ夫人によると、反戦派は労働党と言う政治組織が主導しているのだとか。

主張は良く知らんが、戦争に対して反対していると言うのはわかった。

 

 

「・・・しかし、大丈夫かの。ああ言う連中は鉢合わせると面倒じゃぞ?」

「ああ、その点は・・・アレです、あのロボット・・・」

 

 

ココロウァ夫人の指差した先には、奇妙な人形が何体もおった。

ずんぐりした胴体に、薄い造りの手足、両手が異様に長く翼のようにも見える。

灰色のそれは、何体かは子供を肩に乗せてノシノシ歩いて喜ばせたり、重そうな荷物を抱えた老人を手伝ったりしているが・・・ほとんどはデモの方を見ている。

頭部には大きさの異なる大小の目がついていて、大きい方の目が赤く明滅しておる。

・・・デモ隊同士が衝突しないよう、監視しているようにも見えるの。

 

 

「何でも形状記憶弾性セラミック・・・と言う物質でできているロボットで、今年から新オスティアの警備用に配備された物だそうです。名前は・・・確か『ガーディアン』だったと思います」

「ふん、可愛げの無い連中じゃの」

 

 

それにしても、随分と変わった物じゃな。

魔法都市の警備に、ロボットとはの・・・。

 

 

 

 

 

Side テオドラ

 

夜になって、オスティアの駐在大使から帝都ヘラスに通信が入った。

妾の執務室に直接繋がった画像に映ったのは、現オスティア駐在帝国大使ソネット・ワルツじゃ。

腰まである金髪に青い瞳の美人じゃ。

種族は人間じゃがヘラス族の血も入っており、元々はオスティアの民じゃった。

 

 

今、こうして我が帝国に所属しておるのは、いろいろと事情があるのじゃが・・・。

まぁ、とにかく、まずはソネットから報告を聞くことにしよう。

 

 

『本日、ウェスペルタティアの呼びかけで大使級会議が行われました。内容は新メセンブリーナ連合に対する最後通牒に関する物です』

「最後通牒・・・か、侵攻は変わらず11月1日じゃな?」

『はい、全て予定通りに・・・』

「ふむ・・・」

 

 

最後通牒の内容自体は、正直「オスティア宣言」とほぼ同じ内容じゃ。

どちらかと言えば、宣戦布告が形を変えただけの物じゃしの。

帝国軍の展開も、何とかギリギリ間に合いそうじゃ、妾が帝都で軍部と折衝を重ねたからの。

 

 

「・・・イヴィオン軍の展開に関しての説明はあったかの?」

『基本方針は、我が国とほぼ同じです。大兵力でもって電撃的に侵攻し、敵戦力を掃滅ないし降伏せしめると言う方針です。もちろん、戦術的な部分は大きく異なるでしょうが』

「ふむ・・・わかった、何か変事があれば、また知らせよ」

『はっ』

 

 

通信を終えた後、妾は兵に命じてコルネリアを呼び出させた。

5分ほどして、皇帝の執務室にコルネリアが姿を現す。

 

 

「何かご用でしょうか、陛下」

「うむ、我が軍の食糧の備蓄状況はどうかと思ってな?」

「軍の補給物資に関して言えば、問題ありません。補給部門の幕僚たちは自信を持っております」

 

 

北の方から500隻以上の大艦隊と2万の軍勢がエリジウム大陸に侵攻するのと同時に、我が帝国も南からエリジウム大陸へ侵攻する。

皇帝直衛艦隊と帝国北方艦隊、合計6個艦隊594隻。

そして陸軍8万8千、動員兵力は合計約25万。

現在、妾が動かせる外征戦力の7割近くの戦力をエリジウム大陸南部の占領に行使する。

 

 

「占領地の住民への物資供給計画はどうか?」

「陛下の指示で、帝国辺境部の備蓄倉庫を解放しておりますので・・・5000万人が120日間生活できるだけの食糧・物資を用意できる予定です」

「うむ」

 

 

我が帝国は工業力でこそ、ウェスペルタティアやアリアドネーに及ばない。

しかしその代わり、亜人の体力と広大な耕作地に物を言わせた農業生産力がある。

食糧自給率は常に200%近く、そのために保存技術も他国よりも発展しておるのじゃ。

それをエリジウムの占領行政に使うことで、帝国の行政能力の高さを誇示できるじゃろう。

・・・と言うか、腹が減るのは誰でも嫌じゃろ?

 

 

5年前の戦いで混成軍の補給を帝国軍が担えたのも、その食糧生産力があればこそじゃ。

・・・裏を返せば、北のウェスペルタティア軍の補給面で恩を売ることもできよう。

 

 

「すまぬが、さらに30日分追加できるかの?」

「はぁ・・・食糧だけなら、輸送の裁量をお任せいただければ、1週間で調整しますが・・・何にお使いに?」

「北のイヴィオン軍から要請があり次第提供できるように準備しておけば、後々の役に立つと思うのじゃが・・・」

 

 

どうかの? と首を傾げて見せると、コルネリアは珍しく何も言わずに頭を下げ、執務室を出て行った。

な、何か調子が狂うの・・・。

 

 

『陛下!』

「わひゃ!? な、何じゃいきなり!?」

『も、申し訳ありません、緊急の連絡です!』

「緊急?」

『ゼフィーリア方面軍からの緊急報告です!』

 

 

ゼフィーリア方面・・・つまりは一足先に布陣しておる前線部隊に関する報告じゃった。

・・・もしや、先制攻撃でもされたか?

 

 

「メセンブリーナが越境してきたか!?」

『小競り合いです! 国境の向こうから1発だけ砲撃があって・・・反撃した所、撃ち合いになり・・・20分程で終息しましたが・・・』

「ぬぅ・・・やむをえん、少し後退して敵の射程から離れよと伝えるのじゃ、まだ全軍の準備が整っておらん!」

『り、了解しました、前線の責任者にそうお伝えします!』

 

 

ふぅ・・・と、とりあえずの指示を出して、溜息を吐く。

そして、不意に疑問が湧き上がって来た。

・・・新メセンブリーナが、この時期に先制攻撃・・・?

 

 

 

 

 

Side ガイウス・マリウス

 

「閣下、少しお休みになられてはいかがですか」

「む? うむ・・・そうだな、いや、そうもいかん」

 

 

ブロントポリスの軍港、私の率いることになる艦隊の旗艦の執務室で、私は迎撃作戦の準備に追われていた。

無駄な戦いとは言え、なるべく部下を生き残らせねばならない。

 

 

実の所、私は部下達に戦線離脱の許可を出しているのだが・・・。

99%の部下が、今も私に付き合って出撃の準備をしている。

 

 

「グラニクスに幕僚団の半数を引き抜かれてしまったからな、私がその分の仕事をしなければならん」

「引き抜きって・・・人質に取られただけではありませんか、閣下の御子息も・・・」

「・・・」

 

 

私の前に立っているのは、ロバート・ブロートン大佐。

濃いブラウンの髪の20代の青年将校であり、今は私の副官も務めてくれている。

こう言うのは不見識かもしれんが、私は彼には他の部下を率いてメガロメセンブリアに再亡命してほしいと望んでいたのだが。

 

 

・・・そして彼の言うように、私の息子がグラニクスに捕らえられている。

息子とは言っても、血の繋がりの無い養い子だが・・・コレがある限り、私は多国籍軍と戦わねばならない。

・・・我ながら、甘いかな・・・。

 

 

「・・・閣下、本当に正面から敵軍を迎え撃つのですか?」

「大佐には何か、腹案があるのかね?」

「兵力、補給、装備の面で圧倒的に不利である以上、正面から戦えば短期間で敗北します。であればこそ、焦土戦術に出るか、あるいはいっそゲリラ戦を展開すれば、何とか敵軍を撃退できるのではありませんか」

「・・・なるほど、確かにそうかもしれんな」

 

 

持久戦、長期戦に持ち込めば、侵攻軍に過大な負担を強いて撤退に追い込むことも不可能では無いだろう。

あるいは小兵力を分散派遣して、敵の補給路を寸断すれば・・・。

 

 

「・・・だが、それでどうなる?」

「閣下・・・」

 

 

戦略家としての思考になりかけた自分を、私は引き戻した。

そう・・・それで敵軍を撤退させて、どうなると言うのか。

エリジウム大陸の民衆は引き続き食糧難に喘ぎ、グラニクスの共和主義に名を借りた政治屋共に搾取される日々に逆戻りするだけのことだ。

 

 

もしコレが、物語に出てくるような悪逆非道な専制者から、清潔な民主主義を信じる無辜の民衆を守るための戦いであれば、私は喜んで戦いに臨んだだろう。

まさに命を懸けて・・・市民の盾となっただろう。

だが実際には、帝制、王制を標榜する国家が極めて清潔な政策を行い、逆に市民の多数の意見で選ばれたはずの政治屋が権力を私物化し、市民を苦しめている。

・・・だが、それでも・・・。

 

 

『閣下!』

 

 

その時、部屋に備えられた大型のスクリーンに、部下の通信士官の姿が映った。

 

 

「どうした、何か変事か」

『はっ、通信スクリーンに、多国籍軍代表としてウェスペルタティア女王が姿を見せています。エリジウム大陸に籠る賊軍に対し、最後通牒を行うと・・・』

「・・・映像を繋げ」

『はっ』

 

 

数秒後、画面が切り替わり・・・そこに映っていた少女に、私は「ほぉ・・・」と溜息を吐いた。

そこに映っていたのは、どこか先代アリカ女王を彷彿とさせる、美しい少女だった。

 

 

『・・・全魔法世界の皆様に対し、ご挨拶申し上げます。私はウェスペルタティア女王にして国家連合「イヴィオン」の共同元首、アリア・アナスタシア・エンテオフュシアです』

 

 

その少女は、群青色のドレスを身に纏っていた。

群青色を基調としたそのドレスは乳白色をアクセントとし、青色の花が胸元やスカートに散らされている。

乳白色のレースと青の花で彩られた群青色のドレスは、照明の光を反射して煌めく長い白髪にとても良く映える。

 

 

アリア女王は今朝の評議会の「オスティア宣言」拒否を強く非難し、同時に最後通牒を行った。

最後通牒の内容は基本として「オスティア宣言」と同じであって、事実上の宣戦布告であった。

 

 

『最後に、全魔法世界の皆さんに申し上げます。私、アリア・アナスタシア・エンテオフュシアは本日を持ちまして、多国籍軍の代表になりました。しかし、これはエリジウム大陸の住民の方々に対する物ではありません。魔法世界の紛争を無くし、平和な時代を築くために、皆様と共に歩いてゆくことのできる最善の道の第一歩であると考えております』

 

 

通信の最後に、アリア女王はそう宣言した。

討つべきは悪政を敷くグラニクスの評議会であり、他の諸都市、市民に対する軍事行動では無いことを宣言したのだ。

すなわち・・・自分達は解放者であると宣言したわけだが。

 

 

若く、美しく、聡明で民を思いやることのできる優しい女王。

これまで特に失政も無く・・・賞賛に値する存在だが。

だからこそ・・・危険だと、私は思った。

 

 

 

 

 

Side アイネ・アインフュールング・「エンテオフュシア」

 

『グラニクス評議会が我々の説得を受け入れないと言うのであれば、今後の事態に関する責任は、あげてグラニクス側にあると言うことを銘記して頂きます』

 

 

そう宣言して、ウェスペルタティアのオリジナルの声明は終わりました。

暗い、閉ざされた視界の中で聞こえてくるオリジナルの凛とした声は、心地良くすら感じます。

 

 

そうですか・・・来てくれるのですか。

最悪の場合は、オスティアの警備が相対的に薄くなるのに合わせて、こちらから出向くつもりでしたが。

そう・・・究極的には、どちらでも良かった。

限られた時間の中で、短期的にオリジナルに会うための手を打っていただけ・・・。

 

 

「・・・今、戻った」

 

 

その時、彼が戻って来ました。

私達の中で唯一、女王に姿を見られた彼。

今にして思えば、彼が女王と接触した合同慰霊祭の時が最初で最後の機会であったのかもしれません。

 

 

「お帰りなさい、首尾はどうでしたか?」

「ああ、帝国側は成功した。今、国境を挟んで帝国軍と連合軍が小競り合いを繰り返している。そして、北側は・・・S-06が上手くやったようだな。龍山との国境の島で、警備艦艇同士の小競り合いを誘発することに成功したようだ」

「・・・そう」

 

 

これまでの活動で、私達は仲間の多くを失ってしまいました。

とは言え、ほとんどは寿命で失ったのですが・・・。

 

 

「・・・う・・・」

 

 

その時、傍らの彼が地面に膝をつく気配を感じました。

苦しげに呻き・・・気のせいで無ければ、砂のような物が流れるような音が耳朶を打ちます。

・・・見えない目で、私は彼のことを見つめます。

 

 

ギシ・・・と車椅子を動かして、私は膝をつく彼の前に回ります。

そして・・・。

 

 

「・・・お舐めなさい」

 

 

ツイ・・・と、何も身に着けていない左足を、差し出しました。

彼の息を飲む声が聞こえると、私は口元にかすかな笑みを浮かべます。

 

 

「早く、消えてしまいますよ」

「・・・ああ」

 

 

返事の直後、苦しげな吐息と共に生温かい感触が左足の先に生まれました。

熱を持ったそれは、私の冷えた身体の隅々にまで温もりを伝えるかのようで・・・。

 

 

「・・・はぁ、ぁ・・・」

 

 

その熱が、足先から足首、太腿へと徐々にせり上がって来るにつれて・・・。

私は、身体をのけぞらせました。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

旧メセンブリーナ連合の領域に、テンペテルラと言う街がある。

砂漠地帯にあるオアシスの街であり、小規模ながら交易の中継地として栄えている。

その街でも特に有名な場所は、きっぷの良い亜人の女店主がいる酒場である。

 

 

「いやだねぇ、ここ5年は平和だと思っていたのに、戦争かい?」

 

 

その女主人が見ているのは、酒場の中央に設置された大型モニターである。

そこに映っているのは群青色のドレスを纏ったウェスペルタティアの若き女王。

現在放送されているわけでは無く、録画された映像を繰り返しているだけである。

それを証明するかのように映像が切り変わり、すぐにニュースキャスターとコメンテーターの顔が映る。

 

 

「ふむ・・・困っているのか?」

「いやぁ、この辺りが戦場になるわけじゃないし、むしろ景気は良いんだけどね? ジョニーやトラゴローって言うトラック野郎が良く来るんだけど、最近、運輸業は儲かって大変だって言ってさぁ」

「ほぅ・・・それは良かったな」

 

 

女主人が示した通り酒場は多くのトラック野郎で賑わっており、どこでどれだけ儲けただの、どの物資を運ぶとどれだけ儲けがあるかだの、どのそこは税金が高いだのと情報交換をしている。

 

 

その女主人の前、カウンターで酒を飲んでいるのは、奇妙な雰囲気を持つ男だった。

黒いローブを頭まですっぽりと被り、顔以外は外からは見えない。

手元には白い仮面があり、普段は顔も隠していることを示している。

褐色の肌の覗くその顔は、なかなか整った容姿をしていた。

 

 

 

「マスター」

 

 

 

その時、その男に声をかける少女がいた。

肩まで伸びた白い髪と、美しいが表情に乏しい顔はどこか人形めいた印象を相手に与える。

身に着けている衣服は、砂漠には不似合いな黒いローズレースブラウスワンピース。

チュールレースが華やかなブラウスワンピースであり、繊細なピンタッグが特徴的である。

小柄な少女には、良く似合ってはいるが・・・。

 

 

「・・・娘さんかい?」

 

 

女店主は聞いた。

 

 

「そのようなモノだ」

 

 

男は答えて、酒の代金を置いて立ち上がった。

それから少女を伴い、店だけでなく街そのものの外へ出て行った。

 

 

「どちらへ向かうのですか?」

 

 

少女が聞くと、男は一瞬だけ少女の顔を窺い、答えた。

 

 

「無論、救われぬ者達が集まる地・・・エリジウム大陸へ」

「わかりました」

「・・・別について来なくても良いのだぞ」

 

 

男がそう言うと、少女は不思議そうな視線を男に向けて、言った。

 

 

「私は、貴方と共にいます。マスター」

「・・・好きにしろ」

「はい」

 

 

男の名は、デュナミス。

少女の名は、6(セクストゥム)と言った。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side アリア

 

「すまんな、アリア」

 

 

仕事を終えて、就寝前の紅茶の時間。

共にテーブルを囲んでいるエヴァさんが、突然謝罪してきました。

正直・・・驚きました。

 

 

「・・・どうしたんです、急に」

「いや、さよ達のことで辛い思いをさせているかな、と・・・」

「アリアさん、マスターのことを許してあげてください」

「ケケケ、ユルシテヤッテクレヨ」

「うむ、許してやると良かろう」

「お前らな・・・」

 

 

・・・何故か茶々丸さんやチャチャゼロさんや晴明さんが急に話題に混ざって来ましたが、エヴァさんはどこか申し訳なさそう・・・と言うより、落ち込んでいるように見えます。

 

 

「昔なら・・・5年前なら、何を置いても助けに行った。バカ鬼が対処したから良しとしても、さよに手を出した奴らを皆殺しにしに行っただろう、だが・・・」

「・・・そうですね」

 

 

・・・今は、個人的な感情で動ける立場でも動いて良い立場でも無いですからね。

今回の件にしても、出兵自体は先だっての主要国会議と国家安全保障会議の採決によって決定されていました。

まぁ、私が親征するかどうかと言う問題はありますが。

それも外交的な理由で理由づけはできますが・・・。

 

 

「・・・大事な物が、増えたからだと思います」

 

 

私もエヴァさんも、この5年間で王宮や政庁、軍に仲間や友達、部下がたくさんできました。

それらを無視して、あるいは放って行動できない程に。

自分の能力や権限、感情が・・・自分の愛する人のためにのみ使用される。

それができた時期は、とうの昔に過ぎてしまったのですから・・・。

それができない程に、大事な物が増えすぎたと言うことでもあるのでしょう。

 

 

「・・・いずれにせよ、就寝前にする話では無いと思うけどね」

 

 

紅茶の香りが漂う中で、ただ一人ブラックコーヒーを飲んでいるフェイトが、そう言いました。

何故この場にフェイトがいるのかと言うと、彼は普段通りの時間に私の寝室を訪れたのです。

と言うより、アレです。

 

 

私とフェイトが会う時間に、エヴァさんが来ているのです。

エヴァさんがいるので、茶々丸さん達も来ているわけで・・・。

・・・いえ、別に不満なわけじゃないです。

むしろ、2人きりになると何があるか分からないという点では、少し安心もしないわけじゃないですし。

・・・でもやっぱり、アレだったり何だったり。

 

 

「ああ、そうだ・・・アリア」

「はい?」

 

 

私と向かい合うように座っているフェイトが、コトッ、と小さな小箱をテーブルの真ん中に置きました。

フェイトがそれを開くと、その中には青色の緑柱石をあしらったペンデュラム型のイヤリングが入っていました。

な、何だか高価そうですけど・・・。

 

 

「イヤリング型の支援魔導機械(デバイス)。魔法障壁特化型の物で、魔法障壁を作る以外の機能は無いらしいけど・・・セリオナから預かっていたのを思い出したよ」

「おい待て。どうして私の部下からの預かり物を私では無く、お前が持っているんだ?」

「あはは・・・でも、ありがとうございます」

「元はレアメタルマシーナと言う個人経営の装飾品(アクアイヤリング)だけど・・・支援魔導機械(デバイス)としての機能はむしろ他の物よりも優秀だよ」

 

 

イヤリングは2つあるのですが、フェイトはその内の1つを手にとりました。

あれ? 私のじゃ・・・。

 

 

「・・・一つは、僕のだそうだ」

「お揃いと言うことでしょうか」

「何だと!?」

「・・・!」

 

 

茶々丸さんの言葉に、頬が熱を持つのを感じます。

ちなみに、驚いているのはエヴァさんです。

お揃いは・・・ブレスレット以来ですね・・・なんて・・・。

 

 

私が少し照れつつも、小箱に残ったもう一つのイヤリングに手を伸ばします。

すると・・・自然、小箱をに触れているフェイトと手を重ねるような形になります。

 

 

「戦地に行くにしろ、オスティアに残るにしろ・・・僕はキミの騎士だ。キミの傍にいて・・・キミを守る義務が僕にはある。いや、義務以前の問題として・・・」

「・・・はい」

「・・・守るよ、キミを」

「フェイト・・・」

「・・・アリア」

 

 

フェイトと触れている指先が、かすかに熱を持ったような感触。

不安が溶けて消えて行くような、そんな感触・・・。

 

 

「・・・おい・・・」

「しっ、マスター、お静かに」

「・・・ヤバイ、オレハモウダメダ・・・」

「茶々を入れる隙が見いだせぬのじゃが・・・」

 

 

・・・一瞬、エヴァさん達の存在を忘れてしまいました。

そのことに気付いた私は、慌てて手を離そうと・・・。

 

 

 

ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ。

 

 

 

・・・その時、私の部屋の通信装置が呼び出し音を鳴らし始めました。

居住まいを正した後、私は通信画面を開きました。

相手は、クルトおじ様。

 

 

「何か?」

『・・・帝国と龍山連合の大使館から連絡がありました』

 

 

ヘラス帝国と龍山連合の大使館から・・・?

こんな時間に、何でしょうか。

 

 

『国境において、小規模ながら新メセンブリーナ連合軍と武力衝突に及んだ模様です』

「何だと・・・」

「・・・それで、どうなりましたか?」

『武力衝突自体は数時間で終息しましたが、どうも新メセンブリーナ連合軍の方から先に攻撃を仕掛けてきたようで』

「・・・そうですか」

 

 

南北で同時に、先に手を出してくるとは思いませんでした。

 

 

『・・・恐れながら陛下、どうやら新連合側には和平の意思は無いようです』

「・・・・・・そうですか」

 

 

クルトおじ様の言葉に、頷きを返します。

・・・そうですか。

 




アリア:
アリアです。
今話は非常に難しいお話ばかりでしたね・・・。
端的に言えば、戦争の準備に関するお話ですね。
そして、冒頭で述べた募集に関してです。

今話で登場した新キャラ・アイテム・小道具は以下の通りです。
新キャラ:
ロバート・ブロートン大佐:伸様提供。
アドメトス・アラゴカストロ国防尚書:伸様提供。
ソネット・ワルツ:ATSW様提供。
テオドシウス・エリザベータ・フォン・グリルパルツァー外務尚書:リード様提供。

新アイテム・小道具:
京扇子「阿古女」:伸様提供。
群青色のドレス:伸様提供。
白と青のオーガンジードレス:リード様提供。
ローズレースブラウスワンピース:伊織様提案(Victorian maidenから出典)。
ガーディアン:司書様提供(元ネタ、天空の城ラピュタ)。
レアメタルマシーナ(企業):ルファイト様

イヤリング型魔法障壁特化デバイス:ライアー様提供。

アクアイヤリング:ルファイト様提供。
ありがとうございます!


アリア:
では次回は、戦争です。
・・・いや、違いますね・・・。
・・・戦争です、としか言えない・・・。
では、またお会いしましょう。

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