魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第3部第5話「旧世界騒乱・Ⅱ」

Side 千鶴

 

麻帆良大学生協が運営しているカフェテラスで、幼稚園教諭の資格試験の勉強をする。

夏休みの間は、これが私の日課になっているの。

もう保育士・・・保母になるための必要単位は取得しているのだけど、麻帆良大学は併設して幼稚園教諭の資格も取れるから・・・。

 

 

「お待たせ、ちづ姉!」

 

 

・・・その時、カフェ店員の制服を脱いで私服姿になった夏美ちゃんが、私の所までやってきた。

夏美ちゃんは、ここのカフェでアルバイトをしているの。

セミロングの赤毛に、うっすらと頬に残ったそばかすがチャーミングな女の子よ。

中学生以来の付き合いで、今でも仲の良い友人として一緒にいることが多いわね。

 

 

学部は違うけれど、同じ大学寮に住んでいる仲でもあるし。

それに今日は少し特別な日だから、こうして待ち合わせをしてるの。

 

 

「時間、大丈夫かなぁ?」

「大丈夫よ、まだ十分に時間はあるわ」

 

 

腕時計を確認しつつ不安そうにする夏美ちゃんに、私は微笑みながら答える。

ソワソワしながら時間を気にするその姿は、何と言うか・・・。

 

 

「・・・デートを楽しみにしてる乙女みたいねぇ」

「デッ・・・!? いや、違うよ!? ただ夕飯を一緒にどうかって話を先月手紙でしただけで!?」

 

 

大学生になるまで文通でお付き合いって言うのも、逆に凄いと思うけど。

まぁ・・・夏美ちゃんはムキになって「付き合ってません! 近況報告です!」って言うのでしょうけど。

傍から見てると、「ご馳走様」でしか無いのよねぇ。

 

 

「それにっ、ホラ・・・ちづ姉だって一緒じゃん!?」

「うふふ・・・大丈夫よ。良い感じの所で消えるから・・・」

「消えてどうするの!?」

「それはもちろん・・・」

「ごめん、言わないで!」

 

 

あらあら、すでにムキになっちゃってるわね。

こう言う所は、中学生の頃から変わらないわねぇ。

 

 

「でも、本当に私も一緒で良いのかしら?」

「も、もちろんだよ・・・何言ってんのさ・・・」

 

 

かすかに顔を赤くして、夏美ちゃんは俯きながら歩く。

うふふ・・・。

私はそんな夏美ちゃんの前に回ると、ムニッと頬を指で摘んだ。

 

 

「な、なんふんはよ~」

「ほらほら、そんな顔で迎えに行ったら、小太郎君もガッカリしちゃうわよ? せっかくの1年ぶりの再会なのに」

「む・・・」

 

 

頬から手を離して、パパパッ、と夏美ちゃんの衣服の乱れを直す。

うん、この間買ったブラウスもスカートも、良く似合ってるわ。

これなら、小太郎君もイチコロね♪

 

 

「・・・何か、変なこと考えて無い?」

「まさか・・・私が今まで、夏美ちゃんを困らせたことがある?」

「・・・・・・・・・」

 

 

ど、どうして沈黙するのかしら・・・。

 

 

「・・・ああ、そうだわ夏美ちゃん。私は自分の部屋でお料理の準備をしているから、小太郎君を迎えに行く前にお味噌と葱を買って来て貰っても良いかしら?」

「お味噌は良いけど・・・また葱?」

 

 

そう、葱よ。

何か、文句があるのかしら?

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

いえ、葱には文句は無いです。

葱を使うちづ姉にも・・・何も文句は無いです。

 

 

「まったくもー、ちづ姉は・・・」

 

 

最寄りのスーパーで白味噌と葱(刻み葱)を買った後、私は小太郎君との待ち合わせ場所に向かった。

麻帆良学園都市中央駅前の、交差点。

まぁ、交差点って程でも無いけど・・・とにかく、小太郎君を待つ。

うーん、時間的にそろそろ来ても良い頃だと思うんだけど。

 

 

・・・いや、別に楽しみにしてるとかじゃなくて、心配・・・そう、心配してるんだよ。

何せ、小太郎君は年下だし?

年上のお姉さんとしては、そう言う所で気を遣うわけだよ。

 

 

「・・・いやいや、何を考えてるのさ、私・・・」

 

 

今から来るのは小太郎君であって、そう、ただの小太郎君だよ。

私の記憶の中の小太郎君はアレだよ? 1年前に会った時のままだよ。

まだまだガキンチョで、乙女心の一つも理解できない・・・いやいやいや。

 

 

・・・まぁ、小太郎君は携帯電話を持ってないからね、今ドキ珍しいことに。

おかげで、未だに文通だし・・・いや、別に不満なわけじゃ無いんだけどさ。

もう少し、こう・・・。

 

 

「おい、行ってみようぜ!」

「何か、銀行のスプリンクラーが壊れたって・・・」

 

 

・・・?

何か、騒がしくなってるみたいだけど・・・。

 

 

「カーノジョッ」

「・・・」

「かーのじょってば」

「・・・え、私?」

 

 

その時、不意に男の人に声をかけられた。

正直、ぼうっと小太郎君を待ってたから―――――驚いた。

何か、こう・・・金髪のチャラチャラしてる人なんだけど。

 

 

「もしかして暇? 何なら俺とお茶しない?」

「へ・・・?」

 

 

・・・もしかして、ナンパ?

ど、どうしてこのタイミングで、私みたいな凡人を!?

 

 

「い、いえいえ、私、ちょっと人と待ち合わせしてて・・・」

「え、マジ? でもホラ、まだ来てないみたいだし、ちょっとだけ、ね?」

 

 

こ、こう言う時に限ってしつこいしさあぁ~~~~~!

ど、どうしよう、どう断れば良いかな・・・。

 

 

「ホラ、行こうぜ!」

「え、ちょ・・・!」

 

 

その人の手が、私に伸びてきて、私は反射的に下がろうとする。

その時・・・男の人の手を・・・誰かが掴んだ。

 

 

既視感。

 

 

いつだったか、同じような状況で助けてくれたことがあった。

同じ人に。

 

 

「ちょい待ちや、兄ちゃん」

 

 

1年前に比べて、ずっと伸びた身長・・・もう、私よりも高い。

タレ気味だった目は、大人っぽくキリッとしてて。

すっかり・・・大人の男の人で。

 

 

「俺のツレに何、手ぇ出しとんねん」

 

 

それでも、快活な笑顔はそのまま。

そんな小太郎君が・・・そこにいた。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「いやー、相変わらず夏美ねーちゃんは、絡まれるのが好きなんやなぇ」

「べ、別に好きで絡まれてるわけじゃないよ!」

 

 

ナンパ野郎を適当にボコした後(いや、追い払っただけやで?)、俺は夏美ねーちゃんの荷物を持って、夏美ねーちゃんの部屋に向かっとった。

俺の隣には、夏美ねーちゃんがおる。

 

 

しっかし、夏美ねーちゃん、歩くの遅いわ~。

合わせるのが案外、難しいわ。

せやかて、男が先々女を置いて歩いたらあかんしな。

ま、ゆっくり行こか・・・。

 

 

「そいで? 夏美ねーちゃんはこの1年、何をしとったんや?」

「わ、私? 私は・・・まぁ、大学でも演劇部で頑張ってるよ」

「さよかー、へへ、やっぱ脇役か?」

「う、うるさいな! 良いんだよ私は、脇役で! そう言う小太郎君は、何をしてたの?」

「俺か? 俺はな、あ~」

 

 

あーっと、夏美ねーちゃんは一般人やからな。

向こう側の話はしたらあかんから・・・話せる範囲で、えー・・・そうや!

 

 

「半年前に、中国の廬山に行ってきたんやけどな、そこで古菲のねーちゃんに会うたんや!」

「へ? 古菲って・・・くーちゃん?」

「せや、何でも、地元の道場継いで、副業でガイドやってるらしくてな? 会うたんはホンマ偶然やったんやけど、案内してくれてなぁ、滝が凄かったで」

「ふ、ふーん・・・」

 

 

・・・む、むむ?

な、何や、夏美ねーちゃんの機嫌が急に・・・。

 

 

「・・・くーちゃんに会いに、わざわざ中国まで行ったんだ」

「え・・・いや! 偶然やて言うたやん! ちょっと修業の一環としてやな!?」

「ふーん・・・」

 

 

あ、あかん、ミスった。

話題の選択をミスった・・・!

ど、どないしよーかぁちゃん、俺、ミスってもーた・・・!

 

 

『落ち着くんや小太郎、まだ挽回のチャンスはあるえ!』

 

 

せ、せやな、まだ始まったばかりや。

・・・何が始まるんかは、まったくわからんけどな。

 

 

「あ、あれ・・・?」

「・・・お? 夏美ねーちゃん、どうかしたんか?」

「い、いや・・・何か、急に・・・」

 

 

夏美ねーちゃんが、こめかみを押さえて急にフラフラしだした。

な、何や、熱中症か何かか?

まぁ、駅からかなり歩いたからな、女には辛かったかもしれん、俺のミスやな。

あー、とにかく、どっかで休ませた方がええかな・・・。

 

 

「あー・・・あ、あそこに公園があるわ。そこのベンチに座るか?」

「う、うん・・・ごめんね」

「いや、ええって」

 

 

人気の無い公園に入って、夏美ねーちゃんをベンチに座らせる。

んー、何や顔色悪いな、やっぱ。

 

 

「ちょい待っとり、冷たいモンでも買うて・・・」

 

 

最後まで言い切る前に、喋るのを止める。

何や・・・ピリピリするわ。

今は隠しとるけど、耳があったら確実に反応しとるわ。

 

 

 

「彼女、気分でも悪いんですか?」

 

 

 

振り向いた先に、金髪に青い目の「男」。

短いザンバラの髪に、何や光の無い、気持ちの悪い目をした「にーちゃん」や。

年は多分、俺と同じくらいやろ。

 

 

「・・・何や、『にーちゃん』」

 

 

軽く気を当ててみても、小揺るぎもせん。

・・・この「にーちゃん」、強いな。

 

 

「ナツミ・ムラカミさん・・・襲わせて頂きます」

 

 

しかも、敵決定やな。

俺がおる前で・・・夏美ねーちゃんに手が出せると、思うとるんか?

 

 

アア?

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「ああ、はい・・・わかりました。では、そちらで対応してください、シャークティー先生」

 

 

関東魔法協会と関西呪術協会が統合されて以来、麻帆良への侵入者なんて滅多にいない。

旧世界連合の中心都市になってからは、むしろ海外の魔法関係組織のスパイの方が多くなったけど。

そう言うのは、表向きは普通の人間として麻帆良に入って来るから、以前のような夜の警備で必ず戦闘が起こる、みたいなことは減った。

 

 

だから今回みたいなタレコミは、本当に意外だった。

まぁ、情報提供者のことは全くわからないんだけどね。

 

 

「そうは言っても、無視はできないってね・・・」

 

 

今日に限って、詠春さんは京都の方に出張なんだもんなぁ。

四国の方で何か問題があったとか・・・四国妖怪がどうのって言ってたかな?

まぁ・・・とにかく詠春さんがいない場合は、僕らで何とかしないといけないわけで。

と言うか、いつの間にか僕が№2になってるわけで・・・。

 

 

麻帆良内で確認された侵入者は、今の所3人。

内1人は、すでにシャークティー先生の方で対応を始めてくれてる。

何でも、一般人・・・元3-Aメンバーらしい。

 

 

「3-Aメンバーは、いろんな所で活躍してる分、目立つしね・・・」

 

 

プロの漫画家になったり、麻帆良大学有数のバンドを組んだり・・・。

まぁ、僕達としても最も魔法に近付いた一般人のクラスとして、注意はしてるんだけどね。

 

 

「・・・と言うわけで、ガンドルフィーニ先生、刀子先生、お願いします」

「うむ」

「旧関西呪術協会のメンバーとの連携は、どうにか」

 

 

旧関西の人達とも、5年間一緒に仕事をしたおかげである程度は打ち解けてると思う。

結界とかは向こうの方が上手だしね。

 

 

「世界樹広場近くの公園の一つで、旧関西の構成員が敵と遭遇したとの信号がありました」

 

 

発信者の名前を見た時は、正直驚いたけど。

ネットの方のタレコミの情報の正しさが証明されたと言う意味もあるわけだけど。

まぁ・・・そんなわけで。

 

 

「久々の現場勤務かぁ、ドキドキしますよ」

「瀬流彦先生は、書類と無二の親友ですからな」

「やめてくださいよ、本当に・・・」

 

 

学園長職に就いて、5年。

未だに、仕事が好きと言う気持ちが理解できない。

いや、僕だって今の仕事が嫌いなわけじゃないよ?

 

 

でも・・・ねぇ?

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

何だろう・・・凄く、頭が痛い。

さっきまで、全然、何ともなかったのに・・・貧血かな・・・。

何と言うか、酷い目眩がする・・・。

 

 

「だぁらっしゃあっ!」

「おっと危ない」

 

 

私の目の前で、小太郎君がまた喧嘩してる。

初めて会った時から・・・ずっとそうだったように。

いつも、喧嘩ばっかり。

 

 

さっきだって、ナンパ男相手に喧嘩してた。

・・・まぁ、喧嘩って言えるかは微妙だけど。

 

 

「・・・このっ、てめぇっ、ヤル気あんのかっ!?」

「もちろん、ありますよ」

 

 

でも今は、女の子相手に喧嘩してる。

それは、ダメだよ。

 

 

・・・良くわかんないけど、ダメだと思う。

小太郎君が殴りかかっても、ヒラリヒラリと避けられるばかりで、喧嘩になってるかはわかんないけど。

でも女の子相手に乱暴なことしちゃ、ダメだよ。

いつもは、言わなくてもちゃんと、女の子に乱暴なことはしないのに。

 

 

「おいコラ、てめぇ! それでも男か!?」

「見た目通りですよ」

「舐めやがって・・・!」

 

 

男の子・・・何、言ってるの、小太郎君。

その子、どう見ても女の子じゃんか。

金色の髪に、青い目の・・・外国人の、女の子。

 

 

「チョロチョロ逃げやがって・・・男やったら、正面からヤらんかい!」

「いえ、私は戦闘能力とか持ってないんで」

 

 

やっぱり、男の子だと思ってる!

どう言うこと・・・?

 

 

「ほいっと」

 

 

ブンッ・・・と、物凄い勢いで小太郎君が殴りかかるのと同時に、女の子がジャンプした。

足の裏を後ろにあった木の枝に引っ掛けて、宙ぶらりんな体勢になる。

そして・・・私を見た。

 

 

「ふーむ? そちらのムラカミさんは、術に対して耐性があるんですかね?」

「ああ?」

「いえいえ、どうも私の術がイマイチ効果が無いので・・・ふむ、ゲート職員には効いたんですけど」

「・・・てめぇっ!!」

「おおっと?」

 

 

ズンッ・・・!

小太郎君の拳が、女の子が足をかけている木の幹にめり込んだ。

ビギッ・・・と鈍い嫌な音がして、木の幹に大きな罅が入る。

どんだけの力で殴ったのよ・・・。

 

 

「・・・夏美に、何しやがった・・・?」

 

 

・・・へ・・・?

 

 

「別に何も、身体の害になるようなことは何も」

「ふざけとんのか?」

「ふむ、では言い変えましょう・・・」

 

 

女の子が、自分の胸に手を置いた。

それから、薄い・・・力の無い笑みを浮かべる。

何だろう・・・とても、存在感の薄い笑顔だった。

 

 

「私を倒せば、何も問題ありませんよ」

 

 

ギシッ・・・と、空気が張り詰める。

息が詰まりそうなくらい、呼吸するのが辛い。

ううん、それ以上に・・・。

 

 

いつも、飄々としてる小太郎君。

なんだかんだで、私には笑いかけてくれる、小太郎君の・・・。

小太郎君の、そんな怖い顔。

見たく、無いよ・・・。

 

 

「だ――――――」

 

 

だから。

 

 

 

「ダメぇ――――――――っ、小太郎君ッ!!」

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「――――――――――――――ッッ!?」

 

 

一瞬、何が起こったんかわからへんかった。

せやから、順を追って確認せなあかん。

 

 

まず、俺。

俺は、目の前で夏美ねーちゃんに術をかけた言う「にーちゃん」に渾身の一撃を叩きこもうとしとった所や。

まぁ、夏美ねーちゃんの前やから狗神は出せへんし、全力には程遠いけどな。

 

 

そいで、相手の「にーちゃん」。

俺の攻撃を避けてばっかで変な奴やと思ったが・・・どうやら術師タイプ、接近戦がでけへん奴やったらしいな。

今も、俺の拳についてこれとるとは思えへん反応や。

ガードも回避も、する様子は無かった。

 

 

最後に、夏美ねーちゃんや。

さっきまで、少し離れたベンチで気分悪そうにしとったはずやねんけど。

今、俺の目の前に飛び出して・・・。

・・・敵の「にーちゃん」を、庇って――――――――――――って、アホォッ!!

 

 

「ぬっ・・・おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっっ!?」

 

 

ザンッ、と瞬動かけた身体を留めるために、右足で地面を削る勢いでブレーキをかける。

それから、拳に込めた気を全部引っ込めて―――――しかも風圧すら出ぇへんレベルにまで削がなあかん!

ヤバいヤバいヤバいヤバ――――――――――――くないっ!

―――――止める!!

 

 

ガチッ、と歯ぁ食いしばって、負荷に耐える。

ブシッ・・・ブチンッ・・・身体の中で嫌な音が響く。

拳の皮が破れた音と、筋肉の線が一本、切れた音。

そこまでやって・・・どうにか。

 

 

「・・・っ」

 

 

止まった。

夏美ねーちゃんの顔の直前で止まって、夏美ねーちゃんの前髪が軽く、風圧で揺れた。

あ、あっぶなぁ・・・!

 

 

「・・・このっ・・・アホォッ! 急に飛び出して・・・危ないやろが!?」

「バカなのはそっちでしょ!?」

「いい!?」

 

 

何故か、物凄い剣幕で怒鳴り返された。

え、何で!? 今のは夏美ねーちゃんが悪いやろ!?

 

 

「ちゃんと見なさい! 女の子相手に喧嘩しちゃ、ダメでしょ!?」

「はぁ? 女って、そいつ・・・!?」

 

 

どう見たって「にーちゃん」やん・・・と思って、見ると。

・・・・・・・・・ねーちゃんやんけ。

 

 

「あら・・・バレましたか」

「お、お前・・・女か」

「他人に指摘されたら解けちゃうくらいの、ささやかな力でしてね」

 

 

なんつーか、悪戯をバラされた子供みたいなツラで、そのねーちゃんはそんなことを言うた。

 

 

「私の脳に移植された情報では、貴方は女性は殴らないと聞いたので」

 

 

いや、それでも自分を男やと見せる意味がわからん。

わからんけど・・・。

俺は危うく、ポリシー曲げて女を殴る所やったらしい。

・・・まぁ、女って方が術の結果やったら笑えへんけどな。

 

 

まぁ、せやったら・・・悪いんは俺やな。

夏美ねーちゃんには感謝せなな・・・って。

 

 

「う・・・」

「夏美ねーちゃん!?」

 

 

ガクン、と膝をついた夏美ねーちゃんを抱き止める。

顔色が悪くて・・・少し、苦しそうやった。

 

 

「あらら・・・気絶しちゃいましたか、まぁ、一般人には負荷が強い結界ですけど」

「てめ・・・」

「どうしましょうね、その子を庇いながら戦えます?」

「・・・へっ」

 

 

夏美ねーちゃんを背中に背負って、俺は笑う。

これくらい、大したことないわ。

いつだって・・・。

 

 

男の戦場は、いつだって女の前や。

 

 

まぁ、そうは言ってもキツいな。

いくらこのねーちゃんに戦闘能力が無いて言うても、隠し玉ぐらいあるやろ。

 

 

「ふむ・・・目的は一応、達成しましたし・・・逃げるのも手ですね」

「あん? どう言うことや・・・狙いは夏美ねーちゃんやないんか」

「まぁ・・・『襲った』と言う事実が大切なのであって、別に誘拐はする気はないんですよ」

「はぁ・・・?」

 

 

また、意味のわからんことを・・・。

 

 

「そう言うわけなので、逃げさせて頂きます」

「いやぁ・・・それは困るなぁ」

 

 

俺でも、夏美ねーちゃんでも、目の前の術師のねーちゃんでも無い声が響く。

それに・・・俺は、笑みを浮かべる。

 

 

「遅かったやん、瀬流彦はん」

「いやぁ、これでも急いだ方なんだけど・・・」

 

 

ギシリ、と、術師のねーちゃんを光の縄みたいなんが縛り上げた。

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「ふむ、近衛詠春がいない今、簡単に逃げられると思ったんですけどね」

「いやぁ、それは無いんじゃないかなぁ・・・この街に限って」

 

 

不審者の女の子(凄い言い方だ・・・)の言葉に、僕は苦笑いを浮かべる。

自慢じゃないけど、旧関西の技術とハカセさんの技術でセキュリティのレベルは5年前の軽く4倍にはなってると思うよ。

 

 

これで、詠春さんがいなかったんで侵入者を取り逃がしましたぁ、とかなったら、僕達いる意味が無いよね。

ただでさえ査定が厳しいんだから、無能扱いは勘弁してほしいな。

いろいろな意味で、必死なんだよ。

 

 

「不審な動きを見せれば、斬ります」

 

 

女の子の首筋には、刀子先生の刀が突き付けられている。

少しでも動けば、皮が切れるほどに・・・。

ちなみに、刀子先生は去年の6月に一般人の彼氏さんと再婚した。

そのおかげか、ここ最近は凄く機嫌が良いんだよね。

 

 

「下手な動きは見せない方が良いよ、その人だけじゃなく、この公園はもう魔法理論的に隔離されている

からね」

 

 

正確には、陰陽術の結界なんだけどね。

ガンドルフィーニ先生の指揮で、旧関西の陰陽師達が動いている。

・・・ここ5年間のガンドルフィーニ先生の頑張りが透けて見える話だよね。

本当に体当たりって言うか、3回くらい本気で殴り合ってたからね、本当に。

 

 

「・・・別にそこまで大仰なことをしなくても、抵抗なんてしませんよ」

 

 

僕達が拍子抜けする程あっさりと、女の子はそう言った。

まぁ、それをまるきり信じる気が毛頭ないけど・・・意外といえば、意外だった。

僕の後ろで一般人・・・えーと、元3-Aの・・・確か、村上、さん?

村上さんを背負った小太郎君も、どこか胡散臭そうに女の子を見てる。

まぁ、そうなるよね。

 

 

「どう言うつもりや、お前・・・」

「別に何も。聞かれたことには正直に答えますし、聞かれもしないこともベラベラ喋りますよ。と言うか、半分はそのために来たわけですし」

 

 

・・・意味がわからないな。

 

 

「・・・もってせいぜい、あと3時間ですし」

 

 

・・・本当に、意味がわからない。

何が、したいんだろ・・・この女の子。

刀子先生と視線を交わすと、ゆっくりと頷かれた。

まぁ、とりあえずは連行・・・かな。

 

 

この女の子・・・あ、いつまでも女の子じゃ不便だよね。

えーと・・・。

 

 

「とりあえず、名前は?」

「名前?」

 

 

その時、その子が浮かべた表情を・・・何て表現すれば良いんだろう。

強いて言うのなら、本当に・・・本当に、答えに困った。

そんな、表情だった。

 

 

「・・・そんな素敵な物を貰ったことはありません。なので好きにお呼びください」

「は?」

「強いて言えば、T-11です。短い間ですが、どうぞよろしく」

 

 

その子は、そう言って・・・ニコリ、と。

光の無い目で、場違いな程に可愛らしく、笑った。

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

「はえ・・・?」

 

 

目が覚めた時、あたりはもう、真っ暗だった。

人生お先真っ暗とか、そう言う話じゃなくて・・・普通に、夜だった。

・・・はえ?

 

 

えっと、私、寝てた・・・?

でも、不思議なことに私は移動してるって言うか、歩いて・・・へ?

 

 

「うえええぇぇっ!?」

「うお!?」

 

 

私が耳元で大きな声を出したからか、小太郎君が驚いたような声を上げる。

いや、ようなって言うか、本気で驚いたんだと思うけど。

う、ううん、重要な問題はそこじゃない・・・。

 

 

何で私は、小太郎君に「おんぶ」されてるの!?

 

 

え、ちょ、わ、た・・・!?

お、下ろして下ろして・・・!

 

 

「え、うお!? ちょ、夏美ねーちゃん、何で暴れんねや!?」

「う、うっさい! 下ろしてよエッチ!」

「エッ・・・はぁ!?」

「良いから、下ろして―――――――!」

「いや、危なっ、危ないってオイ!?」

 

 

その後、数分ほど押し問答を繰り返した結果、何とか地面に下ろして貰えました。

その結果、足を捻ってしまいました。

・・・あう・・・私のドジ・・・。

 

 

「・・・あーもー、何してんねや、もー・・・」

「ご、ごめん・・・」

 

 

そして、まさかの「おんぶ」続行・・・。

大学生になって「おんぶ」とか、冗談抜きで恥ずかしいんですけど。

す、スカートの下に短パン履いてて良かった。

 

 

「・・・で、夏美ねーちゃんの部屋はどっちにあんねや?」

「・・・わからずに歩いてたの?」

「いや、大学の寮の大体の場所は聞いてんねんけど・・・」

「誰に?」

「瀬・・・い、いや、何でもええやん」

 

 

・・・何か、誤魔化された気もするけど。

 

 

「・・・で、どうして私は寝てたの・・・?」

「え? あー・・・ほら、夏美ねーちゃん、熱中症で倒れてもーたんやって」

「熱中症? もう9月で・・・まぁ、無くは無いのかな・・・?」

「実際に倒れてもーたんやから、あるんやろ」

 

 

そうなのかな・・・?

何か、もっと別なことがあったような気がするんだけど。

・・・・・・まぁ、いっか。

 

 

・・・あ。

その時、私は恐ろしいことに気が付いた。

 

 

「・・・どないかしたんか?」

「い、いや・・・ね、ねぇ、小太郎君、もう少しゆっくり行かない・・・?」

「何でや?」

 

 

普段なら恥ずかしくて言えないようなことも、今なら言える。

だって・・・。

 

 

「・・・ちづ姉が、ずっと待っててくれてるの・・・」

「・・・・・・・・・と、遠回りして行こか」

「・・・・・・・・・うん」

 

 

そんなことを話しながら、私は・・・。

小太郎君の首に回した腕に、少しだけ力をこめた。

 




小太郎:
おう、小太郎や・・・今回は俺の話やったな!
そうは言うても、情けない内容やったけどな。
もっと強うならなな、身体や技や無い、もっと別の意味でも強く。
女に心配されへんで良いような男に、俺はなるで!


小太郎:
次回は、どうも3-Aメンバーは出ぇへんらしいけど。
・・・ん、いや、出るんか・・・?
あのねーちゃんは、立ち位置が結構微妙やからな・・・。
ほな、またな!

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