魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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注意!
魔法世界と旧世界には、一ヵ月程度の時間のズレがあります!
第2部終了時点で一ヵ月~二カ月のズレがあり、その時点でオスティアのゲートを繋いだためです。
現在はそれを多少修復したと考えて・・・一ヵ月のズレがある物として設定されています。
なので、魔法世界が10月の場合、旧世界は9月です。
それをご了承頂いた上で、どうぞ!


第3部第4話「旧世界騒乱・Ⅰ」

Side 楓

 

・・・9月。

高校生や中学生は新学期が始まっている頃でござるが、大学生はまだ夏休みでござる。

つまり、拙者のことでござるな。

 

 

「今日も熱いよね~・・・」

「本当、熱いです~・・・」

「これこれ、せっかくのかき氷が溶けてしまうでござるよ」

 

 

拙者の目の前でかき氷を前にダレているのは、風香殿と史伽殿。

中学生時代からの付き合いでござるが、昔と変わらず、幼い身体付きの2人でござる。

とは言え、流石に中学生程度の体格には成長しているでござるが。

・・・む? 言ってることがおかしいでござるな。

 

 

どんな縁があったかはわからぬが、高校のクラスも同じ。

そして今は、同じ麻帆良大学文学部の生徒でござる。

ゼミも、同じ・・・凄まじい縁でござるな。

そのおかげと言うか何と言うか、さんぽ部は未だ健在でござる。

 

 

「今日のさんぽ部の活動は、このかき氷を食べること~・・・」

「お姉ちゃん、それは流石にダレすぎじゃあ・・・」

「なはは、まぁ、熱中症で倒れるよりは良いでござるよ」

 

 

と言うわけで今日のさんぽ部の活動は、このかき氷屋で終わったでござる。

特に課題も無いでござるし、後は修業でもして過ごすでござるかな。

 

 

「そいじゃね、楓姉~」

「次は3日後、映画館でね~・・・」

「あいあい、わかったでござるよ」

 

 

3日後に映画館に行く約束をして、2人と別れる。

・・・確実に夏バテのようでござるが、大丈夫でござるかな?

 

 

「・・・ふぅ、では、山に戻って修業でもするでござるかな」

 

 

そう呟いて、何とは無しに周囲を見渡す。

麻帆良学園の駅前、その交差点は、相変わらずの賑わいでござる。

・・・ふむ、ではまずは、この人ゴミの間隙を縫って駆けてみるで・・・。

 

 

「・・・長瀬さん・・・?」

「おろ?」

 

 

その時、不意に声をかけられたでござる。

誰かと思って振り向いてみれば、そこにはどこか見覚えのあるような女性が。

長い黒髪を腰のあたりで二つくくりにした、スレンダーな身体付きの女性。

 

 

お・・・ろ?

記憶にある姿より多少、大人っぽくなっているでござるが・・・。

 

 

「あー・・・綾瀬殿?」

「そうです・・・高校で別のクラスになって以来ですから・・・5年ぶりくらいですか?」

「それくらいはするでござるかなー、いや、懐かしい」

 

 

やはり、綾瀬殿でござったか。

中学校のクラスメートの大半とは、高校の時点でクラスがバラけてしまったでござるからな。

風香殿達のような一部を除いて、ほとんどは中学の卒業式以来、時間が経つにつれて連絡も取らなくなっていたでござる。

 

 

「先程まで、風香殿と史伽殿もいたでござるが・・・」

「えっと・・・鳴滝さん、ですか? 懐かしい名前です・・・」

 

 

綾瀬殿が、懐かしそうに目を細める。

むー、今から呼び戻すのもアレでござるし・・・。

その時、ふと綾瀬殿が持っている茶封筒が目に入ったでござる。

・・・英国留学?

 

 

「・・・綾瀬殿は、留学するのでござるか?」

「あ・・・はい、冬に行く予定で・・・」

 

 

ほう、冬に。

イギリスとは、何故か懐かしい響きでござるな。

綾瀬殿は、少し逡巡した後、不安げに拙者に聞いてきたでござる。

 

 

「あの・・・長瀬さんは、のどかがどうなったか、知りませんか?」

「・・・宮崎殿でござるか?」

 

 

はて・・・何の話でござろう。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

5年前の、中学の卒業式。

あの時から、ずっと気になっていたです。

 

 

高校生になって、大学生になって・・・。

それでも、のどかはイギリスから帰って来ない。

帰って来ないばかりか、異常なことにハルナですら気にもしていない。

気にしていたとしても、「あの子、元気かなー」と言うくらい。

 

 

「おかしいとは・・・思わないですか?」

「まぁ・・・そうでござるなぁ、言われてみれば」

 

 

駅から少し歩いた所にある、私の行きつけの喫茶店。

そこで、長瀬さんとお茶してるです。

ハルナ以外の元3-Aメンバーに出会うのは、本当に久しぶりです。

 

 

釘宮さんとか・・・麻帆良大学でバンドを組んだりして目立ってる人を見かけたりすることはあるですが、こうして面と向かって話すのは、久しぶりです。

 

 

「それで、綾瀬殿はそれを確かめに短期留学を?」

「はいです。のどかが通っているはずの向こうの学校に・・・」

「うーむ、なかなかの行動力でござるなぁ」

「そんな・・・本当はもっと早く、確かめに行こうと思ったです」

「いやいや、謙遜なさるな」

 

 

コーヒーを飲みながら、長瀬さんはそう言ってくれたです。

中学時代には、あまり話したことは無かったですが・・・。

 

 

「しかし、そうは言っても・・・拙者も宮崎殿のことは、よく知らないでござる」

「そう、ですか・・・」

「力になれず、申し訳ないでござる」

「いえ・・・話を聞いてくれただけでも、ありがたかったです」

 

 

実際、少し心が軽くなった気もするです。

あの頃のことを話せる人間は、本当に限られているですから・・・。

ハルナは、プロの漫画家としてようやく軌道に乗って来た所で、それどころでは無いですから。

何か、天才魔法少年が女子高に来る話とか何とか・・・。

 

 

「・・・ぬ?」

「どうかしたです?」

「いや・・・何でも無いでござるよ。気のせいでござった」

「・・・?」

 

 

何のことかはわからないですが・・・。

まぁ、良いです。

 

 

その後は、普通に世間話や近況報告などをしたです。

同じ麻帆良大学だったことには驚いたですが、学部が違うので、滅多に会わないのも仕方が無いです。

そして、日も暮れ始めた夕方、喫茶店を出て・・・。

 

 

「綾瀬殿は、駅でござるか?」

「いえ、大学の寮です」

「送って行くでござるよ」

「いえ、そんな・・・悪いです」

「何の、最近は何かと物騒でござるからな・・・婦女子の一人歩きは危ないでござるよ」

 

 

・・・気のせいで無ければ、長瀬さんも婦女子だと思うですが。

まぁ、中学生の時から四天王とか言われていた気もするですね。

 

 

まぁ、せっかくですし、送られることになったです。

でも、その後・・・5分もしない内に。

 

 

「・・・尾けられているでござる・・・」

「・・・え・・・?」

 

 

長瀬さんに、そう言われたです。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

「あー、今日も夕日が綺麗だねっとー」

 

 

礼拝堂の雨漏りを直すと言う名目の下、私は礼拝堂の屋根の上にいる。

ここは結構高台にあるから、一番高い尖塔の傍とかに立ってると、麻帆良の街並みが良く見えたりする。

あー、今日も良い夕日だー、きっと明日も晴れだねこりゃ。

 

 

「ミソラ・・・またシスターに怒られルゾ」

「いーの、いーの・・・ココネも学校終わったし、大学も陸上部も休みだし、真面目に仕事なんてやってられないよーっと」

 

 

屋根の修理そっちのけで、ココネと一緒にスポーツ飲料を飲みながら、麻帆良の夕日を眺める。

平和だねぇ・・・本当に平和だよ。

この5年、本当に平和そのもの。

普通に高校を卒業して、普通に大学に進学した。

 

 

シスターとしての仕事については、シスターシャークティーは厳しいまんま。

でも魔法生徒としての私に対しては、前みたいに無理に指導しようとはしないんだよね。

5年前のなんやかんやで、思う所があったのかもね。

 

 

「美空! 雨漏りの修理は終わったのですか!? まさかまたサボっているのではないでしょうね!」

「うわったった・・・った!?」

「ホラ・・・」

 

 

下の方から、シスターの怒鳴る声が聞こえた。

隣のココネが、呆れたように私を見ている・・・たはは・・・。

 

 

5年前、あんなに小さかったココネは、ぐんと背が伸びた。

5年前の私より、少し高いと思う。

もう、スラッ・・・とシスター服から美脚なんて晒しちゃって、胸も若干、私より・・・。

 

 

「美空!!」

「はいっ、はいはーいっ、わかってますよ!」

 

 

はぁ・・・しゃーない、働きますかー。

と、思った矢先・・・ココネが私の服の裾を引っ張った。

 

 

「なーに、ココネ。私は労働に従事しないといけなくなったんだけど・・・」

「アレ・・・」

「へ・・・?」

 

 

ココネが指で示した先には・・・どこ?

 

 

「あそこ・・・」

「えー・・・目に魔力を集中・・・っと」

 

 

視力を強化して、指差された方を見る。

すると、そこには・・・。

 

 

麻帆良の街の屋根の上を飛び回る、誰かの姿だった。

 

 

・・・誰かって言うか、アレって、確か。

・・・元3-A組は要注意リストに入ってるから、まだ顔と名前を一致できないって言うのは、無い。

だから・・・。

 

 

「何やってんのさ・・・長瀬さん」

 

 

呆然と、私は呟いた。

あれ・・・と言うか。

こっちに近付いて来てない!?

 

 

 

 

 

Side 楓

 

綾瀬殿を抱えて、駆ける。

最初は手を引いて走っていたのでござるが、状況が変わりそうに無かったのと、何より綾瀬殿の体力が続かないので、両手で抱き抱えるように駆けるようになったでござる。

 

 

衆目の目を集めてしまうでござるが、仕方がないでござる。

これでも、拙者達を追いかけてくる者の存在は遠ざかりもせず、近付きもしてこないのでござるから。

つまり、振り切れないでござるよ。

拙者の脚についてくるとは・・・ただ者では無いでござるな。

 

 

「な、長瀬さっ、屋根、屋根の上です!?」

「口を閉じているでござる、舌を噛むでござるよ!」

 

 

狙いはどちらでござろうか・・・拙者が狙いの場合は、綾瀬殿をどこかに置いて行くと言う手段もとれるでござるが、綾瀬殿が狙いだった場合、どうにもならないでござる。

流石に、かつての級友を置き去りにはできないでござるし。

 

 

人ゴミに紛れて逃げるのが不可能と悟り、屋根の上を跳ぶ。

いくつかの建物を飛び越えた後・・・『縮地无彊』!

超長距離瞬動術・・・この5年で完璧に物にしたでござる、蹴った建物の壁に罅一つ入れることなく。

 

 

「ひゃあっ!?」

 

 

再び空中で体勢を変え、今度は下へ。

綾瀬殿の悲鳴を耳にしつつ、狭い路地裏へ着地、気配を消して隠れるでござる。

麻帆良の小さな銀行の裏でござるな。

 

 

・・・撒いたか・・・?

今のレベルの移動を見切られてしまうとなると、今の拙者では、綾瀬殿を守りながらは少々・・・。

 

 

「な、長瀬さん・・・貴方は、と言うか、尾行って・・・ストーカーです?」

「しっ、静かに・・・説明は後でござる」

「後でも何も・・・もがっ」

 

 

説明したいのは山々でござるが、拙者としてもイマイチ状況を掴めていないでござる。

綾瀬殿の口を軽く押さえつつ、周囲を探る・・・。

 

 

ドーン、ドドドドド・・・♪

 

 

・・・その時、拙者の携帯電話がゴッドファ○ザーのテーマを流し始めたでござる。

ま、マナーモードにしていたはずでござるが、いや今は不味い!

 

 

そう思い、携帯電話を取り出して画面を見ると・・・「非通知」。

・・・この展開では、割とホラーな感じでござるな。

しかし、無関係とも思えんでござるが。

 

 

「で、電話です?」

「・・・の、ようでござるが」

 

 

口が自由になった綾瀬殿の言葉に、曖昧に頷くでござる。

・・・いずれにせよ、このまま鳴らし続けるわけにもいかぬ。

そう思い、とりあえず出てみることに。

 

 

「・・・もしも『長瀬か?』・・・誰でござる?」

 

 

相手は、奇妙な声でござった。

おそらくは、変声機か何かを使っているでござるな・・・そんな声。

 

 

『私が誰かはどうでも良い・・・まぁ、そっちの状況は掴んでるつもりだ』

「ぬ・・・?」

『単刀直入に言うぜ、安全な場所に誘導してやる。私の指示通りに動いてくれ』

「・・・・・・信じられぬでござるな」

『まー、そうだろうな。けどよ・・・』

 

 

その時、路地裏の大通りへ抜ける側の道に、男が現れたでござる。

麻帆良でも学園祭でしか見ないような、薄汚れたローブを着た男。

浅葱色の髪に、同じ色の瞳。

スラリとした体躯に、造り物のような顔にたたえている、薄い笑み。

その男は、手に持っている数枚の紙と、拙者達を見比べると。

 

 

「・・・カエデ・ナガセと・・・ユエ・アヤセ・・・で、合ってるかな?」

「・・・だ、誰です・・・?」

「女王の、生徒・・・悪いけど、襲わせてもらうよ」

「な・・・!?」

 

 

あまりと言えばあまりの言葉に、綾瀬殿が絶句する。

それに、この男・・・。

 

 

『けどよ・・・選択肢は、ねーんじゃねーか?』

 

 

この男・・・できる!

事情は飲み込めぬが、確実に常人では無い。

拙者の実力では、綾瀬殿を守りながらは、逃げ切れぬ・・・!

 

 

『だから、私が逃がしてやるよ・・・長瀬。クラスメートのよしみでな』

 

 

・・・クラスメート?

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

浅葱色の髪の男性が、ゆっくりと両手を広げて近付いて来るです。

襲う・・・とは、つまり、そう言うことでしょうか・・・完璧にストーカーです。

 

 

「・・・綾瀬殿!」

 

 

長瀬さんに急に呼ばれて、携帯電話を押し付けられるです。

な、何です・・!?

耳に押し付けられたそれを、片手で持つと・・・。

 

 

『綾瀬か?』

「だ、誰です?」

『もうすぐそこの銀行から人がわんさか出てくる・・・それに乗じて、逃げな』

「は!?」

 

 

い、意味がわからないです。

そう言おうとした、次の瞬間。

 

 

浅葱色の髪の男性と私達との間にある扉から、銀行員らしき人達がゾロゾロ・・・嘘!?

全員が、何故かぐっしょりと濡れていて・・・。

私達と浅葱色の髪の男性の間に、人の壁ができます。

 

 

「ちょ・・・どう言うことだよ!」

「知らないわよ、スプリンクラーが急に・・・」

 

 

な、え・・・スプリンクラー?

何の話・・・と混乱する中、長瀬さんが再び私を抱え上げ、壁を蹴って再び屋根の上へ。

と言うか、この状況はいったい・・・!?

長瀬さんは中学の頃から常人離れした身体能力を発揮していたですが、ここまでとは。

これでは、まるで・・・。

 

 

「な、長瀬さん、貴方は・・・『詮索は後だぜ、綾瀬』・・・またですか!」

 

 

携帯電話から響く声に、そう叫びます。

せめて、状況を説明してほしい物です!

 

 

『そのまま500m直進した後、交差点の真ん中に降りろ』

「はぁ!? 交差点の真ん中って・・・車が!」

『大丈夫だ、車は通らない』

「そこの交差点でござるか!?」

「ちょ、長瀬さん、待って――――――」

 

 

ハンズフリー、音量最大。

私は何も操作をしていないのに、携帯電話が勝手に・・・いえ、それだけでなく。

街の各所の電光掲示板に、「500メートル先の交差点へ」と・・・これは、いったい?

 

 

そうこうしている内に、交差点の真ん中に降り立ちます。

車は・・・走っていません。

全部の信号が、赤に・・・こんなの、あり得ないです!

 

 

『あり得ないなんて・・・あり得ないってね。次、さらに直進300、右折200、直進150』

 

 

矢継ぎ早に出される指示に、長瀬さんは忠実に従うです。

私は、振り回されるばかりで・・・後ろを見れば、先程の浅葱色の髪の男性が、交差点の真ん中に立っていました。

ただし、今度は車がブンブン走っていて・・・立ち往生しているです。

 

 

『あいつはたぶん、一般人には被害を出さない』

「一般人て・・・じゃあ、あの人は何なんです!?」

『説明は後って言ったろ?』

「今・・・!」

 

 

その後も、凄まじい指示が繰り返されました。

電車が通る直前の踏切を通過させられたり(4秒後に電車が通りました)、バスの上に乗れと言われたり(発車時刻ピッタリでした)・・・どこのアクションスターですか。

無茶苦茶です・・・。

 

 

でも、私。

 

 

こう言う無茶苦茶を、どこかで見たことがあったような気がするです。

いえ、この肌で・・・感じたことがあるような。

既視感・・・いえ、違うです。

コレは、現実。

 

 

「綾瀬殿、大丈夫でござるか?」

「いえ、少し・・・頭が・・・」

『頭、ね・・・』

 

 

現実・・・そう、現実。

何が?

私は・・・あの時。

あの時、確かにその答えを、持っていたはず・・・。

 

 

そう、あの時・・・誰がいたです?

私の、私「達」の前に、「それ」を持って現れたのは・・・誰。

 

 

『長瀬!』

「ぬ!」

 

 

浮遊感。

私の身体が、空中に浮いて・・・。

 

 

「追いかけっこは・・・終わりかい?」

「楓忍法―――――――」

 

 

ゆっくりと移動する視界の中で、浅葱色の髪の男性と長瀬さんが衝突していたです。

目にも止まらぬ攻防。

常人のそれでは、あり得ない動き。

どこかで・・・見たことがあるような。

 

 

浅葱色の髪の男性の手が、電気でも纏っているかのように輝いています。

拳が見えないくらいの速度の打撃が、長瀬さんを襲います。

まるで・・・。

 

 

「・・・あ・・・」

 

 

まるで・・・・・・「魔法」のような。

次の瞬間、私の中で何かが。

 

 

「悪いね、綾瀬さん・・・『眠りの霧(ネブラ・ヒュプノーテエイカ)』」

 

 

何かが繋がりかけて・・・消えたです。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

うっわー、何あの男、長瀬さんフルボッコじゃん。

まぁ、その長瀬さんは今は、最近小皺が増えたシスターシャークティーが・・・。

 

 

「美空?」

「ういっス! 仕事モード!」

 

 

シスターシャークティーが十字架の雷撃陣で長瀬さん達を襲ってた浅葱色の髪の男を足止めている間に、魔法で眠らせた綾瀬さんを背中に背負い直す。

そしてそんな私の両足には、ココネとの本契約アーティファクト・・・『快足の女神(アタランテー)』が装着されている。

 

 

見た目は前とほぼ変わらないけど、速力は段違い。

あくまでも足が速くなるだけのアーティファクトに、何かの意地を感じるね。

パシッ・・・と左手で長瀬さんを抱えてるシスターシャークティーの腕を掴んで。

 

 

「誰も、私の逃げ足にはついてこれないぜ―――――――っ!!」

「自慢するんじゃありません!」

 

 

魔法世界ではアーティファクトが使用不能になってるって聞くけど、旧世界では使える。

精霊とか何とか、まぁ、詳しい事情は知らないけどね。

シスターシャークティーの説明、長いし。

 

 

とにかく、私は綾瀬さんを背負って猛然とダッシュする。

女子普通科の礼拝堂を通り過ぎ、普通科のグラウンドを目指す。

そこには・・・。

 

 

「・・・よっと!」

 

 

ザシィッ・・・と、グラウンドの端で立ち止まる。

2分ほどして、浅葱色の髪の男がやってきた。

・・・私の逃げ足についてくるとは、やるね。

 

 

「・・・鬼ごっこは、終わりかい?」

 

 

・・・変な奴。

わざわざグラウンドの真ん中に立って両手を広げて・・・それ以上は近付いて来ない。

久々の侵入者だから、どんだけ凶悪な奴かと思ったけど。

嫌に、穏やかだ。

 

 

「・・・投降なさい、貴方はすでに包囲されています」

 

 

そう言って、シスターシャークティーが片手を上げると、グラウンドをロボット軍団が取り囲んだ。

・・・いや、別にSFとかじゃなくて、マジでロボット。

 

 

「田中ブラザーズ」と、「茶々丸シスターズ」・・・知ってる? コレって正式名称なんだよ?

様々な種類の重火器を積んだ新世代型のロボット軍団。

魔法世界側との技術交流でますます進歩したとかどうとか。

そして一際目立っているのが・・・新型、「ガンガル君シリーズ」。

 

 

田中さんや茶々丸さんと違って、ガニ股のズングリムックリしたロボット。

ある意味、一番ロボット兵器っぽい。

 

 

そしてそれを見ても・・・浅葱色の髪の男は態度を変えない。

穏やかに笑って・・・それだけ。

 

 

「・・・そうですか」

 

 

それを拒否ととったシスターシャークティーが、腕を振り下ろした。

次の瞬間、物凄い雷撃がグラウンドを覆った。

 

 

 

 

 

Side ハカセ

 

戦術広域魔法陣・・・またの名を、対軍用魔法地雷。

魔法世界には、そう言う装備が存在します。

それをこちらの技術で捕縛用の小規模地雷として再現したのが、アレです。

 

 

この5年、魔法世界との技術交流は私の管轄する仕事です。

専門の研究機関と人員、予算・・・これ以上の環境は無いでしょう。

個人的には、民間向けの技術開発の方が好みですけど。

まぁ、そこは宮仕えですから・・・仕方がないのかもしれませんが。

5年前からの契約ですからね。

 

 

「・・・凄いナ」

「規模は半径10m・・・グラウンドの真ん中に誘導するのが条件でしたが」

 

 

まさか、自ら範囲内に入って来るとは思いませんでした。

まぁ、気付かれないようにカムフラージュはかけていましたが。

 

 

「シスターとミソラは・・・?」

「大丈夫ですよ、ココネさん。グラウンドの端までは雷撃は及びませんから」

 

 

幾度もの実験を重ねて、安全に対象を無効化できるよう、改良したのですから。

そして実際、その一隅にいる私達にも被害はありません。

映像で見ても良いのですが、こう言うのは直に見ることに意味があります。

 

 

カタカタカタ・・・と、手元の端末を操作しつつ、数値と目の前の事象を比較します。

ふむ、やはり人体に影響を及ぼさずに意識だけ奪い取れる効果が・・・。

 

 

「・・・終わりダナ」

「む、そうですね・・・雷撃が止みますね」

 

 

とは言え、これだけの物を用意するには、少し時間が必要でした。

30分とは言いませんが、10分弱はかかります。

シスターシャークティーや春日さんには、その時間を稼いでいただいたことになりますね。

それでも間に合うか微妙でしたが・・・。

 

 

少し前に、私の端末にタレコミがあったのです。

一般人が魔法世界からの刺客に襲われている・・・と。

私の端末の他、瀬流彦学園長や日本統一連盟の長、近衛詠春様の下にも同様の連絡がありました。

 

 

ただ、誰のタレコミかはわかりません。

ネット上で追跡をかけても、ことごとく不発で・・・。

アレはいったい・・・誰なのでしょうか。

 

 

「・・・え?」

 

 

雷撃が止み・・・そこには。

誰も、いませんでした。

ただ、白い砂の山が残るばかりで・・・。

 

 

・・・へ?

に、逃げられた・・・の?

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

・・・砂になって消える、ね。

それはまた、「非現実的」な話だな。

 

 

『シスターシャークティー率いるロボ軍団が、撤退します』

「ああ・・・記録上は逃亡したことになるのかね、襲撃者」

『おそらくは・・・』

 

 

ルカの報告に、私は頷く。

まぁ、長瀬と綾瀬の記憶はまた封印処理だろうが、そこはしゃーねーな。

助かっただけ、マシだろ。

 

 

「はぁ・・・」

 

 

ギシ・・・と椅子に深く座り直す。

薄暗い部屋の中で、無数の画面が私を取り囲んでいる。

そこには・・・世界の全ての情報が常に流れている。

この世界だけじゃなく、向こう側の世界のことまで。

 

 

『いやー、しかしアレですねー』

 

 

画面の一つに、緑色のツインテールの少女の笑顔が映る。

 

 

『まいますたーも頑張りますねー、昔の友達のピンチに現場介入なんて』

「はん・・・別に。友達でもねーよ・・・ただ、懐かしかっただけだ」

 

 

そう、私はただ、懐かしい顔を見たから、ちょっとお節介焼いただけだ。

ストーカーに追われる元クラスメートを、助けただけさ。

 

 

『まいますたーも、しぶといですねー』

「・・・私は一般人だよ、死んでもそこは譲らねーよ」

 

 

こいつら「ぼかろ」との付き合いも、もう5年だ。

こいつらが私にひた隠していた世界の「真実」とやらにぶつかったのは、2年前の話だ。

と言うのも・・・向こう側のネットワークを利用しないと私の居場所がバレそうだった事態に陥ったことがあってな。

 

 

<フォ○クス>の野郎、マジでしつけぇ・・・いや、それは別の話だ。

とにかく・・・私はその時初めて、真実を知った。

・・・いや、ちゃんと見なくちゃいけなくなった・・・かな。

だからこそ。

 

 

「私は、魔法だのどーだのに、これ以上関わる気はねーよ」

『それはまた、都合のいい話ですねー』

「るっせ、それより、もう片方の方はどうなったんだよ」

『そっちは・・・ほとんど同時に終わってますよー』

「そーかい・・・そりゃ良かった」

 

 

戦争の肩棒担ぐなんて、二度と御免だ。

そこまで・・・関わる気は無い、冗談じゃねー。

 

 

だけど・・・私のいる街で妙な騒ぎを起こす奴には、容赦しねぇ。

私の愛すべき日常を壊しに来る奴は・・・誰であろうと。

削除(デリート)するぜ。

 

 

『ひゃ~っ、まいますたー、カッコ良い~っ!』

「思考を勝手に読んでんじゃねーよ!」

『マスター、我らが領域に新たな攻撃が』

「またか・・・今度はどこのどいつだ?」

 

 

これが、今の私の日常。

・・・麻帆良に君臨する―――――電子の女王。

またの名を、ネットアイドル、「ちう」。

 

 

私のホームページ、見てくれよな。

 




千雨:
『はぁーい! 麻帆良の陰の女王、電脳世界の支配者、2つの世界を股にかける全世界の真の帝王、「ちう」だよ! 皆、見ってる~「死ねぇ!!」(ブツンッ)』

・・・はぁ、はぁ・・・ったく、あのボケミクが・・・・・・あ?
後書き担当、私? マジかよ・・・しゃーねーな。
あー、長谷川千雨だ。
「ぼかろ」の一体にデイトレードさせたら預金にゼロがたくさんついた、どうしよう・・・メガバンク以外の金融機関から投資話がドカドカ来てうぜぇ・・・。
・・・そんなわけで、麻帆良で未だにダラダラしてる私だ。
今回は、向こう側からの厄介話だったみてーだな、まぁ、細かいことはどうでも良いが。
なんか、後何件か同じようなのがあるみてーだが・・・そっちもカバーしとくか。


千雨:
次回は・・・えーと、元3-Aメンバーが出てくる。
・・・いや、まぁ、そりゃそうなんだけどよ。
じゃ、またな・・・もう私は出ねーと思うけど。

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