色々詰め込み過ぎたかも・・・。
では、どうぞ。
Side アリア
・・・宮殿での戦いから、半年が経過しました。
その間にも色々と大変なことはありましたが、私は女王としての政務と教師としての職務に追われる日々を過ごしておりました。
仕事が山積みの日々が続き、それはそれは幸げふんげふん、大変な時間でした。
生徒の通知表作りに追われてみたり、期末試験対策問題を自前で作ってみたり。
魔法世界での奴隷公認法の段階的な改正を発議してみたり、帝国やパルティア、メガロメセンブリアとの国境画定に関する交渉で火花を散らしてみたり。
「・・・早い物ですな」
「そうですね・・・」
そして今日、麻帆良学園は卒業式を迎えました。
この3-Aへと続く廊下も、もうすっかり歩き慣れてしまいました。
そしていつものように、私はそこを新田先生と歩いています。
「・・・ここをこうして新田先生と歩けるのも、今日で最後かもですね」
卒業式が終わっても、仕事はあります。
ですが私は、次の新学期には麻帆良の教員としてここにはおりません。
元教員、と言うことになります。
もちろん、新田先生や瀬流彦先生、他の同僚の先生方にもすでに挨拶を済ませてあります。
本当にお世話になった方々で・・・私の今後を心配したり、激励してくれたりしました。
まさか、異世界で女王やりますとは言えませんけど。
「新田先生、本当に・・・お世話になりました」
「・・・まぁ、別の意味で手を焼いたのは事実ですがな。勤勉すぎて手を焼くと言うのは、なかなかに珍しい経験でしたぞ」
「う」
苦笑する新田先生に、私も苦笑いで応じます。
実際、2学期、冬休み、3学期と・・・私と新田先生の追いかけっこは麻帆良の名物化していましたし。
その度に捕まって怒られる私は、職員室の名物になってましたけど。
「まぁ、今後も身体には注意するように。休み方を心得るのも、社会人として必要なスキルですぞ」
「・・・はい」
苦笑いのまま頷くと、不意に頭の上に重みが。
新田先生が、私の頭を撫でていました。
お、おお・・・これは、初めての経験やもしれません。
「・・・どこに行っても、しっかりやりなさい」
「・・・はい」
今度は苦笑いでは無く、ちゃんとした笑顔で頷きます。
こう言う時、新田先生は本当に良い先生だと思います。
ある意味、私も新田先生の生徒だったのかもしれません。
「では、また体育館で」
「はい、では・・・」
教室の前で、新田先生と一旦別れます。
さて、では生徒を卒業式場まで引率しなくては・・・。
そう思い、3-Aの教室の扉を開けようとした時。
「・・・ええ~・・・」
黒板消しが、扉に挟まっていました。
開ければ私の頭の上に落ちてくる、そんな位置に。
何ですかこの、これ見よがしなイタズラ・・・。
そう思うのと同時に、何だかとても懐かしい気分になりました。
そう言えば、初めてこの扉を潜った時も同じことをされました。
あの時は、ネギもいましたが・・・。
「・・・まったく・・・」
溜息と同時に、小さな笑みを浮かべます。
それから、おもむろに扉を引きます。
しかし頭に黒板消しを落とされるようなヘマはせず、見事にかわした後・・・。
パァンッ、パパァンッ!
乾いた音が、鳴り響きました。
Side 瀬流彦
とうとう、卒業式がやってきてしまった。
夏休みからこっち、色々な人の助けを借りて、どうにか学園長としての仕事をこなしてきた。
最近では体制も固まってきて、仕事の量も少しずつ減ってきた。
でも、学園長として卒業生を送り出すのは初めてだ。
卒業式に関わること自体は初めてじゃないけど、まさか自分が学園長として送り出すだなんて、去年の今頃は考えたことも無かったな。
当たり前の話だと思うけどね、僕みたいな若輩者が学園長になるなんて普通はあり得ないしさ。
「・・・大丈夫、大丈夫だ僕、新田先生に手伝ってもらって祝辞も考えてきたし、体育祭の時だってどうにかこなしたじゃないか」
体育館の壇上の裏で一人、椅子に座ってブツブツと自分に言い聞かせる。
・・・あ、ヤバい、お腹が痛くなってきた。
「落ち着け、落ち着くんだ僕、冬休みに女子高生とお見合いした時だって緊張したけど、どうにかこうにかお友達からスタートしたじゃないか。そう、僕はやればできる、と言うかここに来てお腹が痛いんで無理ですとか社会人としてあり得ない。なのでやらざるを得ない、でも別にやらされてるわけじゃなくて、ちゃんと卒業生を送り出そうと言う気持ちはあるんだ。つまるところ僕の度胸の問題なんだ・・・」
「あの・・・瀬流彦先生?」
「落ち着け・・・クールになれ僕。そう、僕はやればできる・・・!」
「瀬流彦先生!」
「ひゃいっ!?」
耳元で大声で呼ばれて、僕は情けない声を上げて立ち上がった。
直立不動・・・完璧なまでの「気を付け」だ。
「・・・別に立たなくても良かったのですけれど」
「あ、ああ、しずな先生・・・」
お化粧もバッチリ決まったしずな先生が、そこに立っていた。
どうにも困ったようなものを見るような目で、僕を見ている。
「少しは落ち着いてくださいな、学園長先生?」
「あ、あはは・・・すみません」
お腹を擦りながらそう言うと、しずな先生は溜息を吐いた。
いやぁ、でも、緊張しちゃいますよ、やっぱり。
・・・そう言えば、アリア君は魔法世界で女王様をやるんだよねぇ。
すごいなぁ、僕にはとてもじゃないけどできないよ。
学校の代表だけで、一杯一杯だよ。
「・・・寂しくなりますわね」
「そうですね・・・」
しずな先生の言葉に、頷く。
アリア君は魔法世界に行くらしいし、今の3年生はあらゆる意味で賑やかだったし。
特にアリア君のクラスは無駄に優秀な上にやたらにテンションが高かったから。
そっかぁ・・・来年からは、もういないんだな。
まぁ、すぐに新しい一年生が入ってきて、また忙しくなるとは思うけど。
寂しいなと言う気持ちは、拭いようがなかった。
「ちゃんと、送り出してあげないといけませんわね」
「・・・そうですね」
・・・やっぱり、お腹は痛いままだけど。
前にアリア君に貰った胃薬、まだ残ってたかなぁ。
Side クルト
「では・・・一応の合意が成立したと言うことで」
「帝国は是とする」
「アリアドネーも了承します」
「・・・メガロメセンブリアも、これを受け入れる」
私の言葉に、ヘラス帝国皇帝テオドラ、アリアドネー総長セラス、メガロメセンブリア主席執政官リカードの3人が、それぞれ別の感情を抱きながら頷きました。
私が今サインしているのは、先の戦争における講和条約のような物です。
まぁ、講和とは名ばかりの降伏文書のような内容ですがね。
不利なのはメガロメセンブリアだけであって、その他の署名国は断る理由はありません。
メガロメセンブリアは賠償金支払い義務の他、対外的な経済的利権の大半を失い、軍備制限も受けます。
「では、後は個別の二国間交渉に委ねると言うことで」
全員の署名が終わった後に私がそう言うと、リカードは引き攣ったような表情を浮かべました。
ウェスペルタティア・帝国・アリアドネーの3国連合との講和条約・・・「トリスタン条約」に関する交渉は終了しましたが、ここからは二国間交渉に移ります。
また、今回の戦争で独立した諸国・諸都市との国交樹立は、「トリスタン条約」に記載された義務です。
ここトリスタンも2ヵ月前に連合から離脱し、中立を宣言した都市国家の一つです。
これにより、パルティア・龍山・アキダリア・・・そしてトリスタンを始めとする連合離脱都市の主権が確認されたことになります。
後は、そうですね・・・。
帝国は今回の戦争で得た広大な領土の領有権を、メガロメセンブリアと連合に認めさせるでしょうし。
アリアドネーは、新技術の研究開発に必要な資源の無償供与を要求するでしょう。
もしかしたら、鉱山などの資源地帯の権利を奪うかもしれませんね。
テオドラ陛下もセラス総長も、毟り取る気満々ですからねぇ。
「その点、私達ウェスペルタティアの要求など、ささやかな物ですよねぇ」
会議場を出た私は、ウェスペルタティアがメガロメセンブリアに要求している物のささやかさに、苦笑を浮かべました。
王国の4年分の国家予算に相当する賠償金と、グレート=ブリッジ要塞及びその周辺領の所有権、先の戦闘で破壊された我が国の艦艇・建造物の修繕費用負担、並びに戦死者遺族への補償金の60%の負担。
さらにはウェスペルタティア大公国承認の取り消しに、ダンフォード前主席執政官を始めとする戦犯数名の引き渡し。
我が国とパルティア・アキダリア・龍山との国家連合「イヴィオン」の承認。
・・・ちなみに「イヴィオン」と言う名はアリア様の美しき白い髪にちなんで考案されました。
いや、実にささやかな要求ですね。
ちなみに、一ヵ国でも交渉が不調に終われば王国・帝国・アリアドネー3国共同でメガロメセンブリアに進攻することになっています。
・・・全ての国と交渉が妥結した頃には、メガロメセンブリアはただの都市国家の一つでしかなくなっているでしょう。
逆に良く、それだけ毟り取られて崩壊しないなと感心しますがね。
「問題は、エリジウム大陸に逃げた老害共ですね・・・」
現在、メセンブリーナ連合は事実上の解体状態にあります。
ただグラニクスを中心とするエリジウム大陸の諸都市は、未だ連合を名乗りこちらとの交渉を拒んでいる状態です。
距離的・地形的に、攻めにくい場所ですからね。
「まぁ、そちらは後にしましょう・・・あとは目的を果たすだけ」
私はもう一つ、メガロメセンブリアに認めさせるべき要求を持っています。
すなわち、今はグラニクスに逃げ込んだ、かつてのメガロメセンブリア元老院の虚偽と不正・・・。
「・・・アリカ様」
アリカ様の真実を、世界に公表させる。
18年前にやり損ねたことを・・・やるだけです。
世界の憎しみの全てを、メガロメセンブリアに被って頂きます。
Side 暦
たとえ故郷に国ができたとしても、私達のやることは変わらない。
そう、私達フェイトガールズはフェイト様のために!
・・・ちなみにこの「フェイトガールズ」、王国の公文書にも記載された私達の正式名称なの。
今は良いけど、将来的に凄く恥ずかしいことになる気がしてならない。
「いずれにせよ、私達がフェイト様の従者であると言うことは変わらないわ!」
「あ、私はアーニャを通じてメルディアナとの連絡員をやっている」
「暦、私は竜騎兵のドラゴン達の面倒を見る飼育員のバイトしてる」
「私は、スクナ様のお世話係を・・・」
「いつの間に!?」
え、嘘・・・皆、そんなことしてたの!?
でも確かに、今日みたいにフェイト様がいない時は割と暇だし、何しても良いってフェイト様も言ってたけど・・・。
「う、裏切り者ぉ~・・・!」
「いや、むしろお前は何か無いのか、趣味とか・・・」
「・・・う」
焔の言葉に、ちょっと詰まる。
た、確かに、フェイト様のお世話以外には特に何もしてないけど・・・。
「・・・し、栞は、栞は何もしてないよね!」
「その言い方は、少しカチンと来ますわね・・・ちなみに、何もしていないわけではありませんわよ」
「そうなの!?」
私達がいるのは、王国騎士の従者用の部屋(フェイト様の部屋の隣)。
総督府の一室だけど、結構広い。
何しろ、女王陛下から騎士の称号を受けているのはフェイト様一人だし。
女王の騎士、まぁ、フェイト様ならそれくらいの称号は当然よね!
・・・言ってて、少し悲しくなってくるけど。
とにかく部屋の窓際のテーブルに座っている栞は、一冊のノートを私に見せてきた。
表紙に、「本日のフェイト様」と書いてある。
「・・・何、してるの?」
「宰相府の広報部が王室専門誌を発行しているのは、知ってますわよね?」
「あ、ああ、うん。もはや趣味全開のファッション誌みたくなってるアレね」
主に女王陛下しか載って無いやつ。
いや、王族が他にいないんだから、仕方が無いんだけど。
「近く女王陛下とフェイト様との婚約が発表されますので、先の戦いと日常のフェイト様の様子を記すようにと、ゲーデル宰相から仕事を任されてますの」
「栞、お前そんなことしてたのか」
「ええ、ライターの真似ごとのような物ですけど」
「フェイト様の写真、いる?」
「出会った頃から撮りためている物がいくつか・・・」
栞を囲んで、焔達が楽しそうにお喋りしてる。
そ、そうなんだ・・・じゃあ、何もしてないのって私だけ・・・・・・。
・・・・・・・・・え?
い、今、軽く流してはいけない情報を聞き流してしまったような気がするのだけど。
えっと、女王陛下とフェイト様が・・・・・・え?
「ええええええええええええええええええええええええっ!?」
「うわっ・・・何だ暦、うるさいぞ!」
「え、いや・・・えええええええええええええええええっ!?」
むしろ、何で皆はそんなに落ち着いてるの!?
女王陛下とフェイト様が・・・聞いてないよぉ!?
「ああ、それはそうでしょう。SSSランクの秘匿情報ですもの、他人に漏らしてはいけませんわよ?」
「え、いや・・・でも!」
「と言うか私達は皆、知ってたぞ・・・?」
知らなかったの私だけ!?
「それに、暦が考えているような事情とは少し違う面もありますわ」
「・・・ど、どゆこと?」
「最近、女王陛下へ求婚してくる貴族や他国の要人が多いでしょう? 正直、それらを断るのにも理由がいるので・・・いわゆる男よけのような物ですわ」
「中にはしつこいのもいて、断り続けるのも外交的に不味いと言うことでな」
「女王陛下も、まだ知らない・・・」
そ、そうなんだ・・・。
でも、何だか複雑。
「幸い、半年前の戦争でフェイト様は大功を挙げられた。今なら表だって反対する者も少ないと言う事情もある」
「う、うー・・・でもそう言うので婚約とか、良くないと思う」
「まぁ・・・私達もそう思いますけど」
同じ女の子として、そう言うのには断固として反対します。
でも調はどこか困ったような笑みを浮かべて、私を見る。
・・・?
「これは、フェイト様の発案ですから」
・・・・・・じ、じゃあ、しょうが無いわね・・・・・・。
Side デュナミス
どうやら、世界の危機は回避されたらしい。
しかも、私達「
以前と同じ世界が、今も私の目の前に広がっている。
「・・・ふむ」
私が今いるのは、崩落した「墓守り人の宮殿」が一望できる岩山の上だ。
宮殿からはもはや、何の力も感じない。
我が主の力の胎動も、感じない・・・どうやら私は、今度こそ完全に主を失ってしまったらしい。
敗残の将・・・惨めに年老いて、最後まで生き残ってしまった・・・。
頭上を見れば、かつてのように多くの浮き島が見える。
魔力溜まりが『リライト』で弾けた結果、かつての市街地とゲートポートが浮かび上がったのだ。
王国艦隊の艦影がいくつも見える・・・おそらく、復興に向けた調査を進めているのだろう。
フ・・・かつて千塔の都と謳われた麗しの空中王都が、再建されるのかな・・・。
まぁ、以前の姿をそのまま取り戻すことは、流石に不可能だろうが。
「マスター」
以前のように水を使った転移では無く、瞬動でその場に現れたのは、
何故か
必要無いと言っても聞かずに、私の役に立とうと世話を焼いてくるのだ。
自分の主人(マスター)は私一人だと、そう言って聞かないのだ。
私などについて来ても、仕方が無いだろうに。
「私はマスターの手足です。それに、私がいないとマスターはお困りになりましょう」
・・・どうしてこう、人形らしく無いのか。
どこかで調整を間違えたかな・・・。
「マスター、これからどうなさいますか?」
「・・・ふん、そんなことは決まり切っているだろう」
たとえ世界の危機が去ったとは言え、世界の問題は何一つ改善されていない。
差別も続き、戦災孤児も増え続けるだろう。
私達「
「そう、我々は真の『
「了解致しました、して、どこから始めましょう?」
「うむ・・・まずは、死んだふりだ!」
何せ、本拠地も術式も兵力も何もかも失ってしまったからな、ほとぼりが冷めるまでは沈黙する。
しかし、私達は必ず帰って来る・・・そう、世界を救う、その日まで!
待っているが良い、愚かなる人類よ!
「フフフフフ・・・フフハハハハハハハハハハッ!」
そうやって笑う私を、
言葉にするのなら、そうだな。
・・・優しげな笑み、とでも言うのだろうか。
Side アリカ
「・・・ふぅ」
この半年の旅で思うのは、体力が落ちたと言うことでろう。
20年前、いや10年前にナギ達と旅をしていた時には、こうもすぐに疲れはしなかった。
だが今は、山を3つ超えた程度で疲れを感じる・・・。
やはり、<初代女王の墓>で10年間動かずにいた分、身体が鈍っておるな。
「大丈夫かよ、何なら運ぶぜ?」
「いらぬ世話じゃ」
私がにべもなく断ると、ナギは拗ねたように口を尖らせる。
少しは年を考えろと言いたいが、そうした顔も可愛く見えるのは私が変なのか。
しかし、この男は10年前と変わらず疲れた顔一つ見せぬ。
2日前にも、20人からなる賊を1人で撃退してのけたしの。
・・・やはり、バグじゃな。
「・・・んで、アレが噂の農場か?」
「うむ、どうもそのようじゃの」
私達は今、ウェスペルタティア王国の東部を旅しておる。
目立たぬように、表の街道からは外れた道を歩いて。
そして私達の目の前には、山の斜面に作られた広大な畑が見える。
一見、ただの畑のように見えるが・・・。
「・・・違法薬物の材料になる植物を栽培しておるの」
「だな、大戦の時にデカいのは潰したはずだが、生き残りもいたんだな」
おそらくは、連合統治時代に再生した物の一部であろう。
この地の領主はエルコバル伯爵・・・ここまで大掛かりとなると、関与しておると見て間違いあるまい。
オスティアにここの映像記録を送って、注意を促しておくべきだろう。
「うし! んじゃあ、潰しに行くかね!」
「戯け、私達が表に出ることはできぬ、忘れたのか」
「あー・・・そうだっけな、面倒だな畜生」
仕方無かろう・・・とは言え、直接関与できないのは辛いのはわかるが。
だがこうして、表で動く者の助けになることはできよう。
「では戻るぞ・・・ナギ、アスナ」
「おう!」
「・・・」
左隣からは、ナギの威勢の良い返事が聞こえる。
だが、右隣に佇む明るい色の髪の少女からは、何の返答も無い。
無言のまま、目の前に広がる光景を見つめておる。
一見、何の反応も示さず、何もできないようにも見える。
だが身体が覚えておるのか、それとも本能が働いておるのかはわからぬが、襲われれば相手を倒しもするし、目の前で子供が転べば助け起こしもする。
だが、自分から感情を表に出そうとはしない。
「・・・」
見ていて辛いが、これもまた一つの結果であろう。
受け入れて、選ばねばならない。
そして私は・・・選んだのじゃから。
「ガキ共は元気かねぇ」
「・・・そうじゃの、元気だと良いの・・・」
あっけらかんとしたナギの言葉に、私はそう答える。
アリアとネギは、今をどう過ごしておるかの・・・。
Side ネギ
思えば、魔法世界での全てはここから始まったような気がする。
エリジウム大陸、自由交易都市グラニクス。
僕が今いるこの街が、僕にとっての始まりだったと思います。
エルザさんに連れられてここに来て、同じようにエルザさんに連れられてここを出た。
拳闘士として戦った・・・と言っても、そんなに試合には出ていなかったけど。
結局、オスティアの本戦にも出なかったわけだし。
「・・・魔法が、使えない」
僕の手には、小さな杖が握られています。
マスターが父さんの杖の使える部分で作ってくれた、魔法発動体。
だけど、魔法が使えなくなった今、持っていても意味が無い・・・。
「はぁ・・・」
魔法が使えないと言う事実に、大きな溜息を吐く。
アリアのいるウェスペルタティアと、あと帝国、アリアドネーは「
つまり、今じゃマギステル・マギと言う称号には意味が無いってことです。
僕は父さんのようなマギステル・マギになりたくて魔法を学びました。
でも、その制度は今や世界の3分の2近くの場所で適用されません。
それが嫌な人達は、ここグラニクスに集まってきているらしいです・・・。
「・・・ここではまだ、適用されるからね」
ここグラニクスを中心とするエリジウム大陸の諸都市は、「新メセンブリーナ連合」を名乗ってる。
メガロメセンブリアを中心とする連合は、事実上解体されてしまったためです。
メガロメセンブリアからグラニクスに移動してきたMM元老院が、メセンブリーナ連合評議会として加盟都市を指導することになっています。
そして今、僕はその評議会に所属しています。
僕だけじゃなくて、タカミチと・・・後、学園長先生も。
まぁ、もう学園長じゃないんだけど・・・でも、会った時はビックリしました。
「ネギ――ッ!」
「ネギせんせー!」
振り向くと、評議会の建物の二階から、ネカネお姉ちゃんとのどかさんが僕に向けて手を振ってた。
ネカネお姉ちゃんはともかく、のどかさんは旧世界に戻らなくて大丈夫なのかな、とか思うけど。
そこは、タカミチと学園長先生が何とかしてくれるって・・・。
・・・それに、旧世界へ行けるゲートは、オスティアにしかない。
のどかさんが旧世界に戻る方法は、もう無いのかもしれません・・・。
Side アリア
「「「今までお疲れ様、アリア先生――――――ッ!!」」」
「・・・・・・」
クラッカーから放たれた小さなテープと紙吹雪が、ハラハラと私の身体に降り注ぎます。
・・・・・・・・・はい?
呆然とする私に対し、クラッカーを握っている風香さんや史伽さん、椎名さんと柿崎さんに明石さんが、悪戯を成功させたような笑みを浮かべています。
お・・・おお? これはどう言った意図のアレですか?
助けを求めてキョロキョロすれば、エヴァさんや茶々丸さん、真名さんや刹那さん、木乃香さんに・・・あと、新しい身体を手に入れたさよさんが、どこか優しげに笑っていました。
「アリア先生、驚いた? 驚いたー?」
「え、ええ、それは何と言うべきか、と、とても?」
「フ・・・でもまだだよ! まだ私達のターンさ!」
「まだ、私達のバトルフェイズは終了してないぜ!」
嬉しそうに私の背中を押して教室に入れるのは、風香さん。
そんな私に、明石さんとまき絵さんがビシッ、と人差し指を向けてきます。
人を指差してはいけません、と言うか、ば、ばとるふぇいず?
「「「緊急特別企画、お世話になったアリア先生にプレゼントタイム!!」」」
「はぁ!?」
「ふふん、私達は最後まで静かに過ごさないよアリア先生・・・!」
「と言うわけで、夏休み中に新しく作った『でこぴんロケット』のCD第二弾をどうぞっ!」
「今回は、お金はいりません!」
「ど、どうぞ・・・」
柿崎さんと椎名さん、そして釘宮さんの宣言をバックに、和泉さんが恥ずかしそうに私にCDを渡してくれました。
「「私達からはコレだよ(ですー)!」」
風香さんと史伽さんからは、「350」と言うタグが付いた巨大なサメのぬいぐるみ。
し、式の前に何と言う物を・・・。
もふっ、と顔面に押し付けられるにぬいぐるみを、どうにか持ちます。
「わ、私もぬいぐるみを・・・割と癒されます」
「私のサイン入りバスケットボールを受け取れーっ!」
「私もサイン入りのボールとリボンを~」
大河内さんから猫のぬいぐるみ、明石さんとまき絵さんからはサイン入りのボールと・・・もはや『力(パワー)』の加護を受けられない私の細い腕にドンドン物が乗せられていきます。
つ、通常時の私の貧弱さを舐めないでくださいよ・・・?
しかしまだ、終わりでは無かったのです。
「あらあら、コレだから庶民の皆様は・・・大切な祝いの席に」
「何だって!?」
「そんなことを言うからには、いいんちょのプレゼントは凄いんだろーな!?」
「もちろんですわ!」
・・・教室の隅に、白い布をかぶせられた巨大な何かがあります。
・・・・・・どうしてでしょう、嫌な予感しかしません。
「私は、コレを! ご用意させて頂きましたわ!!」
バサァッ・・・と布が取り払われ、中身が白日の下に晒されます。
・・・・・・あ、ありがとうございます。
せ、石像とか・・・しかも1分の1スケールって。
「ねーね、アリア先生、嬉しい?」
「え・・・ええ、まさかこんな贈り物を頂けるとは思っていませんでしたので」
「感動した?」
「そうですね・・・感動しました」
「泣いちゃう?」
「・・・・・・」
・・・いやぁ、まさか。
この程度で泣いちゃうほど、私の涙腺は緩くありませんよ。
ただでさえ卒業式と言うのは泣くイメージがありますが、その点、私は例外ですよ。
泣くわけ・・・。
「しゅ・・・」
「「「しゅ?」」」
泣く、わけが。
「しゅ、出席を、最後の出席をとりまふよっ・・・!」
「噛んだ・・・」
「鼻声!」
「あと一撃で落とせるぜ!」
「せ、しぇきにつきなふぁいっ!」
「「「また噛んだ!」」」
「私は、泣きませんからね!」
この子達は、本当にもう!
泣きませんよ・・・泣きませんからね!
Side 刹那
いえ、すでに泣いています、アリア先生。
心の中で、アリア先生にそう告げた。
「出席番号っ・・・15番、せっ・・・桜咲さん!」
「はい!」
はっきりと答える私に対し、アリア先生の声は震えている。
目尻にはうっすらと透明な雫が見えるし、持っている出席簿は上下が逆だ。
アレで良く、間違えずに名前を呼べるな・・・。
「16番っ、佐々木さん!」
「はいはーいっ!」
「返事は一回だって、いつも言ってるでしょう・・・高校でもそんなんじゃ、ダメですからね!」
「えへへ、はーい・・・」
アリア先生が最後の出席をとるのを聞きながら、後ろのこのちゃんの方を見る。
このちゃんは私の視線に気付くと、柔らかな笑顔を見せてくれた。
それに、私も口元を綻ばせる。
思えば、このちゃんとこうして笑い合えるのもアリア先生のおかげだ。
修学旅行の時、そして今まで・・・アリア先生やエヴァンジェリンさん達には、本当にお世話になった。
片腕には、今も『見切りの数珠』を身に着けている。
それを見れば、全てを昨日のことのように思い出せる・・・エヴァンジェリンさんとの訓練以外は。
「31番、ザジ・レイニーデイさん!」
「・・・(コクリ)」
ザジさんが頷いて、終わりだ。
半年前のアレは何だったのかと言いたい・・・本当は結構なお喋りなのに。
最後の出席も、コレで終わってしまった。
こうなると、さしもの3-Aもしんみりとした空気になってしまうな・・・。
「・・・アリア先生」
委員長である雪広さんが席を立ち、教壇に立つアリア先生を見る。
アリア先生も神妙な表情で、雪広さんを見つめている。
・・・あそこに立つアリア先生も、コレで見収めなのだな・・・。
「これまで本当に、お世話になりました。クラスを代表して、御礼申し上げます」
「・・・雪広さん・・・」
「思えばアリア先生とは2年生からのお付き合いですが・・・それでも何年にも渡りお世話になっていたかのような感覚に陥ることもしばしばでした。残念ながらネギ先生を含め、一緒に卒業式を迎えられない生徒の方もおりますが・・・」
超鈴音と、宮崎のどか・・・神楽坂明日菜。
この3人は、この場にはいない。
前者は未来へ、後者の2人は魔法世界へと渡っているからだ。
・・・まぁ、確かに残念なのかもしれない。
私がそんなことを考えている間に、雪広さんの別れの言葉は延々と続いた。
時間が過ぎれば過ぎる程、アリア先生の涙腺が緩んで行くのが見て取れる。
実は雪広さんもアリア先生を泣かそうとしているのではないだろうか、でも自分も泣きそうだし・・・。
「うっ・・・く、クラスの皆様も、アリア先生にご教授頂いたことを忘れることなく・・・」
「「「長ぇよっ!!」」」
「わふろっ!?」
あ、ついに我慢の限界が来たらしい。
明石さんや鳴滝姉妹が、耐えきれずに雪広さんに蹴りを入れていた。
・・・ああ言うのも、高校ではできなくなるのだろうか。
「まったくもー、暗くしてどうする!?」
「な、何ですの何ですの!? 最後ぐらい淑やかにできませんの!?」
「石像を持ってくるような子に言われてもねぇ」
那波さんが、若干酷いことを言っていた。
と、その時、どこかから「ぐすっ」と震える声が。
「・・・あ」
私の隣の釘宮さんが、呆気にとられたような声を上げた。
と言うのも・・・。
「・・・皆、みんなっ・・・そつ、卒業、してもっ・・・!」
アリア先生が、ボロボロと涙を流していた。
スーツの袖口でグシグシと拭いながら、私達を見ている。
「卒業しても、元気でいなさっ・・・いてください・・・っ!」
・・・はい、アリア先生。
卒業して、貴女達と別れた後も。
私達は、私とこのちゃんは・・・自分達で身を守ることになります。
素子様との修業は、今後も続けて行きますし・・・。
・・・でも、東大受験を勧められるのはちょっと・・・。
けど、とにかく・・・まずは。
ありがとう、アリア先生。
Side 夕映
・・・おかしいです。
いえ、良く考えてみれば普通なことなのですが。
けれど、それは客観的に見て普通と言うことであって、主観的に見れば「おかしい」と思わざるを得ません。
これはいったい、どう言うことなのですか?
どうしてこの場に、のどかがいないのです?
卒業式までに、イギリスへの留学は終わるのでは無かったですか?
『え、えー・・・卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。また、本日まで立派にご子息を育ててこられた保護者の皆様にも、心よりお祝いを・・・』
壇上では、瀬流彦先生が祝辞を述べているです。
それはそれで良いのですが、でも、どうして瀬流彦先生が学園長なのでしょう・・・?
本来は、もっと年配の方がやるべき職では無いですか?
そもそも何故、前の学園長先生は辞められたのです・・・?
疑問が、心の底から浮き上っては消えて行くです。
何故、何故、何故・・・その疑問のどれにも、私は満足な答えを見つけることができないでいるです。
「・・・夕映? どうかしたの・・・?」
「い、いえ、何でも・・・何でも無いです、ハルナ」
隣に座るハルナに、そう答えるです。
それでも、私のもう一人の親友がここにいないと言う違和感は、消しようがありませんでした。
イギリスに留学したと言う、のどか。
それは、まぁ・・・意外ではあっても異常では無いと思うです。
この半年、連絡が無いのも、寂しくは思っても異常とは思わなかったです。
便りが無いのは何とやらと言いますですし・・・。
『皆さんは今日を限りに卒業し、 これから高校生として進学されるわけですが・・・ぜひとも、この学校で出会った友人を大切に・・・』
でも、そのままイギリスの学校に編入と言うのは、どう考えてもおかしいです。
珍しくはあっても異常では無い、と言う方もおられるかもですが、私は異常としか思えないです。
あの、のどかが。
あの、のどかが・・・私にもハルナにも何も言わずに、イギリスの学校に編入?
しかも、どこの学校に入るのかも私達には知らされてはいないです。
冷静に考えて・・・いえ、冷静に考えずとも、おかしいと思うです。
何が、あったのですか・・・のどかに。
「・・・のどか・・・?」
名前を呼んでも、その相手はここにはいないです。
私を置いて、どこか遠くに行ってしまった親友・・・。
でも、どうしてでしょう。
私は、のどかに何か酷いことをしたような・・・。
謝らなければならない、許しを請わなくてはならない、何かを。
何かを、してしまったような気がするです。
でもそれが何なのか・・・どうしても、思い出せないのです。
のどか・・・貴女はいったい、どうなってしまったですか・・・?
私はいったい、貴女に何をしたのですか・・・?
思い、出せないです。
Side 千雨
あー、かったりぃ。
正直な話、ほとんどの奴はエスカレーターでうちの高等部に行くんだから、そんなしんみりする必要もねーだろうに。
そりゃま、アリア先生とはここでお別れかもしれねーがな。
後は、何だ? 古とかは中国に行くんだっけか?
この間、お別れ会とか言って騒いでたもんな。
私? 不参加・・・と言いたい所だが、ちゃんと参加したよ、半強制でな。
「ふぃ―――っ」
卒業式場の体育館から出て、卒業証書の入った筒でポンポンと肩を叩く。
まだ正午、日が高ぇーな。
今日はもう、これで解散だ。
中学最後の日っつっても、まだそれ程の感慨はねぇな。
さっきも言った通り、ほぼ同じ面子で高等部に上がるのも、原因の一つなんだろーけど。
『そっつぎょーおめでとーございます! まいますたー!』
「・・・っ」
携帯電話に繋がっているイヤホンを耳につけた途端、ミクのバカでかい声が響いた。
キーン、と耳鳴りがしちまった。
『いやいやいや、本当に今日はめでたい日ですね! でも同時に残念な日でもあります・・・何故なら! 我らのまいますたーが「女子中学生」と言う属性を失ってしまったからです! でも大丈夫、明日から「女子高校生」と言う称号をゲットですよ、まいますたー!』
「電源、切って良いか?」
『・・・切らないでください、私のことを好きにして良いですから・・・』
「良し、切ろう」
『酷い!?』
好きにして良いってことは、切っても良いってことだろ?
まぁ、良いさ・・・さっさと帰って、引越しの準備するかね。
今月中に高等部の寮に移らねーといけねーし。
『まいますたー、おかーさんにお別れ言わなくて良いんですかー?』
「あん?」
立ち止まって、アリア先生のいる方を見る。
村上とかと大河内とかに囲まれて、何かを話してる。
見た感じ、まだ別れを惜しんでるみてーだな。
青春だねぇ・・・私は、そう言うのは良いさ。
私はいつだって、そう言うのから一歩下がった位置にいたい。
傍観者でいたいんだよ、あんな変な連中に関わり合いたくねー。
これまでもそうしてきたし、これからもそうやって生きてく。
「・・・いーよ、面倒くせー」
『ですかー』
「お前らこそ、良いのかよ?」
『会ったら消されるかもしれないので』
何をやった、お前ら。
『まいますたー、何か歌いましょうか?』
「あん? そうだなぁ・・・じゃあ」
卒業式って、ことで。
「・・・森山直○郎の、『さくら』で」
『りょーかいしましたー♪』
じゃあな、麻帆良女子中。
たぶん、もう二度とこねーよ。
「・・・ぐすっ・・・」
『・・・歌いますね』
「・・・・・・おう」
・・・あばよ。
Side 古菲
・・・とうとう、終わってしまったアルな。
屋上から校舎を見下ろしながら、私はそんなことを思ったアル。
実際、ここを卒業してしまえば私は故郷に帰るアルから・・・。
「に・・・「日本での生活も、これで終わり・・・か? 古(くー)?」・・・真名、楓も」
その時、屋上の扉が開いて、真名と楓がやって来たアル。
2人とも何も言わずに私の隣に立って、一緒に校舎を見下ろすアル。
・・・こうして3人で話すのも、もう無いかもしれないアルな。
「・・・真名と楓は、進学するアルか・・・?」
「拙者はこのまま高等部に行くでござる。アリア先生が拙者のさんぽ部での活動を内申書に加えてくれたおかげで、進学できるようになったでござるよ」
「私は進学はしない、長期の仕事が入ったんでな。そっちを優先する」
「・・・そうアルか」
2人とも、私とは別の進路。
私の場合は故郷に帰るから、他のクラスメートとは別になるのは当たり前アルが。
「しかし楓、進学するのは良いが、高校には留年と言う制度があるぞ? 大丈夫か?」
「なはは・・・実は結構危ないでござるよ。でも留年すると里に帰らねばならなくなるので、頑張ってみるでござる」
「そうか・・・古(くー)はどうだ? 故郷の学校でやっていけそうか?」
「うーむ、やっぱり勉強が難しいアル」
こっちではできなくても問題無かったことが、向こうではできないと問題になる。
そう言うことが結構あるから、大変アル。
故郷だけに、言語や文化については問題無いアルが。
「そうか・・・」
私と楓の返答に、真名はどこか満足そうに頷いたアル。
真名は、アリア先生と一緒に行く。
楓がいるから口には出せないけれど、きっとそうなんだと思うアル。
真名は意外と、そう言う所がある。
ちゃんと付き合ってみれば、わかるアルよ。
だからアリア先生のことに関しては、私は心配していないアル。
ただ・・・。
・・・ネギ坊主は、どうしてるアルかな。
聞けないけれど・・・気にはしているアル。
「古(くー)」
名を呼ばれて、真名の方を見るアル。
真名は口元に小さな笑みを浮かべると、屋上の扉を指差して。
「四葉とハカセが、下で待ってるぞ。超包子でささやかなお祝いをするんだとさ」
「おお、それは良い考えでござるな」
「何だ、楓も来るのか?」
「もちろんでござるよ~」
卒業、アル。
卒業しても、皆で遊べると良いアルな。
・・・心の底から、そう思った。
Side エヴァンジェリン
卒業。
何と甘美で、達成感に満ち溢れた言葉だろうか・・・!
「この紙切れを手に入れるために、15年を要した・・・!」
私の手には、「卒業証書」と書かれた紙がある。
<
「ああ、マスターがあんなに嬉しそうに・・・(ジー)」
「ケケケ、ウレシソーダナ」
まぁ、茶々丸は私が5回目の中学1年生の時に起動したからな、私とこの感動を分かち合うことはできない。
だが、私にはこの感動を分かち合える相手がいる。
それは・・・!
「そ、卒業、できました・・・!」
さよだ。
しかも15年どころでは無い、60年だ。
咽び泣くさよの背中を、私は可能な限り優しく撫でる。
「そうだな、卒業だな・・・良かったな・・・!」
「エヴァさん・・・私、私・・・20年前くらいに諦めたことがあるんです、きっとこのままだって、けど・・・けど!」
「もう良い、何も言うな、さよ・・・!」
「エヴァさん・・・!」
「さよ!」
「エヴァさん!」
ガシィッ、と2人で抱き合う。
いつもとテンションが違うが、今はこの感動を分かち合いたかった。
私はさよと抱き合い、お互いの卒業を心から祝福しあった。
卒業、おめでとう・・・!
ちなみに私達は今、麻帆良の地下でアリアを待っている。
つまり、オスティアとのゲートで。
アリアは夜まで何かと忙しいからな、ここでお茶をしながら待っているわけだが。
「やれやれ、<
「仕方がありませんよフェイト君、キティはすっかり丸くなってしまいましたから」
だが、何故か若造(フェイト)がいる。
さらに言えば、何故かアルビレオ・イマと仲が良さそうだ。
お前ら、昔は敵同士だったはずだろうが。
あと、私をキティと呼ぶな。
「私は、ここの司書ですから」
半年前にもこいつはそう言って、ナギ達についていかずにここに戻ってきている。
今度は役目では無く、単なる好みで。
どうやら、図書館島が気に入ったらしい。
将来的にはこちら側のゲートの管理人もやるかもしれんが、まぁ、それは良い。
問題は若造(フェイト)だ。
ここ半年ほど、奴とアリアの関係が怪しい。
いや、以前から怪しかったが、さらに怪しくなっているのだ。
具体的には、就寝後に私がアリアに会いに行くのを茶々丸が邪魔する。
「・・・ああ、そうだ。
「何だ、若造(フェイト)」
「僕は今度、アリアに婚約を申し込むことになっているけど、構わないよね?」
「はっ、何だ、そんなはな、し・・・・・・」
イマ、ナントイッタ?
婚約・・・求婚?
コンニャクでも今訳でも無く、婚約?
engagement・・・?
「よし、小僧・・・その首がいらないと見える・・・!」
旧世界では普通に魔法が使えるからな、永久封印してやろう・・・!
そう思い、全身から魔力を吹き上げて一歩を踏み出そうとした瞬間。
何故か、茶々丸達に羽交い絞めにされた・・・って、またか!
茶々丸が背後から私の両脇に腕を通して持ち上げ、さよが私の腰に抱きつき、かつチャチャゼロが頭の上に乗っている。
何だこれは、アウェーか、私は空気読めて無いのか!?
「オチツケヨ、ゴシュジン」
「え、ええと、ごめんなさい!」
「マスター、落ち着いてください」
「3人中2人が、私が取り乱していると判断するわけだな・・・!」
と言うか、この中で一番偉いのは私だろ!?
こいつら、私の従者だろうが。
さよは違うが、新しい身体を造ったのは私だから似たような物だ。
「マスター、アリア先生には現在、36件の縁談話が持ち上がっております」
「・・・知っている」
貴族だとか名家だとか金持ちだとか、馬の骨にも劣る屑どものことだろう。
無論、全員の求婚を断ったはずだ。
中には40歳も年上の脂ぎった親父だっていたんだぞ?
そんな奴の所に、アリアを嫁にやれるか。
婿入りも拒否する、と言うか殺す。
「そのような中、幸いにもクルト宰相もフェイトさんとの婚約については反対しておりません。でしたら・・・」
「む・・・い、いや、しかしだな・・・」
それは、まぁ・・・今アリアに求婚しているような輩よりは、若造(フェイト)の方が何倍もマシだろうさ。
家柄はともかく、功績と強さと想いの点では、それはマシだろうさ。
マシだろう・・・が。
いや、落ち着け私、どうやら私以外は割と「OK」な雰囲気を出しているようだが、私はそうはいかんぞ。
私が最後の防波堤だと言う意識を、強く持つんだ!
たとえ後ろに庇っているアリアが、私と言う防波堤を乗り越えようとしていたとしてもだ!
最近は口には出さんが、アリアは私のモノなんだからな!
「と言うわけで、断じて認めん!!」
「フフ・・・まるで頑固な父親のようですね、キティ」
「誰が父親だ! せめて母親と言え! あとキティ言うな!」
くそう、どいつもこいつも・・・。
「お待たせしました!」
その時、ようやくアリアがやってきた。
その背後には、ガショガショと歩く田中(正式名称T-ANK-α3・MKⅡ)がいる。
田中は、アリアが教師で生徒どもから貰っていたプレゼントを抱えている・・・石像込みで。
アリアの出現で、とりあえず場は沈静化した。
本人の前では話せんしな・・・。
く・・・今後は若造(フェイト)をこれまで以上に見張らなければ。
茶々丸が敵に回っている限り、無理な気もするが。
「ふん・・・もう良いのか?」
「・・・はい」
私の言葉に、アリアは小さく笑んだ。
少し辛そうだが、まぁ、仕方がない。
「では・・・」
「はい」
頷き一つ。
「村の皆を、助けに行きます」
Side アリア
「状況はどうなっていますか?」
「万全でございます、陛下」
「我ら一堂、陛下のお戻りをお待ちしておりました」
深夜、旧オスティアのゲートポートに到着した私達は、『ブリュンヒルデ』に乗って新オスティアの国際空港に入りました。
そこでシャオリーさんとジョリィの出迎えを受け、そのままオスティア自然公園へと向かいます。
総督府には一度における場所が無いので、そこに移動させました。
自然公園には、多くの市民の方が詰めかけていました。
兵士の方々が彼らを規制する中、私は自然公園の中へ入ります。
逸る気持ちを抑えつつ、極力ゆっくり歩いて、市民の方々に手を振ったりします。
「・・・わざわざ人を集める必要があったのか?」
「政治的効果と言う物があるので・・・」
後ろから、エヴァさんとシャオリーさんが囁き合っているのが聞こえます。
政治的効果、ですか・・・まぁ、私はそれとは無関係にやりますが。
ただ結果として、そうした物の材料になるのはそれで構いません。
「晴明さん、スクナさん」
「恩人(アリア)、お帰りだぞ」
「陣はすでに敷き終えておるぞ」
先に来ていたスクナさんと晴明さんに声をかけると、すでに準備は終えたとのこと。
そして、私の目の前には・・・。
「・・・スタン爺様・・・皆・・・」
200体以上の石像が並んでいます。
私の故郷、ウェールズの村の・・・皆が。
半年以上前に連合に奪われましたが、クレイグ・コールドウェルと言う冒険者(トレジャーハンター)が発見し、さらに軍艦を派遣して回収しました。
旧公国領を併合した際に戦犯として捕らえられたメルディアナのお祖父様が、捜索の依頼を行っていたそうです。
そのため、減刑して助けることができました・・・。
クルトおじ様は、お祖父様を使ってメガロメセンブリアへの外交攻勢を強めるつもりのようですが。
ともかく、今日・・・ようやく、皆を助けることができます。
後ろを振り向くと、アーニャさんと視線が合いました。
「・・・」
メルディアナの特使としての立場でこの場にいるのですが・・・。
ある意味で、この場で気持ちを共有できる唯一の存在かもしれません。
アーニャさんはぎこちない笑みを浮かべて、頷いて見せました。
私も頷きを返し、前を見ます。
カチッ、と、左耳の支援魔導機械(デバイス)に触れます。
大きく息を吸い、そして吐きます。
それから・・・初めて使う、この支援魔導機械(デバイス)の起動コードを唱えます。
「・・・『チャオ・リンシェン』」
ハカセさんと2人で決めた、起動コード。
瞬間、支援魔導機械(デバイス)が私の魔力を吸って起動します。
強い輝きを放つと同時に、地面に描かれた晴明さんの陣と連動して永久石化解除の計算を始めます。
式自体は私がすでに計算しているので、あくまでも微修正のためです。
「・・・んーと・・・呪詛払い・・・」
加えてスクナさんが、周囲に解呪の効果を高める結界を張ってくれます。
ギンッ、と右眼の『複写眼(アルファ・スティグマ)』を発動。
さらに。
「・・・っ」
左眼の『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を発動。
永久石化した村人達から石化の式のみを取り除き、外部に排除します。
コレを200以上同時に、しかもこれほど短時間で行うのは人間には不可能です。
脳にかかる負担で、擦り切れてしまうからです。
しかし短時間でできなければ、解呪される側の村人が耐えられない可能性があります。
今も、閃光と目眩のような感覚が断続的に襲ってきます。
コレでも、負担の大半は支援魔導機械(デバイス)が負ってくれているのです。
無ければ私は今頃スプラッタなことになっています。
「・・・っ!」
それでも、私は解呪と排除を同時に行い続けます。
排除した石化の式を左眼で喰らい、右眼で村人達を健康な状態で固定化します。
石化の情報を喰らい、喰らって、喰らい続けて―――――。
ブチンッ、と何かが千切れるような音。
魔眼が限界点を超えた音。
でも何故か視界が閉ざされることは無く、血も流れません。
限界を超えても、働き続ける魔眼・・・。
処理すべき情報の量に、私の頭が痛みを訴え始め―――――――唐突に。
唐突に、全てが終わります。
バシュンッ、と音を立てて地面の陣が弾けて消え、支援魔導機械(デバイス)が活動を止めます。
発光が収まり、開けた視界に。
「・・・ぬ・・・」
6年・・・いえ、もう7年前になります。
夢にまでみた・・・姿。
「・・・スタン爺様!」
駆け出して、よろめくスタン爺様の身体を受け止めます。
冷たい石ではなく、温かさを感じられることに、涙が出そうになります。
「・・・せぬ・・・」
「え・・・何、何ですか? スタン爺様?」
「・・・やら、せぬぞ・・・」
「え?」
「・・・ナギの子供達は、やらせぬぞ・・・」
「あ・・・」
・・・そう、なのですね。
スタン爺様はまだ、あの村で・・・あの時のまま、私とネギを守ろうと、戦い続けていたのですね。
石にされてもなお、変わることなく。
まだ・・・あの場所に、いるのですね。
「ワシがおる限り、指一本・・・」
「爺様ぁ・・・!」
崩れ落ちるスタン爺様の身体を、必死に抱えて。
額を合わせて、私は涙を流してしまいます。
嬉しかった。
こんなになってもまだ、守り続けてくれていた爺様の心が、嬉しかったから。
「・・・もう、良いんです・・・爺様、ありがとう・・・」
「ぬ、む・・・」
その時、解呪直後で虚脱状態にあったスタン爺様の目が、初めてはっきりと私を捉えました。
「・・・お前、さんは・・・」
そんなスタン爺様に、私はできるだけの笑顔を浮かべて見せます。
「アリアです、スタン爺様・・・私、11歳になりました!」
ここまで育ちましたと、伝えられるように。
Side フェイト
窓の縁に腰かけて、月を見ながらコーヒーを飲む。
窓の向こうのカーテンは閉ざされていて、中の住人が起きているのかどうか、確認のしようも無い。
別段、何か約束をしているわけでもない。
ただ僕はこの半年間、決まった時間にここに来ている。
律儀と言えば聞こえは良いのかもしれないけれど、実際の所は僕自身、何かを期待していないわけじゃない。
毎日と言うわけでもないしね。
「・・・旨い」
自分でコーヒーを淹れるようになったのは、いつからだったろうか。
そんなことを考えながら、僕はただぼうっと月を見上げている。
・・・京都でアリアと初めて踊ったのも、こんな夜だったかな。
踊りと言うには、少しばかり荒っぽかったかもしれないけれどね。
・・・爵位級悪魔の永久石化を解いて見せたアリア。
人々は「女王の奇跡」と呼び、作為的なまでにその情報は魔法世界を駆け巡った。
実際、トリスタンにいるクルト・ゲーデルが広めているのだろう。
「・・・実際には、いずれ全ての人々が持つ力だ」
アリアの支援魔導機械(デバイス)程では無いにしても、似たような物がいずれは魔法世界に普及する。
魔力をエネルギー源にした「科学」。
工部省科学技術局のセリオナ・シュテットのチームが旧世界の技術を参考に、必死で理論を組み立てている所だ。
上手くすれば、5年ほどで形になるかもしれない。
・・・まぁ、そうした先の心配はともかく。
僕はマグカップを持っていない方の手に持っている青い小箱に、視線を落とした。
「・・・一応、サイズは合ってるはずだけど・・・」
何せ、アリアの身体のサイズを何があっても漏らさないと評判の絡繰茶々丸が、こっそりと教えてくれたのだから。
まぁ、アリアはまだ成長期だから、そこはまた考えなければいけないけれど。
・・・茶々丸は、将来のサイズ予測までしているらしいけど。
「・・・どうするかな」
言い訳をするつもりは無いけれど、出会ってからこれまで、流れと勢いで来た気がしないでもないしね。
そんな僕が婚約直前と言うのだから、とても妙な気分だよ。
さて、本当の所、僕は・・・。
「あ・・・もう来てたんですね」
カーテンが開き、窓が内側に開かれる。
その段階で小箱をポケットにしまい、マグカップを窓の縁に置く。
「またコーヒーですか? 飲み過ぎは身体、に・・・ん・・・」
・・・それでも僕は、この子の傍にいたいと思う。
眠らない僕のために、なるべく起きていようとしてくれる彼女の傍に。
以前のような求めるような激しさとは違い、何かを与えたい、そんな気持ちで。
片手で彼女の頬に触れて、屈むように彼女の唇を奪う。
この半年、アリアが僕を部屋に招き入れる時にはいつも、この行為(キス)から始める。
いつの間にか、それが僕の中のルールになっていた。
唇を離すと、どうも未だに慣れないらしい彼女は恥ずかしそうに頬を染めて、はにかむ。
それがとても、「愛しい」と思う。
「・・・しかも、ブラック?」
「僕は圧倒的な珈琲党だからね」
そんな会話をしながら、アリアの寝室に足を踏み入れる。
ネグリジェの上に薄い上着を着た彼女は、窓のマグカップを手にとって、窓を閉める。
「さて、今日は何からお喋りしますか?」
「ん・・・そうだね」
今日は、アリアにも話たいことがたくさんあるだろう。
それを一つ一つ聞くのも「楽しい」けれど、さて・・・。
「・・・アリア」
「はい、何ですか?」
さて、キミはどんな顔をするのかな?
・・・「楽しみ」だよ。
アリア:
アリアです。
今話をもちまして、第2部(魔法世界編)は終了となります。
私がここまで来られたのも、読者の皆様の有形無形のご支援・ご声援のおかげです。
本当に、ありがとうございます(ぺこり)。
作者共々、心から御礼申し上げます!
作中登場の「イヴィオン」。
提供は伸様です。
ありがとうございます。
アリア:
第3部のお知らせです。
原作である「ネギま」とは世界設定からして変化した、オリジナル編です。
基礎情報は「ネギま」ですが、第1部(麻帆良編)・第2部(魔法世界編)で前提条件がかなり異なりますので、オリジナルにならざるを得ません・・・。
名付けて、魔法王国編。
時間軸は今話から5年後、私が16歳になった時代になる予定。
なお、この32話の続きとして投稿しますので、新しく小説として立ち上げる予定はありません。
それでは、皆様・・・。
また、お会いしましょう!!