魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第28話「戦いの中で」

Side シャオリー

 

女王陛下の命を受け、ゲートポート部隊との連絡を取ろうとした直後。

祭壇に、巨大な魔力の塊が出現した。

背筋に冷たい物が走り、背後を確認しようとした時。

 

 

「全員、伏せてください・・・!!」

 

 

視覚で確認するよりも先に、聴覚が女王陛下の声を捉えた。

そして自分の思考よりも先に、身体が反応する。

伏せた瞬間、凄まじい衝撃が頭上を通り過ぎて行った。

黒い熱波と共に、悲鳴が響き渡る。

 

 

顔を上げると、仲間の兵が何人も倒れ、亜人の身体が花弁のように散っていた。

不謹慎だが、本能よりも忠誠心を置いた方が助かることもあるのだと再確認した。

 

 

「な、何だ、何が起こった!?」

 

 

私がそう叫んだ次の瞬間、二撃目が来た。

二回目の衝撃は、一度目のそれよりは緩やかな衝撃だったような気がした。

 

 

「ぐ・・・ぬぉっ!?」

 

 

衝撃に耐えて顔を上げた直後、数センチの距離の所にギザギザの刃のついた機械のような物が刺さった。

数センチズレていれば、私の頭を貫く・・・いや、砕いていただろう。

次いで、70歳前後と思われる人間の男が私の傍に倒れた。

さらに続いて、私の目の前に刺さっているのと同じような物を持っている兵士達が数名、ドシャッ・・・と落ちてきた。

 

 

こんな奇妙な武器を使う連中は、近衛や親衛隊の中でも一つしかない。

 

 

「ば・・・バカな、南洋のナイトデビルと呼ばれた、このワシが一撃じゃと・・・!」

「わ、我々の、チェーンソー殺法が通じないだなんて・・・!?」

「し、信じられない・・・こんなコトが・・・っ」

 

 

親衛隊、第18部隊「テキサス・チェーンソー」。

隊員が使う技は良く分からないが、精強な部隊として知られていた。

 

 

「て・・・テッシン殿!? コレは一体・・・!?」

「おお、シャオリー殿であるか・・・ぐふっ」

 

 

慌てて助け起こすと、屈強な身体を持つ歴戦の老兵は、苦しげな声を上げた。

 

 

「不覚・・・敵の親玉の攻撃から陛下をお守り参らせようとしたのじゃが、この様よ・・・」

「て・・・テッシン殿! 誰にやられたのですか・・・!?」

「そ、それは・・・!」

 

 

テッシン殿は、くわっと両目を見開いた。

 

 

「それは・・・言えぬ・・・!」

「な、何故です!?」

「・・・この柳山鉄心、女王陛下の不利益になるようなことは・・・言えぬ!」

 

 

そう言って、テッシン殿は気を失った。

自分達を倒した者の名を言うことが、女王陛下の不利益になるとは・・・?

い、いったい、何が起こっているのだ。

 

 

「・・・『銀の福音(シルバー・ゴスペル)』! 衛生兵! すぐに来てくれ!」

 

 

ともかく、状況を把握しなければ。

陛下は、女王陛下はご無事なのか・・・!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「さぁ・・・世界を救おうか」

 

 

エヴァさんがそう呟いた瞬間、エヴァさんの周囲に膨大な魔力が発生しました。

エヴァさんの物とは違う、しかし同じくらいに深みのある魔力。

右眼の『複写眼(アルファ・スティグマ)』で視たその構成から、広範囲攻撃魔法であると知ります。

 

 

「全員、伏せてください・・・!!」

 

 

周りの人達に注意を促した後、私はエヴァさんとの仮契約カードを取り出し、『千の魔法』を手に。

ページをめくって・・・防御します。

 

 

「『千の魔法』№71、『減衰防壁』!」

 

 

この魔法は、私の周囲の空間を魔法の効果が働いていない空間と”相似”させることによって、あらゆる魔法攻撃を打ち消す防御壁を作り出します。

本来であれば、あらゆる魔法を打ち消してくれるのですが・・・すり抜けました。

防ぐこと無く、エヴァさんの放った魔法がこちらへ・・・!

 

 

「きゃっ・・・!」

「アリア先生!」

 

 

がばっ、と茶々丸さんに抱き締められて、床に引き倒されました。

私の上に、茶々丸さんが・・・。

 

 

衝撃。

 

 

魔力の塊が、頭上を通り過ぎて行くかのような感覚。

風圧が凄くて、目を開けていられないくらいです。

 

 

「・・・ダメ!」

 

 

次に目を開けた時、チェーンソーを振り上げた兵士の方々がエヴァさんに斬りかかっていました。

どう言う意味で「ダメ」と言ったのかは、私にもわかりません。

私の言葉のためか、それともフードの中の顔を見たからかはわかりませんが、チェーンソー部隊・・・「テキサス・チェーンソー」の方々の動きが一瞬、止まります。

 

 

再び、衝撃。

 

 

周囲の兵の人達が、吹き飛ばされました。

思わず、悲鳴を上げそうになります。

私の、せいだ・・・!

 

 

「・・・アリア先生、お怪我は!?」

「だ、大丈夫です、けど・・・!」

「ふむ、コレはどう言うことであろうな」

 

 

目の前。

目の前に、黒いローブに身を包んだエヴァさんが立っていました。

 

 

茶々丸さんが床に膝をついた体勢で、私を背に庇うようにしています。

しかし、ある意味で戸惑いは私以上でしょう。

目の前で、まるで初めて私達を見たかのような表情をするエヴァさん。

エヴァさんは、不思議そうに首を傾げて、私達・・・いえ、私を見ていました。

 

 

「・・・そこの娘から、月の女神(シンシア)の匂いがする」

 

 

シンシア・・・シンシア姉様?

姉様の・・・匂い?

 

 

「お前は、何だ。何故、お前がシンシアの魂を持っている?」

「マスター・・・ですか?」

「ふむ・・・我が妻、太陽の女神(アマテル)はまた墓か・・・?」

 

 

茶々丸さんの問いかけにも、エヴァさんは答えません。

何かを思案するような仕草を見せた後、エヴァさんは私を見下ろしました。

それから感情の見えない、空虚な笑みを浮かべて、言いました。

 

 

「まぁ、胸を開いて・・・直接、見た方が早かろう」

 

 

ギシッ・・・何かが軋むような音を立てて、空気が張り詰めます。

・・・誰ですか。

この人は、エヴァさんだけどエヴァさんじゃありません。

 

 

エヴァさんの姿をしたその人が、私に手を向けた瞬間。

胸の奥で、何かがザワめくのを感じました。

切なくて、苦しくて・・・怖い。

左眼が、疼く。

 

 

「い・・・」

 

 

何かを言おうとした、その時。

シュドドドドドッ、と白い刀が複数、私とエヴァさんの間に突き刺さりました。

 

 

「・・・陛下に触んなゴルゥァアッ!!」

 

 

白い着物と般若の仮面を纏った親衛隊の副長さんと、隊員の方々が少し離れた位置に見えました。

先の一撃で吹き飛ばされたからか、どことなく土埃で汚れています。

 

 

「・・・ここは、騒がしいな」

 

 

直後、エヴァさんと私の足元にだけ、魔法陣が展開されました。

この構成・・・転移!?

 

 

「マスター・・・アリア先生!?」

 

 

 

茶々丸さんの声が耳に届いた時には、すでに転移は終了していました。

 

 

 

・・・ここは、どこでしょう?

廃墟のようですが・・・水の無い噴水・・・広場ですかね・・・?

 

 

「覚えているか、月の女神(シンシア)

「・・・!」

 

 

崩れた建物の上に、いました。

黒いローブの、様子のおかしいエヴァさんが。

 

 

「ここはオスティアの市街地。私とアマテル、そしてお前の3人で基礎を設計した場所だ」

 

 

オスティア・・・?

おそらくは、旧オスティアの市街地でしょうか。

だとすれば、不味いですね。

ゲートポートを挟んで、「墓守り人の宮殿」の反対側です。

 

 

皆からかなり、離れてしまいました。

さっきのエヴァさんの台詞から考えると、かなりヤバい気がします。

 

 

「・・・お前は誰だ。何故、月の女神(シンシア)は私に応えない・・・?」

 

 

フ・・・と私の目前に降りてきたエヴァさんは、首を傾げながら言います。

正直、意味がわかりません。

 

 

「・・・貴女は、誰ですか。エヴァさんに何をしたのですか・・・!」

「・・・私か? 私はこの世界の創造主・・・」

 

 

ライフメイカー。

 

 

・・・エヴァさんの身体で、でも別の人の名前。

これは・・・思ったよりもかなり、不味い状況のようです。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

ぐ・・・あ、危なかったよ、今のは。

片手で祭壇の床からブラ下がっている体勢で、私はそう思った。

何人かの兵は落ちたようだから、運が良いのか悪いのか、微妙な所だけど。

 

 

「マスター・・・アリア先生!?」

 

 

どうにか身体を上に戻した時、茶々丸の悲鳴のような声が聞こえた。

次いで転移の気配、見てみれば・・・黒ローブとアリア先生がどこかに転移した所だった。

黒ローブが転移したことで、圧迫するような空気も無くなる。

追跡するかどうか、できるのかどうか思案していると。

 

 

パシッ・・・背後で、そんな音がした。

振り向くと、フェイトに良く似た少年が私の背後にいた。

確か・・・さっき、クゥィントゥムとか名乗っていたかな。

身体の節々から、電気のような物を発している。

 

 

「任務、了解」

 

 

傭兵としての勘が告げる。

かなりの、強敵だと。

 

 

「・・・目標を殲滅する」

「・・・み」

 

 

密集するな、と周囲の仲間に注意を促そうとした瞬間、その少年から雷で編まれた分身体が複数、放たれた。

私の魔眼でも捉えるのがギリギリの速度で、分身体が疾走する。

それらが周囲の兵に襲い掛かる、1秒前。

 

 

全て、撃ち抜いた。

 

 

思考するよりも速く銃を抜き、撃った。

分身体の頭が、弾ける。

だがそれは一瞬のことで、すぐに再生して仲間達を蹂躙していく。

 

 

「おいおい・・・!」

 

 

肉体を、完全に雷化している。

見るのは初めてだが・・・こんな技法があるのか、まさに本物の雷だな。

狙撃銃の弾丸が秒速1000m・・・雷の速度は秒速150km。

つまり、私が撃つよりも速く。

 

 

キュンッ、と、クゥィントゥムの身体が私の懐に入っていた。

バシンッ・・・腹部に衝撃。

 

 

「・・・!」

 

 

私に苦手な距離は無い、とは言っても。

この速度が相手ではな・・・!

 

 

と言うか、秒速150kmの打撃とか、どう避けろと?

魔眼で捉えるのが限界だぞ、ギリギリでついていけていることを褒めてほしいくらいだ。

ガンッ・・・と顎を撃ち抜かれた。

一瞬、意識が途切れかけた所に、蹴り。

 

 

「・・・ちぃっ!」

 

 

身体を後方に飛ばされつつも、両手に持った銃を撃つ。

だが、銃弾の速度では捉え切れない。

初撃で当てられたのは、相手が分身だったからだろう。

キュキュアッ、と音を立てて、私の身体を前後左右から打ち据えてくる。

 

 

「・・・ふっ」

 

 

腰の翼を動かして、空中で姿勢を固定する。

当然のように、先回りした少年に背後から攻撃される。

後ろに撃つ、かわされる。

・・・肉を切らせても、骨を断てないとはね・・・!

 

 

半魔族(ハーフ)である私を屈服させる程の重みは無いが、この手数の多さ。

厄介だね。倒されないかもしれないが、倒せもしない。

 

 

「・・・魔族か」

「半分だけね」

 

 

短く会話を交わして、数秒間、睨み合う。

そして次の瞬間には、戦闘が再開された。

 

 

・・・すまない、アリア先生。

ちょっと、助けに行けそうに無い・・・!

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

マスターとアリア先生が、消えました。

いえ、アレは本当にマスターだったのでしょうか。

肉体的には、マスターであったと断言できるのですが。

 

 

「ヤ・・・ヤバカッタゼ・・・」

「姉さん!?」

 

 

タンッ、と私の傍に着地したのは、灰銀色の狼。

その口に咥えられているのは、間違い無く姉さんです。

先程のマスターの放った一撃で、吹き飛ばされていたようです。

 

 

「・・・ゴシュジン、ドーシチマッタンダ・・・?」

「・・・わかりません」

 

 

データベースに照合しても、あのような事例は存在しません。

それでも候補を見つけるとすれば、何らかの洗脳、あるいは高位の精神体タイプの魔族に憑依されたケースに類似しています。

 

 

その場合、非常に不味い状態です。

現状、「魔法使い」としてのマスターの身体に勝利できる者は存在しません。

同時に、そのようなマスターを支配下におけるような存在に勝利できるような者も、おそらくは存在しないでしょう。

 

 

「・・・やれやれ、今度は人形や動物が相手かい」

 

 

その時、フェイトさんと魔力の波長が酷似した少年が私達の前に降り立ちました。

容姿も、髪型や目つきを除けばほぼ同じです。

確か、クゥァルトゥムさんと名乗っていましたね。

クゥァルトゥムさんは全身に炎を纏い、こちらへと近付いてきます。

 

 

不味いです。

ジリジリと距離をとりつつ、臨戦態勢をとります。

 

 

「・・・一刻も早く、マスターとアリア先生を追わねばならないのですが」

「その必要は無い、キミ達はここで消えるんだから。幸い・・・人間もいないようだしね」

 

 

私、姉さん、カムイさんの3択なら、確かに人間はいませんが。

不味いですね、おそらくはフェイトさん級の相手。

カムイさんが未知数ですが、それでも勝率は24.6%・・・。

 

 

「勝率など、考えずとも良い」

 

 

突然、私達の目の前に水の柱が発生しました。

ザザザザ・・・と渦巻いていたそれが、数秒後に飛散して消えます。

 

 

その中から現れたのは、詰襟姿の女の子。

短めの白い髪を靡かせて現れたのは、晴明さんを頭に乗せた・・・セクストゥムさんでした。

 

 

彼女は私達を背に、クゥァルトゥムさんを見据えています。

 

 

「・・・命令持続を確認、お義姉様(じょおうへいか)の障害を排除します」

 

 

抑揚の無い声で、セクストゥムさんがそう告げました。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

肉体的な強さでは、真祖の吸血鬼であるエヴァさんの身体には敵うはずも無く。

魔力保有量でも、どうやら歯が立たないようです。

さらに言えば、<造物主(ライフメイカー)>の能力はあり得ません。

アーティファクトの効果が通用しないのも、<造物主(ライフメイカー)>の能力の一つでしょうか。

 

 

こちらの攻撃が一切通用しないとわかった段階で、私は逃げにかかりました。

胸を開いて魂をどうのと、不吉なことを言われれば逃げるしかないでしょう?

しかし、結論から言えば。

 

 

「・・・あぐっ!?」

 

 

着地し損ねて、ズダンッ、と建物の屋根から地面に落ちます。

かなり痛いですが、泣き事は言ってられません。

落ちた勢いを利用して跳ね起き、王家の剣を杖代わりにして、体勢を整えます。

 

 

起きた目の前に、エヴァさん・・・いえ、<造物主(ライフメイカー)>がいました。

 

 

・・・さっきまで屋根の上にいたはずなのに。

いるはずの無い人に先回りされること程、精神的にクる物はありませんね。

 

 

「・・・お前は、普通の人間か?」

 

 

首を傾げながら、手を伸ばしてきます。

反射的に、その手を払います。

次いで大きく後ろにバックステップ、逃走を図ります。

さっきから、この繰り返しです。

どうも、今の所、直接的にダメージを入れてくる気配は・・・。

 

 

ズムッ、とお腹に重い衝撃を感じました。

<造物主(ライフメイカー)>の左拳が、突き刺さっていました。

・・・方針転換、速く無いですか・・・!?

 

 

「・・・ぁ、か!?」

 

 

次いで首筋に衝撃、意識が一瞬、途切れます。

顔が地面にぶつかる衝撃で、意識が戻ります。

そこから、先程のお腹への一撃の鈍い痛みが、脳に届きます。

 

 

吐きそうな程の鈍痛が、お腹全体に広がります。

重い・・・重い、拳。

まさに、エヴァさんの一撃です・・・!

 

 

とは言え、いつまでも寝ているわけにもいきません。

痛みを堪えて跳ね起きて、瞬動で移動・・・しようとした瞬間、<造物主(ライフメイカー)>の蹴り。

とっさに両手を交差させてガードします。

それだけで数mの距離を吹き飛ばされますが、ガードでき・・・!?

 

 

「う、ぁ・・・!?」

 

 

ギシリ、と背骨が軋みます。

背後に移動していた<造物主(ライフメイカー)>の肘が、私の背中を抉っていました。

カシャンッ、と剣を取り落とします。

そこから腕を取られ、頭を掴まれて建物の壁に叩きつけられます。

あまりの痛みに、悲鳴も上げられません。

 

 

おまけに腕が極められていて、ミシミシと音を立てています。

・・・折ら、れる・・・!

 

 

「・・・とりあえず、四肢を砕いて調べよう」

「じ・・・い、いいぃぃいぃ・・・っ!?」

 

 

ゴリ・・・と額と頬を石造りの壁に押し付けられて、呻き声と悲鳴の中間のような声を上げます。

全力で抵抗していますが、それでも少しずつ、腕が、腕・・・!

 

 

『・・・ア!』

 

 

・・・?

今、何か聞こえたような・・・。

 

 

『・・・アリア!』

 

 

・・・エヴァ、さん?

 

 

『通じたか!? 良し! オイこらアリア! 何をやってる!?』

 

 

え、何で・・・?

 

 

『仮契約カードで意識がリンク・・・いや、それは良い! 反撃しないか! 骨を砕かれるぞ!?』

 

 

カード・・・まだ、持ってる・・・?

いえ、それは後で良いですね、反撃・・・?

 

 

『逃げてばかりでは無く、攻撃しろ! 死ぬぞ!?』

「いえ、でも、エヴァさんの身体・・・」

『私の身体は不死だ! 良いからやれ、バカ!』

「・・・でも・・・!」

『いいからヤれ!』

 

 

念話・・・とは少し違う感覚、頭に響く声。

その時、<造物主(ライフメイカー)>に極められていた左腕が、ビキッ、と言う音を立てました。

折られる寸前の痛みに、反射的に「創造」します。

 

 

「・・・何と」

 

 

<造物主(ライフメイカー)>が小さく驚いたような声を上げ、数歩ほど私から距離をとります。

腕を解放された私は、壁に背中をつけつつ、左肩を擦ります。

左手には・・・刃渡り80センチ程の投擲用の剣。

魔法具、『黒鍵』が握られていました。

 

 

聖書のページで作られたとされる刀身には、複雑な紋様が描かれています。

投擲用なので、打ち合いには向きませんが・・・。

 

 

『良し・・・良いか、私に構うなよ、殺すつもりでヤれよ!』

 

 

頭に響く声。

エヴァさんが私のことを案じてくれる、声。

 

 

「・・・ますます、お前を調べたくなった」

 

 

一方で、<造物主(ライフメイカー)>から放たれる圧迫感が増しました。

それに対し、私は身体に力を込めます。

逃げる選択肢は、実行不可能です。

・・・かと言って、エヴァさんの身体を傷つけたくも、無い。

 

 

『構うなと言うに!』

「・・・いいえ!」

 

 

ぐんっ・・・と右手を握りこんで、創造します。

瞬時に、一本の刀が私の手の中に収まります。

 

 

「散りなさい・・・」

 

 

貴女を・・・助けます! エヴァさん!!

・・・取り戻す!

 

 

「『千本桜』!!」

 

 

無数の花弁が、私の視界を埋め尽くしました。

 

 

 

 

 

Side のどか

 

ネギ先生に運ばれて、ゲートポート付近を飛んでいます。

ネギ先生は麻帆良でお父さんの杖を壊してしまっているので、私に『浮遊』の魔法をかけて、手を繋いで引っ張っている格好です。

 

 

私のもう片方の手には、『いどのえにっき(ディアーリウム・エーユス)』が握られています。

これが無いと、私はネギ先生のお役に立てませんから・・・。

 

 

「ここが、ゲートポートのはずだけど・・・」

 

 

しばらくして、私とネギ先生はゲートポートに降り立ちました。

でも、誰もいない・・・と言うか、床とか凄く壊れてる・・・。

たぶん、真ん中の大きな石がゲートだと思う。

淡く光ってるけど、少しずつ光が消えて行っています。

 

 

空に浮かんでいる麻帆良の街並みも、少しずつだけど消えて言ってるような気がします。

・・・このゲートの魔力と、比例してる・・・?

 

 

「あの・・・ネギせんせー・・・?」

 

 

ここには、誰もいないんじゃ・・・。

そう言おうとしたけど、ネギ先生は何かを感じているのか、キョロキョロとあたりを見渡しています。

・・・邪魔しちゃいけないから、待っていよー・・・。

 

 

ここ、少し寒い気がする・・・一部の床とかに氷がついてるもん。

でも、どうしてここにだけ・・・?

 

 

「・・・見つけた!」

「ふぇ?」

「のどかさん、一緒に・・・行くと危ないかもしれないので、ここで少し待っててください!」

「え、え・・・あ、はいー」

「行ってきます!」

 

 

バヒュンッ・・・と空を切って、ネギ先生が飛んで行っちゃいました。

何を見つけたのかはわからないけど、ちゃんと待ってないと・・・。

 

 

『・・・あのー・・・』

「ひえっ!?」

 

 

ぺたん、と座り込んだ所で、すぐ傍から男の人の声が聞こえました。

わ、わわわ・・・ネギせんせー!

 

 

『いえ、あの・・・そんなに驚かないでください』

「え・・・?」

 

 

また声がして、今度はよく探してみる。

すると、氷とか石の破片の下に、とても古そうな本を見つけました。

乱雑に開かれたまま放置されているそれを、私はそっと持ち上げます。

 

 

『あー・・・助かりました。魔力不足で移動できない物でして』

「ほ、本が喋ったー・・・?」

『今日び、本くらい喋りますよー』

 

 

そ、そうなのかなー・・・?

え、ええと、この本は何だろう・・・?

 

 

『ああ、申しおくれました、私・・・』

 

 

私の考えが伝わったわけでもないだろうけど、本が自己紹介を始めました。

ま、魔法世界って感じ・・・。

 

 

『私、クウネル・サンダースと申します。しがない司書をやっている者です』

 

 

く、クウネルさんって、もしかしてー・・・?

学園祭の時の・・・私は、直接は会ったこと無いですけど。

でも、どうしてここに?

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

早く、早く・・・自分にそう言い聞かせるように、僕は空を飛ぶ。

いくつかの浮き島を飛び越えて、僕は目的の場所に到着しました。

まだ召喚魔とかもいるかもしれないから、のどかさんには待っていて貰いました。

 

 

目的地の浮き島には、強い魔力の痕跡がありました。

知っている魔力が2つに、知らない魔力が1つ。

知らない魔力については、この際は考えなくても良いと思う。

もう一つは、たぶんエヴァンジェリンさんのだと思う。

ここまで強い闇属性と水属性の気配は、エヴァンジェリンさん以外には残せないと思います。

 

 

問題は、もう一つの魔力。

これは痕跡じゃなくて、その物が残っています・・・。

 

 

「・・・!」

 

 

この魔力、忘れられるはずが無かった。

6年前、僕はこの魔力を記憶に刻んだのだから。

 

 

「と・・・父さん!?」

 

 

赤い髪に、精悍な顔つき。

憧れて、求めて、追いかけて・・・ずっと、思い描いていた人。

完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』・・・まさに、夢の中にまで見た人。

 

 

ナギ・スプリングフィールドが、僕の目の前にいました。

僕の、父さんが。

 

 

・・・どういうわけか、もの凄く怪我してるけど。

 

 

「と、父さん!? 父さん、大丈夫ですか!?」

 

 

え、ちょ、どうしてこんなことに!?

父さんを見つけただけでも凄いのに、何故か大怪我してる。

これは、いったい何がどうなって・・・!?

 

 

「・・・う・・・」

「父さん!?」

「・・・っるせぇな、誰だよ・・・つーか、目が覚めた途端に何で怪我してんだ俺・・・」

 

 

気が付いた!?

何だか、少しボーっとしてるけど、目が覚めた!

 

 

「何だコレ、全部折れてるとかありえねぇ・・・ってーか、アリカはどうした・・・あー・・・」

「父さん! 僕です、ネギです! わかりますか!?」

「あーっと、確か<造物主(ライフメイカー)>の野郎と殴り合って、それから結構長ぇ間、『幻想空間(ファンタズマゴリア)』で戦り合ってたような・・・?」

「父さん! 父さんってば!!」

「ん~・・・あー・・・「お父さん!」だあああぁぁぁっ、うっせぇんだよてめぇっっ!!」

「ぷめればっ!?」

 

 

ガスンッ、と鈍い音を立てて、殴られました。

え・・・殴られた!? 何で――――――!?

顔面から地面に落ちて、転がる僕・・・。

 

 

「うっお痛ぇ!? 腕も折れてんじゃ・・・・・・うん?」

「うぅ・・・酷いです父さん・・・」

 

 

殴られた頬を擦りながら起き上がると、父さんが僕の顔を訝しげに見つめてきました。

そのまま、じー・・・と見てきます。

それから、驚いたような顔になって。

 

 

「お前、ネギか! 何でこんな所にいんだよ?」

 

 

ええ!? 殴ってから気付いたの・・・!?

な、何と言うか、若干イメージと違う気が・・・。

 

 

 

 

Side アリア

 

「『闘(ファイト)』、『速(スピード)』、『気(オーラ)』、『力(パワー)』!」

 

 

ジャカッ、と4枚のカードを取り出し、即座に発動。

久しぶりに感じるブーストの感触、私の力と速さ、武術の習熟度が跳ね上がります。

 

 

とは言え、相手はエヴァさんです・・・中身は<造物主(ライフメイカー)>ですが。

私の『複写眼(アルファ・スティグマ)』には、エヴァさんの肉体に複雑に絡み合う何かが映っています。

アレを引き剥がさなきゃ、いけないんですよね・・・!

 

 

『だから、殺すつもりでヤれと言ってるだろうが!』

 

 

仮契約カードを通じて聞こえるエヴァさんの声。

しかし、その言葉は聞かなかったことにします。

私が、エヴァさんを殺せるはずが無いですから。

 

 

・・・私とエヴァさんの戦績は、訓練まで含めると57戦57敗・・・。

最初の1勝、ここで勝ちとります!

 

 

「『闇よ、在れ』!」

 

 

左手に『黒叡の指輪』を装備、腕を振ります。

6匹の黒い影獣が現れ、<造物主(ライフメイカー)>の周囲を高速で旋回します。

 

 

「・・・<リライト>・・・」

 

 

紡がれたのは、世界を終わらせる魔法。

次の瞬間、私の影獣は全滅しました。

・・・私の魔法具の効果も打ち消せる所を見るに・・・!

 

 

「・・・む?」

 

 

しかしすでに、影獣の影に隠れる形で私は<造物主(ライフメイカー)>の懐に潜り込んでいます。

ふっ・・・と、掌底を繰り出します。

くんっ、と首を逸らしてかわす<造物主(ライフメイカー)>。

そこから腕を曲げて、<造物主(ライフメイカー)>の首に手を添えます。

 

 

「・・・ふっ!」

 

 

『力(パワー)』の加護がある私の力は、凄まじい物があります。

<造物主(ライフメイカー)>が宿っているエヴァさんの小さな身体では、ひとたまりもありません。

そして『速(スピード)』の速さによって、先回り・・・『黒い靴』!

私の両足に黒いブーツが装着され、魔力の炎がブースターのように燃え上がります。

 

 

「・・・はっ!」

 

 

ゴンッ・・・<造物主(ライフメイカー)>を蹴り上げます。

普通にガードされますが、衝撃は殺せずに身体は空中へ。

 

 

ぐんっ、と右手を握ると、空中に漂っていた桜色の花弁・・・『千本桜』の刃が一斉に<造物主(ライフメイカー)>に襲いかかります。

しかし、それらの刃が<造物主(ライフメイカー)>を包み込んだのは一瞬。

次の瞬間には、パンッ・・・と音を立てて消えてしまいます。

 

 

「・・・っ!」

 

 

背後に気配を感じて、とっさに呪文が刻まれた扇、『神通扇』を創造します。

顔だけで後ろを見ると、<造物主(ライフメイカー)>の手が私に向けて伸ばされています。

 

 

――――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル直伝。

合気鉄扇術――――逆腕絡み。

『神通扇』を軸に相手の腕を取り、床に叩き伏せます。

ギギ・・・と<造物主(ライフメイカー)>の左腕を極めました、ここから・・・っ!

 

 

パンッ・・・と、『神通扇』までもが消えてしまいました。

ど、どう言う原理で・・・。

これまで、私の魔法具を消してしまうような相手には出会ったことがありません。

まさに、未知の相手・・・!

 

 

「・・・模造品だな」

 

 

素早く離れ、距離を取ります。

黒い革手袋、『ヴォイドスナップ』を創造・・・パチンッ、と指を鳴らして、<造物主(ライフメイカー)>を重力場の中に取り込みます。

しかし重力場の中にあって、<造物主(ライフメイカー)>は普通に動いています。

 

 

・・・これは、私の力が弱いとか、相手の力が強いから・・・とかではありませんね。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』は、<造物主(ライフメイカー)>が自分の身体の周りに無数の障壁を展開しているのを見抜いています。

フェイトさんの物よりも厚い、曼荼羅のような魔法障壁・・・!

 

 

「私の女神(シンシア)の力を模造するお前は・・・誰だ?」

 

 

答える必要を感じませんので、無視します。

『リライト』の発動まで、たぶん10分を切っています。

時間もありません、一刻も早く祭壇に戻る必要があります。

フェイトさんが祭壇に戻れたとしても、私がいなければ話が始まりません。

 

 

どんっ・・・と瞬動で移動、床に落ちていた王家の剣を左手に持ちます。

魔法具による直接的な効果が届かないとしても、他の手段なら。

それにしても、私の魔法具はシンシア姉様から頂いた力で創造している物です。

普通の魔法とは、根本が違うはずなのですが。

 

 

「使えてはいても・・・理解してはいない」

「・・・」

 

 

・・・そう言えば、この力の根っこの部分。

何故、使えるのかについて、私は考察したことがありませんね。

何となく使えるから、使っている・・・そのような感じでしょうか。

 

 

相手は<造物主(ライフメイカー)>・・・。

もし本当なら、私よりも2600歳以上、年上です。

私より強いのは、当然と言えば当然でしょうが・・・。

 

 

「本やゲームの世界なら、都合良く新たな力に目覚めたりできるんですけどね・・・!」

 

 

しかしどうも、そのようなことにはならないようです。

となれば、今ある物でどうにかするしかありません。

 

 

「・・・ふむ」

 

 

<造物主(ライフメイカー)>の周囲に、無数の黒い魔法陣が浮かび上がりました。

それぞれの魔法陣の中心に、エヴァさんの物とは明らかに違う、黒い魔力が収束していきます。

 

 

「・・・っ」

 

 

左眼の『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』が熱を持ち始めます。

・・・ちょっと、いえ、かなり・・・。

 

 

ヤバいです。

そう思った次の瞬間、膨大な魔力が私に向けて放たれました。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン(造物主)

 

アマテルの話を聞いた時、<造物主(ライフメイカー)>は何も代価を払わずにこの世界を創ったのかと思っていた。

だがどうも、違うらしい。

取り込まれたことで、ある程度の情報を知ることができた。

 

 

<造物主(ライフメイカー)>と言うのは、この世界の創造者の呼び名であると同時に、術式の名前なのだ。

こいつは、自分の名前と肉体を代償に魔法世界を創造し、かつ維持している。

これもまた、ナギの見つけた「世界の秘密」とやらの一つか・・・。

 

 

魔法世界創造と、持続の術式・・・<造物主(ライフメイカー)>。

ナギは、こいつをどうするつもりだったんだ・・・?

 

 

「・・・そこまでして、この世界を創るとは・・・」

 

 

こいつに取り込まれてなお、私の意思が残っている理由はわからん。

シンシアの肉体として完全に取り込めずにいるのか、それとも単に肉体の本来の持ち主だからか、はたまたアリアとの繋がりのおかげか・・・。

可能性はいろいろとあるが、今はとにかく、私の意思が残っていることを幸運に思うか。

 

 

とは言え・・・アリアめ。

私に構うなと言うのに・・・。

 

 

『全てを喰らい・・・』

 

 

視覚を共有しているのか、それとも見せられているのかはわからんが。

とにかく、私はいつも通りの視点で全てを見ることができている。

身体は、ほぼ自由にはならんが・・・。

 

 

『・・・そして放つ!』

 

 

<造物主(ライフメイカー)>の黒い魔力の嵐の中を、アリアは駆けている。

カードのブーストの力を借りて、かつ左眼の魔眼の力を借りて、嵐の中を駆けている。

 

 

だがそれでも、<造物主(ライフメイカー)>にまでは到達できない。

左眼からは、すでに血が流れ始めている。

アマテルの幻想空間(ファンタズマゴリア)の中で<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>に触れた時から、すでに右眼も限界直前だったはずだ。

だから・・・。

 

 

・・・だが、今は魔眼の力で凌げているとしても、それが切れれば直撃する。

こいつにはアーティファクト同様、アリアの魔法具の大半が通じない可能性がある。

こいつは、アマテルとシンシアの主人(マスター)でもあるのだからな・・・!

 

 

「アリア!」

 

 

仮契約カードを通じて、アリアに呼びかける。

それしかできない自分がもどかしいが、何もできないよりは良い。

 

 

「私を殺せ!!」

 

 

我ながら無茶を言うと思いつつも、しかし必要だと思うから、言う。

私を殺せば、祭壇に向かえる。

祭壇に向かえば、若造(フェイト)や茶々丸達と合流できる。

それから『リライト』を発動した後、<楔の術式>を動かしに行けばいい。

 

 

『・・・できない!』

「バカ! このバカが! 私の身体は不死なんだ、多少の無茶はできるんだよ!」

『できません!』

「聞け! 再生可能なギリギリまで私の身体を痛めつけろ、そうすれば再生までに少し時間がかかる! だがその後、私に触れるなよ・・・<造物主(ライフメイカー)>がお前に移るからな!」

 

 

自慢では無いが、この600年で私は自分の身体の再生力を把握している。

焼かれようと斬られようと、私の肉体は再生する。

だが、身体のほとんどを損壊すれば私の身体も、そうすぐには再生しないはず・・・!

 

 

「だから、ヤれ!!」

『・・・嫌です!』

「ヤれ!」

『嫌!!』

「この、わからず屋が!」

 

 

その時、<造物主(ライフメイカー)>の一撃がアリアの身体を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

眼が、霞みます。

左肩を撃ち抜かれました・・・『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』の効果が弱まっているのか、再生が遅いです。

カードによるブーストは生きていますので、まだ<造物主(ライフメイカー)>の攻撃はかわせています。

 

 

ですが、どうも動きを読まれて来たようで・・・。

先程までの乱打と異なり、狙撃されている印象を受けます。

狙撃と言うには、数が半端無いですけどね・・・!

 

 

『お前がここで倒されたら、意味が無いだろうが!!』

 

 

頭の中に、エヴァさんの声が響きます。

 

 

『ここに到達するまでに、何人も倒れた・・・死んだ奴もいる! 世界の、いや、お前のためにだ!』

「・・・!」

『だから、アリア!』

「・・・そんな言い方、ズルいです・・・っ!」

 

 

アデアット・・・『千の魔法』・・・!

直接は効果がありませんが・・・№55・・・『千の雷(キーリプル・アストラペー)』・・・!

バリッ・・・と、膨大な雷が左手の王家の剣に纏われます。

この剣は魔法に対して、とても強い融和性を持ちます。

 

 

近接戦闘が得意な魔法使いが、たまにやる『術式装填』の術式に似ていますね。

・・・『千撃の雷姫』・・・!

 

 

『卑怯なのはわかってる・・・気遣ってくれるのも嬉しい、だがな!』

「・・・っ!」

『アリア!!』

 

 

雷を纏った剣を振り、今度は直進します。

<造物主(ライフメイカー)>を目指して、駆けます。

 

 

<造物主(ライフメイカー)>の黒い魔力を弾き、斬り裂き、魔眼で吸って、直進します。

密度が上がり、私の身体も撃ち抜かれます。

右肩、お腹、左足・・・頬を掠めた、その時。

ズダンッ・・・と、私は<造物主(ライフメイカー)>の目の前に降り立ちました。

 

 

左手が撃たれ、王家の剣が弾かれます。

しかしその時には、私の右手に別の剣が握られています。

 

 

『天鎖斬月』。

 

 

漆黒の日本刀・・・普通の日本刀より少し長く、卍型の鍔に、柄頭に途切れた鎖がついています。

私の残りの魔力が凝縮されたその刃は、エヴァさんの身体と言えども・・・斬り裂くでしょう。

不死殺しの武器とかもありますが、それをやるとエヴァさんが・・・。

 

 

弾かれた剣は拾わずに、左手はそのまま<造物主(ライフメイカー)>の目の前に。

・・・「壁」を解析、解除・・・!

カシャンッ・・・と音を立てて、障壁が崩れます。

・・・知覚されて、<リライト>を受ける前に。

 

 

 

『殺せ――――――――――っ!! アリア――――――――――――――――――っっ!!』

 

 

 

振り・・・抜きます!!

半歩後ろに下がるように、『天鎖斬月』を<造物主(ライフメイカー)>の左脇腹から、上に。

斬り上げ・・・。

 

 

・・・その時。

<造物主(ライフメイカー)>・・・エヴァさんの目が、私を。

不思議そうな瞳で、私を見つめてきて。

 

 

 

「―――――――――――――――――――――――――――――――――――ッッ!!」

 

 

 

『アリア』・・・優しい声で私を呼ぶエヴァさん。

『アリアッ』・・・楽しそうな声で私を呼ぶエヴァさん。

『アリア!』・・・怒ったような声で私を呼ぶエヴァさん。

『アリア?』・・・不思議そうな声で私を呼ぶ、エヴァさん。

 

 

そんなエヴァさんが・・・私はとても好きです。

エヴァさんの全部が、大好きです。

・・・だから・・・。

 

 

 

パキンッ。

 

 

 

あっけない音を立てて・・・振り抜いた刀が、柄を残して砕けました。

砕けないはずの刃が、砕けました。

 

 

<リライト>では無く・・・きっと、私の意思で。

<造物主(ライフメイカー)>の・・・エヴァさんの身体は、無傷で。

それに、ホッとしてしまう自分が・・・どうしようもなく、愚かに思えて。

 

 

『このっ・・・バカがああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!』

 

 

だから、エヴァさんにそう言われるのも、きっと当たり前で。

<造物主(ライフメイカー)>に首を掴まれて、その魔力で鞭打たれるのも、きっと。

きっと、当たり前で――――――。

 

 

「あ、ああああああぁああぁああぁあああぁぁああぁああぁああぁあっっ!?」

 

 

肉体よりも、頭の中身を打って来るかのような痛み。

頭の中身を、弄られているかのような痛み。

自分の中を、弄られているかのような痛みが、身体の中を駆け抜けて。

 

 

「あ、あああぁぁぁっ・・・あ・・・ぅ・・・」

 

 

意識が途切れないのは、相手がそう望んでいるからでしょうか。

次第に身体から力が抜けて、声も出せなくなります。

ダラリ・・・と、手足から力が・・・。

それでも、首を絞める力は緩まりません。

 

 

ぐぐっ・・・と持ち上げられたまま、私は襟元を掴まれる感触を感じます。

そのまま・・・ビリリッ、と音を立てて、服の胸元が破かれました。

普段であれば、もう少し抵抗するのですが・・・。

 

 

「・・・ぅ・・・」

 

 

左胸を直に触れられる不快感に、私は小さな呻き声を上げます。

そしてそれが、精一杯の意思表示です。

ツツ・・・と、<造物主(ライフメイカー)>の指先が、何かを探すように私の肌の上を滑ります。

 

 

『アリア! くっ・・・そ! 止まれ、やめろアリアに触るなあああぁぁぁぁぁっっ!!』

 

 

エヴァさんの声が、聞こえます。

い、息が、できな・・・。

 

 

『・・・誰でも良い! コイツを・・・私を止めろ! 止めてくれ!! アリアを助けろっ!!』

 

 

ピタリ、と、<造物主(ライフメイカー)>が何かを見つけたかのように、指を止めます。

ザワリ、と胸が不快感で満たされます。

何・・・何を、して・・・。

 

 

ズズ・・・と、胸の中の何かを、掴まれたような。

そんな、感触が・・・あ、あああ、ああああぁぁぁ・・・!?

 

 

『私に・・・アリアを傷つけさせるなあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!』

 

 

エヴァさんの声が・・・意識、が。

私の意識が、途切れる・・・刹那。

 

 

 

 

      ゴシャッ

 

 

 

 

<造物主(ライフメイカー)>の横顔に、何かがぶつかりました。

大きな・・・人の頭よりも大きな、石の塊でした。

それが<造物主(ライフメイカー)>の横顔にぶつかった拍子に、私の身体が床に落ちました。

ガクンッ・・・と、崩れ落ちるように床に手をつきます。

 

 

「・・・何?」

「えほっ・・・けほっ・・・」

 

 

片手で喉元を押さえて、咳き込みます。

肺が、空気を求めて悲鳴を上げています・・・。

 

 

 

「・・・それ以上、彼女に触れるな・・・」

 

 

 

コツッ・・・コツッ、と足音を響かせて・・・。

一人の少年が、姿を現しました。

 

 

白い髪、同じ色の無機質な瞳。

顔や衣服の所々に、土埃をつけて・・・。

彼は、静かにこちらへと歩いて来ていました。

 

 

 

「・・・彼女の全てを奪って良いのは、僕だけと言うことになっていてね・・・」

 

 

 

・・・どうして、ここに。

困惑しますが・・・でも、嬉しいと感じる自分がいます。

嬉しくないはずが、無かった。

 

 

 

「目覚めたばかりの貴方に・・・それ以上」

 

 

 

フェイトさんは・・・静かに。

でもどこか、確かな「怒り」を込めて・・・言いました。

 

 

 

 

     「手出しは、させない」

 




フェイト:
フェイト・アーウェルンクス。
・・・やれやれ、随分と好きに暴れてくれた物だね。
・・・・・・やるかな、うん。

今回、初めて登場した魔法具があるね。
黒鍵:リード様提案、元ネタはFate。

後は魔法案として、『千撃の雷姫』・・・剣の舞姫様だね。
ありがとう。


フェイト:
次回は、僕も参戦するよ。
今までで一番、やるよ。
そうだね・・・具体的には。
・・・・・・殺るよ?

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