魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第27話「造物主」

Side アリア

 

「では、手順とそれぞれの役割を確認します!」

 

 

私がそう声をかけると、いろいろな方向から返事が返って来ました。

役職上、私が一番偉いので、私が場を仕切っています。

・・・何だか、女王と言うより教師みたいな感じがしました。

修学旅行の引率みたいな。

 

 

まぁ、実際にはそんなに平和的ではありませんが。

限りある人員と資材を、効率的に振り分けねばなりません。

 

 

「まず、フェイトさんとラピス中佐率いる『銀の福音(シルバー・ゴスペル)』部隊の大半は私と一緒にここで『リライト』の管理です。私とフェイトさんは発動後は<初代女王の墓>に向かうので、その間に撤退の準備もお願いします」

「うん」

「「「仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)!!」」」

 

 

フェイトさんと『銀の福音(シルバー・ゴスペル)』の皆さんが返事を返します。

部隊長の女性、旧世界はアイルランド出身のレイチェル・ラピス中佐と視線を交わした後、次へ。

 

 

「次にエヴァさんと千草さん達、関西呪術協会、及びスコルツェニー中佐率いる『白騎士(ヴァイス・リッター)』部隊と『銀の福音(シルバー・ゴスペル)』部隊の一部はゲートポートへ。<造物主(ライフメイカー)>の移送を行って頂きます」

「ふん、別に私一人でも良いんだがな」

「いや、そうもいかんやろ・・・」

「「「仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)!!」」」

 

 

順番としては、エヴァさん達の作業の終了後に旧世界との繋がりを断つ作業に入り、そこから『リライト』になるわけですがね。

<造物主(ライフメイカー)>の封印がどうなるのかが微妙ですが、仕方がありません。

 

 

なお、ドイツ系美男子な『白騎士(ヴァイス・リッター)』隊長、オットー・スコルツェニー中佐を見ると、不敵に笑っておりました。

・・・無茶はしないでくださいね。

親衛隊の方ですから、無理かもしれませんが。

 

 

「クルトおじ様は、『ブリュンヒルデ』で宮殿の頂上部に接舷してください。今なら古代の迎撃兵器群も停止していますから」

仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)。にわかには信じがたい状況のようですが・・・一つ報告が。タカミチ・T・高畑がそちらに向かっております』

「タカミチさんが・・・?」

『どうも、ネギ君と姫御子を救出に来たそうで・・・一応、ご注意を』

「・・・わかりました」

 

 

召喚魔が消えたのが影響しているのか、通信も問題無くできるようになりました。

最下層のクルトおじ様との通信を終えると、私は他の階層の方々にも連絡を取ります。

 

 

「茶々丸さん、真名さん、シャオリーさんも順次上がってきてください。また、近衛騎士団、親衛隊各員は各々の判断で上の私の所か、下のクルトおじ様の所に集合してください」

『わかりました』

『わかった』

『仰せのままに』

『『『光の速さで上に向かいま――すっっ!!』』』

 

 

・・・良いですけどね、嬉しいですし。

と言うか、本当に元気ですね、親衛隊の皆さん。

えーと、チャチャゼロさんは私の頭の上ですし、カムイさんは丸くなってますし。

 

 

「それでは皆さん、これが最後です・・・頑張りましょう!!」

 

 

私がそう言うと、鼓膜が破れるんじゃないかと言うくらいの声が返って来ました。

ただ、エヴァさんも竦めて皆さんバラバラの言葉で、しかも個性的でしたが・・・。

 

 

お義姉様(じょおうへいか)

 

 

・・・?

今、どこかで聞いたことのあるような、落ち着いた女の子の声が頭の中に響きました。

たぶん、念話だと思いますけど・・・。

 

 

「えー・・・っと? もしかして、セクストゥムさんですか?」

『肯定です、お義姉様(じょおうへいか)。私と晴明は旧世界との繋がりを断つ作業に入りますので、そちらを手伝うことができませんので』

「あ、はい、お願いします・・・?」

 

 

プツンッ、と切れる念話。

・・・お義姉様って何でしょう?

 

 

「・・・どうしたの?」

 

 

私と一緒に<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>を持っているフェイトさんが、不思議そうに声をかけてきました。

ああ、いえ、何でもありませんよー・・・と、答えようとした刹那。

私の脳内で、電撃的にある公式が走り抜けました(意味不明ですね)。

 

 

セクストゥムさん → フェイトさんの妹さん。

セクストゥムさんの「お義姉様」 → どうも私のことらしい。

ずばり、この公式から導き出される解とは!?

 

 

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

    ぼんっ

 

 

 

 

 

Side 墓所の主(アマテル)

 

・・・何やら、アリアの周辺が騒がしいのぅ。

「顔が赤い」だの「にゃんでも・・・何でもないでしゅ!」だの「止めるなチャチャゼロ、あの若造が殺せない!!」だの「もう・・・好きにしぃや」だの・・・

 

 

こんな状況で、良くもあんな楽天的な空気を出せる物じゃの。

後、28分しか無いのじゃぞ?

『リライト』発動後は、1時間もせぬ内に全てが『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』に取り込まれる。

それまでに全てを引っ繰り返す必要があると言うに・・・。

 

 

「あの・・・アマテルさん」

「うん?」

 

 

振り向けば、ネギが何か言いたげな顔で私を見ておった。

その後ろには、『いどのえにっき(ディアーリウム・エーユス)』を持った若い娘がおる。

ちなみに、私にアーティファクトは一切、効果が無いぞ。

 

 

ふーむ、何じゃ、そっちの話かの?

まぁ、人生の先達として男女の機微と言う物を若者に教えるのも、私の役目と心得ておるが。

 

 

「父さん達のことで、お聞きしたいことがあるんですけど・・・」

「何じゃ、そのようなつまらん話か」

「つ、つまらない?」

「いやいや、何じゃ、何を聞きたい。今なら暇じゃし、何でも答えてやるぞ?」

 

 

実際、<造物主(ライフメイカー)>の「帰還」までは暇じゃしな。

それに<紅き翼(アラルブラ)>の連中も、嫌いでは無いしの。

 

 

「あ、あの、父さん達は本当に、世界中の人に負担を・・・みたいなことを、考えていたんでしょうか」

「うん? うーむ、私も彼らでは無い故、わからぬが・・・」

 

 

そもそも、負担という言い方が正しいのかどうか。

人々が本来、支払うべき負担・・・それをたった一人に背負わせておる現状こそがおかしい。

連中の考えは、そこにあるのじゃろ。

 

 

人間を舐めるな、人間はいつまでも私達の「庇護対象(こども)」では無い。

それが、ナギ達<紅き翼(アラルブラ)>の言い分だったと思う。

 

 

「まぁ・・・お前の父親が底抜けのバカと言うか、単純に『強かった』と言うのもあるわけじゃが」

「そ、そうなんですか・・・」

「どんなイメージを持っておったのかは知らぬが・・・うむ、奴は一言で言って『バカ』じゃ」

 

 

だからこそ、真っ直ぐで、憎めなかったのかもしれんが。

だからこそ・・・一番、人間的だったのかもしれんが。

 

 

「じゃあ・・・何も、問題は無いんですよね?」

「問題?」

「はい、その・・・このまま進んで」

「それは・・・どうじゃろうのぅ」

「え?」

 

 

紅き翼(アラルブラ)>の連中は悲観的では無かったが、楽観的でも無かった。

大戦を潜り抜けただけあって、思考のどこかが現実主義的(リアリズム)じゃった。

 

 

「例えば、今の世界が続くわけじゃが・・・つまり今ある問題はそのまま残ると言うことじゃ」

 

 

戦争、紛争、内乱にテロ。

食糧不足に経済格差、人種差別に戦災・天災孤児、難民問題・・・。

何一つ、改善されはしない。

 

 

「じ、じゃあ、父さん達が間違ってるんですか・・・?」

「別に間違ってはいまいよ。『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』にした所で、選択肢の一つでしか無いのじゃから。世界は・・・」

 

 

世界は、そう簡単にできてはいない。

世界の監視者である私の目から見ても、そう思う。

 

 

「それどころか、新たな問題も発生するじゃろうしな」

「あ、新しい問題?」

 

 

ナギ達は、最強にして最高の魔法使いじゃった。

だが彼らが他の魔法使い達と一線を画していたのは、魔法の力をどう位置付けているか、と言うただ一点にこそあった。

 

 

<魔法など、数ある手段の一つに過ぎない>

 

 

・・・<楔の術式>の発動後、『リライト』によって魔法世界の人々は詠唱呪文を使えなくなる。

魔法世界で存在できるギリギリまで、12億人分の魔力・・・世界中の魔力を集める。

それは、<造物主(ライフメイカー)>に匹敵する膨大な魔力じゃ。

それを使い、発動する・・・魔法世界「更新」の大魔法。

 

 

魔法世界に生きる者、全てに「楔」の術式が分散される。

一人一人が世界を背負う。

誰か一人では無く・・・全員で。

 

 

「この世界から、魔法が消える」

 

 

その代わり、人々が日常的に使っている詠唱魔法の大半は使えなくなる。

魔力や精霊が完全に失われるわけでは無いし、何らかの手段で現在の鯨船や浮き島を維持することもできるだろうが。

 

 

じゃが、「魔法」は失われる。

さて、魔法世界の人間は、それに耐えられるかの・・・?

 

 

 

 

 

Side 千草

 

リョウメンスクナと<造物主(ライフメイカー)>、どっちの方が強いかって言うと、たぶん<造物主(ライフメイカー)>の方が強いんやろうなぁ。

ああ、でも神様やしなぁ・・・っても、不完全とは言え、その神様を一撃で消し飛ばした人がうちの隣におるけど・・・。

 

 

「何だ、千草」

「いや、別に何も・・・」

 

 

この金髪の子、実は600歳やて?

はぁー、人は見た目で判断したらあかんなぁって、あり得へんから!

何をどうしたら、肉体を維持したまま600年も生きとれる言うねん。

普通、あり得へんわ。

 

 

しかもこの子、滅茶苦茶な強さやからな・・・。

ほんま、この子に勝てる存在なんてこの世におるんかいな。

 

 

「・・・実際の所、どう思う? 向こうの世界から戻しても<造物主(ライフメイカー)>は封印されたままやと思うか?」

「あり得んな。麻帆良の下に封印されているあたりで、それくらいわかる」

「せやろなぁ・・・」

 

 

いくら関東魔法協会の本部やて言うても、一般人もおるんや。

そないな場所に、<造物主(ライフメイカー)>を好き好んで封印するわけが無い。

そこでするしか無かったから、他の場所でやる余裕が無かったから、麻帆良の下で封じた。

つまり・・・。

 

 

「魔法世界では、<造物主(ライフメイカー)>は封印できひん可能性が高い」

「そう言うことだな」

 

 

この点において、うちとエヴァンジェリンはんの意見は一致しとる。

あの墓所の主を今の所、信頼しきらん言う点でも同じや。

結局の所、あの墓所の主は<造物主(ライフメイカー)>側やろ、旦那らしいしな。

 

 

「そうは言うても、戻さんと何が起こるかわからんし・・・」

「選択肢が無い、と言うのは辛い所だが・・・仕方があるまい」

「せやな・・・鈴吹! サボんなや!」

「月詠たんの前でサボるはずが無い!」

「やかましぃわっ!」

 

 

ほんっとに、あのボケ職員は・・・呪うでマジで。

鈴吹だけやない、他の関西呪術協会のメンバーやアリアはんらの部下も、うちとエヴァンジェリンはんの指揮で動いとる。

西洋魔法と陰陽術の混合術式。

 

 

・・・本山の連中が聞いたら、腰抜かすんちゃうやろか。

まぁ、とにかくオスティアのゲートの周囲に西洋魔法と陰陽術のそれぞれの封印術を施して、その外側に混合術式の封印術を施した。

まぁ、気休めにしては強力やけど・・・。

 

 

「元々の考案者は、晴明だがな」

「あのお方は、神様やさかい・・・」

 

 

晴明様以外のお人がやったら、陰陽師が暴動を起こすで。

冗談抜きで。

 

 

「へ! 何が出てくるんか知らへんけど、俺がおれば問題あらへんて!」

「もう終わりですか~?」

「いや、しかしここは気を引き締めて行くべきだろう」

「お前は話しかけんな!」

 

 

・・・小太郎と月詠は、いつも通りやね。

それにしても、何や最近、カゲタロウはんと仲ええなぁ、あの子ら。

良く一緒におるけど。

 

 

「・・・家族って、凄いなぁ」

「何だ、急に」

「いやぁ、そんな大したことやないよ。ただ・・・凄いなぁって思うて」

「意味がわからんが・・・まぁ、わからんでも無いな」

 

 

そう言って、エヴァンジェリンはんはちょっとだけ笑うてくれた。

でも本当に、家族って凄いわ。

 

 

そこにおってくれるだけで、こんなにも頑張れるんやから。

本当に、凄いなぁ・・・。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

犬っころ・・・小太郎達の方を見て優しげに微笑む千草を見ながら、私は考える。

アマテルは、<造物主(ライフメイカー)>が私と何かの関係があると言っていた。

詳しいことは言わなかったが・・・聞きだす時間的余裕も無かったしな。

 

 

「・・・まぁ、これから会えるのだとすれば、直接聞けば良い話か・・・?」

 

 

しかし・・・おかしいな。

15年前、ナギに麻帆良に封印されるまでは、私はほぼ誰とも交流を持っていなかったのだが。

麻帆良に封じられてから、私と関係を持った者か?

いや、それでも<造物主(ライフメイカー)>などと言う大層な奴と関係したことは無い。

 

 

それに、必ずしも封印が解けると決まったわけでも無い。

まぁ、確率で言えば高そうだが・・・推測でしかないしな。

 

 

「・・・やはり、アマテルに聞きだした方が早いな」

 

 

『リライト』の後、アマテルに聞き出すことにしよう。

保留と言う形で結論付けてから、私は目の前に屹立するゲートを見やった。

すでに封印は解かれ、後は旧世界側から転移させるのみだ。

対象は向こう側のゲートに触れる形で封印されているらしいから、移動に際し問題はあるまい。

 

 

「良し、では・・・転移開始! 転移終了後に再封印処理だ!」

「関西も、封印術式管理、シャンとしぃや!」

 

 

私と千草の声に合わせて、ゲートが稼働する。

20年使われていないらしいが、破壊はされていないからな。

少々手間取った物の、何とか無事に起動したようだ。

 

 

魔力が充填され、床の魔法陣が輝きだす。

次元跳躍大型転移魔法が発動。

ウォンッ・・・と言う音と共に、衝撃が走る。

光の柱が、上空の魔力の膜を突き破り・・・着弾。

 

 

「む・・・」

 

 

転移の際の発光量が思ったよりも大きく、両目を庇うように腕を交差させる。

そして発光が収まった後には・・・煙。

濛々と白い煙が立ち込めていて、周りが良く見えん。

流石に20年ぶりに使っただけあって、十全とはいかなかったか?

 

 

「煙に構うな! 封印術式を発動しろ・・・いや、待て!」

 

 

煙の中から、誰かが出てくる。

誰だ、まさか<造物主(ライフメイカー)>か・・・?

ノーリアクションで封印が解除されたのか?

まさか、そこまで・・・?

 

 

「・・・おや、久しぶりですね、エヴァンジェリン」

「・・・アル?」

 

 

だぼっとした白いローブに、リボンでまとめた黒髪。

そこにいたのは、アルビレオ・イマだった。

・・・何で、奴がここで出てくるんだ?

 

 

しかも、いつも飄々とした顔をしてるアルが、今はどこか苦しそうだ。

何と言うか、押せば砕けそうな気配が・・・。

 

 

「最悪のタイミングですね・・・よりにもよって、貴女がここにいたとは・・・」

「あ?」

「逃げ・・・」

 

 

急速に、魔力が膨れ上がった。

 

 

「・・・!?」

 

 

ゾワリ・・・と、肌がザワめいた。

身体が竦む。

・・・真祖の吸血鬼の私が、身体が竦む?

バカな、そんなはず・・・。

 

 

「取り込まれ・・・」

 

 

何かを伝えようとしたらしいアルが、乾いた音と共に砕け散った。

カシャッ・・・と砕けて、アルが消える。

死んだ? いや、どうも違うようだが・・・。

 

 

次の瞬間、黒い閃光が走った。

アルのいた位置を通り過ぎて、一直線に、私へ。

回避・・・身体が、動かな

 

 

「危な・・・っ!?」

 

 

突然、誰かに突き飛ばされた。

誰に?

隣にいた、天ヶ崎千草に。

 

 

無様に、地面に転がる。

顔を上げる、そしてそこには。

 

 

 

ドシャッ・・・。

 

 

 

重い音を立てて、千草が床に倒れた。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

「・・・!」

 

 

階段を駆け上がる足を、止める。

上の階層に視線を向けて・・・戦慄する。

私では勝てない何かが、この上に現れた。

直感で、わかる。

 

 

傭兵としての・・・いや、種族としての勘がそう告げているんだ。

上はヤバい、逃げろと。

行くなら下だと、上にはけして行くなと・・・。

 

 

「上層部、旧ゲートポート周辺に高濃度魔力反応」

 

 

隣にいる茶々丸も、足を止めて明後日の方向を向いていた。

濃厚な魔力の気配のする方向を見ている。

左眼の魔眼で見ているが、濃度が高いとか量が膨大だとか、そう言うレベルでは無い。

けれど、悪魔のような禍々しさは感じない。

 

 

むしろ、どこか清らかで、落ち着いた魔力を感じる。

天使と言うのが実在すれば、こんな感じの魔力を持っているのだろうね。

だけど、底知れない何かを感じる。

 

 

「とは言え・・・上に行く以外の選択肢が無いわけだけど」

「当然です。上ではマスターとアリア先生が我々を待っているのですから」

 

 

エヴァンジェリンが助けを必要とする事態が、ちょっと想像できないけどね。

あの人は本当に、規格外だから。

 

 

「龍宮殿――っ、絡繰殿――っ!」

 

 

その時、下から聞き覚えのある声が聞こえた。

それと、無数の人間が階段を駆け上がって来る足音。

 

 

「シャオリー! 無事だったか」

「女王陛下のご命令ですから」

 

 

下の霊廟の広場で召喚魔を迎撃していたシャオリーが、生き残りの近衛騎士を引き連れて駆け上がって来た。

ただ、流石に疲れている様子で、少し息を切らせている。

 

 

「休むか?」

「いえ、一刻も早く女王陛下の下へ参りましょう。じきに親衛隊も上がって来ましょうから」

「・・・そうかい」

 

 

何となく、ご主人に褒めてもらいたがっている忠犬を想い浮かべてしまった。

まぁ、近衛のイメージとしては間違っていない気もする。

 

 

それに実際、下の方を見ると「女王陛下のためにー!」とか叫んでる声が聞こえる。

・・・船に近い奴は、船に向かえば良いのに。

 

 

「とにかく、上へ向かいましょう・・・嫌な予感がいたします」

 

 

・・・ロボットの茶々丸が「嫌な予感」。

それは、確かにヤバそうだ。

 

 

「その通りです・・・何が起こっているにせよ、女王陛下の盾は一枚でも多い方が良い」

 

 

盾、ね。

肉の盾と言う意味で言っているのなら、シャオリーは本当に忠犬だろう。

・・・でもそこに、私を含めるのはやめて欲しいな。

 

 

傭兵と言うのは任務の達成以上に、自分の生存の確率を高める努力を怠らない人種なのだから。

 

 

 

 

 

Side リュケスティス

 

・・・ふむ、どうやら当面の脅威は去ったようだが。

回復した通信、召喚魔の襲撃がやんだ現在の状況を考えるに、そう考えて問題無いだろう。

俺もなかなかどうして、強運の持ち主のようだな。

 

 

「・・・どうやら、勝利したと考えて問題無いだろう」

「今の内に補給を推奨する」

 

 

竜人のリアン・パルクス殿と戦車部隊のクラウゼ・シュタイナー殿が、左右からそれぞれそう言う。

我々は、14両の戦車を円形に並べた円筒陣の中心にいた。

戦車を背に、市街地の広場に座り込んでいる。

 

 

集団戦では勝てそうにない上、機動戦でも勝機は薄かったからな。

火力を盾に閉じこもっていたと言うわけさ。

相手の知能が低かったために、かなりの戦果を上げた。

 

 

「いや~・・・楽しかったねぇ」

「アレを楽しかったと言えるのは、貴官ぐらいだろうよ」

 

 

戦車の砲塔の上に座っているマリア・ジグムント・ルートヴィッヒ殿にそう言うが、ニヤニヤと笑うばかりだ。

ちなみに、この魔族は一人で敵を乱れ撃っていた。

弱い攻撃で召喚魔を一ヵ所に集め、そこに大魔法をぶち込むと言うえげつない戦法で。

戦果は上がっていたから良かったが、敵にはしたくないタイプの魔族だ。

しかもあと2人、友人がいるらしい。

 

 

・・・と言うか、今、気が付いたのだが、私の左右と頭上に人間がいないのだが。

私の戦友も、なかなかの多種族構造になった物だな。

普通ならこれほど多様な人種の混成軍、碌な戦果を上げられんぞ。

 

 

「まぁ・・・生き残れたのなら、それを喜ぶとしよう」

「うむ」

「肯定」

「僕は魔界に還るだけだけどね~」

「「「・・・乾杯」」」

「あれ、無視? 傷ついちゃうな~」

 

 

補給物資の中から小さな酒瓶を探し出してきて、それをリアン殿、クラウゼ殿と分けて飲む。

ルードヴィッヒ殿は無視する、魔族だから私達のやるせない感情とかを勝手に食糧にするだろう。

 

 

ふと、「墓守り人の宮殿」のあるであろう方角を見れば、光の柱のような物が立っていた。

ふむ・・・どうやら、こちらは終わっても、向こうはまだのようだな。

援軍に行こうにも、そのための移動手段が無い。

艦隊は全て出払っているし、大規模転移をするような余裕もあるまい。

 

 

「・・・グリアソンは、生きているかな」

 

 

待ちの体勢、か。

やるべきことはまだ多くあるが、「墓守り人の宮殿」に関することには手が出せない。

まぁ・・・我が女王の凱旋を待つとしようか。

 

 

凱旋で無ければ、滅びが来るだけだ。

大した違いではあるまいよ。

 

 

 

 

 

Side シオン

 

泣き声が聞こえるわ。

いつ聞いても、泣き声と言うのは耳障りね。

聞いてるこちらまで、気が滅入ってくるもの。

 

 

「シスター、しすたぁ・・・ココネ、ごめっ・・・ごめええぇぇ・・・っ!」

「・・・美空・・・」

 

 

泣き声は嫌いよ。

私は静寂を好むの。

落ち着いた空間で、静かに本を読むのを好むような女の子なのよ?

 

 

「お、お姉さまっ、どうしましょう・・・泣き止んでくれません・・・」

「あ、貴方達、きっとご両親は無事ですから!」

「「「うえええぇぇぇんっ!」」」

 

 

しかもその泣き声が大合唱してるとなれば、もう最悪ね。

もう、本当に嫌いよ。

悲しみと言うのは、連鎖するのだから。

風邪と同じで、他の人に移るのだから。

 

 

「しっかし、ここからどうすっかねぇ」

 

 

その点、ロバートは泣かないわね、当たり前だけど。

むしろ泣かれると対処に困るのだけど。

 

 

「てめーの前で泣くかよ、後が怖いっつーの」

「あら、殊勝な心がけね」

「で、どうするよ。たぶん動けねぇぞ、もう」

「そうね・・・」

 

 

シャークティー先生に抱きついている春日さんは元より、他の子供達もこれ以上は動かせないわ。

体力的にも精神的にも、限界だもの。

特に赤ちゃんが辛い・・・母親が見つかると良いのだけど。

 

 

それを抜きにしても、どこに向かえば良いのかがわからない。

下手に動くと危険かもしれないし・・・。

 

 

「とりあえずは・・・このまま待機するしかないわね」

「マジか」

「それ以外に何か方法があって?」

「あー・・・助けを呼びに行くとか?」

 

 

ロバートにしてはオーソドックスな反応ね。

でも、できればそれも避けたいわね。

何が起こるか分からないから、無駄に元気な男手のロバートを手放したくは無いわ。

それに、助けてもらえる程の余裕が相手にあるかもわからない。

 

 

さっきの戦闘な最中に、私の端末も壊れてしまったし。

碌な情報も無く、動くべきでは無いわ。

 

 

「最終的には、シャークティー先生の判断に従いましょう」

「ま、それしかねーかー・・・あー、他の奴らも無事だと良いけどな」

「・・・無事よ、きっとね。何を当たり前なことを言っているのかしら?」

「・・・だな」

 

 

・・・今のは、私らしくなかったわね。

事実よりも願望を優先させてしまうだなんて、恥ずかしいわ。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「「「しょ、所長――――――――――っっ!?」」」

 

 

瞬間的に、千草ねーちゃんの匂いのする所へ跳んだ。

視界が少し悪くても、狗族の俺は匂いで正確な位置がわかるんや。

だから、煙を引き裂くように瞬動で走るくらい軽いもんや。

 

 

「千草ねーちゃん!?」

 

 

目の前に、倒れた千草ねーちゃんがおる。

ねーちゃんの匂いに混じって、鉄みたいな匂いがする。

抱き起こすと、ぬるっとした何かが手についた。

 

 

血。

 

 

ちょ、マジかオイ。

この量と勢いはヤバいって、本能的にわかる。

き、傷口、傷口はどこやねん・・・!?

 

 

 

「・・・誰に当たった・・・?」

 

 

 

煙が晴れる。

煙を片手で払うようにして、中から出てきたんは男や。

圧力は感じひん。

すげぇ強ぇ奴を前にした時みたいな、圧迫感は全く感じひん。

 

 

けど、わかる。

コイツは、ヤバい。

俺の中の狗族の血が、コイツには絶対に勝てへんって叫んどるのがわかる。

 

 

「・・・旧世界人(ウェテレース)か。それは悪いことをした」

 

 

黒いローブの男。

全身をローブですっぽり覆ってて、顔はみえへん。

けど、身長は高めやし、声も意外と若いな、男か?

 

 

「痛みを与えるつもりはなかった。本当に申し訳ない・・・すぐに、楽園へ送ろう」

 

 

そいつが、こっちに手を向けた。

ゾワリ、身体中に悪寒が走る。

はよ、逃げなアカン。コイツはマジでヤバ・・・!

 

 

「――――二刀連撃」

 

 

そいつの後ろに、月詠のねーちゃんが現れた。

速い、しかもいつもの間延びした喋り方やない。

月詠のねーちゃんの殺気が、いつもの倍くらいの圧力を持っとる気がする。

しかもあの速度、マジで殺(ヤ)るつもりで。

 

 

「斬鉄閃!!」

 

 

振り下ろされた刀は、けど、相手に届かへんかった。

ゴギンッ!

刀とは思えへん鈍い音、2本の刃は黒ローブの手前で止まっとる。

障壁か・・・?

 

 

けど、それで月詠のねーちゃんに気付いた黒ローブが、こっちに向けてた手を月詠のねーちゃんに向けた。

・・・う。

 

 

「うぅおおおぉおおらぁあああああああぁぁぁっっ!!」

 

 

次の瞬間、10数メートルの距離を一気に跳んで、黒ローブの胸に掌底を叩きこんだ。

けど、障壁で防がれて届かへん。

フェイトの野郎の障壁よりも厚いんとちゃうか。

 

 

本能でわかる、勝てへん。

けど、それがどうした!?

コイツは、千草ねーちゃんをやりやがったんやぞ!?

ここで退いたら、俺は自分を許せへん!!

 

 

「小太郎はん!」

「コイツだけは・・・俺が!!」

 

 

ギャンッ、と火花を散らしながら空中で回転して、月詠のねーちゃんが俺の隣に降りてくる。

掌底を引っ込めて、両手に狗神を集めて突貫する。

それに、月詠のねーちゃんが合わせてくる。

 

 

「『黒狼・・・!」

「――――斬鉄閃』!!」

 

 

狗神をねーちゃんの刀の刀身に纏わせて、放つ。

黒い刃と気が、黒ローブの身体を打つ。

せやけど、一歩も動かへん。

攻撃が通らん。

 

 

舐めやがって・・・!

余裕、ぶっこいてんじゃねぇぞてめええぇぇぇぇっっ!!

 

 

「『我流犬上流』!」

「『神鳴流・奥義』!」

「『狗音』!!」

「『斬魔剣』!!」

「「『爆砕拳―――――――弐の太刀』!!」」

 

 

月詠のねーちゃんの刀の腹に拳を当てて、刃を押し出すようにして殴る。

障壁を素通りしたそれは、黒ローブを一歩だけ後ろに退かせた。

けど・・・。

 

 

「・・・素晴らしい力だ」

「ぐっ・・・てめぇ!」

 

 

黒ローブは、片手で俺らの拳と刀を受け止めとった。

片手で相殺!? 交差する瞬間を狙ったんか・・・!?

 

 

「真っ直ぐな感情と、狂的な剣の中に静かな愛情を感じる」

 

 

はら・・・と、顔を覆ってたフードが風圧で落ちる。

赤い髪の、若い優男やった。

一見、熱血そうな印象やけど・・・目や。

目が。

 

 

「人間は、やはり素晴らしいな」

 

 

とても、澄み切った目やった。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

ドンッ・・・!

小太郎と月詠の技の衝撃が、ゲートポート全体を揺らした。

しかし、衝撃で吹き飛ばされたのは小太郎と月詠の方だった。

 

 

「いかんっ・・・鈴吹殿、千草殿を頼む!」

「う、うっス!」

 

 

千草の傷口を素早く影で止血していたカゲタロウとか言う奴が、関西呪術協会の部下に千草を預けて飛び出した。

 

 

「『百の影槍(ケントゥム・ランケアエ・ウンブラエ)』!!」

 

 

カゲタロウの片腕が100本の影の槍に分かれて、黒ローブの男に放たれる。

しかしそれは、1本も当たらない。

逆に、黒ローブに触れた瞬間・・・。

 

 

カシャア・・・ンッ、と音を立てて、全ての槍が砕けて消えた。

何が起こったのか、わからない。

だがカゲタロウは、最初から黒ローブを倒す気は無かったのだろう、躊躇なく跳んだ。

気を失い、ゲートポートから地表へと落下していく小太郎と月詠の2人を空中で掴んだ。

 

 

「ぬぅううおおおおおぉぉぉ・・・っ!!」

 

 

そのまま2人を安全圏に運ぶ意味もあるのだろう、下へと落ちて行った。

しかし、私にはそんな彼らを気にしている余裕は無かった。

 

 

「やはり、人間は素晴らしいな」

 

 

ふざけたことを落ち着いた声で話す、その男。

フードを下ろし、素顔を晒しているその男から、私は目を離すことができない。

 

 

赤い髪、精悍な顔つき。

身体中から放つ魔力の感じは、15年前とはまるで違うが。

アレは・・・あいつは。

 

 

「・・・ナギ・・・?」

「うん・・・ああ、お前は」

 

 

間違い無い、ナギだ。

だが、何故、ここでナギが出てくる?

ゲートから出てきたのは奴一人、となれば奴は造物主・・・。

 

 

「・・・幻術か」

 

 

今までの情報から考えて、ここでナギが出てくるわけがない。

ならば、コレは幻術だ。だが、いつの間に術に嵌まった・・・?

 

 

「いいや、本物だよキティ」

 

 

その男・・・ナギの姿をした男は、穏やかに微笑んだ。

澄み切った目だ・・・とても純粋で、邪気一つ感じない。

ナギの顔で微笑まれると、少し胸が痛む。

15年前、わずかな日々を共にした記憶。

・・・まぁ、ほとんど相手にされていなかったわけだが。

 

 

そして同時に、コイツは本物の「ナギ」では無いと確信する。

あいつは、そんな声音で私を「キティ」とは呼ばなかった。

 

 

「お前は・・・誰だ?」

 

 

片手で周囲の兵に下がるように指示を出す。

関西の連中を安全圏にまで出さねばならん・・・私を庇ってくれた千草を含めて。

千草の傷は浅く無いが、『銀の福音(シルバー・ゴスペル)』の連中なら何とかするだろう。

それに・・・傍にいられると私の魔法に巻き込んでしまうかもしれない。

 

 

どう言うわけか竦んでしまう身体を叱咤して、私はナギの前に立つ。

相変わらず、穏やかな顔をするナギの前に。

ナギの姿をした、男の前に。

 

 

「・・・お前は美しいな、キティ」

「・・・あ?」

「600年前と変わらない・・・いや、さらに強大に、より美しくなった」

 

 

600年前・・・?

 

 

「お前を選んで良かった」

 

 

ニコリ、と微笑むナギ。

何だ、何の話・・・。

 

 

「将来を見込んで、不死を与えて正解だった。何しろ、他の者は滅びてしまったから」

「・・・不死を、与えた?」

「肉体を一つ失うハメになったが・・・今のお前の仕上がりを見れば、報われたと言う物だ」

 

 

600年前・・・不死・・・肉体を失う。

 

 

「血縁と・・・そして完璧な肉体。器としてこれ以上の物は無い」

「・・・貴様、まさか・・・?」

「不滅の肉体・・・素晴らしい」

 

 

600年前、私を吸血鬼に変えた男!!

だが、殺したはずだ・・・確かにこの手で。

それが何故、ナギの身体を使っている?

わからんが・・・ただ。

 

 

「・・・貴様を殺す!!」

 

 

全身から、魔力を放出させる。

ビリビリと空気が震え、床が罅割れて行く。

 

 

「マクダウェル殿!」

「スコルツェニー! 全員を下がらせろ・・・・・・私の理性が残っている内にだ!!」

 

 

ナギだけを視界に入れて、叫ぶ。

叫んだ直後、私はすでに動いていた。

もう、身体は竦まない。

それどころか、胸の内から湧き上がるドス黒い感情が、私を突き動かしてくれる。

 

 

無論、それに飲み込まれるようなヘマはしない。

受け入れて、飼い慣らして・・・叩きつける。

 

 

それだけだ!!

 

 

 

 

 

Side 造物主(ライフメイカー)

 

もう、何年前になるかな。

あの男、ナギ・スプリングフィールド。

あの愉快な男が私の所に来て、戦いを挑んできたのは何年前の話かな。

 

 

結論から言えば、10年前の時点で私は負けてしまった。

いや、よもや旧世界に飛ばされて封印されるとは思わなかった。

まぁ、長生きするとああ言うこともある。

今も、ナギ・スプリングフィールドの身体を仮の物として使わせてもらっているが・・・完璧に支配しているとは言えない。

 

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

 

 

それにしても、しばらく見ない内に魔法世界の危機も一段と進行したらしい。

一刻も早く、規模を拡大する必要がある。

 

 

だが、今回は規模の拡大などと言うことはしない。

全ての人々を『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』に封じ込め、永遠の安寧を与える。

そうなればもう、同胞が相争う姿を見ずに済むようになる。

 

 

来れ氷精(ウェニアント・スピーリウス)闇の精(グラチアーレス・オブスクーランテース)闇を従え(クム・オブスクラティオーニ)吹雪け(フレット・テンペスタース)常世の氷雪(ニウァーリス)!」

 

 

さぁ行こう、これまでの世界に終わりを告げるために。

さぁ行こう、これからの世界に始まりを告げるために。

 

 

そして、救うのだ。

全てを救うのだ。

愛すべき同胞が、もう苦しむことの無い世界を創るのだ。

全ての者が祝福を受けられる世界を創るのだ。

 

 

「『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』!!」

 

 

放たれたのは、氷属性の中級攻撃魔法。

闇色の吹雪が、私に向けて直進してくる。

私はそれに対して、特に何もしない。

片手を掲げて、触れるだけだ。

 

 

「<リライト>」

 

 

本来、『リライト』は魔法世界人を『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』に送るための術。

しかし私の『リライト』・・・オリジナルの<リライト>は、少しばかり違う。

<世界の始まりと終わりの魔法>。

 

 

始まりは、<魔法>を創り出すための力だった。

そして終わりは、<魔法>を消し去るための力。

つまり。

 

 

「なっ・・・!」

 

 

カシャアァ・・・ンッ。

ガラスが砕けるような音を立てて、『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』が消える。

この一撃に限った話では無い。

 

 

今、この世界から『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』と言う魔法は消えた。

おそらく、キティはさっき自分が放った魔法のことを思い出せないだろう。

この世から、無かったことになったのだから。

 

 

「・・・お前は気高く美しい、キティ」

 

 

600年前、私は彼女を見つけた。

不滅の研究を進める過程で、彼女を見初めた。

だから不死を与えた。

だから彼女を傷つけてしまわないよう、殺されてあげた。

 

 

そして今、彼女は美しく成長した姿を私に見せてくれている。

本当に、美しい。

 

 

 

 

私の月の女神(シンシア)の新しい肉体に、ふさわしい。

 

 

 

 

そして私は解き放つ。

20年前、<紅き翼(アラルブラ)>の過半を行動不能に至らしめた攻撃を放つ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「えっと、コレで良いですか・・・?」

「うん」

 

 

表情を変えずに頷くフェイトさんに、私はホッと胸を撫で下ろします。

私達の目の前には、明日菜さんの後ろ・・・所定の位置に設置された<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>があります。

 

 

何でも、<黄昏の姫御子>と<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>が決められた位置に無い状態で『リライト』が発動すると、6700万人の「人間」が火星の荒野に投げ出されてしまうのだとか。

それは、不味いですよね。

 

 

「・・・でも、別に私を抱っこする必要は無いのでは・・・」

「・・・?」

「いえ・・・何でも無いです」

 

 

最近、フェイトさんの攻勢に慣れてきた私です。

・・・コレを普通に感じるようになったら、どうしましょう。

背中と膝の裏に感じる手の感触と、無意味に近い顔。

まぁ、この何にもわかって無い天然な顔を見ていると、気にしてる自分がバカみたいに感じるわけですが。

 

 

「・・・何か、心配事?」

「へ?」

「あまり、僕を見ない」

 

 

・・・まさか、フェイトさんから「いいから、僕を見ろ」的な発言が出るとは。

いえ、たぶん俯きがちだと言いたいのでしょうけど。

ふふ、あまり深く考えてはいけませんよ私・・・。

 

 

まぁ、実際に心配事と言うか、気になることが一つあるのですが。

懐から、3枚のパクティオーカードを取り出します。

1枚は、私が映ってるエヴァさんとの契約カードです。

 

 

「・・・何か?」

「別に」

 

 

何故か、フェイトさんがジーっと見ていたような気がしました。

・・・まぁ、気のせいですかね。

 

 

そして、残りの2枚。

1枚は、はるかな未来の生徒が置いて行ったカード。

契約者の名は、超鈴音。

こちらは、超さんがいなくなってしまってから、「死んで」います。

 

 

問題は、もう1枚のカード。

私とさよさんのカード。

あるべき数字と文字が、ありません。

ただ、「死んだ」わけでもなさそうなのです。

魔力のラインは繋がったままですし・・・。

何と言うか、肉体は死んでるけど魂は残ってる、みたいな。

・・・我ながら、嫌に具体的な予想ですね。

 

 

とにかく、心配です。

でも今は、どうすることもできません・・・。

 

 

『・・・アリア』

 

 

その時、エヴァさんの声が頭に響きました。

あ・・・念話、念話ですか?

 

 

「は、はいっ、何でしょうかエヴァさん」

 

 

特にやましいことは無いのですが、少し声が上ずりました。

 

 

『・・・何だ、若造(フェイト)と手でも繋いでいるのか?』

「・・・・・・まさかぁ」

 

 

微妙に鋭いですね。

カードの向こうで、エヴァさんがフッ、と笑ったような気がします。

・・・?

何でしょう、様子が・・・。

 

 

『そうか・・・』

「・・・エヴァさん? 何か問題でも・・・?」

『・・・いや、何も問題は無い。お前は何も気にしなくていい』

「・・・エヴァさん?」

 

 

明らかに、様子が変です。

 

 

『アリア』

「あ、はい」

『いざという時は茶々丸を頼れ、アレは私よりもよほど役に立つ』

「・・・」

『別荘の蔵の中身だが、お前にやろう。好きに使え』

 

 

・・・エヴァさん?

 

 

 

      『アリア』

 

 

 

エヴァ、さん?

 

 

 

 

      『あぃ・・・・・・まぁ、元気で暮らせ』

 

 

 

 

・・・え?

念話が、切れました。

 

 

「・・・エヴァ、さん・・・?」

 

 

次の瞬間、ゲートポートの方向から。

何かが砕けるような音が、響き渡りました。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

血の混じった唾を吐き、再生しかけている身体を無理矢理に起こす。

・・・なかなかに、重い一撃だった。

こちらの魔法は通用しないのに、あちらの魔法はこっちの障壁を無視して来るのだからな。

まぁ、だからと言って文句は言わんよ。

 

 

ようは、負けた側が悪いのだからな。

私は今、ゲートポートからかなり離れた浮き島の一つにいる。

かなり、吹き飛ばされたな・・・。

 

 

「・・・ま、らしくも無い念話をする時間はできたわけだが」

 

 

手元のアリアとの仮契約カードに視線を落として、笑う。

本当に、らしくも無い・・・私は最強の魔法使い。

誰にも負けない、<闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)>だ。

茶々丸の、チャチャゼロの、アリアの、さよの、バカ鬼の、晴明の、田中の。

うちで一番強い、一番、負けてはならない存在が私だ。

 

 

「本当に、人間は素晴らしいな・・・」

「・・・リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」

 

 

前衛がいれば、とは言うまい。

アリアのために、一人でも多くの仲間を残してやったとでも思えば良い。

 

 

契約に従い(ト・シュンボライオン)我に従え(ディアーコネートー・モイ・ヘー)氷の女王(クリユスタリネー・バシレイア)

「・・・人間は凶暴で、愚かで脆い」

来れ(エピゲネーテートー)、『とこしえのやみ(タイオーニオンエレボス)』、『えいえんのひょうが(ハイオーニエ・クリユスタレ)』」

「けれど、とても美しい・・・誰かのために何かができる・・・それが人間」

 

 

何百年ぶりだろうな、この技法を使うのは。

放出系統の魔法は通じん可能性が高い、となると、コレしかあるまい。

純粋に、貫く。

 

 

全ての(パーサイス)命ある者に(ゾーアイス)等しき死を(トン・イソン・タナトン)其は安らぎ也(ホス・アタラクシア)

「だから私は、この世界に生きる全ての人々を救う」

 

 

勝手に救え、私は知らん。

パキンッ・・・拳を握りこむと、氷結化した身体が乾いた音を立てる。

 

 

闇の魔法(マギア・エレベア)>。

私が10年かけて編みだした、私だけの固有技法。

私以外に、使い手はいない。

さよやアリアに、この技を教えるつもりは無い。

人間が使って良い物では、無いから。

 

 

「ああ・・・その力に辿り着いたのか。本当に素晴らしい」

「『おわるせかい(コズミケー・カタストロフェー)』」

 

 

解放(エーミッタム・エト)固定(・スタグネット)

掌握(コンプレクシオー)・・・!

 

 

・・・・・・行く!!

 

 

術式兵装(ブロ・アルマティオーネ)―――――――『氷の女王(クリュスタリネー・バシレイア)』!!」

「<リライト>」

 

 

瞬動で直進、右拳!

今まで障壁で防いでいた攻撃を、奴は自分の手で防いだ。

パキャキャキャアアァンッ・・・と、奴の背後の地面が氷結する。

 

 

私の身体は今、言ってしまえば氷結された魔力の塊だ。

動くだけで、周囲の空間を氷結させる。

 

 

青い魔力を纏う私の拳と、ナギの影響を受けているのか知らんが赤い魔力を纏った奴の拳が高速で交錯する。

凍りつくのと同じ速度で、溶かされていく。

だが、通じる! ダメージを通せる! 無効化されない!

ならば、奴が倒れるまで攻撃をやめない!!

 

 

「・・・っ!」

 

 

ピシッ、と奴の攻撃を掠めた部分の肌が罅割れる。

その代わり、周辺150フィートは私専用の戦闘空間だ。

本当なら、相手は数秒で動けなくなる程の環境なのだがな・・・!

イメージとしては、ブリザードの中で戦っているような物だ。

この空間内では、上級以下の氷結魔法を無詠唱で行使し続けることができる。

 

 

交錯する拳と手刀の数が、10、100、1000・・・と増えて行く。

最後には、数える気も失せてきた。

 

 

「・・・くぁっ!」

 

 

ギィンッ・・・と互いの身体が衝撃で離れる。

次の瞬間には体勢を整え、互いの身体の位置を微妙に変える。

 

 

そこからさらに、先程までの攻防が繰り返される。

私の氷結の拳が奴の身体を捉えるのが先か、それとも私の身体に<リライト>が届くのが先か。

まさしく、消耗戦だった。

 

 

だが、負けるわけにはいかない。

こんなバケモノ、後に残して負けるわけにはいかない。

 

 

その時、私の足場が崩れた。

 

 

足を止めて攻防を繰り広げていたためか、地面が凍りついて脆くなっていた。

足元にできた穴に足を取られて、ガクンッ、とバランスを崩す。

 

 

「<リライト>」

 

 

当然のように、その隙をつかれた。

ビシッ、と私の肉体に装填された『おわるせかい(コズミケー・カタストロフェー)』が失われていくのを感じる。

どう言う原理かは、全くわからん、わからんが・・・。

 

 

負け・・・。

 

 

『マスター』『ゴシュジン』

 

 

ち、少し前までは従順な従者だったと言うのに。

 

 

『吸血鬼ーっ』『エヴァさーんっ』『西洋の鬼・・・言いにくいのぅ』『姉上ノマスター』

 

 

やかましい、もう少しセンスのある呼び名を見つけろ。

 

 

『エヴァさんっ!』

 

 

踏み止まる。

まだ、行ける。

負ける? 誰が? 私が?

違う、負けることは、許されない!

 

 

「う、ぬ、うぅぅうあああああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

バリンッ!

術式兵装が剥ぎ落ちて、生身の私が<リライト>を突き破って飛び出す。

無理に剥がされたため、肌が捲り上がり、血が噴き出す。

しかし、それでも。

 

 

私の拳が、奴の腹に届く。

ナギの身体らしいが、構ってはいられない。

全力で・・・振り抜いた。

 

 

確かな手応えを、感じた。

 

 

 

 

 

 

 

5分程、しただろうか。

別の浮き島まで吹き飛ばされた奴の所に、ようやく辿り着いた。

何せ、私の身体もかなり損傷したため、ダメージの回復に少し時間がかかってしまったから。

 

 

「・・・何が、お前をそこまで高めたのだろうな」

 

 

奴は、普通に生きていた。

とはいえ、立てないのか・・・瓦礫に背を預けて、澄んだ目で私を見ている。

・・・全身骨折って所か、良く喋れるな。

 

 

「何分、この身体自体は不死でも不滅でも無いからな」

「はん・・・まぁ、貴様の事情は知らん」

 

 

ぐいっ・・・とローブを掴んで、引き寄せる。

実は私もかなり限界だが、そこは悟らせない。

 

 

「答えろ・・・貴様、600年前に私が殺した奴か? ナギに何をした?」

「・・・」

「む、おい、どうした・・・む?」

 

 

気絶したのか、奴が目を閉じていた。

仕方が無いな・・・適当に縛って、放るか。

・・・しかし、本当にナギの身体なのか・・・とすると、このナギは生きているのか死んでいるのか。

・・・まぁ、後で考えるか。

 

 

手を離そうとした、その瞬間・・・・・・ズルリ、とローブが私の身体に取りついた。

 

 

「な!?」

 

 

黒いローブが、私の身体を覆う。

ちょうど、ナギの身体を覆っていたように。

 

 

「な・・・離れ・・・!」

 

 

外そうともがくが、外れない。

むしろ、もがくほど私の身体を締め上げてくる。

まるで、己の意思を持っているかのように。

・・・意思? まさ、か・・・!

 

 

「・・・ぐ!?」

 

 

瞬間、<造物主(ライフメイカー)>の感情が流れ込んできた。

<造物主(ライフメイカー)>の記憶が、情報が、頭の中に流れ込んできた。

他者に侵入される感覚。

 

 

<造物主(ライフメイカー)>は、酷く疲れている。

<造物主(ライフメイカー)>は、酷く疲れているのだ。

それでも、世界を守るために。

愛すべき人々を、絶望から救うために。

 

 

「やめろ・・・」

 

 

この世界が壊れないように。

愛すべき世界が、人々が、決定的なまでに壊れてしまわないように。

永遠を。

 

 

「やめろ、私の・・・!」

 

 

完全なる・・・世界を。

 

 

「私の中に這入(はい)ってくるなああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

絶望から、全てを救うために。

 

 

 

 

 

Side 墓所の主(アマテル)

 

階段を下りる足を止めて、空を見る。

暗い、昏い、空を見上げる。

 

 

「・・・帰ったか、我が夫(つま)」

 

 

魔法世界では、<造物主(ライフメイカー)>に勝てる者は存在せんだろうな。

あの封印も、旧世界だからこそ成功したわけじゃしな。

さて・・・ナギ・スプリングフィールドは10年間で<造物主(ライフメイカー)>を説得できたのかの。

 

 

・・・無理じゃろうなぁ。

2600年の積み重ねを、10年や20年で変えられるわけも無し。

そうなると、かなり不味い展開になるやもしれんな。

 

 

「アマテルさーんっ!」

「・・・む?」

 

 

振り向くと、赤毛の末裔が若い黒髪の娘を連れて、私の後をついて来ておった。

・・・勝手についてきて、大丈夫なのかの?

娘の方が怒るのでは、とも思うが、まぁ、良いかの。

私にとっては、どちらも子供・・・孫? まぁ、可愛い子孫じゃしな。

 

 

「何か用かの、ネギ?」

「いえ、その・・・まだまだお聞きしたいことがたくさん、あって・・・」

「ふん・・・それは良いが、上におらんでも良いのか?」

「上は・・・僕はちょっと、居づらいので・・・」

 

 

・・・表情が暗いの。

まぁ、複雑なようでそうでも無い事情でもあるのじゃろ。

 

 

「・・・じゃが、父親が来るぞ?」

「え・・・?」

 

 

正確には、ナギ・スプリングフィールドでは無いかもしれんが。

<造物主(ライフメイカー)>と一体化しておるはずじゃしな。

まぁ、ナギの場合は自分から取り込まれに行った部分があるが。

 

 

私やシンシアと同じように、<造物主(ライフメイカー)>ももはや自分の身体を持ってはいない。

身体から身体へ移動する・・・そんな存在じゃ。

周囲の魔力を糧に、自分を魔法化しておるのじゃ。

基本的には、同意無しに宿主を変えたりはせんが・・・。

 

 

「父親・・・父さんのことですか!?」

「それ以外に聞こえたのじゃとしたら、私の言い方が悪いのじゃろうな」

「父さんが・・・どこに行けば会えますか!?」

「うん? そうじゃの、ゲートポートに行けば・・・」

「ありがとうございます! アマテルさん! のどかさん、行きましょう!」

「あ・・・ね、ネギせんせー!」

 

 

・・・行ってしまったか。

私に聞きたいこととは、何だったのかの。

 

 

肩を竦めて、私は再び階段を降り始める。

<初代女王の墓>への道を、降り始める。

次に、誰が私の墓へ来るのかはわからない。

次に、誰が私の墓へ来るかで、この世界の未来も決まるだろう。

 

 

「・・・我が夫(つま)か、それとも我が末裔(しそん)か・・・」

 

 

私には、<造物主(ライフメイカー)>は止められない。

止める側に立つには、私は<造物主(ライフメイカー)>の傍にいすぎた。

紅き翼(アラルブラ)>のような生き方は、私にはできない。

生き方を変えるには、長く生き過ぎた。

 

 

だから。

 

 

「私は、待っている」

 

 

どちらを?

・・・長く生きていても、わからないことはある。

いや、わかりたくないことが・・・ある物じゃよ。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>と<黄昏の姫御子>は、所定の位置にある。

『リライト』を発動する分には、コレで問題は無いと思う。

 

 

後はゲートポートでの作戦の終了後、6(セクストゥム)が旧世界との繋がりを断つ。

そして『リライト』を発動後、アリアと僕、ネギ・スプリングフィールドの3人で<初代女王の墓>へ向かう。

・・・墓所の主の姿が見えないけど・・・隠れるつもりが無いのか、自分の魔力の残滓を足跡のように残している。

 

 

「アリア先生!」

「茶々丸さん! 真名さん・・・皆も、無事でしたか?」

「弾代を徴収せずには、死ねないからね」

 

 

アリアを祭壇の床に下ろした時、緑の髪の少女人形が祭壇に到着した。

その後ろには、半魔族(ハーフ)の少女と、個性的なアリアの部下達がいる。

まぁ、戦力の補給にはなるのかな。

 

 

・・・だが、ゲートポートからの連絡が無い。

連絡が無いと言うことは、作戦を継続中か、それとも連絡できない事態になったか・・・?

 

 

「・・・面白くないね」

 

 

アリアも気にしているようだし、僕が見に行こうか。

いや、だがエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがいるんだ、滅多なことでは・・・。

 

 

「・・・?」

 

 

何だ・・・今、一瞬。

核が・・・。

 

 

3(テルティウム)

 

 

頭の中にその「声」が響いた瞬間、「核」を掴まれたかのような感覚を覚えた。

ガクンッ、と膝をつく。

それに驚いたのか、アリアが僕の傍までやってくる。

 

 

3(テルティウム)

 

 

来た、確実に来たと断言できる。

僕の製造者、「主(マスター)」。

<造物主(ライフメイカー)>。

 

 

「ぐ・・・っ!」

「ふぇ、フェイトさん・・・?」

 

 

アリアがしゃがみ込んで、僕の顔を覗き込んでくる。

心配そうに顔を歪めて、アリアが僕を見ている。

 

 

次の瞬間、頭上に巨大な魔力を感じた。

反射的に、アリアを突き飛ばす。

緑の髪の少女人形・・・茶々丸が、アリアを抱き止めてさらに離れる。

それで、良い。

 

 

「・・・っ」

 

 

頭上に障壁を展開した次の瞬間、黒い衝撃が障壁を襲った。

直上方向から・・・。

だけど僕の障壁は耐え切れずに、砕ける。

 

 

僕の身体が、祭壇の下方・・・地上へと向けて落下する。

ぐ・・・呼んでおいて、この仕打ちかい!

 

 

「フェイトさんっっ!!」

 

 

アリアの悲痛な声が耳を打つ。

・・・すぐに、戻・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「フェイトさんっっ!!」

「アリア先生、危険です!」

「崩れるぞ!」

 

 

茶々丸さんに抱えられて、後ろに下がります。

そして真名さんの警告通り、祭壇の床が4分の1ほど崩れていきました。

最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>と明日菜さんは無事です。

でも、フェイトさんの他にも何人か・・・!

 

 

感情的なことを抜きにしても、フェイトさんがいないと鍵が使えません。

鍵が使えないと、<初代女王の墓>に行っても意味がありません。

 

 

「・・・茶々丸さん、エヴァさんと連絡、できますか・・・?」

「・・・いえ、通信は途絶しています」

「そうですか・・・」

 

 

さっきの念話でも、様子が変でした。

さらに言えば、ゲートポートからの連絡がまだです。

何かあったと見て、間違いありません。

 

 

「真名さん、こことゲートポート、比重をどちらに向けるべきだと思いますか?」

「・・・今ついたばかりだから、わからない」

「そうですか・・・」

「だけど、もしゲートポートに援軍を送るなら最大戦力を送るべきだろう。兵力の逐次投入は避けたい」

「・・・ですね」

 

 

難しい所ですね、どうしましょうか・・・。

いえ、それ以前に今の攻撃魔法がどこから、誰が放った物かがわかりません。

となると、敵はまだ近くにいると考えて良いでしょう。

 

 

「シャオリーさん!」

「は、ここに」

 

 

私が呼ぶと、すぐにシャオリーさんがやってきます。

呼ぶとすぐに来てくれるので、ありがたいです。

 

 

「ゲートポート部隊との連絡を取ってください。それと索敵の指揮を」

仰せのままに(イエス・ユア・)、女王陛下(マジェスティ)!」

 

 

すぐにシャオリーさんは近衛の何人かに声をかけて、慌ただしく動き始めました。

・・・結論から言えば、索敵の必要はありませんでした。

 

 

まず、パシンッ、と雷が落ちたみたいな音を立てて、一人の男の子が祭壇の端の柱の上に降り立ちました。

何か、全身から電気を放ってらっしゃいます。

・・・とても、フェイトさんに似た顔立ちをしておりました。

 

 

「・・・5(クゥィントゥム)、召喚に従い、推参」

 

 

いえ、呼んでないです、ごめんなさい・・・。

とか思っていたら、反対側の柱の先に炎が灯り、同じくフェイトさんそっくりな男の子が。

若干、目つき悪いです。

 

 

4(クゥァルトゥム)、召喚に従い推参」

 

 

ラテン語で・・・4番目と、5番目?

・・・セクストゥムさんと同じ要領で考えると、フェイトさんの弟さん達でしょうか。

 

 

「・・・ふむ、鍵も姫御子も揃っているな」

 

 

ふわり、と黒いローブを纏った小柄な人影が、降りてきました。

トンッ、と柱に降り立ったその人の顔が、『リライト』のかすかな光で照らされます。

 

 

「・・・え?」

 

 

いや・・・いやいやいや、無いです、コレは、無いです。

いや、だって・・・ええ?

 

 

「・・・さて、では・・・」

 

 

思い出すのは、さっきの念話。

一方的に繋がって、一方的に切れた念話。

 

 

その人は、穏やかに笑いました。

とても綺麗な・・・澄んだ瞳で、言います。

 

 

「世界を、救おうか」

『元気で暮らせ』

 

 

2つの言葉が、重なって聞こえます。

その人・・・エヴァさんは私を見つめると、ニコリ、と微笑みを浮かべました。

 

 

 

 

・・・いろいろな意味で、ヤバいです。

シンシア姉様―――――――。

 




アリア:
アリアです。
・・・どうしましょう。
いえ、その・・・本当、どうしましょう。
かなり、混乱しています。


・・・次回。
私、久々の実戦です・・・。

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