魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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今話をお読みになる際のご注意です。
えー・・・今さらかもですが。
・フェイトさんは私の婿(嫁?)! と言う方はご注意。
・ラブコメNG! と言う方もご注意。

以上の点にご留意頂き、では、どうぞ。


第17話「決戦前夜・後編」

Side エルザ

 

『リライト』。

それは世界を滅ぼし、そして『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』として再構築する魔法。

故に、『リライト』。

でもそれは、幻影を新たな幻で覆ってしまう、愚かな魔法。

 

 

一度堕ちれば、二度と出られない。

そこは全てを断ち切る場所・・・永遠の園。

 

 

「・・・貴女は・・・何がしたいんですか、エルザさん」

 

 

私の目の前には、<造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)>、それも<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>があります。

創造主の力を振るうことのできる究極『魔法具』。

そしてコレが封印されていた祭壇には、今、<黄昏の姫御子>が安置されています。

 

 

「貴女の思考を読んでいると・・・貴女が、世界を救おうとしているとは思えないんです。むしろ・・・」

 

 

この身体に刻まれた呪紋は、問題なく機能しています。

流石は、お父様が私のために作った肉体。

 

 

「むしろ貴女は、世界を滅ぼそうとしているように見えます・・・」

「・・・良く喋る木偶ですね」

 

 

墓所の主とその人形共に対するに便利だと言うから、生かしてやっているのに。

ごちゃごちゃぐちゃぐちゃと、私の邪魔を。

木偶は木偶らしく、黙って言うことを聞いていれば良いのに。

でも、良いの。

 

 

全てを消して、私とお父様だけの世界にするのですから。

魔法世界と魔法世界人を消した後、お父様を連れて旧世界に行く。

旧世界の人間を皆殺しにして、その大地を触媒に新たな世界を作るのです。

資源がなくなるというのなら、もっと資源のある場所に行けば良い。

他の女も、仕事も、私からお父様を遠ざける全てを消滅させて・・・。

 

 

・・・うふふ。

うふふふふふ、うふふふふふふふふふふ・・・。

 

 

「・・・何なんですか、貴女・・・」

「少し、静かにしなさい、殺しますよ?」

「・・・いえ、黙りません」

 

 

ミヤザキノドカは、口を閉ざさない。

うるさい。

うるさい、うるさい、うるさい・・・・・・ああ、そうです。

私としたことが、どうして気が付かなかったのでしょう。

 

 

アーティファクトと、それを使う頭さえ残っていれば良いのです。

手足を切り取り、アーティファクトさえ維持できれば良い。

 

 

「・・・ムシケラの分際で・・・」

「きゃっ・・・」

 

 

造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)>。

外に集結しつつある敵の木偶共も掃滅しなければなりませんし、ついでです。

傀儡悪魔を10万程、召喚しましょう。

 

 

そう思い、空中に魔方陣を展開した、その時。

どこかから風と雷で構成された魔力の塊が、魔方陣を粉砕し、祭壇の一部を破壊しました。

・・・これは、『雷の暴風(ヨウィス・テンペスターズ・フルグリエンス)』。

となると・・・。

 

 

「・・・今、何をしようとしたんですか、エルザさん」

 

 

そこには、ネギがいました。

険しい顔で、私を見ています。

ああ・・・お父様。

 

 

もうすぐ、2人きりの世界です。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ネギ、貴方こそ、どういうつもりですか。私の・・・エルザの邪魔をして」

「エルザさんは今、のどかさんを傷つけようとしましたか・・・?」

「ええ、儀式の邪魔をしたのです。ミヤザキノドカは世界の敵です」

「嘘です!」

 

 

のどかさんがアーティファクトの本を抱えて、叫んだ。

 

 

「この人は、世界を壊そうとして・・・」

 

 

瞬動、のどかさんの前に立つ。

そして、エルザさんがのどかさんに向けて振り下ろした<造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)>を右手で受け止める。

エルザさんの目は、とても冷たい。

 

 

「・・・そこをどきなさい、ネギ」

「できません。のどかさんは僕の・・・大切な方ですから」

 

 

そう言って、僕はのどかさんを抱いてエルザさんから離れた。

 

 

「質問です、エルザさん。『リライト』に世界を分解する構成が混じっているのは何故ですか?」

「・・・ああ、ネギは『天才』魔法少年でしたね」

「・・・答えてください!」

「うるさい!!」

 

 

エルザさんが怒鳴ると、濃厚な魔力が祭壇に満ち溢れた。

エルザさんの全身の刻印が輝き、血色の瞳が色を失う。

ガリガリと爪を噛みながら、エルザさんはこれまでに見たこともないくらい歪んだ表情を浮かべていた。

 

 

「ああ、もう、どうしてどいつもこいつも、お父様の、私の邪魔をする。私のお父様、お父様、お父様は私が良い子だと、ずっと傍にと言ったのに。何故? これではお父様に嫌われてしまう。2人で世界を作るのに、邪魔者は全部消して、消して、消えろ、皆、消えろ消えろキエロキエロキエロキエロ・・・!」

 

 

何・・・だ・・・この人・・・?

前々から変な人だと思っていたけれど、これは・・・。

 

 

「魔法世界人は幻で、全部消えるって・・・」

「え・・・」

「皆、消えてしまうって・・・あの人が」

 

 

震える声音で、僕の腕の中ののどかさんは言った。

皆、消える・・・?

 

 

「どうして、そんな。でも・・・僕は、ただ、父さんみたいに」

「父さん? ああ、ナギ・スプリングフィールドですか。あの愚かな武の英雄、10年前の・・・」

 

 

爪を噛みながら、エルザさんは嘲るように言った。

 

 

 

「10年前、私が消してやった男」

 

 

 

奈落の(インケンディウム)業火(ゲヘナエ)』。

固定(スタグネット)』、『掌握(コンプレクシオー)』。

―――――『術式兵装(プロ・アルマティオーネ)獄炎(シム・ファブリカートゥス・)煉我(アブ・インケンディオー)』。

 

 

ガキュッ、と右腕に魔法を装填して、瞬動、ボッ・・・と拳を突き出す。

でもそれは当たらなくて、突き出した僕の拳の上に、ふわり、とエルザさんが乗る。

 

 

「マギア・エレベア。ただのドーピング、力任せの技法・・・彼の息子らしいですね」

「・・・ッ!」

 

 

この人・・・何て言った?

父さんを、どうしたって言った?

 

 

「どうですか、ネギ。父親の仇に守られ、騙され、利用された気分は。私は最悪ですよ。お父様が私以外の人間を必要とする、その屈辱と言ったら・・・!」

「お前がっ・・・!」

「貴方がっ・・・!」

 

 

のどかさんが後ろで何かを言っているけれど、聞こえない。

僕はただ、目の前の、こいつを・・・!

 

 

ガキンッ・・・と、打ち合い、距離をとる。

次の瞬間、僕もエルザさんも地面に膝をついた。

エルザさんは、例の如く口から血を流して。

僕は、激しい痛みと疼きを訴える右腕の押さえて・・・。

 

 

「ネギせんせー・・・!」

 

 

のどかさんが駆け寄ってくる。

でも、僕は、僕は・・・!

 

 

「・・・先に、貴方達を堕とす・・・」

 

 

顔を上げれば、エルザさんが<造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)>をこちらに向けていた。

膨大な魔力が、そこに集まる。

 

 

「・・・夢の中で、父親に会うが良い・・・!」

「させっ・・・!」

 

 

完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

夜に女性の部屋を訪ねる、と言うのは特別な意味を持つらしい。

暦君達が、口を揃えてそう言っていたことがある。

でも一方で、決戦前夜だからと会いに行くように言ったのも暦君達だったりするから、わからない。

そもそも、決戦前夜だから何だと言うのだろう。

 

 

それにいつもの服ではダメだと言われて、何故か着替えさせられた。

最近、暦君達が良く分からない。

 

 

「え、と・・・おかわりなど、いかがでしょう?」

「・・・頂くよ」

 

 

もう何度目かな、このやり取り。

アリアから5杯目のコーヒーを受け取りながら、そんなことを考える。

普通の人間なら、体調不良を訴えてもいいくらいだと思うけど。

 

 

「えっと、どうですか?」

「・・・美味しいよ」

「そ、そうですか、それは良かったです・・・」

 

 

このやり取りも、5度目だ。

でも、はにかむように微笑む彼女を見ているとそれも良いかと思ってしまう。

とても、不思議だった。

 

 

アリアの傍にいると、とても「落ち着く」気がする。

胸の奥が、凪いだように穏やかな気持ちになる。

 

 

「あの・・・今日は、ごめんなさい」

 

 

不意に、アリアが表情を曇らせた。

その表情を見て、今度は胸の奥でさざ波が起こるのを感じる。

どう言うわけか、以前にも増して僕の中でそういう変化が起こりやすくなっている。

それは酷く不安定で、僕自身、「戸惑う」。

 

 

「・・・どうして、謝るの?」

「その・・・フェイトさんを人前に出して・・・」

「ああ・・・」

 

 

僕が、今回の『リライト』に関する情報を提供した際のことを言っているらしい。

だけど別にそれは、アリアに言われてやったわけじゃない。

 

 

「僕が、キミのためにそうしたいと思ったんだけど」

「・・・あぅ」

「迷惑、だったかな?」

 

 

思えば彼女と出会ったのは、日本の京都だったね。

桃色の花弁を纏って戦う彼女に、僕はとても興味を持った。

最初は興味のままに、殺そうとまでした。

そして麻帆良学園で、麻帆良祭で、当時の総督府で。

繰り返し出会う度に、僕の魂が、「核(こころ)」がアリアを求めるのを感じた。

 

 

できるなら、そう。

彼女と一つになりたいと思ってしまう程に。

 

 

「迷惑、では無いですけど・・・」

 

 

淡い桃色のドレスを着た彼女は、顔を赤くして俯いてしまった。

・・・怒らせてしまったかな?

 

 

苺色の髪飾りが、部屋の照明の光を淡く反射する。

左耳には、何かの魔法具だろうか、魔力を感じる翼を象った銀のイヤーカフス。

そして、左手には・・・。

 

 

そっと手を伸ばして、アリアの左手に触れる。

彼女の色違いの瞳が、驚いたように揺れる。

 

 

「あの、何か・・・?」

 

 

それには答えずに、僕はアリアの左手を両手で包むように握った。

その手首には、以前僕が贈ったブレスレットがある。

僕の左手首にも、同じ物がある。

 

 

カチ・・・と、2つのブレスレットが音を立てた。

どうしてか、それが「心地良かった」。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

顔が、熱いです。

と言うか、どうして私はテーブル越しにフェイトさんと手を握り合っているのでしょうか。

その・・・凄く、恥ずかしい、です・・・。

 

 

そもそもどうして、こんなに恥ずかしいのでしょうか。

・・・相手がフェイトさんだからと言う結論に落ち着くので、また恥ずかしさのレベルが上がります。

 

 

「・・・顔が赤いけど、大丈夫?」

「だ、らいりょぶですっ!」

 

 

最悪です、噛みました。

出だしが「だ」なのに、何で「ら」で言い直したの、私・・・!

恥ずかしさの余りにテンパっていると、いつの間にかフェイトさんが前に回り込んで来て。

 

 

コツン、と、額をくっつけてきまし、た。

~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!??

 

 

「・・・平熱?」

「なっ、う・・・あ・・・っ!」

 

 

平熱! ええ、もうそりゃあ平熱ですよ!?

顔が熱かったり赤かったりするのは、別に風邪とかじゃ無いですから!

そう言いたいけど、舌が回りません。

ついでに、頷くこともできません。

 

 

だって、顔が近いから。

白くて綺麗な顔立ちとか、綺麗な睫毛とかまで見えるくらい・・・っ。

へ、下手に頷いたりしたら、く、くっついちゃうじゃないですか。

どことは、言いませんけど。

 

 

「ちょ、フェイトさ、ちょっと離れて・・・っ」

「・・・どうして?」

「こ、ここで聞き返すのって凄くないですか・・・!」

「僕は、もう少しこうしていたい」

 

 

そう言ってフェイトさんの両手が、私の両頬を包むように・・・。

・・・誰!? この人誰ですか!?

 

 

「・・・嫌なら、離れるけど」

「それは・・・・・・いやじゃ、無いですけど」

 

 

最後の所は、ゴニョゴニョと小声になってしまったので、聞こえたかどうかわかりません。

だからと言うわけでは無いですけど、右手をフェイトさんの左手に重ねて、もう片方の手は控えめに、フェイトさんの服の裾を掴んでみます。

 

 

「・・・少しだけですよ」

「うん」

 

 

気のせいで無ければ、フェイトさんの無機質な表情の中に、得意気な色が浮かんでいるような気がします。

そして多分、気のせいでは無い気がします。

 

 

「・・・」

 

 

フェイトさんの温もりを感じながら、私は熱のこもった息を吐きます。

私はどうして・・・フェイトさんを前にすると、こうも胸が熱くなるのでしょう。

 

 

思えば、彼と出会ったのは京都が初めてでしたね。

真っ白な・・・そう、あらゆる意味で真っ白だった彼に、私はとても惹かれました。

最初は奪ってでも手に入れたいと思って、殺し合いまでして。

そして麻帆良学園で、麻帆良祭で、総督府・・・今の宰相府で。

繰り返し出会う度に、私の魂が、私の心が彼の中の何かを求めるようになっていきました。

 

 

できるのなら、そう。

彼と一つになってしまいたいと思う程に。

 

 

もっと強く、触れ合いたくて。

でもこれが、この気持ちが何なのか、わからない。

恋なのか、愛なのか、それとも別の物なのか・・・。

わかりませんが、フェイトさん以外の男の子に、こんな気持ちは抱かない・・・。

 

 

「・・・アリア?」

 

 

フェイトさんの顔は、相変わらず近い。

でも、気のせいでしょうか。微妙に角度とか、変わっていて・・・。

・・・その、何と申しますか。

 

 

・・・眼を閉じたりとか、した方が、良いのかな・・・なんて。

思ったり、思わなかったり・・・。

 

 

「そう言えば」

「え・・・?」

 

 

フェイトさんが、不意に何かを思い出したような声を出しました。

私が不思議そうな声を出す中、彼は無機質な瞳で。

 

 

「約束があったね」

「・・・約束?」

 

 

私の声に、フェイトさんはむしろ、真面目な顔で頷きました。

・・・危ないっ、ちょ、頷かないでくれます・・・!?

 

 

 

 

 

Side 暦

 

カリカリカリカリカリ・・・。

 

 

「・・・暦、角をひっかかないで」

「あ、ごめん、猫の習性が」

「お前豹族だよな、暦?」

 

 

ちょうど下にあった環の頭、しかも角に爪を立てていたらしくて、環に抗議される。

あと、私は豹族よ焔、決まってるじゃない。

 

 

「それにしても、フェイト様もフェイト様よ、決戦前夜なんだから、ガッと行けば良いのに・・・!」

「それはそうかもしれませんが、果たして私達は、何をしているのでしょう?」

「噛ませ犬臭がプンプンしますわね・・・」

「栞、調! 私達がフェイト様の幸せを願わないで誰が願うの!?」

「アノ・・・」

「ターミネ○ターは黙ってて!」

 

 

何故か扉の前で立ち尽くしてるタ○ミネーター(田中さんって言うらしい)を、そう言って黙らせる。

で、私達5人が何をしているのかと言うと、フェイト様が入って行った扉に耳を押し付けて、中の様子を知ろうと努力中。

・・・環だけは、角が邪魔でできないけど。

 

 

「ターミ○ーターって何だ・・・?」

「旧世界の映画」

「ああ、前に暦が研究用とか言って輸入していた・・・」

「ちょっとそこ! 静かに、聞こえないでしょ・・・!」

 

 

フェイト様ってば、もう、もっと教えとくべきだったかな・・・!

でも私達も一定レベル以上のことは教えて差し上げられないし、そもそも未経験だし・・・。

・・・き、キスとかを言葉で説明するのが限界で・・・しかも「仮契約のアレです」としか・・・。

資料も、「決戦前夜に男の子にして欲しいことベスト5(By フェイトガールズ)」だけだし。

・・・つまり、私達の願望的な?

 

 

でもフェイト様も男の子なんだから、もうちょっとこう、欲深く?

こう・・・獣のように?

・・・イメージ違うけどね、フェイト様、ストイックだし。

でも、こう言う時は男を見せるべきよ、うん。

 

 

「でも、私達だってフェイト様と・・・」

「言うな、環。切なくなる・・・」

 

 

・・・私だって、本当は。

私が、私達がフェイト様のお心を癒して差し上げたかった。

私達が救われたように、私達がフェイト様を助けて差し上げたかった。

フェイト様の願いを、望みを、叶えて差し上げたかった。

 

 

だから自分達が消えるとわかっていても、『リライト』の発動に協力したいと思った。

フェイト様が、それをお望みなら。

眼を閉じれば、今でも思い出せる。

フェイト様が私を、パルティアの紛争地帯から救ってくれたあの日を・・・。

 

 

・・・だから。

フェイト様が、あの女王様が良いって、そう思うなら。

 

 

「・・・そう言えば、私達はお互いの本当の名前も知りませんわね」

 

 

その時、栞がそんなことを言った。

・・・そう言えば、私達はお互いにフェイト様に頂いた名前で呼び合ってる。

フェイト様に拾われる前の名前は、全然使わなくなったし。

 

 

「もし良ければ、皆の本当の名前、教え合いません?」

「え・・・まぁ、私は別に良いですけど・・・」

「私も特に、断る理由は無いが」

「・・・構わない」

 

 

私の、本当の名前。

お父さんとお母さんに貰った、大切な名前。

 

 

「・・・うん、良いかもね」

 

 

同じようにフェイト様に拾われて出会った、私達。

種族も境遇も違うけど、だけど同じ人のために頑張ってきた仲間。

本当の名前で呼び合うのも、悪く無い・・・。

 

 

「・・・中で何か、言ってる」

 

 

角のせいで扉に耳を押し当てることはできないけど、竜族だから耳は良い。

私達は、慌てて扉に耳をくっつけた。

すると・・・。

 

 

『・・・えと、どう、ですか・・・?』

『うん、柔らかい』

『そ、そうですか・・・ひゃっ、あまり動かないで・・・』

『動かないと落ちる』

『え、ええと・・・あぅ・・・』

 

 

お、おおお・・・こ、これは。

そう思って、身を乗り出したのが不味かったんだと思う。

ガタンッ、と扉が勢いよく開いて、部屋の中に転がり出る私達。

・・・え、何この道化。

 

 

「「「「「「「・・・」」」」」」」

 

 

7個の沈黙。

フェイト様と女王様は、部屋の隅の天蓋付きベッドの真ん中。

私達5人は、私室の扉の下で。

お互いに見つめ合ってた。

 

 

「・・・フェイトさん?」

 

 

ベッドの上でフェイト様を膝枕すると言う、死ぬ程羨ましいことをしている女王様。

でも、その目はとても冷たくて、笑顔が怖い。

 

 

「あの方達とは、どのような関係で?」

「・・・僕が趣味で拾った子達」

「・・・へえぇ・・・」

 

 

ちょ、フェイト様ぁ!?

そんな言い方したらぁ・・・!

・・・ひぃっ!?

 

 

 

 

 

Side セラス

 

・・・?

今、どこかから悲鳴が聞こえたような・・・?

・・・まぁ、戦の前だから、兵達も気が立ってるんでしょう。

 

 

「いやぁ、それにしてもアリアドネーの協力が頂けるとは」

 

 

私は今、宰相府でクルト宰相代理と会談しているの。

内容は、『リライト』阻止に関する互いの部隊の移動と、阻止した後の行動・関係に関して。

とは言っても、アリアドネーの部隊では数が少ないし、後方支援が私達の仕事ね。

何より・・・「人間」の数が少ないのよ。

 

 

20年前の再現だと言うのならば、「人間」以外は戦力にならない。

それでも、<造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)>を持っていない敵に対しては有効。

それも、20年前の経験でわかっている。

 

 

「我々としても、生存がかかっているとなれば、できることはしますわ、宰相代理」

「20年前はお互いに、大勢に影響を与える程の力はありませんでしたがね」

「ええ・・・でも今は、私達が最後の壁。そうでしょう?」

「全くですね」

 

 

アリアドネーは王国軍・帝国軍と協力して『リライト』を阻止する。

計画では、帝国軍が壁になり、王国軍が突入、私達がそれを支えることになっているけれど。

 

 

混成軍の総合戦力は、陸軍4万人弱、艦艇200隻前後。

後方まで含めた動員兵力は、12万人。

連合を除けば、今、世界の全ての軍事力が新オスティアに集結していると言えるわね。

物資と資金については帝国が、技術については我がアリアドネーが融通する。

 

 

「しかも今回は、紅き翼のような英雄集団もいない。いやぁ、大変ですねぇ」

「・・・どこか、喜んでいるように見えますわね」

「まさか、敵の数を減らす砲台が少なくて困ります」

「まぁ、そうなんですの」

「ええ、そうなんですよ」

 

 

あはは、ほほほ、と笑い合う。

面倒な男、と言うか殴りたいわね。

この男のおかげで、今や私達アリアドネーは事実上、王国を承認したことになっている。

連合などは、そう思っているわね。

 

 

国家として承認していない国と、共同作戦はできない。

これではもう、同盟と言っても良い。

それに、何よりも。

 

 

「さて、細部についてはコレで良いとして・・・一席設けてありますが、いかがですか?」

「良いですわね。でもそれは、作戦が成功した後の祝杯用にとっておきましょう」

「なるほど、ではそうしましょうか」

 

 

何より、『リライト』阻止後、我がアリアドネーの地位を落とさないために。

今は、ウェスペルタティア王国との協調関係を崩せない。

帝国のテオドラ様には悪いけれど。

 

 

私達の地位と生存のために、アリアドネーは侮られるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

Side テオドラ

 

『そのようなわけで、姫様のおかげで我が帝国は著しく損害を受けました』

「そ、そのような言い方をせずともよかろう?」

『混成軍中最大の兵力の提供、物資・資金の提供、連合の軍への牽制と非常時の迎撃、これだけの条件を並べてようやく、混成軍内部での自軍の指揮権を維持できただけです。しかも今後、事あるごとにあの眼鏡宰相に嫌味を言われるかと思うと・・・』

 

 

通信画面の中のコルネリアは、憂鬱そうに溜息を吐いた。

うぬ、クルトか・・・あ奴は、絶対にやりそうじゃの。

 

 

しかしの、妾にも言い分はあってじゃな。

クーデターに際しては、妾が直接軍をまとめねばならんかったし、政治対抗上妾が帝位を称する必要もあった。

今こうして、陸軍の兵士と物資を満載した艦隊で長距離大規模転移を繰り返しておるのも、妾と言うトップがいてこそできた決断じゃろ?

 

 

「あと、妾は一応、帝位を継承することになったのじゃが・・・」

『法的根拠の無い僭称ではありませんか。言ってくだされば、法務省から手を回すこともできたのに・・・』

「・・・すまん、考えつかんかった」

『その場のノリと展開で法を無視しないでくださいまし』

「あー、わかった。すまんかった。で、妾達はこのまま新オスティアに直進すれば良いのか?」

 

 

あと一回の転移で、妾達は国境を越えてウェスペルタティアに入る。

そのまま、会議で決定された所定の位置につき、作戦開始を待つことになっておる。

その後いくつかの話し合いを終えて、コルネリアとの通信を切った。

軍の移動に関する命令を出して、ようやく一段落じゃ。

 

 

「おぅ、お疲れだな、じゃじゃ馬姫」

 

 

私室に戻ると、ジャックが我が物顔で、酒を飲んでおった。

・・・流石に、軽くイラっとした。

 

 

「んなコト言っても、お前が俺の部屋はここだとか言ったんだろうが」

「そう言えば、そうじゃったか・・・のっ!」

 

 

足を組んで座るジャックの膝の上に、ぴょんっと飛び乗る。

20年前は抱きかかえてもらわんとできんかったが、今はもう自分でできる。

ジャックの胸に背中を預け、加えてジャックから酒を奪って(「って、おいコラ!」)、それを飲む。

・・・うむ、美味い♪

 

 

「・・・ったく、しょうがねぇお転婆姫だな」

「ふん、やかましいわ」

 

 

明日、世界が滅びるかもしれん。

そう言う状況でも、こいつはいつも通りか。

まぁ、それでこそジャック・ラカンじゃがの。

でも・・・。

 

 

「・・・ジャック」

「あん?」

 

 

酒を置いて、妾は背中越しにジャックの顔に両手を伸ばした。

そのまま両頬を掴み、引き寄せる。

世界が明日、滅びるかもしれない。

滅びなかったとしても、妾は帝位に上る。

 

 

だから。

 

 

「姫の抱き心地と、女帝の抱き心地は、同じと思うかの・・・?」

 

 

だから妾に、勇気をください。

 

 

 

 

 

Side リュケスティス

 

多少、期待外れだったかもしれんな。

俺はそう思ったが、それはあの女王に対しての物かそれとも俺自身に対しての物か・・・。

俺自身、どうにも答えが見つからなかった。

 

 

「しかしこうなると、ウェスペルタティア王家は呪われているのではないかとすら思えてくるな」

「おい、リュケスティス・・・」

 

 

グリアソンの窘めるような声の響きに、俺は苦笑を浮かべてグラスを傾ける。

新オスティアの高級士官クラブ「獅子の箱庭」の一隅で、俺はグリアソンと酒を飲んでいた。

いや、もう2人いる。

王国艦隊代表のコリングウッド大将と、レミーナ大将だ。

明日の作戦についての調整を終えた後、4人で飲みに来たと言うわけだ。

 

 

「お前達は、そうは思わないか。20年前、そして今だ。ウェスペルタティアの女王悉くが『リライト』の脅威に対処し、そして下手を打てば、二代続いて世界の生贄になるわけだ」

「そうならないよう、我々がお守りまいらせればよかろう」

「無論そうだ。だが20年前にできなかったことが、はたして今、できるかな・・・?」

「気持ちだけで勝てるなら、そんなに楽なことはありませんしね」

 

 

レミーナ大将は有能な艦隊指揮官だが、いささか女王への忠誠心が厚過ぎるきらいがある。

柔軟性では、コリングウッド大将の方が上だろう。だが協調性はゼロだな。何せ酒の席で紅茶を飲む男だ。

そのくせ、紅茶にはブランデーをたっぷりと入れるのだからな。

 

 

「だが俺としては、先王アリカ様と違い、我々に打ち明けてくれたことの方を喜びたいと思う。20年前は、紅き翼はおろか、軍にも本当のことは知らされなかったのだからな」

「かのガトウ・ヴァンデンバーグと、幼少のクルト・ゲーデルだけが事実を知っていたと言うのだからな。まぁ、その情報自体が真実かはわからないが・・・」

 

 

グリアソンの言うように、軍首脳に事前に『リライト』の存在を知らされたことは大きい。

一晩とはいえ、対抗策を考えることも可能だからだ。

 

 

「・・・そう言えば、陸軍内部で<真祖の吸血鬼>に対する差別的待遇の撤廃を訴える一派ができたそうですね」

「艦隊の兵士達は、不思議がっていますが」

「ああ、うん。良いことではないかと思うが・・・」

 

 

実際、そう言う動きがあるのは確かだ。

戦場を共にした兵士は、互いを生き残るためのパートナーとして認めあうこともある。

そう言う物の延長線上に、あの金髪の吸血鬼への畏敬の念が生まれつつある。

・・・まぁ、それを後押ししている有力者の存在が不可欠なわけだが。

 

 

・・・グリアソン、お前、変わったな・・・。

 

 

「・・・しかし、俺にはわからんな。趣味嗜好は人それぞれとは言え、一人の女に縛られるのがそんなに良い事なのかな」

「リュケスティス、お前こそ何だ。いつまでも女をとっかえひっかえしていないで、腰を落ち着けたらどうだ」

「ふん・・・良いかグリアソン。女って奴はな、男を食い潰すために存在しているのさ」

「聞き捨てなりませんね。私も一応女性なので」

 

 

レミーナ大将の目線が鋭くなる。

無論、それにひるむ俺では無い。

 

 

「以前から、貴方の身辺の女性関係について詰問したいと思ってはいましたが」

「ふん、400年も生きていると世話焼きになるのかな」

「おいリュケスティス、お前な・・・」

「まぁまぁ、皆さん落ち着いて・・・」

「「「少数派の紅茶党は黙ってろ」」」

「・・・ああん?」

 

 

・・・翌日の朝。

この後の記憶が欠落していたが、身体の節々が痛むことと、兵士達の怯えたような反応を見るに、4人で乱闘騒ぎを起こしたらしいことがわかった。

無論、酒の席でのこととして互いに謝罪し、作戦に支障をきたすような真似はしなかったが。

 

 

・・・ふ、俺もまだまだ青いな。

せいぜい、世界を救う栄誉を、我が女王に独占されぬようにするとしようか。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

うちら関西呪術協会は、今回の作戦でアリアはんのチームと一緒に<墓守り人の宮殿>に突入することになっとる。

最初はもちろん、全員で行くつもりはなかった。

107人中20人程選抜して、それで済まそう思うてた。せやけど・・・。

 

 

「はぁ? 俺らが所長だけ行かせるわけ無いじゃないっすか」

「第一、避難所のボランティアって趣味じゃ無いんです、私」

「月詠たんはぁはぁあぐああぁぁぁぁっ!?」

「・・・どうした鈴吹」

「投げやり!?」

 

 

・・・とか何とか言って、全員ついてくるんやて。

本当に、アホばっかや、うちの周りにおる連中は。

うちには、もったいない。

でも、そこまでは仕事の話や。

 

 

今は、家庭の話をせなあかん。

家族の、話や。

 

 

「こんの、アホがっ!!」

 

 

パシィッ、と乾いた音を立てて、小太郎の右の頬を左手で張る。

次いで手を返して、パシッ、と左手の甲で月詠の左の頬を張る。

2人の実力からすれば簡単にかわせるはずやけど、避けへんかった。

避けたら、もっとキレるけどな、うち。

 

 

宰相府に用意してもろた個室で、うちは小太郎と月詠を叱っとる所や。

いや、叱らんとあかんやろ。

 

 

「戦場に出てたて・・・2日もか!? 何でそんなアホなことするんや!?」

「や、せやけど千草のねーちゃん」

「口答えすな!!」

「まぁまぁ、千草殿。彼らも反せ「部外者(あんた)は黙っといてんか!?」は、すまん」

 

 

そもそも、何でカゲタロウはんがここにおるんや?

決勝戦の打ち上げして以来、よう喋るようになったけど。

いや、まぁ、それは後でええわ。

 

 

「いやぁ、あの~、楽しそうな催し物がありましぶふぇ!?」

「そ、そうそう、何やでかい祭りでもあんのかとぶふぉ!?」

「あんまふざけたこと言うとると、もう一発いくえ・・・?」

「「ごめんなさい」」

 

 

両頬を両手で押さえながら、小太郎と月詠はコクコクと頷いた。

その様子が、あんまりいつもと変わらへんもんから、もう、うち・・・。

 

 

ああ、もう、恥ずかしい子らやな。

しゃがみ込んで、小太郎と月詠をなるべく強く抱き寄せる。

 

 

「頼むからっ・・・あんまり心配、させんといてや・・・っ」

 

 

別に声は震えてへんし、視界が歪んだりもしてへん。

2人に万が一のことがあったら、なんて考えもせぇへんかったわ。

怖くも無かったし、苛々もせぇへんかった。

 

 

だから、絶対に許したらへんねや。

・・・何を言うとるんやろな、うちは。

 

 

「・・・すまん、その・・・泣かんといてや、千草ねーちゃん・・・」

「あのー・・・そんなつもりではー・・・」

「・・・っ」

「いやその、な? 俺らもなんかしたかったし、その、俺ら戦うしか能が無いし・・・」

「趣味と実益を兼ねて、千草はんを守れるかなーと思いましてー」

 

 

・・・ああ、もう、アホな子らや。手がかかってしゃーないわ。

せやから絶対、もう目を離さへん。

腕に力を入れて、抱き締めて。

 

 

「・・・すまん、もう心配かけへんから・・・」

「すみませんー・・・」

「・・・アホ・・・」

 

 

懸かっとるのはたかが、国一つ、世界一つや。

そんなもんと、うちの家族は等価にならへん。

 

 

「・・・かぁちゃん・・・」

 

 

世界よりも、大事なもんがあるんや。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

騎士団の詰め所は、かなり活気に溢れていた。

と言うより、殺気だってると言った方が良いだろうな。

実戦前の空気、と言っても、私にとっては慣れ親しんだ物だ。

 

 

「まぁ、私には少しばかり理解できないテンションだけどね」

 

 

良くわからないけど、騎士団員のテンションが高い。

アリア先生を守る近衛騎士団が、特に高い。

一言で言えば、「女王陛下をお守りまいらせるぞ野ろ・・・じゃない、淑女共!!」「イィェアッ!」と言うような感じだ。

クルト宰相代理がいくつか物資を供出して、兵士達に与えているらしい。

量が多かろうはずも無いが、決戦前夜に彩りを加えるくらいはできるだろう。

 

 

もちろん、私はそこに参加していない。

私は詰め所から少し離れた兵器庫の前に座り込んで、『GNスナイパーライフル』を含めた銃器類を手入れしている。

私の周囲には、同じように自分の獲物や兵器の整備をしている連中がいる。

 

 

「・・・愛車の調子はどうだい、シュタイナー?」

「・・・悪くない」

 

 

そう言って戦車の下から工具片手に出てきたのは、クラウゼ・シュタイナー。

『ブリュンヒルデ』の陸戦隊の指揮官の一人で、機動部隊を率いている男だ。

階級は大佐で、魔法世界に旧世界の戦車を持ち込む程の戦車愛好家だ。

普段から第三帝国ドイツ軍の戦車兵の黒服を着ている、筋金入りの戦車好きだ。

 

 

「シュタイナー君は、戦車にしか興味無いからねぇ」

 

 

戦車の砲塔の上に座って私達を見下ろしているのは、マリア・ジグムント・ルートヴィッヒ。

女の名前だが、れっきとした男だ。

クールだがドSと言う気性の持ち主で、今日の戦闘でも陸軍に混じって、妙に手の込んだ嵌め技で敵兵を嬲っていたらしい。

広域殲滅魔法をピンポイント爆撃に使うとか、S過ぎるだろう。

 

 

で、私は『ブリュンヒルデ』で主砲を撃ち続けていた。

一見、まったく何の接点もなさそうな私達だが実は一つ、共通項がある。

それは・・・。

 

 

「まぁ、同じ魔族同士、明日も生き残れると良いねぇ」

「私は、ハーフなんだが・・・」

「僕もさ。だからツレないこと言わないでよアルカナ」

「その名で呼ばないでもらえるか?」

 

 

チャシャ猫のようにニヤリと笑うマリアに、私は舌打ち一つ。

そして純血悪魔のシュタイナーは、私達の会話にはまるで興味を示さずに、戦車の中に戻って行った。

魔族だけあって、執着が激しいな。

魔族は長生きな分、好きな物は大切に大事に扱う者が多いんだ。

 

 

かく言う私も、銃器をこよなく愛している。

まぁ、餡蜜の方が好きだけどね。

 

 

「まぁ、アリア先生もなかなか面白い人だからね、あと金払いも良いし」

 

 

私にとっては、それで十分だ。

それに、まぁ・・・。

 

 

超の代わりに、見届けてやるのも悪くないだろう。

あの人の、行く末を。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

アリアに会いに行こうとしたら、茶々丸に邪魔された。

何か知らんが、「ダメです」の一点張りだった。

色々と話したかった・・・ではなく、話すことがあったと言うのに、何なんだあのボケロボは。

悔しかったので、しこたまネジを巻いてやった。

 

 

おかしい・・・少し前までは、茶々丸は私に従順な従者だったはずなのに。

それにしても、もち米がどうとか小豆がどうとか、何の話だ・・・?

 

 

「マァ、コマカイコトキニスンナヨ」

「その材料から察するに・・・明日は遅めに起こした方が良さそうじゃの」

「何故だ?」

「ゴシュジンハシラナクテイイコトサ」

「そうじゃの、西洋の鬼にはわからん風習じゃ」

 

 

風習・・・?

良くわからんが、まぁ、良いか。

後で調べるとしよう。

 

 

「あ、エヴァにゃん先生だー」

「え?」

「あ、本当だ! エヴァにゃん先生だ!」

 

 

エヴァにゃん先生はやめろ。

今、私はさよとバカ鬼に会いに来ていた。

影を使って転移などせんでも、どこにいるかはわかる。

 

 

何故なら新オスティアの公園に、未だ巨大化したままのバカ鬼がいるからだ。

まぁ、その際、アリアドネーの生徒共に会えたのは嬉しい誤算だったがな。

 

 

「エヴァにゃん先生、久しぶりだニャ!」

「お元気そうで何よりです」

「ああ、フォン・カッツェもデュ・シャも元気そうだな・・・ファランドール達もな」

「えっへへー」

「ふ・・・当然ですわ!」

「エヴァにゃん先生も、本当に良かったです」

「だからエヴァにゃん先生はやめろ」

 

 

苦笑しつつそう言うが、姦しい小娘共はちっとも聞く耳を持たんようだ。

まったく・・・<闇の福音>を捕まえて。

あ、そう言えばこいつらには言ってなかったな、私の正体。

 

 

「さよはどこだ?」

「サヨですか? サヨなら・・・」

 

 

ファランドールの指差した先には、『バルトアンデルスの剣』を両手で抱えて、巨大化したバカ鬼の前で「うーん」と考え込んでいるさよがいた。

何だ、その剣があるなら、すぐに戻せるだろうに。

 

 

「おい、さよ」

「ひゃあ!? ち、違うんです違うんで・・・って、エヴァさん?」

「・・・何をしてるんだ?」

「え、あー・・・最初はすーちゃんを元に戻そうと思ったんですけど」

 

 

戻せば良いじゃないか。

そう思ったんだが、さよはどうにも踏ん切りがつかない様子で。

 

 

「・・・コレ、私のイメージが反映される剣じゃないですか」

「ああ、そうだな」

「・・・えと、つまり私のイメージですーちゃんができるわけで」

「うむ、で?」

「・・・その、だから・・・」

 

 

・・・?

さよの言動は、どうにも要領を得なかった。

つまり、何が言いたいんだ?

 

 

「・・・ゴシュジン、カワリニヤッテヤレヨ」

「はぁ? 何で私が」

「良いから良いから、やってやれ」

 

 

何故か、チャチャゼロと晴明が口々に「やってやれ」と言う。

意味がわからなかったが、さよも涙目で頷いていたので、やってやった。

誰がやっても同じだと思うが・・・何なんだ?

まぁ、さよもまだまだ、手がかかると言うことかな。

そう思うと、少し嬉しい気持ちになった。

 

 

でも、何だろうな。

誰かを全力で殴らなければならない気がする。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「どうやら明日、世界が滅びるらしいわね」

 

 

突然のシオンの言葉に、私は就寝前の紅茶を飲んでる途中で吹き出しちゃったわ。

だって、「明日、晴れるんですって」みたいなノリで言うんだもの。

 

 

「ちょ・・・シオン? あんたねぇー・・・」

「そうだぜシオン、今のはお前らしくも無いミスだ。滅びるらしい、じゃなく、滅びると言い切らなきゃだろ」

「あら、そうねロバート、言い直すわ。明日滅ぶわ、世界」

 

 

シオンが珍しくバカートの指摘を認めたけど、でも別に大したことじゃ無いわよ、それ。

むしろ表現のレベルがランクアップしてるもの。

それならむしろ、「らしい」の方が良かったわよ。

エミリーが持って来てくれたタオルで口元を拭きながら、私はそんなことを考えた。

 

 

と言うか、何? 戦争の次は世界の滅亡?

今時の娯楽小説(ライトノベル)だって、もう少しマシな展開を持ってくるわよ?

 

 

「まぁ、コレは現実だものね。小説よりつまらないのは仕方が無いわよ」

「・・・どうでも良いけど、人の部屋でイチャつくのやめてくれないかしら・・・?」

「「イチャつく? どこが(かしら)?」」

「・・・何故かしら、友達に殺意湧いたんだけど今・・・」

 

 

鏡台の前で携帯端末を弄ってるシオンはともかく、その髪を櫛で梳いてるバカートは何?

執事? 執事なの? でも執事は髪を一房持ってキスしたりしないわよね?

うん、殴って良いはず、私。

 

 

「バッカ、ちげぇよお前。コレはアレだ、枝毛を探してんだよ」

「あら、女性が髪を任せるのは信頼している証よ? 光栄に思ってほしいわね」

「だったら、身の回りの世話とかさせんなよ。女の慎みはどうした」

「ちなみに、ここまで来るのに使ったお金の出所だけど・・・」

「おおっとシオン様、今日も綺麗な黒髪っスね!」

「お2人は仲が良いんですね!」

「アレをそう見れるって、貴女も才能あるわよエミリー・・・」

 

 

というか、もう完全にヒモじゃない、バカート。

本当に、何でシオンはバカートなんだろ・・・。

・・・ヘレンが主目的だったり、しないわよね?

怖くて聞けないけど。

 

 

「それで、明日はどうするのかしら、ミス・ココロウァ?」

「えー・・・今日と変わらないと思うけど」

 

 

世界の危機だか何だか知らないけど、11歳の女の子にできることなんて、タカが知れてるわよ。

いつも通り、自分にできる範囲で、調子が良ければそれよりちょっと多めに頑張るだけ。

警備の仕事を手伝ったり、避難所で迷子の子をあやしたりするのよ。

余計なことに首を突っ込んで、事態を複雑にしたりなんてしないわよ。

 

 

でもだからこそ、自分にできることを、全力全開で!

明日も麻帆良の、えーと、シャークティー先生? とかと一緒に働くんじゃないかしら。

 

 

「ミス・スプリングフィールドのことは、良いの?」

「あー、アリアな。でもあいつ、女王だろ? 俺らみたいなガキより、よっぽど頼りになる連中が傍にいるだろうよ」

「あら、ミス・スプリングフィールドのことだから、一人で無茶するとは思わなくて?」

「そりゃあ、お前・・・・・・えー」

「・・・あり得るわね・・・」

 

 

アリアの無茶さを知ること、私達以上の人間はいないわ。

アリアって、普段は「君子危うきに近寄らず」みたいな顔してるけど、いざとなると「無茶・無理・無謀」の三拍子揃った危ない子になるのよね・・・。

 

 

「あ、急速に心配になってきた」

「いつだったかしら、お仕置き部屋に放り込まれたロバートにパンを届けに行ったことがあったじゃない? しかも教官の目を盗んで」

「あー・・・あったわねー、ドロシーが大騒ぎしてたやつ」

 

 

あの時は、大変だったわねー。

アリアだけじゃなくて、校長のおじーちゃんまで巻き込んだ騒動だったわ。

何だったかしら、「その程度の無茶、私の無理で押し通します!」とか意味のわかんないこと叫んでた気がする。

ミッチェルのフリッカージャブが無ければ、停学ものだったわよ。

 

 

「・・・そう言えば、ミッチェルはどうしてるのかしら」

「さぁ・・・居場所もわからないのよ」

「あいつのことだから、どっかに引き籠ってるとは思うんだけどなー」

 

 

・・・アリアに呼ばれたら、出てこないかしら?

そんなバカなことを考えながら、私達は少しの間、思い出話に華を咲かせた・・・。

 

 

 

 

 

Side トサカ

 

俺の髪型を見て、「鳥頭」とか「とさか頭」だとか言う奴は、今まで何人かいたぜ。

まぁ、そいつらは今じゃ表に出れねぇ顔になってるがな。

何故なら、俺の髪型をそう言った奴は例外なくボコボコにしてやってるからよ!

だからグラニクスじゃあ、俺の髪型をそう言う奴はいねぇ。

 

 

「あ、とさかだー」

「ニワトリさんの頭だー」

「あそんでー、ニワトリさんのおじちゃん」

 

 

グラニクスじゃあ、俺もそれなりに名の通った拳闘士だからよ。

道を歩けば、それなりに・・・。

 

 

「ねぇねぇ、とさかのおじちゃん」

「あそんでー、ニワトリー」

「とさかの髪のおじちゃん、あそんでー」

 

 

それなりに・・・。

 

 

「うるっせぇぞガキ共! 煮て食うぞゴルァ―――――――ッ!!」

「「「きゃ~♪」」」

 

 

それなりに、恐れられてるってんだよオラァ!?

さっきから足元でチョロチョロしてるガキ共を空中に放り投げたり、腕掴んで振り回したり、瞬動術見せてやったり、頭に手を置いて髪をグシャグシャにしてやったり、後ママの目を盗んで菓子を口に放り込んでやったりして地獄の責め苦を与えてやった後、ガキ共はキャーキャー言いながら、親の所に帰って行きやがった。

 

 

・・・ちっ、コレに懲りたら二度と人を「とさか頭」呼ばわりすんじゃねぇぞ、ガキ共が!

俺ぁ、キャイキャイ喚くガキは大嫌いなんだよ!

夜更かししてねぇで、とっとと寝やがれってんだ!

 

 

「何、遊んでんだいアンタ」

「ママ!? 俺は遊んでなんかねぇよ! ただガキ共に俺の恐ろしさをだな・・・」

「まぁ、アンタは面倒見が良いからね、でもちゃんと仕事はしなよ」

「仕事ったって、ボランティアじゃねぇか・・・」

「仕事は仕事さ、ほら働いた働いた!」

 

 

ママの言葉に俺は舌打ちすると、足下に置いてあった箱を肩に担いだ。

配給用の芋とかが入ってる箱で、意外と重いが俺にとっちゃあ軽い。

こいつを、宰相府の厨房まで持ってくわけだな。

バルガスの兄貴なんかは、一度に5箱運んでる、流石兄貴だ。

・・・チンとビラは、2人で1箱運んでやがる。情けねぇなオイ・・・。

 

 

ちなみにママは一度に10箱運ぶ、逆らえねぇよマジで・・・。

そんなことを考えながら、宰相府の部屋の一つに作られた仮の食糧置き場まで芋の箱を持っていく。

すると、そこにいた係の女が書類片手にやってきて、笑顔を浮かべた。

真っ黒い服を着た、褐色の肌の辛気臭ぇ女だ。

確か、シスター何とかって言う・・・。

 

 

「シャークティーと申します。お疲れ様です」

「おぅ・・・どこに置きゃあ良いんだよ」

「あ、こちらに・・・やっぱり、殿方の手があると違いますね」

 

 

俺よりママの方が断然すげーけどな。

そう言うと、そのシャークティーとか言う女は笑って言った。

 

 

「いえ、主は貴方の献身を見ておられます。いつか貴方の身に幸いが訪れることでしょう」

「主ぅ? 何だそりゃ、宗教かぁ?」

「教義は関係ありません。人は皆、心に己だけの主を持っているのです」

 

 

はぁん・・・俺には欠片もわかんねぇけどな。

んなことより、この箱の置き場所を教えやがれってんだ。

・・・ったく、何でこんな女と関わっちまうかなぁ、俺は。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

勤勉、努力、慎ましさ。

シスターシャークティーを構成する三つの要素は、残念ながら私には受け継がれていないみたい。

まぁ、シスターシャークティーは私にもできると思ってるらしいけど、正直、無理。

 

 

「その点、高音さんは良くやるっスよねー」

「春日さん? 手が、ぐすっ、止まって、ぐすっ、いてよ?」

「ああ、うん」

 

 

ちなみに高音さんは、グスグス涙を流しながら玉葱を切ってる。

場所は宰相府の厨房の一隅、私達はそこで明日の朝の炊き出しの仕込み中。

私達の他にも、たくさんの人がそこで働いてる。

皆、本当に頑張るねー。

 

 

「ミソラ、剥くのは皮だけダゾ」

「うぐ・・・わ、わかってるよ」

 

 

私が何をしているのかと言うと、ココネと芋の皮むき。

これがまた難しくて、指を切ること7回。

指を切る度に、料理長のおじさんが治癒魔法をかけてくれるんだけど、痛い物は痛い。

と言うかココネが異常に上手くて、物凄く薄く長く皮を剥いてる。

 

 

「何でココネはそんなに上手なの・・・?」

「こっちに来てから、調子が良いンダ」

「ふ~ん・・・?」

 

 

まぁ、ココネはこっちの生まれだって言うしね。

もう何年前だっけ、ココネと出会ったのは。

仲良くなって、契約して、何年経ったっけな?

 

 

「ま、そんなに調子が良いなら、私の分も頑張ってねーっと」

「サボリはダメだゾ。シスターに怒らレル」

「そうですよ、皆、頑張ってるんですから」

「佐倉さん、それ何て神業?」

 

 

佐倉さんが、箱に入ったニンジンの皮を一本20秒ぐらいでスルスル剥いていた。

あまりに滑らか過ぎて、プロなんじゃないかって思えるぐらい。

 

 

「普段から、お姉さまと一緒にお料理したりするので」

「・・・その割には・・・」

「貴女に、ぐすすっ、言われたく、ぐすっ、ありません!」

 

 

ボロボロと玉葱を分解? している高音さんは、相変わらず涙を流しながらそう言った。

皆、真面目だねぇ。

あーあ、私のサマーバケーションも、どうしてこんな面倒事になっちゃったのかね。

 

 

「ミソラ、手が止まってルゾ」

「あいあーいっと」

 

 

シュルシュルと芋の皮を剥きながら、私は思う。

本当、皆、真面目だよ。

 

 

「はーい、次のお芋が来ましたよ。美空、サボっていないでしょうね?」

「ちゃーんとやってますよ、シスター」

 

 

その時、シスターシャークティーが人相の悪そうなトサカ頭の男の人と一緒にやってきた。

というか、一番に疑うとか酷くないですか?

 

 

おお・・・!

 

 

その時、厨房の真ん中からどよめきが。

何かと思って見てみると、人だかりができていて・・・中心に、見覚えのある緑色の髪の女の子。

・・・茶々丸さん?

 

 

・・・「旧世界直輸入小豆」? 「魔法のお赤飯」?

ちょ、どっから持ってきたのそれ。

 

 

「一生に何度あるか、わかりませんから。ここで逃せばこの絡繰茶々丸、一生の悔いを残します・・・!」

「イチゴ赤飯、イチゴ赤飯作りましょう!」

 

 

・・・何を言ってるのか、わかんなかった。

つーか、この緊急時に何をやってんのさ。

 

 

 

 

 

Side ネカネ

 

大公国の首都、連合のグレート=ブリッジに程近いゴゥンの街に、私は留め置かれています。

考えるまでも無く、人質扱いされてるんだと思う。

誰にとっての?

言うまでも無く、ネギにとっての。

 

 

でもあの子は、そんなことを考えもしないんでしょうね。

だって、あの子は。

 

 

「あの子は、世の中が良い人ばかりでできていると思っている節がありますから・・・」

「・・・わかります」

 

 

ゴゥンの居城の中にあるカフェで、私は高畑さんにお会いしていました。

ネギのことをお願いしたくて、ちょうどお仕事でこちらに来ていた高畑さんをお呼びしたの。

高畑さんとは、一度だけウェールズでお会いしたことがあるから・・・。

ネギのことを良く可愛がって貰って・・・。

 

 

ロンドンにまで挨拶に来られたこともありました。

まぁ、そこまで親しいわけでも無いけれど・・・。

 

 

「でも、高畑さん以外にお願いできる人がいなくて・・・」

「わかりました。何とか、努力してみます」

「お願いします。あの子はまだ子供で、大人がちゃんと見ててあげないといけないと思うんです」

 

 

昔から危なっかしくて、目が離せない子で。

日本で先生をするって聞いた時も、犯罪者として魔法世界に連れて行かれるって聞いた時も、心配で仕方がありませんでした。

アーニャやアリアは、そこまで手のかからない子だったから、余計に・・・。

 

 

「わかりました。安心して・・・と言い切れない所がありますが、任せてください」

「重ねて、お願いします」

 

 

高畑さんに頭を下げた後、私は隣の椅子に置いておいた物を高畑さんに手渡しました。

それは、穴だらけになっていたネギのローブと転移魔法符が数枚・・・。

ローブの方は、私が破れた部分を縫って、綺麗に直しておいた物です。

 

 

「ネギ君のことは、僕が・・・ナギの代わりに」

「はい・・・」

 

 

ナギ。

貴方は今、どこで何をしているの・・・?

面倒だとか言いながら世界を一度救って、英雄になって。

子供達をスタンさん達に預けて。

 

 

今、自分の子供が互いに憎み合うような状況で。

貴方は、今、どこにいるの・・・?

 

 

・・・ナギ・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「つまり、その方達はフェイトさんが拾った戦災孤児だと」

「うん、他に57人拾って、学校に送ったけど」

「・・・な、なるほど」

 

 

そう言えば、そんな話もあったような気もします。

どうにも、フェイトさんは「ラスボス」的なイメージがあった物ですから。

やってることは、意外と良い人なのですよね、フェイトさん。

でも、何で拾った方は決まって美少女なのでしょうか、作為的な物を感じます。

 

 

「ちなみに、その57人の中には男の方も・・・?」

「・・・いるけど。会いたいの?」

「あ、いえ、別に・・・」

 

 

ベッドの上から降りて、フェイトさん達と同じく床に正座します。

な、何だか恥ずかしいです・・・。

フェイトさんの後ろに正座している5人の方々に、今更ながら、にっこりと笑いかけてみます。

 

 

・・・激しく、目を逸らされました。

しかも、かなり震えています。

顔色が真っ青です。

ちょ・・・まるで私が何か酷い事をしたみたいに見えるので、やめてもらえます!?

 

 

「あの・・・えー、暦、さん?」

「ひゃいっ!?」

 

 

暦さんの耳と尻尾が、ピンッと立っています。

・・・どうしましょう、この距離感。

 

 

「・・・彼女達は」

 

 

その時、囁くような声でフェイトさんが言いました。

 

 

「これまで、色々と僕を助けてくれた。僕はそれに感謝している」

「「「「「フェイト様・・・」」」」」

 

 

ジーン、と感動しているらしい5人娘(フェイトガールズ)の皆さん。

でもそれを知ってか知らずか、フェイトさんはいつも通りの無表情で続けて・・・。

 

 

「それに、女性のあつ「わーっ、フェイト様ダメェ――――!」・・・そうなの?」

「はい! そうなんです!」

 

 

・・・今、何か非常に気になる言葉を聞き逃したような気がします。

と言うか、何で5人でフェイトさんを私から隠そうとしているのでしょう。

・・・ちょっと、近付き過ぎじゃありません?

 

 

「あ・・・じゃあ私達、コレで失礼しますー」

「マス!」

「失礼いたしますわ」

「それでは、フェイト様もまた明日・・・」

「アーニャによろしく、よろしくお伝えください」

 

 

暦さん、環さん、栞さん、調さん、焔さんの順に、私の私室から退室して行きました。

・・・アーニャさんと焔さんって、仲が良かったのでしょうか?

そして部屋には、私とフェイトさんが残されます。

床に正座して、向かい合う私とフェイトさん。

 

 

また・・・何とも言えない空気に戻ります。

私がもじもじと膝の上で手を動かしていると、1分くらいして、フェイトさんが口を開きました。

 

 

「・・・怒ったのかい?」

「いえ、そんな・・・」

 

 

と言うか、何で怒るんだろう、私。

何で・・・?

 

 

「そのドレス・・・」

「・・・あ、はい・・・」

「・・・とても、似合っているよ。出会った時の、キミの色だ」

 

 

茶々丸さんが5秒で着替えさせてくれました。

・・・何故か、茶々丸さんがガッツポーズしてる姿を幻視しました。

 

 

先程まで、ちょっとアレでしたので、視線を合わせづらいと申しますか。

それに、その、膝枕の感触も残っておりますので、気恥かしいです。

・・・けして、そう、けして後ろめたいわけでは無いです。はい。

 

 

「・・・まだ、熱い?」

「・・・はい?」

 

 

首を傾げて問い返すと、フェイトさんは軽く膝を立てて、私に近寄ってきます。

・・・リスタート早いですね。

と言うかこの人、何で私に対してだけこんなに強気なので、しょ・・・!?

 

 

額に、冷たい手の感触。

もう片方の手が左の頬に伸びて来て、私は思わず逃げてしまいそうになりました。

でも、背中はすぐにベッドに当たってしまって、逃げられなくて。

 

 

「・・・キミは温かいね、アリア。とても・・・熱いよ」

「そ、そうです・・・か?」

「キミはどこか、いつも怜悧で・・・なかなか熱くなってくれないから」

 

 

そ・・・と、かすかに私の顔を上向かせるフェイトさん。

無機質な瞳に、私が映っているのが見えます。

そこに映るのが他の誰でも無い、私だけだと思うと、胸が熱くなります。

胸と顔と、そして瞳が、熱を持ちます。

 

 

「いつも、ほんのりと頬を染めるくらいだ」

 

 

フェイトさんは、どうなのでしょうか。

私といると、何かが変わるのでしょうか。

 

 

「・・・僕はアーウェルンクスとしての役割を失った」

「え・・・ああ、はい、クビにされたとか・・・」

「けどそれも、今は良い」

 

 

額から手をどけると、フェイトさんは私の右手を優しく掴みました。

私も、特に抵抗はしません。

・・・どうして?

 

 

「今、僕が『執着』しているのは、唯一、キミのことだけだ」

 

 

フェイトさんの中で、私の評価がそこまで高かったとは知りませんでしたよ。

・・・嬉しい。

どうして?

 

 

「キミが欲しいよ、アリア」

 

 

トクンッ、と、胸が痛みます。

 

 

「・・・京都で僕がそう言った時、キミも僕が欲しいと言ったね」

「や・・・」

「その言葉は、今も有効?」

 

 

そんなこと、聞かないでほしいです。

恥ずかしくて・・・死んでしまいそう、だから。

俯いて眼を逸らしたくても、フェイトさんはそれを許してくれません。

それは少し強引で、でも、嫌では無くて。

 

 

まるで、奪われるみたいで・・・。

ああ、そうか・・・私は。

 

 

「・・・欲しいです、貴方が・・・フェイトさん」

「・・・そう、『嬉しい』よ」

「本当に?」

「うん」

「・・・私も、嬉しいです」

「そう」

「はい・・・」

 

 

 

私は、貴方とキスがしたい。

気付いてみれば、簡単なこと。

 

 

 

「・・・きす?」

「え、そこから説明するん・・・ぁ」

「・・・」

「・・・・・・」

 

 

触れ合ったのは、たぶん、ほんの一瞬。

今度は・・・誰も、部屋に入ってきませんでした。

 

 

 

「ん・・・」

 

 

 

 

・・・好き・・・。

・・・フェイトさん。




茶々丸:
キました――――――――――っっ!!
ブラボー2・・・田中さん!? きちんとメモリーできていますか!?
結婚式の際に編集しますから、7重プロテクトかけて永久保存ですよ!!
マスターに見せてはいけませんよ、見せた瞬間フェイトさんが再起不能にされる危険性があります・・・ええ、ええ、SSS仕様で!
今日の私は、阿修羅すら凌駕する存在です!!

・・・あ。
茶々丸です。皆様、ようこそいらっしゃいました(ぺこり)。
今回は、様々な方々の決戦前夜が描かれております。


今回初登場の投稿キャラクターと、アイテムはこちらです。
リード様より、マリア・ジグムント・ルートヴィッヒ様。
黒鷹様より、クラウゼ・シュタイナー様。
これからも、よろしくお願いいたします。

即席兵器様より、『魔法のお赤飯』。
黒鷹様より、「イチゴ赤飯」。
ありがとうございます。


茶々丸:
では次回は、最終決戦な感じです。
何話続くかはわかりませんが、色々な物に決着がつく・・・かもしれません。
では、少々立て込んでおりますので、失礼致します。

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