魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第12話「国家には往々にして良くあること」

Side アリア

 

朝6時と言うその時間は、人によって起きているか寝ているか、微妙な時間です。

2回目の御前会議が開かれたのは、そのような時間帯でした。

 

 

「皆様、おはようございます」

 

 

朝の挨拶を済ませた後、宰相代理であるクルトおじ様が状況の説明を始めます。

曰く、大公国・・・叛乱軍が進撃を始めたと言うのです。

しかも、途中の街道上の民衆を踏みつぶしながらの進軍とか。

はて、ネギにしてはらしくない行動ですが・・・。

 

 

「それはつまり、連合がオスティアに向けて進軍を始めたと言うことか」

「いいえ、そうではありません」

 

 

会議の場で上がった当然の意見を、しかしクルトおじ様は否定しました。

私はすでに報告を受けているので知っていますが、参加者は意外そうな顔をしています。

中には、驚きよりも納得の色が濃い方もいるようですが。

 

 

「西方諸侯の内、反乱に加担せず事態を静観していたアラゴカストロ侯爵領に、公国軍は攻撃を加えたのです。どうやら話し合いでは無く、武力による統合を決断したようですね」

「何と・・・!」

 

 

ウェスペルタティア西方の16家の貴族の内、15家はネギに味方しています。

しかし唯一、アラゴカストロ家だけが旗色を表明しておりませんでした。

王国西方のほぼ中央部に位置するアラゴカストロ領が味方で無いと言うのは、ネギ側からすれば鬱陶しいことこの上ないでしょう。

 

 

特にここ数日は、我が王国と反乱勢力との境界を越えてくる難民や民衆が多くなっていました。

ただ距離的に王国支配地域に来れない人々は、アラゴカストロ領に流れ込んでいたのです。

そうした人々が、同領内への侵攻を企図する公国軍にとっては邪魔だったと言うこと。

 

 

「ただ、叛乱軍の脱走者や国境で事の次第を知らせてきた民間人によると、どうも敵首脳部や連合の意思ではなく、現地司令官による独断であるとの報告が上がってきております」

「問題は相手の意図では無い。無辜の民衆が犠牲になっていると言うのであれば、総力を挙げてこれを救援すべきだろう」

 

 

そう語気を強めたのは、銀目碧髪で眼鏡をかけた財務官僚、ニッタン助教授。

ニッタン助教授は、教育者らしく人道主義的な意見を述べました。

つまりは、こうです。

民衆を救え、そのためにこそ我らは起ったのではないか・・・と。

 

 

「そんなことは不可能だ。我らにはそれだけの力は、無い」

「軍の編成も補給の準備もまだ途上で、とても敵の勢力範囲内に長駆して数万の民衆を救出する余裕は無い。気持ちとしては同意するが、部下に無駄死にを命じることはできない」

 

 

一方で、グリアソン、リュケスティス両中将が反対しました。

確かにここで数万の難民を見捨てるのは心苦しい、だがここで動けば国防体制そのものが瓦解する。

そうなれば、王国数千万の民全てを守ることができなくなる。

それでは本末転倒ではないか・・・と言うのが彼らの意見。

 

 

どちらの意見にも、一理あります。

そして現実的に見れば、どちらの意見を取るべきなのかは自明です。

ただ・・・。

 

 

「では、彼らを見殺しにすると言うのか!」

「そうは言わん、だがどの道救援は不可能だ。ならばより多くの民を守る道を模索すべきだろう」

「貴様ら軍部はそう言って、18年前の処刑もただ見ていただけだったではないか」

「前回と今回とでは事情が異なる。いずれにせよ、安易な人道主義に陥って大局を見誤るべきでは無い」

「何を・・・!」

 

 

ヒートアップしていくニッタン助教授とリュケスティス中将の口論を聞きながら、私はゆっくりと目を閉じました。

そう、現実としてできることは決まっています。

 

 

ただ、感情が邪魔をする。

 

 

 

 

 

Side アリエフ

 

「バカ者がっ!!」

 

 

その報告が午前の執務時間にもたらされた際、私はそう叫んだ。

と言うより、それ以外に言いようが無かった。

 

 

「そのような重要な報告を、何故今頃持ってきたのか!?」

「は・・・その、まだお休みのご様子でしたので・・・」

「起こしてでも、伝えんか!!」

「も、申し訳ありません!」

 

 

公国軍(西方貴族連合軍)が小癪なアラゴカストロ侯爵の領内に侵攻したと言う報告自体は、別に気にすることは無い。

むしろ、それを利用して勢力を拡大する策もあった。

だが、進軍の際に難民を虐殺しながら進むとは・・・何たることか!?

 

 

これでは、公国を支持する連合の立場が無いではないか。

いや、私の立場が無い。

 

 

「公王はそれに許可を与えたのか!?」

「は・・・それがその・・・」

「何だ!?」

「・・・公王陛下は魔法球にお籠りになられ、修業中とのことで・・・」

 

 

公王・・・つまりはネギ君の許可が無ければ、原則として公国軍は動けないことになっている。

だが、何らかの事情で公王の指示を仰げなければ、現地司令官の判断で動いていいことになっている。

緊急の事態には、そうでなければ対応できないからだ。

別に王としての器量を求めたつもりは無いが、丸投げとはな。

 

 

つまり公国軍の現地司令官は、公王からの指示が無いので、現地の判断で動いたと言うことになる。

現地司令官・・・つまりは西方貴族連合の盟主、プロスタテンプステトメア侯爵。

・・・元より、西方における自らの覇権確立を目指してのことであろうが。

 

 

「・・・本来なら、司令官を処断して場を収めるのだが・・・」

 

 

それをした場合、私は西方での基盤を失うことになる。

武力と権力を持つ貴族連合と、何の力も無い民衆。

権力とは、集中すればするほど、小さな部分を押さえることで全体を支配できる。

歴史上、民衆によって倒された権力者は多く存在する。

そしてそれ以上に、権力者によって弾圧された民衆の例は多い。

 

 

今回の件は、その一例にすべきか・・・?

仕方無い、処理を始めよう。

 

 

「・・・それはそれとして、帝国の件はどうなっている?」

「は、ご命令通り遂行しております」

「うむ・・・」

 

 

あの策が功を奏すれば、帝国は動けなくなるだろう。

まぁ、永遠に動けなくなる必要は無い。

ほんの1カ月で良いのだ、それだけあればウェスペルタティアを手中にできる・・・。

だが、そのためには内部を固めなければな。

 

 

「・・・宰相はどうしている?」

「は、執務をしておられますが・・・」

「・・・」

 

 

この地・・・公国と連合の国境に近い「グレート=ブリッジ」に居を定めてからの新たな補佐官に、私は不満を隠そうともしなかった。

宰相が執務をしているのは、わかっている。

私が求めているのは、そのような答えでは無い。

 

 

メガロメセンブリアに残してきたグレーティアであれば、このような答え方はしなかっただろう。

アレの反抗的な献身は、私にとって心地良い物だった。

過去形で語らねばならないのは、残念だがな。

 

 

・・・新しい秘書官を探さねばならんな。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「こ、困ります。誰も通すなとの命令で・・・」

 

 

そう言う兵士の人の制止の声を振り切って、私はネギの執務室の扉を開けた。

執務室・・・ってことになってるけど、誰もいないし、書類の一枚も無い。

麻帆良の寮の部屋よりもずっと広いその部屋には、人間は一人しかいなかった。

そしてそれは、私が会いたかった人間でもなかった。

 

 

「・・・誰も通すなと命じておいたはずですが」

「も、申し訳ありません! その、しかし・・・」

「下がりなさい」

「は・・・ははっ」

 

 

兵士の人を下がらせたのは、ネギの執務用の机の上に座る黒髪赤目の女の子。

再会した時からネギの傍にいる、変な女の子。

エルザとか言う、全身に刺青のある女の子。

 

 

「気を付けてください。貴女はお父様が大事にしている人なのですから、銃殺刑にできないのです」

「そう、つまり何をしても貴女は私に何もできないってわけよね?」

 

 

虚勢だとわかっていたけど、私はそう言った。

ネギに会って、やめさせなくちゃいけないから。

たくさんの人が、ネギのせいで迷惑してる。

ネギにその気が無くても、そうなってる。

ネギが全部悪いわけじゃ、無いのかもしれないけど。

 

 

そう思って、私はここへ来た。

エルザさんは面白くもなさそうな顔で私を見て、言った。

 

 

「貴女のせいで、さっきの兵士はここに入りました」

「・・・だから何よ」

「今頃、憲兵に捕まって銃殺刑です」

「なっ!?」

 

 

タァンッ・・・と言う音が、扉の向こうから聞こえた。

え・・・今の、銃声? 嘘・・・。

 

 

「な・・・何をしてんのよ、あんたは!?」

「ネギが修業を終えるのを待っているのですが?」

「そう言うことじゃ、なくて!」

 

 

エルザさんが座っている横には、エヴァちゃんの家で見たボトルシップみたいな瓶があった。

丸いガラス瓶の中には、小さな砂浜みたいなのがある。

そこに、ネギがいるのね?

 

 

「さっきの兵士の人・・・何も悪くないじゃない!」

「関係ありません。だってお父様が守れと言ったネギの命令を聞かなかったのですから」

「な、な・・・?」

「兵士など、適当に徴兵すればいくらでもできます。でもお父様が守れと言ったネギは一人です。どちらを優先するかなど、考えるまでもありません」

「・・・人の命を、何だと!」

「お父様の所有物」

 

 

目の前のガラス玉を指で弾きながら、エルザさんは言った。

その目は、何も映していなかった。私も、そしてたぶんネギも。

本屋ちゃんは、この子が怖いと言った。

私は、怖くない。ただ・・・。

 

 

「・・・ネギに、会わせて」

「いけません」

「会わせなさいよ・・・!」

「ネギが世界を救う準備をするまで、ダメです」

 

 

何を・・・意味のわからないことを!

私は右手に『ハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)』を出現させると、一足飛びに斬りかかった。

その球ごと、無効化する!

 

 

「銃殺刑にできないと――――――」

 

 

瞬間、右手首を掴まれた。

視線を動かすと、右手で私の手首を掴んで、左手で私の右の脇腹に触れるエルザさんがいた。

・・・いつのまに!?

 

 

「―――――言っていますのに」

「かっ!?」

 

 

ぐりんっ、と身体が回転して、気が付いた時には仰向けになってた。

背中と後頭部がズキズキと痛む。

床に叩きつけられたんだとわかった時には、身体の上にエルザさんが乗っていた。

 

 

ピッ・・・と、右手の人差し指を私の額に突き付けて、止まる。

瞳に、感情は無い。でも、口元が笑ってた。

 

 

「・・・魔法も『リライト』も効かないお姫様は、面倒ですね」

「は・・・?」

 

 

魔法、はともかく。『リライト』って何よ・・・?

私がそう考えた時、私の額のあたりに、変な紋様みたいな物がいくつも浮かび上がった。

な、何コレ!?

 

 

「ネギの護衛騎士気取りらしいですが、さて・・・」

「やめ・・・」

「生きてさえいれば、精神はいりませんから」

 

 

ガチリ。

私の頭の中で、何かが嵌る音がした。

違う。

嵌められていた物が、外れる音がした。

 

 

「あ・・・ああ、あああっ・・・!」

「さようなら、カグラザカアスナ。ネギのことは任せておいてください。この私が・・・」

「ああああああああああああああああああ―――――――――――」

 

 

最後に視界に映ったのは。

黒髪赤目の女の子の空虚な笑みと、静かに輝く魔法球。

 

 

「このエルザ・アーウェルンクスが、お父様のために守ってあげますから」

 

 

それを最後に、私は私で無くなった。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

不意に、胸の内が寒くなった。

救助作業を途中で止めて、僕は東の空を見上げる。

ネギ君がいると言う、大公国の首都の方角を見つめる。

 

 

「高畑さん、どうかしましたか?」

「え? ・・・ああ、いえ」

「・・・? 急いで難民を街道から遠ざけないと、犠牲者が増えます。急ぎましょう」

「ええ・・・」

 

 

今、僕はアラゴカストロ侯爵領に通じる街道の一つにいる。

そこで、「悠久の風」としての活動しているんだ。

麻帆良祭の後、学園長と共に魔法世界に来てから、僕はそれ以外の活動を許されていない。

学園長は、メガロメセンブリアに行き、僕は辺境を転々としていた。

 

 

今回、アリア君の建てた「ウェスペルタティア王国」との戦争になりそうだと言うので、ここに呼ばれた。

正直、戦う気は無かった。

むしろ、ネギ君を説得したいとさえ思った。

事情はどうあれ、ナギの子供が殺し合うのを、見たくなんて無い。

 

 

「大丈夫ですか?」

「畜生、連合め・・・」

 

 

背中に背負った老人の声には、怨嗟が込められていた。

「悠久の風」の仲間たちが背負ったり、肩を貸したりしている人達も、悲しみや恨みの声を紡いでいる。

20年前、まだ子供だった頃、僕はこう言う声を良く聞いていた。

戦争が終わってからも、紛争地帯を周る度に聞いていた。

 

 

そして今回、この声を響かせているのは、ネギ君の建てた「ウェスペルタティア大公国」だと言う。

ネギ君がこんなことをするとは、思えない。

だけど、彼の下の人達は平然とこう言うことができる。

 

 

「・・・」

 

 

大公国の首都へ向かう途中で、たまたま僕は公国軍が民衆を虐殺しながら進むのを見た。

愕然とした。難民達の一部を街道から離し、軍から遠ざけるので精一杯だった。

どうも街道にいる民衆だけを対象にしているらしく、街道から離れれば、追撃してくる様子は無い。

無いけれど・・・。

 

 

振り向いた視界には、街道の横に積まれた民衆の死体の山が見える。

片付けるでもなく、ただ邪魔だからどけた。

まさに、そんな感じだった。

助かった人でも、腕や足を無くしたり、家族を失ったりした人がたくさんいる。

 

 

このあたりの地域は、難民への差別意識が強い。

生産力も持たず、ただ他人からの援助で生きる彼らによって生活が破壊された村や町もある。

彼らを支えるために、重税を課された地域もある。

彼らを支えるための税を払わされて、自分の家族が飢えさせられた人々もいる。

 

 

だから、難民の排除に嫌悪感を抱く人間も少ない。

個々人としてはともかく、全体としてそう言う風潮がある。

 

 

「・・・だけど、ここまでとは・・・」

 

 

誰かが煽ったにせよ、ここまでとは思わなかった。

いつか、師匠が言っていた。

 

 

『戦うだけじゃ、壊すだけじゃ結局、誰も助けられない』

『だから、紅き翼の連中には俺みたいなのが必要なのさ』

 

 

そう言っていた師匠も、明日菜君や僕を守って、死んだ。

今はもう、いない。

いつか、クルトが言っていた。

 

 

『紅き翼のやり方では、誰も救えない』

『だから私は、必要な力を手に入れる』

 

 

そう言ったクルトは、いつしか執政官にまでなり、新オスティア総督として赴任した。

メガロメセンブリアの資金力を用いて難民への食糧援助や受け入れ地への財政支援などを行うことで、わずかずつ難民を自立させていった。

それは、とても遅い歩みだったけれど・・・今、クルトは王国を復興させ、より実質的な政策を行い始めている。

 

 

その一方で、僕は何も成し遂げられてはいなかった。

ナギの残した物を、何一つ受け取ることもできずに。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

「映像班の映像と、密告者の情報。さらに加えて公国軍の高速艇を奪ってこちらの陣営に駆け込んだ民間人の証言。以上のことから、叛乱勢力の非道を全世界に喧伝する準備は整ってございます」

 

 

早朝から続く御前会議を一時休憩とした後、私は宰相府の執務室でアリア様に意見を述べておりました。

御前会議の場では、私は喋りすぎないよう心がけておりますので。

椅子に座るアリア様は、前髪を指先で弄びながら、私の話に耳を傾けておいででした。

 

 

「純軍事的に考えて、我々の戦力ではアラゴカストロ侯爵領まで到達することはできません。むしろ領内の住民を避難させ、防衛戦に専念すべきです。しかる後に逆襲し、西方の民衆にアリア様の治世の果実をお与えになるのが唯一の策かと」

 

 

それにその方が、西方の民にもわかりやすく示すことになるでしょう。

ネギ君とアリア様、どちらが自分たちの王に相応しいのかが。

 

 

冷酷なことを言えば、今回の件は渡りに船だったのです。

公国と称する叛乱勢力は、自ら自分たちの統治能力の無さを証明したのです。

戦争が長引けば、今回犠牲になった以上の人数の人間が命を失うことになります。

なればこそ、今回の事件を最大限に利用し、戦争の早期終結に役立てるべきです。

 

 

「アラゴカストロ侯爵は、すでに王国への恭順の意思を示しております。当然でしょう。とはいえまだ救援軍を出せる状況ではありませんので、市民と共に旧王国軍の要塞内部に籠り、時が来るまで凌ぐように指示致しました。幸い、アラゴカストロ領には難攻不落のエクサゴニィ要塞がございます」

「・・・それでも、それほどの時間は無理でしょう」

「無論です。食料、燃料・・・その他諸々もって2週間と言う所でしょう」

 

 

私は、王国領内の疎開計画・軍事的補給計画に関しては自信を持っています。

何しろこの20年間、地道に水・食料・武器弾薬・生活必需品などを各疎開先・避難所などに備蓄していたのですから。

いやぁ・・・元老院に「MM市民がウェスペルタティアで災害にあった時用ですよ、HAHAHA」と言った時は、快感でしたね。

 

 

ですが、その他のことに関しては自信が持てません。

無い物は出せません。

できないことは、できないのですから。

 

 

「仮に、西方の民衆を救う手段があったとしてです」

 

 

そこで初めて、アリア様は私を見ました。

宝石のような瞳が、紅い輝きをたたえて私を見つめています。

 

 

「しかし、救った後どうなさいますか? 我らの領内に保護できたとして、彼らの住まいも食料も、我々は提供できません。よしんばできたとしても、それに忙殺されて国防体制を整えることができません。新たな難民を再生産するだけでなく、他の市民を危険に晒すことになります。アリア様にいかような手段があったとしても、数万の人間を抱え込む具体策がおありでしょうか?」

 

 

ニッタン助教授の言うように、人道主義もなるほど、必要な時もあります。

しかし時として、現実は理想を蚕食し、施政者に決断を迫るのです。

多くの人間は、王が一声かければ数万の人間が明日にも移動できると考えているのかもしれませんが、実際にはそんなことはありません。

そのようなこと、不可能です。

 

 

私の言葉を聞いたアリア様は、目を伏せ、私の言葉を頭の中で反芻しているようでした。

カチ・・・と、左腕のブレスレットに触れ、しばらくの沈黙。

 

 

「・・・他に方法は無いのですね?」

「あるのかもしれませんが、私の知恵では見つけることができません」

 

 

アリア様は頷くと、席を立ち、私の横を通り過ぎて行きました。

私は厳かに頭を下げ、それを見送りました・・・。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「んどぅらぁっ!!」

「ふんぬっ!!」

「しゃぁらくせぇっ!!」

 

 

カゲタロウとか言うおっさんの影の盾ごと、狗神を纏った右拳でぶち抜く!

ガラスが砕けるみたいな音が響いて、俺の拳が届く・・・。

 

 

「ぬん!」

 

 

そう思った瞬間、下から影の槍が3本!

右に身体を傾けて2本をかわし、左腕に狗神を作って1本を壊す。

そうやって、体勢を整えて反撃しようとすると。

 

 

「『百の(ケントゥム・)影槍(ランケアエ・ウンブラエ)』」

「マジか!?」

 

 

このおっさん、マジで強ぇ!

さっきから、接近戦に持ち込めんのやけど!

流石に一人で決勝戦まで来たおっさんや、マジでヤベぇっ!

 

 

「『疾空黒狼牙』ッ!」

 

 

足元の影から狗神を作って、頭の上に集めて盾にする。

でもそれも、紙みたいに突き破られて、俺の足もとに次から次へと影の槍が刺さる!

へっ・・・当たるかよ!

 

 

俺は、実戦でやった方が上達が早いんや。

昨日やったらかわせへんもんでも、今日の、この瞬間の俺やったらかわせる。

実際、100本の影の槍を俺はかわした。

さぁ、ここからが俺の反撃――――。

 

 

「では、1000本で」

「・・・マジか?」

「1000の影精で編まれた1000の槍だ。かわせるかな・・・?」

「・・・へっ」

 

 

ちらっ、と、観客席の方を見る。

獣人の俺は、常人に比べて目がええんや。だから見える。

声は聞こえんけど、応援してくれとるのは見える。

 

 

視線を戻せば、俺に向けて殺到する1000本の槍。

だが逃げる理由は、何も無い。

 

 

「一瞬千激―――――」

 

 

その時俺の目の前に、フワリ、と見慣れた長い髪が舞った。

 

 

「―――――弐刀五月雨斬り」

 

 

ガガッ、ガガガガガキキキィィ・・・ンッ!

甲高い金属音が響いて、1000本の影槍全てを弾いて、斬り裂きおった。

とんっ、と俺の前に舞い降りたんは、月詠のねーちゃんやった。

いや、他に誰もおらんのやけど。

 

 

「月詠のねーちゃん!」

「一人でやろうったって、そうはいきませんよ~」

 

 

眼鏡の奥の月詠のねーちゃんの目が、楽しそうに細くなった。

それから、少し離れた位置で新しい影を作っとるカゲタロウのおっさんを見つめる。

 

 

「斬り応えがありそうやわ~、うふふふ・・・」

「久々やな、それも・・・」

 

 

苦笑いしながら、俺は立ち上がった。

まぁ、女と一緒になって2対1っちゅーのも、何や情けないような気もするけど。

 

 

「・・・『狗族獣化』」

「わーお?」

 

 

ビキビキビキィ・・・っと音を立てながら、俺は獣化した。

女に任せっきりってーのは、もっと情けないやろ!

 

 

「モッサモサですやん~♪」

「もっと他に言うこと無いんか・・・?」

 

 

久々の獣化に、首のあたりをゴキン、と鳴らす。

さぁて・・・。

 

 

「行くでぇっ!!」

「あいさー」

「よかろう・・・来たまえ!」

 

 

優勝は、俺らのもんや!

 

 

 

 

 

Side ラカン

 

おーおー、ありゃあ、カゲちゃんマジでやってんな。

せっかくだから、新オスティアまで来てみたんだが・・・こりゃあ、俺も出ときゃ良かったかな?

まぁ、俺が出たらたぶん5秒で決勝終わるけどな。

 

 

「これはこれは・・・拳闘大会の陰の出資者が珍しい・・・」

「あん? ・・・おおっ、じゃじゃ馬姫じゃねぇか、久しぶりだな!」

「なっ・・・貴様!」「姫様に無礼な・・・!」

「良いのです、下がりなさい・・・命令です」

 

 

そこにいたのは、じゃじゃ馬姫・・・もとい、テオの奴だった。

部下の前だからか知らんが、やけにお淑やかだなオイ。

だが部下が出て行った途端、ニカッ、と笑ったテオは、俺の肩に飛び乗って来やがった!

いや、三十路の女が男の肩に乗るなよ。

 

 

「ヘラス族は長命じゃから、人間喚算でまだ10代じゃ!」

「いや、10代の女でも肩車は無いわー、帝国は大丈夫かよ?」

「だから、普段は皇女を演じておるわ! お前こそ、何で連絡の一つもよこさん!?」

「い、いや、あー・・・連合の英雄が帝国の皇女と頻繁に連絡取るわけにはいかんだろ?」

 

 

適当に言ったんだが、テオの奴は急にしおらしくなりやがった。

肩からも降りて、どこか申し訳なさそうな顔になる・・・おろ?

 

 

「その、お前の都合を考えんで、すまん・・・」

「ど、どうしたんだよ、お前らしくもねぇ。前だったら今のでキツいのを一発くれてるだろ?」

「いや、その・・・な」

「あ~・・・」

 

 

俺はガシガシと頭をかくと、手元に置いてあった酒の入った杯を手に取った。

ぐいっ・・・と一口飲む。間がもたねぇ。

 

 

「・・・ネギ坊主のことか?」

「まぁ、それだけでは無いがの・・・」

 

 

はぁ、と溜息を吐いて、テオは拳闘大会の試合を見る。

本当なら、拳闘好きの血が騒いでも良いはずなんだが、どうも調子が狂うぜ・・・。

 

 

「まぁ、あの坊主もなぁ・・・どうすっかな」

「・・・わからん。だが帝国は王国を支持することを決めた。国境の守りが薄くなれば、軍が連合領になだれ込むじゃろう」

「・・・戦争か」

「・・・うむ・・・」

 

 

それを連合の英雄の俺に言って良いのか、とは言わねぇ。

元々、元老院やら何やらとはお近付きになりたくねぇしな。

さぁて、だがナギのガキのことはどうすっかね。

見捨てるのも後味が悪ぃし、と言って味方してやる気もねぇ。

 

 

まぁ結局、俺は俺のやりたいようにやるだけだがな。

その時、隣のテオが俺の腕に手を置いてきた。

何か、目も潤んで・・・やべぇな、そろそろ誤魔化さねぇと。

 

 

「ラ・・・」

「姫様!!」

 

 

その時、勢い良く扉が開いて、さっき下がったテオの部下が入ってきた。

テオが慌てて俺から離れて、皇女の態度に戻る。

それでもどこか不機嫌そうな雰囲気で、部下を見る。

・・・俺からすれば、助かったわけだが。

 

 

「・・・何事です。入るなと・・・」

「も、申し訳ありません。しかし本国より急報が・・・」

「・・・構いません。言いなさい」

 

 

テオの部下は俺を気にしたみてぇだが、テオはそう言った。

テオの部下は、俺を気にしつつも、言った。

 

 

『け、決着―――――――――――――ッッ!!』

 

 

決勝戦が終わる声。歓声と怒号。

しかしそれでも、防音魔法のかかったこの部屋で、聞き間違えることは無かった。

テオの震える声を、俺は久しぶりに聞いた。

 

 

「・・・クーデターじゃと・・・!」

 

 

 

 

 

Side リィ・ニェ(ヘラス帝国女性将校)

 

私の父は、20年前の連合との戦いで死んだ。

国のために、国益のために、国民を守るために戦って死んだ。

だから、それは良い。

敵である連合を憎む気持ちはあるが、それ以上に父を誇りに思う。

 

 

だから、父を侮辱する者は許さない。

父を侮辱した奴は、一人の例外も無く生かしておかない。

 

 

「これは、祖国に正義を取り戻すためには、避けては通れない道である!」

 

 

私は、眼下に居並ぶ部下にそう言った。

私は今日、国境へ赴き、隙あれば連合領を侵せと命令を受けた。

与えられたのは、私の部下に加えて、かつての父の部下達。

私は、父の遺志を継ぐ。

 

 

「理想を失い、腐敗と惰性に流れる愚劣な政治を、我々の手で浄化しなければならない! そう、我々は20年前に失われた英霊の魂に報いるべく、行動しなければならない!」

 

 

父は、オスティア奪還作戦で倒れた。

オスティアを取り戻すことは、我が祖国・民族の悲願だ。

それを外交交渉などで良しとする現在の政権の政策は、20年前に戦い死んでいった同胞への裏切りでしかない。

しかも、占拠している者達を助けるために、連合と戦えだと!?

 

 

それは、父を侮辱する行為だ。

父を侮辱する者を、私は決して許さない。

 

 

「これは聖戦である! 皇帝を廃し、祖国を救い、もって聖地を不当に占拠する者共に懲罰を加えるのだ!!」

 

 

私が拳を振り上げると、眼下の数百の兵士たちが鬨の声を上げた。

彼らは、私と同じように連合やその狗である「紅き翼」によって肉親や戦友を殺された者達だ。

戦意と情熱に溢れた彼らは、私の同志だ。

私の号令に従い、帝都の要所を押さえるべく行動を始める。

 

 

「・・・いよいよですな」

「これは始まりに過ぎん。ここから全てが始まるのだ」

 

 

帝都制圧計画を立案した参謀に、私はそう答えた。

この男は連合との戦いの際捕虜になり、近年の恩赦で釈放され、祖国に戻った男だ。

父の部下だった男で、頭も切れる。

祖国のために戦い、捕虜になった者を助けるために努力するのも、政府の役目のはずだ。

だと言うのにこの男は、十数年間虜囚として過ごさなければならなかった・・・。

 

 

私は彼らのような者達のためにも、現在の政治を正さねばならない。

同志達と共に、私は戦う!

 

 

 

 

 

Side メルディアナ校長

 

大公国宰相とは名ばかりで、全ての権限は公王にある。

とは言っても、あらゆる情報が私の元には入ってくる。

 

 

例えば、公国内での街道での虐殺。

例えば、連合内部での不平分子の活動状況。

例えば、帝国内でのクーデター。

例えば、王国内部での軍・民の移動状況。

 

 

「・・・まぁ、せいぜいお飾りの宰相だと思っておくが良い」

 

 

誰も来ない執務室で、私は一人呟いた。

盗聴されているだろうが、別に構わない。

私が心から公国や連合に服従することは無いなどと言うことは、相手にもわかっているだろう。

今さら、隠すようなことでも無い。

 

 

そうは言っても、何もしないわけにはいかない。

何とかして、この状況から脱さなければ・・・。

 

 

「俺、参上!」

 

 

その時、静寂そのものだった空間に異を唱えるかのように、一人の青年が現れた。

肩まである手入れの荒い金の髪に、余裕たっぷりな笑みを浮かべたその青年は、エディ君。

アリエフ議員から補佐にと付けられたんだが、思うに扱い切れなかったのだと思う。

私は、嫌いではないが・・・。

 

 

「おお、エディ君。今日も元気だね」

「当然・・・正義の勇者は元気が命ですから!」

「そ、そうかね」

 

 

年齢は20歳だと言うが、それよりも若く見えるのは言動のせいだろうか。

まぁ、彼くらいしかここに来ないので・・・。

 

 

「これが今回の手紙です!」

「・・・思うに、文通とは直接手渡す物じゃないのではないかね?」

「細かいことを気にすんな!」

「・・・そ、そうかね。そう言う物かね・・・」

 

 

エディ君から手紙を受け取る。

文通・・・まぁ、文通には違いあるまい。

中身が石化した村人達の行方に関する内容だったとしても、文通と言い張れば文通なのだから。

 

 

「・・・それにしても、なぜエディ君は私にきょ・・・文通してくれるのかね?」

「うん? そんなの、決まってるだろ?」

 

 

エディ君は、健康な白い歯をキラッ、と輝かせ、ウインクをしつつ片手の親指を立てて見せた。

そして、力強く、言い切る。

 

 

「勇者(ヒーロー)だからさ!!」

 

 

彼の全身から、光が発されたような錯覚を覚える。

なるほど、アリエフ議員が持て余すわけだ。

 

 

彼はどこで聞きつけたのか知らないが、「石にされて監禁されている村人」の存在を知り、私がそれを密かに探そうとしていることまでも調べて私の所に来たのだ。

こう言うと失礼だとはわかっているが、見た目よりもずっと有能なのである。

何よりも普段の言動のせいか、ここの門番の衛兵でさえも彼を注意しようとはしない。

ある意味、才能だと思う。

 

 

「任せてくれ校長・・・正義のため、悲しむ奴を一人でも少なくしたいんだ!」

「・・・すまない、感謝する」

「イエス、ジャスティス!」

 

 

若者との交流は、難しいな。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

エルザさんの貸してくれたダイオラマ魔法球は、1日を10日間にしてくれるアイテムです。

大公国が成立してからの4日間。

僕はこの中で、ずっと修業していました。

 

 

いた、と言う風に過去形になってるのは今日出る約束だったから。

今日、アリアさんの国に軍隊を進めることになっているんです。

けど・・・。

 

 

「だから無理だと言ったろう、お前には『闇の魔法(マギア・エレベア)』の完全な会得は不可能だと」

 

 

出口のポイントがある砂浜で、巻物の人造エヴァンジェリンさんは僕にそう言った。

この4日・・・つまり40日間、僕は『闇の魔法(マギア・エレベア)』の修業をしました。

右腕を見れば、『闇の魔法(マギア・エレベア)』の紋様は腕全体を覆って、僕の胸を過ぎて、顔の半分を覆っている。

 

 

「・・・そこまでして、力が欲しいのか?」

「はい、欲しいです。皆を守れる力が欲しい。世界を守れる力が欲しいんです」

 

 

もう、誰も守れないのは嫌だ。

僕も、父さんのように、誰かを守れる人間でありたいんです。

そのための力が、欲しいんです。

 

 

「確かに『闇の魔法(マギア・エレベア)』は会得できませんでしたが、『リライト』の理論は理解できました。収穫が無かったわけじゃないです」

「無い方が良い収穫だと思うがな。まぁ、私には関係の無い話だ・・・巻物に戻らせてもらおう」

「あ・・・」

 

 

僕が何かを言う前に、人造エヴァンジェリンさんは巻物の中に戻って行きました。

僕はそれに手を伸ばした体勢のまま・・・。

 

 

「・・・『リライト』・・・」

 

 

世界の始まりの魔法。

魔法世界を救うために必要な力。

アリエフさんが僕に伝えて、エルザさんが教えてくれた魔法。

でも、理論を理解しているだけじゃダメなんだ。

 

 

アリアさんが支配している、新オスティアの下。

旧王都の最深部、「墓守り人の宮殿」。

そこにある「鍵」を手にしなければ、世界は救えない。

 

 

造物主の(コード・オブ・ザ・)(ライフメイカー)

<始まりの魔法使い>

最後の鍵(グレートグランドマスターキー)

 

 

「世界の、秘密・・・!」

 

 

父さんが求めた物。

それを、僕が完成させて見せる。

 

 

「ネギ・・・」

「・・・ネカネお姉ちゃん」

 

 

荷物をまとめていたネカネお姉ちゃんが、砂浜にやってきた。

ネカネお姉ちゃんは、怪我した僕を直してくれたり、僕が修業しやすいように色々してくれたんだ。

そう言えばこんなに長くお姉ちゃんと過ごしたのも、初めてかもしれない。

ネカネお姉ちゃんの首には、もう奴隷の証は無い。

 

 

良く分からないけど、100万ドラクマくらい王様なら簡単に手に入るんだって。

お給料だって。良く知らないけど。

 

 

「あの・・・ね、ネギ。その、お話が・・・」

「大丈夫だよ、ネカネお姉ちゃん」

「え・・・?」

 

 

僕が笑うと、ネカネお姉ちゃんは戸惑ったような表情を浮かべた。

 

 

「僕が、守るから」

「え・・・」

「じゃあ、行こう!」

「ちょ、ネギ待っ・・・」

 

 

ポイントに乗ると、後は外に出るだけ。

そして外に出ると、広い執務室に出て・・・。

 

 

「お待ちしておりました、公王陛下」

 

 

白い軍服みたいな服を着たエルザさんが、そこにいた。

床に跪いて僕のローブの裾にキスをしてから、顔を上げる。

血の色の瞳が、僕を見る。

 

 

「軍の準備は、全て整っております。皆、公王陛下が来るのを待っております」

「そ、そうなんだ・・・」

「可愛いお方、緊張なさることはありません。さぁ・・・このような汚いローブは脱ぎ捨てて、正装にお着替えくださいな」

「え・・・でもこのローブは・・・」

「肩に穴が開いたままでは、笑われます」

「う・・・」

 

 

そこは確かに、その通りかもしれないけど。

僕はエルザさんに手を引かれるままに、着替えの部屋に引き摺られていく・・・。

 

 

「あ・・・そうだ、エルザさん。僕がいない間に誰か来た?」

 

 

明日菜さんとか、のどかさんとか・・・魔法球の中に通すように言っておいたんだけど。

エルザさんは僕の方を見ると、妖しげに笑った。

 

 

「いいえ、誰も来ておりません。ネギ、貴方の邪魔をする者は誰も・・・誰も、ね」

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

失望だと、僕はアリアに言った。

だけど、そもそも僕は何を期待していたのだろう?

主より莫大な魔力と戦闘力を与えられ、世界の守護者として活動すべき僕が、ただの異能持ちの人間の小娘に、何を期待していると言うのだろう。

 

 

左腕のブレスレットを見る。それがとても気に入らない。

「苛々」するよ。

 

 

「・・・何をショボくれておる」

「・・・貴女か」

 

 

そこへ、頭までローブをかぶった・・・「墓所の主」が姿を現した。

彼女は、窓際に座る僕に対して、どこか好奇の視線を向けてきていた。

 

 

「たかが女子(おなご)にフラれた程度で、そこまで落ち込むことも無いじゃろうに」

「・・・僕にそんな感情は無い」

「フラれたことは否定せんわけじゃな」

 

 

その言葉は、何故か気に障った。

視線を主に固定すると、彼女は両手でローブを掴み、ぱさ・・・と、顔を露にした。

思えば、主の素顔は初めて見るかもしれないね。

まぁ、あまり興味も無いけれど・・・。

 

 

「・・・!」

「・・・何じゃ、女子の顔をそんなに見るものではないぞ」

 

 

コツ・・・と、主は僕に一歩ずつ近付いてくる。

だけど僕は、その顔から目が離せない。

そこにあった顔は、僕の脳裏に刻まれて離れない顔に、よく似ている。

 

 

「というより、向こうがこちらに似ていると言うべきじゃな」

「貴女は・・・」

「何じゃ、金髪が好みか? それとも白い方が良いのか? 髪は長い方が好みじゃろ?」

「僕に好みなど無い。心が無いのだから・・・」

「なら、そんなにムキにならんでも良いじゃろ」

 

 

心持ち笑みを浮かべながら、主は言った。

僕は、その顔から視線を外せない。

 

 

自然と僕の右手が、自分の胸を押さえた。

何だ・・・?

胸が、ザワつく。いや違う、これは。

僕の「核」が、わなないている・・・?

 

 

「ふん、まぁ、自我の芽生えた幼子を愛でる慈母の如き心地と言うのは、こんな物かの」

「・・・?」

「お前は、1番目(プリムゥム)2番目(セクンドゥム)とはどこか違うの。まぁ、核と魂の半分はシアのじゃしの・・・悪い部分が出たのかの・・・?」

 

 

・・・何の話だ?

気が付くと、主の右手が僕の目の前にあった。

それを、まるで鍵でも回すような仕草で、ぐるり、と回した。

 

 

ガチリ。

何かが嵌るような、それでいて逆に外されるような音が、頭の中に響いた。

 

 

「お前はクビじゃ、3番目(テルティウム)

「は・・・?」

「一度ならず二度までも我が末裔の――――姫御子の方じゃぞ――――招待に失敗し、かつ二度目は女子にフラれたショックで存在すら失念。加えて言えば、用も無いのに幾度も旧世界へ行き、あまつさえ祭りを楽しむ始末。そんなアーウェルンクスはいらん」

 

 

返す言葉が無かった。

ただ・・・。

 

 

「それは貴女が決めるべきことでは無いはずだ、主よ」

「お前は自由じゃ、フェイトよ」

 

 

僕の話は一切聞かず、彼女は言い切った。

僕に背を向けて、コツコツと足音を立てながら去っていく。

 

 

「お前にもはや枷は無い。せいぜい、女子に溺れて身を滅ぼすが良い」

「・・・」

「ああ、それとな、もし気が向けばあの我が末裔――――姫御子で無い方じゃぞ――――に、会いに来るよう伝えるが良い。思い出話の一つもしてやる、とな」

 

 

そう言い残して、墓所の主は去っていた。

どう言うわけか・・・僕はそれを、追えなかった。

・・・本当に、クビなのだろうか。

 

 

頭に手を触れて内部に意識を集中してみると、確かに枷は無かった。

極端な話、人を殺しても制限はかからない。

今の僕は組織の構成員でも無く、ましてや世界の守護者ですら無い。

ただの、フェイトだ。

もはやアーウェルンクスですら、無い。

 

 

「・・・」

 

 

・・・まぁ、ここでこのままじっとしていても仕方が無いね。

そう思って、窓際から立ち上がった時。

 

 

「「「「「フェイト様!」」」」」

 

 

5人の少女の声が、耳に届いた。

暦君、環君、焔君、栞君、調君。

彼女達は僕の前に並ぶと、びしっと敬礼のような仕草をして。

 

 

「私達は、フェイト様にどこまでもついて行きますっ!」

「フェイト様に救われたこの命!」

「最後までフェイト様のために使う覚悟ですわ」

「デス!」

「来るなと言われても、ついていきます!」

 

 

そう言う彼女達の顔を、僕は順番に見ていく。

彼女達には、彼女達なりに世界を救う理由があったはずだけど。

・・・結局の所、人は主義や理想のために戦うわけでは無い、ということなのかな。

 

 

まぁ、良いかな。

彼女達の好きにすれば良い。

 

 

「・・・ありがとう」

 

 

だけど口をついて出たのは、そんな言葉で。

僕は顔を真っ赤にして口をパクパクさせる5人を見ながら、首を傾げた。

 

 

そんなに変なことを言ったかな、僕は。

 

 

 

 

 

Side 墓所の主

 

「・・・良いのかポヨ?」

「うん?」

 

 

魔界で魔法世界の行く末について研究していた友が、心底不思議そうに聞いてきた。

元々、「完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)」の計画を補助するために呼んだのじゃが。

 

 

「あのアーウェルンクスを外に出せば、貴重な情報や場所が全て筒抜けになるポヨ」

「何、アレも口は固い方じゃ・・・いや案外、色仕掛けで口を割るかもしれんがの」

 

 

冗談交じりにそう答えると、魔界の友は目を細めた。

うむ、怒っておるようじゃの・・・当然か。

こやつは・・・無論、私もじゃが、この世界を愛しておるからの。

 

 

「何・・・まぁ、どうにか4番目(クゥァルトゥム)を起こせんか、デュナミスと話し合ってみよう。とは言え「鍵」が封印されている今、難しいじゃろうがの」

「なんなら、私が出ても良いポヨ」

「お前が出れば大事になるじゃろ・・・」

 

 

まぁ、今でも十分大事じゃがの。

さて、救えるのかの、世界。

救えるのならば、救ってやりたいが。

もし無理だと言うのであれば・・・せいぜい、華麗に滅びれば良いのじゃ。

 

 

ただ、その前に・・・。

 

 

「興味のある命題じゃとは思わんか?」

「・・・何がポヨか?」

「あの人形・・・フェイト。さて、あの転生者の・・・シアの後継者と上手くいくのかの?」

「・・・ふざけているポヨか?」

「いいや、大真面目じゃ」

 

 

何しろ、2000年前には答えが出なかった命題なのじゃから。

人形と、転生者。

この世ならざる者同士、はたして幸福になれるのか?

老婆心ながら、アレコレ気を回してやりたくもなると言う物じゃよ。

 

 

第一、アレはシアの後継者を見つけるために作られたようなモノじゃしの。

役割の一つとして、それも組み込まれている。

 

 

「それに、あちらの・・・兄の方にも会ってみたいしの」

「兄・・・ネギ先生の方ポヨか?」

「良く知っておるの」

「妹が麻帆良にいるポヨ」

「ああ・・・確か、ザジ・・・ザジ・・・」

「ザジ・レイニーデイポヨ」

 

 

そう、そのような名前じゃったな。

そう言えば、「妹はとても優秀なのポヨ」と食事時に良く言っておったの。

 

 

さて・・・兄と妹。

我が末裔の内、先にここに来るのはどちらかの?

 

 

 

 

 

Side ムミウス(MM・ウェスペルタティア侵攻軍総司令官)

 

私の麾下には、グレート=ブリッジ要塞の駐屯兵3個軍団と、ウェスペルタティア駐留軍1個軍団がある。合計すると2万以上、細かく言えば2万3815名の兵力だ。

内訳は歩兵・軽装騎兵・重武装歩兵・魔導兵・砲兵・竜騎兵などの戦闘兵力2万125名。

そして工兵・補給・通信・情報・医療などの非戦闘分野の兵站支援(ロジスティクス・サポート)のための支援兵力3690名。

 

 

さらに計画によれば、シルチス方面から陽動軍が出ているらしい。

となれば、我が軍と対する反乱軍(王国軍のことだ)は、全戦力を正面に展開することはできまい。

情報部によれば、反乱軍の陸上兵力はおよそ7000。

艦隊戦力が互角以下であるなら、陸上兵力で敵の3倍以上の我らは圧倒的に優位に立っている。

 

 

敵より数を揃えよ。

これが、戦略の常道であることは間違いない。

 

 

「司令官、赤毛の公王殿がお目覚めらしいですぞ」

 

 

副司令官のホルデオニウス・フラックスだ。

50歳代後半の男性で、スキンヘッドの筋骨隆々とした男。

白兵戦のエキスパートで、過去何十人もの帝国の将軍の首を刎ねてきた。

赤毛の公王・・・ネギとか言う、あのサウザンドマスターの息子か。

ホルデオニウスの口調にも、どこか嫌悪の色が見える。

 

 

あまり知られてはいないことだが、軍上層部でサウザンドマスターに好意を抱いている者は少ない。

紅き翼が現れるまで、我が軍が帝国軍に押されていたのは事実だ。

だが、紅き翼が戦況をひっくり返した。

おかげで、軍上層部は無能者・給料泥棒呼ばわりだ。

 

 

私達とて、市民を守るために前線で必死に戦っていたと言うのに。

少数で大軍を倒す英雄だけが、賞賛され市民に尊敬される。

では、我々は何だ?

英雄の引き立て役か? それも純粋なMM市民ですら無い男達の。

 

 

「ハンニバル艦隊司令から入電、第12・第13任務艦隊、出撃準備完了」

「了解した。こちらも出撃すると伝えろ」

「はっ」

 

 

報告に来た通信兵が、完璧な敬礼を見せ、走り去っていく。

その目には、私に対する信頼の念が見て取れた。

それを、私は好ましく思う。

 

 

部下は上官を敬愛し、上官は部下を慈しむ。

上官は部下のために最善の指揮をとり、部下は上官を信じて作戦を実行する。

それが、理想の軍と言うものだ。

私は、右腕を振り、全軍に号令を発した。

 

 

「全軍、進めぇ!!」

 

 

軍太鼓が打ち鳴らされ、どよめきが生じる。

そしてそれは、いつしか狂的な歓声へと変わる。

目指すは、新オスティア。

前衛が街道に乗り入れ、東へと進み始める。

 

 

上空直掩に当たる竜騎兵隊が、空へと飛び立ち始める。

まさに我が軍が、進軍を始めたのだ。

とは言え、万単位の行軍には時間がかかる。

今前衛が出撃したと言っても、街道の幅によっては時間がかかるし、数時間たっても最後尾が動いていない場合もあるのだ。

順調に言って、10月の8日の午後か、9日の午前にオスティアに到達するだろう。

 

 

「さて、ホルデオニウス」

「は?」

「赤毛の公王殿の出陣式とやらに、行くとしようか?」

 

 

さて、今まで政務もせずに雲隠れしていた公王陛下、我らの同盟国の元首とやらが、どんな人間か。

願わくば、父親のような人間であってほしく無いものだ。

 

 

 

 

 

Side アーシェ

 

私は、宰相府情報管理局広報部王室専門室の副室長。

最近では、「茶々丸室長の映像班のブラボー4」と言った方が通じると言う不思議。

・・・まぁ、それはともかく。

 

 

「はぁい! フィルヒナー西3丁目の皆さん、点呼取りますよー!」

「南ニコルソン通りの市民の方は、私に続いてくださーい!」

「迷子にならないよう、お子様の手は離さないように―――!」

 

 

今、私は公国を僭称する叛徒の支配地域とオスティアの間にあるクレーニダイと言う都市にいる。

そこで何をしているかと言うと、映像を取っているわけ。

何の映像かと言うと、疎開の映像。

ここは、叛乱軍の侵攻がある可能性が高いから。

 

 

兵士の人達が、市民の人達の間を駆け回りながら、山岳部や森林部への避難作業を進めてる。

艦隊の一部も割いて、少ない兵力を割いて・・・できたことは疎開。

情けなくもあるけど、王国の統治能力を示す意味も兼ねて、これが妥協点だったみたい。

ここだけでなく、叛乱軍との境界線から王国側の都市の人達は、全員避難対象だ。

 

 

「撮りたくない映像って言うのも、あるものだよ」

 

 

そう呟きながらも、私は撮影をやめない。

疲れ切った亜人の老人や、恐怖にヒステリーを起こす女性、親とはぐれて泣いている子供、毅然とした表情で赤ん坊を抱いているお母さん、自分から手伝いを申し出る男の人・・・。

 

 

私は、人でも風景でも、映像を撮るのが好きだ。

秘境の映像を撮るためだけに、転移魔法だけは誰にも負けないくらいに練習した。

基本的には、気の赴くままに撮る。

好きだと感じた物を、好きなように撮る。

 

 

「女王陛下は何を考えているんだ。こんなことになるなんて・・・」

「まさか、首都だけ守って他は見捨てるつもりなんじゃないのか」

 

 

中には、そんな不満もある。もちろん、今はまだ少数派だけど・・・。

でもここにいれば、連合の侵略に合うのはわかりきってる。

だから皆、誘導に従って避難する。

魔導士の人達が、小さな市民のグループを次々と転移させていく。

 

 

「・・・本当、撮りたくない物もあるもんだよ」

 

 

でも、私は撮り続ける。

目の前の出来事を、出来る限り多くの人に伝えるために。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「皆様、お疲れ様です」

 

 

その夜、私は茶々丸さんと田中さん(+晴明さん)、そしてシャオリーさんが率いる近衛騎士団の方々に囲まれながら、新オスティア郊外に築かれつつある野戦陣地を表敬訪問しました。

 

 

柵や堀、塹壕などは当然のことですが、至る所に魔法罠(マジックトラップ)や魔法障壁を張る装置が配置されています。

・・・魔法罠(マジックトラップ)などについては、私が提案してみたのですが、最低限は生産が間に合ったようですね。

魔法具系の武器や兵器を使えば、自前の魔力で戦うよりも長時間動けますから。

元々、魔法具とはそのためにあるのですからね。あまり使われませんけど。

 

 

「我らが女王陛下にぃ、 敬礼!」

 

 

現場の指揮官さんが声を張り上げると、作業中の兵士の方々が作業を止めて、私に向けて敬礼します。

私は、それに軽く答礼して・・・。

 

 

「お邪魔しております。そのまま続けてください」

「「「仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)!!」」」

 

 

方々から声が響き、兵士の皆さんが仕事に戻ります。

私は、踵をきっちり合わせ、緊張に身体を強張らせている現場の指揮官さんに微笑みかけます。

 

 

「それでは、お願い致します」

「はっ、現場説明と視察で40分の予定であります! 女王陛下にはご不便かと思われますが、ご容赦の程を!」

 

 

そこから、30分弱、司令官さんの説明を受けつつ、陣地内を歩きました。

そうは言っても陣地で塹壕ですから、快適とは言えませんが。

それにしても女王が来たと言う噂を聞きつけたのか、次から次へと兵士の人が顔を出して私の姿を目にしようとします。これが結構、恥ずかしいです。

でも、これも仕事の内でしょう。手を振ったりします。

 

 

兵士の方々が私を見る目は、敬愛が60%、好奇が20%、不安が10%に憐憫が5%といった所でしょうか。

残りの5%は、何だか違う気がします。

 

 

「それでは、お世話になりました」

 

 

視察の予定自体は少し遅れましたが、1時間ほどで終わりました。

兵士の人達に別れとお礼と少しばかりの激励の言葉を告げて、新オスティアに戻ります。

 

 

「陛下、何故クルト宰相代理がこの時期に表敬訪問を進言したか、おわかりでしょうか」

 

 

私が『ブリュンヒルデ』に乗り、私室についた時、シャオリーさんが跪いたまま、そう言いました。

私が行っても作業の邪魔になるだけで、何も行く必要はありません。

ですが、行く必要がありました。

 

 

「・・・」

「・・・でしたら、良いのです。我々は陛下がそのお気持ちを忘れないでいてくださる限り、陛下をお守りするために身体と命を差し出すことができます」

 

 

私は答えませんでしたが、そう言ってシャオリーさん達は退室しました。

後には、私と茶々丸さん達が残されます。

 

 

・・・何故、あの場所を表敬訪問したのか。

簡単です、数日後にはあそこにいる人達は皆、死んでいるからです。

会えなくなる前に会っておかないと、意味が無いでしょう?

国のために死んでくれてありがとう、民のために死んでくれてありがとう、私のために死んでくれてありがとう・・・。

死ぬまで戦い続けてもらうために、私が彼らを特別に想っているのだと錯覚させるために。

 

 

彼らが死ぬまで戦い続けてくれなければ、この国が滅びるから。

彼らが死んでくれないと、皆が困るから。

酷い話ですよね、本当。

 

 

「加えて、虐殺される民衆は放置して、支配地域の民衆の疎開だけしてるわけで・・・」

 

 

聞く所によれば、そちらは最大で2万人、亡くなられる可能性があるそうです。

はは、2万ですって、桁が違いますよね。

それが何と、私の責任で死ぬんですって。

さらに、私のために戦う兵士は1万弱。

一人一殺で相討ったとして、敵も1万人が亡くなります。

 

 

全部含めて、4万人。艦隊戦も想定すると、5万人に達します。

ネズミ算式に数が増えていきますね。

あはは・・・笑っちゃいますよね、私のために5万人が死ぬ。

 

 

・・・軽くは、無いですね。

でもその代わり、他の数千万の人を救えるんです。

 

 

「お母様が逃げ出した理由も、わかる気がします・・・」

 

 

常に誰を犠牲にするかを考え続けなければならない仕事。

可能な限り効率的に、小を切り捨てて行く仕事。

私がいくら仕事好きでも、やりたくない仕事はあります。

 

 

その時、そっと茶々丸さんが私の頭を自分のお腹に押し付けました。

後頭部に、茶々丸さんの手の感触があります。

 

 

「えっと・・・茶々丸さん、どうかしましたか?」

「・・・」

 

 

茶々丸さんは、何も言いませんでした。

ただ、そこにいて・・・ただ、私を抱き締めてくれています。

ただ、甘えさせてくれるのです、この人は。

 

 

それは、毒に似ています。

甘い、毒。

それが無ければ、立っていられないと言う意味で。

 

 

『おやおやおやおやぁ~・・・?』

「・・・?」

『これはこれは、おかーさんも随分丸くなりましたねぇ~?』

「だ、誰・・・って、この声は?」

 

 

その時、聞き覚えのある声が私の左の耳元に響きました。

驚いて茶々丸さんから離れると、ブゥンッ、と音を立てて、見覚えのある立体映像が浮かびあがりました。

私の支援魔導機械(デバイス)を媒体にして現れたそれは、10センチくらいの身長の、緑の髪のツインテールの女の子。片手には葱を持っています。

 

 

彼女はきゃるんっ、と一回転すると、葱を私に突き付けてパチッ、とウインク。

彼女の名は、「ミク」。

 

 

『人造電子精霊衆「チーム・ぼかろ」、ただいま推参!』

 

 

 

 

・・・カオスです、でも慣れてきました。

シンシア姉様―――――。

 




クルト:
やぁ、どうも、クルト・ゲーデルです。
まぁ、これがファンタジー小説や伝記小説であるのなら、全員救ってハッピーエンドなヒロイックファンタジーなのでしょうが、これは現実です。
なので、助けられない者は助けられません。
救助活動中に殺されるのは御免ですから。
より多くの民を救い、より少ない民を切り捨てる。
アリア様には、それが自然とできるようになってもらわねばなりません。
それまでは、私が全ての責を担いましょう。


クルト:
さて、連合の進軍が始まりました。
アラゴカストロ領に公国軍が展開している分、私の想定よりも敵戦力は少ない。
それでも、我が軍よりも多数。
・・・これは、非常に不味いですねっ!

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