魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第11話「踊らない会議」

Side リカード

 

旧ウェスペルタティアに王国が復活してから5日。

つまり俺ら元老院が大公国とか言うご大層な代物を作って、4日経った。

ウェスペルタティア駐留軍の大公国領内への撤退はほぼ終わった。

・・・ああ、「撤退」じゃなくて「転進」だったか?

 

 

くだらねぇ言い回しだぜ、と思いつつも、別にそれを口に出したりはしねぇ。

ナギやラカンだったら、言ってるだろうけどな。

 

 

「それで、どう責任を取るつもりなのだね、リカード君」

 

 

旧ウェスペルタティアの内戦をどう処理するか、そのために召集された元老院議会で、俺は責任を追及されていた。

俺は外交担当の執政官だから、今回の件に責任があるだろうと言うのが、他の爺ぃ共の言い分だ。

だが俺に言わせりゃあ、寝惚けた議論としか思えん。

 

 

「・・・元老院はいつからウェスペルタティアを対等な外国だと認めたんですかね?」

「何ぃ?」

「帝国やアリアドネーとの関係で問題があったならともかく、実効支配下にある地域が独立したからと言って、何で俺の責任なんです? あそこは属州総督クルト・ゲーデルの管轄下にあったわけだし」

「ぬ・・・」

「しかしそのクルトめは我らを裏切った。誰かが責任を取らねばならんだろう」

 

 

だから、何でその誰かが俺なんだよ。

・・・ったく、言いたいことも言えねぇんだから、向いてねぇよマジで。

 

 

「・・・まぁまぁ、そうリカード殿ばかりを責めても仕方あるまい。たかが地方反乱ではないか」

 

 

そう言って場を宥めたのは、むしろ禿げきった方が潔いんじゃねぇのって感じの、金髪が少し残った爺ぃだった。

ロドニー元老院議員、年は確か75歳。艦隊の提督だった奴で、今じゃ軍事担当の執政官様だ。

・・・アリエフの爺ぃと同じ人種だ、精神的な意味でな。

 

 

「し、しかしロドニー殿、実際に我々は旧ウェスペルタティアの大半から追い出されたではないか」

「それは野蛮な奇襲に驚き、戦術的に撤退を選択しただけのこと。銀髪の小娘ごとき、一撃を与えれば泣いて許しを請うてくるわ」

「・・・つまり、何か対応策があると?」

 

 

俺も軍人だったから、なんとなくわかる気がするがね。

たぶん、この爺さんは・・・。

 

 

「無論、軍部はすでに策を講じておる・・・見るが良い」

 

 

議場の中心に、巨大な地図が映し出される。

そこには、現在のウェスペルタティア駐留軍の配置だけでなく、周辺の連合領の軍配置まで描きこまれた精巧な物だった。

こうして見ると、ウェスペルタティアは北を除いて、周辺を連合に囲まれている。

 

 

「まずシルチス亜大陸のパルティア総督トレボニアヌスに2個軍団一万の兵団を与え、王国東端イギリカ侯爵領に侵攻する」

 

 

ピピ・・・と、地図上で赤い矢印がシルチスからウェスペルタティア東部に向けて進んだ。

 

 

「さらにウェスペルタティア駐留軍と本国からの援軍を合わせた4個軍団二万をムミウス司令官に与え、大公国軍一万と共にウェスペルタティアの中枢を扼する。コレには第12、第13の艦隊任務部隊を付ける。空母2隻と戦艦8隻を中心とする146隻の大艦隊が艦列を連ね進撃するのだ、我らの勝利は疑いない」

 

 

ロドニーの爺さんの声には、自己陶酔の色が透けて見えるぜ。

だが、他の爺ぃ共もロドニーの爺さんの計画に、顔を輝かせていやがる。

まぁ、地図の上で見ただけなら、確かに東西から大軍で挟撃するように見えるしな。

一見、理想的だ。諸々含めて4万余の大兵力。

 

 

だが、他の要素が何一つ加味されてねぇ作戦だ。

・・・上手くいくと良いがな。

 

 

「大変です!」

 

 

その時、一人の若い議員が議場に飛び込んできた。

あれは確か、アリエフの爺さんの取り巻きだった奴だな。

それまで気分良く討伐作戦の概要を語っていたロドニーの爺さんが、不機嫌そうな顔でそいつを見る。

 

 

「何じゃ、騒々しい。今重要な話をしておるのじゃ」

 

 

大したこと無い地方反乱じゃなかったのかよ、爺さん。

 

 

「も、申し訳ありません、ですが・・・」

「何じゃ」

 

 

議場に駆け込んできたそいつは、言葉を詰まらせながら、答えた。

 

 

「ウェスペルタティア西部で、変事が・・・!」

 

 

 

 

 

Side グレーティア

 

「・・・と、言うような会議が今、元老院で行われているはずよ」

 

 

私は目の前の男の子に、優しい口調で語りかけた。

まぁ、話の内容自体は、すでに2日前の段階で決まっていたこと。

アリエフ様の軍事作戦案を、ロドニーの低能が我が物顔で話しているだけよ。

 

 

「もちろん、それは貴方も知っていたわよね?」

「・・・」

「そうでしょうねぇ、だって貴方に教えてあげたのは私だもの」

 

 

私が彼の目の届く所に書類を放置して、見るように仕向けたのだもの。

彼・・・ミッチェル君はそれを見て、思ったのでしょうね。

知らせなきゃ・・・って。

 

 

ああ、なんて美しい友情なのかしら?

私はね、子供同士の友情ほど見ていて胸を打つ物は無いと思うの。

だって、とても純粋で可愛いじゃない?

 

 

「ふふ・・・今頃貴方のお友達は、新オスティアに向かっているわよ? 何だったかしら・・・そうそう、ジョニー・ライデインとか言う男の飛行魚トラックに乗ってね」

 

 

港が封鎖される前に出立できるように情報を操作した。

今頃は、トリスタンあたりにいるんじゃないかしら?

 

 

「何で・・・」

「何故? 良いわ、教えてあげる。私はねぇ・・・!」

 

 

意外と鍛え上げられているミッチェル君の剥き出しの背中をヒールで踏みつけながら、私は言った。

私は、純粋な物が大嫌い。

純粋であることを、当然みたいな顔をしている子供が大嫌い。

 

 

壊してやりたいくらい。

ううん、壊れれば良いのよ。

 

 

「私はね、メガロメセンブリアが嫌いなの。あの男・・・アリエフが作ったこの国が憎いの。私が誰かもわからないような男に権力を与えるこの街を、滅ぼしてやりたいの」

「・・・?」

「わからない? 良いのよわからなくて、貴方はそうやって閉じこもっていれば良いの・・・惨めに地べたに這い回ってね!」

 

 

顔を蹴り、鞭を打つ。

ピシィッ、パシッ、と言う鋭い音が、部屋に響く。

ミッチェル君は痛みに呻き、床に蹲っているけれど、それに構わず鞭を振るう。

 

 

「貴方が敵に流した情報で、この国は滅びる」

 

 

私がミッチェル君を使って流したのは、今まさに元老院で話していること。

これから発動する軍事作戦、補給経路、進軍の順番、不安要素に弱点。

その全てが、新オスティアの反乱勢力に渡る。

 

 

メガロメセンブリア軍は負ける。

それも出来るだけ派手に、惨めに負けてほしいと思う。

そうでなければ、あの男を失脚させることができないのだから。

 

 

そして私が、この国を作り直すの。

より美しく、より強大に!

 

 

 

 

 

Side リュケスティス

 

王国東部の諸地域を制圧し、事後処理を部下に任せる一方で、俺は新オスティアに足を踏み入れた。

20年前は駆け出しの下士官だった俺が、今や陸軍少将としてここに来ている。

・・・ふ、多少、感傷に浸ってしまうのも仕方が無いかな。

 

 

「久しぶりだな、リュケスティス」

「と言っても、通信では良く顔を見ていたがな、グリアソン」

 

 

士官学校時代からの友人も、ここにいる。

自分で言った通り、良く通信を交わしていたのだが、どうしてか20年間一言も話していなかったかのような錯覚を覚える。

途中ですれ違った騎士や兵士の敬礼に答礼しつつ、俺達は宰相府の通路を歩く。

 

 

今日は宰相府の大会議室で、御前会議があると言うので足を運んだのだ。

俺達2人の他にも、旧ウェスペルタティアの軍人や官僚の代表などが来ると言う。

・・・御前会議か。

 

 

「どうかな、例の新女王とは俺達の忠誠に値する人間だと思うか、グリアソン?」

「さぁな、何しろ会ったことが無い」

「そうだな、まずは会ってみることか」

 

 

我ながら不思議なことを言う。

・・・会って失望したら、どうすると言うのか。

大会議室には、すでに俺達以外の人間が揃っていた。

中央の一段高い所に玉座があり、その左右に長机と椅子が用意されている。

 

 

右が官僚席、左が軍人席のようだった。

緊張しているのか出てもいない汗をハンカチで拭っている者、用意された茶をしきりに飲む者、隣席の人間と私語をしている者・・・種族も人間や獣人など、多様な参加者がいる。

おそらくは、直接女王と接したことの無い者がほとんどだろう。

 

 

「女王陛下、ご入来!!」

 

 

俺とグリアソンが席について数分後、式部官らしき女の声が会議場に響いた。

議場の雰囲気が一気に引き締まり、我々が玉座の方を向いて立ち上がった瞬間・・・。

コン、コン、とノックの音がした。

 

 

「失礼します」

 

 

我々が入ってきたのと同じ扉から、一人の少女が入室してきた。

ノックして、普通に。

前方の玉座に注目していた我々にとっては、背後からだったが・・・。

式部官の声が前から聞こえたので、玉座の横のカーテンの向こうから出てくるものと思っていた。

 

 

年は確か、10歳。

腰まで伸びた白い髪に、青と赤のオッドアイ。

発育途上の身体に薄桃色のドレスを纏うその姿は、なるほど、アリカ女王の面影がある。

少女の後ろに、細身の男・・・クルト・ゲーデルが続いて入室してきた。

 

 

「よろしくお願い致します」

 

 

だがその少女は玉座に座る前に、我々に対して頭を下げた。

一同に動揺が走るのが、俺にはわかった。

この少女はアリカ女王に容姿は似ているが、しかしどこか違うらしい。

臣下に対し、頭を下げる王がいるか?

 

 

グリアソンなども、困惑した表情を作っている。

さて、何を狙っての行動かな?

我らの新女王は、玉座に座り・・・。

 

 

「それでは、授ぎょ・・・」

「「「「?」」」」

「・・・会議を始めたいと思います」

 

 

・・・面白い女王陛下だ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ついうっかり、いつも教室でやる挨拶をやりかけました。

危ない危ない・・・こう言うのも、職業病と言うのでしょうか。

 

 

今日の御前会議は、つまる所私の顔見せのような意味合いが強いのです。

もちろん、王国の今後をどうするか、と言う大事な会議でもあります。

これらの理由から、私はただ座っていれば良いと言うわけにはいきません。

一応、予習はしてきましたが・・・。

 

 

まずは、内政に関するお話です。

 

 

「クロージク伯爵とニッタン助教授に、税制及び経済政策に関する計画の立案をお願い致します」

「・・・計画を作れと言うご命令であれば、喜んで作りますが・・・」

 

 

ヨハン・シュヴェリン・フォン・クロージク伯爵。

50代前半の財務官僚で、ブラウンの頭髪を七三分けにしたナイスミドルです。

貴族ですが、旧王国の地方官僚として数々の地方の財政問題を解決した実績をお持ちです。

 

 

「どの程度の規模の財源を前提にするか、それによって細部がかなり変わりますぞ」

 

 

そう言って顔を顰めたのは、フーガ・ニッタン助教授。

アリアドネーの助教授であり、元オスティア難民でもあり、今は王国の官僚の一人。

30代後半の男性で、銀目碧髪で眼鏡・・・どこか、新田先生を思い出します。

 

 

彼の言うように、確かに財源は重要ですね。

しかし今回の場合、幸か不幸か財源のアテがあるのです。

私の横に立っているクルトおじ様に目配せすると、クルトおじ様はひとつ頷き。

 

 

「・・・すでにご存じの通り、ウェスペルタティア西部諸侯の大半が公国を称する叛乱軍に参加しております。これに伴い女王陛下は、叛乱に加担した全ての家の領土を没収することを決定致しました」

「取り潰し、と言うことですか?」

「西部には大小合わせて16の貴族領があり、その内15が叛乱軍に加担しました。これらの家を取り潰し、その財産の全てを国庫に納めさせ、民衆に還元する・・・それが、陛下の御心です」

 

 

クルトおじ様の説明に、私は無言のまま頷きました。

正確な試算はまだですが、おおよそ50億ドラクマは集まるそうです。

土地、美術品に現金、証券や建物、そして人・・・。

 

 

「・・・全て取り潰してしまって、よろしいのですかな?」

 

 

そう発言したのは、30代後半の軍人の方でした。

スラリとした長身で、黒に近いブラウンの髪にアイスブルーの瞳。

黒を基調とした軍服の良く似合う、この方は・・・私の頭の中の名簿によると、レオナントス・リュケスティス少将。

 

 

私を見るその目には、どこか挑戦的と言うか、挑発的な色を感じます。

隣に座る蜂蜜色の髪の男性将校の方が、何故か心配そうな顔で少将を見ています。

 

 

「・・・ええ、全て取り潰します。何か問題がありますか、少将?」

「・・・いえ、問題ありません、我が女王よ」

 

 

口元に笑みすら浮かべて、少将は言いました。

何と言うか・・・疲れますね。

 

 

「では次に、国内各地に散っている難民達の帰郷に関して・・・」

 

 

 

 

 

Side クルト

 

御前会議は、内政から外交・安全保障へと話題が移りました。

まぁ、外交はともかく、安全保障に関する当面の問題は、西部の叛乱軍及びメガロメセンブリアを中心とする連合の軍事的侵攻への対応でしょう。

私の知る限り、連合が即座に動かせる兵と艦隊は、陸軍5万と艦艇200隻・・・。

 

 

「連合は王国西部に橋頭堡とも言うべき場所を確保しました。おそらくはここから新オスティアを直撃するのが、叛乱軍や連合にとって最短距離であるだけでなく、短時間で事態を解決できる侵攻ルートであると考えられます」

 

 

アリア様の声に合わせて、会議場の中心の映像装置が王国周辺の地図が変化します。

王国西部から中央部の新オスティアに向けて、紅い矢印が進みます。

とは言え、背後に帝国と言う強大な敵がいる以上、連合は全戦力で我々を攻撃することはできない。

そこに、我々の勝機がある。

 

 

「そこで、国防省の官僚グループが提出してきた迎撃プランがこれです」

 

 

アリア様の声に合わせ、叛乱軍の支配領域と新オスティアの間の拡大地図が展開されます。

その侵攻ルートの随所に防衛拠点を設け、それぞれに兵力を配置して敵を消耗させ、最後に主力部隊が敵軍を撃退する、と言う物です。

官僚側は、特に反論は無いようですね。

 

 

ふふ、それはそうでしょう。

この計画は私がこの3日間、国防省官僚と共に夜も寝ずに昼寝して考えた計画なのですから・・・。

 

 

「机上の空論だ。このような作戦が、上手くいくわけが無い」

 

 

しかし、そのような声が軍人の中から上がりました。

それは、先程もアリア様に反抗的だったリュケスティス少将の発言でした。

もし彼と私が2人きりだった場合、私は彼を斬っています。

き、机上の空論ですって!?

 

 

「そもそも兵力的にはこちらが劣勢、にも関わらず兵力を分散させるのは愚の骨頂。むしろ拠点防衛にこだわらず、兵力を集中させた上で機動的に敵を叩き、敵戦力を削りつつ敵軍を引き摺りこむべきだろう」

「なるほど、いわゆる機動防御戦法を行うわけか・・・」

 

 

リュケスティス少将の発言に、隣に座っているグリアソン少将が腕を組んで頷きます。

他の列席者も、好意的な反応を返しているようです。

王国東部と北部を制圧した2人の将軍に、一目置かない者はいません。

しかし・・・機動防御?

 

 

「申し訳ありません。専門家では無いので・・・機動防御とはどのような物でしょうか?」

 

 

アリア様も、どこか困ったような顔をしております。

それに対してグリアソン少将がアリア様の方を向き、説明を始めます。

 

 

「機動防御とは、機動打撃に主体を置き、敵を撃破して防御の目的を達成しようとする方式です」

 

 

機動力に富んだ部隊運用により、局所的に敵を圧倒する火力と打撃力でもって敵を各個撃破する戦術。

事前に想定した場所で敵を襲い、相手を一時的に圧倒し敵の一部隊を撃破、素早く移動して別の地域で同じ事を行い、別の敵の一部隊を撃破するという事を繰り返すと言う物。

これを成功させるためには、防御を行う地域の縦深が十分に大きく、地形が防御部隊の自由な機動を許し、かつ地形に適合した部隊の機動打撃力が敵に勝っている事が必要となります。

 

 

常に戦場を移動するので、大規模な防衛拠点は必要ない。

機動力とそれを支える補給がある限り、敵を叩き続けることができるのです。

 

 

「無論、どれほど勇敢な兵士でも体力・精神力に限界はありますが・・・」

「・・・良く、わかりました。他の軍人の方に意見はありますか?」

 

 

返答が無いことを確認すると、アリア様は頷き、少しの間目を閉じました。

おそらくは、2つの案のどちらを選ぶかを考えておられるのでしょうが・・・。

個人的には、私と官僚グループの案を採用してほしい所ですが。

 

 

・・・まぁ、反論させるために作った案ですがね。

 

 

 

 

 

Side グリアソン

 

女王陛下は、1分ほどして顔を上げた。

そして色の異なる瞳で、俺の隣に座るリュケスティスを見る。

 

 

「リュケスティス少将」

「何でしょうかな、女王陛下」

 

 

それに対するリュケスティスの態度は、ふてぶてしいことこの上なかった。

しかし、女王陛下は気にした様子は無い。

むしろ、俺がハラハラしているくらいだ。

 

 

「その作戦に耐え得る部隊と、成功させることのできる人間に心当たりはありますか?」

「・・・グリアソン少将ならば」

 

 

リュケスティスの言葉に、俺は反射的に姿勢を正した。

リュケスティスめ、実行は俺任せか!

女王陛下は、静かな瞳を俺に向けた。

さら・・・と前髪が揺れ、色違いの瞳が俺を見据える。

 

 

「グリアソン少将、自信はありますか?」

「・・・支援の規模によります」

 

 

その言葉に、俺は率直に答えた。

数倍する規模の敵に対し、機動防御を行う。

我が部隊ならば、実行面において何ら問題は無いだろう。

だが補給、休息、支援攻撃、火力、権限・・・それらがなければ不可能だ。

隠しても仕方が無いことだ。

 

 

「それに、反対側・・・シルチス方面からの敵の侵入の可能性も心配です」

「それについては、宰相府ですでに手を打ってございます、陛下」

「・・・とのことですので、グリアソン少将は西部の敵に集中してください」

「は・・・」

 

 

俺が答えると、女王陛下は一つ頷き、議場を見渡して・・・。

 

 

「グリアソン少将、リュケスティス少将をそれぞれ中将に昇進させた上で、機動防御部隊の指揮を委ねます」

「陛下!」

「両中将は先の戦闘で武勲を上げています。昇進するに問題は無いでしょう・・・無論、彼ら以外にも昇進と昇給の措置を取ります」

 

 

クルト・ゲーデルの声に、女王陛下はそう応じた。

確かに、武勲に対して昇進で報いるのは、正しい措置だろう。

 

 

「両中将はすぐに部隊の編成を行いなさい。必要な人員・物資・情報は全て使って構いません」

「・・・御意」

「ぎ、御意!」

「・・・お2人の率直さは、私にとって好ましい物です。これからもお2人の力を、王国と民のために使ってやってくださいね」

 

 

そう言って微笑まれる女王陛下を、俺は困惑した心地で見ていた。

何と言うか、顔はアリカ様似だが・・・。

その時、女王陛下が立ち上がった。

慌てて、議場の全員が立ち上がる。

 

 

「クルト宰相代理も、ご苦労でした。計画策定に参画した人達に、よく休養するようにと伝えてください」

「は、有難きお言葉にございます」

「では、解散とします・・・ありがとうございました」

 

 

ぺこり、と頭を下げた後、女王陛下は来た時と同様、クルト・ゲーデルを連れて出て言った。

緊張の糸を緩めて、俺を含めた全員が息を吐く中で、リュケスティスだけは面白いものを見た、と言うような顔をしていた。

 

 

「なかなかどうして、面白い女王だな」

 

 

 

 

 

Side ジョリィ

 

今私は、新オスティアを離れて、重要な任務を実行している所だ。

地味な上に、大変な労苦のある役目だが、女王陛下直々の命令だ。

私は女王陛下の臣下。

勅命とあらば、この命さえ差し出せる。

 

 

この程度の労苦、何のことは無い。

沼地をまた一つ抜けた所で、私は後ろを振り向いた。

 

 

「レメイル殿、大丈夫か?」

「大丈夫だ、ここは俺の故郷だから・・・です」

「別に無理に敬語にしなくとも良い」

「いや、そう言うわけにはいかない・・・です」

 

 

ここは王国東方にある、シルチス亜大陸のパルティアと言う地域だ。

厳しい自然と荒れた土地が広がる、不毛の世界。

だが、誰も住んでいないわけでは無い。

火や木、大地の精霊に縁のある少数民族が多数居住している。

 

 

また、連合がこの地で採れる資源を狙って軍を駐屯させている地域でもある。

民族紛争が絶えないのも、連合がそうさせて部族の力を弱め、支配しやすくしようとした結果だ。

 

 

「ジョリィさんこそ、初めてなのに」

「いや、私は陛下の勅命で動いている。私を止めることはできない!」

 

 

一緒にいる少年は、レメイル殿。

オレンジ色のボサボサの髪が腰まで伸びていて、瞳は赤。

このパルティア地域の出身で、火の精霊に縁のある部族の出身だとか。

このあたりの地理に詳しいので、こちらから同行を頼んだ。

 

 

実際彼の助力もあって、すでに6つの部族の村や町を回り、王国との修好を約束させることができた。

ウェスペルタティア人とパルティア人は共に連合に支配され、迫害された経験を持つ。

連合を共通の敵として、対等の同盟を結ぶのは不可能ではない。

彼らの力を借り、東方から進撃してくる連合の軍を撃退する。

 

 

これが、女王陛下とクルト宰相代理の胸の内だろう。

 

 

「でも本当に・・・パルティアは独立できるのかな・・・です」

「できるさ。ウェスペルタティアにできたことがパルティアにできないはずがない」

 

 

現に、私が今まで回った部族との間で結んだ協定には、そのことも記載されているのだ。

ウェスペルタティア王国はパルティアの自立・独立を尊重する。

パルティア諸部族はウェスペルタティア王国と共に連合と戦う。

双方は対等であり、国交の樹立・交易の自由を約束する、と言う内容だ。

 

 

とはいえ、連合の王国への侵攻までそれほど時間は無いだろう。

急がなければ!

 

 

 

 

 

Side さよ

 

最近、アリア先生達に会えません。

まぁ、私がアリアドネーの騎士団候補としての資格で来ているから、仕方が無いんだけど。

すーちゃんとは毎日会ってるけど。

でもこの間、赤毛の女の子・・・アーニャさんと抱き合っていたので、口を聞いてあげていません。

 

 

最近、謝れば良いと思っている節があるんですよね。

だから、お仕置き中。当分、膝枕もキスもしてあげないから。

 

 

「もぉ~、ナギ様がいないんじゃ、警備に来た意味が無いじゃん!」

「何を言っているのですか、コレットさん! それでも騎士団候補生ですか!?」

「・・・本音は?」

「ナギ様ぁ――――っ、何故ですの――――っ!?」

「お嬢様、お声が・・・」

 

 

今は休憩時間、皆と一緒に新オスティアの大浴場に来ています。

新オスティアの観光名所は、旧王都の遺跡群だけど・・・二番目は温泉なんです。

何でも、「お風呂場は聖域」とまで言われているとか。

実際、凄く大きいお風呂です。

 

 

「ナギと言えば、どう思うニャ、アレ」

「アレ?」

「ほら、ナギの息子とか言う・・・えーと」

「ネギ?」

「そう、それニャ!」

 

 

デュ・シャさんとカッツェさんが、ネギ先生の話題を出した。

それにしても、ネギ先生も王様になっちゃうなんて・・・。

 

 

「あー、そう言えばそんなこと言ってたね」

「本当なのかニャ?」

「調べた所、英雄ナギには確かに子供がいる、とか」

「本当ですの、ビー!? 確かに、幼き頃のナギ様にソックリでしたが・・・」

「だから、あの子がそうなんでしょ?」

 

 

うーん・・・何か、話に混ざりにくいです。

ちゃぷ・・・と、顔の下半分をお湯の中に鎮沈めながら、ブクブクと泡を出します。

お行儀が悪いけど、何となく・・・。

 

 

「でも私、あの子嫌いだな」

 

 

その時、コレットさんが不機嫌そうに言いました。

 

 

「だってあの子、サヨのこと処刑するって言ってたじゃん!」

 

 

確かに・・・。

アリアドネーに所属している私の名前まで出てきたことには、驚きました。

そうこうする内に、コレットさん達の会話はヒートアップしていきます。

 

 

「他にも、アリア先生とかエヴァにゃん先生とかも殺すって言ってた。何さアレ、ふざけてんの!?」

「そう・・・ですわね。許されることではありませんわね!」

「でしょ!? お前がサヨの何を知ってんだって話だよね!?」

「そうですね・・・私も、あまり好きにはなれません」

「まー、国際問題だニャ」

「アリアドネーの仲間を殺すって言われちゃーねぇ」

「あ、あのー・・・」

 

 

嬉しいんだけど。

いえ、嬉しいんだけどね?

 

 

「大丈夫だよサヨ! 私達が守ってあげるからね!」

「わひゃっ・・・ちょ、コレットさん!?」

「ちょっと! 公共の場で何をしてるんですの!?」

「あはは、皆といると退屈しないニャ」

「お嬢様が、あんなに楽しそうに・・・」

 

 

アリア先生。

私のお友達は、皆良い人ばかりです。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

「げ、げげげのげ・・・!」

 

 

な、なんでこんな所に相坂さんがいるのかな!

いや、魔法世界に来ているのは知ってたけどさ、こんなニアミスしなくても良いじゃん。

加えて言えば、アリア先生は女王様だし!

私の周りにはどうしてこう、主人公っぽい人が多いのかな。

 

 

「美空? 何をしているのですか?」

「いえ! 何もしてないっす、シスター!」

「・・・なら、良いのですけど」

 

 

シスターはそう言いながら、タオル片手にシャワーの方に歩いて行った。

身体でも洗いに行ったのかな。

あー・・・まぁ、私もココネの頭でも洗いに行こうかな。

下手に見つかって、物語に巻き込まれても面倒だしね。

 

 

「ココネ、頭洗いに行こうか」

「わかっタ」

 

 

ココネの手を引いて、私は新オスティア一と名高い大浴場を歩く。

こうして見ると、魔法世界の女の人ってスタイル良い人が多いよね本当・・・。

・・・滅べば良いのに!

 

 

「あやぁ~?」

 

 

その時、どこかで見た覚えのある髪の長い女の子と出会った。

出会ってしまった・・・!

 

 

「あの~、どこかでお会いしたこと、あります?」

「い、いえ、人違いですよ、私は何と言っても謎のシスター・・・!」

 

 

しまった、お風呂場では顔を隠せないから「謎の」にならない・・・!

長い髪の女の子・・・確か、月詠さん。

月詠さんは、しげしげと私の顔を覗き込んできた。

 

 

「ん~? 眼鏡が無いとよく見えませんね~」

「で、ですから、人違いですって・・・」

「月詠、勝手に動き回ったらはぐれてまうからって・・・うん? あんさん確か、シャークティーはんとこの」

「何このエンカウント率!」

「ミソラ、逆に凄いナ」

 

 

次から次へと、できれば関わり合いたくない人達に出会う私。

作為的な物を感じる・・・!

 

 

あーもぅ、ただでさえ元の世界に帰れないのに。

しかも、何かヤバい雰囲気なんだよね、この国。

できるだけ早く逃げなきゃって、私の逃走本能が告げてるんだ。

だから早く、逃げたいのに・・・。

 

 

「こんな所で奇遇やなぁ・・・シャークティーはんは元気かいな?」

「え、えと・・・さっきシャワー浴びに行きました」

「そか、ほな挨拶ついでにうちらも身体洗おか。月詠、行くで・・・春日はんも、またな」

「ハ、ハイ・・・」

「ほな、さいなら~」

 

 

月詠さんにぎこちなく手を振り返しつつ、私は溜息を吐く。

本当、主人公ばっかりだよ、私の知り合いはさ。

脇役の私には、近くにいるだけで眩しいよ。

 

 

「でも、シスターもどっちかって言うと、主人公側なんだよねぇ」

「シスターは責任感が強いからナ」

「あ、何それ、私には責任感が無いってことー?」

「・・・そうでもナイ」

 

 

そう言って、私の手を握るココネの手が、より強く私の手を握った。

・・・早く、逃げなくちゃね。

 

 

ココネと、あとシスターとかも引っ張ってさ。

私の、この足で。

 

 

 

 

 

Side セレーナ

 

オストラの難民区画の整理は、少しずつだけど進んでいます。

私の病院も、一部だけど完成しました。

ベッド数も部屋数も、まだまだ足りませんが・・・。

領主代理のアレテ様のご好意もあって、優先的に機材も回して貰えますし。

 

 

「はい、リゥカさん。これいつもの薬」

「ありがとぉ」

 

 

薬剤師として、レイヴン君も手伝ってくれてますし。

今日も、難民の一人リゥカさんにお薬を渡しています。

 

 

長い緑色の髪に蒼の瞳。色の白い肌、耳元にヒレのような物がついています。

詳しくは聞いていないけれど、オスティア崩壊に巻き込まれて、故郷と家族を失ったとは聞いています。

難民にはありがちな身の上だけど、彼女はどこか違う気もします。

それにレイヴン君も、何の薬を渡しているのか、教えてくれませんし。

 

 

「今日は、患者さん少ないのねぇ?」

「ああ、皆・・・城の方に行ってるのかも」

「あらぁ、どうしてぇ?」

「・・・兵隊になりに行ってるのさ」

 

 

レイヴン君の言葉に、私は溜息を吐きました。

アリア様が王位についてから、一気に連合の駐屯軍が追い出された。

それを、皆が喜んだ。

ザマを見ろ連合、そう言って喜びました。

 

 

そして、連合の反撃があるかもしれないと言う話になると、我先にと城に駆け込んで軍に志願し始めました。

戦争に行って、祖国と女王陛下を守るんだと言って。

連合を倒せと叫んで。

 

 

医者の私からすれば、悲しい限りです。

どうして皆、殺したり殺されたり、そんな世界に行きたがるのでしょう?

 

 

「戦争・・・戦いかぁ・・・」

 

 

リゥカさんは、不思議な表情を浮かべていました。

哀しそうな、そうでないような・・・。

 

 

「戦いなんて、なければ良いのにねぇ・・・」

「・・・そうですね」

 

 

リゥカさんの言葉に、私は心から頷いた。

戦いなんて、この世から無くなれば良いのに。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

私は別に、戦いを否定はしません。

力のある者が力の無い者を一方的に嬲るのも、否定はしません。

力の無い者がより力の弱い者を差別するのも、否定はしません。

だけど、全ての戦いを肯定もしません。

 

 

私の身内を巻き込むと言うのであれば、私は相手を許さないでしょう。

だけど最近、その「身内」の範囲が広すぎる気がします。

 

 

「それでは、お休みなさいませ、女王陛下」

「「「お休みなさいませ、女王陛下」」」

 

 

水色の髪の侍女・・・ユリアさんと他の侍女の方々が下がると、寝室には私と茶々丸さんだけが残されました。

とは言え、ベッドの枕元ではチャチャゼロさんと晴明さんが囲碁をしています。

カムイさんがベッドに顎を乗せて、それをじっと見ています。

 

 

「・・・コレハ、サイキョウノイッテデモ、サイゼンノイッテデモナイ・・・!」

「昔のぅ、帝の囲碁指南役に教わったことがあってのぅ」

「ハルカナ、タカミカラ・・・!」

 

 

知っていますか?

あれ、チャチャゼロさんが暇に任せて作った碁盤と、晴明さんが式神動員して削った碁石なんですよ。

・・・一日2時間と言う貴重な時間を、何に使ってるんでしょう。

 

 

「余暇の時間は、好きに過ごすべきだと思います」

「まぁ、そこは別に良いですけど・・・」

 

 

そう言って私の髪を櫛で梳いているのは、茶々丸さん。

茶々丸さんは、最近色々と活躍していると言う噂を聞きます。

ある意味、一番状況に適応できているのは茶々丸さんのような気がします。

 

 

ス・・・スッ、と、茶々丸さんが櫛を私の髪に通して、単調ですが丁寧な作業を繰り返しています。

目の前の鏡に映る茶々丸さんは、どこか楽しそうな顔をしているような気がします。

自分以外の誰かに髪を任せると言うのは、とてもくすぐったくて、恥ずかしいのですが。

茶々丸さんが嬉しそうなので、それで良いです。

 

 

「・・・今日も疲れた・・・」

 

 

不意に、私の影の中からエヴァさんが出てきました。

影を使った転移(ゲート)による物ですが・・・。

疲れているのかもしれませんが、影からズルリと出て私の膝に頭を乗せるのはやめてください。

リアルに怖いです。

 

 

「お疲れ様です、エヴァさん」

「セリオナが、茶々丸や田中を解析させろとうるさいんだ・・・」

「私を? 何故でしょうか?」

「何か知らんが、魔力が枯渇しても動く魔導機関を作りたいんだそうだ」

 

 

セリオナさんは、エヴァさんの所に配属した学者さんですね。

魔力無しで動く機関が開発できれば、あるいは・・・とでも考えたのでしょうか。

旧世界で言う、石油代替エネルギーのような物でしょうか?

そうだとしても・・・。

 

 

ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ。

 

 

その時、寝室の通信装置から呼び出し音が響きました。

短い音が3回、その意味は、「緊急」。

 

 

『お寛ぎの所申し訳ありません、アリア様』

「申し訳ないなら連絡などよこすな」

 

 

エヴァさんの言葉に苦笑したい気持ちを覚えつつも、私は画面の中のクルトおじ様に視線を向けます。

 

 

「何か?」

『ウェスペルタティア西部で、変事が起こります』

「変事?」

 

 

私が聞き返すと、クルトおじ様は頷きました。

それに、私は目を細めます。

どうやら、また面倒事が舞い込んできたようです。

 

 

 

 

いい加減にして欲しい物ですね。

シンシア姉様―――――――。

 

 

 

 

 

Side ジョニー

 

俺がエイ型飛行魚トラック「フライマンタジョニー」を操縦してると、操縦席の扉が開いた。

振り向くと、燃えるような赤い髪の坊やがそこにいた。

 

 

「おう、連れの嬢ちゃんの具合はどうだい?」

「ああ、トラゴローのおっさんがくれた薬のおかげで、大分熱も引いた」

「そりゃあ、良かった」

 

 

この坊やはロバートって名前で、テンペから新オスティアに物資を送り届ける途中で拾ったのさ。

元々、難民への人道支援物資を運ぶのが仕事だったんだが、燃料補給で立ち寄ったメガロメセンブリアで偶然会った連合の偉い人の秘書官から頼まれてよ。

空港で困ってたこいつらを、新オスティアまで運んで欲しいってさ。

 

 

突然の話だし、正直胡散臭かったが、書類も身分証明も正式な物だった。

それに坊やと、もう一人のシオンとか言う嬢ちゃんも、悪人には見えなかったしな。

 

 

「それにしても、坊やも彼女の面倒はちゃんと見てやんなきゃな。病み上がりで長距離飛行しようなんて、自殺行為だぜ?」

「あー・・・俺もそう言ったんだけど」

「お、なんだ坊や。その年でもう女の尻に敷かれてるのかい?」

「違ぇよ! てか、その坊やってのやめてくんねぇ?」

「15歳以下は、全部坊やだよ!」

 

 

俺がそう言うと、坊やは面白くなさそうな顔をした。

俺も、昔は親父相手に同じようなことを言った覚えがあるぜ。

 

 

「いや、しかしロバート君達は運が良い。何しろジョニー殿は名パイロットだから」

「ね、猫の人形が喋った!?」

「フンベルト・フォン・ジッキンゲン男爵! アリアドネーで助教授などをしている」

「アリアドネー・・・?」

「お、何だ知らないのか坊や、アリアドネーってのは、魔法世界有数の学術都市なんだぜ?」

「バカにしてんのか!?」

 

 

副操縦士席に座ってる30センチくらいの猫の妖精(ケット・シー)は、アリアドネーで助教授をやってるバロン先生だ。

この人もメガロメセンブリアで拾った。

結構昔からの知り合いで、良く遺跡調査とかで足になってやってる。

 

 

金払いも良いし、何よりバロン先生の淹れてくれる紅茶は絶品なんだぜ?

まぁ、今回の場合は、恋人に会いに来たとか何とか聞いてるが・・・。

 

 

「確か、アリアドネーに誰か知り合いがいたような・・・?」

「何だ、坊やのガールフレンドかい? 意外と色男だねぇ」

「俺のガールフレンドはこの世でただ一人だよジョニーさん。そうじゃなくて・・・」

「まぁ、アリアドネーは巨大だから。知り合いがいても不思議では無いさ」

「ん~・・・シオンなら一発でわかるはずなんだけど・・・」

 

 

ははは、おじさんちょっと坊やの将来が心配になってきちゃったぜ。

その時、俺達の船の横の雲海が、ボフンッと急に爆発するのが見えた。

な、何だぁ!?

 

 

「む・・・ジョニー殿、もっと距離を取りたまえ!」

「言われなくとも! 坊や、しっかり捕まってろよ!」

「お・・・おぉう!?」

 

 

取り舵ぃっ!

グンッ、と船体を傾けて一気に距離を取る。

次の瞬間、雲海の下から、俺の船の3倍はでかい船が出てきやがった!

紫に近い黒に塗装されたその船の船体には、メガロメセンブリアの紋章が入っていた。

 

 

・・・軍艦か!?

だが、その軍艦は船体が所々ボロくて、どうも正規軍とは思えねぇ。

とすると、脱走艦か何かか?

軍に通報しようかどうしようか、考えていると・・・。

 

 

『おいっ、そこの船!』

 

 

通信機から声が響く。

あの軍艦からか?

 

 

『俺達はグラニクスの拳闘士団「グラニキス・フォルテース」! 怪しいもんじゃねぇ!』

「ああ!?」

『だから軍には通報しないでくれ! ・・・人の命がかかってんだよ!』

 

 

人の命だぁ?

穏やかじゃねぇ話に、俺はバロン先生と目を合わせた。

 

 

『あいつら・・・とんでもねぇコトを始めやがった!』

「あいつら?」

『公国とか言うのを作った奴らだよ! あいつら・・・』

 

 

怒りに震える男の声が、通信機から迸った。

 

 

『公国の奴ら、街道の邪魔な難民を押し潰しながら、進軍を始めやがった!!』

 




シオン:
シオン・フォルリです。どうぞよろしく。
気のせいで無ければ、作者は私に病弱設定を付けようとしている気がするわ。
出番が増えるのは歓迎すべき事態なのかもしれないけれど・・・。
さて、今、魔法世界は非常に微妙な情勢よ。
ミス・スプリングフィールドとミスター・スプリングフィールドが起こした波紋が、世界を揺るがしているの。
メルディアナでもここでも、秩序を乱すことにかけては天才的ね。
どちらにも自覚は無いでしょうけど。
あと、最後の取り舵で私はベッドから転がり落ちたわ。


今回、初登場の投稿キャラはこちらの方々よ。
秋代様より、レメイルさん。
水竜様より、リゥカさん。
ATSW様より、フーガ・ニッタンさん。
なお、イギリカ侯爵領と言う地名は絡操人形様からよ。
ありがとう、お礼を言わせてもらうわ。


シオン:
次回は、ウェスペルタティアに新たな事件がおこるわ。
ミスター・スプリングフィールドに味方しなかった唯一の貴族、アラゴカストロ侯爵の名をとって、後世で「アラゴカストロ事変」と呼ばれることになる事件。
いよいよ、戦争へのカウントダウンが始まりそうね。

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