魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第8話「前日」

Side アリア

 

「クルトおじ様、お休みが欲しいです」

「仕方ありませんねぇ、6時まででよろしいですか?」

 

 

何故かお小遣いをねだる孫と祖父のような調子で、私はお休みをゲットしました。

ここ2日程、政治や経済の勉強、クルトおじ様を経由して回って来る書類のサイン、旧ウェスペルタティアの政治家や貴族、官僚の有力者と会談、それに加えて王族としての立居振る舞いやしきたり、諸々についての勉強をしておりましたから。あと、演説の練習とか。

 

 

それに明日は、9月の29日。

私が、王様になる日です。

 

 

「それでは参りましょうアリア様。このクルトめが500人ばかり率いて街を案内・・・」

「じゃあ、行ってきますねー」

「・・・今のは、明らかに無視された気がしますねぇ」

 

 

ごめんなさい、クルトおじ様。

でも、ゾロゾロと兵士を連れて歩くのは恥ずかしいので。

と言うか、恥ずかしい以前の問題です。

 

 

私は新オスティア総督府の執務室から飛び出すと、トテトテと廊下を走りました。

途中、誰かとすれ違う時には、作法の先生に言われた通りにシズシズと歩きます。

軍人の方々には敬礼されるので、敬礼を返します。

この総督府にいる人の大半は、私のことを知っています。

 

 

正式発表はまだですが・・・公然の秘密、と言う奴ですね。

むしろ、クルトおじ様は大々的に私のことを世界に宣伝しているようですし。

 

 

「王女様扱いには、まだ慣れませんけど・・・」

 

 

オストラの時よりは加減されていますが、でも人にお世話されると言うのも。

・・・身だしなみくらいは、自分で整えたいです。

 

 

「エヴァさん、茶々丸さん! 田中さん、チャチャゼロさんにカムイさん!」

「我は無視か」

「ごめんなさい、起きているとは思わず・・・」

 

 

いざという時以外は起きてこないと思っていました、晴明さん。

私の部屋には、未だ行き場の無い(わけでも無いでしょうが)エヴァさん達がいました。

クルトおじ様も、私の私室の中までは口を出してこないので・・・。

 

 

「お帰りなさいませ、アリア先生」

 

 

お茶を淹れていたのか、ティーポット片手の茶々丸さんが私を出迎えてくれました。

実は茶々丸さん、この2日でしっかりと内定をゲットしています。

ここでは、私の専属侍女兼専属護衛(曹長待遇軍属)と言うことになっています。

チャチャゼロさんと晴明さんは職無しですが(クルトおじ様も、そこは何も言いませんでした)、何故か田中さんがちゃっかり近衛騎士団員になっています。

 

 

でも、エヴァさんだけは・・・。

 

 

「エヴァさん、エヴァさん!」

「・・・何だ、どうした」

 

 

カムイさんのモフモフの背中に頭を乗せて何かの本を読んでいたエヴァさんが、苦笑しながら私を見ました。

エヴァさんだけが、仕事をせずに好きなように過ごすと言う快挙を成し遂げています。

でも、何故か納得できるから不思議です。

 

 

私はそんな、いつもと変わらないエヴァさんに笑いかけると。

 

 

「お祭りに行きましょう!」

 

 

 

 

 

Side クルト

 

「よろしかったのですか?」

「うん? 何がですか?」

 

 

総督府―――明日には宰相府と名を変えますが―――の私の執務室で、私は従卒の少年とそんな会話を交わしていました。

まぁ、何が言いたいのかはわかっているつもりです。

 

 

この時期に、短時間とは言えアリア様を外に出して良いのか、そう言いたいのでしょう。

しかし、今だからこそ、許されるのですよ。

 

 

「アリア様は、状況に流されてここまで来ています。それもかなり短い期間でその決断をした」

「・・・」

「で、あればこそ、今一度お考えをまとめる時間も必要でしょうし・・・」

 

 

究極的なことを言えば、独立宣言を明日に控えた今、アリア様本人にやっていただくことはあまり無いのですよ。

そう、全ての方針が定まり、各部署が極秘裏に、かつ活動的に計画を遂行しているのです。

 

 

独立計画は予定通りに進行しており、それを遮るいかなる要因も見つかっておりません。

人材の配置も、軍の展開も、全て。

つまり王として、総司令官として命令すべきことが無いのです。

細かい点にまで口を出せば、かえって効率を損ねます。

 

 

「・・・それに」

「それに?」

 

 

従卒の少年に、私は何も答えませんでした。

ただ黙って、手元の・・・昨日帰還したシャオリーと龍宮さんから上げられた報告書に目を通します。

・・・連合の動きも、予測の範疇を超える物ではありませんね。

 

 

「・・・アリア様に、護衛の手配を。ただし遠巻きに、よほどのことが無い限り干渉しないように」

「わかりました」

 

 

従卒の少年は私に頭を下げると、そのまま執務室を出て行きました。

私はそれを見送ると、柔らかな椅子に背中を預け、目を閉じました。

 

 

・・・長かった・・・。

 

 

20年、20年です。

この20年間、私は常に前進を続けてきました・・・。

アリカ様の汚名を雪ぎ、名誉を回復し、汚泥に塗れた元老院の不正と虚偽を断罪するために。

今、アリカ様のご息女が王位につき、ウェスペルタティア再興を目前にしてみると、不思議な感慨も湧こうと言う物です。

 

 

見るだけでも殺してやりたい元老院の老害共に頭を下げて服従を誓い、靴を舐め、這い蹲った20年。

密かに人材を集め、仲間を集め、慎重の上に慎重を重ねて・・・。

アリア様と言う、旗印を得た。

 

 

そして、明日がある。

私はこれからもアリア女王と言う光に従い、その足元で蠢く虫ケラを潰して回る、影となるでしょう。

 

 

「・・・ですが、今日だけは・・・」

 

 

今日ぐらいは、ただの少女に戻して差し上げても良いと、そう思ったのです。

我ながら、甘いですねぇ・・・どこかの吸血鬼を笑ってはいられませんよ。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

「ふざけるなっ!!」

 

 

ガタンッ・・・ガチャンッ!

テーブルが引っ繰り返り、上に乗っていたカップが中身ごと床に落ちる。

私は、自分の餡蜜だけを守って、他はそのまま放置した。

給仕の仕事が増えるだろうが、私はそんなことは知らない。

 

 

と言うか、ようやく休暇が貰えたと思ったらコレだ。

まったく、勘弁してほしいね。

こっちは魔法世界を半周してきて疲れてるんだ。

 

 

「ジョリィ・・・この不忠者が!!」

「・・・弁明するつもりは無い」

「当然だ、どこの世界に主君を誘拐する騎士があるかっ!!」

 

 

この世界にいるよ、とは言わない。

それにあのクルト議員なら、必要ならそれくらいはしそうな気がする。

 

 

ちなみに今の状況を説明すると、シャオリーがジョリィを殴りつけた所だ。

場所は、オスティア総督府内の兵士用食堂だ。

流石に元は旧ウェスペルタティア王家の離宮の一つだっただけあって、調度品や内装は美しい。

何より、この食堂には餡蜜がある。クルト議員もなかなかわかっているじゃないか。

 

 

「そこになおれ! この私が引導を渡してくれる・・・!」

「・・・気持ちはわかるが、首肯はしかねる」

「何だと!?」

「命令により、私の命は王女殿下の沙汰があるまで留め置かれることになっている」

「今さら貴様が主君の命令に殉ずるだと、笑わせるな!!」

 

 

何だ、この中世騎士物語は。

私のいない所でやってくれないかな・・・。

仲裁しても給料は出ないので、まぁ、放っておこう。

 

 

そう思ってただ見ていると、ジョリィとシャオリーの口論はヒートアップしていった。

まぁ、シャオリーがジョリィを一方的に責めているだけだが。

そろそろ、口論から実力行使に移行するかと思われた、その時・・・。

 

 

「騎士シャオリー」

 

 

静かな声と共に食堂に入ってきたのは、クルクルした巻き毛が特徴の少年だった。

メガロメセンブリアに行く前に総督に会った時、確か見たことがあったな。

 

 

「総督からの命令です。殿下の御身をお守り申し上げなさい。ただし殿下を煩わせぬよう、距離を保つように」

「・・・御意」

 

 

シャオリーはジョリィをキツく睨んだ後、舌打ちしそうな表情で食堂の出口へ向かった。

途中、何人かの部下らしき人間に声をかけている。

・・・まぁ、問題が先送りされただけだね。私には関係ないけど。

 

 

それにしても、アリア先生。

王様になるのなら、私の給金も何とかしてくれないかな。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

オスティア記念祭はまだ始まっていないが、それでもすでに始まっているかのような賑わいだった。

出店はもちろん、様々な芸を披露している者や、野試合などをやっている者達もいる。

それにしても、人が多いな・・・。

 

 

「おいアリア、はぐれないように・・・「ハイ、エヴァさん、あーん」あーん?」

 

 

ひょいっと、口の中に何かの菓子を放りこまれる・・・って、そうじゃないだろ!

こんなことしてる場合・・・って、何だコレは、なかなか美味いな。

むぐむぐ・・・。

 

 

「マスターが気に入ったようなので、2袋程包んでください」

「あいよっ、4アスね・・・って、でっかいワンコだねー?」

「狼です」

 

 

茶々丸が、大きな菓子袋をカムイの背中に乗せている。

あんな使い方して良いのか? あれ、私と同じくらいの格の生き物だと思うが。

・・・まぁ、カムイ自身別に嫌がっていないしな。

 

 

「エヴァさんエヴァさん! 何やら奇怪なパレードが!」

「騒ぐな! アレは獣人の連中が獣化してるんだよ! 小太郎とか言う犬っころの同類だ!」

「むぅ、人ゴミが邪魔で良く見えません。田中さん田中さんっ、肩を貸してくださいなっ」

「オ安イゴ用デス」

 

 

田中は二つ返事で答えると、片腕に晴明を抱いたまま、もう片方の腕でアリアの小さな身体を担ぎ、右肩に乗せた。

アリアは田中の頭を半ば抱くようにしながら、通りを進む獣人達のパレードに見入っている。

 

 

「おお~・・・人がゴミのようです!」

「いや、それは言っちゃダメだろ!」

「マケフラグッポイカラナ」

「そうでも無いだろ・・・」

 

 

私の頭の上のチャチャゼロが、どうでも良い突っ込み方をした。

と言うか、本気で人の頭から降りないなコイツ。

 

 

「異界の祭りを見ることになろうとはのう、1000年前には夢にも思わんかったわ」

「お前なら、未来くらい詠めたろうに」

「自分に関わる未来は詠まんことにしておる」

 

 

詠めるのか。普通は詠めんぞ。

それにしても・・・。

 

 

「知っていますか田中さん。獣耳の女の子を見たら、「萌え」って言うんですよ」

「学習致シマシタ」

「なるほどのぅ、市井には我も知らぬことが溢れておるのぅ」

「ウソオシエンナヨ」

「嬉々として嘘を教え込むアリア先生・・・(ジー)」

 

 

田中の肩の上で、いつも以上にはしゃいでいるアリアを見て、思う。

こいつは結局、何がしたいんだろうな。

どうでも良いとか言いながら、結局は難民を助け、そして母の跡を継いで国を建てようと言う。

まぁ、状況に流された部分も多分にあるのだろうが・・・。

 

 

なぁ・・・アリア。

お前はいったい、何を望んでいるんだ?

何が、欲しいんだ?

どうなれば、お前は満足なんだ?

 

 

アリア。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

オスティア記念祭まで、あと2日。

それを聞いた時、僕は慌てた。

だって僕はまだ、一万キロも離れたグラニクスにいたんだから!

ラカンさんの所で、傷を治してから来たから・・・。

ど、どうしよう・・・。

 

 

そう思っていたら、エリザさんが港に船を用意してくれていた。

それも、一日で移動できるって・・・。

 

 

「ほ、本当なの? エルザさん!」

「エリザです、ナギ」

「あ、そうだった。ごめんなさい」

 

 

そうだった、まだ指名手配が解除されたわけじゃないから・・・。

年齢詐称薬で変身していても、どうしてもいつもの名前で呼んでしまう。

それにしても、エルザさんは凄いや。

僕がラカンさんの所から戻ってきた時も、オスティア本戦への参加資格をとっていてくれた。

約束通りに。

 

 

それに、船まで用意してくれているなんて・・・。

と言うか、この船・・・民間船じゃないような。

 

 

「メガロメセンブリア軍所属の小型高速艇です」

「・・・ぐ、軍艦!? なんでそんな船が?」

「お父様が用意してくださいました」

 

 

また、お父様。

本当に、どんな人なんだろう?

 

 

「拳闘団の方々も同乗できます」

「あ、そうなんだ・・・」

 

 

じゃあ、ネカネお姉ちゃんも一緒に行けるのかな。

 

 

「もちろんです。多くの人の前で解放しないと意味がありませんので」

「え・・・な、何で?」

「お父様がそう言いました」

 

 

・・・また。

ここまで「お父様」と繰り返されると、何だか怖いや。

今までも、たくさんお世話になっているエルザさんのお父さん。

 

 

何だか、本当にどんな人なのか、気になってきた。

エルザさんのお父さん。

 

 

「ただ、新オスティアに着く直前にお父様に会って頂かなくてはいけません」

「そ、そうなの? けど僕、大会・・・」

「大会には間に合うようにしますので、問題ありません」

「それなら・・・まぁ」

「本当なら、ラカン氏にも来ていただきたかったのですが」

 

 

ラカンさんは、僕を港に送り届けた後、どこかに行っちゃった。

新オスティアには来る、みたいなこと言ってたけど。

 

 

「まぁ、メインはナギなので良いです」

「・・・エルザさんのお父さんって、どんな人なんですか?」

「素晴らしい人です。ナギもきっと気に入るでしょう」

 

 

・・・お父さん、か。

僕も、お父さんに会いたいな。

 

 

 

  ――――ズクン――――

 

 

 

「・・・?」

 

 

その時、右腕が疼いた。

いや、疼いたと言うより、何だろう・・・?

何か、良くない感じが。

 

 

「ナギ、どうかしましたか?」

「え、あ、ううん、大丈夫」

「そうですか。身体に異変があればすぐに言ってください。お父様が何とかしてくださります」

「えっと・・・うん」

 

 

エルザさんにそう答えながら、僕は左手で右腕を軽くさすった。

・・・何とも無い、よね。

 

 

「はいはい、どうもー」

 

 

その時、男の人が船から降りてきて、僕達を見つけると声をかけてきた。

長い白髪の男の人で、にこにこ良く笑う男の人だった。

 

 

「ラスト・トランザって言います。えー、お二人その他をアリエフの旦那の所まで送ります。どうぞよろしく」

「ど、どうも・・・」

「いやー、キミがネギ君かー、ふーん?」

「え、えっと、何か・・・?」

「いやいや、何でも無い無い」

 

 

握手をしながら、そんな会話をした。

な、なんだか、不思議な人だな・・・。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

『おやおや天ヶ崎・・・ではなく、天崎千草さん。お金に困っていると聞き及びこのクルト、余りの胸の痛みに涙が止まりません。思えば数奇な出会いを果たした私と貴女、知らぬ仲でも――(中略)――と言うわけで、資金を用立てて差し上げますので味方しなさい、以上』

 

 

挑発から始まって命令で終わる。

・・・こんな文(ふみ)を貰(もろ)たんは、生まれて初めてやった。

・・・これ、喧嘩売られとるんやろか。

しかもその手紙は、着払いやった。殺したろかと思うた。

 

 

そんなわけで、うちは職員連中を皆引き連れて、ここ新オスティアにやってきた。

旅費は全額こっち持ちやった。

絶対に殺す・・・いや、呪う。呪ったるであの変態眼鏡。

ついでに、学園祭でメイド服のスカート丈について批評しとったことを暴露したる。

 

 

でも連合のお偉いさんに会えへんうちは、あの変態眼鏡に頭下げて金貰わなあかん。

・・・世の中、間違うとるよな。何かが。

 

 

「・・・耐えるんやうち。公的な立場で頭下げるだけや。心から下げる必要はない。これも所長としての仕事の内や・・・給料の内や・・・」

 

 

正直、この世界の関西呪術協会は資金不足でどうにもならん。

連合の守銭奴共、本山と連絡取れたら見とれよ・・・。

全員で呪って、腹下させたるからな。

 

 

「ちーぐーさーはーんっ!」

「ぐはっ・・・な、何やね、もう、月詠!」

「うーふふー♪」

 

 

後ろから、月詠がうちに飛びついて来た。

首に腕を回して、うちの背中にぶら下がっとる。

ちょ、若干苦しいんやけど・・・。

 

 

「あっそびーましょ?」

「・・・まぁ、明日の舞踏会まで暇やからええけどな・・・」

 

 

明日、総督府とか言う所で、舞踏会が開かれるらしい。

帝国や連合のお偉いさんとかも参加するんやと。

まぁ、顔見せも仕事の内やしな。

家族連れOKやて言うし・・・小太郎と月詠にも美味いモンを食わせてやれるし。

 

 

「所長、何か楽しそうだな」

「まぁ、最近は資金繰りでヒステリー起こしそうだったものね」

「月詠たんはぁはぐぅうっ!?」

「どうした鈴吹!?」

「は、腹が急にぃ・・・!」

「鈴吹ぃっ!!」

 

 

部下が減ったわ、何でか知らんけどな。

・・・さて、この紙人形に刺した針、いつ抜こかな。

 

 

「ところで、小太郎はどこや?」

「あそこですー」

 

 

月詠がうちの背中にぶら下がったまま指差した先が、突然爆発した。

 

 

「はっはぁ―――っ、もっと強い奴ぁおらんのか!!」

 

 

・・・野試合かい!

まったく、しょーのない子やな・・・世話の焼ける。

 

 

「なぁなぁ、千草はん。最近うち、わからんことがあるんですー」

「何や、どうでもええけど、いい加減降りぃ・・・」

「うち、何で人斬りになったんでしょー?」

「・・・」

 

 

・・・思いの他、重い話が来た。

このタイミングでする話や無いやろ・・・。

 

 

「人が斬りたぁて斬りたぁてたまらんのは、何でなんでしょー」

「・・・さぁ、何でやろな」

 

 

うちはそう言いながら、身体の位置を調整して、腕を後ろに回して、月詠を背負いなおした。

おんぶ、言う奴やな。

月詠は「あはっ」と笑うと、うちの首に回した腕に力を込めてきた。

 

 

「・・・いつか、千草はんも斬りたくなるんやろか・・・」

 

 

囁くようなその声には、うちは答えへんかった。

 

 

 

 

 

Side エミリィ

 

「エミリィ・セブンシープ、見習い達を連れて街に出てくれ、また野試合の通報だ!」

「ハ、ハイッ!」

 

 

ビシッ・・・と騎士団の先輩の命令を受けた後、私は息を吐きます。

ふぅ、流石に緊張しますわね。

それもそのはず、これが実質初仕事なのですから・・・!

 

 

本当は祭りが始まってからが私達の仕事は開始なのですが、どうも予定が変更されたようなのです。

人手が足りないとか何とかで、総督府から正式に要請があったとか。

昨今、王女がどうだの言う噂も広がっていて、ここオスティアにも例年以上に人が流入しています。

その分、仕事が増えているのでしょう。

 

 

とにかく、私の、いえ、私達の初仕事です。

私は真新しい戦乙女騎士団の甲冑の重みを心地良く感じながら、ビーやサヨさん達のいる隊員控室の扉を勢いよく開きました。

 

 

「皆さん、初仕事です「うんまぁ――――イッ!?」よ・・・って、へ?」

「あ、委員長だ」

「お疲れ様です、お嬢様」

 

 

部屋の中には、私の予想通り、ビーやコレットさんやフォン・カッツェさんやデュ・シャさんやサヨさんがいました。

ただし、私と同じ甲冑は身に着けていない上、アリアドネーの制服のままです。

そして、甘い匂い・・・。

 

 

テーブルの上に並べられた大量のスイーツ。

それが、彼女達が何をしていたかを雄弁に物語っていました。

 

 

「えっ、何コレ!? マジヤバくないカ!?」

「ついつい食べ過ぎてしまいますが、後が怖いですね・・・」

「スクナの作ったカロリー控え目のスイーツだから、大丈夫だぞ」

「「貴方が神か!?」」

「うん、スクナは神様だぞ」

「あはは、サヨの彼氏は面白いこと言うねー」

 

 

そしてその中に紛れているのは、明らかに男!

ここは戦「乙女」騎士団の宿舎ですよ!?

 

 

「え、ええっと、とにかく! 出陣ですよ皆さん!」

「おっ、マジ?」

「それを早く言ってよ委員長ー」

「言う前に行動なさい!」

 

 

まったく、ビーがついていながら!

さぁ、甲冑を身に着けたら市場に・・・って。

 

 

「貴方はいりません!」

「ガーン、だぞ」

「あ、ひっどーい、委員長、この子サヨの彼氏だよー?」

「何の関係があるんですの!?」

「あはは・・・」

「サヨさんも笑ってないで何とかなさいな!」

 

 

とにもかくにも、どうにか準備を整えて。

こほん。

 

 

「じゃあ、お菓子作り頑張ってね、すーちゃん」

「さーちゃんも、行ってらっしゃいだぞ」

 

 

・・・良いなー・・・はっ!?

う、羨ましくなんてありませんよ!? 私もナギ様とーなんて、コレっぽっちも考えておりませんよ!?

 

 

「ところで、お仕事って何ですか?」

「え・・・ええ! 犬耳の少年が街で野試合を繰り返しているらしいので、取り締まりに」

「犬耳の少年・・・? ・・・それって、黒髪で10歳くらいの男の子だったりしません?」

「・・・良く知ってますわね?」

 

 

まだ私、相手の特徴言ってませんのに。

随分と具体的な特徴を。

サヨさんは、かなり微妙な表情を浮かべていましたけど。

 

 

とにかく、初仕事です。

気を引き締めて、行きますよ!

 

 

 

 

 

Side のどか

 

ここが、新オスティア。

港に到着した時、私は心が震えるのを感じました。

ここに、この街にネギ先生が・・・ネギ先生が、私を待ってる。

 

 

「人が多いし、警備もそこまでキメ細かじゃねーだろうが、気をつけろよ嬢ちゃん」

(まぁ、何とかここまで無事に送れて良かったぜ)

「そうそう、ノドカって賞金首なんでしょ?」

(我ながら、お人好しよねー)

「・・・その通り」

(・・・はたして、これで良かったのか・・・)

「・・・はい、ありがとうございます。気を付けますー」

 

 

・・・リンさんが、私を疑い始めてる気がする。

リンさんはグループの中でも、慎重な人だから・・・。

でも、新オスティアまで来れれば良いです。

クリスさんが私の分まで宿を取りに行ってくれてるけど、どうしようかな。

 

 

お金はあるし、ここで別れた方が良いかもしれません。

正直、もう十分です。

 

 

「そこのキミ! もしかしてノドカ・ミヤザキさんじゃないかな!?」

「・・・!?」

「んだ、てめぇ?」

(何だ、賞金稼ぎか・・・こんな往来で?)

 

 

クレイグさんが、私を背中に庇ってくれます。

その陰からコソコソと前を見てみれば、そこには、剣を背中に背負った男の人がいました。

肩まである手入れの荒い金の髪に、余裕たっぷりな笑顔。

身体中から、「元気!」なオーラを発散している男性です。

 

 

「おおっと、僕は怪しい者じゃない!」

「怪しい奴は皆そう言うんだよ」

(コイツ・・・結構、できるな)

「僕の名前はエディ・スプレンディッド! 仕事は・・・『勇者』さ!!」

「はぁ?」

(何言ってんだぁコイツ?)

 

 

エディ・スプレンディッドさん・・・本名ですね。

なら、私のアーティファクトで考えが読めます。えっと・・・。

 

 

(うーん、困ったな。僕はある人に是非にと頼まれて、ノドカ・ミヤザキさんを助けたいだけだと言うのに! どうして誤解を与えてしまったのかさっぱりだ! まぁ世の中に悪い人はいないから、話せばわかってくれるだろう。さてどうやって話した物かなぁ?)

 

 

「ある人・・・?」

 

 

(それにしても、なぜ認識阻害の眼鏡なんてかけてるんだ? おかげで探しにくくてしょうがなかったよ。まぁ僕の目は真実を見抜くからね、問題ないさ! 勇者だからね! 勇者は嘘を吐かない人を騙さない! とはいってもさてどうすればわかってくれるかなぁ?)

 

 

ある人って、もしかして、ネギ先生?

だとしたら、私、この人に。

 

 

「あ、あのっ、もしかして・・・」

「大変だっ! 男が子供を人質にレストランに立てこもったぞ!? 誰か警備兵を呼んでくれ!」

「何!? 本当か!? うおおおおおおぉぉ今行くぞおおおおおおおおぉぉっ!!」

(子供が人質に!? ならば今すぐ迅速に助けに行かなければああああぁぁぁっっ!!)

 

 

港の近くのレストランから響いた叫びに、エディさんは一目散に駆けて行きました。

・・・・・・え?

 

 

「な、なんだぁ、あいつ・・・」

(悪い奴・・・じゃないらしいが)

「そ、そうねぇ・・・」

(悪い人・・・では無いんだろうけど)

「うむ・・・」

(悪人では無いと思う)

 

 

(((でも、バカだ)))

 

 

その心の呟きは、私にだけ聞こえました。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「どうやら、戦争が起こるようだな」

 

 

デュナミスが、そんなことを言い出した。

戦争か・・・別に珍しいことじゃない。20年前の大戦の後も、人間達は国境紛争や民族紛争を繰り返してきたんだからね、飽きもせずに。

正直、あまり興味は無いけど・・・。

 

 

「我々の情報網にかかった話では、嵐の中心は旧ウェスペルタティアらしい」

 

 

興味が出てきた気がする。

何しろ僕はお姫様を攫いに、今から新オスティアに行くのだから。

 

 

「それで・・・?」

「詳しいことはわからん。中枢にまで入り込めているわけでは無いからな」

「・・・そう」

「20年前であれば、国家機密だろうが何だろうが簡単に手に入れることができたと言うのに・・・」

 

 

デュナミスはたまに、20年前を懐かしむけど・・・。

こういう時は、とても鬱陶しく感じる。

・・・最近は、良く何かを「感じる」ようになってきたね、僕も。

 

 

「・・・?」

「む、どうかしたのか、テルティウム?」

「いや・・・じゃあ、僕は栞君達を率いて出るよ」

「うむ、こちらも準備を進めておく」

 

 

デュナミスと別れた後歩きだした僕の脳裏には、先日見た光景が甦っていた。

アリアが、多数の兵を率いて戦艦に乗り込んでいる光景。

・・・さっき、国家中枢のことがわからないとデュナミスは嘆いていたけど。

もしかすると、僕は国家中枢に近い所にいたりするのだろうか。

 

 

情報によれば、彼女は王女になったと聞くし。

まさに、本物のお姫様になったわけだね。

 

 

「・・・失礼するよ」

「ああ、もう! 鬱陶しいのよアンタ!」

「そうです、アーニャさんの言う通りです!」

「し、しかしだな、私はフェイト様の命令でアーニャの世話を・・・」

「それでなんで、グルーミングまでされなきゃいけないのよ! 私は猫じゃないのよ!」

「そうです! ちなみに私はオコジョです!」

「こら、逃げるな・・・と言うか、焼くぞオコジョ!」

「やぁってみなさいよ! エミリー焼いたら私が燃やし返してやるから!」

 

 

・・・今日も元気だね、キミ達は。

僕達が今使っているアジト・・・「墓守人の宮殿」の居住区にある部屋の一つで、アーニャ君(最終的にこの呼び名で落ち着いた)達が騒いでいた。

と言うか、焔君ってこんな娘(こ)だったかな。

・・・まぁ、良いかな。

 

 

櫛を片手に部屋中を駆け回っていた焔君は、入口の僕に気がつくと、何故か顔を赤くして櫛を後ろ手に隠しつつ。

 

 

「ふ、ふぇ、フェイト様!?」

 

 

と言って、その場に膝をついた。

別に、そんなに畏まらなくても良いのに。

 

 

「・・・ご苦労様、焔君」

「い、いいいえ、私はその・・・っ」

「アーニャ君」

「・・・あぅ」

「・・・何よ、エミリーを拾って来てくれたお礼ならもう言ったでしょ」

「別にお礼なんていらないよ」

 

 

何故か落ち込む焔君を横目に、僕はアーニャ君に話しかけた。

アーニャ君はもう、怪我も治っているし、そろそろ良いかなと思う。

 

 

「僕はこれから新オスティアに行って、アリアに会いに行くけど・・・キミも来るかい?」

 

 

ついでに、お姫様も攫うけどね。

・・・うん? アリアもお姫様なのか、となると、ややこしいかな・・・。

 

 

「・・・何で私を誘うのよ?」

「キミは、アリアの友達だと思っていたけど・・・迷惑だったかな?」

「べ、別に迷惑だなんて言って無いでしょ!? 勘違いしないでよね!」

 

 

腕を組み、そっぽを向きながらアーニャ君がそう言った。

 

 

「ま、まぁ・・・アリアも心配だし、行ってあげても良いわよ?」

「そう、ありがとう」

「な、何でアンタがお礼を言うのよ、別にアンタのためじゃないんだから!」

「アーニャさん、テンプレ過ぎます・・・」

 

 

エミリー君が何故か哀しそうにそう言ったけど、まぁ、良いか。

とにかく、新オスティアへ。

世界の、中心へ。

 

 

お姫様(アリア)を、迎えに。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

『(ザザ・・・)こちらブラボー12、ブラボー1どうぞ(ザザ・・・)』

「こちらブラボー1、どうしましたかブラボー12」

『(ザザ・・・)犬耳の少年の野試合に巻き込まれて機材を破損、一時帰還する(ザザ・・・)。なお、録画内容に破損無し。繰り返す、録画内容に破損無し・・・(ザザ・・・)』

「・・・ブラボー12、了解。12を除くブラボー3から32は引き続き映像記録続行せよ」

『『『『了解(ラジャー)』』』』

 

 

・・・ふぅ、犬耳の少年とやらにも困った物です・・・。

 

 

「・・・おい茶々丸、お前は何をしているんだ?」

「申し訳ありませんマスター、守秘義務があるので・・・」

「従者がマスターに守秘義務って何だ!?」

 

 

そうは申されましても、コレはマスターの従者としてではなく、ウェスペルタティア広報部としてのお仕事なので。

私ことブラボー1は、田中さんことブラボー2と共に、アリア先生のお姿を映像に残さねばならないと言う密命を帯びているのです。

 

 

政治においては宣伝も大事。

子供から老人まで、等しくアリア先生の支配権を認めさせる有効な方法なのです。

個人的な趣味が編集に反映されるのは、むしろ当然のことですが。

 

 

「しかし、お前・・・順応早いな」

「そうでしょうか?」

 

 

カムイさんの背中に乗って往来を歩くアリア先生を撮影しながら、私はマスターにそう答えました。

通常であれば、あれだけ大きな狼は騒動の元でしょうが・・・今のこのオスティア祭の雰囲気の中では大したことはありません。

何せ、カムイさんよりも大きな動物や、獣人の野試合などが各所で見受けられますので。

 

 

・・・それにしても、狼の背中に乗る少女・・・絵になりますね。

 

 

「・・・お前、そう言えば魂がどうだのに興味を持っていたな、以前」

「はい、現在も思案中です」

「それは、仮契約に興味を持ったからか?」

「はい」

 

 

マスターと私はドール契約ですので、魂は必要としません。

しかし仮契約には、「魂」が必要です。

魂が無ければ、カードは出ません。

カードが出なければ・・・。

 

 

私、「絡繰茶々丸」には魂は無く、この気持ちも感情も全て。

ハカセのコンピュータの作った、仮初の偽物だと言うことになります。

言うなれば、仮契約は私に魂があるかどうか、それを形にして判断する手段と言うことになります。

だから私は、仮契約に興味を持ったのです。

 

 

「でも、それはもう良いのです」

「良い? 何故だ?」

「私は、マスターやアリア先生と家族になりたいのであって、主従になりたいわけでは無いからです」

 

 

思えばコレも、ガイノイドにあるまじき発言。

マスターの従者としての分を超えた発言です。

でも、私は自分の魂の存在を確信するための道具として、マスターやアリア先生を使うようなことはしたくないのです。

 

 

不思議な感覚で、言語化が非常に困難ではありますが・・・。

これが私の素直な「気持ち」です。

 

 

「私に魂があるのか、無いのか。その結論は、自分で出したいと思います」

「・・・そうか」

 

 

さて、私も仕事に戻るとしましょう。

クルト議員にアリア先生を好きにさせないためにも、私はアリア先生から目を離すわけにはいきませんので。

 

 

「・・・お前はもう、しっかりと自分の魂を持っているよ。茶々丸」

 

 

後ろから聞こえるマスターの言葉に、私は目を閉じました。

それを私が確信できる日は、いつでしょうか。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

家族になりたいのであって、主従になりたいわけでは無い。

その茶々丸の言葉は、私にとっては新鮮であると同時に、衝撃的でもあった。

それはある意味で、私のこれまでの価値観に穴を穿つには、十分な威力を持っていたからだ。

そして同時に、私はある種の羨望を茶々丸に抱いた。

 

 

懐から、アリアとの仮契約カードを取り出す。

アリアと私の、主従の証であり・・・同時に、絆の証でもある。

 

 

形にしなければ信じられない、そんな絆だ。

 

 

「私は、弱いな・・・」

「マ、ゴシュジンダカラナー」

 

 

茶々丸との話の最中は一言も話さなかったチャチャゼロが、突然言葉を発した。

依然として、私の頭の上にいる。

そう言えば、チャチャゼロと私もドール契約で主従関係だな。

・・・進歩が無いな、私は。

 

 

「ゴシュジンモ、アタマジャワカッテンダロ?」

「当然だ・・・これでも600年生きてるのだからな」

 

 

アリアは、王になる。

正直な所、実感はまったく湧かんが、とにかくそう言うことになってしまった。

アリアらしくも無く、他人のために背負わされた地位と責任だ。

逃げても誰も責めないし、責められたとして、そんな風評を気にする奴でも無いだろうに。

 

 

アリアは・・・。

 

 

「アレは、『職務』に忠実な人間だ」

「ソーダナ」

「わかっていないな・・・『職務』に忠実と言うことは、与えられた『役割』に忠実と言うことだぞ」

 

 

麻帆良で教師として、過剰なまでに生徒を守ろうとしたのは何故だ?

それがアリアの『役割』だったからだ。だから自ら自分の『役割』の外に・・・魔法に関わった連中をアリアは冷然と見捨てることができた。そしてそこに、アリアの本質が加わる。

極度の寂しがり屋、と言う本質がな。

 

 

刹那や木乃香への対応と、神楽坂明日菜や宮崎のどかへの対応の間にある差は、そこだ。

自分を慕ってくれているか? 自分を真に必要としてくれているか?

仕事中毒(ワーカーホリック)と呼ばれて喜ぶのは、つまりは仕事の量がその指標になっていると考えているからだろう。

 

 

アリアドネーに来る頃には、多少緩やかになったようだが・・・。

だが、その意味で、今回は究極だ。

 

 

「王とは頂点だ。そして孤独だ・・・代われる者がいてはならないし、理解する者がいてもいけない」

「ダカラ、ゴシュジンハイッポヒカナキャイケネェ」

「・・・わかってる」

「ゴシュジン」

「わかっているさ! だがな・・・納得はできないんだよ」

 

 

公の場において、アリア「女王」よりも上の存在がいてはならない。

少なくとも、表向きはな。

あのゲーデルが言いたいのも、そのあたりだろう。

TPOを弁えろ、そう言いたいわけだ。この私に対して。

弁えなければ? 粛清でもするか? この私を?

 

 

・・・私がアリアをいつまでも従者扱いしていては、不都合なのだ。

周囲の人間が、序列を勘違いしていしまうからだ。

 

 

『アリア女王は、真祖の吸血鬼の操り人形だ』―――などと噂されれば、それだけでアリアの身辺が危うくなる。

それは、良くない。アリアにとっても、私にとっても。

だから表向きには、私はアリアに一歩を譲らねばならない・・・。

だが・・・。

 

 

少し休憩しようと言う話になり、私達は小さな、人通りの少ない公園に入った。

そこで、私は。

 

 

「・・・アリア!」

 

 

問いかける、私が今後どうすべきかを、決めるために。

自分のためではなく、家族のために。

 

 

「お前は何故、王になる?」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

人で溢れる新オスティアにも、人が少ない場所は存在します。

この小さな公園も、その一つです。

 

 

「アリア、お前は何故、王になる?」

 

 

その時、エヴァさんが私にそう問いかけてきました。

それは、とても基本的で・・・それだけに重要な問いかけでした。

私が何故、女王になるのか?

それは、状況に流されたからでしょうし、もしかしたら求められるままに、必要とされるままに、そうなったのかもしれません。

それも、理由の一つではあるのでしょう。

 

 

けれど、もう一つだけ・・・知っておきたいことがあったから。

理解したいことがあったから。

 

 

「学園祭の時、幻の母は言いました。民は自分の身内だと」

「・・・そうか」

「私には、それがわからない」

 

 

雛鳥のように口を開けて、次から次へと何かを求める民衆が、身内。

好きだと・・・愛していると。

 

 

肉親よりも? 家族よりも? 仲間よりも?

それよりも優先すべき何かが、民にあると言うのでしょうか。

私には、わからない。

 

 

「だから私は、王位につく。それを知るために。いつか確認するために」

「個人的な理由だな」

「個人的な理由ですよ。最近甘やかされ過ぎたせいか、我儘になっていまして・・・ごめんなさい」

「謝る必要は無いさ、別にな」

 

 

エヴァさんの言葉に、茶々丸さんも、チャチャゼロさんも、皆・・・頷いてくれます。

優しい人達、私を甘やかして、私はどんどん我儘になっていきます。

以前はもう少し、謙虚だったような気もするのですが。

 

 

「ふぅん・・・なるほどな。まぁ、民のためだの国のためだのと言われるよりはマシか」

 

 

エヴァさんは、一人で何やらブツブツと言った後、安心したような、それでいて複雑な表情を浮かべた後、私に向かって。

 

 

「だがなアリア、お前のその個人的な理由で、多くの人間が不幸になる可能性もあるぞ」

「わかっています・・・が、正直、そこまで責任は持てませんね」

 

 

冷たいようですが、私に勝手に期待する人達のことまで考える必要は感じません。

私一人で全てができるわけではありませんし・・・。

私はあくまでも、私のために王位につくのです。

王位の私物化・・・何か、滅びそうなフラグですね。

できることはしますが、それ以上のことは私に期待されても困ります。

 

 

「矛盾しておるのぉ・・・」

 

 

ウトウトと眠りかけている晴明さんが、そんなことを言いました。

矛盾・・・自己矛盾。でも、私は・・・。

 

 

「アリア」

「はい」

「私は、お前の配下になるつもりも、臣下になるつもりも無い」

 

 

エヴァさんは、そう言いました。

それは、わかりきっていることです。エヴァさんですから。

 

 

「だが、風下に立つことはできる。それでお前を守れるのなら」

「・・・え・・・」

「・・・じゃあな」

 

 

エヴァさんはそう言うと、私に背中を向けて歩きだしました。

後に、スヤスヤと眠ってしまった晴明さんを抱いた田中さんが続きます。

チャチャゼロさんが、エヴァさんの頭の上から手を振っていました。

 

 

「え、と・・・茶々丸さん」

「私は以前、お伝えしました。私はずっと、貴女を守りたいのです」

 

 

そう言って、何故か私をジーっと見つめる茶々丸さん。

私はそれを見て、苦笑してしまいましたが・・・。

 

 

でも、もう一つだけ、誰にも言っていないことがあるんです。

それは、難民を見た時に私が気付いたこと。

私は、赤ん坊の頃に村に預けられ、その後はメルディアナ・・・。

私も難民のように、捨てられてもおかしくはなかった。

 

 

そうならなかったのは、私が父の娘で、母の娘だったから。

・・・そう思うと、やってられなかった。

だから。

 

 

その負債を返してやろうと、そう思ったんです。

 

 

 

 

結局は、個人的な理由。本当、嫌になりますよね。

シンシア姉様――――――。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

「いやぁ――、瀬流彦君、飲んでおるかねぇ!?」

「はい、新田先生、飲んでますよぉ!」

 

 

8月中旬、瀬流彦先生が新田先生達と「超包子」に来たアル。

しずな先生や他の先生も一緒アルが、どうにも瀬流彦先生に目が行ってしまうアルな。

理由は、カウンター席で酔い潰れているから。

しかも酔い方が尋常じゃないアル。

 

 

と言うか、やけ酒の様相を呈しているアルが・・・。

 

 

「四葉さーん、おかわりー!」

「炒飯3人前追加でー!」

 

―――はい、わかりました―――

 

 

鳴滝姉妹を含めたクラスメート達が、テーブル席の一角で騒いでいるアル。

相変わらず、元気アルなー。

 

 

「うう、ネギ先生ー・・・」

「ネギ君、今頃何してるのかなー」

「いいんちょもまきちゃんも、ネギ君のことばっかだねーっ」

「アリア先生は元気かなー」

「亜子はアリア先生が大好きだもんねー?」

「でも知ってるわよ・・・本当は学園祭の時にー」

「わ、わ、ちょ―――っ!」

 

 

いいんちょとまき絵は、ここの所ネギ坊主分が足りないとか言ってヘコんでるアル。

和泉や柿崎、椎名もいつも通りアル。

こっちは、平和そのものアル。

 

 

アリア先生に、ネギ坊主。それに茶々丸にエヴァにゃん・・・田中も。

向こうに行った皆は、元気アルかな。

 

 

「そう言えば、古菲さん。実家に帰ったりとかはしないの?」

「んー、まぁ、師父の所に帰るのは卒業の後にするアル。それに・・・」

 

 

しずな先生の言葉に、私は曖昧に笑って答えた。

私の部屋にはまだ、アリア先生謹製の「高校に行きたいならコレだけしなきゃね?」シリーズのドリルがどっさり残ってるアルから・・・。

「超包子」でアルバイトをしながら、少しずつやってるアルが・・・。

 

 

修業より辛いアル・・・。

関数とか言うのを作った奴を殴り飛ばしたいアル。

 

 

―――大丈夫、くーさんはやればできる子ですよ―――

 

「それでやる気を出すのはネギ坊主くらいアルよ、四葉」

 

 

・・・新学期には、また皆で会えると良いアルな。

 




アリア:
アリアです。今回はお休みをいただきました。
まぁ、これまでが駆け足でしたからね・・・。
私達だけでなく、他の人々も続々と新オスティアに向かってきている様子。
ここからまた、面倒事が増えてくるでしょうね。
なお、本編中で茶々丸さんが曹長待遇軍属と申しましたが、ウェスペルタティアの軍階級は英国軍を参考にしております。元帥から二等兵までの物です。


今回登場したキャラクターは。
二重螺旋様よりラスト・トランザさん。
ウルフガイ様よりエディ・スプレンディッドさん。
ありがとうございます。


アリア:
次回は、新オスティアで行われる前夜祭・・・総督府で行われる舞踏会。
各国の代表も参加する重要な物です。
お出迎えから、独立宣言まで。
忙しい一日になりそうです。
演説の練習もしなければ・・・ヒトラ○総統かギ○ン閣下か少佐かシャ○閣下かシャ○ル陛下かルル○シュさんかジー○・・・どの方の演説を真似ればいいのやら。
では、またお会いしましょう。

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