城の中の吸血姫   作:ノスタルジー

25 / 31
二十二話目。遅くなりました。

章の区切りをはやくやらねば。




少年と吸血鬼

 「石化だと?」

 詠春の依頼。石化魔法の解呪。

 「京の者…ではないな?そんな話は入ってきていない」

 「ええ。…少し前、ナギの生まれ育った村の人々が悪魔に襲われました」

 ナギの村。英雄の故郷。

 「死者も出ましたが、それ以上に多いのは石化された者たちです」

 「ふん…英雄様も大変だな?お前も気をつけろよ?詠春」

 ニヤニヤと意地の悪い笑みを顔に貼り付けるエヴァジェリン。

 「…ええ。わかっています」

 詠春以外のメンバーは全員行方知れず。私たちはそのメンバー全員とは会ってはいないが。居場所がわかっている詠春は狙われる可能性が高い。

 「それで。誰が襲ったんだ。」

 「……確証はないですが…MM元老院の差し金の可能性が高いとのことです」

 MM元老院。紅き翼はそちら側の人間ではなかったか。

 「アリカ姫を奪還したことがそれほど気に入らなかったか、もしくはナギと姫の子が原因でしょう」

 アリカか。ネギか。

 「おそらくアリカの方はないだろう。それならお前も襲撃されるはずだ」

 確かに。アリカが原因ならナギの村だけが襲われた理由としては弱い。アリカの奪還は紅き翼が行ったこと。詠春に対し何のアクションも起こさないのは不自然だ。

 「それで?坊やはどうなったんだ?」

 「…村で助かったのはネギ君と従姉、彼の友人の三名のみです。今はメルディアナに身を寄せています」

 「なんだ。助かったのか?」

 なら何故襲われたんだ。

 「悲劇の英雄の子としての広告を掲げるためか復讐心に囚われた坊やに優しく声を掛けて手駒にでもするつもりじゃないか?」

 つまらなさそうだな。まぁ会ったこともない子供に興味はないということだろう。血筋など見ない。こいつは個人を見ている。そして。不幸も見ない。

 「メルディアナ魔法学校の校長はお義父さんの学生時代の友人だそうで、二人はネギ君をメガロの手から離れさせる案を練っているそうです」

 ネギ。原作主人公。何が起きてもいいように力はつけた。駒も得た。バックも得た。あまり関わりたくはないが。メリットがあるならそれでもいい。

 

 「ふむ。」

 石化の解呪か。時間も手間もかからないだろうが。気になるのは。

 「MMに目をつけられるかもな」

 それだ。一応私たちは指名手配犯。折角500年ほど姿を隠して忘れられたのだ。復活させたくはない。

 「正直なところ…西としてのバックアップはできません」

 これは詠春個人の依頼。

 「この件に関して西はあなた方を守ることはできません」

 当然だ。西が東の英雄とその子に関わる必要などない。

 「ですが、私は友人の子を悲劇の主人公にしたくない」

 悲劇の主人公か。

 「対価を用意しました」

 対価。

 「始祖についての情報、です」

 

 

 

 「ふむ。」

 「なかなかの数だな」

 ここは地下。大量の石像。私たち三人の目の前に。

 「……確かにかなり高位の術だな。並みの術者なら解けんだろう」

 思ったより多い。面倒だな。

 「アリス。使え。」

 「うん。わかった」

 一人。石像の群れに近づく小さな影。

 「アデアット」

 おもむろにカードを取り出す。アリスがそう言うとその手に数個のカプセルが出てきた。さまざまな模様のカプセル。アリスが一つを口に。

 「ん」

 変化。アリスの額には角。

 「始める」

 アリスの声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 息を切らせて、少年は走っていた。その背後からは静止の声が上がっているにも関わらず、全く聞こえていないかのような様子で。ただただ走っていた。

 少年が目指すのは、故郷の村の村人たちのもと。数か月前に石化魔法を受けて石になってしまった者たちのところ。

 彼らが置かれている場所。ある建物の地下。その建物と少年の距離が近づくにつれて、少年の耳には歓声が大きくなって入ってきた。

 「みんな!!」

 少年も喜び、足をさらに速めた。するとその建物から三人の少女が出てくるのが見えた。

 「あれは…!!」

 数週間前に友人となったタカミチから聞いていた。石化魔法を解呪しにすごい魔法使いが来ると。彼女たちが来ればもう大丈夫だと。その「彼女たち」というのは彼女たちがそうだ、と少年は考えた。

 「あの!!」

 少年は建物から離れようとしていた少女たちに向かって声を張り上げた。

 その声はしっかりと聞こえたようで、少女たちは振り返り、いまだ遠くを走る少年の姿を見やった。

 

 数秒後。少年は息も絶え絶えに、少女たちの目の前までたどり着いた。

 呼吸を落ち着かせ、顔を上げた少年は目を引かれた。少女たちの中で、一番年上であろう少女。綺麗だともかわいいとも言える整った顔。美しい煌びやかな長い金髪。ルビーのような輝く紅い瞳。浮世離れした雰囲気を持った少女だった。

 「えっと……あの…」

 言おう言おうと思っていたことが口から出ず、少年は言葉に詰まる。

 「ちょ……と!ネギ!あん…たねぇ…待て…言って」

 「ハァ…ハァ…ハァ…」

 気づけば、背後には幼馴染と姉の姿。

 その日常のような光景を見て、心を落ち着かせた少年は再び口を開いた。

 「今日はみんなを助けてくださってありがとうございました!!」

 感謝。少年の言葉を聞き、ハッとしたように少年の背後にいた二人が声を上げた。

 「え?嘘?もし…かしてこの子たちが?」

 「すごい…魔法使い?」

 その声は疑問。彼女たちの中では、メルディアナの校長さえお手上げだった石化魔法を解くことのできる魔法使いがこんな少女のわけがなかった。

 「ほう?なんだお前たち?私たちに喧嘩を売ってるのか?」

 気の強そうな少女がプレッシャーをかける。

 「ひっ!!」

 「いえ!あの!すみません!そういうわけでは…」

 少女にとっては軽くでも、その圧力に幼い少女はおびえる。

 「やめろ。エヴァンジェリン。大人気のない。」

 「ぬ」

 淡々と少女を窘める。少年は綺麗な声だなと思った。

 「あの…あなた方がみんなを救ってくださったんでしょうか?」

 少年の姉が尋ねた。

 「まぁそういうことになる。」

 「さ、先ほどは失礼しました!私たちはまだ若輩の身で魔法に関してはまだ疎く…」

 「構わん。」

 言葉を続けようとするのを億劫そうに切り捨てる。

 「…本日は本当にありがとうございました。ほら、アーニャも」

 「あ…さっきはごめんなさい。あと今日はありがとう」

 「本当にありがとうございました!!」

 少年も感謝の言葉を重ねる。そして、少年は感謝以外にも彼女たちに言いたいことがあった。

 「あの!僕!将来はみなさんのような立派な魔法使いになりたいんです!!」

 少年の夢。父のような、少女たちのような魔法使いになること。

 「ふん…立派な魔法使いね」

 つまらなそうに、一人が呟いた。一人は先ほどからずっと黙ったまま。そして―

 「そうか。なら頑張れ。」

 「は、はい!!」

 

 「ネギ。」

 「はい」

 「これは貸しだ。」 

 「え?」 

 「いつか必ず返せ。」

 「いつか……はい。わかりました!」

 「ではな。」

 「はい!今日は本当にありがとうございました!!」

 

 少年は離れていく三つの金色をずっと見ていた。

 




ネギまのここら辺の時期って謎が多いですよね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。