Angel Beats! ―SCHOOL REVOLUTION―   作:伊東椋

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EPISODE.49 Guilt

 かつて、この地下の燃え盛る炎の海に天使を落としたことがある。

 あの時、あたしたちの手によって地獄の業火に落とされた天使が帰ってきたかのように。

 あたしの目の前に、憎悪に染めたような赤い瞳を宿した天使が立ち塞がっていた―――

 

 

 あたしは分身―――天使と正面から火蓋を切った。拳銃(ハンドガン)を手に、あたしは地を蹴る。正面から向かってくる天使に向かって何発も引き金を引く。しかしどの弾も天使の身体を貫く前に、弾き返されてしまう。

 そしてその間に間合いが詰まり、接近戦に移る。

 両手から生やした白い刃を振り回す天使に対して、あたしは斬りかかる刃の軌跡を読み、避ける。虚空を切り裂く天使の刃を眼前に流しながら、隙を狙って天使の懐へと入り込む。

 「はぁ…ッ!」

 「……ッ!」

 天使の細い腕を掴み取り、その華奢で軽い身体を思い切り投げ飛ばす。女のあたしでも十分遠い距離まで投げ飛ばすことができたが、あたしは尽かさず攻撃の手を緩めない。投げ飛ばした先にいる天使に向かって、引き金を引く。

 だが、遂に引き金も手ごたえを空回りするようになる。

 「(弾切れか…ッ)」

 あたしは弾切れになった拳銃を懐にしまうと、即座に手榴弾を手に取って投げ込み、天使を爆煙に包ませた。

 地を揺るがすような爆発が響き渡る。あたしはゆっくりと爆煙が立ち込める風景に目を見張るが、晴れる土煙から現れたのは、無傷な天使の姿だった。

 「くそ…しぶといわね……」

 唇を噛むあたし。通常の武器では効かないなんて、どこの化け物なのか。

 「―――!」

 その時、天使が新たな動きを見せていることに気付く。

 両手の刃を掲げ、その刃先を交叉するようにしている。それを見たあたしは、彼女の部屋にあったパソコンの画面に映っていた光景を思い出し、ハッとなる。

 「(まさか……!)」

 あたしはそれを、パソコンの画面にあった“あの攻撃”だとわかる。

 「音無くん、耳を塞いでッ!」

 オリジナルの方に向かった音無くんに向かって、あたしは叫んだ。

 もし、次の攻撃が来るとしたら―――

 

 「ガードスキル、ハウリング」

 

 その瞬間、交叉した天使の両手から生えた刃の中心から、あらゆる物体を破壊するような超音波が響き渡る。

 空気を通し、辺り一帯を切り刻むその音は、正しく超音波兵器。

 岩が砕け、地面が切り刻み、土が舞い上がる。

 この威力を以てすれば、常人なら、簡単に行動を不能にさせることができるだろう。

 でも―――

 

 「(悪いけど、その技はとっくに知ってるのよ……!)」

 

 あたしはナイフを手に、超音波を放ち続ける天使に向かって駆け出す。

 そんなあたしを見て、天使の表情は驚愕の色に染まっていた。

 そしてあたしは、天使の胸に―――ナイフの刃を突き刺した。

 

 天使の胸にナイフを突き刺すと同時にその身体を押し倒す。天使が倒れると、超音波は止んだ。

 「ふふん」

 あたしは勝ち誇った笑みを浮かべ、顔を上げる。あたしの下で倒れる天使が何か言っている。

 「気絶……しない……」

 でも、あたしの耳にはそんな声は届いていなかった。

 何故なら―――

 「えっ? 何て? 耳栓してるからよく聞こえないのよッ」

 そう。あたしは事前に天使の攻撃に備え、耳栓をしていた。おかげでハウリングの攻撃を受けることはなかった。

 天使はそんなあたしの言葉を聞いて、どうにかあたしから逃れようと無駄な抵抗を見せる。

 そんな風に抵抗しても、あと少しで終わりなのに。

 「ほら、観念しなさい。 でないと、もう一本のナイフで喉をかっ切っちゃうわよ?」

 あたしはもう一本のナイフを手に取り出し、天使に向かってニッコリとした笑みを向けるのだった。

 

 そう、これで終わり。

 後は音無くんがオリジナルを見つけて、この天使の分身たちは消える。

 そしてこの鬼のような状況から抜け出せるのだ。

 

 「……あなたには悪いけど、こうするしかないのよ」

 

 血を口から流し、子供のように抵抗をする天使を見下ろし、あたしはぽつりと呟いた。

 そもそも、こんな事態になったのもあたしたちが原因でもあるんだ。

 いや……あの日、音無くんが彼女を連れてきて、それを認めてしまったあたしのせいだ。

 彼女を巻きこまなければ、彼女があたしたちを守るためにハーモニクスを使うことはなかったし、この騒動を引き起こす要因に繋がる事にはならなかった。

 全ては、あたし自身の責任だ。

 あたしはなんて酷いリーダーだろう。

 仲間たちも、これまでにまた何人も犠牲にしてしまったのだから。

 そして、彼女を何人も傷つけてしまって―――

 

 「……ごめんなさい、立華さん」

 

 あたしは、彼女に謝るようにそう言うと、手に持ったナイフを、その首下に振り下ろした。


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