コードギアス~護国の剣・天叢雲~   作:蘭陵

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Stage 06 出会い

「ん、増援か…。でも一機だけか。まあ、敵が追ってくるんじゃ仕方ねえよな」

「お、おい、玉城!」

仲間の声を無視して、玉城のサザーランドが向き直る。ここで撤退というグロースターの少年に対する反感もあったし、彼の指揮を受けずに敵を倒したいという功名心があった。

(へっ、俺だってやればできるってことを証明してやるぜ)

だがそれは、すぐに相手のことを無視した愚挙に過ぎないことを証明することになる。

 

「なに?このスピード…」

たった一機の増援、それが尋常ではない相手だということに、気付く者もいた。

レーダーディスプレイ上の光点が、あっという間に近づいてくる。サザーランドやグロースターでは考えられないことだった。

そうこうしているうちに一機LOST。やられたのかといぶかる間に、他の二機もLOSTした。

『こいつは…。私が行く。それまで持ちこたえろ。戦おうとするな。逃げ回ってもいい』

グロースターの少年も気づいた。ただ、声が若干固い。つまり、彼でも自信のない相手だということだ。

このとき、カレンと彼の位置はかなり離れていた。逃げ遅れた人がいないか、探し回っていたのである。

そして、位置的にはカレンのグラスゴーのほうが、圧倒的に敵に近い。

 

敵の光点が、新たな味方の反応に近づく。そして10秒もせずにLOST。

「南さん、返事して!」

南が乗っていたサザーランドに通信を送るが、返答はない。そして、敵の反応はカレンのグラスゴーがいる方に向かってきた。

「………やるしか、なさそうね」

スピードは相手が圧倒的に上、つまり逃げられない。ただ、勝てるなどとは微塵も思ってない。

せめて彼と同じグロースターならそこそこ戦えるかもしれないが、片腕を失ったこのグラスゴーでは取るべき手段は一つしかなかった。

彼のところに、少しでも近づくだけだ。

 

(いける、このランスロットなら!)

これまでのナイトメアに乗ったことのないスザクでも、ランスロットの性能が圧倒的だということは理解できた。

また一機、サザーランドを葬る。さらにその僚機を撃破。これで撃破数は八機になった。

ただし、搭乗しているパイロットはせいぜいのところ軽傷だろう。ナイトメアフレームは元々『搭乗者の生存性を高めるコクピット』という概念から発達したため、脱出機構の性能が他の陸戦兵器と比べて非常に高い。

しかしそれも機構が使えなければ意味がないわけで、スザクは『脱出できる』ように敵を倒していたのだ。それはつまり、ある意味手加減しているということになる。

 

だからスザクは、背を向けている敵に銃を撃たなかった。ランスロットに搭載されているヴァリスなら十分狙えるが、コクピットに直撃したら…、と考え、引き金を引けずにいた。

(けど、逃がさない)

次に狙った相手をモニターに捉える。グラスゴーだ。そしてその機体は赤く塗装され、これが最初からテロリストが持っていた機体だとすぐに分かった。

そして反応がもう一つ。猛烈な勢いで近づいてくる。ゲットーの荒れ果て、倒壊した建物や瓦礫で障害物だらけの道をフルスロットルで進んでいるのだろう。

「並みの相手じゃないな…」

これまで撃破してきた相手とはまるで違う。そしてこのままだと、グラスゴーに追いついてすぐ相手にすることになるだろう。

 

「捉えた!」

一撃でグラスゴーを撃破し、返す刃で次の相手をする。それがスザクの目算だった。

ただ、グラスゴーのパイロットもこれまでの相手とまるで違う技量の持ち主、というのを感じ取れなかったのは大きなミスだったと言える。

「嘗めないで!」

カレンは廃ビルにハーケンを打ち込み、機体を飛び上がらせてランスロットの一撃を回避した。そのまま空中で反転、トンファで攻撃に転じる。

普通なら絶対の間合い。だがスザクの反射神経とランスロットの性能は『普通』を簡単に凌駕した。

「なっ!」

グラスゴーの右腕を、ランスロットは掴み取った。そしてランスロットの右手の剣が振られていく様子を、カレンはスローモーションのように見た。

そして気付いた。ビルの壁に亀裂が入った事に。

次の瞬間、そこからグロースターが現れた。

 

「グロースター!?こいつが親玉か!」

襲いかかるグロースターのランスを、スザクはMVSで防いだ。だがその状況から零距離で発射されたショットランサーまではかわしきれず、右胸装甲を小破。

索敵機構であるファクトスフィアが破損。両胸にあるためレーダーが使えなくなることはなかったが、範囲は大きく狭まり精度が低下するのは避けられない。

『あ~~~っ!!!僕のランスロット~~~~!!!!』

ロイドの嘆く声がするが、スザクはそれどころではなかった。相手はランスに食い込んだMVSを引き抜き、構える。

態勢を整えたランスロットももう一本のMVSを取り出し、構える。それは武術に詳しい人ならわかるだろうが、明らかに日本剣術と日本剣術の立会だった。

(隙がない…)

スザクは認めた。相手の実力は、自分の予想をはるかに超えていたことを。

 

スペックを比較すれば、ランスロットの性能はグロースターさえも圧倒する。

なのに、である。

「信じられない…」

開発者の一人であるセシルさえ、この状況は想定していなかった。

ランスロットがグロースターと戦闘を開始してから6分経過。なのに、このグロースターはランスロットと互角の戦いを演じ続けていた。

これまでのサザーランド相手では、長くても数十秒だった。それを考えれば、驚異的としか言いようがない。

「う~ん、まあこっちのデヴァイサーが初めての騎乗ということもあるんだけど、生半可な相手じゃないね。………欲しいな、この相手」

最後の言葉は隣にいたセシルだけに聞こえる程度の小声だったが、心の中だけにしてほしいとセシルは思った。また病気が始まった、として諦めるしかないのだが。

 

薙ぐ。かわされる。右足のランドスピナーを急速後退させて相手の突きを回避。攻撃に転じようとしたとところにマシンガンが撃ち込まれ、シールドを展開。そこにさらに追撃が来る。

「この…」

手加減している余裕はなく、ついにスザクは腰に手をやった。もちろんランスロットの、であり、そこにはこれまで使わなかったヴァリスがある。

至近距離からの銃撃。これも『普通なら』かわせるはずのない攻撃のはずだった。

「なにっ!!!」

スザクは見た。相手は、ランスロットの手が腰に動いた時点でもう回避のための重心移動に移っていたのだ。発射の時点では、すでに射線からずれていた。

グロースターのMVSが振り上げられ、ヴァリスが切断される。スザクの反応があとコンマゼロ数秒遅ければ、ヴァリスではなくランスロットの腕が切り落とされていただろう。

 

(恐ろしい相手だ)

スザクは敵の評価を変えた。完全に、次の手が読まれている。正確にはその時の状況とスザクが何か行動を始めたときの動きで予想しているのだろうが、その正確性は予知に近い。

「一つ聞きたい、どうしてそれほどの力があるのに、間違った道を進むんだ!!!」

通信で呼びかける。どうしても言っておきたかったのだ。返事がなくても仕方ないと思っていたのであるが、相手は真面目に返してくれた。

『…『間違った』?私には、貴様らの方がよほど間違っていると見える。関係のない民衆を虐殺するような行為のどこに正義がある!!!』

「それについての批判は甘んじて受けよう。だが、戦いが終わればそれも終わる!」

『…貴公は勘違いしているのか、騙されているのか。私たちが戦うのを止めれば、虐殺が再開されるだけだ』

グロースターが構える。もはや問答無用ということだろう。

 

だが、分はスザクの方にある。ランスロットの戦闘機動は、まだまだ限界に達していない。

(スピード重視、いくぞ!!!)

一撃で狙う愚は避け、無数の攻撃を立て続けに行う。小技ゆえ命中しても相手に致命傷を与えることはできないが、グロースターが防戦一方になる。

突く。グロースターが回避し、反撃に移ろうとする。明らかに焦りからのミスで、それこそスザクの狙いだった。この突きはここからさらに2段、敵を追い詰める。

「藤堂さん直伝の、『3段突き』だ!!!」

2段目の突きまでかわされたが、ついに3段目の突きがグロースターの左腕を貫いた。

グロースターはその状態のままマシンガンのトリガーを引く。狙いなど何もなかったがランスロットの足元あたりに銃弾がばらまかれ、それにわずかにひるんだ隙に距離を取った。

 

(……どうする。……どうすれば)

焦っているのはグロースターの少年だけではない。二人の激突を間近で見ていたカレンは、むしろ本人以上に焦っていた。

グロースターの左腕は貫かれた上のマシンガン乱射で千切れたようになり、パージして捨てる以外になかった。これで情勢は、圧倒的に敵が有利である。

ここであのグロースターが敗れれば、もう勝ち目はない。かといってカレンのグラスゴーが割って入れるような立ち合いではない。無理に割り込めば、足手まといになるだけだ。

 

『地図と座標を転送する。敵をこのポイントに誘い込め』

不意に、通信が入る。と同時にモニターにシンジュクの地図が映し出され、光点が表示される。グロースターの少年の声とはまた別の声だった。そして、扇グループの仲間の声でもない。

これが罠なのかどうかカレンが疑うより先に、グロースターは動き出した。考えてみれば、このままでは勝てない以上、この話に乗るしかない。

『Q-1、お前はここで待機しろ』

人を何だと思っている、と言いたくなるような態度の相手だが、乗ってしまった以上は従わざるを得なく、指示されたポイントに向かう。敵はグロースターを追って行った。

そしてカレンの眼前をグロースターが、そして敵が通過。

グロースターがビルを越えた瞬間、道路が吹き飛んだ。地表に爆薬を仕込んでおいたのだろう。

そして、ビルでも爆発が起きていた。目の前の道路、つまり敵のいる場所に向かって倒壊させたのだ。

 

「なっ!!!」

スザクも、この状況は焦った。さすがのランスロットも巨大なビルに押しつぶされてはひとたまりもないだろう。逃げるにしても地面が陥没して、足が取られる。

「くっ!おおお!!!」

だが、スザクはその状況からでも脱出した。途中から倒壊するビルの側面を走るという荒業で、間一髪の脱出を果たしたのだ。

だが滑り込むような態勢で、当然戦闘態勢は取れてない。次の反応が遅れた。

「もらったぁっ!!!」

グラスゴーの一撃が、ランスロットのコクピットに直撃する。コクピットが大きく揺さぶられた。

普通なら強制脱出になってもおかしくないが、ランスロットにはそれがない。だがこの場面はそれが幸いし、反撃で振るったMVSがグラスゴーを貫く。

グラスゴーの強制脱出装置が発動、それを見てスザクはほっとした。無我夢中で振るった剣だったが、相手を殺さずに済んだことに。

 

だがそれは戦闘中に思うべきものではなかった。その瞬間、塵煙を切り裂いてグロースターが現れたのだ。倒壊するビルの上面を走るという、グロースターでは神業というべき機動だった。

『お返しだ』

グロースターの斬撃をかわす。だがそこからノータイムで派生してきた突きまでは回避できなかった。先ほどスザクが貫いたのと同じ左腕に、MVSが貫通する。

「ぐあっ!!」

そのまま壁にまで押し付けられた。激突の衝撃でコクピットが大きく揺さぶられ、縫い付けられた状態になる。腰のハーケンがグロースターを抉るが、振り放せない。

『……ここまでか。まあ、上出来だ』

「!!!」

ハッとスザクも気付く。もう動けないグロースター。組み合ったこの状況。取るべき手は、一つしかない。

(まずい!!!)

グロースターの脱出装置が作動。普通なら安全圏まで飛び去るのを待ってからだろうが、相手はそれをしなかった。

ドォン!

すさまじい閃光と爆風がランスロットを包み込む。グロースターが自爆したのだ。

 

(あ、危なかった…)

左腕とハーケンのパージがあと半瞬遅かったら爆発の中心点にいたであろう。だが直撃を回避したとはいえランスロットのモニターは警告の表示で真っ赤に染まる。

『……スザク君、帰還してくれる?』

セシルの声は静かだった。怒りを押し隠しているのか、グロースターにここまでやられたことに愕然としているのかはわからない。疑問形なのは、とにかく動揺しているのだろう。

『僕のランスロット……。僕のランスロット……』

その背後からは、うわ言のようにつぶやくロイドの声が聞こえた。

 

何にせよ、戦闘はもう無理だった。ランスロットは整備が必要だし、レーダーには敵の反応がない。残りには逃げ切られたのだろう。

「戦うのを止めれば、虐殺が再開されるだけ……」

敵の声がスザクの脳裏にこだまする。これで自分の世界が変わったのかは、まだわからずにいた。

 

 

ドォン、ガン、ガン、とものすごい音を立てて、ナイトメアフレームのコクピットがとても無事とは言えない状況で着地した。

本来ならエアバッグが開くのだが、ほとんどが焼き切れた断片だけになっている。それが自爆の際の爆風のためとなどカレンにわかるはずもなかったが、これがグロースターの物であるのはわかった。

戦っていたのは、自分と彼以外にいない。

「え、あ…、た、助けなくちゃ」

偶然、脱出した方向が同じになったのだ。よって同じあたりに着地することになった。カレンの方はちゃんとエアバッグが展開されたため傷一つないが、彼の方はいろいろ叩きつけられただろう。

「ふぬ…、くあ…」

女の子が出す声ではなかったが、カレンは歪んだコクピットのドアを必死でこじ開ける。

 

ついに開いた。

「え?」

グロースターを操っていたのはカレンの想像とは大きく違う、銀色の髪をした少年だった。

 


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