コードギアス~護国の剣・天叢雲~   作:蘭陵

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Stage 52 租界攻防戦・終結

―夢を、見ていた。

 

―少年は、母と妹を護りたかった。

―力を与えてくれる少年がいた。契約を結んだ。

―親友と共に戦った。戦いの果てに全てを手に入れた。

 

―だが、最後には、その全てが手から零れ落ちた。

 

「…………あ…れ?」

目を覚ます。アッシュフォード学園の、自分の部屋だ。妙に現実感がありながら、どこか違和感のある夢だった。

騎乗し、剣槍を持って敵と対する。冷静に考えればこの時代にそんな情景などあるはずない。しかしその光景は現実感にあふれる物だった。

では何が違和感の正体か、と問われると、それがわからない。

「よかった、よかった、よかったよ…!」

いきなり、体に重さを感じた。視界は赤い髪で塞がれる。何か、と考えるまでもない。

「…ごめん、心配かけた」

やはり、自分のギアスはぎりぎりのところにある。今回は幸いなことに一段落するまでもってくれたが、途中で倒れていたら大変なことになっていた。

可能な限り使用は控えるべきだろう。何より、彼女を悲しませることはするべきではない。

 

「大胆ねぇ、カレン」

そんな二人の世界に水を差したのはミレイである。心配だったのはわかるが、人目もはばからず抱き着かれると苦笑いの一つも浮かべたくなる。

その声にカレンは慌てて身を起こし、真っ赤になって身を小さくする。

「えー、戦況の方は…」

ライとしても気恥ずかしかったのだろう。取ってつけたように、話を転換する。

 

「安心してください。総督から増援もいただきましたし、学園に被害はありませんでした。全体としては、もう掃討戦に入っています」

答えたのはユフィである。戦局図を見て、もはや形勢が覆らない事くらい素人でもわかる。ただ、ブリタニア軍も大損害を被った。戦術的には痛み分け、というところだろう。

 

「そんなことより、君、『ガウェイン』知らない?」

いきなり割り込んできたのは白衣に眼鏡の男である。隣にいた女性士官が慌てて頭を抑えて無理矢理下げさせた後、説明を加える。

「特別派遣嚮導技術部副主任のセシル・クルーミー中尉です。……こちらは主任のロイド・アスプルンド少佐です」

ぎろりとロイドを睨んだ眼光は上司に対するものではない。とりあえず黙ってろ、ということだろう。

 

「お分かりだと思いますが、スザクの上司となる二人です。あの『ウラノス』の開発者でもあるんですよ」

ユフィのフォローにこほんと一つ咳払いをして、セシルが続ける。実は、特派で所有している機体が一つ足らないらしい。

「最終調整のため今日届く予定だったのですが、この混乱の中行方不明で…」

輸送の予定が遅れていれば、崩落に巻き込まれた可能性もある。そしてその機体の名前が『ガウェイン』だった。

 

始動キー確認。暗証コードはコピーした特派の機密データ内から見つかった。それを入力して機動シーケンスをクリア。つまり、この機体は動かせる。

異様に大型な機体だった。サザーランドや無頼、ランスロットの全高は4.5mほどだが、この機体は明らかに6m以上ある。

そして機体の色は黒。ランスロットと対となるよう、その色が選ばれたのだろう。

「行け、『ガウェイン』」

 

「何だ?」

付近で爆発音。朧月夜の攻撃をかわし間合いを取ったところでそちらを流し見る。爆発自体は小規模で、戦闘に影響はなさそうだが…。

「何!?……ぐあっ!」

いきなり、赤黒い光線がランスロットを襲った。シールドで防ごうとしたが、防ぎきれない。体勢を崩したところに、朧月夜の発砲。

朧月夜の兵装、陽電子砲。避けきれず、右足首から下が吹き飛んだ。フロートユニットがあるので動けないことはないが、ランドスピナーと組み合わせた複雑な三次元駆動はもう無理だ。

 

「相手も、フロートユニット搭載型か……」

攻撃が来たのは、上空からだった。その方向に見えたのは、夕闇に溶け込むような黒色の機体。

これで、ランスロットが持っていた優位は一切無くなった。何より、敵は二体。片方を相手にしているうちに背後から狙われる。

その上試験場からの移動とこれまでの戦闘で、エナジーフィラーの残量は危険域に差し掛かっていた。

友軍は、といえばサザーランド部隊はようやく迂回路を探し出したところで、とても間に合わない。頼りになるラヴェインとベディヴィエールは、どちらももう戦闘できる状態ではなかった。

 

「この勝負、預けたぞ、ゼロ!」

引くしかない。そう決めたスザクは、全速力で飛び去った。ゼロの首にあと一歩まで迫ったのに取り逃がしたという無念はある。だが、ここで戦い続けるのは無謀だった。

(俺は、ユフィと共に歩むと決めたんだ)

だから、死ぬわけにはいかない。その思いが、冷静な判断を自然に下せるようにしていた。

 

「………」

スザクを退けた。この窮地を生き残った。それは喜ぶべきことなのだが、去り行く友の背中を見送る心の中は虚しかった。

(あいつと俺が手を取り合うことは、もうないのか)

歴然とした事実として、突き付けられた。ゼロの仮面を捨てない限り、ユフィの騎士であろうとする彼が握り返してくれる手はないだろう。

 

『……やれやれ、酷い目にあった。おい、まだ呆けている暇はないぞ』

そんなルルーシュを正気に戻したのはC.C.からの通信だった。もう、後戻りはできないと覚悟したはずではなかったのか。

(ゼロの仮面を捨てることは、これまでの人生を否定することだ)

ガウェインで窮地に陥っていた部隊を救い、撤収。これ以上ナイトメアを失えないコーネリアも追撃を切り上げたため、戦闘は一挙に終結に向かった。

瓦礫の山となったトウキョウ租界は、一時、静寂の闇に包まれた。

 

 

「…………ユフィ」

「…………はい」

これは相当怒っている。さすがに今回は総督命令を無視して勝手な行動をし過ぎたと、しゅんとしたユフィである。

「結果的に良かったから、ではすまぬこともある。お前はそれを理解することだ」

苦言はこれだけだった。言った本人も甘すぎるとは思うが、どうにも言葉が続かない。

 

無論、叱るだけで政庁まで呼び出したわけではない。とにかく考えねばならないことは、被災者の保護と復興についてである。

「私財を全て投げ打ってでも、やりましょう」

まずそう言った妹に、コーネリアも唖然とした。だが政略的には非常に有効だ。もちろん足りるはずもないが、覚悟のほどは示せる。上が覚悟を示せば、下も続かざるを得ない。

 

とりあえず、被災者を受け入れる避難所が必要だ。国公立の施設を解放し、アッシュフォード学園など民間にも打診して場所の確保は何とかなった。

次は救援物資を運び込む手配だ。仮だろうが食と住が確保されれば、人間生きていける。逆にこれが確保されないとなれば、誰もが犯罪、略奪に奔るだろう。

 

当然、同時に救助作業もやらねばならないし、二度とこんなことが起きないようにセキュリティのシステムを見直す必要もあった。

(結局、動機はわからず仕舞いだったが…)

パージの実行者は同僚を殺害後、自害していた。何故彼がゼロの誘惑に乗ったのかは、遺族にも全く思い当たる節がないという。

ちなみに遺族は、このままトウキョウ租界に留まれば常に後ろ指を指され生きていくことになるだろうから、この後誰にも行先を告げずに逃げ去った。

ただ、おそらくそこでも、身を小さくして怯えながら生きていくしかないであろう。

 

さらに並行して、軍を再整備し房総に攻め込む準備も整えねばならない。ブリタニアも苦しいが、それ以上にゼロは苦しいはずだ。

「セラフィーナはサクラを守りきったか。その点は、幸いだったな」

サクラが健在なら、房総への橋頭保とできる。サクラを襲った敵は、ゼロの敗北を聞いてそそくさと逃げ出したところを追撃され、粉砕された。司令官は逃したものの、無効化されたと言っていい。

 

今回の決め手となった特派の三機は、どれも修理が必要とのことだった。ランスロットはすぐ戦線復帰できるだろうが、一機だけでは速戦即決は博打となる。ガウェインを奪われたのが、いかにも痛い。

残る一機があるといえばあるのだが、乗り手が問題だった。

「……また、あいつか」

さすがに軍人ですらない奴を使ったのでは、軍全体の面目丸つぶれである。ただロイドたちはデータを見て欣喜したらしい。ウラノスに最適なデヴァイサーたる素質が見れるという。

 

そして最大の問題で、最もわからないのがベディヴィエールを中破させた謎の機体である。特徴からして、かつて河口湖でランスロットを圧倒したアンノウンと同じであろう。

報告だけは上がっていたが、コーネリアも半信半疑で、しかも対策がどうしようもないので打つ手なしで放っておくしかなかった。

研究者も、頭をひねるばかりである。推定されたスペックは、理論上の数字をはるかに超えていた。

しかし、今回『蒼』の乗機を倒したら現れた(どうやって現れたのかも謎だが)以上、『蒼』と何らかの関係があると見ていい。

だが、そんな対策の取りようもない化け物のような機体を持っているのなら、何故それを前面に押し出してこないのか、という疑問がわく。正直言って、トウキョウ租界などたちまち陥落するだろう。

もっとも、いくら考えたところで「何らかの事情があって出せないのではないか」という希望的推測で話を打ち切るしかないのだが…。

 

「記者会見の準備が整いました」

重い体を無理矢理奮い立たせて、場に向かう。さすがのコーネリアも疲労困憊していた。だがエリア11総督府が健在であることをしっかりアピールしておく必要があった。

記者の中には、ディートハルトもいた。ぬかりなく、クロヴィス時代からのコネで高官たちに接触している。誰も、彼を騎士団の関係者とは思っていなかった。

 

「我らは勝利した。今度の戦いは、ブリタニア軍の大勝である」

高らかに謳うコーネリアだが、内心では薄氷の上の勝利であったと思っている。誰であろうと、士気高揚のためにはそのくらいのリップサービスは行うものだ。

被災者には援助を、死者には補償を、どさくさ紛れに法を犯す者には厳罰を、と続けていくうち、コーネリアの元に一つの報告が入る。

それを聞いたコーネリアは眉をしかめ、早々に会見を打ち切った。

 

キュウシュウに、中華連邦軍が来襲したという。

 




トウキョウ租界攻防戦、終結。ここからキュウシュウ戦役に繋がります。
……が、ブリタニアも大損害を被ったので原作そのままなどということはありません。

なお原作では一期最終話だったせいもあり全く描写がなかったんですけど、
「租界をあれだけ大々的に崩したら被災者が出ないわけないだろ」
ということで後半はこんな感じになってます。

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