ランスロットの回し蹴りが頭部にクリーンヒットし、瓦礫に叩きつけられた無頼改は機能を停止。黒の騎士団は中核を撃破したら、後は逃げ散った。
スザクは脱出できないように撃破した。シートが飛ぶ射線は、ビルの瓦礫で塞がっている。
「……これより、ゼロの身柄を確保します」
ゼロは殺さず、必ず捕らえるように。ユフィからの絶対命令である。スザクにも異論はない。ゼロは正当に裁かれるべきであって、裁くのは自分ではない。
「その裁きが『不当』であれば、僕とユフィはそれを変えるべく行動する」
スザクが変わったのはその点だ。皆が納得する方法で、という点は変わってないが、今のルールを絶対視することが正しいとは限らない、と気付いたのだ。
シンジュク事変で、何が正しかったのか。結論を言ってしまえば、テロリストもブリタニアも正しくない。テロ行為は批難されるべきだが、ブリタニア側の虐殺とて非道と言われるべきだろう。
それに気付いたスザクは、この時ふと思ってしまった。
(…『蒼』なら、もしかすると話が通じるかもしれない)
今、ユフィが新たに煮詰めている計画がある。それは「正しい」と胸を張って言える。であれば、彼も賛同してくれるのではないか。
ゼロはここで終わりだ。その上『蒼』が組織を解散してくれれば、この戦争は終わる。少なくとも規模は格段に小さくなるだろう。
あとは、自分とユフィの仕事である。そこで終わりにならないよう、その苗木をしっかり根付かせるのだ。
「!!!!!?」
夢想から覚めるのがあと一瞬遅ければ、ランスロットは撃ち抜かれていた。攻撃が来たのは上からだった。敵もフロートユニットを持っているのかと空を見上げたスザクは、敵の姿を捕らえた。
「狙撃機か…?」
望遠カメラに写し出されたのは、ナイトメアの空中輸送機。そこに、大型ライフルを構えた見慣れないナイトメアが乗っている。紅蓮や月下に近いが、明らかに違う。
ここにラクシャータがいれば、その機体を見て「朧月夜!!!」と叫んだことであろう。
『おい起きろ!ルルーシュ!!!』
がなり立てるような声に、気を失っていたルルーシュが目を覚ます。誰かは確認するまでもない。
「C.C.…、お前…、どうして…」
ここまで、C.C.とは別行動だった。ゼロの代人として派遣せねばならない用があったのだ。そして、彼女が戻ってくる予定はなかった。
『こっちの方は上手く行った。…そこで急いで戻ってきてみれば、何だこの様は』
飛び上がったランスロットがヴァリスの狙いを付けようとして、一瞬静止。その瞬間にC.C.は輸送機から機体を切り離し、降下開始と同時にライフルを発射。
当然スザクはそれを回避するが、降下中に狙われるのを防ぐための牽制である。ヴァリスのロックから外れた機体は、無事地面に降り立った。
『言っておくが時間稼ぎ以上は期待するなよ。私であいつに勝てるわけないのだからな』
胸を張って言う事か、とツッコみたくなるが、着地したC.C.はルルーシュを庇うようにランスロットと向かい合った。
「…ゼロを庇う気か?そいつは人の憎悪を煽り、災いを起こすだけの存在だ。日本のためにならない」
『日本か、思うところがないわけではないが…。まあ、私が邪魔するのはとても個人的な問題によるものさ。こいつに死なれると少々困る。それだけのことだ』
敵は日本刀を抜く。それに対し、スザクもMVSを構える。数秒の対峙の後、先に仕掛けたのはスザクだった。
C.C.は、それを冷静に受け流す。スザクの悪い癖で、最初の攻撃は正面かつフェイントをかけない。どんな鋭い太刀筋も、予想できれば受け様はある。
ルルーシュはスザクの行動パターンを解析していた。それによると、次に彼は間合いを取ろうとするはずだが…。
[三歩分、下がりなさい]
その声に、前に出ようとしたC.C.は慌てて機体を後退させる。二歩分下がったところに薙ぎ払いが来た。
(避け…きれん!)
大型ライフルを盾代わりにして捨てることで、腕は無事だった。下がらなければ、胴体から両断されていたところだ。
「……何のつもりだ?言っておくが、恩を売ってコードを譲渡させようというのなら無駄なことだぞ」
頭に直接話しかけてきた声に、C.C.も相手がそこにいるかのように会話を成立させていた。彼女にとっては特別なことではないのだろう。
ただ、相手の意図が全く見えないという点で、彼女も驚いていたのである。
[別にそんな事言うつもりはないわよ。最近彼が望んでないみたいだから…]
「……何だと?」
それも予想の外にある答えだった。あれだけしつこく迫っていたのが最近ぱたりと止んでいたのでおかしいとは思っていたのだが、「望んでない」とは…。
「諦めたのか?あいつの悲願だったはずだが…?」
[悲願なのはもう一人の方であって、彼じゃないわ。もう少しこの世界の行く末を見てみたいというところかしらね]
つまり、サボタージュ中ということなのだろう。では何故C.C.に味方してくれたのかというと、その理由は彼女の予想範囲の斜め上を突き抜けていた。
[簡単に言っちゃうと、嫁に対する姑からのアドバイスってところ]
「ななななな何を言っているマリアンヌ!?何故私がお前と嫁姑の関係に…」
真っ赤になって慌てふためく。どうやら、ここが戦場であるという事も忘れているらしい。[あ、来るわよ]という念話に慌てて構え直し、斬撃を受け流した。
[なら、何でルルーシュから離れてあの人の下に奔らないのかしら?シャルルと二人でずっと不思議に思ってたんだから]
「う、うるさい!……そもそも、……第一、わ、私があいつと一緒に居るのはあくまで私の目的を果たすためであって…」
[ふーん、まあ、この話は追々にしておこうかしら。あ、次はね…]
(C.C.の奴、あんなに強かったのか?)
スザクと互角に戦っている。時折反応が遅れて回避しきれない時があるが、今だ致命傷は一発も受けてない。足止めどころか、勝てるかもしれない勢いだ。
とは言っても、このままC.C.にすべてを任せて逃げることはできない。彼女を犠牲にして自分が生き延びたら、自分自身を許せなくなる。
「くそっ、何かないのか!」
思い起こすのは、母が殺された時の記憶。あの時と同じく、また世界は「お前は無力だ」と突きつけるのか。
とはいえ、乗っていた無頼改はもう動かない。他の親衛隊員が乗っていた機体も撃破されたか、残っている機体にはコクピットのシートがない。
(……トレーラー?)
ふと、目についたのはブリタニア軍で使われているトレーラーだった。運転席には誰もいないが、それより積み荷を物色しようとコンテナに入る。サザーランドでも乗っていれば儲け物だ。
「これは…?」
積み荷はサザーランドではなかった。が、これこそ今望むものだ。どうやら運命は、まだ彼を見放していなかったらしい。
(なんなんだ、こいつ…)
『蒼』ではない。通信に対して「今日は代理なの」と少女の声が返って来た時点でそれは確実だった。技量は『蒼』に比較して明らかに劣る。油断できる相手ではないが、ぎりぎりの勝負となるほどではない。
ロンゴミニアトと輻射波動がぶつかり、二つのエネルギーがスパークする。片方の槍を失ったが、相手は左腕消失。最強の武器である輻射波動を打ち破った。
明らかに優勢。なのにノネットは、どこか余裕のある相手に脅威を感じていた。
槍は一本になった。敵は右手のみの、刀一本。敵にとってロンゴミニアトは厄介な武器だ。全体がブレイズルミナスに覆われるため武器で受け流すことは難しく、回避するしかない。
突きからの、横薙ぎ。振った勢いを利用して回し蹴り。全てかわされた。反撃の回転切りを、シールドを展開して防御。
「速さが、…増した?」
相手の操縦技術からして、当たるはずの攻撃だった。それが全て避けられた。先ほどまでの動きから、一段ギアを上げた、という感じだった。
(こいつ、むしろ『蒼』より怖い相手かもしれんぞ…)
ただ『強い』のであれば、相手の力量に感嘆し自分の未熟を恥じるだけだっただろう。強さの底が見えないのが、不気味なのである。
戦闘開始から、五分を超えた。時間稼ぎとしては充分で、天叢雲は損害軽微で逃げ切った。ルーミリアは機体を撃破されたとはいえ、本人は健在なので問題ない。
(じゃあ、そろそろ撤退しようかな)
間合いを取ったところで、切り上げることを考える。当初の予定より少し力を出さないといけなかったのは、さすがラウンズと言ったところか。
だがその程度、許容しても問題はないだろう。しかし、次の瞬間、ネージュも想定していない事態が起きた。
『死にさらせブリキ野郎!!!!!!』
いきなり、廃墟となったビルの上からの銃撃。識別信号を切ってひそかに近づいた機体がいたのだ。そのくせ攻撃の前に外部スピーカー駄々漏れで叫んでしまっては、奇襲の効果も薄くなるのだが…。
「玉城!!?」
何故、彼がここにいるのか。自分を残して撤退することに罪悪感を覚えないよう、天叢雲の団員には「そうするべきだ」と思う程度に弱くギアスを展開したのだ。
ルーミリアならともかく玉城がそれを破ってきたというのも驚きだが、はっきり言ってこの行動は迷惑でしかない。
『邪魔、するな!!!』
ノネットはその奇襲に動じることなく銃弾を避け、ハーケンを発射。狙いは玉城の乗る無頼ではなく、その足場となっているビルの柱。
「お、おお!?」
柱が崩れたことにより、ビルの一角が欠け落ちた。無論、その上にいた玉城も一緒に落ちる。受け身を取れず地面に叩きつけられた無頼に、ベディヴィエールは突進する。
(死んだ)
レジスタンスとして幾度も窮地に陥りながら、しぶとく生き延びてきた。その玉城も今回ばかりは覚悟した。
無頼は駆動系のどこかが故障したのか、動かない。敵のランスを避ける術はなく、機体ごと自分の体を引き裂くだろう。
目をつぶった玉城の前に、青い機体が割り込んできた。
「………」
ロンゴミニアトは、月下の胴を貫いた。機体は爆発。当然、搭乗者は助からない。武人として、何とも後味の悪い幕切れとなった。
それでも機体を後退させていたのは、直感が危機を察していたからだろうか。
「なっ!!!!!」
爆炎の中から、竜のような機体が現れた。その異形の機体が振るう拳を、ベディヴィエールは両手で防御…したつもりだった。
その拳はブレイズルミナスを紙のように突き破り、一撃でベディヴィエールの両腕を粉砕した。右腕は肩関節が外れて吹き飛び、左腕は肘の先が千切れて無くなっている。
機体自体もその衝撃でスピンし、あちこちにぶつかりながら地面をのた打ち回る。
かろうじてベディヴィエールを起き上がらせたノネットだったが、彼女が見たのは機能を停止した無頼だけだった。
ここまで出番のなかったC.C.さんが専用機『朧月夜』を引っ提げて登場。名前をどこから取ったかは日本文学の知識があればわかることでしょう。
ちなみに操縦技能としてはスザクを100とした場合C.C.は80強というところ。普通なら負けます。