コードギアス~護国の剣・天叢雲~   作:蘭陵

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Stage 50 撤退戦

味方部隊と協力してヴィレッタらの部隊を何とか退けたものの、押し寄せる波のように次々と新手が来る。ジェレミア率いる親衛隊は必死に奮戦するも、一機また一機と数を減らしていく。

このままでは、租界を出る前に全滅は必至である。しかしその追撃のブリタニア軍が大きく乱れ、後退していく。

「ゼロ!!!」

「堀江か、助かったぞ」

学園奪還に割いた部隊が横合いから攻めかかったのだ。敵が挟撃を避けて一時引いたため、一息つくことができた。

一時しのぎであっても、それで充分だった。全速で逃げる。崩落した租界の中で、谷のようにそこだけ通れるようになっている地形がある。そこさえ越えればいい。

 

騎士団の部隊が越えると同時に、爆発が起きる。追ってきたブリタニア軍は、頭上から降るコンクリートの大塊を見て慌てて退避した。仕掛けておいた爆薬でビルを爆破したのだ。

「ゼロめ、こんな小細工まで…」

大魚を逃した、とヴィレッタは歯噛みする。塞がれた道を越えるか迂回するかするしかないが、それで追いつけるかどうか。

その上空を、一機のナイトメアが越えて行った。ナイトメアが空を飛ぶ光景は、ブリタニアの兵士たちも初めて見るものだ。

皆言葉無く、半ば陶然としてその姿を見送った。

 

「敵一機、急速接近中!」

反応が一つ、地図上の道を無視して猛スピードで突っ込んでくる。望遠カメラに写し出された機体は、翼を持った白い騎士。まがうことなくランスロットだ。

(スザクか!)

単騎といっても、ランスロット相手では分が悪い。飛べる相手では足止めもできない。まさしく、進退窮まった。

「ゼロ、ここまでだ。大人しく降伏するよう勧告する。……しないならば、君には一度助けてもらった恩はあるが、容赦はできない」

皇女ユーフェミアの騎士として、君たちを討つ。そう宣言するスザクの声には、確固とした信念があった。

 

「枢木スザク、何故君はブリタニアのために戦う!?我らは日本のために戦っている。枢木ゲンブ首相の遺志を継ぎ、日本の国土と誇りを取り戻す。それが我々の目的だ!」

租界陥落を合図に、交誼のあるレジスタンスを総動員して全国的な蜂起を起こす。『日本』が取り戻されていく様子を見れば、スザクも考えを変えるかもしれない。

そう考えていたためこの状況で説得を行おうというのは情けない限りだが、しかしこの状況を乗り切るにはスザクを仲間に引き込むしかない。

 

「それが正しい道だと思ったからだ。日本は戦争に負けた。それを認め、その上でどうするべきか考えるべきだ」

それを認められないからテロリズムに奔る。スザクに言わせれば、彼らも日本の復興を阻害する一因である。日本が抵抗を諦めないから、ブリタニアも寛容になれない。

「違う!日本は負けたのではない。戦う機会を奪われたのだ。枢木首相を殺した一人の男の手によって、降伏せざるを得ない状況に追い込まれたのだ。だから、君の考えは根本のところで間違っている」

それは人々の望んだものではない。負けたと認めるのではなく、あの時日本人が選べなかった道を提示する。それこそが君の進むべき道であろう。

その言葉を聞いて、スザクは反論せず黙り込んだ。スザクのトラウマを抉ることになるがこれしかない、とさらに言いつのろうとしたルルーシュであったが、次のスザクの言葉で逆に血が凍った。

 

「君はどうやら、その人物が誰なのか知っているようだね。……何故僕だと言わない?」

「!!!」

「父は、徹底抗戦を主張する軍部を諌めるため自決したとされている。が、それは嘘だ。実際は、徹底抗戦を主張する父を僕が刺した」

「………」

今度は、ルルーシュの方が何も言えなかった。まさかスザクが自分から真実を宣言するとは、全く予想していなかったのだ。

 

「あの時、僕はそうすれば戦争は終わると思った。…浅はかな子供の考えだったよ。だから、今度こそ誰もが納得する方法でこの戦争を終わらせる」

それは、自分のエゴイズムにすぎないと言えばそうなのだろう。それを認めるようになったことが、スザクの成長である。

「それについて、君たちが僕をどう断罪しようとかまわない。今この状況の責任が僕にあることも認める。だが僕は、君たちに許しは請わない」

誰かに許してもらおうと戦うことは、やめた。自分自身で何が正しいか考え、その上で進むべき道を決める。その結論が、ユフィの騎士として、彼女の理想のために戦う事である。

それで、自分が自分自身を許せる日が来るのかはわからない。だが今までのように何かに怯え自分の殻に閉じこもっていた時と比べ、世界の見方が変わったのは確かだ。

 

「今、この世界の情勢を動かしているのはブリタニアであることは動かない事実だ。だから、ブリタニアを変えれば、世界も変わる。俺は、ユフィと共にその道を行く!」

戦争のない世界。それを目指すのはスザクも同じである。ただ、ルルーシュと違う点は、彼には最終的なヴィジョンがなかったところだ。

それも、ユフィやライとの関係により、おぼろげながら見えてきた。ユフィが日本でやったようなことを、世界レベルで行えばどうなるか。その先にこそ、自分が望んだ『優しい世界』があるのではないか。

「違う!お前の居場所は、そこじゃなく―」

「俺の居場所は、俺が決める!お前に決めてもらおうとは思わない!!!」

 

 

ゼロの親衛隊がランスロットに襲撃され窮地に陥った―。そう聞いても、藤堂に助けに行く余力はなかった。解放戦線の部隊を逃がすことも危ういのだ。

(間に合うか―!)

残兵を纏め、ようやく租界の端が見えてきた。あとは川さえ越えればいいのだが、当然ながらブリタニア軍は退路を断つため橋を封鎖、もしくは爆破するだろう。

後方から追ってくる部隊に加え、迂回して先回りしようとする部隊がある。後方の敵に応戦していると、間に合うかわからない。

 

「藤堂さん、今のうちに、早く!!!」

朝比奈も同じ結論に達したらしい。藤堂が止める間もなく、自分の部隊だけ反転させて敵に突っ込んだ。藤堂だけでも逃がそうということだ。

「朝比奈、馬鹿な真似は止せ!」

仙波と千葉は生死不明。この上朝比奈まで失ったら、自分は両手両足をもがれたに等しい。だがここで自分まで反転しては、それこそ最悪の決断だ。

朝比奈の思いを無駄にしないのであれば、涙をこらえ、胸の痛みを抑えこみ進まねばならない。

 

その朝比奈の向かった部隊に、後ろから回り込むようにして襲いかかった部隊がある。識別信号を切って潜んでいたのか、いきなり現れた。

「朝比奈、大丈夫か!」

「卜部!!!」

予想外の味方から通信が入り、モニターに映し出された顔を見て朝比奈が叫ぶ。同時に、先回りしようとした部隊も伏兵にあって後退している。

 

(『蒼』か!)

助かった、と安堵の息をつく。これで無事租界から脱出できる。ゲットーに入りさえすれば、地の利はこちらのものだ。逃走ルートはいくつもある。

藤堂隊の残機は八、朝比奈隊は六で、たったの十四機。これから逃れてくる者もいるだろうが、解放戦線全体で何機残るだろうかと思うと暗澹とする。壊滅と言っていい。

橋を確保できたのが、せめてもの幸いだろう。逃げてくる味方を効率よく逃がせる。

「卜部、お前は…」

「受けた指示は、『藤堂中佐を救え』。ですから、久しぶりに中佐の下に入らせてもらいます」

その返答を受け、藤堂はふっと笑った。卜部を派遣したのは、『蒼』の気遣いだろう。

月下のエナジーフィラーは危険域が迫っていた。それを交換し、銃弾も補給を受ける。もう少しだけ、ここで踏みとどまるう。藤堂はそう考えた。

 

 

「『蒼』が現れた?」

この報告に、真偽を確かめることもせずラヴェインを向かわせた。マリーカにしてみれば、何でこんな敗色濃厚になってから現れたのかなどどうでもいい。

(兄さんの仇、今こそ―!)

ラヴェインなら、それができる。初陣にも関わらず、マリーカは撃墜数を積み重ねていった。ラヴェインの力でしかないと言われると頷くしかないのだが、目的を果たす上では関係ないことである。

 

「おい、マリーカ!」

ノネットの静止を振り切り突き進んだマリーカは、ほどなく青い月下を発見した。

(あのコクピットに、この槍を叩きこんで―)

兄にしたことをそっくり返してやる。その思いで凝り固まっていた彼女は、脇目も振らず一直線に突進する。血気に逸った彼女が、背後の備えを怠ったのは当然だった。

「覚悟!!!」

後一歩、というところで、彼女のコクピットの方が大きく揺すぶられた。何が起きたかわからないまま、体勢を立て直せず墜落。爆発は免れたが、思い切り地面に叩きつけられた。

 

「一機撃墜、ですね」

何を思ったのか知らないが、あんな一直線に突っ込んだのでは狙ってくれと言っているようなものである。ルーミリアにしてみれば、逆に何かの罠かと思ったほどだ。

とにかく厄介な飛行能力を持つ三機の内、一機はもう飛べないだろう。ルーミリアの弾丸は、ラヴェインの右フロートユニットを吹き飛ばした。

マリーカは叩きつけられた際に気絶したのか、ラヴェインに動く気配はない。

「ネージュさん、できれば鹵獲を―」

飛行システムはラクシャータでさえも実用段階に達していない技術である。解析し量産すれば、大きな武器となることは間違いない。

そう考えたルーミリアはライの月下に乗るネージュに指示を出すが、その瞬間、警告音が鳴り響いた。

 

『お前か。ナリタでの借り、返させてもらうぞ』

くり出されるランスより先に、脱出機構が作動する。間一髪の差で、ロンゴミニアトは乗り手のいなくなった機体を薄紙のように貫いた。

『……思い切りのいい奴だ。だが、嫌いではないな』

ほんのわずかでも戦おうとして脱出が遅れていたら、ルーミリアの体はミンチとなっていただろう。警告音と同時に躊躇なく機体を捨てた果断が、彼女を救った。

 

「全部隊に伝達、撤収です。可能な限り地下ルートを通るよう。卜部さんも藤堂中佐に、無理をしないように、と」

藤堂と朝比奈は救えた。ルーミリアにしてみれば、これで目的は果たした。無理をして天叢雲まで壊滅させるなど愚の骨頂である。ましてやゼロを救う気など毛頭ない。

(私たちの地ならしを頑張ってくれたことだけは、感謝しますが)

ナイトメアの飛行技術に対し、現状日本側は成す術がない。それを知らしめただけでも、ゼロの租界侵攻は意義があった。天叢雲が先行していたら、壊滅していたのはこっちだったところだ。

そして、今回もまたブリタニア軍の損害は大きい。結果からみると、自分を犠牲にしてせっせとこちらに有利になるよう励んでくれただけである。

皮肉と冷酷さの入り混じったルーミリアの笑みを、ゼロが知ることはない。

 

 

「みんな、早く下がって。あいつは、私が止めるから」

ベディヴィエールを見上げ、ネージュが言う。相手はナイトオブラウンズのノネットか、と思うと、少々複雑な思いにとらわれる。

(ユーインの子孫が、彼に牙をむくってね)

たった一人、『王』がギアスのことまで打ち明けた存在。それがユーイン・エニアグラムだった。その子孫とライが戦うというのは、期待するほうが間違いなのだが残念だったという思いを消しきれない。

だが、ナリタに続いて今回もライとノネットが直接向かい合わずに済んだ。それは、先祖の遺志によるものかもしれない。

 

『今回は赤い奴が見えないな。…あっちにも借りを返したいと思っていたのだが』

ベディヴィエールが降り立つ。周囲の味方が、一人残らず見えなくなった。これでやりたいようにできる。

(さて、と。ここはどのくらいにするのがいいかな)

ライの月下を借りてきたが、それでも機体性能は向こうが上。だがネージュにしてみれば、勝つ手段はいくらでもある。

ヤルダバオトを召喚するまでもなく『未来視』のギアスで充分だろうし、マリアンヌの操縦技術を『模写』してもいい。

それをやらないのは、無条件でライに勝たせてしまったらつまらないと言うだけだ。ネージュの目的はライを勝たせることではなく、ましてやブリタニアの破壊などでもない。

「遊んであげる。せいぜい、私を楽しませてみてね」

 




「さすがにルルーシュ情けなさ過ぎたか?」と少々思う今回。
だが神根島での逆ギレや「友達を売るのか?」発言からすればまあ…、というところですが。

スザクはある意味開き直りました。「ルールに則って変える」のではなく、「ルールそのものを変える」のだ、と。

そしてルーミリアの指揮はなかなかえげつない…。
ちなみに出そうと思っていたルーミリアの日本産機体はなくなりそうです。

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