コードギアス~護国の剣・天叢雲~   作:蘭陵

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Stage 49 崩壊

「ゼロは何をやってるんだよ!?」

政庁付近、ブリタニア最終防衛ライン。ブリタニア側にとっては、もう一歩たりとも後がない防衛線である。必死の抵抗は予想されたことだが、ここに先鋒として突っ込んだ朝比奈は二度目の突撃を撃退された。

攻める側は、解放戦線を主体とした日本軍の主力。だが指揮を執る藤堂はギルフォードとの一騎打ちで足止めされていた。機体性能の差で藤堂が有利だが、難敵ギルフォード相手では早期の決着は難しい。

指揮を託された朝比奈は千葉と仙波を両翼として攻め込んだが、攻めきれずにいた。

 

「まったく…、どこまでも、しつこい奴だ!」

千葉はナリタで因縁のあるマーガレットに再び出会ったらしい。今度は向こうから一騎打ちを挑まれ、指揮どころではなくなっている。

「こっちだって必死なのよ!あんた達こそ諦めろってのに!!!」

……どういう経緯か、外部スピーカーをONにしたままやり合っている。敵にせよ、誰かと感情むき出しで悪口を言い合う千葉というのは珍しい光景だが、今はそれを楽しんでいる余裕がない。

 

時間が経てば経つほど日本側が不利になる。崩落に巻き込まれたものの、まだ動けるサザーランドも集まり始めていた。

片腕を失った機体もいれば、動くたび火花を散らす機体もいる。それでも戦おうとするのは、彼らもこの一戦が皇国の興廃を賭けたものであることを理解しているからだ。

補給にしても、敵は政庁付近の備蓄を持ってくるだけでいい。エナジー切れ、弾薬切れは見込めない。その心配をするのは、こちらの方だ。

となれば一気に戦力を投入して押し切るしかないのだが、ゼロは何を考えたか大部隊を学園再奪還に割いたのだ。

 

その隙を、朝比奈と対峙しながらもコーネリアは見逃さなかった。『蒼』に対する備えとして残しておいた戦力を、ゼロの部隊に向けて進ませたのだ。

正直、当初はダールトンでさえ躊躇った。『蒼』がここまで姿を見せないのは、サイタマと同じようにコーネリアに手が届く機を窺っているからではないのか。

「『蒼』の攻撃はない!そう思いきれ、ダールトン!」

あったら滅びだ。だがそのリスクさえ覚悟すれば、ここで押し返せる。押し返せば、ゼロには勝てる。

ゼロと『蒼』の関係が『対立』と言うべきものであれば、この侵攻がゼロの独断で『蒼』は関与していないのであれば、コーネリアの決断は英断となる。

「ブラッツ隊、コーニッシュ隊、ヌゥ隊は側面からの敵部隊に突撃せよ!!!」

ダールトンの指示に勇躍した部隊は、敵側面攻撃部隊に突っ込んだ。情報が錯綜してブリタニア側は誰も知らなかったのだが、そこに司令部から出てきたゼロがいたのである。

 

総指揮はゼロが執る。それは了承したが、政庁に正面から攻め込むのは解放戦線の最精鋭である藤堂と四聖剣が指揮する部隊とする。

これまで日本最大の反抗組織であった解放戦線の面子に賭けて譲れない一線として提案したが、ゼロは気を害した風もなく承諾した。そして自分の部隊は側面攻撃に回る、と。

当初、ゼロもいきなり最前線に出るつもりだった。「まず王が動かねば兵は付いてこない」というのが彼の信条らしく、それは見事と言えたが、だからと言って戦闘しながら混成部隊の指揮を執られては安心できない。

 

そこで、ある程度の目途が付くまでは司令部で指揮を執ってもらい、最終局面でゼロも前線に出る。双方でそう妥協することにした。

予定通りであれば、騎士団の一隊にゼロの本隊を併せた部隊が別方向から政庁に迫り、それでブリタニアの最終防衛線も崩れただろう。

ところが現状は手薄な所をブリタニア軍に襲われ、進むこともままならない。学園に割いた戦力があれば、例えばそれに敵を任せ政庁に向かうこともできたはずだ。

朝比奈ならずとも、「何をやってるんだよ」と罵りたくもなる。これなら司令部から出ず大人しくしていてくれた方が、まだましだったのではないか。

 

一方、ブリタニア側の三隊は、自分たちの相手とする部隊がゼロの部隊であることに気付いて色めきたった。後方待機を命じられて軍功は期待できそうもないと思っていたら、最高の獲物が飛び込んできたのだ。

「純血派の諸君、ここが千載一遇の好機だ!何としてでもゼロの首を取れ!!!」

その中で、特に苛烈だったのが純血派の部隊とそれを率いるヴィレッタ・ヌゥである。ジェレミア、キューエルの両巨頭を失った純血派の再浮上を志す彼女にとって、この状況はまさに千載一遇に違いない。

「させん!!!」

しかし、それを遮るのが『オレンジ』率いるゼロの親衛隊である。黒の騎士団の中でも腕利きを集めているだけあって、数では劣りながらも互角以上に戦っている。

 

だが、流れはブリタニア側に大きく傾いた。日本側の一方的攻勢だったものが、形勢互角かややブリタニア優勢となっている。

挽回の機を作るべく、朝比奈が三度目の突撃を敢行する。対するコーネリアも全力を挙げて迎え撃つ。

(あと一歩―)

日本側の、誰もが思う。あと一歩、ここさえ突破すれば、勝利に手が届くのだ。

(あと一手―)

ブリタニア側の、誰もが思う。あと一手、何か決め手となる一撃があれば、日本軍は崩壊する。

 

どちらが早いか、の勝負であった。そして勝敗を決める最後の要因が、トウキョウ租界に姿を現した。

 

 

「これって…」

ラヴェインのモニターに映る光景を見て、マリーカが絶句する。エリア11におけるブリタニアの国威の象徴だったトウキョウ租界は半壊し、そこかしこで銃声と爆音が響く激戦の舞台と化していた。

「ユーフェミア様からの情報によると、いまだ政庁は健在。敵はゼロで、『蒼』の部隊は確認できていないとのこと」

セシルからの通信に、マリーカがわずかに眉を寄せる。努めて平静を装っているが、内心残念だという気持ちが抑えきれなかったのだろう。

「マリーカ、サポートを頼むぞ。私と枢木は、一気に突っ込むからな」

そんなマリーカに、ノネットが声をかける。初陣で『蒼』を討ち取ろうなど、その発想が歴戦のノネットにしてみれば危なっかしくて仕方ない。自分の能力を把握できない者は、戦場で真っ先に死ぬ。

「では、ランスロット、ベディヴィエール、ラヴェインの三機は空中より政庁に向かい、総督を救援。しかる後、黒の騎士団を殲滅せよ」

 

北方より敵機襲来、と聞いて、ルルーシュの思考は完全に崩壊した。学園に続き、またしてもあり得ないことが起きた。

「戦闘機ではありません!ナイトメアが、空を飛んでいます!!!」

ルルーシュにとって、最後の計算外の要素がフロートシステムの存在だった。特派がわざわざ郊外まで出向いた理由は、実験中に万一墜落したときの被害を避けるためだった。

ナイトメアの飛行実験―。空からなら、この急場でも間に合うかもしれない。そのことを思い出したユフィが救援を要請したのだ。

防空システムは効果なく、迎撃に出た航空戦力は全て撃墜された。三つの光点が、すさまじい勢いで迫ってくる。

その三機に痛打され、政庁を攻めていた解放戦線の部隊は大きく傾いだ。

 

ベディヴィエールのランスが無頼を貫く。ランスロットのMVSが無頼改を切り裂く。前を遮る敵以外には目もくれず突き進む二機の後ろから、ラヴェインのガトリング銃が残敵を掃討する。

「マリーカ!!!」

警告音より早く、ノネットの声。襲いかかってきたスタントンファをシールドで受け流し、逆に殴りつける。シールドの先から射出された槍は、無頼を容易く貫いた。

 

LOST、LOST、LOST。政庁に攻め寄せた仙波の部隊のナイトメア反応が、あっという間に消えていく。部下を庇って立ちふさがった仙波の月下は、善戦したもののランスロットに討ち取られた。

仙波は脱出には成功したらしいが、無事かどうかはわからない。

「全軍後退!戦力の再編成を行う!」

これ以上、戦線を維持することは不可能だ。すなわち『敗北』ということを、ルルーシュは認めた。もはや、再度租界に踏み込む戦力はない。

学園でユフィの身柄を抑えられなかった。そのため、学園が奪還された。それを再度奪還しようとして政庁制圧が遅れ、最後に特派の救援が間に合ってしまった。

ウラノスやフロートユニットの存在を知らなかったことは不運であったが、それも彼の戦略を崩壊させる隙となった。

 

「全軍、総力を挙げて敵を追え!!!」

特派の救援は不本意だが、この機を逃すコーネリアではない。政庁付近まで攻め込んでしまったことが、退却の際には仇となる。

(徹底的に撃ち滅ぼす―)

容赦をする理由は、世界のどこを探しても存在しない。同胞を討たれた兵士たちもこの指示を聞き、一人たりとも生かして帰すなと攻め立てる。

「姫様!!!」

「ギルフォード、無事だったか!」

ギルフォードのグロースターは右手を失い、損傷だらけだが健在だった。コーネリアが「勝った」と確信したのは、この時である。

 

生きて何機がたどり着けるか、今度は日本軍が問われる番となった。藤堂は執拗なギルフォードの足止めを振り切り朝比奈と合流したが、だからと言って挽回の余地はない。

(分を越えても、止めるべきだったのか―)

漠然とした不安を感じていた藤堂も、ここまで惨敗になるとは思っていなかった。むしろゼロの作戦がある程度まで成功してしまったことが逆に悲劇をもたらした、と言っていい。

だが、それは結果論だ。今やるべきことは、一人でも生かして退却することである。

 

勢いに乗りすぎて孤立した敵部隊を叩き、あるいは雷光の射程に誘導して撃破する。局地的に押し返すことはできても、全体の流れは変えられない。

何と言っても、特派の三機の存在が大きい。これに狙われたらまず助からない。戦闘力が段違いである以上に、機動力が桁違いだ。

「機体は捨ててもいい。人命を最優先とせよ」

今後、軍の再建が必須となる。その時必要なのは機体ではなく、乗り手の方だ。勝てない相手と戦うくらいなら、まだ瓦礫に紛れて逃げた方が助かる見込みは高い。

 

新藤隊、溝口隊、斎村隊と壊滅が続き、マーガレットに足止めされて退却が遅れた千葉隊がベディヴィエールに襲われ壊滅。彼らがどうなったのか、生死を確かめる術はない。

(生きていてくれよ、千葉)

それは部下に対する思いなのか、と問われれば、藤堂はそうだと答えただろう。朝比奈に言わせれば、「本当に失ってから気付くんじゃ遅すぎるんだけどね」となるらしいが。

 

それはともかく、仙波隊に続き千葉隊も壊滅した以上、敵がゼロ隊および藤堂・朝比奈隊に攻撃を集中させるのは当然の事である。

もはや、指揮系統などあるものではない。そして主力から切り離された各部隊は、それぞれの才覚で生き残る道を探すしかなかった。

「た、隊長…」

「うろたえるな。……とにかく、租界から脱出して房総を目指すことだ。まだ藤堂中佐は健在なのだし、このまま終わるはずない」

この状況で『蒼』ならどうするか、ついそう考えてしまうのが真田には不快だった。考えないようにしているのに、自分では手に余る状況になると考えてしまう。

 

天叢雲を離反した真田が、新たな付き従う人として選んだのが藤堂である。はっきり言ってゼロは胡散臭く、その大言壮語はどこか軽薄に感じられた。片瀬はそのゼロにべったりだ。

藤堂を擁立し、ゼロも『蒼』も必要としない、日本人による日本を取り戻すための組織を作る。日本人としての誇りを取り戻すにはそうするべきだ。真田はそう考えた。

しかし水を向けてみた藤堂にそんな気は毛頭なく、『蒼』の血筋についても言い触らすことは禁じられた。

 

「ちくしょう!あの時、藤堂中佐が立ちさえすれば!」

解放戦線の兵士たちは片瀬より藤堂を慕っていた。藤堂にその気さえあれば、片瀬とまとめてゼロも排除してしまえた。『蒼』も必要なくなっただろう。

ゼロや片瀬が明らかな失敗をすれば、藤堂の意識も変わるかもしれない。そう思って機を待つことにしたのだが、ここまでの敗北を喫するのは全く想像できなかった。

 

空から襲来したラヴェインの銃弾が、無頼改を貫く。機体だけでなく、人体も貫いた。もう助からない。

(彼から離れたのは失敗だったのか―)

自分は、本当に後悔してなかったのだろうか。だがブリタニア皇族の指揮下に入るなど、できるはずがない。何度自問しようと、残るのはこの結論である。

つまるところ、アレルギーのようなものだ。いくら味が良くても食べれば命に関わるような食品なら、食べようとは思わない。

『ブリタニア』という存在は、真田にとってそういう物だった。

 

主を乗せたまま、無頼改は爆発四散した。

 




久々ですけど、3月は酷い目にあって何をする気にもなれず、全然筆が進みませんでした。

内容の方は特派無双。そして真田戦死。

ちなみにラヴェインの兵装はガトリング砲、パイルバンカー付きの盾、ウラノスと同じマイクロミサイル、ナイフ型MVSとしています。

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