コードギアス~護国の剣・天叢雲~   作:蘭陵

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Stage 48 奪還

「ライ、行けそうですか?」

頷き返すが、正直ライは驚嘆していた。こんな機体がこの世にあったのか、という思いである。

「武装。可変型銃剣『イグニス』異常なし。左腕部ルミナスクロー異常なし。胸部ハドロン砲異常なし。背部、徹甲榴弾式マイクロミサイル搭載完了」

特派の職員により出撃体制が整えられていく中、ライはマニュアルに目を通していた。基本操作などは理解できるから飛ばしていい。どういう装備があるのか知っていれば、何とかなる。

「エナジーフィラー装填完了、1番から5番まで異常なし。ドルイドシステム機動。各部ブレイズルミナス異常なし。フロートシステム異常なし。システムオールグリーン」

この機体が、ゼロに奪われる前に奪還できたのは幸運だった。逆にゼロにとっては限りない不運である。『ウラノス』なら、一機で戦局をひっくり返すことも不可能ではない。

 

ウラノスのドルイドシステムが貪欲に周囲の情報を収集し、解析する。演算能力を若干犠牲にしたものの、ほぼオートメーション化するシステムが組み込まれているので難しい操作は必要ない。

それによると、学園内の敵ナイトメアは無頼改が三、無頼が十二となる。これにライは違和感を覚えた。学園を占拠するには過ぎた戦力であり、保持する意図があるとしか思えない。

が、学園には政略的な意味はあっても戦術的な意味は何もない。ユフィと自分、それにスザク、カレン、ルーミリアあたりを捕らえた後は放棄してしまえばいいだけのはずだ。

 

「………」

ゼロの意図はわからないが、敵の数はわかった。この十五機を叩き潰せば、あとの歩兵など逃げ去るしかない。

「ウラノス、出撃!」

ユフィの号令により、夜天を統べる神が飛び立った。

 

 

機種不明の敵機、一。その報告を受けても、当初この部隊の指揮官である安居は慌てなかった。向かいの大学部にナイトメアの研究所があり、そこのナイトメアや研究資料は全て運び出せと指示されていたからだ。

「移送するのに起動した方が楽だったんだろ。それよりユーフェミアがいない件はどうなった?」

「依然、捜索中―」

いきなりの爆音が、部下の声を遮った。何事かと窓の外を見れば、大学部の敷地内で煙がもうもうと上がっている。

 

「どうした!?誤射でもしたか!?」

ユーフェミアを含め、学生には決して危害を加えるな。安居はそうゼロから厳命されている。誤射だろうが何かあったら、ゼロから大目玉をくらうだろう。

「ち、違います!味方三機がLOST、敵襲です!!!」

何故、敵がここにいる。いくら考えても解らず思考が停止した安居をさらに打ちのめしたのは、この学園に敵の反応が迫っているという事だった。

 

 

―舞う。

走るのではない。滑るのでもない。空中を自由自在に駆けるその姿は、舞踏の優雅さを思わせる。

銃弾をすり抜け、『イグニス』を一閃。MVS機構の刃は、容易く『無頼』の装甲を切り裂いた。銃撃モードにすればランスロットのヴァリスを小型化したもので、これまた無頼程度なら一撃で仕留める。

「おのれっ、飛ばせるな!地上に引きずり落として仕留めるんだ!!!」

敵が弾幕を張る。それは作戦として正しいだろう。このままでは、一方的に上空から攻撃を受けるだけだ。

だが、『ウラノス』はそれをものともしない。自分から地上に降りると、左腕に形成されたブレイズルミナスの爪で無頼を貫いた。

「距離を取って纏まれ!接近戦では圧倒的にこちらが不利だぞ!連携して当たるんだ!」

それも無駄な抵抗に過ぎない。纏まった所に、背部から射出されたミサイルが襲いかかる。小型でありながらナイトメアの装甲を突き破り、爆発する。受け所が悪ければ一発で戦闘不能に追い込まれる。

 

敵機報告から、二分弱。それで騎士団の十五機のナイトメアは破壊された。歩兵部隊も銃は手に取ったものの、誰も前に進もうとする者はいなかった。

「黒の騎士団に告げる。大人しくこの学園から退去するというのなら、この場は見逃してやろう」

呆然とする安居が思ったのは、この報告をしたらゼロがどんな反応をするかという事だった。学園制圧はこの作戦の要だと言っていた。守り通すことには、政庁制圧に等しい意義がある、と。

そのゼロから、通信が入る。内容は簡単だった。ユーフェミア救助のため、ブリタニアが大部隊を学園奪還に向けた。守りきれるものではないため、撤収せよ。

 

レーダー反応はその指示を裏付けるものである。そしてこの一機はそれに先行してきた特殊機なのだと思われた。が、冷静であれば、おかしいと考えたであろう。

学園と政庁を結ぶ道は遮断したはずなのだ。瓦礫をどかすか、仮設の橋でも架けねば、大部隊がやってこれるはずがない。そして政庁周辺で激戦中のブリタニア軍に、そんな事をしている余裕はない。

「ゼロの指示だ、撤収せよ!」

しかし、パニックに陥っていた安居にそんな余裕はなかった。窮地、敵の反応、ゼロの映像と声。それが彼の判断力を奪い去った。

 

作戦完了。特派の研究室に通信を入れる。大部分の騎士団兵は何が起きたのか把握できないまま撤退命令を受け、慌てて逃げ出した。大学部も無事解放されたという。

「……あっけない」

蜘蛛の子を散らす様に逃げ去る騎士団を見て、ライはウラノスの中で苦笑いする。ブリタニア軍の反応もゼロの指示も、全部彼の作りだした幻影と知ったら、どんな表情をすることか。

ウラノスのドルイドシステムを利用すれば、騎士団の電子機器をハッキングするくらい訳はない。ゼロの映像と音声は単純な合成映像だが、仮面で通してきたことが裏目に出たということだ。

そして軍用の非常回線を使ってコーネリアとも連絡が付いた。ユフィは「学園にいる」と白状して呆れられたが、「叱るのは後だ」という事で援軍の派遣を取り付けた。

 

「ライ!あなただったのね!」

ウラノスから降りたライに、ミレイが走り寄る。その姿を見て、これで終わりだとライは思った。

このままウラノスを前線に押し出せば、騎士団を壊滅させるのも容易いだろう。しかし、そこまでブリタニアに味方する義理はない。学園の安全さえ確保できれば、それで充分だ。

「何時になっても帰ってこないと思ったら…。……無茶するわねぇ、あなたも」

まったく、お姉さんに心配かけて、と叱りつけるミレイに、そういえば自分は戸籍上この人の弟なのだったと今更ながら思い出す。

「無事でよかったです。ミレイさ……」

笑顔でそう言おうとしたライだったが、不意に視界が歪んだ。

「ちょ、ちょっと…」

ふらついてミレイに向かって倒れ込んだライは、そのまま意識を失った。

 

 

「ライさんが倒れた?」

「そう。医者も呼ばれたんだけど、原因はわからないって。とりあえず肉体的な問題じゃないとは思う、ってことだけど…」

苦しんでいる様子はなく、呼吸も脈拍も正常。ただ眠っているようにしか見えないライに、医者も首を傾げていた。

まるで、この学園に迷い込んできた時の再現のようだった。しかし、今回は疲労も衰弱もない。緊張の糸が切れたためではないかとミレイは言ったが、その気遣いはカレンにとって空回りでしかない。

「……わかりました。天叢雲の方は私が動かします。カレンさんはそのまま、ライさんの傍にいてください」

「ありがとう、ルーミリア」

指揮を執るのが、ルーミリアなら安堵できる。そう思ったカレンは、ほっと息をついた。

 

学園の方は、ブリタニア軍の援軍到着までもうしばらくかかる。それまで学園を無防備にするわけにはいかない。騙されたことを知った騎士団が引き返してくる恐れは充分あった。

「いざという場合、カレンさんがそのウラノスとかいうナイトメアに乗って撃退するしかありません」

言われずとも、その覚悟はしていた。病弱なお嬢様の仮面を捨てナイトメアの操縦ができることを暴露しても、ライと学園の皆の命には替えられない。

「……カレンさんも、すっかり学校が好きになったようですね。ではお願いします。私にとっても、そこは家なのですから」

「任せて。…って人が来たみたい。切るね」

 

ライのことは、カレンに任せるしかない。自分に期待されていることは、私事ではなく公務だ。

「おい、ライが倒れたって…」

「扇さん、卜部さん、緊急事態につき指揮は私が執りますが、異存はありますか?」

二人は戸惑いながらも、ないと頷いた。ライの考えに着いて行ける存在は、この少女しかいない。それはわかっているが、これからの動きを説明してもらわねば不安で仕方ない。

「とりあえず松戸まで出たのはいいとして…、ここからどうする気だ?」

騎士団の侵攻を知ったライは、トウキョウ租界を迂回して松戸方面に部隊を展開する指示を出していた。ここで合流するつもりだったのだろうが、こうなっては是非もない。

彼抜きでここから先を考えねばならない不安に対し、ルーミリアはこともなげに答えた。

「決まりきったことです。黒の騎士団の敗退に備え、退路を確保してあげるのですよ」

 

 

「何をやっている!!!!!」

黒の騎士団、司令部。戦局図を見ていたルルーシュは、思わず拳を机に叩きつけた。ナイトメア反応消失に加え学園制圧の部隊が撤退して行くのである。

学園方面に取り残されるブリタニア軍の戦力を考えても、充分な戦力を与えたはずだ。少なくとも援軍を送るまで耐えられるはずだった。

それが、占拠から10分程度で敗走した。アンノウン反応が学園に一つあるが、これに負けたとでもいうのか。ランスロットという前例を考えればあり得るのかもしれないが、特派の面々は出払っているはずなのだ。

(ナナリーとユフィはどうなった!?)

そのアンノウンも気になるが、それ以上に問題なのは妹の身柄だ。逃げるにしても、二人を確保したままであるならまだ許せる。

 

「安居を呼び出せ!早く!!!」

しかし、通信兵の答えは「敵の妨害でつながらない」というものだった。十分弱の後、ようやく繋がった通信は全く要領を得ないもので、それがルルーシュの激昂にさらに拍車をかけた。

「それは敵の謀略だ!そんなものに乗せられるな!!!!!」

撤退はゼロからの指示だと信じ切っていた安居に、ルルーシュの怒号が飛ぶ。しかもナナリーは学園にいたが置いて来て、ユフィに至っては姿が見えず、捜索中だったという。

 

「この失態については後で詮議する。お前は学園を再度占拠しろ。よいか、ユーフェミアと車椅子の少女の身柄だけは何としても抑え、司令部まで連れてくるのだ」

怒鳴りはしなかったが、ルルーシュも余裕がない事がわかる。この戦いの戦略的目標はコーネリアを討ち取り政庁を制圧することなのだ。

この時の彼はそれを忘れ、妹の身ばかり考えていた。ナイトメアを失った安居の部隊は本隊からの増援に組み込み、彼には命に代えてもユフィとナナリーを攫ってこいとまで言い切った。

安居がウラノスの圧倒的性能について進言しても、相手にしない。

 

……それが、致命的な失敗となった。

 




万能の最強機・ウラノス初陣。「なんじゃこりゃー!!!」と思った人もいるかもしれませんが、ウラノス一機>原作ブラックリベリオン時の騎士団という化け物です。

なお、装備について。
イグニス…FF13のライトニングの武器と考えてください。
ルミナスクロー…パーシヴァルのルミナスコーンの原型。回転せず爪状に展開されます。
ハドロン砲…収束、拡散可(拡散はXバスター)。この話では完成しています。
エナジーフィラー…「並列回路にすれば長持ちするのでは?」という疑問からこんな形に。

話の方では、ギアスの副作用で倒れてしまったライ。こうなるからギアス頼みの戦法をしてこなかったわけです。

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