コードギアス~護国の剣・天叢雲~   作:蘭陵

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Stage 39 更始

目を覚ます。恋人となった人の顔が目の前にある。まだ起きないでいた彼の寝顔を見ながら、カレンは昨夜のことを思い出して赤面した。

(覚悟してたんだけどなー、一応…)

結局、カレンが想定したようなことをライは何もしなかったのである。ただ添い寝しただけだ。らしいと言えばらしいのだが、女としての魅力を疑うべき事態であろう。

ただ、心の方はつながった。

 

これからは、もっと彼に甘えてもらおう。自分にだけは、弱いところを見せていい。それを支えるのが、これからの自分の役割になるのだから。

(改めてよろしくね、ライ…)

学園に迷い込んできたときと比べて血色のよくなった寝顔は、より一層お姫様に見える。勢い任せとはいえ、その唇を奪ってしまったのは一世一代の大胆さであっただろう。

(で、でも、あんな廃墟でムードなんてなかったし、このくらい…)

恋人同士が一緒のベッドで寝ているのだから当然の事、と自分に言い聞かせ、顔を寄せる。

「ん……」

あと数センチというところで、彼が目を覚ました。

 

「……………。お、おはよう!…えっと、…これはね、私も今目が覚めたばかりで……」

無言で見つめる彼に、カレンはしどろもどろで言い訳を述べ立てる。しかし責められることは全くなく、逆に力一杯抱きしめられた。

「ちょ、ちょっと…。ライ?」

「……よかった、目を覚ましても君がいてくれて」

耳元でささやかれた言葉に、彼の不安の大きさを知る。だからカレンも、彼の体に手を回して抱きしめた。

「……うん。私はどこにもいかないから。ずっと、あなたと一緒にいるから」

この誓いを一生守ろう。そう、カレンは心に誓った。

 

 

「ゆうべはおたのしみでしたね」

「ぶっ!!!ななななな、何言うのよ、ナナリー!!!!!」

生徒会室には、すでに他のメンバーが集まっていた。それはいいが、ライとカレンが入室するなりこう言われたのである。

「あれ、間違えましたか?日本ではこういう場合こう言うのがお約束なのだと、咲世子さんから聞いていたのですが…」

挨拶程度の付き合いであるにしろ、咲世子さんがナナリーの介護のため雇われた日本人だということはカレンも知っている。だが、同じ日本人として、変な日本のイメージを植え付けるようなことはやめてほしい。

それを、疑いなく信じてしまうナナリーもナナリーである。この前は、「願いがかなうおまじない」ということで釘と藁人形を渡されたという。その誤解は、ルルーシュが訂正したらしいが。

 

「んー、でも、生徒会長で学園理事の孫娘でこの子の義姉かつ保護者である私はちゃんとしたことを聞いておきたいんだけど…。当然、そういう事はしちゃった…」

「はずありません!!!!」

そう、本当に何もなかったのだ。この朴念仁を甘く見ては困る。むしろ、こっちの方が残念だったくらいである。

「でもさ、同じ部屋で一晩過ごしたっていうのは事実なんでしょ?なら、あなたたちって付き合うことにしたの?」

「そ、それは、まあ…」

否定できなかった。嘘でもなんでも彼との関係を偽りたくはなかったのだ。しかし、こうもあっさりばらされると残念に思う心が存在するのも事実である。

 

「し、信じられません…。あの状況で何もしなかったなんて…。……では、カレンさんに手本を見せてあげます。ライさん、今日は私の部屋に来てください」

「あんたも何言ってるのよ!!!!!」

ルーミリアの言葉に、カレンは激昂して返す。まだキスしただけとはいえ、人の恋人に躊躇いなく仕掛けてくる神経というのはつくづく理解できない。それに第一、昨日で諦めたはずではなかったのか。

「諦めましたよ。……本妻の座は、ですが。それにキスぐらいなら…」

あっけにとられるカレンを尻目にライに近づいたかと思うと、ルーミリアはあっという間にライの唇を奪っていた。しかも、明らかに舌まで入れている。

 

「ん…。ちゅ…」

「………。な、ななななな…、何してんじゃー、あんたはーーーー!!!!!!!!!」

数秒間の硬直の後、我に返ったカレンが二人を引き離すが、ルーミリアに悪びれた様子は一切ない。

「ル、ルーミリア、カレンをからかうな!あと冗談でこういう事はするな!」

あまりの突発事故に呆然としたライが慌ててたしなめる。が、その言葉に対してルーミリアは明らかに気分を害した。

「はぁ…、まったく…。ここまで鈍い相手では言い切るしかないようですね。……一目惚れでした。私は、あなたのことが好きでした」

それも、『カレンのことを好きなライが好き』なのだという。つまり、カレンに以前言った『愛人でも我慢します』という言葉は本気だったらしい。

「…二番手であっても一向にかまいませんから。それと、私ならカレンさんには言えないようなリクエストにも応じますよ」

 

「…ラ、ライ!!!浮気したら許さないから…」

信じられない女だ、とカレンは思う。諦めるどころか、より踏み込んできた。この場にいる全員があっけにとられる中、ルーミリアだけが冷静に、腹黒く返す。

「あら、別れるのですか?では、その後ライさんをお慰めする役は私が…」

「別れないわよ!!!というか、万一そうなったら元凶はあんたでしょうが!!!!!」

別れてたまるものか。ずっと一緒にいるとさっき誓ったばかりなのだ。しかしそれは、ルーミリアにとっては望ましい答えだったようである。

「なるほど、カレンさんは何があっても別れる気はない、とおっしゃるのですね。ではライさん、安心して私とも付き合えますよ」

「いい加減にしろー!!!!!この淫売変態腹黒女ーーーーー!!!!!!!!」

 

 

「まったく、あんたって女は!!!脳内に虫が湧いてるんじゃないの!?」

「……まあ、カレンさんも落ち着いてください。ああしておけば、これまで通り私が一緒でも怪しまれないじゃないですか」

くすくす笑いながら策略だと言うルーミリアに、カレンは不信しかない目つきで応じる。いや、そういう面がないわけではないから幾分かは本当だろう。ただ、それが主目的ではない。

そしてそれをこの人は気付いてないのだろうか、と思えばため息の一つもつきたくなる。ライはルーミリアをやり過ぎだとたしなめはしたが、決して関係を絶つようなことはしなかった。

(なんだかんだ言って、ルーミリアには甘いのよね…)

傍目からは、ルーミリアが一方的に仕掛けて、鈍感なライが流しているように見える。だがこれが他の女だったら、さすがの朴念仁も許していないのではないか。

男女の関係まで発展しないから認めているが、この二人の間にも魅かれあうものがあることをカレンは感じていた。

 

「………ですが、ここからが本番ですよ」

不意にルーミリアが真面目な顔となる。ライの血筋について、ミレイはおくびにも出さなかった。よって学園では秘密のままである。また、仮に知られても驚かれるだけだろう。

しかし、天叢雲内ではそんな簡単な話では済まない。

「伝えるとなると、下手をすれば組織が崩壊…。もっと悪ければ、ライさんの抹殺でしょうか」

「……それであっても、伝えるべきだろう」

隠蔽する方が、発覚した時の傷は深くなる。それに検査したのはブリタニアの研究機関だ。検査官は深入りすると命に関わると思ったのか「冗談はやめてくれ!」と投げ返したらしいが、漏洩の危険はある。

「離間の隙は埋めておくべきだ。たとえ、今どんなに不利になろうとも」

ライの存在が注視されるようになれば、『蒼』と気付かれる恐れも多くなる。そして、敵国の皇族であるというのは離間を謀るのに最適のネタだ。

防ぐ手段があるとすれば、先に言ってしまう事しかない。

 

「………」

「………」

「………本当なのか、それ?」

扇の問い質す声にライが頷くと、重苦しい空気がより重くなる。夢想もできない告白に、どうするべきなのか誰にも判断できなかった。

「そ、それで、お義兄様は……」

神楽耶の顔は青ざめている。昨日の今日で「どうしても直に話さねばならない重大な話がある」と聞いて、よほどの事だろうと思っていたのだが、話の展開は義兄を失いそうであった。

そして、その神楽耶の不安通りのことをライは言う。

 

「司令として不適格、というのなら出ていくだけです。リーダーの座は、扇さんに返しましょう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。あまりに突然なので、何が何だか…」

青ざめたのは扇も同じだ。自分がリーダーになれば、またあの暗い、うだつが上がらない組織に逆戻りする。とは言ってもブリタニア皇族という事実は、はいそうですかと流せるものではなかった。

「まず、皆、考えを整理する時間が必要でしょう。…三日。それで、お義兄様を認めるか、組織を抜けるかを決めるというのではどうでしょうか?」

神楽耶の提案に、皆が頷く。即答を避けられただけでも、ほっとする空気が流れていた。

 

 

「お義兄様…」

「…もう、僕をそう呼ぶ必要はないだろうね」

三日後、付いてくるのはカレンとルーミリアだけかもしれない。いつになく弱気なライに、神楽耶は「そんなことありません!」と叱咤する。

「少なくとも私は付いて行きますわ。そしてキョウトのネットワークを活かして、お義兄様を認めてくれる人を探します」

頼もしい義妹だ、とライは苦笑いする。もちろんライはここで終わる気はない。三人で再出発する覚悟だったのが、さっそく四人になったのだ。

 

「それで、神楽耶様。皇家とブリタニア皇室の結婚というのは、あり得る物でしょうか?」

家格で考えれば釣り合うだろう。ただ、そんなことになれば一大ニュースのはずだ。ライが生まれたであろう20年ほど前のことで、そんなことに言及している記載は一切ない。

「ですから、あり得ないはずなのです。そもそも皇家は、基本的に六家内やそれに準ずる家格のところとしか縁組してませんし…」

そして、200年ほど前にある事件が起きた。そのせいで、皇家のそういう方針は一層強化されたのだ。神楽耶が早々にスザクとの婚約を決められたのも、その余波である。

 

「まあ、その200年前の事件と言うのが私の知る限りで皇の血が外に出た例外ではあるのですが…。皇家の長女が留学先のイングランドで、今で言うできちゃった婚をしたらしいのです」

「はぁ!?」

唖然としたカレンである。しかも相手は既婚者だったという。当然、皇家からは勘当され、公式からは姿を消した。皇家の記録の中にほんのわずかだけ残っているものを、神楽耶は見たことがあったのだ。

「その人の名は皇咲耶。相手の男性の名は、確かウルとかという…」

 

「ウィルフレッド、ではないですか?」

ルーミリアの指摘に、神楽耶はそうかもしれませんと頷く。相手の素性や名前までは、はっきりと覚えていなかったのだ。

「では、その咲耶という人は、西洋の政治体制を学ぶためという目的で留学して、趣味は菓子作りではありませんでしたか?」

これには神楽耶の方が驚いた。確かにその通りであるのだが、何故そこまで詳しくルーミリアが知っているのか。

 

「……ちょっとルーミリア。もしかして…、もしかして、だけど…」

カレンに思い当たる節は一つしかない。200年前で、ルーミリアが知っていて、日本とブリタニアの両方の血を引く存在。さらにその人なら、ブリタニア皇族というのも当てはまる。

「はい。間違いなく、『王』の母君ですね」

『エリスの回想録』にも、母親の実家が皇家とは書いてなかった。本人が詳しいことを話してくれなかったからだ。

 

「では謎も解けたのではないでしょうか?あのブリタニアの狂気の王が咲耶様から産まれたことはショックですが、子を残さず死んだ彼は関係ありませんわ。お義兄様はその兄弟姉妹の子孫であるとすれば…」

それなら皇家とブリタニア皇族という検査結果と一致する。『皇家直系にかなり近い』とする検査結果も、遺伝次第で何とか許容できる範囲内だろう。

しかしルーミリアは、その可能性を一刀で両断した。

「『王』と母を同じくするのは妹一人だけです。その妹君も、子を残さず亡くなったことは変わりません」

こうなると、ライの血筋についてはやはり皆目わからないということになる。

 

「はぁ…、暗い話になってしまいましたわ…。あるいは、お義兄様がついに婚約を決めたのではと期待してましたのに……」

「…あ、その話なんだけど。神楽耶、僕はカレンと恋人として付き合うことになったから」

ため息交じりに言う神楽耶にライが少々困りながら告げると、いきなり食って掛かる勢いで飛びついてきた。

「本当でございますか!?では、さっそく皇家の伝統に則って納采の儀を準備をいたし…」

「ちょっと神楽耶様ー!!!気が早すぎますって!!!」

暴走しかかる神楽耶を、カレンは必死に止める。しかしその言葉は、さらに事態を悪化させただけであった。

「カレンさん!いえ、お義姉様!!!私は妹となるのですから、『神楽耶』と、呼び捨てで呼んでくださいまし!!!」

それまでの重苦しい空気はどこ行った、と叫びたくなるほど、神楽耶は目を輝かせて二人の関係を祝福したのである。

 




朝チュン展開を期待した人、甘い!!!そう簡単にこの二人の関係は進みません。

そしてルーミリアさんは相変わらず…。この人には諦めるという展開が全く浮かばないのです。

『王』の出生についてもこの話は独自の異端な設定になってます。色々考えて、「実は恋愛結婚だったんじゃないか?」と思いました。

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