コードギアス~護国の剣・天叢雲~   作:蘭陵

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Stage 04 コンタクト

「まだ何かあるの!?」

扇からの通信を切った直後に再び通信が入り、苛立ちを隠さずカレンは応答してしまった。事実、サザーランド三機に追われてそれどころではないという状況ではあったが。

『……ずいぶんな挨拶だな。君とは初対面のはずだけど?』

相手の声がして、冷や水を浴びせられたような感じと共にカレンの頭に冷静さが戻る。明らかに別人の声だった。そしてもう一つ、明らかにこの声はカレンと同年代の少年のものだった。

 

「あ、ごめんなさい。……って、あなた、何者よ!?」

この周波数はメンバーしか知らないはずなのにもかかわらず、この少年は通信を送ってきた。もしかしてブリタニア軍にも筒抜けになっているのでは、とカレンは思い切り不安になった。

『説明は後に回す。それより、隠れていたのが出てきたということは多少なりとも罪悪感を持っているということか?』

「罪悪感?」

『今回のことは、君たちの失策が原因だろう?』

そう言われて、カレンは言葉に詰まる。確かに今回の殺戮は自分たちの作戦が失敗し、ゲットーに逃げ込んだために引き起こされた。

 

「……そうね。その通りよ」

『認めるか。ならば手を貸せ。一人でも多くの日本人を救う』

「わかったわ。何か考えがあるの?」

カレンは躊躇せず答えた。罠かもしれない、という思いは微塵も無かった。

何故だか知らないが、この少年の言葉は信じられる。

『線路上を西口方面に。追ってくるサザーランドは、私が片付ける』

「片付けるって……、相手は三機よ!?」

『問題ない。横から君に近づく一機が私だ。間違えて攻撃しないでくれ』

カレンがモニタを見ると、確かに急速に近づく一機の反応がある。

(この識別コードはブリタニア機…)

普通ならば、罠と思う。だが、カレンは迷うことなくその機体を『味方』と認識させるように設定した。

 

 

グラスゴーが線路の高架に上る。当然、それを見た後ろの三機もそれに続く。

なぶり殺しにするつもりなのか、アサルトライフルは撃ってこない。

(…それが間違いだ)

その様子を見て笑った存在がいることに、気づくものは誰もいない。

「しかし、俺と同じところに目をつけるとは…。少し甘く見すぎていたな」

黒い髪と、アメジストのような紫色の瞳が特徴的な少年だった。顔は女性を十人連れてくれば、まず間違いなく全員が「美形」と言うだろう。

 

欠点を探せば、「華奢」としか見えない体格だろうか。体は細く、手などまるで女性の手のようだ。

そして、この場所にいるにもかかわらず、学生服を着ていた。巻き込まれた民間人なのだろう。なのに傍らにサザーランドがあるというちぐはぐさは、どう説明すればいいだろうか。

「……まったく、いい迷惑だ。だが俺の目的を達するための駒としては、使えるほうかもしれん。あながちマイナスばかりでもないか」

その眼前を、グロースターが走り抜けていく。このグロースターの動きは明らかにブリタニア軍のものではない。それに、基本的にブリタニア軍が単機で動くということはない。

(お手並み拝見、とさせてもらうとするぞ。このルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの駒足り得るか、のな)

そう思い、グロースターの姿を見下ろす。その瞬間、相手の頭部もこちらを見た。

「………っ!」

カメラ越しであるが、視線が合った。そして、何とも表現できない奇妙な感じに襲われたのだ。

証拠はない。が、ルルーシュは確信していた。このグロースターのパイロットが、指揮官だと。

 

 

「なにぃ!?」

アサルトライフルの斉射を浴び、サザーランド一機が撃破された。

「グロースターが!?馬鹿な、味方だぞ」

「うろたえるな!撃ってきた以上、敵だ!」

僚機の動揺を一言で沈めたジェレミアだったが、通信を切ってから舌打ちした。

横から猛スピードで近づいてきた反応があったが、ブリタニア機なので誰もが味方だと思っていた。

その一機がグラスゴーと自分たちの間に割り込むように高架上に乗り入れ、銃口をこちらに向けたとき、ジェレミア自身も一瞬戸惑ったのだ。

他の二人は、夢を見ている思いだったろう。

 

(まさか奪われたのか?親衛隊の能無しどもが)

グロースターが奪われた、というのは予想外の事態だ。性能、とくに接近戦ではサザーランドを圧倒する。

「だが、テロリストふぜいにも過ぎた名馬よ。援護を頼むぞ」

僚機の発砲。当然相手は回避する。その回避先を打つ、というセオリー通りの戦法であるが、大きく回避すると思っていた予想は外れ、その修正に必要な時間が致命的な遅れになった。

相手は、正面から向ってきた。

「な、なんなんだ、こいつは?」

弾幕の中をまるで何事もないように走り抜けながら、相手が発砲する。

振り向かずにジェレミアのいるあたりを狙っただけで、これが牽制であるのは明白だったが、狙いを逸らされたジェレミアは回避するだけで攻撃はできなかった。

 

(まずい!!!)

分散させられた。そう思ったがどうしようもなかった。僚機のサザーランドが敵のランスに貫かれ、爆発。

ライフルを構えるが、それよりも早い相手の射撃で腕が吹き飛んだ。構えなかったらコクピット正面に直撃弾を受けて、パイロットの肉体は四散していたかもしれない。

「おのれ!!!」

無念だが、イジェクションシートを作動。この判断は間違ってない。勝てる相手ではなかった。機体性能にしても、操縦技術にしても。

 

人に負けた、という気分ではなかった。シミュレータで最善の動きをするようにプログラミングされた機体が画面から抜け出した、という感じだった。

(亡霊だ、まるで…)

射出されたコクピットは包み込むようにエアバッグが開く仕組みになっているが、着地の際にはそれなりの衝撃を受ける。

その衝撃に揺さぶれながら、ジェレミアは思った。

 

 

鉄道の高架の上に逃げたカレンは、背後から追ってきていた三機の反応が消えたことを知る。

(本当…、本当に!?)

通信で話した少年の言葉は無謀でも自意識過剰でもなかった。実力に裏付けされた自信だったのだ。

「!!!」

レーダー反応にばかり気を取られていたカレンだったが、前方からの警笛の音を聞き我に返る。列車がこちらに向かってきていた。

 

「うわっ」

とっさにその列車に飛び乗る。反応があと少し遅れていたら跳ね飛ばされていただろう。

やがて、その列車は停止した。どうやらオートパイロットで運転されていたらしく、障害物を検知して停止システムが作動したらしい。

「でもこれ、…貨物列車?なんでこんな時に?」

カレンには理解できない。戦闘中に、軍によって封鎖されているはずのエリアを通過して運ぶ物資などあるとは思えないからだ。

 

カレンが首をひねって間もなく、扇たちグループのメンバーもこの場に駆けつけてきた。

「扇さん!みんな!」

「カレン!無事なようだな」

お互いの無事を確認して安堵の声が聞こえる中、メンバーの一人である杉山があわてて対ナイトメア用のロケットランチャーを構えた。

その先にはグロースターの姿があったのだから、これは当然の対応というべきだった。

「待って!彼は味方よ」

カレンの声が、トリガーにかかった指の動きを止める。

 

『……その列車の中身を使え。私にはエナジーフィラーとライフルの弾倉を』

列車の中身を見て、カレンも他のメンバーも息をのんだ。十数機のサザーランドと、武器弾薬やエナジーフィラーが満載されていた。

「……す、すげえ。おい、これなら戦えるぜ!」

興奮した玉城が声を上げるが、グロースターの少年は換装を済ませるや立ち去ろうとする。

「どこに行くの!?」

それに気づいたカレンが引き留めようとするが、帰ってきた答えはそっけないものだった。

『あとは適当に暴れてくれればいい。その間に、包囲網を突き破る』

この人は、私たちの能力を全く評価してないのだ、とカレンは思った。それはそうだろう。先ほどの通信で、今回のことを『失策』と断言したのだから。

そんな連中に合わせるなどごめんだ、私は一人でやる、と彼は言っているのだ。

「けっ!すかしやが…「それなら、あなたが私たちの指揮を執って!」…カレン!?」

悪態をつく玉城の言葉を弾き飛ばすように、カレンが叫んだ。

 

「お、おいカレン。いくらなんでもそんなことは…」

南が反対の声をあげる。確かにこの貨物列車に目を付けたのはグループ内には誰もいなかったし、操縦技術は三機の敵をなぎ倒したことで証明されている。

しかし、だからと言って自分たちの命を全面的に預けるなど、できることではなかった。

「彼は信用できます。そして彼の実力は見ての通り。私たちには、彼の力が必要なんです」

「ならよ、この状況から勝てるんだろうな!?」

玉城が「信用なんてできねえぞ」という内心をあらわに、嫌味たっぷりに言う。

『勝つ、だと?この戦い、勝つことに意義はない』

それに対し、彼はそう言い切った。

 

 




ちなみにルルーシュの説明のことなど「いちいち書かなくても分かってる」と思う方もいらっしゃるかと思いますが、
原作を知らない人でも一応話がつながる程度に書いていかないと「後で大丈夫かな?」と思ってしまうので、ご容赦ください。

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