コードギアス~護国の剣・天叢雲~   作:蘭陵

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Stage 33 激突

「よし、出撃!!!」

ライの号令を受け、赤と青のグロースターを先頭にコーネリアの親衛隊に向かう。グロースター二機はこれまでライとカレンが乗っていたものだ。

当然、ブリタニア軍はそれが二人の乗機だと思うだろう。

(一度限りのフェイク、だが)

今の操縦者は、真田とネージュなのである。だが、ネージュが乗ると言ってきたのにはライも驚いた。一応『蒼龍』の隊員としてあるが、実のところライも使い道に困っていたのである。

彼女によると、「カレンの動きを真似できるのは私だけ」らしい。実力で考えれば納得いく。

第一の目標は、コーネリアの後方に位置する部隊。それは、純血派の一党が指揮する部隊だった。

 

「ジェレミア卿!!!」

「やはり来たな…。全機、迎え撃つぞ!!!」

ジェレミアの落ち着いた指示に、ヴィレッタは安堵して従う。黒の騎士団が現れたという報告が入った時は、持ち場を無視して突っ込むかと思ったのだ。

(ユーフェミア様に呼ばれてから、人が変わった…、いや、元に戻ったと言うべきか…)

元々、ラウンズの座も充分狙える優秀な人なのだ。アッシュフォード学園で何があったかは話してもらえなかったが、いい事があったのは間違いない。

 

「赤と青のグロースターか…。相手は『蒼』だな。……ふん、お前も仲間に入れてもらったらどうだ?オレンジ色の機体を用意してくれるかもしれんぞ」

「残念ながらキューエル卿、このジェレミア・ゴッドバルトが忠誠を尽くす相手は決まっているのでな」

キューエルの悪意が濃厚に含まれた冗談にも、冷静に返す。オレンジ事件の際の記憶がないと言っていたが、以後の記憶も失ったのではないかと思わせるほどの変わりぶりだった。

 

(何としても武勲をたて、殿下をお守りせねば…)

ジェレミアの考えていることは、忠誠の対象であるルルーシュやナナリーと違っていた。

彼らは「皇族であることを捨て、ひっそりと生きていきたい」と言う。だが、周囲はそれを許さないだろう。特にゼロや蒼に知られたら、何をしてくるかわからない。

アッシュフォードとて、何かしら打算はあるはずだ。いくらマリアンヌに心酔していたからとしても、二人を一生涯かくまい続けるなどリスクばかりで得は何もない。

だから二人の希望には反するが、やはり皇族として復帰した方が安全である。

武勲で陛下からそれなりの領地と立場の保証を買う。隠棲した分家なら、謀略とは無縁に静かに暮らすこともできる。皇位継承権も二人が不要であると言うなら捨ててしまえばいい。

その上で担ぎ上げようとする貴族は、まずいないだろう。

 

それを、キューエルやヴィレッタに伝え純血派としての意思とするという事はしなかった。二人のことを知る人間が多いほど漏洩の危険は増すし、そもそも他人にはそこまでする理由がない。

これはあくまでもジェレミア・ゴッドバルト個人の問題であり、マリアンヌ皇妃に対する忠義なのである。

(ゼロか蒼の首を取れば、叶わない願いではないはずだ)

そのチャンスが、さっそくやって来た。だが『蒼』はシンジュクで完膚なきまでに負けた相手だ。あの無駄の一切ない操縦には、素直に敬服する。

(私としては、ゼロを相手にしたかったが…。まあいい。怨恨など、忠義の前では些細な事よ)

今度こそ、二人は守り抜く。そのためならば、いわれのない汚名だろうが甘受しよう。その思いでジェレミアは立ち直ったのである。

 

「先に行くわ」

真田を捨て置き、ネージュが赤のグロースターを加速させる。純血派部隊の発砲にも物怖じせず突っ込むというのは、確かにカレンの動きだった。

「………。…よし、左から狙うぞ」

一瞬唖然とした後、真田はライならどうするかを考える。正面をカレンに任せ、左から一機ずつ叩く。それがライの取る戦い方のはずだ。

それにしても、ネージュには驚かされる。いや、驚くと言うより呆れると言うべきか。知らなければ、あのグロースターに乗っているのが明らかに場違いな幼女だとは誰も思うまい。

そのネージュの動きに気を取られた敵機に、ライフルの銃弾がヒットする。体勢が崩れたところにルーミリアの狙撃が命中し、一機を撃破した。

 

戦力は劣勢。それでも純血派の部隊はジェレミアの指揮の下果敢に応戦し、戦線を維持していた。厄介なのはやはりグロースターの存在と狙撃用の機体がどこかにいることだが、戦えない相手ではない。

そして、それがジェレミアにしてみれば、おかしい事態なのである。

「……むむむ」

違う。明らかに違う。ジェレミアはそう思った。青のグロースターの動きが、どう考えても鈍い。『蒼』ならば、もっと果敢に踏み込んでくるはずだ。

一方、赤のグロースターはデータと寸分変わらぬ動きをしている。なら青だけが偽物で、『蒼』は別の機体に乗り込んでいるのだろうか。

(だが最強の持ち駒であるグロースターを捨てて、何を―)

次の瞬間、斜め後ろから青い旋風が飛び込んできた。

 

「なにっ!?」

ヴィレッタのサザーランドが、抵抗する間もなく両断される。次いでキューエルの機体が正面から廻転刃刀に貫かれ、機能停止。

青い新型。それで、ジェレミアは理解した。やはりグロースターは偽物。だが思考できたのはそこまでで、異様な爪を持つ左腕に掴まれた。

「………!!!!」

何かやばい。戦士としての直観が、この左手は危険だと告げていた。次の瞬間、サザーランドが異常な膨張を始める。

サザーランドの各機関から、悲鳴のように警報が鳴り響く。この機体はもう捨てるしかない。これ以上乗っていれば、機体が爆発して間違いなく死ぬ。

が、緊急脱出装置が作動しない。

「くっ、私は死ねぬのだ。やっと、やっと見つけたというのに!!!」

負けるのは、是非もない。だが死ぬことだけは―。

「ルルーシュ様!!!!!ナナリー様あぁぁ!!!!!!!」

サザーランドが爆発する瞬間、脱出装置が作動した。

 

一瞬。わずか数秒のこと。それで中核を叩き潰された純血派の部隊に、もう組織的な抵抗はできなかった。

「逃げた者は放っておけ。目標はコーネリアだ」

と言うが、コーネリアを討ちとることは考えてないライである。彼女は厄介な敵ではあるが、ユーフェミアの姉だ。殺せば、ユフィとの関係は破断する。

(負傷により本国療養、というのが一番ありがたいのだが…)

それも治療には時間がかかるものの五体満足、という状況であれば、なおいい。しかしそんな生ぬるいことを言ってられる相手ではないというのも、重々承知である。

「……行くぞ、ここからが本番だ」

少なくともルーミリアとネージュの二人は、そんなライの思いに気付いていた。

 

 

「純血派の部隊がLOST。このままでは、コーネリア総督が挟撃されます」

完全に、敵の策にはまった。この戦局図を見れば、子供でも理解できる。

ダールトン将軍は解放戦線の追い討ちを受け、何とか土砂から逃げ延びた残兵をまとめて抵抗しながら後退している。とても他を助ける余裕はない。

北の部隊は挟撃を受け、明らかに劣勢だ。各部隊の指揮はともかく、全体を見て判断する指揮官がいないのである。各個撃破の餌食になる一方だ。

唯一互角なのがマーガレット率いる親衛隊が踏みとどまった東の戦線だが、ここはコーネリアがいる場所とは山の反対側。遠すぎる。

(お姉様…)

本陣には、アレックス将軍率いるコーネリアの親衛隊が十五機。『蒼』の所在も判明した今なら、この部隊も投入できる。

だが、土砂崩れは本陣よりはるか麓まで大きく浸食した。ここから土砂を迂回してコーネリアのところまで向かうのでは、とても間に合わない。

 

「どうもどうも~、特別派遣嚮導技術部でございま~す」

悩むユフィの元に、通信が入る。憤る参謀たちを押し切って通信に出ると、総督救援の指示をいただきたいのだと言う。

「無礼者!イレギュラーは大人しくしておれ!」

特派は参加は許されたものの、後方待機の予備部隊という扱いだった。参謀の一人が『イレギュラー』と罵ったことからも分かるが、初めから数に入ってない。

「おかげで困ってるんですよ、ヒマで」

それに対しロイドは、戦場での発言とは思えない言葉で返した。

 

「ふん、あの土砂を越える方法がないから頭を悩ませているのだ。ランドスピナーでは、とてもあの液状化した斜面は進めない…」

「その点はサンドボードを用意してありますけど?」

参謀の嘲りに、ロイドはあっさり返す。特派のトレーラーには様々な備品も積んであり、そのまま戦場まで持ってきていたのだ。

「特別派遣嚮導技術部に命じます。何としても、総督の救出を」

それを寄越せと言いたげな参謀たちより早く、ユフィが決断を下す。そしてアレックス将軍は親衛隊を率い、迂回してコーネリア救援に向かってもらう。

ダールトン隊の救援は、通常軍が当たる。本陣には最小限の護衛だけで充分だ。

そしてロイドは、ユフィの後ろに立っていた人物に重大なことを告げた。

「予備のサンドボードが一つあるのですが、いかがですか、エニアグラム卿?」

 

「Z-01ランスロット、RZA-9ヨーヴィルはサンドボードを使用し最大戦速にて液状斜面を上昇、総督を救援せよ。……よろしいでしょうか、エニアグラム卿」

「私に遠慮するな。今回の作戦を受け持ったのは特派なのだから、指示を出すのはそちらでいい」

セシルの遠慮がちな確認に、ノネットはそういう気遣いは不要と答える。特派が臨時のデヴァイサーを雇ったと思って指示を出してくれればいいのだ。

「それでは失礼しまして…、敵部隊に新型を視認したとの報告が有り。性能は未知数ゆえ、最大限の注意を」

「サザーランドじゃ相手にならなかったらしいから、もしかしたら僕のランスロットに匹敵するかもね」

とはいえ、ロイドの声は弾んでいた。またヨーヴィルとナイトオブナインの騎乗データ、しかも実戦のものを誰からも文句言われくことなく取れる。さらに敵とはいえ新型となれば性能が気にならないはずがない。

 

「ああ、それとスザク君。君には一つ聞いておきたかったことがあるんだけど…」

「何でしょう?」

訝りながらもスザクは返す。しかし、聞かれたことは彼の矛盾を的確に突くことだった。

「君は人が死ぬことを極端に嫌うね~。なのに、軍隊にいる。何故だい?」

「……死なせたくないから軍隊にいるんです」

わずかに躊躇った後、スザクは答えた。その躊躇が、ロイドには意外だったようだ。

「…ふむ。もしかして、気付いてるのかな?その矛盾はさ、いつか君を殺すってことに」

 

ロイドの問いにスザクが躊躇った理由。それは、シンジュクでの『蒼』の言葉が頭をよぎったのだ。

『私たちが戦うのを止めれば、虐殺が再開されるだけだ』

あのシンジュクで、何が正しかったのか。いまだにスザクの中では答えが出ない。

きっかけは、住民を巻き込むようにテロリストが逃げ込んだから。テロ活動は間違った行動で、それが悪い結果をもたらしたのだ、とは思う。だが、だからと言ってブリタニア側の行為を肯定できるはずもない。

「……ランスロット、発進します」

迷いを断ち切るように、スザクは宣言した。少なくとも、この戦場で虐殺は行われてないのだ。

 




純血派部隊と天叢雲、激突。ジェレミア、ヴィレッタ、キューエルの生死はいかに!!!
ちなみに青月下の爪は甲壱型腕ではなく紅蓮と同じ正式の物になってます。

そして特派のセシルさんがキレたロイドとスザクの問答は少し変えました。

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