コードギアス~護国の剣・天叢雲~   作:蘭陵

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Stage 31 新たな力

「はっきり申し上げますと、日本解放戦線の装備は旧態依然。コーネリアの親衛隊とまともに戦って、勝ち目があると思えません」

歯に衣着せず言い切ったルーミリアに、卜部も返す言葉がない。『ライ』という存在を至上のものとして考えれば、天叢雲を解放戦線のために使い潰すという選択肢は存在しない。

「それにあの白いナイトメアに加えて、『ナイトオブナイン』が専用機まで持ってやって来たというではありませんか。いくらライさんとカレンさんのグロースターでも、止められるものではありません」

考えれば考えるほど、状勢は暗い。ここまで順調に戦力を伸ばしてきた『天叢雲』も、コーネリアの親衛隊と比較すればまだまだ遠く及ばない。

 

「…や、やってみなくちゃわからないでしょ?勝てないって決まってるわけじゃ…」

「精神論は戦場での禁句です。そんなことを前提として戦うなど、呆れすら通り越す愚行です」

ルーミリアにぺしゃんこに押しつぶされ、カレンも黙り込むしかない。しかし、ライに言われたのならすんなり受け入れられる言葉も、この女に言われるとどうにも腹が立つ。

そのライは、この軍議の行方を黙って聞いているだけだった。

 

『コーネリアの全面攻勢を迎え撃つため、日本も総力を結集する必要がある。諸君には、我ら解放戦線と協同してこの難局に当たることを望む』

日本解放戦線の片瀬少将から、援軍の要請が来たのである。

コーネリアの攻勢は予想できていたことだった。むしろ、リフレイン事件のため遅れたほどだ。軍内の綱紀粛正とそれに伴う立て直しが一段落したということだろう。

「だが、解放戦線は同じ日本のために戦う同志だ。援軍要請となれば、応じないわけにもいかないだろう」

言い返したのは扇である。『日本のため』と考えれば、彼の意見は常識であった。

 

ルーミリアとて、わかってないわけではない。『日本』という存在を神聖視して天叢雲が道を誤るのを防ぐためなら、憎まれ役も買ってやろうというだけだ。

しかし、言ってることは嘘ではない。日本側のナイトメア主戦力は、グラスゴーを改造した『無頼』。良馬相手に駄馬で競争を挑むようなものである。

「ですから要請は受諾し、可能な限り損害を抑え撤退する。可能ならば、コーネリアの親衛隊を狙い一機でも多く戦力を削いでおく。これが基本方針だと思いますが…」

最も合理的に考え想定された方針。例え日本を見捨てるような選択肢でも、あえて口にするのが自分の役割だとルーミリアは思っている。

それで、『日本人』が自分を恨むならそれでいい。頂点に立つ者は、決して恨まれてはならないのだから。

 

「それしかない、っていうのは認めるんだがな…」

正規の軍人である卜部達にも、理解はできる。必ず負けるのなら、自分たちの力は温存する。その中でわずかなきらめきを見せておけばいい。

ただ、同志を見捨てろと言うのが、快いはずがなかった。

そして解放戦線が無くなれば、コーネリアが勢いづく。情勢は非常に厳しいものになるだろう。

 

せっかく手に入れたユーフェミアとのつながりも、こと軍事に関しては何の意味もない。エリア11ではコーネリアが軍事関係のすべてを握っているし、あからさまにテロリストの味方をさせたら彼女の立場が無くなる。

「やはり、敵わないまでも…」

扇が発言しようとしたが、それを遮るように廊下からどたどたと音が響く。何だと思い皆がドアに注目した瞬間、電子ロックが解除されドアが開く。

「お義兄様ー!完成しましたわー!!!!」

会議中の部屋に飛び込んできたのは、神楽耶だった。

 

全員が、あっけにとられる。ライですら神楽耶がやってくるなど聞いてなかったので、この状況が理解できるはずもない。

動じてないのは、ネージュだけだった。いつものことだが、彼女はめったなことでは口出ししない。逆に言えば、ネージュが口を出すようなことは皆が見逃している重要なことなのである。

「とりあえずハンガーまで来てくださいまし。お義兄様も、きっと気に入ると思いますわ」

よくわからないという表情のままのライの手を引っ張り、連れて行こうとする。会議中だと言っても、それにも関わる重大なことなのでと言って聞いてくれない。

「揃っているのでしたら丁度よろしいでしょう。皆、来てくださいまし」

やむなく幹部がそろってナイトメアが格納されているハンガーまで行くことになったが、そこに運び込まれていたものを見た瞬間、困惑が驚愕に変わった。

 

「これって…」

赤と青に塗装された、二機のナイトメア。だがこれまでのサザーランドやグロースターとは全く違う、見たこともないフォルムの機体だった。

「赤い方は『紅蓮弐式』。青い方は『月下参式』の先行試作機ですわ」

何より目を引くのが赤い方は右手、青い方は左手の大爪である。左右のバランスが崩れるのではないかというほど大きく、異様な存在感を発していた。

「それは輻射波動。高周波によって発生した熱量で敵を爆破膨張させる…、要は強力な電子レンジってと・こ・ろ」

「紹介しますわ。この人はラクシャータ・チャウラー。中華連邦・インド軍区出身の技術者で、この紅蓮と月下の開発者ですわ」

 

紹介に与ったラクシャータはキセルを揺らしながら、ライとカレンを値踏みするようにじろじろ眺めまわす。

「まさか、こんなかわいらしい坊やとお嬢ちゃんだったなんてねぇ…。データからじゃ、想像もできなかったわ…」

「え?それじゃあ、この二機は…」

もちろん、ライとカレンの乗機となるために作られたのである。赤と青のカラーリングになっているのも、それに合わせて神楽耶が手配したからだった。

 

「基本スペックならグロースター以上よ。後はマニュアルを見てね。…それと、客室を貸してくれない?」

ここ一週間ほど、ろくに寝ていないのだと言う。当初は紅蓮一機のはずだった。それを神楽耶が無茶を言って月下も突貫で作らせたのだ。

「まあ、基礎設計は一緒だからそこまで手間じゃなかったけど」

最大の差は、輻射波動。これを搭載することが前提であるのが紅蓮弐式であり、腕パーツの換装によって切り替えを可能にしたのが月下である。

「輻射波動は強力な兵器ですが、お義兄様はそれに囚われない運用ができる方が良いと思ったのです」

ついでに、指揮のことも考え操縦席もシート型にしたという。操縦時の一体感はバイク型の方が勝るが、キー操作などはシート型の方がやりやすい。

そういう融通は紅蓮だと効かないので、神楽耶は設計段階だった新型も開発してもらったのである。

 

「お二人がこれに乗れば、あの白いナイトメア…、ランスロットと言うらしいですが、あれにも決して負けません」

スペックで言えば、紅蓮も月下もブリタニアの第七世代ナイトメア相当。つまりランスロットと同等である。心強い専門家が仲間に入ったと思うが、本人は少々複雑そうな表情で答える。

「アタシの専門は医療関係でナイトメアは副業なんだけど…。まあいいわね。満足してくれた?それじゃ、これからヨ・ロ・シ・クね~」

最後にそれだけ言って、ラクシャータは消えた。案内された客室に入るなりベッドに飛び込み、次の瞬間には寝ていたという。

 

「でも、いくら紅蓮と月下が強くても、二機だけで勝てるようになるとは思えないけど…」

ネージュの言葉に、ぐっと神楽耶が言葉に詰まる。言う通りなのだが、それ以上にこの少女は苦手なのだ。自分より年下にしか見えないのに、全てを見透かしているように感じてしまう。

「…りょ、量産化の計画は着々と進んでおりますわ。ですが、今回は間に合いませんでしたので、こちらを用意いたしました」

紅蓮と月下以外にも、運び込まれていた荷があった。その中身は、『無頼改』。

「十機を運び込ませました。解放戦線にも同数。黒の騎士団にも、五機を渡しました」

ちなみに月下の量産化が進んでも、無頼改の製造は続けるらしい。無頼はブリタニアのナイトメアを改造したものなので、パーツが入手しやすくコストも低く抑えられるのである。

 

「ここでコーネリアの鋭鋒を砕ければ、流れが大きく変わります。そのため、ありったけの無頼改も投入します」

すでに「NAC=キョウト」ではないかとブリタニアには怪しまれている。であれば、多少大胆なことをしても大差はない。そう考えた神楽耶は、博打に出たのである。

それでも、まだ戦力は足らない。ブリタニアの予想戦力を考えれば、質量ともに劣勢なままだ。

「……その点につきましては、ゼロに何か案があるそうです」

 

 

「ようこそお越しくださいました、『蒼』」

三日後、解放戦線のナリタ要塞を訪れたライを、片瀬が笑顔で迎え入れる。その傍らにはゼロの姿もあり、三組織のトップが一堂に会したのである。

「……この仮面はご容赦いただきたい。素顔を晒すのは、少々憚られる」

学生服で出席するような真似ができるはずもなく、ライの衣装は神楽耶考案の紺の生地に模様が銀糸で刺繍された軍服に、ロングコートのような上着を羽織るという形になっている。

そして顔の上半分を、バイザーのような仮面が隠していた。ちなみにこの仮面、マジックミラーであり視界を遮ることはない。

「こちらとて同じこと。よろしいですな、片瀬少将」

ゼロの同意に、片瀬も頷く。彼の方は頭部全体をすっぽり覆う仮面であり、批難する立場ではないことはわかりきっている。

 

軍議に参加するのは、何も三人だけではない。解放戦線側には副司令や参謀に藤堂の姿が見え、ライは卜部とカレンとルーミリアを連れてきている。

そしてゼロは元旭日隊の正木と土岐を従えていたが、もう一人が今の微妙な空気の原因となっていた。

「………」

「………」

「………」

だれもが、あえて触れないようにしていた。女であるというのはまあいいとしよう。しかし『天叢雲』の制服を着たカレンとルーミリアに対し、ゴスロリ風の衣装というのは場違いとしか言いようがない。

 

(……違う。断じて、俺のせいではない)

皆からの批難のまなざしに、ルルーシュは心の中で思う。解放戦線および天叢雲幹部と会談するとC.C.に言ったら、何故か自分も参加すると言い出したのである。

C.C.も、最近はナイトメア操縦の勉強をしていた。なかなか筋は良く、黒の騎士団の戦力として大いに期待できた。

そういう理由もあって「騎士団員としても資格は充分だろう」と迫るC.C.の勢いに押し切られたのであるが、まさかゴスロリ服で現れるとは思っていなかった。

「いい加減スルーするのも限界なので言うが、ゼロ、いくらかわいい恋人だからとて、軍議の席だということを考えてもらいたい…」

「断じて違うぞ!!!この女は黒の騎士団の一員であってそういう関係でないことは、ここで明言する!それに恋人を連れてきたというのなら、お前に言われたくはない!!!」

「二人は僕の右腕と左腕だ!君こそ変なことを言うな!!!」

もはや軍議と言うより、漫才である。

 

「かわいい…、かわいい…、かわいい…」

そのC.C.はと言えば、真っ赤になって何かぼそぼそ呟いている。変なことを言いださない分は助かっていたが、どうしてこうなったのかルルーシュには全く理解できない。

(俺を困らせるために着てきた、というわけではないようだが…)

ちなみにこの服は、ルルーシュが選んだものだ。いつもの拘束衣しか着ず、「それでいい」と思っているC.C.に何となく腹が立ったのであるが、この時ばかりはやめておけばよかったと後悔した。

なお、彼の名誉のために言っておくと、そういう趣味はない。逆に興味がないから候補から除外することなく、単純に似合いそうな服として選んだものがこれだったのである。

 

「………オ、オホン。話を戻そう。……ここにいる者ならわかっているだろうが、我ら三組織が協同したとてコーネリアと正面から戦うのは非常に厳しい」

ゆえに、何か策が必要になる。その策は、すでにルルーシュの胸中にあった。

「………ずいぶん大胆な作戦だな。しかし、決まれば効果的ではある」

説明を受け、卜部が言う。大胆と言えば片瀬が何も言わないというのが、大胆すぎて意外だった。何しろ、この策を実行すれば間違いなくナリタ要塞は使用不能になるだろう。

「……何よりも優先するべきは、コーネリアを討つことである。要塞を死守しても損害ばかりが大きく、意義はない」

それどころか、初耳だったので反対した参謀たちを諭したのである。驚くというより、もはや違和感を感じるレベルだった。

その片瀬の目に異様な赤い光が宿っていたのに、気付いた者はいなかった。

 

「もちろん、解放戦線を根無し草にするつもりなどない。代償として我らの基地に迎え入れましょう」

このために、旭日隊の基地を拡張したのだ。名目は招き入れたとしても、主導権は自分が握る。あとはなし崩しに、黒の騎士団に取り込んでいくだけだ。

(片瀬では持ち腐れにするだけだったからな。俺が、有意義に使ってやるさ)

そして解放戦線を取り込めば、すなわち日本最大の抵抗勢力となる。この戦争の主導権も、自分が握ることになるだろう。

 

それにしても、片瀬の能力については失望した。かなり低く見積もっていたにも関わらず、なお落胆させられたのである。

保身のため四聖剣の一人を手放すわ、ナリタ要塞を捨てる決断ができず今回の作戦に反対するわ、よくこれでやってこれたものだと逆に感心する。

仕方なくギアスで傀儡としたが、それが悪いと思う気持ちは全く湧いてこなかった。

(『奇跡の藤堂』とやらが、なぜこんな男の下で逼塞していたのか?)

ルルーシュには不思議でならない。彼が解放戦線の総指揮を執っていれば、歴史は大きく違っていただろう。あるいは、ゼロや蒼などという存在は必要なかったかもしれないのだ。

「………」

その藤堂は無言を貫いたまま、賛成とも反対とも言わなかった。

 

「……作戦自体には賛成する。しかし、どうやってこれを起こすのか、だが…」

「その点については、『蒼』、貴方の同意が得られた時点でクリアされた。先日キョウトから渡された新型であれば、成功は疑いない」

こいつめ、とライは内心で舌打ちした。おそらく桐原たちが漏らしたのだろうが、紅蓮と月下のことは武装まで把握済みらしい。

「ならば『緋龍』を貸そう。…私はこの位置で待つ。問題はないだろうな?」

今度はルルーシュが内心で舌打ちした。ライが差した場所は、コーネリアが攻め込んでくる最も有力なルートの裏。文句のつけようがない位置であり、やはりこの男は主導権を握られたままで終わる相手ではない。

そして自らその位置を指定したという事は、コーネリアの親衛隊に真っ先に斬り込むにはお前らでは力不足だ、と言っているようなものである。

 

コーネリアが情報通りトウキョウ租界を発した、と連絡が入る。決戦の時は、間近に迫っていた。

 




正月休みも終わりということで投稿…、なのですが、現在Stage 34の半ばくらいを書いてます。
これまでは週一基本に時折休んで…というペースでしたが、これからは二、三週間開くこともあり得ると思います。勘弁してください。

さて内容の方は、紅蓮と月下が登場。この二機の違いについては辻褄合わせで捏造した設定なので鵜呑みにしないでください。

そして久々の乙女C.C.登場。「初デートで気合を入れ過ぎて空回った」という感じです。

片瀬については、まあ…。彼ならやりそうだと思ったので…。

『緋龍』は次回でちゃんと説明しますが、カレンの部隊の名前です。

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