青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第73話 学園祭(3日目) 世界樹防衛戦(1)

「トホホ。なんでこんな事に……」

「しょうがねぇだろ? オコジョになりたくなかったら奉仕活動くらい頑張れよ」

「いやー、そのオコジョってのがさ。信憑性が低いって言うかさ~」

「うるせぇよ朝倉。お前が安易に超に付いて行って洗脳とかされるからだろ?」

「そんな事言われてもさ~。覚えてないんだよねー」

 

 とりあえずだな。すっげぇ不本意なんだが、3-Aのメンバーに混ざりながら超のイベントの売り子をやってたりする……。

 でもって横の朝倉は、ジャーナリズムで超の秘密を探りに行ったまま体よく利用されたらしい。これは高畑先生達の調査の結果なんだが、まほら武道会の後に龍宮神社を調べていたら、気絶して何も覚えていない朝倉を保護したそうだ。前に怪しいと思った陰陽師っぽいイヤリングは本物の太陰大極図の魔法具で、左右で魔法障壁と洗脳効果が有ったらしい。朝倉は何も覚えていなくても、ここまで関わったらもう放置は出来ないと判断された。で、コイツは一旦横に置くとして……。

 

「ちうさま! 俺にもそのスーパー兵器をお一つ貸してくださいませ!」

 

 でもって何でか知らねぇけど、私がやってるイベント受付にはこういうヤツばっかりがやってくる。つまり、見た目はごく普通の学生なんだが演技かかった態度や口調で話しかけてきて、明らかにお前ら一般人じゃねぇだろ(ネット側の住人的な意味で)って言いたくなるヤツばかりだ!

 内心じゃもういい加減にしてくれって思うんだが、長谷川千雨だとバレないために”ちう”に押し付けた私自身の行動から来てるんだし、仕方が無いと割り切って、気合で笑顔を作ってスイッチを切り替る。そのままアニメ声を出しつつ、目の前の学生達にイベント用の魔法具をレンタルしていく。

 

「え~。ホントーに~? 頑張ってくれないとちうは嫌いになっちゃうぞ☆」

「ははー! この部下Aめが見事、火星ロボ軍団を撃退して見せます!」

 

 ちなみに何でこいつがこんな発言をしているかと言うとだ。今私が着てる本気仕様の魔法衣のセーラー服はビブリオルーランルージュが元になってる。つまり、魔法少女ものではあっても悪の女幹部仕様なわけで……。もういいだろ、これ以上言わせんな。もちろん、認識阻害ブローチは付けてるからな、あくまで私は”ちう”だ。

 学生達は受け取った防御用ローブやマント着けて、ロボット達を活動不能に出来る――未来の情報から、魔力供給の遮断か破壊が有効と判断――見た目は玩具の銃や杖の様なものを掲げて盛り上がっている。それを最後まで笑顔で見送ってから、うんざりした素の表情にスイッチを切り替えた。

 

「さっすがちうたん。ネットアイドルの切り替えの速さは見事だね」

「うるせー。良いからお前も配れ」

「はいはいっと」

 

 そんな軽い返事をする朝倉を睨みつけながらも、パンフレットと魔法具を配り続けていく。これはサバイバルゲーム方式を模した一般人による無意識の殲滅作戦のためだ。

 作戦はネギ先生の立案だが、その情報源は未来から預かってきたフロウのレポートだ。てか、いつのまにこの世界がSFになっちまったのか突っ込みたいところだが、そんな事言ってる場合じゃねぇんだよな。学園長に相談した結果、死蔵されてた魔法具をどっかから掘り出して来たらしいが、良くもまぁそんなに都合良くあったもんだ。

 

 超の作戦は学園の占拠から始まる。世界樹中心に機械化鬼神兵を頂点に見立てた六芒星型の大魔法陣で、世界樹の魔力を吸い上げて世界中に強制認識魔法をかけるらしい。どこまで本当なのかは怪しいが何も分からねぇより良いだろ。

 それにどういう訳か、武装解除効果のあるビーム攻撃と強制時間跳躍弾だけで一般人には被害を出さないそうだ。だからと言って脱がされる方は堪ったもんじゃねぇけどな。

 

「いや、それにしてもさー。千雨ちゃんがこっち手伝ってくれると思わなかったわ~」

「人事じゃねぇからな。学園長から依頼も受けたが頼みの綱はネギ先生たちだ。私はせいぜい目立たない程度に目立って囮役だ」

「それは無理じゃないの? ちうたん目立つしさ」

「朝倉はさっさと働け!」

「きっついね~」

 

 とりあえず開始時間の前になったら、私は変装したまま囮としてうろつく。その後は超の飛行船よりも更に高い位置に移動したシルヴィアが、従者契約を使って私を召喚。そのまま特攻って事になってる。

 綾瀬のヤツは森のロボットの機動兵器に気を取られる振りをして、実際のところも森でロボットの討伐になる。なぜかと言うと綾瀬も囮で、世界樹の防衛に必死だっていうフェイクだ。その時はまだシルヴィア達は世界樹の根元に居て、超の本丸に気付いて居ない振りをする。後は上空の鬼神兵が現れたら作戦開始だ。鬼神兵の出現そのものが超の作戦開始で要だって分かってるから、それを潰した上で超に向かうに事になっている。

 

 まぁ、学園の方は魔法先生や魔法生徒が居るんだから、そっちはそっちで何とかしてくれるだろう。そこまで面倒見られねぇからな。そんな訳で時間まではアイドルごっこだ。

 

 

 

 

 

 

 今回の私の役割は囮の一言に尽きます。長谷川さんも囮なのですが彼女にはまた別に本命の仕事があるです。それが彼女と私との大きな力の差から来るものだというのは分かっています。少々歯がゆい様な悔しい様なものは感じます。ですが、世界樹周辺での囮も重要な事に変わりはないのです。

 

「マサカ、怖気付イテネーヨナ?」

「もちろんです!」

 

 これは同時に私の修行にもなる事です。あの時、修学旅行の夜、のどかとハルナ達を置いて逃げ出すしかなかった時の私とは違います。ただただ恐怖に怯えて荒い呼吸を繰り返し、現実なのかと疑いの眼を見せる事しか出来なかった私ではありません。

 

「大丈夫……。大丈夫です、やるですよ」

 

 そうです。ネギ先生との試合から始まり、エヴァンジェリンさんや長谷川さんとの訓練で、私自身の魔法使いとしての能力は格段に上がっているはずです。彼女達と一対一ではまだまだ手も足も出ませんが、相手はただのロボットです。気をつけるのは強制時間跳躍弾ただその一点でしかないのです。

 

「――っ!?」

 

 私自身を落ち着かせて集中しようとした矢先、突然に感じ取った殺気で慌てて飛びのく。すると、今先程まで私が立っていた場所に投げナイフが突き刺さっている事に気付きました。

 超さんのロボット兵達は投げナイフを使うなどと言う情報はありません。いえ、前回は使わなかっただけかもしれませんが、それはともかく斜めに刺さった角度とケタケタと笑う彼女からすれば、投擲した人物は容易に想像がつきます。

 

「チャチャゼロさん。いきなり何をするですか!?」

 

 こんな時に冗談とも思えません。彼女の刃物趣味は理解出来るものではありませんが、流石に性質が悪いとしか言えません。当然の如く、非難を込めた口調で問い掛けます。

 

「緊張シ過ギダゼ。ソレクライ避ケレンダカラ、モット自信ヲ持チナ!」

「え……。はい、ありがとうございます」

 

 まさか心配されているとは……。突然の行動に驚きましたが、彼女なりの気遣いと言うことでしょうか。それとも、これがシルヴィア先生やエヴァンジェリンさんが言う身内への配慮と言う事でしょうか。のどか達の事を考えると少し複雑な心境ですが、受け入れられていると感じる事は、とても、なんと言いますか、そう、安心感があるものなのですね。

 それに、今回の囮役を受ける前、エヴァンジェリンさん達から従者契約の話が持ち上がった事もありました。シルヴィア先生との仮契約では身体の成長が止まってしまいますし、私自身、なんと言いますか、将来的に成長しないのではないかと思うところもあるのですが……。詰まるところの、身長とか胸周りと言いますか……。いけませんね、自分の身体を確かめながら別の意味での絶望感と羞恥心が芽生え始めてきました。

 

「こほんっ!」

「何、変な顔シテンダ?」

「い、いえ。何でもないのです!」

 

 ぎゃ、逆にですが、エヴァンジェリンさんとの仮契約だった場合、ある意味普通の高位の魔法使いとの契約となるわけです。ですがこちらは『管理者』として見ても都合が悪い事があります。即ち、吸血鬼の従者と言うレッテルが貼られるわけです。あくまで裏側の世界に存在する者達でも、表側ではシルヴィア先生の天使の従者という形の方が、対面的にも政治的にも良い事はどう考えても分かる事です。

 ですが私はその契約を今すぐに行う事は断りました。理由は、私自身の身体の事もありますが、何百年も生きる事になる覚悟と言うものが、ピンと来ないと言いますか、簡単に出来る事でもありません。長谷川さんは複雑な理由や仮契約が解除可能と言う事もあって直ぐに受け入れたそうですが、今では契約の破棄をする気は無いと公言しています。私に、そこまでの覚悟が持てるでしょうか……。

 

「オイデナスッタゼ、パーティーノ始マリダ」

「その様ですね……」

 

 悩み込むのも束の間でした。前方を確かめると、森の中に何十体もの人型のロボット兵。それから六本足を持った機動兵器達が進軍してきます。私の背後、つまり南側になるわけですが、そちらには世界樹があります。あちらではエヴァンジェリンさん達が待機しており、機械化鬼神兵と作戦の詰めのための準備を行っています。

 もちろん、私が失敗となればバックアップはあるのですが、今は私に任されているのにその様な痴態を見せるわけには参りません。

 

「斬リ放題ダ! 乗リ遅レルンジャネーゾ!」

 

 その声が開始の合図となりました。彼女の右手には所謂ダガーと呼ばれる両刃の短剣。当然ながら一般人から見たら危険物です。更に彼女は左手に大剣を持ちます。普通の人間が両手で持つようなレベルものを左手だけで扱っているのですから、正に脅威としか言えません。こちらに銃口を向けるロボット達をものともせず、飛び込んだまま小さな身体で縦横無尽とばかりに駆け回って斬り捨てていきます。

 では、私も始めなくてはいけません。彼女の奮闘、いえ暴走でしょうか? それでは囮としては不十分です。やはり、視覚的に十分に価値のあるもので無くてはならないでしょう。

 

「フォア・ゾ クラティカ ソクラティカ 雷の精霊47柱! 集い来たりて敵を射て! 魔法の射手! 連弾・雷の47矢!」

 

 右手に掲げた杖の先に精神力を集中、そのまま雷の精霊を呼び込んで魔法を唱えます。以前とは違い、この数を呼び込んでも直ぐに精神力が空になる事はありません。魔力の器、拡大のための修行と、魔法運用の効率を上げる修行の賜物でしょう。

 杖の先から飛び出した雷の矢は、眩しい雷光を纏いながら独特の音を鳴らしてロボット達の集団へと突き刺さります。波状攻撃で撃ち出したそれは、掠めれば激しく火花を散らして機械部品をショート、あるいは貫通して何体ものロボット達が爆発していきます。

 

「ヤルジャネェカ! マダマダ来ルゼ!」

「分かっています、前を頼むです!」

 

 私達が僅かな会話をする間にも次々と現れるロボット達が、武装解除ビームや強制時間跳躍弾を撃ち出して来ます。ですが、私は待ちを重点的に鍛えた身です。防御能力、回避能力、そして固定砲台としてのカウンターが決め手です。ビームも弾丸も直線的な動き、掠めたら危険である事は十分承知しているので、余裕を持って回避して行きます。

 だからと言って敵も馬鹿の一つ覚えではありません。渦巻いて黒い球状に展開する強制時間跳躍弾を、連続して何十発も撃ち出されれば、それは点ではなく壁となります。それら危険だと判断できるものは、無詠唱の雷の一矢で先に爆発させます。また、ロボット達の中に飛び込んだチャチャゼロさんが、斬り捨てたロボット達の残骸に大剣を刺し込み、他のロボットや弾丸に当てる事で彼らの手数を減らしてくれています。

 

「ケケケ! 脆イナコイツラ!」

 

 流石と言うべきでしょうか。エヴァンジェリンさん達と何百年も生きてきた分の戦闘経験は伊達では無いと言う事でしょう。

 さてそれでは、私もここで囮らしく、今一度派手に魔法を使う必要があるでしょう。

 

「フォア・ゾ クラティカ ソクラティカ――」

 

 必要なのはこちらに注目を集めるくらい派手な魔法を使う事。同時にロボット達を殲滅すれば、それだけここに戦力が集中している事が分かるのです。対個人用の白き雷や雷の投擲では、精々拡散状の範囲にしかダメージがありません。ならば必要なのは、より目立つ電撃を広範囲に振り撒く中級あるいは上級魔法ですね。

 今の私では上級に当たる千の雷を使えば魔力切れどころかそのまま気絶もありえます。ならば中級魔法を使う事で精神力を温存しながら、目立つと共にロボット達の撃破数を稼ぐのが良いでしょう。

 

「――来れ雷精 闇の精 闇を纏いて 荒ぶり焦がせ 常夜の稲妻 闇の雷束!」

「殺ッチマエ!」

 

 再び杖の先端から雷光を伴った魔法が放たれます。ただし闇の精霊と合わさった黒い雷が。放たれる直前にチラリとチャチャゼロさんへ視線を送ると、既に私から放たれる魔法の先、即ち直線に放たれた稲妻の範囲から退いていました。

 先程の魔法の射手とは違い大量の魔力と精神力が吸い上げられて行きます。ですがやはり、以前ほどの疲労はありません。それでも囮として派手に、そしてより多くのロボット達に魔法を当てるために、直線に放った魔法の軸を上下左右に少しずつずらして行きます。森そのものを魔法の火災で失う訳には行きませんが、ここは仕方がありません。出来る限り被害が出難いように、広範囲になるように魔法を操作していきます。

 

 魔法を放った後には、ロボット達の残骸と難を逃れた者達がいくらか残されている様でした。しかし彼らは恐怖を覚える事も無く、またどこからか増援がやってきて、我先にと襲い掛かってくる様子が伺えます。

 

「大量ダゼ!」

「余り喜ばしい事ではありません! ですが、まだまだやられるつもりはありません!」

「良ク解ッテルジャネェカ!」

「フォア・ゾ クラティカ ソクラティカ 雷精召喚 槍の戦乙女 21柱!」

 

 今度は雷の槍を持つ分身体を召喚。私自身は少し後退して魔力と精神力の回復に努めます。そのままロボット兵の集団に杖を向け、召喚した精霊に向けて高々と命令を出します。

 

「突撃するです!」

 

 命令を受けた精霊の分身は、一斉に構えた槍で突撃していきます。人型や六本足型と大小に関わらず、突き刺し斬り裂いた槍でロボットをショートさせて爆発させていきます。それに負けじとチャチャゼロさんも張り切っていますが、まだまだ囮作戦は始まったばかりです。

 本番は超さんとネギ先生、そしてシルヴィア先生と長谷川さんの作戦が終わるまで続くのです。いつ終わるかとも分からない戦場ですが、それでもまだまだ倒れるわけには行かないのです。

 

 

 

 

 

 

 ついに始まったってところか。高い建物の屋上から学園を見下ろすと、図書館島の麻帆良湖から進軍して来たロボット兵の大軍が見える。コイツ等の進路は世界樹広場だったな。学園を六芒星で囲めるように、それぞれの頂点に向かって確実に進んでいる。その様子を魔法使いのコスをした朝倉が、実況しながらイベントとして盛り上げるってところか。

 それに世界樹の森の方で黒い雷が見えたし、綾瀬の方は始めたみたいだな。こっちも高みの見物してる場合じゃねぇか。

 

「神楽坂達も頑張ってるな。桜咲だけじゃなく近衛も前線の近くなのは修行の成果か?」

 

 神楽坂達の様子を見ると、一般人がサバイバルゲームのつもりで撃ち損じたロボット兵を、アーティファクトの大剣や神鳴流剣術で次々と斬り倒してるところだった。

 近衛はどうするのかと思えば、呪符を使って地面から石の槍を突き出したり、ロボットが突然ひしゃげたりと奇妙な攻撃していた。

 

「陰陽術の五行ってヤツか? 専門外だから分かんねぇな」

 

 とにかく最初は囮の為に目立たねぇとダメなんだよな。あんまりやりたくねぇけどこればかりはしょうがねーな。イベントらしくする為にカメラで実況してるから、映らねぇように瞬動で移動するしかねぇか。そう決めてから感掛法で魔力と気を合成。万が一、私が強制時間跳躍弾を受けたら作戦の失敗率が上がるからな。遠慮なんてしないで初めから全力で動く。

 屋上から飛び降りて、そのまま虚空瞬動で一気にロボット達の中央まで突き進む。すると、ロボット兵のカメラアイみたいなのが、一斉にこっちを捉えようとするのが分かった。まぁこんな目立つやり方したら当たり前だよな。

 

「最優先ターゲットB類ヲ発見。攻撃ニ移リマス」

 

 まぁ大体予想通りだな。ロボットから機械独特の音声が聞こえたかと思うと、一斉に銃口をこちらに向けてくる。未来のレポートを読んだ感じだと、このまま数百発の銃弾で的にされるとか冗談じゃねぇんだが、とりあえず色々やってみるか?

 攻撃される前にテティスの腕輪に精神を集中。自分の周囲に掌サイズの水球を大量に作り出す。一個一個のサイズは小さいが、銃弾の数も多いから十分に巻き込まれてくれるはず。さらに大型の多重魔法障壁を展開してロボット達の様子を見る。

 

「で、どうすんだ?」

 

 少し挑発する様にロボットに向けて言う。ロボットにこんな言い方したからって何かが変わるわけじゃねぇだろうがな。てか、やっぱり意味無さそうだな。銃口を向ける数がただ増えただけだ。

 

「――っ! 撃ってきたか!」

 

 ホントに何百発も有るってか? いちいち数えてられねぇけどな。撃ってきた銃弾は、パッと見どれが本物か強制時間跳躍弾か区別がつかない。しかも私が中央に飛び込んだから全方位からの攻撃だな。武装解除ビームはとりあえず無視。私の魔法障壁とこの本気魔法衣をその程度で貫けると思うなよ?

 一般人から見たら冗談にしか思えない程の数だが、エヴァの訓練で魔法の雨を経験してれば物の数じゃないな。アーティファクトの水球をぶつけてやると何十発かはその場で黒い渦状の球体になって消えた。なるほどな、レポートの通り衝撃を受けた時点で爆発して飲み込むのか。

 

 残った銃弾はまだまだ何十発も有る。それを何度も何度も大きく避けて、その間に再び水球を作ってぶつける事で無効化していく。その途中で一気に空に飛び上がって、ロボット兵達を破壊するための魔力を練り込む。

 

「――魔法の射手! 連弾・雷の51矢!」

 

 飛びあがった姿勢のまま雷の魔法を唱える。バチバチと雷特有の音を鳴らしながら、時間差で放った雷の矢でロボットの集団を次々と撃ち抜いて爆散させる。撃ち損なっても周囲に巻いた水球でショートしてくれたら御の字ってな!

 

「って、何だっ!?」

 

 突然に聞こえて来た風切り音と、ロボット兵達のマシンガンとは違う単発の銃撃音。遥か遠くから飛び込んで来た銃弾に、とっさにレポートの内容が頭を過ぎる。

 

『龍宮真名がスナイパーとして参加。遠距離からの狙撃に注意』

 

 マズイ! 術後を狙い撃ちにされたか!? 一瞬、思考と驚きで体が硬直したが、無理矢理身体を動かして銃弾の方向を確認――するよりも水球で周囲を守る方が早い! 素早く水球を動かして自分自身の周りを大きく余裕を持って囲ませる。するとその内の一つが黒い渦に飲み込まれて消えた。

 くっそ、遠距離からも来るなら全く気が抜けねぇじゃねーか! 未来からの情報が無かったら確かにヤバかった。知らないままガードしたら終わってたな。それにしてもコイツ等マジでどんだけ弾があるんだよ。さっきからずっと避け続けていい加減疲れて来たぞ。

 

 そんな中で突然、麻帆良湖の方から大きな悲鳴と爆発音が聞こえてくる。そちらに視線を送ると、優に三十メートルを越える、機械化された三体の鬼神兵の姿が見えた。それらは極大の武装解除ビームを放って湖岸の一般生徒達をなぎ払っていく。

 

「ちっ、それなら!」

 

 このまま地上や空中に居て囮になっても良いとは思う。だが、鬼神兵を一体でも良いから水に引き摺り込んで倒せばかなり楽になるはずだよな? てなわけで目晦ましだ! 飛び上がったまま空中でテティスの腕輪に意識を集中。三十センチ程度の水球を大量に作って浮かび上がらせる。そのまま私を中心に周りで回転させて、身体を隠しながら目立つ囮にする。

 当然、地上からロボット兵による集中攻撃が来るだろうけど、残念だったな。私はこのまま水のワープゲートを作って、麻帆良湖まで転移させてもらうぞ。

 

 

 

「う~む。テティスの腕輪で濡れないからって、水中で喋れて息も出来るってのはどうなんだこれ?」

 

 腕輪の効力が大きいのか、自分が半分水精霊だからなのか少し悩むな。その内腕輪無しで素潜りでもして確かめてみるか?

 ま、そんな事考えてる場合じゃないな。機械の駆動音も聞こえてくるし、さっさと鬼神兵を倒さないと。……待てよ? 何で水中に居るのにこんなに機械の音が聞こえるんだ? まさか!?

 

「マジか……。超のヤツ、ここまでするか!?」

 

 周囲を見渡すと、そこにはジェットスクリューを付けた小型潜水艦の様な機動兵器。全ての機体が先端に付いた銃口を向けながらハイスピードで接近してくる。

 

「くそ! エゴ・ルク プルウィア ファートゥム 逆巻け春の嵐 我らに風の加護を 風花旋風 風障壁!」

 

 大慌てで魔力を練り込んで水中で風の精霊を集める。私自身を中心にして発生した水竜巻で、機動兵器たちが狙撃を始める前に何とか巻き込む事が出来た。もし撃たれてても風の壁で妨害出来たから、先に回避出来た分だけ良しってところだな。そのまま水竜巻は空――この場合は水上に向かって――機動兵器たちを吹き飛ばして行く。

 再び精神を集中して追撃の魔法を唱える。攻撃対象は巻き上げた機動兵器と湖岸の鬼神兵。一般生徒が居る学園側の方向じゃなくて、外れに向かって撃ち出せる角度に居る鬼神兵を見据えて魔法を唱える。

 

「エゴ・ルク プルウィア ファートゥム 来れ水精 風の精 風を率いて 押し流せ 南海の嵐 嵐の大水!」

 

 呼び込んだ風の精霊が再び渦を巻き、水の精霊を伴って激しく回転を始める。巻き込んだ機動兵器を水撃と風の刃で切り裂いて、角度をコントロールしたまま水竜巻で鬼神兵の脚部を狙う。鬼神兵まで届いた一撃は脚部に直撃した、と思う。水中からの確認だが手応えがあったから間違いないだろう。そのまま水竜巻で脚を捻じ切って破壊する。

 水中から次々と上がる水飛沫と水竜巻は、湖岸から見れば一種のアトラクションとかに見えたはずだ。認識阻害が残ってたらの話だがな。そこまでは面倒見れねぇよ。

 

 激しい水飛沫を上げて湖面に倒れ込んだ鬼神兵が視界に映る。これはチャンスだよな? ここで破壊したら流石に目立つけど、水中で封印しちまえば目立たねぇだろ。

 

「エゴ・ルク プルウィア ファートゥム 契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ とこしえのやみ えいえんのひょうが! 全てのものを 妙なる氷牢に 閉じよ こおるせかい!」

 

 残った精神力を魔法に注ぎ込んで氷系の上級封印魔法を唱える。そろそろ連発で疲労が溜まってきたが、ここで気を失うわけには行かないからな。気を引き締めて最後まで魔法に気力を込める。

 鬼神兵の周囲に氷の精霊が急激に集まると、湖中に閉じ込める絶対零度の氷柱になって封印が完成した。

 

 ふぅ、とりあえずコレで一体か。て言うか良く考えたら、余波で湖全体も私自身も凍る可能性があったのか? こっちは流石に試したくねーな。とりあえず魔力を一気に使ったし一息ついてからだな。水中の方が安全って人間辞めてるのをハッキリ感じて微妙なんだが、まぁ気にしないでおくか……。

 一旦ここで休憩しておいて、様子を見てもう一度ロボット兵の集団まで転移ってところだな。引き付け作戦も始まったばかりだから、まだまだこれからなんだよな。今の内に体内魔力と体外魔力を循環させて、精神統一とそのついでに魔力を回復させる。水中じゃ回復薬を飲むってのも無理だし、まだまだ温存しておきたいからな。


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