青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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 普段より文字数が多いです。移転前の69話の終盤を付け加えて推敲したので、切れる部分も少なく、結果的にこうなってしまいました。


第70話 学園祭(2日目) 見えてきた真実

「さてと、それじゃ夕映ちゃん。決意は固いって言ったけど、その気持ちは今でも変わりは無い?」

「はい。きちんとエヴァンジェリンさんから魔法を学びたいと思っています」

「何だ、今までのでは物足りなかったと言うのだな?」

「えっ? いえ決して、その様な意味ではないです!」

 

 図書館島で分かれた私達は、エヴァちゃんの家に夕映ちゃんを連れて来て話をしている。このリビングには千雨ちゃんと合わせて四人。夕映ちゃんが一番馴染んでいるメンバーだけで、落ち着いて話が出来るようにしてる。

 ちょっとエヴァちゃんが夕映ちゃんに意地悪するような事を言ってるけど、これは一応エヴァちゃんなりに、夕映ちゃんの事を考えてくれてるって事だよね?

 

「えぇと、それだけじゃなくてね。『管理者』としての私達の事。そしてその先の事もあるの。『管理者』の実体は『学園関係者』の重役なら知っているんだけど、先に関しては知ったら後戻りは出来ないよ? それでも、夕映ちゃんは知りたい?」

 

 この事は私達がこの世界の外から来たと言う秘密。私も皆もずっと一緒に居るから、もうこの世界の人間なんだって自覚はある。でも突然に、ここが創作の世界だって知る事は、少なからずショックを受けると思う。

 人によってはあっさりとしたものかもしれない。でもここの場合は、傲慢な神様が遊び半分に作った世界。そんな中で生命を授かったって事は、色々と悩んだり、許せなかったり、複雑な気持ちも抱くんじゃないかって思う。

 

「あの、『管理者』とは学園と取引をしている派閥なのですよね?」

「正確にはかなり違うかな。私達は文字通り麻帆良の土地全体を保有していて、それには世界樹も入っているの。それに『学園関係者』の魔法使いが私達に対して攻撃をした事実が無くても、害悪であると理性的に判断したら、処罰出来る契約を結んでいるの。他にも細かい話はあるんだけどね」

「え、もしやそれはネギ先生だけではなく、のどか達も含むのでしょうか?」

「そうだね。ちょっと辛いかもしれないけれど『学園関係者』だからね。でもそれは契約上の利益関係。あえて言うけど重要じゃないの」

「私としては、十分に重要だと思うのですが……」

 

 ちょっと早まった決断をしたかもって考えさせちゃってるかな? 少し表情が暗いし、自分が親友やネギくん達を監視する立場になるかもしれないって考えたら、きっと辛い気持ちになるよね。でも、夕映ちゃんに勘違いさせちゃうと不味いから、少し補足しておかないと。

 それに私達は、絶対に世界樹に手を出させるわけにはいかない。その為に学園と交わした、私達の身を守るための契約だからね。私達はこの世界の中で寄り集まった小さな家族で大切な仲間だから、絶対に失いたく無いって思ってる。

 

「勘違いしないで聴いて欲しいんだけど、私達は好き好んで学園の人達を害しようとしてるわけじゃないの。監視者って考え方よりも共存。学園は世界樹の魔力の恩恵や、私達という一種の抑止力で成り立ってる。もちろん私達の存在は公なものじゃなくて、魔法使いの国の偉い人とか、裏社会的な部分でしか知られていないの」

「それは持ちつ持たれつで、学園の魔法使い達をご自身の隠れ蓑にしているわけですね?」

「えっと、実も蓋も無い事を言うとそうなんだけどね?」

「綾瀬夕映。決して世の中が綺麗なものだけで出来ていると思うな。仮に私達がこの地を出れば、人ではない者として追われる事もあるだろう。逆にその力を利用するとする者も出る」

「お互いがお互いに平和に生きていくため。無用な争いを避けるためってところかな」

「そうですね。人の枠を外れた皆さんのため、この学園の魔法使いとの良好な関係が重要な事は分かりました……。ですが、その先とは? それは長谷川さんも知ってるのですよね?」

「あぁ、まぁな。知らずには居られない話だったからな。もちろん、今更抜けるつもりはねぇよ」

 

 千雨ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいかな。私達の事を受け入れてもらえているって感じられて、心が温かくなる。基本的にイレギュラーな存在で、私達のせいで運命が狂った人が居るかもしれないこの世界。

 私達が転生と言う反則を犯してここに居る事で、少なからず今居る人たちの未来を知ってしまっている事。そのために行動の取捨選択をしなくちゃいけなかった事。それについて卑怯と思われるかもしれない。何で助けてくれなかったのかと言われるかもしれない。けれど、私達だってこの世界で生きている一つの命で、私達の生活もある。知っているならその全てを救ってくれ、なんて言われると困ってしまう。

 

 出来る事をして世界を救う。目に映る人を助ける。フェイトくん達の事もあるし、その事を忘れる気持ちは無いけれど、救える力を持っていて救えない人が居るのも事実。

 でも、私が出しゃばる事で救おうと動いている人が迷惑を受ける場合もある。あの組織に頼りきりにすれば良い、何でもやってくれる便利屋。何て事になると、その人達の生活や意義を崩してしまうからね。それに皆が公の視線に晒される場合もある。でも本当に、葛藤する気持ちはいつまで経っても消せないんだけどね。

 

「あの、随分と場の空気が重いのですが……」

「そうだね、この先に来れば、私達は身内。家族として考えるよ。それだけの理由があるからね」

「そこまで言うならば、本当に逃げ道が無いように感じられます。いえ、まるで一線を引いている様な。それ程までに重い秘密と言う事でしょうか?」

「そうだね。私達から見ても、夕映ちゃんから見ても大きな問題だよ?」

「綾瀬夕映。お前がこちら側に来る事で、卑怯者と言われる事もあるだろう。闇に身を染める事もあるやもしれん。だが、お前が望む守れる力は確実に身に付く。後は、お前が道を間違えずにいる事だ」

 

 エヴァちゃんもきつい事を言うけど、重い事実なのは間違いないからね。千雨ちゃんの時みたいに、周りに誰も信じられる人が居なかったってわけじゃないから、判断は難しいかもしれない。

 夕映ちゃん自身も難しい顔をして悩んでるし、きっと友達の事とか、学園関係者の事。『管理者』の契約以上に重い事実と言われれば、簡単には決められないよね。

 

「……分かりました。私は、それでもお話を聞きたいと思います。決して軽い内容では無いと、分かっています。それに、エヴァンジェリンさんが言う事は、学園側に居てもシルヴィア先生の側に居ても、魔法使いとして踏み込んだ今は、決して逃れられない道だと思います。それに一般人の目から隠れるため行為や、共存の為の取引などもあるのでしょう」

「それは、学園との契約とかだね。もちろん私達は――」

「良いんじゃねぇか? そんだけ理解してんなら、エヴァの教育の賜物だろ?」

「フロウくん!? 麻衣ちゃんも!」

「あはは、気になっちゃいまして……」

 

 話が終わるまで待っててもらうつもりだったのに……。麻衣ちゃんの姿は特に驚かせちゃうから、きちんと説明してからのつもりだったんだけどね。

 

「あ、あの。そちらの方は? 初めてお会いしますよね?」

「こんにちは、綾瀬夕映さん。私は世界樹の木霊をやってる菜摘麻衣って言います。これでもシルヴィアさん並に長生きしてるんですよ」

「世界樹の!? いえ、ですが……。そうですね、あれほどの魔力を持つ大木ですから、精霊が宿らない方がおかしいのかもしれません。しかし、ここまでハッキリと意思があるなんて……」

「まぁエヴァと千雨以外は訳有りだからな」

「もう、フロウくんてば。きちんと説明してから紹介しようと思ってたのに」

「別に良いだろ。特に麻衣は直接見せた方が早い」

 

 そ、それはそうなんだけどね。夕映ちゃんがこっちにハッキリ来るって宣言してくれたから良いんだけど、学園関係者が居たら困った事態になるところだったよ。

 

「えぇとその、結局秘密と言うのは菜摘さんの事でしょうか?」

「違うよ。もう単刀直入に言っちゃうけど、訳ありって言うのは、私達は全員この世界の外からやってきたって事」

「それは、天使という事を考えたら当たり前なのでは?」

「そうじゃねぇよ綾瀬。お前らよく本とか読むだろ? 例えば本の中の世界に現実の人間が入っちまって、そのまま英雄とかになる話とかねぇのか? ありそうだけどよ」

「……え?」

「千雨ちゃんの言う通りでね、この世界はある傲慢な神様が漫画の世界をモデルに作り出した新しい世界。私達はその世界に投げ出された、異世界の人間だったの」

「ちょ、ちょっと待ってください。では皆さんは、私達というキャラクター相手に、天使と言う姿を借りて干渉している存在なのですか?」

「落ち着けって。そうじゃなくて現実なんだよ、ここは。シルヴィア達だって、この世界に投げ出されたまま今まで生きてきたんだ。私達もキャラクターじゃなくて、一人の人間なんだ」

「……す、すみません。少しだけ考えさせてください」

「大丈夫だよ、ゆっくり考えてね」

 

 やっぱり、混乱させちゃうよね。この世界の人から見たら、私達が干渉する事を面白く無いって考えるかも知れないし……。自分が作られた存在だなんて言われたら、魔法の公開と同じくらい波紋が広がると思う。証明する手段はないけど、安々と広めて良い話じゃない。

 ブツブツと自問自答をしながら、必死に自分の考えを纏めようとしてるね。何とか折り合いを付けて、夕映ちゃんなりに納得してくれると良いんだけど……。

 

「お二人とも、一つだけ、質問させてください」

「何だ?」

「あぁ、良いぞ」

「それは、直ぐに受け入れられましたか?」

「愚問だな。私が真祖になる運命は決まってはいたが、それが何だと言うのだ。むしろアンジェと言う大切な妹が出来て、こうして共に生きる仲間もいる。そのための力も意思もある。逆に何も無ければ数百年を一人で投げ出されていた。吸血鬼として迫害され、殺し殺される人生は容易に想像がつく。それに比べれば遥かにましだ」

「私はすぐ受け入れたよ。周りは嘘だらけで、現実なんてあってなかったからな。先にエヴァって言う大物がいたし、何よりもシルヴィアは、当時悩み込んでいた私の事も受け入れてくれた。学園長達よりもよっぽど信頼できたからな」

「そうですか……」

 

 少し気持ちの整理が付いたのかな? 二人の考え方を聴いて、ちょっと落ち着いたように見える。

 

「すみません、先程は取り乱しました。確かに出戻りは不可能なようです。のどか達どころか、他者に教えたくても教える事は出来ないはずですね」

「ごめんね、騙まし討ちみたいになっちゃって」

「いいえ、黙っているだけに値する理由です。正直、かなり動揺しましたが……。公開したとなれば相当の混乱が考えられます」

「あぁそうだ、ついでに言っておくけど私も半分人間辞めてる。さっき綾瀬が、一人だけ人間で不自然だって言ってたのはそう言う事だ」

「えっ、まさか長谷川さんも何百年も生きてるのですか!?」

「一応同い年だな。ただダイオラマ球で何年か過ごしてるから、厳密には違うか? シルヴィアの仮契約のおかげで半分精霊になって年取らないんだ。反則だろ?」

「はぁ……。何でもありですね。聞くだけで大分神経が磨り減った気がするです」

「私達も長い間生きてこの世界に干渉してるから、運命が変わった人もいると思うんだ。良い方向になった人も悪い方向になった人も居るかもしれない。でも、この世界に転生と言う形で放り込まれた私達は、お互いに寄り添って、守れる場所を作る必要があったんだ」

「はい。その考えは分かります。私がそうであったとしても、まず生活を整える必要と、生き延びる手段を考えざるを得ません」

 

 私の場合あの家を貰った後に飲み水とか周囲の環境を整えて、それからずっと修行していたから良かったけど……。もしあの時、岩場に投げ出されたままだったらって考えたらゾッとするからね。

 それに、夕映ちゃんが理解を示してくれた事が本当に嬉しい。まず私達の事を受け入れてもらえないと、仲間内でぎすぎすしちゃうし、怒り任せになじられるとこの先の夏もあるから、落ち着いて話を聞いてくれて本当に良かった。でもある意味、本気でぶつかり合う事は必要だと思うけどね。

 

「細かい話は後で良い。とりあえず来い”夕映”。ダイオラマ球で稽古を付けてやろう」

「え、今からですか!?」

「夕映ちゃん。私達はおぼろげだけど、原作のストーリーを把握してるの」

「あっ! そ、そうです! ここが物語の中の世界と言う事は……。まさか、のどかとネギ先生に言った戦争と言う言葉は真実で、これから起こる史実だと言う事ですか!?」

「どんな規模かは分からないけどね。それに超ちゃん何かを起こし始めてる。だからそのために色々対策をしてきて、特に主人公のネギくんには凄く気を使ってるの」

「私が……。こちら側を選んだのは正解だったかもしれません。何も知らないまま、ネギ先生の横をのどか達に歩ませるのは、あまりにも危険でした……」

「そうだね。それもあるから、これから夕映ちゃんはちょっと大変だと思うよ」

「いえ、自分でお願いしたのです。どうか、よろしくお願いします」

「もちろん。こちらこそよろしくね」

「よし、時間が惜しいからな! さっさと行くぞ夕映」

「は、はい!」

 

 エヴァちゃんに引っ張られるように夕映ちゃんが地下室に連れて行かれる。随分と張り切っているみたいだから、実はエヴァちゃんは嬉しかったりするのかな?

 

 それにしても、夕映ちゃんには闇の祝福をした時はこっち側に来るとは思わなかったよ。それに、私かエヴァちゃんの従者になりたいなんて……。私と契約すると千雨ちゃんみたいに半精霊化しちゃうし、エヴァちゃんの場合は仮契約ならまだしも、吸血鬼化しちゃうとそれもまた問題があると思うんだよね。

 いくら力や魔力の器が大きくなると言っても、人間の人生を外れちゃうし後戻りが出来なくなるかもしれない。こればかりは夕映ちゃんの意思をしっかり確かめておかないと。

 

「ねぇ、フロウくん。夕映ちゃんはエヴァちゃんの従者になると思う?」

「なるならシルヴィアだろ? 千雨の寿命の事も聞いたし、安全面や知識欲からして契約する可能性はある。意外とエヴァも気に入ってるみたいだし、先において逝かれるのも辛いものが有るからな。けど問題はそこじゃねぇ。アイツの場合は闇との相性が良い。闇の祝福もあるから、どっちと契約してもアイツは闇の眷属になるだろ?」

「あ……。ひょっとして、魔族化しちゃったりするかな?」

「エヴァと契約したらそうだろうな。シルヴィアとするなら闇の精霊か? 吸血鬼化は日光やニンニクなんかのリスクがあるから、お前とやった方が良いだろ」

 

 これはちょっと、夕映ちゃんを気を付けて見ておかないといけないかもしれない。理性的な子だから、闇に飲まれて暴走は多分無いと思うんだけど、相性が良すぎて本能で暴れる魔物になっちゃったら目も当てられないからね。

 

「しっかし、エヴァのヤツ張り切ってんな。綾瀬が数日後どうなってんのか想像がつくぞ……。まぁ、血は吸われまくるだろうな」

「うん……。後でスタミナ料理でも作りに行こうか」

「んじゃ俺は近接訓練でもしてやるか。もちろん後でグラニクス送りだ」

「またそれ? 夕映ちゃんの事おもちゃにしてない?」

「しなかったら成長しねぇだろ?」

「ホンットーに性格悪いなお前ら。綾瀬がマジでバトルマシンになったらどうすんだよ」

「ククク。そんときゃそん時だ。上手くエヴァと躾けてやるよ」

 

 はぁ、やっぱり心配だね。後で見に行こう。とりあえず夕映ちゃんの事は二人がきちんとしてくれると信じて、今は超ちゃん用の感知結界を待たないといけない。

 今日は夜まで家で待機してて、結果を確認しよう。今直ぐに様子を見に行く事は出来ないね。

 

 

 

「あっ、超ちゃんの反応が出た!」

 

 そして夜になると、頭の中に閃く独特の感覚が走った。そして伝わってくる結界の中のイメージ。龍宮神社の回廊の中に突然現れた超ちゃんが、捕縛陣に捕らわれる瞬間が見えた。

 ちなみにエヴァちゃん達はダイオラマ球から出てきたけれど、夕映ちゃんはダウン中。別荘の中は時間が二十四倍だからこういう時は休息に使えて便利なんだけど、そこまでやらなくても良いと思うんだけどね。

 

「ほう、転移で行くか?」

「そうだね。私は何かされてる可能性があるから、フロウくんと千雨ちゃんも来てもらえる?」

「良いぜ。どんな小細工をしてくるか楽しみだ」

「シルヴィアが何かされてるって、私でどうにかなるのかよ?」

「それはちょっと分からないけど、何か糸口は見つけないとね?」

「雑談してる暇はないぜ。逃げられたら面倒なんだろ?」

「そうだね!」

 

 学園の先生達も居る可能性があるから、今回はエヴァちゃんの影のワープゲートで転移。直ぐに外に出て集まって、地面に開いた影の大穴から龍宮神社の裏まで一度に転移した。

 

 

 

 龍宮神社の本殿近くの回廊まで、急いで駆けて行く。ここで逃すと、きっとまた明日までに捕まえるのがとても大変になる。また時間を移動されても困るし、学園の中を転々として逃げる事は分かっているから、捜索にも時間がかかる。

 魔法先生達は来ていないみたいで、今ここには私達だけしかいない。物陰から出てそっと近づこうとしたけれど、魔法が使えないはずなのに既に捕縛陣は破られていて、こちらに気付いている様子で声をかけてきた。

 

「オヤ? 見つけるの早すぎネ。隠れる暇も無かたヨ」

「超ちゃん……。悪いけど、ここで捕まえさせてもらうよ?」

「それは無理だと思うヨ?」

「そんじゃ試してみるか?」

 

 フロウくんが宣言したと同時に、右手の指先が伸びて竜の爪になる。そのまま瞬動術で超ちゃんの目の前まで迫り、顔面目掛けてその爪を突き出した。

 

「おぉ、これは怖いネ。だが無駄だと言ったはずネ♪」

「ふーん。お前これどうやった? いや、”既にやっていた”が正解か? 俺達全員か?」

 

 止める暇も無いままに飛び出したフロウくんの右手の爪は、文字通り超ちゃんの目の前。左目の眼球直前で止まっていた。それに、フロウくんは拘束も何もされていない。

 超ちゃんはそれに怯える事無く、普段の笑顔のままこちらに視線を送っている。その自身有り気な視線に、思わずゾクリと寒気を感じた。少しやり過ぎじゃないかと思ったけれど、もしかしたら、私達は想像以上の相手を敵にしているのかもしれない……。

 

「潰れても魔法で治せる。こいつは明らかに避けるそぶりも見せなかった。つまりは回避可能。やられても回復手段があると言う事だ」

「いやお前、容赦なさ過ぎだろ?」

「まったくネ。肝を冷やしたヨ?」

「はっ、計算づくだろう? で、俺達を封じてある、と言う事は手を出されると困る、あるいは巻き込む気が無いって所か? 言え」

 

 普段の相手をからかう時の態度や、楽しむ態度じゃない。完全に敵に対して、威圧する態度で言葉を投げかけている。

 

「わざわざ言う事カ?」

「そうか。て事はやっぱり未来の俺達を知ってるんだな?」

「……見逃してもらえないカ?」

「そういう訳にも行かないよ。今こうやって大々的に魔法をばらせば大混乱になる。だから、今は超ちゃんを捕まえるよ? もし、魔法をばらさなくちゃいけない理由があるのなら、それはちゃんと話して欲しいな」

「悪いがまだ話せないヨ……。私は、命をかけてここに居る。誰にも邪魔はさせないし、あんな歴史、二度と繰り返させたくない! 準備にかけた二年と半年。僅かそれだけの時間かもしれないが、私には人生の全てをかけた時間だたヨ! 例え誰に邪魔をされようとも、絶対に成し遂げるまで諦められないネ!」

 

 超ちゃんの瞳は大きく見開かれて、強い意志を宿す瞳からは強烈な決意が伝わってきた。口調も普段の人懐っこいものではなく、一言一言がお腹の底から搾り出された声で、どうしても譲れない諦められない気持ちをひしひしと感じる。

 

「超ちゃん。理由も話せないの?」

「言ったヨ、世界のためだと。そして、私達のためでもあるネ!」

「おい超。お前が言う私達ってどこまで入ってる? お前、もしかして未来でシルヴィアの知り合いか何かと言う事か?」

「……タイムパラドックスとバタフライ効果」

「えっ?」

「私に言えるのはここまでネ。余計な事をすると、計画の前に何が起きるか分からないネ。だからこれ以上は何も言えないヨ。そして――」

 

 超ちゃんが何かの機械端末を握ってサインを送る様な仕草をすると、私達の前に突然に銃撃の乾いた音が鳴り響いた。

 さらに、私達が誰よりも見知ったはずの人物が、ジェット音を上げて降りてくる。

 

「皆さん。申し訳ありません」

「茶々丸ちゃん……。超ちゃんの実験って、こう言う事なの?」

「はい」

 

 空から降りてきた茶々丸ちゃんがその手に持つのは、修学旅行で使ったものと同じタイプの結界弾を詰めた銃。それを私達の足元に向けて佇んでいる。

 

「私はまだここで費える訳には行かないヨ。ここは逃げさせて――」

「簡単に行かせるかよ! エゴ・ルク プルウィア ファートゥム 風の精霊21柱! 縛鎖となり 敵を捕らえろ 魔法の射手・戒めの風矢!」

 

 今度は千雨ちゃんが風の精霊の捕縛魔法を唱える。急速に作り上げられたそれは、鞭の様にしなる風の矢になって超ちゃんに向かって走って行く。

 すると、どういう訳か私の時とは違ってきちんと効果が出た。風の矢が超ちゃんを縛り上げて、その場に固定する。

 

「捕まえられた!?」

「おぉ。捕まってしまたネ」

「超ちゃん……。話し、聞かせてくれる?」

「残念だがそれは無理ネ」

「――えっ!?」

 

 いつもの気軽な声におかしいと思った瞬間、超ちゃんはいつの間にか真後ろに回って声をかけてきた。その声に驚いて振り向くと、変わらない人懐っこい笑顔。

 たった今、目の前に居たはずなのにこの速度はありえない。私もエヴァちゃんも誰の目にも捉えられないなんて。それに何の素振りも無く、拘束した矢を抜け出した事もおかしい。

 

「なんだそりゃ? 未来の技術か魔法か? 面白い事するな。せっかくだから教えてくれよ」

「フフフ、それは秘密ネ。だがこれで、今私を捕まえられないと言う事は分かてもらえたカ?」

「本当に個々に対策を練ってあるんだね。そこまでしないといけなかったの?」

「ウム。と言うわけでこの場は退散させてもらうヨ」

 

 そう言った超ちゃんの合図で茶々丸ちゃんが発砲。いつかの結界弾だと思ったら、魔力を使った煙幕弾で一瞬視界を見失ってしまった。

 

「超ちゃん!?」

「すみません、超はもう逃がしました。ですがご心配なく。明日の計画では一般人には被害は出ないとの事です」

「茶々丸ちゃん。それは本当の事?」

「はい」

「でも計画が成功したら、確実に一般人を巻き込む事になるよ? それは分かってるよね?」

「はい。ですが私は、製作者である超に、逆らう事は出来ませんので……」

「はぁ……しょうがないなぁ。でもね茶々丸ちゃん」

「はい、何でしょうか」

「それが本当に良い事なのかどうか、プログラムじゃなくて自分の心で考えてね?」

「心……。私に、あるのでしょうか?」

 

 茶々丸ちゃんは機械の体と魔法で動いていても、これまで私達と一緒に生きていた家族の一人。いくら命令で逆らえないといっても、本当にプログラムだけで動いているのなら、ここは即答で反論する所だと思うんだよね。だからその行動を茶々丸ちゃんの心で判断して、良いか悪いか考えてみて欲しい。

 

「今は戻ろっか。私達に出来る事は少ないみたい。悪魔の方に警戒しない?」

「なんだ、主人公様に丸投げか?」

「そういうわけじゃないけど、やれる事はやるよ? でも、超ちゃんに対抗出来そうなのはネギくん達と、千雨ちゃんと夕映ちゃんだけかもしれない」

「私がか? 超のあれは良く分かんねーぞ?」

「うん、良いよ。多分ネギくんがどうにかしてくれるから」

「はぁ? 良いのかよ、そんな適当で」

 

 適当ってわけでも無いんだけどね。私達は何かをされているのは今回の事で確定したし、たぶん麻衣ちゃんもアンジェちゃんも何かをされてる。何もされて無くても、きっとさっきの千雨ちゃんみたいに、分からない方法で回避される可能性が高い。

 

「きっと、あのタイムマシンの時計が鍵だと思う。千雨ちゃんにだけわざと拘束されて、私達には何も出来ないってアピールしてるよね。ネギくんも時計を持っているんだし、何とか使いこなして貰おうよ。それに何も出来なかったら、本来の話が続かないじゃない?」

「あ~、まぁそうなんだろうけどよ。良いのかそれでホントに? めちゃくちゃ不安だぞ?」

「何とかなるよ。後でネギくんとも話してみるね。茶々丸ちゃんも、無理はしないでね?」

「え? は、はい」

 

 ここまでずっと超ちゃん対策をし続けてきたのは、結局無駄だったのかな? 対抗手段が見えた分何も意味が無いって事は無いと思うけど、私達が干渉しすぎたせいで、かえって答えが遠退いたとかは無いよね? でも、ちょっと超ちゃんに向けて、躍起になり過ぎたかもしれないけど。

 

「……少し肩の荷が下りたか?」

「え?」

「昔、麻衣を助けた時と同じだ。抱えすぎんだよ。相変わらず」

「あ~。そう、かな?」

「今回は主人公様に任せて置けよ。それとエヴァの別荘に行って夕映の修行だな」

「あ、そうだったね。ご飯つくりに行こうって言ってたんだっけ!」

「ご飯……。超よりもそっちで慌てんのな」

「重要だよ? 食べなくて平気でも、食べたら気持ちは変わるからね!」

 

 うん。夕映ちゃんも疲れてるだろうし、何かスタミナが付くものが良いかな。後は教員の連絡網で、ネギくんに後でエヴァちゃんの別荘に来るように連絡を入れておけば大丈夫だね。

 と言うわけで茶々丸ちゃんを見送ってから、食材を買い込んで別荘まで移動する事にした。




 2013年3月11日(月) 感想で指摘された点を修正しました。

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