青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第63話 学園祭(2日目) まほら武道会の悪魔(上)

「おはようございます」

「おはよう夕映ちゃん、良く眠れたかな?」

「はい。ですが、私の体感では既に一週間ほど経っているです」

「え? もしかして、朝まで篭ってたの?」

「はいです。先週の、あ、いえ。現実時間では昨日ですね。長谷川さんや高畑先生の試合を見てからまだまだ私の力は足りないと感じました。それに例の老紳士の事も有りますので、訓練を積むのに越した事は無いかと……」

 

 ちょっとそれは驚きだね。ずいぶんと夕映ちゃんはあの老紳士に危機感を持ったって事かな。私達から見たらよほどの相手じゃない限り問題は無いけれど……。

 でも一般人の中学生くらいの子で、ここまで現実的に考えられるのは千雨ちゃんくらいかと思ったんだけどね。夕映ちゃんもこちら側に踏み込むって決めてから、それだけ真剣に考えているって事かな。けど、中学生は今だけなんだし、無理しないで欲しいって気持ちもあるんだよ?

 

「ねぇ夕映ちゃん。修行も大切だけれど、せっかくの学園祭なんだから、楽しもうって気持ちも大切だと思うよ? 余裕を無くしちゃいけないと思うんだ。それに私達だって付いてるから、もうちょっと大人を頼って欲しいかな?」

「はい、ありがとうございます。しかしこの道に踏み込んだ限り、頼り切りはいけないと思いまして」

「そっか。夕映ちゃんは責任感が強いんだね。良い事だと思うけど、全部背負わなくても良いんだから、程ほどにね?」

「あ、はい。言われてみれば、確かにそれもそうですね」

 

 

 

「ほう、これがアリーナ席とやらか。超鈴音め、なかなか気が利くではないか」

「でもちょっと目立つ場所だね。見やすくて良いけれど、注目されると困るし昨晩みたいに結界張っておくね」

「あぁ、任せた。ところで茶々丸、お前はそこで何をしている?」

 

 今私達が居る場所は、龍宮神社奥の水上にある、能舞台に続く橋の手前。そこにいくつもテントが建てられていて、そこをアリーナ席として使わせてもらってる。勿論私達以外にもテントに人は居るんだけれど、プレミアチケットになってるらしくて、入るときには随分と羨ましそうな視線が向いてたんだよね。

 そして茶々丸ちゃんが居る場所は、橋を挟んだ向こう側のテント。見る限りは解説席って書いてあるし、アナウンス機材なんかも置いてあるから、一応運営本部みたいな扱いなんだと思う。

 

「試合の解説と記録の容易さからここに居ます。超の指示で他意はありません」

「そうか。気にせず続けろ」

「はい、マスター」

 

 なるほどね。ここだったらネギくんたちの試合も記録しやすいし、そこは問題無いかな。後は、超ちゃんが何かしてこないかが心配なんだけれど……。

 

「シルヴィア。ちょっと頼む」

「千雨ちゃん? どうかしたの?」

 

 何だかずいぶんと慌てて走ってきたけれど、もう説明会の時間だったよね。

 

「このノーパ持っててくれ。バッグに入れといても良いからさ」

「時間は大丈夫なの?」

「いやマズイんだけどよ、それよりこっちだ。もしかして昨日の事で晒されてんじゃねぇかって調べたんだ。そしたら、ちょっとヤバそうなんだよな」

「ほう……。茶番が見えてきたな」

 

 インターネットのページ? 『遠当の使い手に突撃インタビュー! “気”は実在した!?』

 って、これはちょっと不味いかもしれない。予選の一般人離れした様子とか、結構細かく載ってるね。真実だって言う派閥と、捏造だって否定する派閥が出来てるみたいだけれど、少し炎上気味になってるかもしれない……。

 

「なるべく派手な事はしないつもりなんだけどな。例の紳士相手にかなり不安だよ」

「長谷川さん。気をつけてください」

「あぁ。綾瀬も気をつけろ。もう時間だから行くぞ」

「はい、ありがとうです」

「千雨ちゃん、気をつけてね?」

「あぁ、ありがとう!」

 

 少しでも不安を紛らわせられたら良いんだけどね。やっぱり心配になるよ。

 それに、昨日の今日でインタビューが出来ているのも心配になる。このタイミングだとどうしても超ちゃんを疑っちゃうし、昨日の発言「呪文詠唱の禁止」は気の他に魔法が出てきますって、宣伝している様に感じちゃうんだよね。

 

「フン。動き出したか。見ものだな」

「見ものって言うか、本当にバラすつもりなんじゃないかな?」

「確かにそう思えますが、これだけ見て判断するのは早計では?」

「甘いな。やつは虎視眈々と機会を狙っていたのだろう。おそらく何か仕掛けるぞ」

「でもきっと、超ちゃんなりに世界と戦うって言った理由なんだと思う」

「それで? お前はどうするんだ?」

「勿論見届けるよ。でも、間違ってるって思ったら超ちゃんをきちんと叱りに行かないとね?」

「叱りに、か。良いじゃないか。先生らしく説教でもしてやれば良い。それはそれで見ものだぞ?」

「もう、そんなつもりで言ったんじゃないのに」

「あ、そろそろ始まるみたいです!」

 

 あ、また和美ちゃんが司会なんだね。昨日と色は違うけれど、殆ど同じコンパニオンの服。

 でも、何かあのイヤリングに魔力を感じる。何かをしているのか、されているのか……。後で確かめた方が良さそうだね。

 

『これよりルール説明を行います! 本戦はこの十五メートル四方の能舞台です! 十五分、一本勝負! ダウン十秒。リングアウト十秒。気絶、ギブアップで負けとなります! 時間内に決着が付かなかった場合、観客によるメール投票に判断を委ねます!』

 

 やっぱり、あの老紳士も居るね。両腕につけた白いリングはそのまま。外した場合は、会場を光か影の精霊で覆って隠すとか考えておかないと不味いかな。

 

 千雨ちゃん達は……。能舞台の前の待機場所だね。橋の手前が選手控え場所って所かな。それにしても魔法生徒が多いね。一般人も居るけれど、A組関係者がとても多い。もう試合は始まるけれど、第一試合は愛衣ちゃんと小太郎くんかぁ。

 魔法生徒に登録されてる子だけれど、後衛型魔法使いだったはず。戦士型の小太郎くん相手だったら、前衛無しじゃよほど実力差が無いとちょっと無理だね。

 

「綾瀬夕映、良く見ておけ。前衛の居ない後衛の脆さがあの様だ」

「はいです」

「ま、まぁたしかに一撃だったけれどね? もうちょっと言い方が……」

「無いな。障壁すらまともに張れてないぞ、あの小娘」

 

 小太郎くんの名誉のために言っておくと、フェミニストなところがあるから、瞬動術で飛び込んで風圧で巻き上げて場外勝ち。あの一瞬の勝負ならアッパーで吹き飛んだ様に一般人には見えたかもしれないね。一応、気を使ってくれたのかな?

 

 そして第二試合も一瞬でおしまい。一人目の選手はA組の楓ちゃんで、相手は気が使えるだけの一般人。後首への一撃で気絶して勝負にならなかった。

 

 そしていよいよ次が千雨ちゃんの試合。私達には固唾を呑んで見守るしかないけれど、大怪我も石化も無く、無事に終わって欲しいと思う。

 いざという時は、いつでも飛び出せる準備をして試合を見始めた。

 

 

 

 

 

 

 さてと。ちょっと気合入れねぇとヤバイってヤツか? いよいよ例の悪魔紳士が相手だ。

 けど超のヤツ、携帯のカメラとか動かないって言うのにメールは使えるって変だろ。会場じゃ無線でネットも繋がってたしな。

 念のため持ってきたICレコーダーのスイッチ入れとくか。本当に悪魔だったら証拠の一つでも有った方が良いよな。

 

『さぁ盛り上がってまいりました! いよいよ第三試合。昨晩の予選は偶然か、はたまた実力か! 日傘で戦うスーパーネットアイドルちうたん! 装いもバトルモードで黒ちうさまだー!』

 

「「「黒ちうさまーーー!」」」

 

 あからさまに狙ったような声援が飛んできやがる。どう考えてもまたサクラ雇ってんだろこれ。まさか、ネット見た住人が冷やかしに来た、とかはねぇよな? ……やめやめ! 考えても碌な答えがでねぇ。

 つーかさすがに一晩経てば慣れるし冷静にもなるからな。昨日みたいにうろたえねぇよ。残念だったな超。本当だからな?

『対してこちらもブラック! 謎のボクサー紳士の登場です! 予選ではプロボクサーを思わせる動きで勝利を収めました。果たしてこの対戦カード、どちらに勝利の女神が微笑むのか!』

 

「いやいや、大した人気だねお嬢さん。こんな所に出てきて大丈夫かね?」

「そのままセリフはそっくり返す。あんたこそ出てきて大丈夫なのかよ?」

「構わんよ。見に来ただけだからね」

 

 見に来た? 武道会に出ておいて随分惚けるな。それならこっちも言う事言ってやるよ。

 

「じゃぁ聞くけどよ、一体何を見に来たんだ? 正直に言ってくれると嬉しいんだがな」

「それは勿論。その拳で聞いてみたまえ」

「女子供相手にそのセリフは紳士の名前が泣くぜ? けど、勝ったら喋ってもらうからな」

 

 こいつはプロボクサーなのか? 生で見た事はねぇけど、確実に何かやってるヤツの構えだな。口元が吊りあがってるんだがこいつもバトルマニアなのか?

 とりあえず、派手な魔法は使えねぇから身体能力の強化だな。無詠唱の戦いの歌で強化して待ち構える。インファイトはゴメンだからな。観客に顔も見られたくねぇし、とりあえず日傘で隠したまま距離をとるか。

 

『それでは、第三試合ファイト!』

 

「行くぞ!」

 

 まずは左腕か! 開始早々から打って来るなんてよっぽど自信があるのか。だがな、いくらなんでもその踏み込みは遅すぎるぞ? 左手の連発フックも、下手したら一般人並みだ。障壁だけで全部無効化出来る。

 わざと、だな。一歩も動かねぇで防御なんて、どう考えても見た目少女のやる事じゃねぇから避けるしかねぇか。体の軸移動だけで避けられるレベルとか舐め過ぎだろ。

 

「あんた本気じゃないだろ?」

「言っただろう? 拳で聞きたまえ」

 

 しょうがねーな。とりあえず目立たない様に上手くやるか。どうあっても、この紳士面したおっさんは私と戦いたいらしいな。

 まさか、本当に勝ったら喋ってくれるとか、そんな優しくねーよな?

 

「ふん!」

 

 随分と気合の入った声だが……さっきと同じじゃねぇか! 連発のフックの中に、時々右ストレートを混ぜて来ただけだぞ!

 いや、けどな、マジでこれ一般人レベルだぞ。これじゃかえってイライラして来るな。余裕で避けれるんだが……。一発、入れてみるか?

 

 さっきから打って来るのはフックと右ストレートだけ。パターン通りってヤツだな、わざとらしい。これじゃ打ち込んでくれって言ってる様なもんだからな。打ってやるよ。

 タイミングは伸びた右ストレートにカウンター。ボクシングは初心者だから適当だ。下手に目立つのも嫌だし。……来た、右ストレート! タイミングを合わせて左肩を引いて避ける。そのまま右腕を突き上げて胴体に一撃。それなりに魔力も込めてやる!

 

「うむ。なかなか良い拳だが、気合が足りんよ」

 

 効いてねぇ! やっぱコイツ強いな。しかも芝居臭いセリフまで言いやがる!

 

「あんたやっぱ手抜きじゃねぇか。男が拳でって言っておいてそれかよ?」

「ほう、言ってくれるではないか。では、少々本気で行くぞ?」

 

 やっと本気か。って、魔力が急激に上がった!? フットワークもさっきの速度じゃねぇ!

 マズイな、封印具らしいのも外してねぇのに、かなりの魔力がある。気を抜くと――なっ!?

 

「ふん!」

 

 さっきと同じ攻撃だけど、一撃の重さが半端じゃなく高けぇ。この前のカゲタロウとか言うヤツ程じゃねぇけど、喰らったらヤバイな。魔法の射手の十矢収束くらいの威力がある。

 戦いの歌の濃度を上げて、相手の隙を見る。良いんだか悪いんだか、どうにもパターン通り動いてやがるからな。楽といえば楽なんだが、下手に慣らされても困るな。……避けながら攻めるにしても、分が悪いにも程がある。

 

「なかなかの動きだ。聞いていた情報よりやるではないか。しかし、これはかわせるかね?」

 

 聞いていた情報!? ネギ先生だけじゃなくて、私の事まで調べてたって事かよ。マジでMM元老院だか何だかの回し者臭いな。

 つーかやべぇ! 何だこの動き。連発右ストレートとかどこの格ゲーキャラだよ! しかも一発の威力が馬鹿にできねぇ。直線の動きならまだしも、扇状に打ち出してきやがる。まるで散弾銃だな。

 

「(――風楯!)」

 

 左右に避けながら無詠唱で風の楯を展開。手数が急に増えたがったからな。このまま近くに居たんじゃ確実にヤバイ。

 てゆーか、これもう一般人の試合に見えねぇだろ! どうすんだマジで。

 

『おぉーっとぉ! これはすごいパンチの連発だー! それをバトルアイドル黒ちうさまが何とか逃げ切ってる模様! さすがにこの状況には、観客からもどよめきが上がっているぞー!』

 

 うるせーよ朝倉! こっちはそれどころじゃねーっつーの!

 

「よそ見してる暇はあるのかね?」

「有る様に見えるのかよ! ――くぅっ!」

 

 一瞬の隙を突かれて、砕ける様に風の楯が消えた。しかもまだパンチの圧力が残ってやがる。何とか魔法障壁で逃がすが……。まずいな、もう舞台の端まで追い込まれてやがる。

 

「ちっ! しょうがねぇな」

 

 これ以上目立ちたくねぇけど、負けるわけにも行かないからな。こっちは舞台端。このまま詰め寄られたら、余裕でアウト。それならこっちから攻めるか。

 

 まずは足先に魔力を込めて瞬動。一気に舞台端から対角の舞台端に移動。本気で移動したから、一般人どころか高畑先生レベルとかじゃねぇと付いてこれねぇだろ。まぁこの紳士さんは見えてるんだろうがな。とにかくこれで相手の裏に回った。

 そのまま戦いの歌を解除して感掛法に切り替える。右手に気、左手に魔力。シルヴィアの魔力供給を受けると、目立ち過ぎるから自分のだけで合成。これで、攻撃も防御もかなり上がった。

 

「ほう。やっと本気かね。良いぞ!」

「あんまり目立たせてくれるなよ! って何だ!?」

 

 突然に聞こえた連続の破裂音。同時に受けた圧力。反射的に腕でガードしたけど一体何が!?

 ……まさか、さっきのラッシュ攻撃が更に加速してるのか? まさかパンチが音の壁を超えてる? 何だそれ、ありえねぇだろ! 生身でそんな事が……あ、いやけど高畑先生のあれも。て事はある種の同類か? なお更ヤベェな。

 

 くそ! それにしてもまるでマシンガンじゃねぇか。一発づつの攻撃力は下がったけど、いつまでたっても終わりが見えねぇ。ガードも回避もこのまま続けてたら感掛の気が尽きちまう。相手の攻撃は基本的に正面に扇状。馬鹿みたいに連打してるから……。

 

 よし、今だ。隙を突いて瞬動で左後ろまで移動。そのまま――。

 

「このぉぉ!」

 

 着地した左を軸足に、大きく右足を上げる。そのまま一気に魔力を込めて回し蹴りを放つ。

 

「ぐふぉ!?」

 

 延髄蹴り気味に相手の首に思いっきり入れた咸卦の力の一撃で、舞台の床を破壊しながら悪魔紳士がバウンドして転がっていく。

 

『これは強烈な一撃が決まったー! まさかの回し蹴りがヒットォー! ネットアイドルは通信空手も必須科目なのかー! この試合には観客も大満足の様子! この歓声をお聞きください!』

 

「フッ、フフフ。フハハハハ!」

 

 ちくしょう。分かってたけどやっぱ立ち上がりやがったか。さっきの胴体への攻撃の感じだと、まだまだって感じだったからな。

 てゆーか、蹴られて笑ってるとかキメェよ!

 

「良いね! さすがはかの【銀の御使い】の弟子だ! 彼の様子も見たかったがこれはこれで素晴らしい! フハハハハ!」

「随分とおしゃべりになったな。もっと話してくれると助かるんだが?」

「良かろう。覚悟したまえ」

 

 やっぱシルヴィアの事は知ってるのか。て言うか弟子って知ってるのは一部だったはずだし、そうすると大分絞られるんじゃねぇか?

 

 それにして、あちらさんそろそろ本気みたいだな。笑ってた目がマジになってやがる。

 つーか、右手に集まってる魔力がヤベェ。速度はわからねぇけど、やっぱ音速とかか? とにかく避けるかガードして……ぐっ!?

 

「デーモニッシェア・シュラーク!」

「――かはっ!?」

 

 悪魔紳士がご丁寧にも技名を叫んでから一瞬の後、気が付いたら吹き飛んでた。てか、息がやべぇ。何かデカイ爆発音が聞こえた瞬間に届いてるとかなんだよそれ。

 何とか咸卦の気で守りきったから良いものの、当たり所しだいじゃ、魔法無しはヤバイ。

 

「まだまだ!」

「――っ!」

 

 またお決まりのラッシュパターンか! これじゃさっきと同じじゃねぇか!

 

「逃げてばかりではいかんよ! 先程の様な一撃はまだまだ打てるだろう?」

「はっ! ネットアイドルに期待する言葉じゃねーな!」

 

 マズイ。一般人にこの紳士のパンチは見えてねぇだろうけど、すでにトンデモバトルだ。これ以上は目立てねぇな。

 かと言ってアイツは、体術だけじゃ倒しきれない。となると……水場を利用させてもらうか。

 

 近づかれる前にもう一度風の楯を展開。一瞬止められれば十分だからな。魔力は最低限で良い。必要なのはアイツを水場に叩き落せるだけの火力。わざとらしくこっちに打たせようとしてくれてるからな、思いっきり吹っ飛ばしてやるよ!

 

「期待しているぞ! やはりそうでなくてはいかん!」

「付き合いきれねぇな。そう言うのはよそで頼む」

 

 紳士のステップとラッシュのパターンに注目。殆どは足腰を落ち着けて、ここぞと言う時だけ踏み込んでくる。魔力を練り上げつつ回避して、距離を詰めてきた所で風の楯を犠牲にして最大火力を叩き込む! つーかアンタわざと近寄ってきただろ!

 

「何か狙っているようだからな。ここは受けて立たねば名折れではないか!」

「後悔すんじゃねぇぞ! ――風よ」

 

 練り込んでいた魔力のごく一部を使って、僅かに上昇気流を起こす。そのまま開いた日傘をパッと空へと投げ放つ事で、観客の視線をそっちに注目させる。

 当然、コイツはこっちの動向だけを見ている。高速で打ち出される両手の攻撃を風の楯で受け止めて一瞬の硬直を作る。その隙に体勢を低くして素早く右に踏み込む。そのまま無詠唱で魔法の射手を発動。これでも喰らえ!

 

「(――魔法の射手! 収束・闇の201矢!)ニヤニヤしてんじゃねぇぇぇ!」

「ぬぅぅ!?」

 

 悪魔紳士の左肩辺りに向けて、全力を込めて一撃を入れる。手応えを確認すると、そのまま右足を振り抜いてアイツの飛んだ先を確認。

 目で追った先では、激しい水飛沫と水音を上げて、場外の水場沈みこんだ所だった。とりあえず闇の矢なら黒いハイソックスに纏わり付かせれば目立たねぇからな。

 

『おーっとこれはー! 何だか凄い蹴りがヒットー! そのまま水面まで蹴り飛ばしたー! 場外によりカウントを取ります!』

 

 悪いがカウントは無意味だ。テティスの腕輪に意識を集中。そのままアイツを水の蔦で拘束。水中なら観客には見えないからな。水を操って水撃を何度も叩き込む!

 でもって拘束したまま、水没や溺死等と言われない様に、肩から上だけを湖面に浮かび上がらせる。これで終わりだ。

 

「いやぁ、はっはっは。これは参ったね。私の負けの様だ」

 

『ここでギブアップ宣言! やはり黒くなったネットアイドルは強かったかー!? 黒ちうさま選手の勝利です!』

 

 その名前何とかならなかったのかよ……。とりあえず何とか勝ったか。て言うか思いの他喋ってくれたのか? デーモンとか技名叫んでたがどうなんだ? とりあえず再生してみるか。

 

『――デーモニッシェア・シュラーク!』

 

 ……おい。試合開始から今の時点まで録音出来てるじゃねぇか。やっぱ撮影機器だけのジャミングだったのか? まさかこれを使うの分かってて、ジャミングを解除とかありえねぇよな?

 まぁ、使えるならどうだって良いか。とりあえずコイツはパソコンに取り込んで、この後もスイッチ入れて置いた方が良いな。

 

「うむ、なかなか良い判断だった。試合自体も概ね満足だ。これからの成長が楽しみだよ」

「そいつはどーも。でも本心はあっちの先生が狙いだろ? 残念だったな」

「いやいや。これから見られるだろう? 楽しみで仕方が無いね。はっはっは」

 

 挑発を込めて言ってみたんだが……普通に喋ってやがる。これで確定だな。先生狙いじゃねぇか。目線もそう言ってる。

 とりあえず石化ブレスを使われなかったのは助かったな。そのための封印具か? あとシルヴィアの教会寄りの二つ名を呼んだって事は、やっぱり悪魔だって言ってんのか? 分かんねぇな。とにかくこの後の試合、悪魔紳士がどう動くか要注意って所か。

 

 つーか先生。そんなにビックリした顔しても今さらだぞ。とりあえず、ノーパに入れて保存が先だな。後はもう一度ICレコーダーのスイッチを入れて、悪魔紳士に近い場所で観察だ。




 原作に無いテントを配置した深い理由はありません。原作では神社側のみ屋根が無い立見席だったので不自然だと思っただけです。あえて言うなら、解説席の場所が不明瞭だった事と、選手側との会話シーンを書きやすいと思った程度です。
 悪魔ヘルマンは原作でも手を抜く描写があったり、上位の魔物とされているようなので、強めに描写してみました。魔法が制限された試合ならこんな感じでは無いでしょうか。

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