青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第46話 弟子入り週間(1) 悩める少年少女

「みんなおはよーう!」

「おっはよー!修学旅行楽しかったね~!」

 

 相変わらずテンション高けークラスだな。修学旅行明けだってのによ。それにしても楽しかった……か。結構裏側で大変だったんだが、知らないで済んだならそれで良かったんだろうな。

 もし私が一般人だったら……。やべぇ、先生の突発的な行動とか、二日目の仮契約祭りで巻き込まれてた気がしてならねぇ。つーか、騒いでる奴らに比べたら遥かに体力はあるはずなんだが、結構疲れてるぞ。あいつらほんとに一般人かよ?

 

「千雨さんおはようございます!」

「ネギ先生、おは、よう……ございます?何で、そんな眼で、見て来るんです?」

「それはその。やっぱりマギステル・マギを目指す仲間が居るかと思うと、つい嬉しくって!」

 

 ぐ……。なんだそれ。いつの間にか仲間扱いされてるじゃねぇか。しかも「一緒に頑張りましょう!」とか言いながらキラキラした目で見つめてくんじゃねぇよ!。あぁそうか……。これが手遅れって奴か。誰か助けろ。

 

「こらネギ!教室でそんな事言っちゃマズイんじゃないの?千雨ちゃん困ってるじゃない。ごめんね?あと、おはよう!」

「……おはよう」

 

 なんかもう疲れたな。適当に理由作って早退するか?それとも認識阻害使ってでも逃げるか?マジで。はぁ、とりあえず席に着くか、やってらんねーけどな。って、なんだ綾瀬。そんな何か聞きたそうな顔をして。もしかして、この前の事か?

 

「長谷川さん。その、先日の事ですが……」

「お前ここで話す気か?周りは何も知らない奴だらけだぞ?」

「だからこそです。逃げ場が無いのではありませんか?」

 

 逃げ場って言われてもな。綾瀬、お前だってそうなんじゃねぇか?この前みたいに危険な魔法使いが相手だったらどうすんだよ?それにやっぱ何かのフラグ立ててたじゃねぇか。どうやったら折れるんだ?

 それにしても綾瀬は聞かないと納得しないって顔してやがるな。このままここで話し出しそうな勢いだし、周りの奴らに聞かれても困るな。気は進まねぇがポーチから認識阻害用の魔法薬でも出すか。そのまま机の中に隠して蓋を開けて……よし、これで効果が出るはずだ。

 

「長谷川さん、香水の持込は禁止なのでは?」

「話しがバレない魔法の香りが出るんだ。あんまり気にすんな」

「そうなのですか。それで先日『身の振り方を考えておいた方が良い』と言われて、私なりに考えたのです。私としては出来るならば――」

「死ぬぞ?もうちょっと考えろ」

「な、何故ですか!あの言い方では!」

「夕映さん?どうかしましたか?」

「え!?い、いえ何でも無いです……」

 

 あくまで認識を逸らす香だからな。さすがに大声出せば先生には気付かれるって。て言うかこっち睨むなよ。しょうがねぇな。綾瀬の奴通じるのか?やるだけやってみっか。

 

(綾瀬。聞こえたら頭で返事しろ。伝えたいって考えるだけで良い)

(――!?……な、これは!?テレ――パシー、ですか?こ――れも魔法?)

(念話魔法ってやつだよ。まぁさっきのは悪かった。一般人には問題ないんだが、先生とかには大声出せば気付かれる)

(――先に、言って――欲しかったです!)

 

 何か、聞き取り難いな。魔法を知らない一般人が返事出来るだけましなのか?

 

(悪い綾瀬。聞き取り難いから、とりあえず一方的に伝えるぞ?)

(――!はい――です)

(私は小学校の時に死に掛けた。この前の鬼みたいなのに襲われてな。その時、私はこっち側に関わるしかなかったんだ。あんたはまだ戻れる。本気で覚悟出来るか出来ないかですぐに死ぬ世界だ。だからもっと良く考えろ。一日や二日で結論出すんじゃねーよ)

(――ぅ。――く――しか――し)

(何も今この場で諦めろなんて言ってねぇよ。記憶の問題もあるしな。だけどもっと良く考えろ。私が言いたいのはそれだけだよ)

(――……わ――かり――ました……)

 

 綾瀬。お前はどうするんだ?色々起きるらしいのは分かってるんだが……。このままこっちにくれば夏に巻き込まれ確定ルートなんだよな?

 私は……一般人に戻れるなら、戻ったほうが良いと思うぜ?

 

 

 

 さてと、放課後か。どうすっかなぁ。シルヴィアに綾瀬の話をしに行っても良いんだが。そういえば麻衣は私の時みたいに覚えてるのか?聞いたほうが早いか?

 

(麻衣。聞こえてるか?)

(……ちうたん?どうしました?)

(何でお前はいつも最初にちうたんって言うんだ……。黒歴史を引っ張んじゃねーよ!)

(えー?でも今でもネットもコスもやってるじゃないですか?)

(昔ほどじゃねぇ!あ、いやそんな話をしたいんじゃなくてだな……。ウチのクラスの綾瀬って奴見覚えあるか?前世の話だ)

 

 麻衣が覚えてれば綾瀬は確定ルートなんだがな。どうなんだ?

 覚えてなくてもあの勢いじゃネギ先生を脅してでもこっち側に来そうなんだが……。

 

(……ぜんぜん覚えて無いですよ)

(そうか。それじゃ確認も取れないな……。ありがとよ)

(はーい)

 

 そうか、覚えてねぇか。となると……。うかつに手は出せねぇな。とりあえず相談には行くか。修行もやらねぇといけねぇし、まずはエヴァの家に行ってだな、それから――。

 

「長谷川さん。やはりお話は出来ないですか?」

「綾瀬!?お前決断早すぎだろ、って言うかなんでこんな所にいるんだ!」

「先日の修学旅行で、シルヴィア先生が長谷川さんを弟子であると仰いました。そして先生はエヴァンジェリンさんとも親しい様子でした。先生のお住まいが分からないため、寮に居なかった長谷川さんをこちらで待ち構えていたのです」

 

 こいつ根性ありすぎだろ。もうちょっと何か別の事に使えねぇのかよ?

 とりあえずもうエヴァの家だし、相談してみるか?私一人で決めらんねぇからな。

 

「分かった。とりあえずエヴァの所で話だけは聞いていけよ。そこで諦めろって言われても私は何も出来ないぞ?」

「……分かったです」

 

 分かった、ねぇ……。お前の顔はとてもじゃないがそんな事で納得しないって顔だぞ?何でそんなに魔法の世界に足を突っ込みたがるんだ?私は出来るなら関わらない方が良いって思ってるし、平凡とか普通とかってのは貴重なんだぞ?

 

「なに、私の弟子にだと?」

「はい!京都での戦いをこの目で見て、魔法の戦い方を学ぶならエヴァンジェリンさんしかないと!」

 

 客か?ってネギ先生!?まさか本当に弟子入りに来たのかよ。しかもエヴァに魔法の戦い方を教えてもらうって、スパルタ希望なのか先生はよ。シルヴィアに弟子入り……は、名目上やらないんだったか?て事は結局私等のところに来たら、エヴァかフロウの弟子って事になるのか?

 だめだ……。どっちに弟子入りしても、不幸な目に合う未来しか予測がつかねぇぞ先生。

 

「それで?タカミチにでも習えばいいだろう?」

「う、それはその……。タカミチは魔法が得意では無いですし、シルヴィア先生は治療術士なんですよね?確かにマギステル・マギで尊敬すべき人です。けれども大橋で初めて戦った時の事や、フェイトをものともしない強さを見て、エヴァンジェリンさんしかいないって!」

「ほぅ、つまり私の強さに感動したと?」

「ハイ!」

 

 そうか……。まぁ、シルヴィアは防御とか補助的な技術を蓄積してきてるからなぁ。攻撃魔法も確かに凄いんだが、体術は苦手だし。制御力と魔力の高さなら、ある意味エヴァも超えてるんだぞ先生。

 そういえばフロウは無視か?ていうか先生は会った事無かったな。って、綾瀬の事忘れてた。とりあえずエヴァに話してみるか。

 

「エヴァ、ちょっと良いか?」

「あ、千雨さん!あれ、夕映さんもどうして!?」

「えー!?なんで夕映ちゃんまで来るのよ!」

「千雨か。なに、ぼーやが弟子にして欲しいとか言い出したのでな。話を聞いてやったところだ。それで綾瀬夕映は何だ?どこで拾ってきた」

「ひ、拾われたわけではないです。私は魔法やこの学園に関して知りたくて来たです!」

「だそうだぼーや。先生なんだから教えてやったらどうだ?」

「え、で、でも……」

 

 ちょっとマテ、そう簡単に教えちまっていいのかよ?それに先生に丸投げかよ……。けど3-Aで関わるって事は、夏には危険が伴うって事だよな?学園長はもう隠す気は無いみたいだが、それでホントに良いのかよ?

 

「それよりもぼーや。忘れている様だが私は悪の魔法使いだ。そんな相手にものを頼むと言う事はそれ相応の対価がいると言う事だ。分かるか?」

「え、それはどういう……」

「まずは跪け。それから足を舐めろ。わが僕として永遠の忠誠を誓え。話はそれから――」

「アホかーー!」

 

スパーン!

 

「へぶ!?」

「アスナさーん!?」

 

 はぁ!?エヴァの障壁無視とか何やってんだ神楽坂!お前人間かホントに!つーかまぁ、確かにエヴァの発言は馬鹿というか、10歳の子供に言う台詞じゃねぇな。何考えてんだよアイツは。エヴァと神楽坂が言い争い始めたんだが……。まぁいいか。

 

「ネギだって一生懸命に頼んでるのに、そんな態度は無いんじゃないの!?」

「頭下げて教えてくださいって、それだけで魔法を教えるバカが居るか!」

「待ってくださいエヴァンジェリンさん。それは先ほど私に言った事とは矛盾するのではないでしょうか?ネギ先生は既に魔法使いです。素人の私に教えて良いと言った先ほどの言葉。ネギ先生には教えないと言うのは理論的におかしいです」

「ほう……。言うじゃないか。だからと言って対価も無く弟子にしてくれと言う奴がどこの世界に居る?お前だってそうではないか?何の対価も無く秘密を教えろと言うのか?」

「う、それは確かにそうですが」

 

 対価ねぇ、なんだか雲行きがおかしくなってきたな。私が魔法使いの道に入った時はシルヴィアが相手だったから、対価なんて言われなかったんだが。エヴァやフロウだったら悪どいからなぁ。一体何を要求するつもりだよ。昨日の話しぶりからすると、先生の事はある程度面倒見てやる気なんだよな?

 

「おい千雨。こっちに座れ」

「え?何だよいきなり」

「立場の話しだ。ちょうどぼーやだけではなく神楽坂明日菜も来た。綾瀬夕映はついでだが、来たからには話を聞かせてやる」

「ちょっとマテ!それは巻き込み確定じゃねぇか!」

「構わん。ただし一般人には他言無用だ。こいつの本質は知りたいという欲求だ。魔法も知りたいと思うに過ぎない。綾瀬夕映にとって退屈な学校の授業よりは、よりこちらの世界を深く知る事が目的。そういう眼をしている」

「え、いえ。魔法を使える様になりたいとも思うのですが……」

「それなら尚更だ。千雨。良いから座れ」

 

 ったく。相変わらず勝手だな。まぁ、きっちり説明する事になってるからな。悪いな先生。

 綾瀬は……。あまり考えさせる時間がなかったな。魔法を使えるようになりたいって気持ちは本当だったみたいだが、知識欲ねぇ。魔法の勉強の方が綾瀬は満足するって?どうにも表面だけしか見てない気がするんだがな。

 とりあえず座るか。そんな不思議そうな目で見るなよ先生?私がエヴァ側だってのはとっくに気付いてるんだろ?

 

「え?あの、どう言う事ですか?」

「千雨ちゃんってエヴァちゃんの弟子って訳じゃないのよね?」

「まぁな。けど私達は麻帆良の魔法使いであっても違う立場なんだ。悪いな」

「違う立場ですか?つまり麻帆良学園には魔法使いの派閥があると言う事なのですか?」

「勘が良いじゃないか。私達はシルヴィアを中心にした『管理者』と呼ばれている」

「すみませんエヴァンジェリンさん。初耳なんですけど、本当なんですか?」

 

 先生の言う事も分かるよ。私が学園の魔法生徒だったとしても、何言ってんだコイツ?って思うからな。私らの事は魔法先生の中でも立場がある人間しか知らねぇからな。うん?て事はある意味先生は昇進か?

 

「ねぇ。何でそんな話が出てくるの?ネギが弟子にして欲しいってダメって事?」

「本気でなりたいなら構わん。だが学園長のジジイとの取引済みの話しだと言う事を忘れるな?それに立場も違うと言う事もな」

「学園長が……ですか?それはその、以前の大橋の時の様に?」

「ちょっと待ってください。取引済みと言う事は、組織としてなのでしょうか?先ほどの話しならば金銭のやり取りなども?その、管理者というのは……。名称で麻帆良学園とは立場の差が有る様に聞こえるのですが……」

「え、でも学園長達と仲が良いんですよね?」

「仲が良いというのは厳密には違う。互いに利益関係にあると言う事だ。当然金銭のやり取りもある。だが喜べぼーや。シルヴィアがそれじゃ喜ばないだろうって事で、今回に限りタダだ」

「本当ですか!?」

 

 やっぱりこういうのは混乱するよな。今まで自分が居た場所っていうか、先生の場合も一応組織か?まぁそんな自覚は無かったんだろうけどな。学園関係者としては自分の土台が崩れるような気持ちは有るんだろうな。

 それはそれとして、タダで良いのか先生?エヴァの修行でどんな事になるか分かったもんじゃねぇからな。私だったら金払ってでもタダは止めてくれ。きちんとコース作ってくれって言うな。

 

「つまり条件付きでぼーやの修行を見てやると言う事だ」

「はい!どんな条件ですか!?」

「な、何よそれ。何をさせるつもりなの!」

 

 なんか綾瀬は気付いてるっぽいな。訝しげな目でエヴァの事見てるし、ある意味ここでの選択ってのは先生の将来に響く。魔法使いって確かあっちだとキャリアとか必要なんだろ?そう言う意味じゃ学園長は本当に狸って事か……。最悪は取引してシルヴィアの名前も使うつもりなんだろうな。

 

「それはな、どんな修行方法でも文句を言わない事。そしてぼーやが修行の結果どんな選択をしても、それはぼーや自身の責任だ。後はシルヴィアの弟子は名乗らない事。シルヴィアにもぼーやにも立場があるからな。そして、これらの立場の違いを説明してた上で、それでも修行して欲しいかと言う事だ。私は悪の魔法使いだぞ?どういう結果になっても文句は言うなよ?」

 

 ここでエヴァが一睨みか。さて、どうする先生?多分先生が想像してる以上にエヴァの修行はきついぞ?とりあえず補足してやるか。説明してやらねぇままじゃさすがに可哀想だ。

 

「先生。マジで良く考えたほうが良いぞ?エヴァのイジメは半端じゃないからな……」

「なんだそれは。イジメではなくせめて拷問と言え」

「同じじゃねぇか!むしろ酷くなってるぞ!取り合えずこういう奴なんだ。それに自分の立場とか、将来とかもっとちゃんと考えた方が良いぞ先生」

「はい!僕はエヴァンジェリンさんから学びたいと思っています!」

「ちょ、ちょっと!良いのネギ!?だって悪とか言ってるし、責任も取らないって」

「分かっていますアスナさん。それでもマギステル・マギのシルヴィア先生や、目指している千雨さんもいっしょなんです。それにお二人とも僕の立場考えてくれて、タカミチとの修行を薦めたりして、選択も説明もしてくれています。そんなエヴァンジェリンさんを悪い人だと思えません!」

 

 先生……随分と堂々と言い切るな。ちょっと驚いたぞ。て言うかエヴァのヤツ優しいとか言われてるんだが……。おいマテ!微妙に赤くなってるとか何でツンデレスイッチ入ってんだあんた!

 小声で「ま、まぁ、そこまで言うなら……」とかそっぽ向いて言うなよ。隣だから聞こえてるぞ? うん?何だいきなり綾瀬のヤツを睨んで。ビビってるじゃねぇか。

 

「……言ったな?ならば弟子入りテストをしようじゃないか」

「は、ハイ!どんな事でも乗り切って見せます!」

「綾瀬夕映。お前を今週末までに魔法使いに仕立て上げる。ぼーやはそれと戦え。どれだけ本気で戦えるか覚悟を見せろ」

「「「え!?」」」

「エヴァ。マジで言ってるのか?」

「あたりまえだ。どうだぼーや。怖気づいたか?」


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