青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第40話 修学旅行(3日目) 心に思いが在るから

「ん~~。朝日が気持ち良いね~」

 

 三日目の朝。個人部屋で朝日を浴びつつ深呼吸。もうすっかり慣れてしまったけれど、西洋系の特徴をあわせ持つ今の自分に、浴衣と和室のホテルは皮肉だなぁと少しだけ嘲るような皮肉をこぼす。

 

 修学旅行もあと二日。昨日は随分とネギくんは大変だったみたいだけど、今日はもう大丈夫かな?などと考えながら身だしなみを整える。そうして部屋を出てロビーに差し掛かったところ、少女達の黄色い声が上がり騒ぎになっていた。

 

「おはよー!新カップルー!」

「木乃香~。桜咲さんもおめでとー!」

「何~?皆どないしたん?」

「こ、これはいったい?」

 

 何事かと思って覗くと、昨晩のテレビ放送を見た生徒を中心に二人を囲みこみ、煽り立てる声と真相を聞きだしたい好奇心で大騒ぎなっていた。

 

 ……え、何これ?新カップルって?木乃香ちゃんと刹那ちゃん?仮契約を見られたって訳じゃないよね?千雨ちゃんは何も無かったって言ってたし……。どう言う事かな?

 

「見たよ~。朝倉のテレビでまさかの大穴!二人があ~んなに、愛し合っていたなんてね!3-Aチアリーディング部として応援しちゃうよ!」

「本屋も豪華賞品おめでとー!」

「良いな~!これは欲しかった!」

「えへへへ~~」

 

 テレビ?和美ちゃんのってどう言う事?それにのどかちゃんが持ってるのって仮契約カードだよね?何で持ってるの?

 本物なの?それなら契約者って?カード奪って見るわけにもいかないし……。

 

 

 

 当の本人達といえば比較的冷静な近衛と、同年代の少女に囲まれる事に慣れていない桜咲が、現在進行形で起きて居る騒動の解決に向けて相談を行っていた。

 

「お、お嬢様これはいったい!?」

 

(せっちゃん念話で話そ!たぶんネギ君のゲームでカメラ回ってたんやない?千雨ちゃんやエヴァちゃん達の魔法の事が映っとったりしてバレてまうより、ウチらで誤魔化した方がええんと違う?)

(え!?た、確かにそうですが……)

(そうと決まったら頼んだでせっちゃん!)

(え、は、はい!?)

 

「そうなんよ。せっちゃんてば恥かしがってな~。ウチ……思わず迫ってしもうた~」

「「「おおぉぉぉぉーー!?」」」

「お嬢様!?」

「せっちゃん。このちゃんって呼んでや?ウチせっちゃんの事――」

 

 少し身体をくねらせ、刹那にしな垂れる様にして熱い視線で見つめる。

 

「「「キャーー!?」」」

「ま、まさかホントに!?」

「これがせっちゃんを射止めた豪華賞品やー!」

 

 そう言って刹那との仮契約カードを両手で持ち上げ、指先で上手く翼の部分を隠していた。

 

 

 

 こ、これってどう言う事?何が起きてるの!?

 

 昨夜は何も無かったはずなのに、朝になって眼が覚めてみれば意味不明の仮契約者が出て居る状況。しかもなぜかその様子が一般生徒にバレている?あまりにも意味が分からないので、千雨の姿を探して声をかける。

 

「あ、居た居た。おはよう千雨ちゃん。これって何が起きてるの?木乃香ちゃん達は何で騒がれてるの?しかも何でのどかちゃんも仮契約カード持ってるのかな?」

「私も近衛からの聞いたから良く分からねぇよ。なんか就寝時間の後に朝倉とネギ先生の使い魔が、ネギ先生の仮契約祭りをしたらしい。それがキスをしたら豪華賞品プレゼントとか言ってテレビで流してたらしいぞ。そのタイミングで部屋のカメラが近衛たちがキスしてる所を撮影してたらしい」

「え……。それって、仮契約の魔法陣とか映ってないの?」

「はい。問題ありません。昨夜の騒ぎの後にハッキングして確認したところ、朝倉さんが近衛さん達のアップだけを上手く撮影していました。魔法の露見に関する配慮があったとも考えられます」

 

 茶々丸ちゃんの言葉を聴いてほっとした。そうだったんだ……。本当にトラブルが絶えないねぇ。 昨夜はもう何も起きないって思ったんだけど。今日は付いて行こうかなぁ。

 

「あー。まぁ、修学旅行で仮契約者が増えるってのは分かってたんだろ?こんな方法だとは思いもしなかったんだが……」

「う、うん……。それにしてものどかちゃんかぁ~。ネギくんに本気で恋していくなら、通る道だったのかなぁ?」

「まぁそうだろう。ぼーやの苦労が眼に浮かぶ様だがな。それから近衛木乃香が今日辺り実家に行くんじゃないのか?どうせまた何か起きるぞ?」

 

 そうだね~。今日は自由行動だから余計に心配かな。刹那ちゃんは5班の木乃香ちゃんに付いていくんだろうし、6班に付いていつでも対処できる様にしたら良いかなぁ?

 

 そう考えてから今日の予定を教員で確認。そうして一緒に出かける事にした。

 

 

 

 

 

 

 その一方、騒ぎから離れた場所で……。

 

「どーすんのよネギ。こんなにカード作っちゃって!」

「えぇ!?僕のせいですかー!?」

「ま、まぁ、落ち着いてくだせぇ姐さん!」

「そーだよアスナ。儲かったんだし~」

「あんた達は黙ってて!アデアット!」

 

 怒鳴る様にアーティファクトのハリセンを召喚。そのまま順々に一人と一匹を叩き、叱り付ける明日菜だった。

 

「まったく!本屋ちゃん巻き込んじゃダメじゃない。景品らしいから複製カード渡してたみたいだけど」

「はい、そうですね……。でもアデアットって唱えなければただのカードですから。魔法の事はのどかさんには秘密にしておきます」

「惜しいなー。あのカード強力そうなのによー」

「惜しいとか言ってんじゃないの!無闇に巻き込むなって教えられたでしょー」

「痛いっすよ!」

 

 そうして明日菜がネギたちを叱っている時。彼らに気付かれる事無く影から見つめ、魔法の話しを盗み聞いてしまった宮崎のどかが居た。

 

(な、何話してるんだろ~?わ!あのハリセンってどこから!?あであっと?)

 

 そう小声で呟くとカードが光りアーティファクトが召喚される。そのまま軽いパニックと思考の渦に捕らわれていた。

 

 

 

 

 

 

「ネギくーん。ほらほら京都限定プリクラ♪一緒に撮ろー」

「あ、ハイ。撮りましょうか」

「のどかも入るです」

「あぅ~……」

 

 平和だね~。プリクラ撮って修学旅行が終わるなら良いんだけどね~。

 

「シルヴィア先生も入ってよー」

「あ、はいはい。今行きますよ~」

 

 それから生徒たちは魔法使いのカードゲームが有るからとネギくんを誘い、暫くすると地元の子が乱入してきたり、概ね楽しんでいる様だった。しばらくはさまざまなゲームを続ける5班のメンバーだったが、生徒たちがゲームに熱中している間に、ネギくんが裏口から明日菜ちゃんと抜け出していくのが見えた。

 

「木乃香ちゃん達はどうするの?ネギくん達は多分、親書を渡しに関西呪術協会に行ったと思うんだけど?木乃香ちゃんの実家もあるんだよね?」

「うーん、せっちゃんどないする?明日菜とネギ君は先に行ってもーたけど、目的地同じやねんな」

「そうですね。暴走した一派の事も気になりますので合流して戦力を高めるか、申し訳ないですが先生達には囮になって貰い、時間差で行くという方法もありますが……」

「明日菜達の事も心配やし、追いかけて合流せえへん?」

「何なに~?ネギ君たち追いかけるの?どこ行ったのか知ってる?」

 

 相談をして居ると、いつの間にかネギくん達がいなくなった事に気付いた生徒が声をかけてきた。刹那ちゃん達が内緒話をし始めたので、気付かれないようにフォローを入れる。

 

「ネギ先生たちは神社とかの方を見に行ったみたいだよ?皆ゲームも良いけど、どこか観光に行ったりはしないの?」

「観光ですか?もう大分あちこちと回った気もするのですが……」

 

(お嬢様。ここで下手な言い訳をしても彼女達は付いて来てしまうでしょう。ですからここは、どこかの観光スポットで自然に別れるのが良いかと……)

(う~ん、そうやねー。そうしよか)

 

「皆シネマ村に行かへん?あそこはまだ行ってへんよ」

「お、じゃぁ行ってみる?」

「そうですね。……そう言えばのどかは無事に追いつけたのでしょうか」

 

 ぼそりととても小さな声で呟く。その時には宮崎のどかの姿もすでに無く、当人は先生達を追いかけると友人達に伝え、アーティファクトを召喚して姿を消していた。

 

 その事に気付く事なく、木乃香ちゃん達が関西呪術協会に行くための手順を決めてシネマ村へ行く事になったが、ゲームセンターを出てからシネマ村への途中、突然に声をかけられた。

 

 

 

「久しぶりだね【癒しの銀翼≪メディケ・アルゲントゥム≫】。少し話がしたいんだけど、構わないかい?」

「え!?……貴方は、どうしてここに?」

 

 突然に魔法使いとしての通り名で声をかけられ、一瞬身体が強張るものの慌てて声のほうへと振り向く。するとそこには、以前魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫で出会った白髪半眼の少年。今は成長して青年となったスーツ姿のフェイトが居た。

 

「おおぉ!?先生、旅先でナンパされてる!?って、もしかして知り合い?ていうか兄弟?」

「え、違うよ?昔会った事があるだけで……。皆は気にしないでシネマ村に行って来てね」

 

 木乃香ちゃん達の事もあるから先に行ってもらわないとね。魔法関係の人だから無闇に巻き込んでもいけないし……。でも修学旅行の引率でやってきた先で魔法世界の関係者に出会うなんてね~。世の中狭いって言うけど、こんな偶然も有るんだねぇ。

 

(おいシルヴィア)

(え?どうしたのエヴァちゃん)

(この男ただ者では無いぞ?どうするつもりだ?)

(前に会ったけどそんな事をする人に見えなかったよ?普通に話をしたいだけだと思うんだけど?)

(私も残るよ。最悪ワープゲート魔法を使うって手も有るんだ。エヴァの影のゲートと手は二重に有った方が良いと思うぞ?)

(え?ち、千雨ちゃんも!?)

(茶々丸。アンジェを連れてホテルに戻れ)

(はい。了解しましたマスター)

 

「それじゃせっちゃん。ウチらはシネマ村行くで~」

「はい、お嬢様」

「ちょっと待ってよー!」

「あ、待ってくださいです」

 

 そう言って別れて、私とエヴァちゃん千雨ちゃんの三人だけになり近くの喫茶店に入る。

 入るなり彼はブラックコーヒーを注文していた。

 

「フェイトくん……。だったよね。あっちの人がこっちに来るのは珍しいと思うんだけど?しかも私の仰々しい名前で呼び止めるって事は、何かあの病院であったのかな?」

「別に。大した事はないよ。ここに来たのはたまたま仕事で。貴女に話しかけたのは僕の個人的な興味だ」

 

 個人的な興味ってやっぱり『セフィロト・キー』の事が今も気になってるのかな?でももうあの鍵は使えないって話をしたし……。どういう話がしたいのかな?

 

「興味だと?貴様はどんな理由があってこいつに興味を持っているんだ?」

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……【人形遣い≪ドールマスター≫】か……。そう警戒しなくても良いよ。本当に話がしたいだけだからね」

「……堂々と私の名前を呼ぶとはな。良いだろう話してみろ。もっとも貴様がどれだけ出来たとしても、この面子の前で出し抜けると思うな?」

「エヴァちゃん、そんな脅さなくても良いと思うよ?フェイトくん。気にしないで話してみてくれるかな?」

 

 うん、気にしないで話してみてほしいな。出来る相談事なら乗ってあげたいし。って、あれ?ブラックコーヒーだよね?もう半分くらい無くなってるんだけど……。良くそんなに早く飲めるね~。コーヒー好きなのかな?そういえば千雨ちゃんがぜんぜん喋ってないような?そんなに警戒しなくても良いと思うんだけどなぁ。

 

「そうだね、単刀直入に聞くよ。僕の仕事を手伝って欲しい」

「フェイトくんの仕事?前に会った時は世界を救うために活動してるって言ってたよね?」

「その通りだよ。話が早くて助かる。その手伝いをして欲しい。貴女の力は一石を投じられるんじゃないかと、個人的に期待している」

 

 ……やっぱり鍵の事かなぁ?あれはもう本当に使えないんだけど。

 どうしても救いたい人がまだ助けられていないって事?

 

「なんだそれは。もっと具体的に言え。救うにしても対象と手段がまったく見えん。せめてそれくらい明かしたらどうだ?お前の言う世界とは何の事だ?」

「ありのままの意味だよ。世界は世界だ。救う方法はまだ吟味中。今すぐ取れる手段もあれば、未知数や期待値もある。少なくとも貴女にはその一つを期待している」

「う~ん……。やっぱり『セフィロト・キー』の事を期待してるのかな?あれはもう本当に手に入らないよ?それともフェイトくんがどうしても救いたい人が居るの?」

「救いたい……。そうだね。だが……」

 

 どうしたんだろう?やっぱり誰かを救いたいみたい。でも何か躊躇ってる?分からないなぁ……。向こうの人が、旧世界≪ムンドゥス・ウェトゥス≫って呼ぶ地球まで来て仕事をしてるのに、そこまで躊躇う理由が思いつかないよ。

 

「すまない。僕にも良く分からない」

「はぁ!?何を言っているんだ貴様?」

「ううん、フェイトくんはそれだけ悩んでいるって事なんだと思う。きっとそれだけ真剣に。だからまた思う事があれば尋ねて来て。私は埼玉県の麻帆良学園やメガロメセンブリアの教会に縁があるから、そこで探してくれれば良いよ?」

「ちょっと待てシルヴィア!良く分からない男にそんなに情報を与えるな!」

「え、でもフェイトくんは本気で悩んでるみたいだし、相談くらい受けられるよ?」

「心配は要らないよ【人形遣い】。それくらいの情報は持っているからね。いつかまた会えれば相談してみるとするよ。それじゃぁこれで」

「お、おい待て!」

 

 そう言うなりコーヒーの代金をテーブルに置いて、1人で喫茶店を出て行ってしまった。

 

 ……うん。フェイトくんなりの答えが見つかると良いね。

 手伝えそうな事なら手伝ってあげたいかな。

 

「馬鹿かお前は……。相手の素性も分からないままあんな返事するんじゃない……」

「え?でも、悪い子じゃないよ?真剣に悩むだけ必死なんだよ」

「……て言うかお前ら……。あんな相手よく平気だな」

「え!?」

「私は正直、警戒して必死だったよ……。なんだよあの変な魔法障壁。かなり強力な上に異質過ぎて気持ちが悪い……」

 

 あれ?もしかして千雨ちゃんがぜんぜん喋らなかったのって……。警戒を通り過ぎて恐怖を感じてた?大丈夫かな?

 

「確かにな。敵意は無かったが底が良く分からん。勝てない相手ではないがな。しかし動きが人形臭い。おそらく分身か使い魔。あるいは魔法生命体かもしれん」

「え……。でも、それじゃ世界を救いたいなんて……本当にどういう意味か分からないよ?」

「だから答えが出なかったんじゃないのか?」

「うーん……でも、信じてあげたいな」

「とりあえず用は済んだんだよな?正直もう観光って気分じゃねぇよ。ホテルに戻らないか?ちょっと休みたい……」

「そうだな。アンジェと茶々丸の事も気になる。戻るとするか」

「うん……。それじゃ戻ろっか。木乃香ちゃん達はもう詠春さんの所だと思うから、暴走した人達が来ても手が出せないだろうからね」

「まぁ、あまり楽観はしない事だな」

「あんなの見た後に脅すなよ……」

 

 意見が揃った所でホテルへ戻る事になったが、その夜、修学旅行最大の危機が待っていた。




 既に閑話の『原作との相違点とキャラ紹介のまとめ』で書いた事なのですが、投稿当時にはシルヴィアの二つ名にルビは振っておらず、この話の時に付け加えていました。

 第21話で付けた名前「癒しの銀翼」のままストレートに、癒し・銀・翼ですと、
 クーラ・アルゲントゥム・アラ(アーラ)
 と長い上に語感が悪いので却下にしました。アラルブラ・アラアルバ風にしても、アラアルゲと非常に語呂が悪くなります。そのため意訳になりますが、医療(医師)・銀を取って、メディケ・アルゲントゥムになりました。
 アラルブラなども実際の発音はアーラルベル(翼・赤い)になる様で、紅き翼の直訳ならば、コッキネウス・アーラとなるみたいですw

 それから千雨の現在の能力値をラカン式強さ表で表すと、通常時で2500くらいかな?と考えています。この状態に咸卦法+魔量供給+アーティファクトで、跳ね上がる仕組みです。
 千雨はその状態でもナギ・ラカンを仮想敵して勝てないと考えています。フェイトと相手なら、まともにぶつかって戦えない事は無いけれど、圧勝できる相手では無いというところです。

 ちなみにこの話を執筆していた時点で原作は完結しておらず、フェイタスネタは盛り込まれておりません。

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