青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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 この話は、あまり多くの二次創作で取り扱われることは無いと思うのですが、のどかの気持ちを叶えさせてあげたいと思った事と、恋愛と言う面からもネギの成長を促したかったので取り入れています。
 同時にネギま!原作を知らない人も読んでくださっていたので、この話がないとネギとのどかの関係がサッパリ分からないと思って書きました。


第38話 修学旅行(2日目) 止まらない狂想曲

 修学旅行二日目の朝。ホテルで用意された朝食が配膳されると、生活指導員の新田先生が食事の号令をかけた。

 

「それでは麻帆良中学校の皆さん。いただきます」

「「「いただきまーす!」」」

 

 数クラス分の声が響く中で一口目をぱくりと頂く。すると初夏の焼いた鮎の甘みが口の中に広がって、思わずう~んと唸ってしまった。それに付け合せのお漬物やお番菜とかが、やっぱり京都にきた~って感じの朝食だね。純和風って感じで良いな~。元日本人としては、やっぱりお米に合う食材が美味しく感じるよ。

 そんな事も考えつつ、昨日の事もあるから周囲を――特に3-Aの生徒達を――見渡してみると、1日目にお酒を飲まされてしまった生徒達は魔法薬によって体調を取り戻して、アルコールによる不調は見られなかった。

 

「おはようございますシルヴィア先生」

「あ、おはようございます、しずな先生」

「本日の予定確認ですけど、私達は生徒の付き添いで奈良まで行きますね」

「はい、お願いします。一緒に回ってみたい所ですけど、生徒達に何かがあった時の対処もありますからね。今日はホテルで待機組みです。ネギ先生の事は気になるんですけどね」

「あら、そうなんですか?ネギ先生は、5班の子達について回るみたいですよ?ほら、あそこ」

「――え?」

 

 言われたまま指し示された方を見てみると、のどかちゃんがネギくんに一緒に回りたいと言って、ネギくんは悩みながらもOKしたところだった。

 5班には明日菜ちゃんや木乃香ちゃんもいるからある意味ちょうど良いのかな?6班の皆はどうするんだろうと思いつつ、千雨ちゃんに念話を送って確認をする。

 

(千雨ちゃん達は今日どうするの?何か決めてある?)

(桜咲が近衛の班に付いて行くって言うから。5班と同じく奈良公園と寺周りだな。エヴァもそっちに行きたがってるし、そうなるだろ)

(エヴァちゃんが?昔から古都巡りとか好きだからね~。私はホテルに待機してるから、何かあれば連絡入れてね)

(あぁ、分かったよ)

 

 そうしてその日は何も問題が起こらない事を祈りつつ、準備しておいた救急箱と病院等の緊急連絡先を各担当の先生に配布してホテルから送り出した。

 ネギくん達にもしもの時があっても、エヴァちゃんに千雨ちゃんが居れば何とでもなるだろし、携帯電話を片手にホテルでゆっくり待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 そして修学旅行の定番、奈良公園。そこで生徒達とはしゃぐネギ先生の姿があった。

 

「わー♪みてくださいアスナさん!鹿ですよ鹿!」

「ハイハイ。分かったわよ」

 

 こうやって見てるとホントーにガキだな。とても先生には見えねぇよ……。

 しかし公園だからって昨日みたいな事もあるから、気をつけたほうが良いのか?

 

「なぁエヴァ?どう思う?」

「茶々丸。ここを過ぎれば大仏殿だ。取り逃すなよ?」

「ハイ。マスター」

「鹿どもは別に構わん。あぁ、そこの茶屋も良いな」

「ハイ。マスター」

「おい、エヴァ……」

「なんだ?」

「昨日の事。警戒してなくて良いのかよ?」

「馬鹿か貴様は?盧舎那大仏の良さが解らんのか?」

「解るか!」

「可哀想な奴だ。良いだろう、この私が!日本の建造物の良さが解るまで語ってやろう!日本に生まれて置きながらその体たらく!叩き直してくれる!」

「いらねぇよ!帰れよマジで!」

 

 何だよこれ。ホントに……。1人で警戒してる私が馬鹿みたいじゃないか?

 って、ホントになんか語り始めてるじゃねぇか!

 

「おい……。茶々丸。こいつどうにかしてくれ……」

「不可能です」

「アンジェ……?」

「無理だよ~♪あははは。お姉ちゃん面白いよね~」

「うむ!さすがはアンジェだ!」

 

 何かもう疲れたんだが帰って良いか?良いよな?私は悪くないよな?

 

 朝から既に疲れきった千雨に、追い討ちとばかりに別の疲れる声が聞こえてきた。

 

「えへへ~……。ネギ先生♪」

 

 宮崎!?なんだあの緩みきった顔は!て言うか別人だろ!?普段の一歩引いた態度はどこに行ったよ!?あ、いやマテ。いつもの地味を体現したような態度から、ポニーテールでアップにして整った顔をきちんと前面に出してるってのは進化って考えて良いのか?

 でもなぁ、今はこれ以上疲れたくねぇし普段のままが良い、のか……?

 

「良くやったのどかー!」

「見直したよ!あんたにあんな勇気があったなんて!」

「感動したです」

 

 ネギ先生を見つめて幸せそうな表情の宮崎に、体当たりする図書館探検部の二人。その様子にショックで普段の調子に戻るのを一瞬期待する千雨だったが、趣味のコーディネートも頭を過ぎり、これで良いのかと更に悩み疲れてしまっていた。

 

「ネギ先生と回れるなんて幸せ~。今年はもう思い残す事は無いかも~」

「バカァ!告るのよ!のどか!今日ここで!ネギ先生に思いを告白するのよ!」

「そ、そんなの無理だよー」

「無理じゃないわよ!良い!?修学旅行中は男子も女子も浮き立つもの!麻帆良恋愛研究会の調査では修学旅行中の告白成功率は87%を超えるのよ!」

「え?えぇぇ?」

「しかもここで恋人になれば!明日以降の自由行動ではラブラブデートし放題よ!」

「え!そ、そんな、ネギ先生と!?」

「ほう。面白そうじゃないか。由緒ある古都の大仏殿。ご利益もさぞかしあるだろう。よし宮崎のどか!この私が付いている!ヤッテシマエ!」

「ええぇぇぇ!?」

 

 ちょっとまてエヴァ!何をやるんだよ、それ発音違うだろ!?それって、ネギ先生殺れ!って聞こえるぞ!?宮崎も良いのかそれで!

 

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか?千雨さん。お茶なら水筒にありますが」

「いや、大丈夫だ。すまねぇな。つーかもうアレなんとかならねぇのかよ」

 

 ぐったりとした表情でエヴァと宮崎を指差すものの「マスターには逆らえません」と言われて僅かな希望が潰える。しかしそこでハッとなりアンジェを見るものの、エヴァと共に宮崎を煽てる一員でしかなかった。

 

「エヴァンジェリンさん……。珍しいですね」

「良いではないか。この奈良の地を選ぶとは、中々目の付け所が良いぞ?」

「そうだよ!のどかその通り!ほら行け!すぐ行け!」

「お前ら……煽るんじゃねぇよ……」

 

 マジでテンション高けーよ。付いていけねぇ……。

 

「大丈夫です千雨さん」

「なんだ茶々丸。何が大丈夫だって言うんだ?」

「しっかり録画してますから」

「……………………あぁ。ダメなのが解った」

 

 

 

 そうして大仏殿付近までやってくると、それは唐突に行動に移された。図書館組み二人が神楽坂の腕を引き、ネギ先生から引き離しすように無理やりどこかへ連れて行く。さらに近衛がここぞとばかりに桜咲に向かい、茶屋のお団子を片手に無理やり食べさようと迫り、そのままどこかへと走って行く。

 

「ちょ!何すんのよイキナリ!」

「お、おおおおじょ、むぐー!?」

 

 その様子を呆然と見る千雨とネギ先生。突然の行動に置いてけぼりにさていた。

 

「な、なんだ?コレ……」

「あ、何でしょうね?みんな急に……」

 

 あれ?この状況おかしくねぇか?何で私がネギ先生と二人きりなんだよ!?宮崎はどこだ!って何そんな後ろから見守ってるみたいにしてんだ!今朝の行動力はどこに行った!?

 

「皆さんどこか行っちゃいましたね。僕たちは――」

「ほう、ぼーや。私を忘れるとは良い度胸だ」

「え、エヴァンジェリンさん!?あぁ、う……、そ、その……」

 

 うろたえるネギ先生を、ニヤリと笑みを浮かべて睨みつける。

 

「私を忘れた罰だ。こいつは貰っていく」

「え?ちょ、マテ!なんだよ、引っ張るなって!痛いって!」

 

 マジで魔力込めて引っ張るんじゃねぇよ!腕取れるじゃねぇか!

 

 唖然とする表情のネギ先生を余所に、そのまま引っ張られていく。すると満足したように高笑いを上げそのまま茂みの中に投げ込まれた。

 

「ハハハハ!1人で大仏を眺めるが良い!さらばだ!」

「え、えぇぇぇぇ!?」

「ちょっと待てエヴァ!どう言う事だ!」

「だまれ。あれを見ろ」

「何だよ?」

 

 言われた方を見ると、宮崎が一人でネギ先生に話かけている所だった。

 

「あ、あ、あの」

「あ、宮崎さん。な、なんか行っちゃいましたね。よろしければ二人で回りましょうか?」

「え!?は、はい喜んでー!」

 

 緊張しながらも輝く様な笑顔を見せた宮崎とネギ先生は二人で大仏殿に向かっていく。周囲に人もまばらで、それは本当にデートの様に見えた。

 

「あぁ……。なるほど。そう言う事かよ……。先に言えよ」

「言ったら面白みが無かろう?ぼーやの顔はなかなか良かったぞ?」

「それよりのどかです。ちゃんとネギ先生に告白できるのでしょうか?」

「だよねー?のどか行っちゃえー!」

「お前ら……。結局隠れて見てるのかよ」

「当然!あの奥手ののどかがここまでやったんだよ!?コレを見ないで何を見るというのだね!?これこそ修学旅行の醍醐味と言うヤツよ!」

「あ、あぁ……そうか?」

 

 取り合えずネギ先生達の後ろの柱やドアに隠れて、様子を伺う私達だが……。て言うか何してんだこれ?何かやってる事違くなってきてねぇか?近衛はどこ行ったんだ?

 いやマテよ、先生が親書持ってるんだから、先生を見張ってるのもある意味正しいのか?だからってこれは何か違くねぇか?

 

 段々と混乱し、一人でブツブツ言い始めた千雨を余所に、大仏の前で賽銭を投げる先生に宮崎が詰め寄って行った。

 

「おぉ!いくか!?」

「のどか頑張るです!」

「くく。さて、どんな顔をするかな?」

 

 何でこいつらこんなに乗り気なんだよ……。

 

「あのーー!ネギ先生!」

「はい?」

 

 先生の名前を呼び、顔を真っ赤に染めながら決意をした表情で――。

 

「わわ、私!だ、大仏が大好きでー!」

「へぇ~。渋い趣味ですね~」

 

 大好きと言いかけてから、急に縮こまって大仏と言いなおす。その展開にここまで引っ張っておいてそれかよ!と心の中で悪態をつく。

 思いっきり突っ込みを入れたい目で宮崎達を見ると、エヴァたちも同じことを思ったらしく、半ば怒った様な呆れた様な顔をしていた。

 

「こらー!何なのそれはー!」

「アホですかー!」

「はう~。ご、ごめん~」

「まったくだ。ほら次だ。とっとと言ってしまえ」

「はは、はい~~」

 

 

 

 その後もおみくじを引き場で大好きが大吉に。さらに引いたおみくじが大凶と散々な結果を晒していた。しかしまだチャンスがあるとばかりに次の場所へ進んでいく二人。

 

「なぁ?帰って良いよな?」

「ダメです。まだチャンスはあります」

「そうそう!まだまだこれからよ!」

「いや、どうみても無理そうなんだが……」

「うわーーーん!ごめんなさいーー!」

「あぁ!宮崎さん!?」

「な、なんだ!?」

「あ、のどかが!」

 

 突然宮崎の悲鳴が聞こえて、どこかに走って行ってしまう宮崎が視界に映った。そして先程とは違い、真剣な表情になって追いかけて走っていく綾瀬と早乙女。

 

「今度は何だ?どうした?」

「あれだ。大仏の鼻の穴の大きさと言われている、柱の穴だ。ポシェットが引っかかって抜けられなくなった宮崎が、ぼーやに引っ張り出してもらったところを転倒して、スカートが捲れ上がって泣き叫んで走って行ったぞ」

「はぁ……。こんなんばかりだな。とりあえずどうするか」

「決まっているだろう?ぼーやの後をつけて、現場を押さえる」

「現場って何だよ……」

 

 

 

 そのままネギ先生に隠れて付いて行くと、再び奈良公園に戻ってきた。

 

「のどかさーん。おかしいな~。どこ行ったんだろう」

「ネギ先生ーー!!」

 

 お、宮崎が戻ってきた。なんか顔は赤いがすっきりした顔をしてるな?

 

「吹っ切れたんじゃないか?これで宮崎のどかもぼーやの取り巻きデビューだな」

「なんだよそれ……」

「あ、見るです!のどかが!」

「おおお!?これは来るかー!?」

 

 再び宮崎が顔を真っ赤に染めて、一度強く目を瞑ってから思い切ったように口を開く。

 

「ネギ先生!あの、実は私!大――!大根おろしも好きで!」

「何だそりゃぁ!?ここまで来てまだ引っ張るのかよ!」

「だまれ。良く見てろ」

「静かに!静かにするです!」

「あぁもう分かったよ。好きにしてくれ……」

 

 既に呆れかえって居ながらも、もう一度だけと宮崎達の方を向く。すると緊張に身体を震わせていた宮崎がぴたりと静止し、赤くなった顔はそのままではあっても、ネギ先生を正面に捕らえて一歩も引かない視線を送っていた。

 そしてそのまま大きく息を吸い込み、告白の言葉を口にする。

 

「私!ネギ先生の事!出会った日からずっと好きでした!私……私、ネギ先生の事、大好きです!」

「え……?」

「分かってます。こんな事言っても迷惑で。先生と生徒ですし。でも、私の気持ちを知ってもらいたかったので……。し、失礼します!ネギ先生ー!」

 

 そこまで一気に捲くし立ててから走り去っていく。宮崎にとって一世一代の告白を聞いたネギ先生はしばらく硬直していたが、事態を把握すると次第にぐらぐらと身体を揺らし始め、真っ赤な顔になって倒れてしまった。

 

「キャー!ネギー!?」

「ネギくん大丈夫なんー!?」

「知恵熱と言うやつですね……」

「……なんだこれは?茶番劇かよ?」

「言っただろう?ぼーやの取り巻きの誕生劇だ」

「ちょっと!エヴァちゃんそんな事言ってないで何か無いの!?」

「あ~……。気付け薬がある。コレでも飲ませておけよ……」

 

 ウェストポーチから魔法の残り香の出ない、一般人向けの回復薬を取り出す。

 

「あ、長谷川さんありがと」

「千雨ちゃんこんなんもっとるんや?」

「まぁ……な」

「さて、帰るか。行くぞ!」

「あ、おい!先生このままかよ!」

 

 それから神楽坂がネギ先生を支えつつなんとかホテルに戻ったものの、放心したり唸り声や奇声を上げたり。一人でいたら確実に通報されそうなネギ先生の姿があった……。




 2013年3月11日(月) 冒頭でのシルヴィアのホテル待機の理由を指定しなおしました。

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