青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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連投は一旦ここまでになります。
にじファンでの執筆当時、この修学旅行編の辺りで私自身が、文章の書き方が分からなくなってしまい、激しく迷走していました。
そのため、見直しをすると改訂作業が止まらなくなってしまいまして……w
修学旅行2日目から3日目、最終日とこれからまた見直しをしてから移転をしたいと思うので、もうしばらくお待ちください。


第37話 修学旅行(1日目) 陰陽師の夜襲

「おったー!なぁなぁせっちゃん、もう部屋に戻ってまうん?」

 

 ホテルでの夕食が終わり、各班の部屋に戻ろうとすると唐突に近衛から声がかけられた。近衛はやけにテンションが高く、普段からよく笑って居る姿が目に付くものの、普段の比ではなかった。

 

「お嬢様、昼間の事もあります。ホテルには結界符で警戒に当たろうと思います」

「そうなんや?残念やなぁ、後で遊びに行ってもええ?」

「お、おい近衛。遊びじゃなくて例のやつをやらないとダメだろ?」

「あ!そうやったね。それから遊ばへん?何なら今、ここでキスしてもええんよ?」

 

 悪戯をする様な声と視線で桜咲を見る近衛だが、その視線の奥に何やら狩人の気配が見えた。視線を逸らせない桜咲に同情しながらそのまま目を逸らし、心の中で桜咲に合唱をする。強く生きろと。

 

「お、おおお嬢様!?」

「いや~ん。このちゃんって呼んで~♪」

「桜咲。いいから早く行けよ。敵とか何かが来たら困るだろうが……」

「あ!は、はい。すみませんお嬢様。また夜にお願いします」

「わかったえ~。せっちゃんも気をつけてな」

「はい!」

「近衛。桜咲が渡していた呪符忘れるなよ」

「分かっとるで~」

 

 そうして近衛と別れて割り当てられた部屋へ。

 

「すみません。それでは私は結界符をホテルの出入り口に貼り付けてきます」

「あぁ。気を付けてな。布団出しくらいはやっておくよ。まだ寝る時間じゃねぇけどな」

「ありがとうございます、それでは」

「桜咲刹那。私の勘では何かあるぞ?十分気をつける事だ」

「……はい。ご忠告ありがとうございます。それでは」

 

 まぁ言っちまったし、とりあえず布団だけ出しておくか?

 

 言ってしまった手前、仕方が無いとばかりに押入れに向かう。そのまま布団を出して居るとニヤニヤとした表情のエヴァの視線に気付き、何か嫌な予感がしたと思った時には既に手遅れだった。

 

「良かったなアンジェ。茶々丸。チャチャゼロ。千雨が全員分をやってくれるそうだ。修学旅行中はは楽が出来るぞ?」

「んな!全員とは言ってねぇだろ!」

「わーい♪ちうたん優しい~」

「ぐ、あぁもう分かったよ。やれば良いんだろやれば!」

「ふふ。素直で良い事だ。良い嫁になるぞ?」

「ぶはっ!近衛みたいなこと言ってんじゃねぇ!」

 

 何なんだエヴァの奴!ちくしょう、近衛がキスとか言い出すからだ……。

 

 

 

 

 

 

 その頃ホテルの出入り口に付いた刹那は、結界符の準備を行っていた。

 

「良し。ここの結界符の準備はこれで完成だ……」

 

 気を込めながらホテルのガラスドアの上に呪符を貼り付ける。いつ何時に何があるか分からないため、早々と次の出入り口に向かおうとすると、唐突に警戒心を含んだ声がかけられた。

 

「桜咲さんですよね。そこで、何をしているんですか?」

「……何?とは?」

「やいやい!桜咲刹那!ネタは上がってるんだぜ!?てめえ関西呪術協会のスパイだったんだな!?」

「こーら、いきなり疑わないの」

 

 躊躇いを含みながらも疑心暗鬼になっている様子のネギ先生が、やや問い詰める様な口調で言葉を発していた。そしてもはや完全に疑って掛かっているカモ。それを宥める明日菜の姿があった。

 ネギ先生達を見た刹那は、一度思案顔になってから少し呆れたような表情をして……。

 

「スパイ?あぁ、なるほど。本当に勘違いされてましたか……」

「え?それってどういう……」

「ほら、やっぱり勘違いじゃないの」

「そうですね。ネギ先生はなかなか優秀な魔法使いであると聞いていたので……。関西の過激な一派が何かをしてきても対処出来るかと踏んでいたのですが。思ったよりも情けないのでエスカレートしてきた様です。その対処の為の結界符です」

 

「え!?す、すみませんー!」

 

 刹那の言葉に若干涙目になりつつ謝罪の言葉を口にするネギ。その一方で刹那も魔法使いだったのかと驚いて明日菜が問い掛ける。

 

「いいえ、私は京都神鳴流の剣士です。符術などは剣の補助程度になります」

「じゃ、じゃぁあんたは味方だってのか?」

 

 刹那は一瞬、躊躇う様な顔をするが言葉を濁さず正直に語り始めた。

 

「私は木乃香お嬢様の護衛です。お嬢様は大陰陽師近衛家のご息女。魔法に関しては素人ですが、その魔力を狙って近づく敵の排除を優先しています。……ネギ先生には学園長からの親書を狙う敵、過激な一派を上手く対処して頂きたかったのですが」

「え?それじゃぁ新幹線の中のって……」

「はい、私も対処を。もっとも親書に言付けしたのは私ではありません。式神を倒したときには既に張られていました。十分に注意してください。私は次の結界符を張りにいきます。それでは……」

「あ、ハイ……。ごめんなさい刹那さん」

「え、うん、またね」

 

 若干しょんぼりとした空気を纏ったネギと明日菜。その姿を視界の端に収めて、次の出入り口に向かおうとする刹那。しかしその矢先、突然に大きな悲鳴が聞こえてくる。

 

「キャーー!?」

「お嬢様!?」

「え?こ、木乃香!?」

「せっちゃん!?変なおサルがー!」

 

 ホテルの中から走ってきた木乃香の後を、自然には在り得ないデフォルメされた姿の猿――小型の式神が数匹の群れとなって追いかけていた。

 それを見た刹那は木乃香への攻撃と判断すると、竹刀袋から自前の野太刀『夕凪』を抜刀し、すぐさま木乃香を背に庇い、式神へ向かって剣を構える。

 

「お嬢様!あれは式神です。見た目よりも強い力を持っています!ですがあの大きさのものなら、魔力や気を加えた一撃で追い払えます!」

「う、うん!」

「僕もお手伝いします!」

「私も手伝うわよ!木乃香の友達は友達だからね!」

「ネギ先生!?神楽坂さんも……」

「明日菜……。巻き込んでごめんな」

「友達なんだから当たり前でしょ?あんた達!可愛いからって手加減したりしないわよ!」

 

 木乃香にとっては初めての実戦。それは明日菜にも言える事ではあったが、先日の経験が功を奏してその表情には若干の余裕が見れた。前衛である刹那を中心に、ホテルの中から次々と現れる猿の姿の式神に全員で向かい合う。しかし、唐突に背後から声が聞こえた

 

「甘いで!本命はこっちや」

「せっちゃ――、ふぐぅ!?」

「お嬢様!?」

「木乃香ー!?」

 

 結界符で魔法的に閉じたはずの出入り口のから、大きな猿の着ぐるみを着た女が現れ、木乃香の口をふさぎ抱きかかえていた。

 結界符は既に焼き切られており、術者の力の差がある事が分かる。女術士は木乃香を抱えたまま外へ走り、人気の無い山の方へ向かってく。

 

「待てー!」

「木乃香を離しなさいよー!」

「待て!――斬空閃!」

 

 気を込めた夕凪で円を描く様に薙ぎ払い、女術士に向かって剣先から技を放つ。しかし、斬空閃の気の刃が届く寸前、突然現れた乱入者が鍔競りの様な音を鳴らしてその一撃を切り捨てた。

 

「ど~も~。神鳴流です~。月詠いいます、おはつに~」

「な、この剣筋!?そんな格好で貴様が?」

 

 そこには、この場に似合わないロリータファッションに身を包んだ二刀流の小柄な少女がいた。

 

「見たところ先輩さんの様ですけど~。雇われたからには全力でやらせてもらいますわ~」

「ホホホ。お札さんお札さん。ウチを守っておくれやす」

 

 ニヤリという表現が似合う笑みを浮かべた女術士が、二枚の呪符を空に放つと、デフォルメされた猿と熊の姿の大きなぬいぐるみが現れる。

 

「ウチの猿鬼≪エンキ≫と熊鬼≪ユウキ≫や。生半可な腕では打ち破られへん。一生そいつらの相手でもしていなはれ!」

「く、マズイ!あれは善鬼と護鬼。魔法使いの従者≪ミニステル・マギ≫の様な強力な守護者です!かなり凶悪な相手です!気を付けて!」

 

 刹那は木乃香を抱えて逃げる女術士を追いかけようと猿鬼と熊鬼に向かうが、横から月詠に斬りかかられる。その事に焦りの表情が見て取れた。

 

「逃がしませんえ~?センパイ~」

「くっ!」

「ほな!さいなら!」

「姐さん!この間のカードの機能だ!アーティファクトだぜ!」

「え、あ、アデアット!?」

 

 そう唱えると明日菜の手には、カードに描かれた大剣……ではなく、ハリセンが握られていた。

 

「な、何よこれ!?こんなの役に立つの!?」

「あれ?変だな……不良品っすかね?」

「アスナさん!とにかく行きましょう、木乃香さんを助けないと!」

「そ、そうね!」

「契約執行180秒間!『ネギの従者≪ミニストラネギイ≫”神楽坂明日菜”』!」

 

 ネギ先生が従者への魔力供給を行うと明日菜の身体に光が纏い始め、やがて力強く輝き始める。その間も刹那は慣れない月詠の二刀流に苦戦を強いられていた。

 

「ラ・ステル マ・ステル マギステル 光の精霊11柱!集い来たりて敵を射て!魔法の射手!光の11矢!」

「このぉー!木乃香を返せー!」

 

 ネギ先生の周囲に集まった光の精霊が輝く矢を象り、一斉に放たれ熊鬼を貫く。そして明日菜のハリセンが猿鬼を叩くと、式神は一撃で霧散した。

 

「ばかな!一撃やて!?ほんなら……お札さんお札さん」

「木乃香さんを返してください!」

「逃がさないわよ!」

「遅い!三枚符術!京都大文字焼き!」

 

 二人は大型の式神を失った女術士へと、今がチャンスとばかりに猛ダッシュで近付いていく。しかし、女術士はカウンターのタイミングで三枚の呪符を空へと放つ。その瞬間、強烈な熱波を伴った優に10mを超える『大』の文字の形に地面が燃え上がる。それを視界に収めるとネギ先生達は慌てて急停止。その強烈な勢いの炎は、近づくだけで全身の肌が焦げる様だった。

 

「な、何よこんなの!」

「ラ・ステル マ・ステル マギステル 吹け一陣の風 風花!風塵乱舞!」

 

 ネギ先生が魔力を伴った突風の魔法を使うと、大文字焼きに向かって強烈な風が吹き荒れる。そのまま炎の勢いを上回って鎮火。大文字焼きをかき消していく。

 

「この~~~!あんた達!覚悟しなさいよ!」

「……アカン。引き上げや!行くで月詠はん!」

「え~。もうちょっと~」

「置いてくで!?早よ来い!それではお嬢様。またいずれお会いしましょう」

 

 そう告げると小さな猿の式神たちが現れ、木乃香を抱えて両陣営から離れて三角形を描く地点へ走り出し、そのまま地面に横たえ消えていった。その間に新しい式神を召還して素早く逃げの体制に入り、女術士達は暗闇の山の中へと走り去っていく。

 

「お嬢様!?」

「木乃香!」

「木乃香さん!」

 

 地面に横たえられた木乃香に向かって急いで駆け寄ると、テープで口を塞がれただけで、至って無事な姿が見て取れた。

 

「せっちゃん!ごめんな明日菜、ネギ君も。助けてくれてありがとな……」

「何言ってんのよ!友達じゃないの!」

「あの……もしかして木乃香さんは……」

「お嬢様……」

「ううん、良いんよ。魔法の事は数日前に知ったばかりの初心者やし。せっちゃんに教えてもらへんかったら、ウチは何も知らんまま最初から攫われとった」

 

 ネギ先生たちは木乃香の告白を聞くと、木乃香が魔法を知って関わっていた事にとても驚いた表情を見せる。

 

「え!?こ、木乃香は魔法の事知ってたの!?」

「黙っててごめんな明日菜。修学旅行に行く直前に、危険やからって教えてもらったんよ」

「そんな。あたしだってネギの事手伝ってて黙ってたんだもの、お相子よ」

「木乃香さん……そうだったんですか……」

「皆さん。ともかくホテルに戻りましょう。一度襲撃をした以上、今夜は体勢を立て直す為に再度の襲撃は低いと思われます。念のため結界符はもう一度張り直します……」

 

 そう言うとお互い頷き合い、離れたホテルへと向かい歩き出した。

 その途中、ネギ先生たちには聞こえない様に小さな声で刹那が木乃香に問いかけた。

 

「お嬢様……。例の事は……」

「……うん。明日にせえへん?今夜は何だか慌しくなってもうたし。千雨ちゃんに謝らんと」

「分かりました。そちらは私の方から言っておきます」

 

 そうしてホテルに着いた面々は、それぞれの部屋へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 事が起きる少し前。急に呪術の力を感じ、エヴァちゃん達に声をかけて原因を確かめようと話し合っていた。

 

「ねぇ。あれって陰陽術だよね?関西呪術協会の一派が完全に暴走してるって事かな?」

 

 今はホテル最上階。ここからは外が眺められるラウンジがあるから、少し遠いけどネギくん達の戦いを皆で見て話し合いの最中です。

 

「そうだな。だが別に良いんじゃないか?ぼーやも実戦経験が積めるし、あの女術士はなかなか良い仕事をしてくれそうだ」

「桜咲の奴苦戦してたみたいだな。あの二刀流の奴ってそんなに強かったのか?」

「獲物に慣れて無いだけだろう。普段から両手持ちの長物だからな」

 

 さっきの様子だと、木乃香ちゃんはネギくんに魔法を知った事がバレちゃったかな?少し動き難いかもしれないね。けど、明日菜ちゃんとはルームメイトで仲も良いみたいだし、隠さないで済む分楽かもね。

 

 そうして話し合っていると、刹那ちゃんの声が聞こえてきた。

 

「ここに居ましたか。長谷川さんすみません。先日のお話ですが、お嬢様は明日にしたいとの事です。大丈夫でしょうか?」

「あぁ。修学旅行中ならいつでも良いんだし。あんまり気にするなよ」

「はい。ありがとうございます」

「それにしても桜咲刹那。随分と苦戦していたな。そんなに二刀流は苦手だったか?」

「いえ……。まさか伝統ある神鳴流が型を崩した剣技を使うとは思わず……」

「ふん。良い経験になったんじゃないか?油断してるとその伝統ごと大切なものが切られるぞ?」

「……はい」

「木乃香ちゃんは大丈夫だった?ネギくん達に魔法の事知られちゃったんじゃないの?」

「ええ、お嬢様がご自分で話されました。神楽坂さんに秘密を持ちたくないと仰ってましたので、良かったのではないかと……」

 

 やっぱりそうだったんだ。秘密を持ったまま付き合うのは難しいからね~。私もネギくん達を裏から見守るだけって言うのはなかなかツライからね。

 

「それではすみません、私は結界符を張り直しに行きますので。これで失礼します」

「うん。頑張ってね」

「シルヴィア。ネギ先生放っておいて良いのか?まだバレたくはないんだが、相手のレベル、先生達から見て結構高いと思うぞ?」

「う~ん……。確かにここは学園との契約管轄外だからね。私達が勝手をしても木乃香ちゃんたちみたいに融通は利くはずだけど……」

「エヴァちゃんはどう思う?」

「聞かなくても分かっているんじゃないか?アンジェと身内に害が無ければ放っておけば良い」

「ホントに聞く必要ねぇじゃねぇか」

「あはは……本当だね」

 

 ネギくんはこの前のエヴァちゃん達の修行から確かに成長してるように見えるよね。今回の事でまた成長出来るのかな?前は上手く手加減してバランスを取っていたけれど、今回の相手は本気で攻めて来てる。それなら……。

 

「……そうだね。ネギくん達をなるべく良く見て、手が出ないような相手ならば私達から積極的に手を出そうか?」

「そうか……。神楽坂には文句を言われそうだな」

「くくく、ものまねして言い返してやったらどうだ?」

「やらねーよ……!」

 

 修学旅行中のネギくん達への方針を決めて、その日は教員の仕事に戻る事に。

 次の日、どんなトラブルが待っているかは闇の中だった――。




 にじファンで指摘されたのですが、「神鳴流は獲物を選ばず」と刹那自身が発言している。月詠の二刀流に梃子摺るのはおかしいのではないか?と言うものがありました。
 しかし原作のこの段階で、退魔用の野太刀を常に抱えた戦いに成れて居るため小回りの聞く二刀流にはすぐに対応できない。とされています。実際に刹那が苦戦する描写もありますし、何より原作の連載中に設定がころころ変わっていたので、なるべくその時点での事実描写を採用しています。

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