青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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 にじファンでは第6話の扱いでしたが、ここでは閑話に変更しました。文字数は短い内容ですが、前後に合体させる事も出来ないのでそのまま投稿します。(加筆しました。詳しくは後書きで)


閑話 任務は危険と隣り合わせ

 私はコードネームデルタ。魔法世界(ムンドゥス・マギクス)最大の人間勢力都市、メガロメセンブリアから極秘裏に派遣された調査隊を預かっている。今回の任務は旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)で数十年前から現在に渡って、何度か観測された巨大な魔力の発生源である。

 旧世界にある聖地等で観測されたならばまだしも、この魔力源は謎の一言に尽きる。その発生源は、現地のヨーロッパと呼ばれる地方で『黒の森』と呼ばれる巨大な樹海になる。やや離れた場所に街はあるものの、人口密度や自然開発の必要性がない事から未踏の地となっていると聞く。

 

 だからこそ、何らかの儀式が行われたか、大きな力を持つ鬼神・悪魔が召喚された可能性が有る。しかしそうだとするなら、別の矛盾が発生するのだ。

 数十年に渡って何度も観測されたのであれば、少なくとも『黒の森』に異常が見られるはずだ。しかし、周囲での異常や大きな事件も報告されていないのだ。これを異常事態と言わずしてなんと言うべきか。

 我等メガロメセンブリアの勢力がバックアップをしているメルディアナからは、他の組織や冒険者など、旧世界の人間が何度か調査を行ったらしいという話を確認している。しかし彼等は、ヨーロッパから西へと海を渡った島国に身を寄せた組織だ。その為に軽々しく他国に諜報が出来ず、正確な原因を未だ掴んでいないのだ。

 

 今回の任務において最優先とされるものは、魔力の発生源の確認。次に隊員が一人でも多く生存して上層部へ報告。そして出来れば魔力源の確保、あるいは討伐。

 我々がバックアップをするメルディアナならともかく、他所の組織に握られるわけにはいかないのだ。最悪の場合、他の組織と出会えば戦闘もありえるだろう。

 

「隊長。今のペースならば。早朝には黒の森にたどり着きます」

「よし。他の組織に警戒を回しつつ、森の五百メートル程手前で休息を取る」

「了解!」

 

 現在私が率いている部下は二人。発生源と考えられる鬼神等、あるいは儀式を行った組織を相手に交渉も考慮した上で精鋭を用意し、男二女一の編成である。交渉が出来る相手がおり、有利な契約を交わせれば上々だろう。最低でも原因の情報は握りたい。

 しかし現実的に考えるならば、儀式跡と何らかの組織・グループ等の痕跡程度だろう。

 

「隊長。野営準備完了しました」

「ご苦労。結界を張りつつ交代で見張りに付く」

「了解!」

 

 さて、早朝には森に入る。どこまで探索が可能だろうか。魔力反応は幸いにもほぼ特定の範囲である。我々の足ならば、半日もかからずにたどり着くだろう。

 

 

 

 

 

 

 あたし達はわざわざ旧世界に来ている。こちらでは大きな声で魔法を使えないし、暗躍する魔法団体も数が多すぎる。

 今朝、調査の目的地に到着。ちょうど黒の森内部の探査指定範囲に向かって駆け出している。正直なところめんどくさい。旧世界の事なんだからそっちで勝手にやってほしい。

 

「まったく。なんであたしが……」

「口を閉じろ、コードエイト」

「はーい」

 

 ぼやけばすぐこれだ。隊長は固すぎるのよね。コードネームエイト、それが組織でのあたしの名前。隊長がデルタで割と真面目なもう一人の隊員はセブン。

 数字の名前なんて華もあったもんじゃないわ。いい加減仕事変えようかしら? かといって裏組織にいる身。簡単に変わったり出来ないのよね。

 

「そろそろだ、警戒を怠るな」

「了解!」

「はーい、了解」

 

 目的地に着いたもののやっぱり森が広がっているだけにしか見えない。探査魔法をかけてみたけど、何かの儀式の痕跡は感知できなかった。

 

「このポイントは終了。次のポイントへ向かう」

「了解!」

 

 次……、ねぇ。今も魔力反応は無いんだし、儀式跡が見つかるかどうかってレベルじゃないかしら。

 

「次のポイントだ、北北西へ九百メートル程進む」

「了か……!?」

「えっ!?」

 

 寒気がした。唐突に巨大な魔力の気配。これは明らかにヤバイ。こんな魔力人間が出せるレベルじゃない、それこそ鬼神やヘラス帝国の守護聖獣でも目の前に居るみたいじゃないの!

 

「た……隊長、どうしますか!?」

「あ、あたしは帰りたいな~、なんて……」

「馬鹿者! 調査する絶好の機会でしかない!」

「り、了解!」

「了解!」

 

 冗談じゃないわ。こんなのと対面するのなら反逆者扱いでも逃亡した方がマシってものよ! けれど魔力反応はかなり近い。

 急に出た辺りもしかしたら待ち構えられていたのかもしれない。全員殉職。そんな言葉が頭を過ぎったけれど、あたし達は行くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 何という事だ。調査隊には精鋭を連れてきたはず。例え敵対組織や大量の召還魔が居たとしても、反撃しつつ好転、あるいは撤退は可能だと踏んでいた。

 しかし、これほどの魔力を持つ相手では無事に逃げ切るのはまず無理だ。最悪の場合、私自身が囮となり報告を部下に任せる事になるだろう。

 

「隊長! 反応……捕らえました。西に百メートル程です!」

 

 さすがに精鋭と言っても弱腰になるか。あの真面目なセブンですらこうなのだ。任務に不満を覚えているエイトは後衛、あるいは確認後即座に連絡員として後退を認めた方が良いかもしれん。

 

「よし。私が先行する。エイトは私の後ろに続け。セブンはこの場で待機して観測を開始。最悪の場合は即座に撤退の準備を」

「了解!」

「観測準備開始します!」

 

 どうやら覚悟を決めるしかなさそうだ。ここを正念場と雑念を捨てて、姿勢を低くしてじわじわと歩みを進める。正直、息が詰まる思いだ。前方の魔力発生源からは、害意が感じられない事がせめてもの救いだろうか。

 

「もう嫌になるわ。何でこんな……」

「愚痴は後でいくらでも聞く。今は黙れ」

 

 不味いな、士気が揺れている。ここで一度後退し、後日出直すか? だがしかし、これは絶好の機会でもある。我々にとって最優先任務は何だ? 魔力の発生源を調査する事だ。ならばやはり、エイトをセブンの位置まで後退させて私だけでも行くか?

 

(こちらセブン! 対象から魔法障壁の展開が確認出来ます! それもかなりの魔力です!)

 

 木々に隠れ周囲を警戒しながら更に進むこと十数メートル。セブンからの念話がきた。これは正直ありがたい。

 

(了解した!)

 

 だが、魔法障壁だと? これだけの魔力を防御魔法だけに使っているとは考え難い。障壁を張った中で何かを行っていると考えるのが自然か。

 いや待て、ならばなぜ結界魔法ではなく障壁? おかしい。何者かが居るのは確定だが、怪しすぎる。しかし儀式魔法ではなく個人の防御魔法とは、一体どう言う事だ!?

 

ガサガサ!

 

 何っ!? しまった、別の組織が居たか! どうする、現状で動くのは危険過ぎる。

 

「……エイト。このまま伏せて待機だ。息を潜め、機を見て前進か撤退を決める」

「り、了解」

 

 さて、奴等はどう出る? 一つの組織ならばまだ良いが、複数相手だと面倒な事になる。

 

「――魔法の射手! 氷の7矢!」

「ぐっ!」

「きゃっ?」

 

 しまった! 既にこちらの位置を気付かれていたか! 前方を凍らされては先に動くのが遅れる! 相手の数も解らない以上、これ以上は危険だ! だが逃げれば魔力の発生源も、相手の組織が何者かも解らないまま終わる! 判断を誤れば全滅だ、どうする?

 

「――契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ とこしえのやみ えいえんのひょうが!」

 

 魔力源に向けての氷結の上級魔法か! 不味い! この距離では巻き込まれる!

 

(セブンッ! 今すぐ観測データを持って撤退を――)

(隊長っ!? 何が――)

 

 冷気の嵐が吹き荒れて巨大な氷柱が立ち上がった。かと思えばそれは、即座に謎の魔法障壁に阻まれて、パリンと情けない氷の破砕音と、魔法障壁の砕ける甲高い音が森に響いた。恐らく相打ちになったのだろう。

 あれだけの魔力を障壁だけに使っていたのであれば、氷結封印を防いだのも不思議ではない。しかしこちらには奴等の末端が直ぐにやって来るだろう。ならばこの機に引くしかないか!?

 

「――来れ風精 光の精 光りに包み 吹き流せ 光の奔流 陽光の息吹!」

 

 何っ!? 魔力源の方から反撃? 障壁を張っていた防御魔法が解けたにしては建て直しが早すぎる!! あちらは何人い――馬鹿なっ! 少女が一人だと!?

 少女に見入っている僅かな間に、こちらを足止めした敵対組織と思われる者たちは光に包まれ、遥か遠くへ吹き飛ばされていく様子が見えた。




 2013年3月15日(金) 記号文字の後にスペースを入力。無駄な改行の削除、及び地の文等を中心に加筆をしました。戦闘時の魔法の擬音を文章表現に変更しました。第3話と同様に1,000文字ほど増えてます。
 ちなみにコードネームには何の意味もなくて、とりあえずそれっぽい感じにしただけです。

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