青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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 上下編です。話の構成上、下編が短めになりました。


第34話 修学旅行の準備(上)

「こんにちは詠春さん」

「お久しぶりです、シルヴィアさん。フロウさん」

「よぉ、元気にしてたか?」

 

 目の前で柔らかな笑顔を見せてくれる壮年の男性は近衛詠春さん。修学旅行の下見にやってきた私達を関西呪術教会の人はすんなりと受け入れてくれたけれど、これは詠春さんの知人だって事と関東魔法協会に私達が所属していないからだね。

 詠春さんは神鳴流剣術の宗家、青山家の出だけれど、二十年前の魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫での戦争に紅き翼≪アラルブラ≫として参加した後は近衛家の入り婿になっていた。もちろん呪術の近衛家だから中々大変だったと思うんだけどね。学園長とは義理の親子だし、娘の木乃香ちゃんを東に預けているから、苦労も耐えなさそうなんだよね……。

 

 それはともかく京都の本山にやって来た最大の理由は、修学旅行の前に関西とのトラブルを避けるための前交渉。私達が把握している原作知識のおかげで修学旅行中にトラブルが起きる事が分かっているから、現在の関西の長である詠春さんにある程度の融通をお願いしに来ている。

 

「それで今回の件、私としては問題無いのですが……。木乃香が”帰ってくる”と言う事で、下の者の中には少々やっかみを言う輩が居ましてね」

「まぁそうだろうな。京都の大御所のお嬢様が関東の学校に通ってるんだ。面白く無い顔をする奴も居るだろう。いくら麻帆良のトップが近衛とは言え、関東魔法協会のトップでもあるし、魔法使い人間界日本支部のトップでもある」

 

 木乃香ちゃんは近衛家の一人娘だし、魔法使い――近衛家としては陰陽師かな――の後継者のはずなのに、東で何も知らないまま育てられているのは面白くないと思うんだよね。どういう理由で麻帆良に通っているのか知らないけど、きっと学園長が何かをしたんだろうね。

 学園長は本当に口が上手いし、実際日本の魔法関係組織のほとんどに顔が聞くみたい。本当に何をしたんだろうね? 権力に固執しても良い事は無いと思うんだけどなぁ。

 

 何はともあれ木乃香ちゃんの事はあるけど、修学旅行の行き先は京都に決定済み。詠春さんに麻帆良の学園関係者の来訪について融通してもらう他に、生徒達の安全の為にもいざこざを起こさないで貰いたいんだよね。

 フロウくんの言葉を借りたら、先手を打ちに来たって感じかな~。

 

「義父の事はともかく、万が一と言う事もあるので木乃香には護衛を付けていますよ」

「護衛ってアイツか? 竹刀袋持って影から見てるだけのヤツか」

 

 たしか刹那ちゃんの事だよね? いつもなんだか遠慮してるみたいで、木乃香ちゃんが寂しそうにしてたんだよねぇ。同じ京都出身なんだし話は合うと思うんだけど、木乃香ちゃんが近付いてくると逃げちゃうんだよね。

 

「あえてぶっちゃけるが、役立たずだぜ? あれじゃ千雨でも木乃香を攫えるぞ?」

「長谷川千雨さんでしたね。お弟子さんに取られたと聞いていますが、聞いた所では魔法使い型と言う事ですし、剣士の刹那君とは相性が悪いのでは?」

「千雨ちゃんはナギさんやラカンさんレベルを仮想敵にして訓練をしてるの。何があるか分からないって意味でね。タカミチくんでも千雨ちゃんに圧勝出来るか怪しいと思うよ?」

「なんと……。そこまで育てましたか。これは刹那君もうかうか出来ませんね」

 

 タカミチくんの場合は呪文の詠唱が体質的に出来ないから、どうしても相性の問題があるんだよね。千雨ちゃんは魔法主体だけど遠近両用タイプでもあるから、距離を取って質量戦になればタカミチくんと応戦し続けられる。それにアーティファクトで魔力供給が出来る強みもある。

 それにしても、これから大事が起きていく事を知っている私達としては、A組の中で魔法に関係がある木乃香ちゃんとその護衛の刹那ちゃんは放って置いて良いって思えないんだよねぇ。

 

(そうだ、フロウくん。どうせなら詠春さんに未来予測と事情を説明しちゃう? 学園関係者とは一線を引いている人なんだし?)

(話すなら刹那だろう? あいつ護衛って言うか、近くに居るだけで満足して終わってるぜ? そうだな、一度千雨をけしかけてみるか?)

(そ、それはちょっと違うんじゃないかな?)

 

「実際はどれほど育ちましたか? タカミチくんは魔法が苦手ですし……」

「え? えぇと、個人で戦略規模の大魔法も使えるし、魔法の射手なら集中出来れば千矢の制御も出来るかな? それから咸卦法も取り入れて始めて、体術も反射で対応出来るレベルかなぁ」

「こらシルヴィア。手の内を明かしすぎるな。とりあえず切り札は色々有るって所だ」

「なるほど……。もし良ければですが、一度刹那君と手合わせ出来ませんか?」

「詠春。お前、千雨をけしかけろって言ってるのか?」

 

 え、ちょっとフロウくん? なんでそんな黒い顔付きになってるの? それにいつの間に話がそういう方向に? それだと刹那ちゃんが自信なくしちゃうんじゃないかな~。

 刹那ちゃんはタカミチくんレベルじゃないんだし、千雨ちゃんと一対一だったら魔法の火力と一介の剣士の差はかなり大きいと思うよ? おかしいなぁ、修学旅行の下見といざこざを起こさないようにするために来たはずなんだけど?

 

「ねぇフロウくん。私達は修学旅行の下見に来たんだよ? 何だか話がおかしくなってない? こっちでトラブルが起きたりしないか、何かあった時の対処の話だよね?」

「…………気づかれたか」

「『気づかれたか』じゃないよ! 話しすり替わってるじゃない!」

「それでもお願いしますよ。こちらはこちらで準備はしますが、確かに刹那君には良い試練になるかもしれません」

「え、そう言うなら、話してみるけど……」

 

 うーん。でもまぁ夏は近づいてるからねぇ。今のままだと木乃香ちゃんは何も知らないまま巻き込まれる可能性が高いよね。ってフロウくんてばそんなに嬉しそうな顔してないで、ちょっとは危機感覚えようよ。何か私一人で心配ばかりしてない?

 

「あとは木乃香だ。京都での立ち位置は気をつけろよ? 何かあれば確実に魔法の事を知るぜ? 教えない方針らしいが、ナギの息子はあんだけ英雄妄想者たちに信望されてるんだ。それが分かってるからの護衛なんだろう? このまま教えなくて良いのか?」

「出来れば木乃香には普通の生活を送らせてあげたいのですが……」

「でも学園長は、木乃香ちゃんにはおいおいばらすって言っていたよ?」

「義父がそんな事を……?」

「木乃香が自分でどうするか決めたら、下の奴らだって態度をハッキリするんじゃないのか? 英雄の娘で長の娘でもあるんだ、もういい加減知らないじゃ済まない歳だろう?」

 

 ただでさえ同じ部屋に住んでる明日菜ちゃんには魔法がばれてるからね。そのまま引きずられる可能性も高いし、学園長はばらす気満々だし。それに立場が有る家なんだし、知っていて関わるのと関わらないって宣言するんじゃぜんぜん違うからね。

 ここはちゃんと教えた上で、木乃香ちゃんがどうするかきちんと決める。詠春さんはそう決めたって事で良いんだよね? どっち道巻き込まれる可能性が高いと思うから、今の内に経験は詰ませてあげたい所なんだよね。

 

「わかりました。修学旅行での事を見てはっきりと決めたいと思います」

「……手遅れにならないと良いな?」

「対策は練ります。木乃香がどう決めても良い様に対応もする事にします」

「確認のため聞くけど、それは木乃香ちゃんに教えても良いってかな?」

「……そうですね。よろしくお願いします」

 

 詠春さんは苦渋の決断だっただろうね。でも、木乃香ちゃんの立場がそれを許さないって本当は分かっているはず。だからこそ苦い顔だったけれど、これからの方針を明確にしないといけなかったと思う。

 

 関西呪術教会の本山を後にした私達は、千雨ちゃんに連絡を取って、適度に刹那ちゃんを刺激してもらう事にした。それから学園長には詠春さんからの依頼で一騒動が有るからと電話をして了解を貰い、京都での下見を終えて学園に戻る事にした。

 もちろん私達は学園の魔法関係者や一般の先生とは別々の行動で、麻帆良の影の代表みたいなものかな。下手に学園長に任せたら、詠春さんに電話一本で済ませそうだからね……。それにこちらで対策もしたかったし、一般の先生の下見と一緒にここに来るわけには行かないよね。

 

 

 

 

 

 

「なんだぼーや。こんな所で何をしている?」

「あ、エヴァンジェリンさん。こ、こんにちは。えぇと、その、先日はありがとうございました。それでその……。父さんの事なんですけど」

 

 シルヴィア達が京都で詠春と交渉を行っていた頃、ネギは偶然立ち寄ったカフェチェーン店でエヴァ達と出会っていた。

 先日、学園長の依頼によって魔法の世界の厳しさを教えられた事で、ネギはエヴァに感謝の念を覚えていた。しかし氷付けにされかけた恐怖は未だ色濃いもので、発した声には若干の怯えを隠せないで居た。

 

「サウザンドマスター、ナギの事か? しかしぼーやは私に負けたんだがな?」

「え~。良いじゃないエヴァちゃん。それくらい教えてくれても」

「何でだ。と言うか神楽坂明日菜。そんなに気安く話しかけられる仲になった覚えは無いぞ?」

「え~。良いじゃないお姉ちゃん。それくらい教えてあげようよ~」

「うぐ、アンジェがそう言うなら……」

「あ、貴女は、アンジェリカ……マクダウェルさん?」

 

 ネギは今まで、エヴァの存在感に隠れた少女を気に留めていなかった。意識出来なかったと言っても良い。もう一人の少女は彼女と瓜二つで、若干髪の色や目付きが違うだけの少女だった。慌てて出席簿を確認してファミリーネーム見ると、ネギは一瞬だが顔色を青くして慄いてしまった。

 

「貴様……。アンジェに手を出そうと思うなよ? 出したらどうなるか分かっているんだろうな!?」

「お姉ちゃん目が光ってるよ? 落ち着いて、落ち着いて~」

「えっと、もしかしなくても双子よね? そっくりだし。ねぇ、ひょっとして」

「アンジェも真祖だがそれがどうした? だからと言って変な気は起こすなよ?」

「大丈夫です! クラスメイトの皆さんは僕が守って見せます!」

「だからそれが変な気だと言っているのだ! アンジェなら私が守る!」

 

 エヴァは怒気を含んだ眼でネギを凄むと、彼の襟首をがくがくと揺すって脅し始める。まるで理不尽なその行為にネギは堪らず悲鳴を上げてしまった。しかしながらアンジェと茶々丸は、微笑ましいものを見るかの様な視線で二人を見つめていた。

 明日菜は先日のエヴァの恐ろしい姿のイメージが強く、まるでただの駄々っ子の様なエヴァの姿を不思議に思い、堪らず茶々丸に疑問の声を投げかけた。

 

「ね、ねぇエヴァちゃんっていつもこうなの?」

「マスターとアンジェ様の事なら概ねそうかと思いますが」

「ふん、まぁ良い。あのバカの事なら京都にでも行ってみろ。奴の別荘がそこにあったはずだ。今はどうなってるか知らんがな。後の事は聞くな」

「それならちょうど良いじゃん。今度の修学旅行って京都なんだし」

「え、本当ですか!?」

 

 茶々丸の冷静な声に我を取り戻したエヴァは、ナギについて僅かながらの情報をネギに与える。さらに、明日菜から修学旅行が京都だという情報と相まって、大いにはしゃぎ出すネギだった。

 

 

 

 その後、ネギは修学旅行の打ち合わせと言う名目で学園長室に呼び出されていた。けれども、学園長の口から修学旅行は中止と宣言されてしまい、目に見えて落ち込むネギの姿があった。

 

「まぁ、待ちなさい。まだ中止と決まっておらん。問題は、京都を中心とした魔法組織『関西呪術協会』じゃ。あちらがかなり嫌がっておるんじゃよ」

「か、関西呪術協会!?」

「うむ。ワシは関東魔法協会の理事も担当しておっての、今年は魔法使いがいる事にあちらが難色を示して――」

「ぼ、僕のせいですか!?」

「待て待て、最後まで聞きなさい。ワシとて西と喧嘩せずに仲良くしたい。それでじゃ、ネギ君にこの親書を持って京都へ行って欲しい」

 

 だがそこで「しかし」と続けてから、過激な妨害工作が有るかもしれないと言い出した。一般人が居るものの何をされるか分からないとも。その事に不安な顔になるネギだが、大きな仕事を任せられた事に晴れやかな笑顔で任せて欲しいと答えた。ネギの顔付きには、エヴァ達との一戦でどこかしら成長した様子があった。

 

「良い顔をするようになったの。ところで木乃香には魔法はばれておらんのじゃろう? 親の方針での、魔法は出来る限りばれんように頼むぞい」

「はい。分かりました」

「それでは。頼んだぞいネギ君」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 一応これも仕事なんだよな。何つーか、私がこういう人に教える様な事すんのも変な感じなんだけどよ。シルヴィア達からちゃんと頼まれた話だし、修学旅行先の偉い人から事前にやっておいて貰わないと困るって事なら、別に悪い事じゃねぇんだよな。

 とりあえず桜咲を追いかけて、放課後に一人で帰るところまで待ってみたけどよ……。確かに近衛の護衛をちゃんとしてるって感じじゃねぇな。とりあえず言われた通りに警告してみるか。

 

「よう、桜咲。ちょっと良いか?」

「……長谷川さん? 珍しいですね。貴女が話しかけてくるなんて」

 

 一瞬険しい顔付きをしたけど、私を見て一般人の対応にしたってところか。さすがに尾行には気付いてたんだろうから、それなりの対応のはずだよな。

 けど私がずっと魔法使いなのを隠して一般人の振りしてたからなのか? 尾行してた相手を直ぐに一般人だと思い込んで受け入れるってのはどうなんだ? エヴァだったら即効で縛り上げそうだよな。

 

 とりあえず揉め事を起こす許可も取ってるし、夕方だから目立たないって事で、始めるか。桜咲を正面に見据えたまま、ウェストポーチに指先を入れて魔法薬を取り出す準備をする。

 

「今度の修学旅行でさ、京都行くだろ?」

「ええそうですね。それがどうかしましたか?」

 

 とりあえず普通に話しかけたけど、”京都”って単語に一瞬だけ桜咲が反応した感じだな。表情も強張った気がするし、もう一言ってところか。

 

「……京都神鳴流」

 

 これでどう反応する……? 呟く程度の小さな声だが、桜咲には聞こえたみたいだな。桜咲の目が鋭く細められて一気に警戒してきたし、流石にこの辺りを口にしたら魔法関係者だってハッキリばれるか?

 

「何故、その名を?  貴女は何者ですか?」

「さぁな? 何者だったら気が済むんだ? 私が敵だったらどうする?」

 

 警戒から警告に切り替わったな。私が敵って言った瞬間に、背負っていた竹刀袋から野太刀を引き抜き抜刀。そのまま剣先をこちらに向けて構えを取ってきた。

 

「答えろ。貴様はお嬢様を狙う敵か?」

「だから敵だったらどうするんだって聞いただろ?」

 

 護衛ってこの時点で近衛の所に行かないとマズイんじゃねぇのか? それとも私一人を何とかすれば終わるって考えたのか?

 まぁなんだな、こうやって近衛に近付かない状態だから依頼されたって訳か。これを叩き直せって? あんまり無茶言うなよ。本人同士の問題だろ?

 

 そうは思いつつも隠していた魔力を開放する。体の表面を魔力で薄く覆って、桜咲に対して殺気を向け始める。

 

「――っ! 御免!」

 

 殺気を感じてから刀の峰で胴を払いに来る。けれども、その横薙ぎの一撃を余裕で持って避ける。続け様の追撃に警戒したが、桜咲はそのまま基本の構えに戻った。

 その隙にポーチから魔法薬を二つ取り出して中身を周囲に振りまく。それを媒体に人払いと、魔力が周囲に漏れない様にするため結界を張った。

 

「長谷川さん。貴女は本当に何者ですか? 貴女は一般人にしか見えなかった。それなのに今はこうして対面しているだけで威圧感がある。それにその魔力、本当に貴女は長谷川さんですか?」

「行くぞ桜咲……。エゴ・ルク プルウィア ファートゥム――」

 

 流石に魔法の始動キーを聞けば警戒するよな? 桜咲は距離を取ろうと後ろに下がり始めたがそれは想定済み。必要なのはコイツに今の自分の状態を解らせる事だ。だからこそこの場に拘束する魔法を唱える。

 

「――逆巻け春の嵐 我らに風の加護を 風花旋風 風障壁!」

「これはっ!?」

 

 魔法を唱えた瞬間、私自身を中心にして周囲数mを竜巻状の風の壁が包み込んだ。この魔法は本当なら敵からの防御用なんだが、相手を限定空間に拘束するって意味じゃかなり強力だよな。数分程度で切れちまうが、もう詰みに入ってるぞ? 大丈夫か桜咲?

 

「桜咲、これで近衛の所に行けなくなったぞ? お前はそれで良いのか?」

「何が目的だ? お嬢様を狙うならこのままで済むと思うな? 刺し違えても一撃を――」

「馬鹿野郎。お前の眼を覚ませって依頼を受けたんだよ」

「な、い、依頼だと!?」

 

 そうだと頷いてから私が桜咲を襲った理由を説明する。それにある程度の情報は出して良いって言われてるから、今後魔法がらみの大きな事件も予見されてる事を伝える。そして近衛が盛大に巻き込まれる可能性が高いって事も。

 

「今回の事は、西の長の近衛詠春って人から許可を貰ってる。近衛を遠くから眺めてるだけで満足らしいが、今この瞬間にも本物の敵がやって来たらアンタどうすんだ?」

「し、しかし、私の様な卑しい身分の者がお嬢様と……」

 

 身分ねぇ。その手のが難しい問題だってのは分かるんだが、生憎そんな生まれじゃねぇから理解しきれねぇな。まぁ、桜咲なりに悩んでるって事か。

 

「悪いがそこは私の知った事じゃねぇな。西の長って人が何のためにあんたを近衛に付けてるんだ? そういうの気にする人だったら初めから別の奴を付けてるんじゃねぇのか?」

「なっ!? いや、しかし!」

「しかしも何も無いだろ? 遠慮して離れて見てて、その結果近衛が死にました。それで満足かよ?」

「う……」

 

 まぁなんだ。今の言い方もどうかと思うんだが、私がこちら側に足を突っ込むきっかけが死にかけた事だしなぁ。

 

「西の長は今回の修学旅行で、近衛自身に対してどうするか見極めるとよ。長の娘ってだけじゃなく、英雄の娘でもって意味だそうだ。気を張って行った方が良いぜ? あぁ、それから私に期待をするな。基本的に私の師に言われるか、依頼が来ない限りサービスは無いからな? ちゃんと近衛と話ししておけよ」

「……はい。すみません長谷川さん。一つだけ確認させてください」

「なんだ?」

「長谷川さんは、お嬢様の敵になる依頼を受ける可能性はありますか?」

 

 あぁ、なるほど。確かに依頼で動くって言われたら、何でも屋みたいに聞こえるか? そうは言っても基本的にシルヴィア達は学園の生徒を一般人も含めて守る方向で考えてるから、まずそういう依頼は受けねぇだろ。でもまぁ、正直に言わない方がここは良いのか?

 

「多分、可能性は低い。どちらかと言えばネギ先生に気を付けろ。学園長の手の上で踊らされてるぜ? しかも寮の同室の神楽坂は従者契約しちまってる。契約するとタロットカードみたいな仮契約のカードが手に入る。近衛はああいう占いアイテム系に目が無かった筈だよな? 悪知恵の利く使い魔も居る。先生に従者契約でも結ばれたら問題があるんじゃねぇのか?」

「そうですか……。ありがとうございます!」

「あ、あぁ……」

 

 ちょっとマテ。何か随分と晴れやかな笑顔してるんだが、大丈夫かこいつ? さわやか系ってやつか。ダメだな、悪いけどこういうのは慣れねぇよ。

 

「それじゃ用は済んだから私は帰るぞ! ……頑張れよ」

「はい!」




 2012年10月3日(水) 記号文字の後にスペースを入力、及び地の文等を中心に若干の改訂をしました。

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