青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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 少しくどいかもしれませんが、千雨のコスプレへの拘りとエヴァのゴスロリの拘りは、並々ならないものが在るだろうと思う事。そして拘らなかったらそれは千雨じゃないと思い、この様な表現を選びました。
 服飾に興味が無い方の為に、説明している文章の、最後の段落にイメージを書いています。


第30話 桜通りの魔法使い(1) 遭遇した悪

「おいマテ、エヴァ! お前の趣味で勝手に決めてんじぇねぇ!」

「何を言う!? 私の下僕として仕事をするんだ! それに相応しい格好をするのは当然だろ!?」

「いつお前の下僕になったんだよ!」

「二人とも穏便に決めようよ……」

 

 そんなやり取りをしながら、結局春休みはネギ先生のいじめ用。もとい修行計画用兼、私の本気装備のコスチューム作り(コスと言いながら魔法衣になるんだが)と神楽坂の真似事をひたすらやる事になった。エヴァが勝手にゴスロリを着せようとするから、口を出して共同で製作する事にした。

 それでもエヴァが黒とフリルはどうしても譲ろうとしないんで全体的には黒系。そしてフリルを付けたゴスロリコートを作る事にした。

 

 まずは黒のセーラー服っぽいものを基準に、セーラーカラーの胸元をV字じゃなくてブラウスのラウンドカラー状にして、セーラーのリボンではなく頑丈なシルバーのロザリオネックレスをかけてある。これはシルヴィアが教会関係って事もあるんだが、全体的な防御力強化のため耐久度を上げる一品だ。セーラー部分と半袖のカフス部分のラインには銀糸を使って、魔法防御力を上げる対策を取っている。スカートは膝上プリーツだが魔法薬とかを入れたウェストポーチを付けるんで、ウエスト部分が若干縦に長いものになっている。こっちにもウエストと裾に銀糸を入れた。そして若干踵のあるロングブーツの側面にも銀糸を入れて、こっちも魔法防御力をアップしている。

 最終的なシルエットは、半袖で細部に銀糸をあしらったビブリオルーランルージュに近い感じのものになった。

 

 そんでもって上着は、黒のジャケットタイプのロングコートをベースに作る事にした。まず体術で動くのに問題が無い事と、ウェストポーチにも手を入れ易くする作りを重視。

 そのためにまず首周りを大きく開いた。脚部分も正面から見てスカートと脚が見える感じで左右に花の様に広がっている。これで足運びがかなりやり易くなった。そして裾や要所には銀糸のラインを入れてセーラーとの統一感を出した。その上で銀糸を混ぜた白いフリルがあしらわれて、ハイウエスト留めの様なゴスロリコートが出来上がった。

(原作で神楽坂明日菜が魔法世界で着ていた黒ゴスロリに近いイメージのコート)

 

 改造セーラーもゴスロリコートも魔法防御と保存性に優れたメガロメセンブリア製の一級の生地で、洒落にならない値段が掛かっている。これは本気装備ってのも有るんだが、ネギ先生のくしゃみ対策が主と言って良い。何が悲しくて本気で手塩にかけて作った魔法の服を、くしゃみ一つで破られなちゃいけないんだ……。と言うのが本音で、今の私の魔法障壁と服の防御力で、エヴァのそれなりの一撃を耐え切れる性能に仕上がった。念のため仮契約カードの衣装登録機能にバックアップもしてある。

 

 ちなみに試行錯誤を繰り返す内に、修行時代グラニクスの闘技場でいつの間にか稼いだ約十五万ドラクマ(現在の日本円相場で約三千万)がいつの間にか消えていた……。フロウに聞いたら、「その程度の金でビビるな」とか言われた……。あまり考えたくないが魔法世界の金回りは想像を遥かに超えるらしい……。

 

「まぁ、こんな所だろう。なかなか良い出来だ」

「拘り過ぎと言いたいところなんだが、今後の事を考えると先行投資ってやつか? これでもシルヴィアの服の方が遥かにチートだって言うのは信じらんねぇよ……」

「あはは。女神様が作った服だからねぇ……」

 

 九百年前から使ってて染み一つ無いとかどんな保存性だよ!?

 とりあえず、不本意ながら神楽坂の真似も一応出来る。ホントに付け焼き刃程度だがな。顔も声も変わるって想像以上にキメェよ……。

 

「とにかく明日からは新学期だね。ネギくんが正式に先生になるみたいだから、依頼開始ってことで、エヴァちゃん達は程々に頑張ってね? 必要な事は手伝うからね?」

「偽神楽坂明日菜は大一番でやる事になる。まずはシルヴィア達に躾られた、お淑やかな魔法シスターでぼーやに干渉していけ。フフッ、どんな顔をするやら」

「躾じゃねぇよ! せめて教育って言え! ったく、気は乗らねぇけどな……」

 

 とりあえず明日から新学期で、初日から計画開始だ。速いうち戻って準備しておかねぇとな。下手な芝居になるのは分かってんだけど、文句言われても嫌だからなぁ……。

 

 

 

 

 

 

「「「三年、A組!」」」

「「「ネギせんせー!」」」

 

 いつも通りノリの良いA組の生徒達が、どこかのドラマの真似事をしながらネギを迎い入れた。女子特有の甲高い歓声を受けて、正式に先生になった嬉しさもあって、少し照れた顔をしながらネギが教卓に着く。

 けれども教室の中に千雨の姿が無い事に気付き、欠席として点呼を取っていく。そしてそのまま、改めて担任として挨拶をはじめた。

 

「この度、正式に担任なったネギ・スプリングフィールドです。皆さんの卒業までの一年間、よろしくお願いします!」

「はーい!」

「よろしくー!」

 

 挨拶を終えると、生徒達からは概ね歓迎の声が聞こえてくる。その事に安堵しつつも、正式な先生と言う立場に緊張感を覚えていた。それと共に、未だ全ての生徒良く話していない事もあり、今年はもっと生徒達と仲良くなれると良いと感じていた。

 しかし、朗らかな気持ちで教室を眺めていたネギの顔が、突然に強張った。教室の最後尾、ネギから向かって最も左の列。そこに座る一人の少女からの視線が突き刺さる。

 

「えっ?」

 

 思わずゾクリと身体が震える。これまでの経験で殆ど感じた事が無かった視線。殺気という言葉が頭に浮かび、一瞬の寒気に捕らわれてから視線の人物の顔を確認する。

 慌てて出席簿を探すと、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの名前に行き当たる。名前と共に顔写真、それから囲碁部・茶道部の注意書き。ネギの主観では一般人に過ぎない少女から受ける視線に、彼の頭の中は疑問符でいっぱいになっていた。

 

「ネギ先生。もう身体測定の時間ですよ。準備を急いでくださいね」

「あっ!」

 

 思考に耽っていると、指導教員のしずな先生に話しかけられて、突然現実に引き戻される。

 

「すみません忘れてました! 皆さん服を脱いで準備してください!」

「えっ!?」

「きゃー! ネギ君のエッチー!」

「あ、ごめんなさーーい!」

 

 思考が逸れていたネギは、思わずその場での着替えを要求してしまった。女生徒達からの意味深な視線と、からかう様な声を聞いて一瞬で失態を悟る。この場に居られないと感じた彼は、真っ赤になった顔で謝りながら、慌てて教室を飛び出していった。新学期になってもトラブルが絶えないネギの姿だった。

 

 

 

「ネギ君からかうと面白いよね~」

「あははは~」

「ねぇねぇところでさ、最近の噂話ってどう思う?」

「あ~、あの桜通りの吸血鬼?」

「そうそう、黒い襤褸を着た、血まみれの吸血鬼のウ・ワ・サ!」

「「「キャー!」」」

 

 身体測定の待ち時間に、噂話に花を咲かせた少女達が悲鳴をあげて笑い合う。そんな中で一人、くだらないとばかりに一蹴して冷めた言葉を口に出す生徒が居た。

 

「まったく。アンタ達、そんなデタラメ信じないでよね~」

「そんな事言わないでよー」

「ただ騒ぎたいだけじゃないの。ちゃんと並びなさいよね」

「その通りだな、神楽坂明日菜」

「え?」

「吸血鬼というのは、若くて活きの良い女が好きらしい。お前も気をつけると良いぞ?」

「あ、うん……」

 

 普段から会話に参加する事がない、噂話なんて特に聞きもしないエヴァンジェリンからの珍しい問い掛けに、明日菜はキョトンとしていた。

 それと同時に脅しも入っていたのだが、この時点の彼女には知るはずもない事だった。

 

「明日菜~。エヴァちゃんに話しかけられるなんて珍しいやん」

「そ、そうね。でもなん――」

「先生! 先生大変やー!」

 

 疑問を口にしようとしていた明日菜の声が、突然の叫び声にかき消される。

 それは、身体測定を行っている教室の外で待機していたネギに向けたもので、大慌てで悲鳴じみた声をあげる保険委員のもだった。

 

「長谷川さんが倒れたー!」

「えっ! 今すぐ行きます!」

 

 その声に、思わず身体測定を投げ出した生徒達の視線が集中する。その中で一人、口元を吊り上げて、計画開始とばかりに笑い声をかみ殺している少女が居た。

 

 

 

「長谷川さん! どうしたんですか!?」

「あ、いらっしゃいネギ先生。何だか桜通りで倒れてたみたいなんです」

 

 保険委員に連れられて慌てて第三保健室に行くと、シルヴィアがベッドで眠る千雨を看病しているところだった。話を聞くと桜通りで倒れていたという事で、一部の少女達が再び噂話に花を咲かせている。

 

「何だ、寝てるだけじゃない」

「暑かったし、外で寝てたんとちゃうの?」

 

 『桜通りで』という事と先ほどの噂に、ネギは何か嫌な予感を感じていた。ベッドで眠る千雨に顔を近づけても一向に起きる気配は無く、すやすやと眠っているようだった。しかし、よくよく観察してみると僅かに魔法の力を感じ、驚き身を引いてしまう。

 この学校には、自分の他に魔法使いが居るのだろうかと悩みながら、何が起きているのか一人で思考に耽っていく。

 

 その様子に痺れを切らした明日菜が、少し焦った顔をしながら問い掛けた。

 

「ねぇネギ。何かあったの?」

「えっ! あ、いえ。何でもありません。えぇとその……。僕は今日、遅くなると思うので、晩御飯は食べてきますから」

「え? 分かったけど……」

「ネギ君、ご飯ええの?」

 

 何の脈絡も無く夕食を断ったネギに、心配そうな声をかける二人だが、ネギの表情はいたって真剣な事に気が付いていた。

 その一方でネギは、千雨から感じた僅かな魔法の力を無視出来なかった。彼の想像では、千雨の身に何かがあって桜通りで眠らされた。そう結論付けていた。

 

「桜通りで……。確かめないと!」

 

 一人呟く様に声を上げて、自前の杖を持って進んでいく。その先は桜通り。魔法の正体を掴むため、先生として生徒を守る使命感を胸に、たった一人で謎の相手に向かい合う決意をしていた。

 

 

 

「こ、怖くない~。怖くないかも~♪」

 

 下校時刻を上回った夕刻。周囲が夕闇に覆われ始めた時間に、宮崎のどかが帰り道で桜通に差し掛かった。身体測定の時に聞いた怪談に恐れを抱きつつも、鼻歌を歌いながら誤魔化して歩いていく。しかしその心の内は恐怖に支配され始めていた。

 その様子を影から見つめ、ふわりと街灯の一つに飛び乗る影があった。漆黒の襤褸のマントに同色のとんがり帽子。ハロウィンの魔法使いのようなその姿が、一人で歩く女生徒を視界に納めて、はっきりとした口調で言葉を発する。

 

「悪いが、少しその血を頂くぞ?」

「キャァァァァ!?」

 

 その声と姿を視界に納めたのどかは、怪談話を思い出して完全にパニックに陥っていた。物語の吸血鬼の様な影が彼女を襲う寸前、杖に跨り高速で迫り来る、赤毛の少年の姿があった。

 

「待てー! そこで何してるんですかー!」

「うぅ~……」

 

 あまりの恐怖と現実離れした光景に、のどかは目を回して気を失い、その場に転倒した。ネギはその姿を見て保護する事思い浮かべるが、それより目の前の犯人――恐らく魔法使い――の捕縛を優先した。

 魔法使いは正しい事に魔法を使うはず。だからこんな悪い事をしている相手を許してはいけない。その先入観がネギの行動の根源にあった。

 

「ラス・テル マ・ステル マギステル 風の精霊11柱! 縛鎖となり 敵を捕まえろ 魔法の射手・戒めの風矢!」

 

 謎の魔法使いを捕らえるため、風の捕縛魔法を詠唱して相手に撃ち出す。風の魔法は無色半透明の蔦の様に伸びて、襤褸のマントの人物に向かって伸びていく。しかし。

 

「氷楯――」

 

 謎の魔法使いが呟くように言い放つと、そのすぐ目の前に氷で出来た楯の魔法が展開される。風の魔法がぶつかると、ガラスが割れる様にバキンと甲高い音を上げ、氷の楯によって全て弾かれた。その影響で、周囲は湿った霧に包み込まれていく。

 

「僕の魔法を跳ね返した!?」

 

 自身の魔法が効かなかった事と共に、やっぱり相手は魔法使いなのだと、二重の意味で驚愕していた。危険を感じたネギは慌ててのどかに駆け寄って、肩を抱き上げて守るような態度を示す。

 すると、襤褸のマントを羽織った魔法使いが、演技がかった口調で言葉を発した。

 

「……中々の魔力量だ」

「え? き、君は……エヴァンジェリンさん!?」

「フフ♪ 改めて新学期の挨拶といこうか先生? いや、ネギ・スプリングフィールド。それとも、英雄サウザンドマスターの息子と言った方が良いか?」

「な、何者ですか貴女は!? それにどうして、魔法使いが悪い事をするんです!?」

「自分で考えてみてはどうだ? 悪い魔法使いだって居るんだよ。ネギ先生?」

 

 面白がるような視線をネギに送ってから、マントの下に腕を入れる。中から取り出したものは、複数の魔法薬の小瓶。それらの蓋を開けてネギに向かって投げつけた。

 

「氷結! 武装解除!」

「うわぁ!?」

 

 聞こえてきた魔法の名前に、慌ててのどかを抱えていない左手を前方に突き出して、魔力を集中。そのまま魔法障壁を展開して防御する。

 しかし自分の服の一部と、のどかの制服が凍り付き砕け散った。

 

「フフ……。レジストしたか」

 

 あっさりと自分の魔法障壁が突き破られた事と、自分の受け持つ生徒が犯人だった事にショックを隠せないネギだった。しかし、のどかを抱えていた事に気が付いて、慌てて見下ろす。すると。

 

「宮崎さんっ!? うゎ、うわわわ!」

「何やこの霧~? って、ネギ君が犯人やったん~?」

「ネギ!? あんた何やってんのよ!?」

「ち、違います! 僕じゃありません!」

 

 不意に見てしまったのどかの姿と、一人で帰ったのどかを追いかけてきたのか、木乃香と明日菜の声にパニックになっていた。このままでは自分が疑われてしまうと危機感を覚え、自分ではなく別に犯人が居ると慌てて弁明する。

 そのままエヴァンジェリンが居た方向に指を刺して確認すると、彼女の姿が霧の中に消えていくのが見えた。

 

「ま、待てー! すみませんアスナさん、木乃香さん! 宮崎さんをお願いします! 僕は犯人を追いかけます!」

 

 このままでは逃げられてしまうと思ったネギは、二人にのどかを預け、魔力を身体に纏って猛スピードで駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「貴女達。何をして居るのですか? もう、下校時刻ですよ?」

 

 ネギ先生が走り去ったのを確認して、神楽坂達に柔らかく声をかける。極力顔に出ないように気を使いながら、認識阻害が掛かった眼鏡も着用して誤魔化している。

 

「え? あの、えっと……ごめんなさい!」

「あ、明日菜ー!?」

 

 一瞬、神楽坂の躊躇った顔が見えたものの、謝りを入れつつ大慌てでネギを追いかけて行く姿が印象的だった。と言うか、速度だけなら一般人なのか怪しいもんだ。

 呆然とした表情で残された近衛に、場を治めるように再び優しく声をかける。

 

「明日菜ってば置いてけぼりや~。のどかの事どないするん?」

「彼女は私が保健室まで送りましょう。貴女も戻りなさい」

「え? せやけど……」

「――大気よ 水よ 白霧となれ 彼の者等に 一時の安息を 眠りの霧」

 

 にっこりと優しく微笑みながら、小さな声で呟くように呪文を詠唱する。自然な形で眠るように倒れた近衛を優しく抱きとめて、そのまま二人にこれは夢だったという暗示もかけていく。

 

「やれやれ……。なんで私がこんな事してんだ?」

「今回、私達は裏方だからね? のどかちゃんに制服を着せて、部屋まで送ろう?」

「あぁ……。後はエヴァ達が勝手にやるだろ」

 

 宮崎には悪いが、購買部で買っておいた制服を着せて抱き上げる。まぁ、同性だからノーカウントって事で忘れておいてくれ。

 そのままシルヴィアと一緒に、二人を寮に送り届けてから帰路に着いた。




 2012年9月27日(木) 記号文字の後にスペースを入力、及び地の文等を中心に若干の改訂をしました。

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