原作を知らない人のためにネギの初期シーンを描写しています。また、初期のネギの行動を非難する様な意見は出ますが、アンチ作品ではないので段々と成長させていく予定です。そこからはネギの視点も織り交ぜて行きます。
第28話 ネギ先生の出番
ここイギリスのメルディアナ魔法学校では今、魔法生徒達の卒業式が執り行われている。そこは厳かな雰囲気に包まれて、まるで大聖堂と呼びたくなるような場所だった。
そしてその壇上で豊かな長い髭を蓄えた老魔法使いが、卒業証書を授与するために、ある卒業生の名前を読み上げる。
「ネギ・スプリングフィールド君!」
「ハイ!」
名前を呼ばれた赤髪の少年は、どことなく紅き翼のあの英雄を幼くした印象を受ける。彼の顔は希望と期待に満ちているが、どことなく不安も抱えている様子に見えた。
「ネギー! 課題は何だったの? 私は占い師よ!」
「アーニャはロンドンなのね。ネギの修行は何かしら?」
卒業式が終わって直ぐ、ネギは幼馴染のアーニャと姉のネカネに声をかけられた。アーニャは既に修業の内容に目を通していて、ネギの修行先が気になる様子だった。
声をかけられたネギは、今から卒業証書に課題が浮かび上がるところだと言い、全員の視線がそれに集中する。
魔法学校の卒業課題とは、一人前の魔法使いになるための試練。魔法を使って人知れずに社会奉仕をする事。立派な魔法使い≪マギステル・マギ≫と呼ばれるための第一歩の試練に、それぞれが不安と希望が入り混じった顔で覗き込む。すると、魔法の光と共に修行内容が浮かび上がった。そこには……。
『日本で先生をやること』
「「「えぇーーー!?」」」
「校長! これは間違いです、十歳で先生なんて!」
「そ、そうよ! ネギなんかに――」
子供に教育者をさせる内容に、そんな事が出来るわけが無いと二人が抗議する。その様子を見たネギは、「そんなに言わなくても良いじゃないか」なんて文句を良いたそうな顔をしながら、課題とそれぞれの顔を見回していた。
しかし、校長はその抗議を真っ向から否定した。立派な魔法使いになるための卒業課題は、もう決まってしまった事なのだと言って。
「あぁ……」
「お姉ちゃん!」
あまりにも無茶な内容に、思わず姉のネカネが立ちくらみをする。それを慌ててネギとアーニャが支える。
その様子を見た校長は、修行先の学園長は自身の友人だと言って安心するように諭していた。
「それに、きっと力になってくれる人もおる。頑張りなさい」
「ハイ! 分かりました!」
場所は移って日本の埼玉県、麻帆良学園都市。巨大な都市内を循環する電車に乗り、目的地を目指すネギの姿があった。
その心中では、「ついに来たんだ! 僕の修行の地!」等と意気込みながら、日本の電車の満員率に驚き、『日本で先生をやること』という修行内容よりも周囲の学生の多さに気を取られていた。
『次は――麻帆良学園中央駅――』
そんな中で車内アナウンスが流れ、しばらくして駅に停車。側面の扉が開くと、優に数百人の学生が一斉に飛び出した。
「わぁ、人が沢山だ! これが日本の学校かー」
周囲から遅刻すると慌てる声が聞こえてきて、流れに巻き込まれるように学園に向かって駆け出した。
そしてその道の途中、思いがけない少女達の話が聞こえてくる。
「好きな人の名前を十回叫んで、ワンと鳴くと良い出会いがあるらしいで~」
「――高畑先生! 高畑先生! ワン!」
本当にやるとは思わなかったなんて言いながら苦笑いする少女と、怒った顔をして高畑先生ことネギの友人、タカミチ・T・高畑の名前を叫ぶ少女が気になった。
しかし魔法使いのネギは、橙の混じった赤い髪の少女の顔に浮かぶ不運の相が気になって、思わず声をかける。
「あのー、失恋の相が出てますよ?」
「え……な、なんですってこのガキ!」
「明日菜~。相手は子供やん。言う事気にしてたらあかんで~」
「木乃香……。私はこう言う事平気で言うガキは、大っ嫌いなのよ! 今すぐ謝りなさい!」
ネギの言葉に一度は青ざめながらも、直ぐに真っ赤な顔で怒り出し、涙目になりながらネギを持ち上げてアイアンクローをする。
突然の暴力行為に、ネギ自身も涙目になりながら若干の混乱に陥っていた。
「坊やはどこの子なん? ここは奥の女子校エリアやし、初等部やったら間違えとるで~」
「そうよ! あんたはさっさと帰りなさい!」
「良いんだよアスナ君。久しぶりだね、ネギ君!」
突然に聞こえてきた大人の声。それは彼女達にとっては担任で、ネギにとっては友人である、タカミチ・T・高畑のものだった。
「た、高畑先生!?」
「タカミチ! 久しぶり!」
「って、知り合い!?」
「麻帆良学園へようこそ。ネギ『先生』」
「え、えぇーー!?」
「せ、先生?」
「あ、ハイ。この度この学校で英語の教師をやる事になりました、ネギ・スプリングフィールドです」
『先生』の言葉を聴くと、二人の少女はあからさまに驚いた顔になった。しかし、それに対して丁寧な返事と、お辞儀――日本式の挨拶をするネギに、明日菜は更に詰め寄っていく。
「えぇ!? 先生ってどういう事よ!?」
「ま~ま~、明日菜~」
「大丈夫、彼は頭が良いんだ。それに、今日からA組の担任になるから、仲良くしてあげてくれないかい?」
「そ、そんなぁ。私はイヤです! さっきも失れ……失礼な言葉を!」
明日菜から見てネギの印象は最悪だった。デリカシーの無い発言に続いて、密やかに恋心を抱く憧れの先生に取って代わられる存在。急な展開と『失恋』の二文字に心に余裕を無くしていた。
その一方でネギは「親切で教えたのに酷い」と、気持ちを仇で返されたと思い、互いの心にすれ違いが生まれていた。
そこで突然、冬の風が吹き込みネギの鼻腔を刺激する。
「は、はくしょん!」
ズバァァァ!
「キャーーー!?」
くしゃみと共に暴発したネギの魔力が、突風となって明日菜を襲った。その風は軽快な音を上げながら、明日菜の制服とスカートを吹き飛ばす。突然の事態に堪らず悲鳴を上げ、身体を抱えてその場に座り込む。
そんな明日菜に向かって、ストレス発散とばかりに頬を膨らますネギと、突然の事態に呆然と見下ろす二人の姿があった。
(た、タカミチくん! 明日菜ちゃんに上着かけてあげようよ!)
(あ、あぁ、そうですね)
あまりの事態に一瞬我を忘れたものの、慌ててタカミチくんに念話を送る。
ついにメルディアナから、この世界の主人公ことネギくんがやってくると聞いた私達は、タカミチくんが居た近くの部屋に隠れて、窓から様子を見ていた。けれどもこれは……想定外にも程があるかもしれない。
「なぁ、くしゃみして無詠唱の風系武装解除魔法って……。まさかあれ、狙ってるのか?」
「まさか……。十歳だよ? 中世の頃の暗殺者なら有ったかもしれないけど、今の時代で武装解除を仕込むなんて考え難いかなー」
「お前達。なんで師弟揃って物騒な考察をしてるんだ? あのぼーやが未熟なんだろ? どう見ても制御ミスで暴走だ」
う~ん……。これどうしようか? 本当に魔法学校の主席卒業なのかな? メルディアナって、昔はこんなんじゃなかったのに……。
「と、とりあえず、教室に行った方が良いんじゃないかな?」
「あぁ……。期待しないでおくかな」
「そうか? 何をやらかしてくれるか楽しみだぞ?くくく」
呆れかえった千雨ちゃんと、何だか楽しそうなエヴァちゃんと別れて、学園長室に向かう。扉の所までやってくると、中からは言い争うような声が聞こえてきた。
「大体子供なんて良いんですか!? それに、その、高畑先生の代わりなんて……」
「問題ありゃせんよ。そしてネギ君、この修行は大変じゃぞ? 失敗なら故郷へ帰らねばなん。二度のチャンスは無いが、その覚悟は有るかな?」
「ハ、ハイ! 頑張ります!」
「うむ! それから詳しい事は指導教員のしずな先生に聞くと良い。それとから木乃香、明日菜ちゃん。しばらくネギ君を木乃香達の部屋に泊めてもらえんかの?」
「ウチはええでー」
「げっ!」
中から聞こえてきた言葉に、一瞬頭が痛くなるような錯覚を覚えた。要するに学園長は明日菜ちゃんの話をまともに聞かないで、勝手にまとめてるって事だよね?
しかも、一般人の明日菜ちゃんが同室にさせられてるし……。木乃香ちゃんは学園長の孫だけど、魔法を知らせない方針らしいのに大丈夫なのかな? 普通に考えて生徒と生徒の同居。しかも性別が違うっていうのは、かなり問題があると思うんだけど……。
「あら、シルヴィア先生こんにちは。学園長に御用ですか?」
「あ、こんにちはしずな先生」
学園長の突然の行動に唖然として考え込んでいると、学園長室の扉が開いて中に居たメンバーが出てきた。そのまま最初に挨拶を送って来たしずな先生に、当たり障りの無い挨拶を返す。
私だって教員だし、普段着だと少女に見えてしまうから薄くメイクをして、スーツを着ている。それに養護教諭らしい裾の長い白衣を羽織った姿。千雨ちゃんみたいに伊達メガネをして、背中の中ほどから三つ編みにして大人っぽさを演出していたりする。
「はじめまして、ネギ・スプリングフィールドです! 今日から教育実習で英語を担当することになりました。よろしくおねがいします!」
「はじめまして、ネギ先生。非常勤で養護教諭をしている、シルヴィア・A・アニミレスです。担当は第三保健室。よろしくおねがいしますね。あ、ファーストネームで結構ですよ」
「はい! シルヴィア先生!」
う~ん。話してみると素直そうな男の子だねぇ。パッと見で私が白人っぽいから、緊張しなかったのかな?
「皆さんもう予冷がなりますよ? 教室に行かないと。ね?」
「……はい。失礼します」
「失礼します~」
明日菜ちゃんが不満そうにはしているけれど、時間も時間だし、微笑んで教室に行くように促がした。私も学園長に話がしたいし、ちょっと悪いかもと思ったけれど、ネギくん達と別れて学園長室に入る。
「こんにちは、学園長」
「おぉ。ネギ君はどうかの?」
「ネギくんって、メルディアナの主席なんだよね?」
「うむ。そうじゃの。それでいてあのナギの息子でもある。なかなか将来有望じゃぞ?」
「……でもね、暗殺者に向いてると思うよ?」
「ふぉ!? な、何故じゃ。どうしてその結論が出たんじゃ!?」
「さっきくしゃみだけで、明日菜ちゃんに無詠唱の武装解除魔法かけてたんだよね。あれが計算づくなら将来が心配だよ……」
「むぅ、それで攻撃魔法を仕込めと?」
「そんな無差別攻撃兵器にならない様に、制御の訓練が不足してるんじゃないかな~って、言いたかったの。ナギく……ナギさんみたいに期待しても、あのままじゃ英雄どころか、一般の魔法使い以下だよ?」
いけないいけない。つい、いつもの癖で君付けしそうになったけど、もうナギくんって不躾に呼ぶ立場じゃないからね。
「わ、わかった。何か考えておくぞい」
本当かな~? その内、私達で鍛えてくれって言われるような気がするよ? 私は千雨ちゃんを見てるし、フロウくんかエヴァちゃんが見てくれないかな?
「それじゃ私は戻るね? 教室の様子は後で聞いておくよ」
「うむ」
とりあえず話すことは話したし、第三保健室に戻ろうかな。教室の事はエヴァちゃんと千雨ちゃん達が様子を見てくれるだろうし、その話を聞いてからだね。
「わああぁぁ! ぎゃふん……!」
勘弁してくれ……。教室のドアにかけられた黒板消しトラップを、無意識に魔法障壁で停止させてたよな? その後のバケツやら吸盤が付いた矢は全部当たってたが、そっちはわざとか?
無意識に頬が引き攣ってたし、さっきの事といい、先行きが不安過ぎるだろ……。
それでもネギ――先生と呼んでおこう――が起き上がって、めげずに起き上がり挨拶をする。その様子にやっぱり溜息が出てしまう。
「今日からまほ…、英語を教えるネギ・スプリングフィールドです。よろしくおねがいします」
「「「きゃぁぁぁぁーー! かわいいー!」」」
「しずな先生~。この子貰っちゃって良いの~?」
「コラコラ。あげたんじゃないのよ」
教室で鳴り響く黄色い声を無視しながら、頭を抱えて考え込んでみる。
クラスメイト達がネギ先生を揉みくちゃにするのは、まぁ……勝手にしてくれって感じだが、あんな魔法バレバレで良いのか? それに可愛げなんてねぇよ! どう判断すれば良いんだ。
(……エヴァ、アンジェ……どう思う?)
(放っておけ)
(面白い先生だよね~)
思わず後ろ斜めの席にいるエヴァ達に念話を送ってみたものの、そもそも相談する相手が間違ってたらしい……。
「ねぇ、さっき黒板消しに何かしたわよね? あんた、なんか変じゃない?」
お、おぉ!? 神楽坂のやつ気づいてるのか!? いや待てよ……。ここでネギ先生が魔法使いって派手にばれるってやばいよな? クラスメイト達の記憶削除祭りとかしたくねぇぞ?
「いい加減になさい! 明日菜さんもネギ先生に掴みかからずに、冷静にお話しするべきですわ。あぁもっとも、貴方みたいな野蛮な人にはお似合いですわね?」
「何ですって? このショタコン女ー!」
「な、なな!? 貴女こそオジコンじゃありませんか!」
始まっちまったか。まぁ、2-Aの名物みたいなもんだから、ネギ先生も慌てないで慣れてくれよ。魔法がばれるよりましだぞ? それでもこの変人クラスに関わりたくないってのは、魔法使いになった今でも思うんだけどな。
「ふぅ……帰って良いか? 良いよな?」
「ダメです長谷川さん。まだ一時間目ですよ?」
うっかり呟いた声に、隣の席から声が聞こえてきた。このクラスの中じゃ、まだましな方の綾瀬夕映。バカブラックなんて呼ばれてるが、いつも本ばっか読んでて頭良さそうに見えるんだよな。
「綾瀬……。逃避ぐらいさせてくれ」
「2-Aならこれくらいのバカ騒ぎはいつものことだと思うのです」
「あぁ、わかっちゃいるんだが……」
その後は乱闘のままチャイムが鳴り授業が終わった。
放課後になるとネギ先生の歓迎会と称して、高畑先生としずな先生も来て再び大騒ぎになっていた。何かとイベント好きなクラスだけど、これだけ騒いでも文句が出ない辺りに異常性を感じて、少しばかりうんざりする……。
「あの、ネギせんせー」
「あ、宮崎さん?」
「さっきはその……。危ない所を助けて頂いて~。これはお礼です」
「えっ?」
図書券と小さく呟くのが聞こえた。けど、危ないところって何だ? まさか、魔法を使って助けたとかそんなオチじゃねぇよな?
宮崎が魔法を知ったようなそぶりはないし、ただ助けただけか?
「本屋が先生にアタックしてるぞー!」
「ち、違います……!」
まぁどうも、子供先生は人気みたいだからな。クラス中のヤツ等が可愛い可愛い言ってるから、そういう目で見るヤツも居るって事か。委員長みたいにな。
「ねぇちょっとネギ……」
「え、えと、その……」
何だ? 神楽坂のヤツ、朝に比べて妙に親密になってるな? 少し、聞き耳立ててみるか?
(アンタ! 分かってるんでしょうね!)
(は、はい!)
分かってるって何の事だ? って、マテ! 高畑先生に思いっきり読心術の魔法使ってるじゃねぇか! もう神楽坂に魔法がバレたって事か。マジかよ……。
まぁ、神楽坂も隠さないとマズイってのは分かってるみたいだが、あんまり関わりになる様だとマズイぞ? て言うかもう、ただのバカ騒ぎになってきたな……。先生と神楽坂はどっかいっちまったし、帰るか……。
「一応、トラブルは解決出来てる、のか……?」
「おつかれさま千雨ちゃん」
「シルヴィア? もう仕事は良いのか?」
「うん、今日はもうおしまいだよ、そっちはどうだったの?」
寮までの帰り道で、合流したシルヴィアと今日有った出来事をお互いに話し合った。やっぱりと言うか、なかなか悲惨な内容だったのは、残念ながら予想の範囲内だったけどな。
「すぐ魔法がばれるって話、本当だったんだな。あれでも隠してるつもりなんだろうが……」
「うん。困っちゃうけどね~」
「ネギ先生……どうすんだ?」
「まだ初日だからね。学園長に制御訓練をする様に釘は刺して来たけど、様子見……かな?」
「そうか……。エヴァ達は面白がってたけど、巻き込まれる方としては確かにしっかりして欲しいな」
「これからだよ! 千雨ちゃんもあんまり気にしないで、気楽に行こう? 今夜は私の家おいでよ? 皆でご飯食べない?」
「あぁ、そうだな。気楽は……少し難しいかもな」
こうしてネギ先生の赴任一日目は、嵐のように過ぎ去っていった。
2012年9月27日(木) 記号文字の後にスペースを入力、及び地の文等を中心に若干の改訂をしました。