青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第25話 千雨の修行(1) 異常に慣れる?

「おはよう千雨ちゃん。良く寝られた?」

 

 あれから一夜が明けて、まだ疲れた表情が見える千雨ちゃんを励ます様に明るく挨拶をした。

 

「おはようございます。はい、なんとか」

「よう、ほんとに寝られたか?とりあえず、テキトウに朝飯作ったから、落ち着いたら食っておけよ」

 

 そう言ってリビングに去って行くフロウくん。それから顔を洗って朝食を取って一息。千雨ちゃんはちゃんとご飯を食べられる様だった。

 

「これからどうするか決めないとね?」

「これから、魔法を覚えるとかですか?」

「敬語。慣れてねぇだろ?昨日、素が出てたし。長い付き合いになりそうだから、普通に喋れよ」

「え、けど……」

「気にしなくて大丈夫だよ。皆それくらいで怒ったりしないから。ね?」

「はい」

 

 まぁそうだよね~。普通は年上って聞いたらそうなっちゃうだろうし?千雨ちゃんから見たら、私達は色んな情報持ってるし、気を使わせちゃうかな?

 

「うん、本当に気にしなくて良いからね?もう大切な身内だって思ってるんだよ?」

「あ、はい。ありがとう」

「そんでだ。麻衣は所々原作を覚えてるからな。きっと千雨は主人公に関係するぞ」

「主人公って、誰なん……だ?」

「ネギくんって、男の子だよ。2003年の初頭に麻帆良の先生になるの」

「先生?20歳過ぎとかの?」

「違うな。10歳だ」

「はぁ!?10歳!?」

 

 うん、驚くよねぇ~。普通じゃありえないもの……。

 

「……さすが漫画って、ディスるところなのか?」

「ま、気持ちは分かるがな。そんな訳だから、確実に巻き込まれるぜ。可能な限り、色んな対処が出来るようにしておいた方が良いな」

「それじゃぁちょっと、属性の相性を調べてみようか?」

「属性の相性?」

「うん。簡単だからすぐだよ」

 

 そう言ってから、名前を書くだけでサインした人の相性が分かる簡易魔法書を持ち出す。

 

「この紙の中央にサインしてみて。そうすると得意な属性に向かって、インクが伸びていくから」

 

 これは火・水・氷・風・土・砂・雷・光・闇・影・木・花など、色々な属性の名前が書き示しされているもの。中央には四大属性を示した円が大きく書かれていて、その周囲は別の属性の小さな円が書いてある。

 

「はい、このペン使って良いよ」

「……わかった。書いてみる」

 

 そうして、千雨ちゃんが魔法書にサインをすると、インクが解けて得意な属性に向かって伸びて行く。

 

「一番は水。次に、闇・風・氷。苦手なのは、火・土・砂。それ以外は普通だね」

「水か。まぁ、光も習っておくのが良いな」

「水と光?闇とか風はやらないのか?」

「う~ん。私は光と闇が得意だから、どっちも教えられるよ。でも、闇ばっかり使うと、天使の弟子って建前上うるさいかもしれないから、手広く覚えておく方が良いかもね~」

「なるほど。って、天使が闇が得意って良いのか?それ……」

「うん、秘密ね?ほとんど光ばっかり使ってるの」

 

 そう言って、ちょっとおどけた顔をする。そうすると何だか呆れられた顔をされてしまった。なんでかな?

 

「そんじゃ後は、シルヴィアから魔法薬と薬草関係も習っておけよ。ちょっとした時に役に立つぜ。俺は近接格闘なら教えられる」

「そうだね。とりあえずは始動キーを決めて、まだこれから4年先だから、時間は十分あると思うよ~」

「はい。おねがいします!」

 

 こうして、本格的な千雨ちゃんの魔法使い修行が始まる事になった。

 

 

 

 

 

 

 数日後の放課後、学園で。

 

「春日……。この前は助かった。本当にありがとな」

「な、何の事ッスか?謎のシスターなんて知らないよ~っと……」

 

 そうか、こいつってこういう奴だったのか。殆ど話した事なんか無かったからな。

 

「まぁ良いよ。とりあえずあの人の弟子って扱いになるみたいだから、謎のシスターとまた会う事もあるかもな」

 

 少しだけ得意になって3cm程度のシルバーの十字架が付いたペンダント型の魔法発動体を見せる。それを見ると、春日はあからさまにギョっとした顔をして……。

 

「私には何も見えない。見なかった。」

「そ、そうか。まぁ、なんだ。礼は言ったからな」

 

 私なりに感謝を伝えてから、わざとらしい位にうろたえた春日と別れた。

 

 

 

 

 

 

「こんにちは」

「あ、千雨ちゃんいらっしゃーい」

 

 私達の事を千雨ちゃんに話してから数日。放課後になると千雨ちゃんが私の家にやってくるようになった。今はまだ小学生って事もあって、1日に1~2時間程度の修行。その日その日で様子を見ながら丁寧に教えてる感じかな。

 週末なんかは2倍に設定にしたダイオラマ球を使って、少し大目の時間を取ってるんだけどね。女の子なんだし時間の設定倍率を大きくして歳を取り過ぎるとショックだと思うから、千雨ちゃんの成長と魔法使いとしての成長を見極めていかないとね。

 

「それじゃ復習ね。結界は張ってあるから、魔法の射手。制御できる所まで撃ってみて?」

「はい!」

 

 元気よく返事してから集中に入った千雨ちゃんを観察してみる。すると不慣れな様子は見えるけれど、思っていたよりも成長が早く、きちんと魔力の扱いが出来るみたいだった。

 

「エゴ・ルク プルウィア ファートゥム 水の精霊5柱 集い来たりて敵を射て 魔法の射手! 収束・水の5矢!」

 

 呪文の詠唱が完成すると、千雨ちゃんの周囲に水の精霊が集まっていく。やがて精霊はかざした右手に収束していき、そのまま1点集中の貫通力の有る水の矢を作り出す。空をじっと見つめた千雨ちゃんは、感触を確かめるような仕草を見せた後に、結界を張った空に向けてそれを撃ち放った。

 ちなみに千雨ちゃんの始動キーは、「私は光、私は雨。それは運命である」と言う自己を表した宣言。元々名前に水に関連した言葉が入ってるし、闇の相性が良いから、私は光だって宣言する事でバランスを取れるようにしたんだよね。

 

「そういえばシルヴィア。千雨と仮契約≪パクティオー≫しないのか?」

「え?な、なんで!?」

「仮契約って何だ?」

 

 どうしてフロウくんは仮契約の話を?結構大事なんだけど?

 

「仮契約って言うのは、魔法使いの主人と従者を証明する儀式だ。仮契約をすると従者はアーティファクトが使えるカードが授与される。それから主人との念話。まぁこれは普通に念話魔法を使っても変わり無いな。それから主人から魔力を供給して貰えるのはデカイ。デメリットは、強制的に主人は従者の召還が可能。それからカードを見られたら主人がバレて、魔法関係者ってのも一目瞭然になるって所だな」

「今の状況なら、良い事尽くめに聞こえるが……」

「普通の魔法使いならね?ただ私は天使だから、仮契約をしたら魂が半精霊化して不老になっちゃうんだよ」

「はぁ!?不老って……」

「一応仮契約は、解除の儀式を行えば問題無く人間に戻れるよ。だけど本契約をしたら解除は不可能。それに完全に精霊化して、魂は天使化しちゃうから……」

「天使に?人間が?」

「う、うん。後戻りは出来ないかな」

 

 何でこんな話言い出したんだろう。私との契約はその人の運命を凄く捻じ曲げちゃうから、祝福なら良いけど、契約はする気はなかったのに。

 

「そこまで、する必要有るのか?」

 

 心配そうな顔で聞いてくる千雨ちゃんだけど、私はそこまで必要は無いと思うな……。

 

「仮契約までなら有りだと思うぜ?魔法世界の大きなトラブルに巻き込まれるのは分かってるんだ。解除できる不老のデメリットより、魔力供給とアーティファクトはかなりデカイ。それに、不老はダイオラマ球を使う分には有利だな。100年居たってそのままだ」

「ひゃ、百年!?」

「う、う~ん。4年あれば一般の魔法使いより圧倒的に強くなれると思うよ?」

「それで、ナギとかラカンに勝てるかよ……」

「それは無理だね~」

 

 うん、あの人たちは一般の魔法使いと比べるのはおかしい。

 でもなんでそこでナギくんたちの名前が?

 

「シルヴィア。戦争が起きるのが分かってるんだぜ?英雄一行並の実力が無いまま、送り出すわけには行かないだろ?」

「あっ!そっか。そうなると千雨ちゃんには悪いけど、頑張ってもらわないといけないかも?」

「マジで?百年もここで?」

「百年は冗談だ。仮契約の魔力供給とアーティファクト次第で化けるだろうからな。とりあえず今は基礎を固めたら良いんじゃねぇか?」

「そうだね~。それに今仮契約をしたら、中学生になっても10歳の身体のままって言うのは辛いよね?」

「それはマジで勘弁してくれ。何かエヴァンジェリン達の気持ちが分かったよ……」

 

 あの2人も永遠の10歳だからね~。あれ……?フロウくんは身長伸びたけど、何か本当に小さい子ばっかり周りにいるような。ち、千雨ちゃんは大丈夫だよね?ちゃんと大きくなるよね!?

 

 

 

 そして約1年半の月日が流れて今は2000年の夏。千雨ちゃんの身長はきちんと伸びてくれて、私のちょっとした危惧は過ぎ去ってくれた。小さいままだったらどうなるかと思ったんだけどね。その時はエヴァちゃんが喜びそうだけど、千雨ちゃんにはやっぱり辛いよね?

 

 千雨ちゃんの修行は、思っていたよりも随分早い成長を見せてくれた。始めてから半年くらいは様子を見ていたんだけど、ここ1年はエヴァちゃんの1時間が1日になるダイオラマ球を使う事になって、それまでよりも本格的な戦闘訓練もしていた。

 寮生活をしていたから助かった事もあるけど、時間の感覚がおかしくならないように、夕方から使ってそのまま1日はダイオラマ球の中で修行。時と場合で休息にも使えて便利なんだよね。それから夜中には帰宅してもらって、次の日には学校に通う様な形でやってきた。

 

「シルヴィア、千雨。夏休みにしばらく魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫に行ってみないか?」

「え?何で急に魔法世界に?」

「魔法世界って、魔法使いの国だよな?」

「うん、あっちは魔法が日常的に使われてるね」

 

 あっちは魔法が身近にあって当たり前の世界だし、秘匿とか全然関係無いからね~。でも急に千雨ちゃんを連れて行こうって言い出すなんて、何かあるのかな?

 

「何だ?お前達はあっちに行くのか?」

「あぁ、ちょっと会わせてみたい奴等が居てな」

「え?誰に会いに行くの?」

「それは会ってからのお楽しみだ。今回はエヴァたちは留守番を頼む」

「あぁ、構わんよ。別に行く気も無いからな」

「いってらっしゃ~い」

「土産ハ頼ンダゼ」

 

 

 

 そして魔法世界のメガロメセンブリアに到着すると、ゲートポートで意外な人に出会った。

 

「ようタカミチ!」

「あれ?タカミチくん?こっちに来てたんだ?」

「おや、シルヴィアさん。フロウさん。今日はどうしたんですか?」

 

 タカミチくん自身も意外な所で会ったって顔をしてるね。あ、でも視線は千雨ちゃんに向かってる。向こうじゃまだ一般生徒に近い扱いだから、やっぱり違和感があるよね。

 

「……千雨君?学園長からは聞いていたけど、そうか、こっちに来るって事は本格的に学んでいるんだね」

「な、た、高畑先生!?」

 

 もしかしてフロウくんは、タカミチくんに会いに来たのかな?でも、そんな事はないよね?いくらタカミチくんが仕事中でも、わざわざ魔法世界にまで会いに行くのはおかしい。だって学園で普通に話をすれば済む事だからね。

 

「高畑先生も関係者だったのか……ですか?」

「ははは、普通で良いよ。僕は『悠久の風』って言うNGO団体に所属していてね。転々として活動をしてるんだ」

「それで出張が多いのか。なんか、また余計な事を知っちまった気が……」

「これからクルトに会いに行くが、タカミチは来るか?」

「……いや、やめておくよ。仕事もあるんでね。それじゃまた学校で」

 

 そう言って去っていくタカミチくん。だけど、クルトくんと仲悪かったかな~?2人は喧嘩したりもしてたけど、結構仲の良い友達だったと思うんだけど?何かあったのかな?

 

「それじゃ行くぞ。あっちは政治家だからな。時間があまり取れないらしい」

「あ、うん。じゃぁ行こっか?」

「あ、あぁ。次は政治家か。どんどんヤバイ知り合いが増えてる気がするな」

 

 なんか千雨ちゃんがブツブツ言ってるけれど、大丈夫だよね?あんまり変な人に会わせて千雨ちゃんの不安を煽るような事はやめてほしいんだけど……。、フロウくんの事だから、今はまだ変な人に会わせたりはしないと思うんだけどね。多分、政治家って言うならあの人かな?

 何だか楽しそうなフロウくんに案内されるまま進んでいくと、メガロメセンブリアの貴族街にある高級ホテルに向かって入っていく事になった。


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