「やああぁぁぁぁぁっと会えたな!ジャック・ラカン!」
「何だ嬢ちゃん。俺様のファンか?サインならやるぜ?」
「んなわけあるかぁぁ!」
ったく、これだから筋肉は!それにしてもやっとラカンだ!何百年この筋肉を殴る事を待っていたか!……くっくっく。笑いがとまらねぇってやつか。
ラカンほど巨体を相手にするのに、子供の体じゃツラかったが今は成長して140cmをいくらか超えてる!ガキの時よりはましだろう。
「俺はフロウだ。手加減は一切しねぇから覚悟しとけよ!咸卦法!」
そう言って右手に気、左手の魔力を出して合成する。究極技法≪アルテマ・アート≫で身体能力を大幅に強化する。
「ほう、そんなことが出来るなんてこたぁ……。舐めない方が良いな!」
そう言うとラカンの目つきが一気に鋭くなり、身体から覇気が立ち上る。
「ラカン適当に右パンチ!」
「効くか!気合右パンチ!」
強力な力を込めた右腕を振るい合う。
互いの拳がそれぞれを受け止めて、衝撃音と共に空気を振動させる。
「やるじゃねぇぁ!」
「嬢ちゃんもな!そんじゃ、……ラカンインパクト!」
そういうとラカンの右手が光輝き、極大の気合砲が放たれる。
「いきなりかよ!風の楯!でもって気合防御!」
風の精霊が集まり、面の魔法楯を作り出す。さらに咸卦の気で強化した身体が、避ける動作も見せずにラカンの一撃を受け止める。砲撃が済み、ほこりが晴れると衣服に傷1つ無いフロウが立っていた。
「マジか。やるじゃねぇか」
「喋ってる暇あんのかよ!」
その瞬間に半竜体に変化。大きく息を吸い込んで、風の魔力と気を合成した一撃を練りだす。
「合成圧縮!暴風ドラゴンブレス!」
口の前で球状に圧縮されたエネルギー体が、吹き荒れる風と共にラカンへ飛んでいく。そのまますぐ人間体に戻り、右手に全力をこめて突撃する。それを見たラカンは眼を細め、その実態を正確に見極める。
「気合防御!」
ドォォォォォン!
ラカンが気合を込めると鉄壁の防御となる。それは魔力と気を圧縮したドラゴンブレスをかき消し、フロウの一撃までもガードする。
「硬ぇなオイ!どんだけだよ!」
「ハッハッハ!もうおしまいか!」
「まだこれからだよ!」
そう言うと、壮絶な殴り合いに突入した――。
一方その頃別の場所では――。
「これで貴様を見るのは2度目になる。『まほら武道会』優勝者殿?」
「あんた俺を知ってるのか?って言うか大会見てたって言うなら出れば良かったじゃねぇか」
やはりガキだな。まったく原作とやらの私は何故こんなガキを追いかけて、呪いまで受ける羽目になったんだ?理解できんよ。
「私はエヴァンジェリン。【闇の福音≪ダーク・エヴァンジェル≫】。悪の魔法使いだ」
「悪?そうは見えねぇぜ。俺はナギ・スプリングフィールド!最強の男だ!」
互いに名乗りを上げ、距離をとりつつ睨み合う。
「では最強とやらがどれほどか見せてもらおうか」
「ビビんなよ?」
小手調べだと薄く笑みを浮かべながら、おおよそ常人の魔法使いに向かって放つべき術ではないレベルの魔法を解き放つ。
「(遅延呪文)開放!凍る大地! 開放!闇の吹雪!」
「うぉ!?」
打ち放たれた魔法をナギは瞬動、虚空瞬動と繰り返して回避する。直線に大地を凍らせながら迫る魔法も、それとは異なる角度からの氷の竜巻も避けきった。
「んじゃ俺の番だな!」
そう言って杖を構える。
「――雷の精霊250柱!集い来たりて敵を射て!魔法の射手!雷の250矢!」
無数の雷が集まり、それは雷の矢を形作る。
それは轟音を放ちながら一斉にエヴァに襲い掛かる。
「フン!こんなもの」
そう言って密度の高い魔法障壁を展開。
全ての雷の矢を受け止めきった後に、無傷のエヴァが立っていた。
「まだだぜ!――来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!」
短い詠唱の、上位古代語魔法を詠唱する。
「リク・ラク ララック ライラック 来れ氷精 爆ぜよ風精 弾けよ凍れる息吹 氷爆!」
しかしエヴァは周囲を巻き込む氷の爆発魔法で相殺を図る。
互いが打ち消しあい、何事も無かったかの様な2人の姿があった。
「やるじゃねぇか。これが受け止められるか!?」
そう言って、ナギは最大呪文の詠唱を始めた。
「――契約により我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆 百重千重と重なりて 走れよ稲妻 千の雷!」
雷の暴風の軽く10倍に値する雷の嵐が、エヴァをめがけて襲い掛かる。しかし千の雷の轟音が鳴り響く中、切り札の1つとも言える魔法の発動に入っていた。
「――術式固定『千年氷華』! 掌握! 術式兵装『氷の女王』!」
闇の魔法≪マギア・エレベア≫。膨大な闇の眷族の魔力を使用して、本来は敵に仇成すはずの攻撃魔法。それをあえて自分の肉体と霊体にまで取り込み、他者の能力を遥かに凌駕する狂気の技。
『千年氷華』の魔法と闇を受け入れたエヴァの姿は、背に幾重もの氷の柱を翼のように生やし、自身と周囲を常に凍らせ続ける。そして、千の雷のエネルギーをものともせず、堂々と立つエヴァの姿があった。
「な、何だそりゃぁ!?」
「敵に教える馬鹿がいるか?――魔法の射手! 連弾・氷の1001柱!」
そう魔法を唱えると、エヴァの周囲から氷の矢が放たれ始め、ナギへ雨のように降り注ぐ!
「うわっと!無詠唱とか卑怯だろ!?」
そう言いながらも綺麗に避けつつ詠唱を始める。
「最強なんだろう?どうにかして見せたらどうだ?――氷槍弾雨!」
こちらも無詠唱。氷の女王と化したエヴァには、中位以下の魔法は全て無詠唱が可能になっていた。
「でりゃぁぁぁ!」
「へぶ!?」
瞬動術で一瞬で間合いを詰めたナギは、気合を入れてただ単に殴ってみせた。
「何で殴れるんだ貴様!魔法障壁と氷の術式を無視するんじゃない!」
「知ったことか!殴れそうだったから殴ったんだよ!」
「馬鹿か貴様は!魔法使いだろうに!」
「はっ!魔法学校は途中で中退した!覚えてる魔法はチョットだけだ!」
「んな!?」
そう言って懐から魔法の書かれたメモ帳を取り出し、ひらひらとさせる。
こいつは本物の馬鹿か……。
馬鹿なのに実力は理不尽だ。なるほどな、天才というやつか。
「くくく……」
「あん?何がおかしいんだよ?」
「馬鹿と天才は紙一重というが、体現する馬鹿を初めてみたよ!」
「誰が馬鹿だ!だがようやく俺の実力を認めたな?」
「良いだろう!馬鹿は馬鹿なりに相手をしてやる!」
そうして戦いという名のどつき合いは数時間に及んだ――。
「このお茶美味しいですね~」
「そうでしょう?今、メガロメセンブリアで人気のある銘柄の1つなんですよ」
「酒ノ方ガ良イイゼ」
和むな~。フロウくんもエヴァちゃんも何時間も頑張るよね~。
しばらくお茶会が続くと、疲れ果てた4人が戻ってきた。
「俺の方が有効打が多かったぞ!」
「ハッハッハッ!打たせてやったんじゃねぇか!」
「あんた良くあんなに魔法覚えてるな?疲れねぇ?」
「貴様が覚えてなさ過ぎなんだ。何だ6個しか暗記していないというのは!」
そう言い合う集団を見ると、すでに長年付き添った友人の様だった。
「お疲れ様でしたね、皆さん」
「まったく!どうしてお前達はこんな所で何時間もやってられるんだ!」
「ナギさんもラカンさんも知らない人達も凄かったです!」
紅き翼の面々がそう出迎えた。
「お、シルヴィア!俺にもお茶くれよ」
「ダメ~。喧嘩するためだけにこんな所まで来る人にはあげないよ」
「ちょっと待て!私もか!」
「安心シロ!ゴ主人ノ分マデ飲ンデオクゼ!」
「チャチャゼロ!お前のマスターは私だろう!?」
「ダメだよね~?」
「ケケケ」
そう言うとうな垂れる二人。
「オイオイ、まさか俺様たちも無しか?」
「そ の ま さ か だ!」
額に青筋を立てながら言う詠春。
「まじかよ。疲れてんだ、茶くらい飲ませてくれ……」
「嘘ですよ。はい、温かいお茶とお茶菓子もあるから、休んでくださいね」
「うわぁぁ!天使様マジ天使!」
「シルヴィア!私は信じていたぞ!」
「調子ノ良イ奴等ダナ」
「あなた達もどうぞ?体が温まりますよ」
「おう!サンキュー嬢ちゃん!」
「うめぇ!この菓子うめぇな!」
そう言ってむさぼり付く集団があった。
しばらくして――。
「あんたらなかなか良い奴等だな!俺の紅き翼に入れよ!」
「ナギ。誰も彼も誘ったら入るものではありませんよ?」
「良いじぇねぇか。強いやつは大歓迎だぜ!?」
「ありがとうございます。でも、お断りしますね」
「何でだ?入れよ」
「入るか馬鹿。私達には私達の目的がある」
「ああ。この戦争の裏とか、その後の事とかな」
そういうと、タバコを蒸かしつつ沈黙を守っていたガトウが声を荒げる。
「待て。裏だと?」
「あぁ。この戦争で得をするとかそんなんじゃねぇ。もっと嫌な奴等が居るんだよ。調べてみな?」
「あんたらは調べないのか?」
「それは私達の役目ではないからです。私達はその先。この戦争の犠牲者を助けたいと言うのもありますけど、もっと先を見据えて行動をしています」
「戦争の……さらにもっと先……」
「さて、それでは私達はそろそろ行くとしよう」
「なんだ、結局行っちまうのか?」
「あぁ!気が向いたらまた殴りに来てやるよ!」
「フロウくん、挑発しないの!」
「ケケケ、次ハ刀クレヨ」
「断ると言ったはずだ!」
そうして私達は麻帆良の家に戻っていった。
その後――。
「情報が出たぞ。ナギたち紅き翼が、完全なる世界≪コズモエンテレケイア≫を倒して英雄になったそうだ」
「そっか……。無事倒せたんだね」
「まぁ、実力だけなら認めるさ。馬鹿だったがな」
エヴァちゃんは何かナギくんには引っかかった物言いをするよね?
意外と気に入っていたのかな~?
「とりあえず、戦争は終わったんだよね?ハッピーエンド?」
「所がそうでもない。オスティアの空中都市が、魔力消失現象で崩落したそうだ」
「何!?」
「そ、それって、住んでいた人は!?」
「救助隊は出ている様子だが、全部は助け切れてないみたいだな……」
「助けに行こうよ!」
「私は行かんぞ?すでに救助隊が居るなら余計な手出しは邪魔になる」
「それでも!」
「分かった分かった。俺もついてくから無理はするなよ?」
「うん!」
(麻衣ちゃん!ゲートを動かしたいから、こっち来てくれるかな!?)
(……はい!地下ゲートの方に行きますね)
そうして、薬や物資の準備を始め、魔法世界へ飛び立った――。