青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第17話 世界樹(4) 心と向き合う

 その後は皆で家に入って休む事に。けれども私は、フロウくんに言われた事が気になって休めずにいた。

 

「天使様……かぁ」

 

 

『あなたの使命は大まかに3つあるわ』

 

『天使として信仰を集めておくことをお勧めする』

 

 

 女神様にそう言われてもう300年以上。確かにイングランドでは信仰が残っていたし、魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫の一部の教会やシスター達からは慕われてたよね。

 

「どうしてフロウくんは、いきなりあんな事言ったのかな……」

 

 もともとあまり寝なくても平気な体は、こんな時余計に寝つけなかった。

 

「もう慣れちゃったけど、本当に人間じゃないって今更実感すると思わなかったよ……」

 

 そう言って顔が沈み込む。夜風に当たっていると、不意に声をかけられた。

 

「……シルヴィアさん。眠れ、ないんですか?」

 

 声がした方へ顔を向けると、今度はパジャマ姿の麻衣ちゃんがいた。

 

「麻衣ちゃん……」

「……私も、眠れないんです。寝る必要が無いみたいで」

 

 そう言って困ったような笑みを浮かべる。

 

 

『まるでシルヴィアだな』

 

 

 フロウくんに言われた言葉が頭にこびり付いていて、本当に良く似てるって思った。確かに麻衣ちゃんは、私と同じ存在なのかもしれない。

 

「……シルヴィアさんは、あの時、神様に何も願っていないんですよね。……私達みたいに、こうしたかったとか、こうなりたかったとか……」

「うん。あの時は『神核』を飲まされてから無理やり泉に投げ込まれて、そのまま天使になって。それからずっと転生者を助けたい!って一心でここまで来ちゃったかな」

 

 うん、最初にフロウくんを助けて。その時は勘違いで迷惑かけちゃったけれど、結局は人になれなかったら大変だったって戸惑いながらも許してくれた。

 アンジェちゃんの時は、あまりに酷い枷に必死に解きに行って、エヴァちゃんって大事なお姉ちゃんが出来てとても嬉しそうだった。

 

「麻衣ちゃんは――」

「……私は、後悔してませんよ?……悔しいって、気持ちはあるんですけど」

 

 後悔していない?あの神様にあったり、心を封印された事も?

 

「……私達は、本当は出会えなかった。神様の悪戯でも、お互いこんな身体になっていても。私は、その、引っ込み思案で、友達も少なかったから、きちんと話せる、シルヴィアさん達と出会えて、良かったって思ってます」

「麻衣ちゃん……」

「……シルヴィアさんは、何かやりたい事は無かったんですか?『ネギま!』の世界は、魔法があって個性のある人が多くて、実際凄い、魔法使いなんですよね?」

「え、うん、魔法は使えるけれどね……」

 

 私がやりたかったこと?人助けをしよう。って思ってたんだよね確か……。人を助けて、使命の事ばっかり考えて、その他の事はほとんど考えてなかったかもしれない。

 

「ごめんね、今すぐにはちょっと思いつかないかな。転生者をとにかく助けたくて必死だったよ」

「……じゃぁ、これから叶えていけば、良いんじゃないですか?」

 

 これから叶える?『ネギま!』に転生って言われた時、何を考えたんだったかな~。覚えて無いかも。

 

「……私は、シルヴィアさんと出会って。本当に、助けて貰ったのは事実です。……すごく、感謝してます。……それに、やりたいことも、見つかりました」

「やりたい事?麻衣ちゃんが『ネギま!』で?」

 

 そう言って麻衣ちゃんの顔を覗き込むと、何だか嬉しそうな顔が見えた。

 

「……はい!シルヴィアさん達と、お友達になりたいって、そう思うんです。……だめ、でしょうか?」

「ダメじゃないよ!凄く嬉しい!でも、もう友達だと思ってたんだけれど~?」

 

 そう言って少し意地の悪い笑顔を見せる。

 

「……そうだったら、嬉しいです。よろしく、おねがいします」

「うん、こちらこそよろしくね!」

 

 それまで暗い顔だった麻衣ちゃんの輝いた笑顔に、つい嬉しくなってお互いに微笑み合った。

 

「……それから、フロウさん?が、言っていた天使様って話。……私は会ったばかりだから、どんな事が有ったか、分からないんですけど。……それでも私から見たら、助けてくれた天使様だったんです。でも、こうして話をしてみると。普通のお友達で。普通の女の子に見えます」

 

 普通の女の子と言われて、思っても見なかった言葉に一瞬呆ける。自分が普通なんて、とても思え無くなっていた。

 

「……最初は、必死に戦っていたから。凄く強い魔法使いなんだって、思ったんです。でも、エヴァンジェリンさん達と、一緒に来て。……話をしてたら、よく笑って、良く喋る、普通の女の子にしか見えませんでした」

「…………」

「……フロウさん達は、私の想像でしか、無いんですけれど。……心配、だったんじゃないかなって。勝手にですけど、そう思いました」

 

 その言葉に、ここしばらくの事を思い返してみる――。

 

 メガロメセンブリアから地球に戻って、すぐにアンジェちゃんの酷い枷を見て飛んでいったんだよね。あまりにも酷い状態だったからとにかく助けなくちゃって思って、でもアンジェちゃんには守ってくれるエヴァちゃんがいたんだよね。

 

 それからしばらく魔法を教える事になったけど、近接を学ぶためにフロウくんを呼んで、世界樹の事を忘れていたって事に気が付いた。

 

 日本に着てみればまた酷い枷がついた麻衣ちゃんが居て、必死に助けようとして、助けてからみんなで日本に来て、フロウくんに怒られた――?

 

「私、必死になり過ぎてたのかな?」

「……必死になるって。……シルヴィアさんにとって、許せない事が、あったからじゃないんですか?それが、フロウさん達には、無理してる様に見えたのかも」

 

 もしかして、心配かけちゃってたのかな?そんなに無理したつもりは無かったんだけど、不安にさせちゃっていたなら、謝らないと。

 

「まぁ、それだけじゃねぇけどな」

「シルヴィアは1人で背負い過ぎって事だ」

「フロウくん!?エヴァちゃんも!起きてたの!?」

 

 びっくりしたー!起きてたなら言ってくれれば良いのに。わざと隠れてこっち見てるなんて性格悪いよ。そんな事する子達じゃなかったのに。あれ、最近黒い感じがしてるからそうでもないのかな?でも、そんな子じゃなかったよ。なかったよね!?

 

「ちょっと顔色が晴れたな。昔、俺が拳闘士やって無茶した時に自分で言ってただろ?もっと頼れってな。今回だっていったん戻ってきて、俺たち全員で対処したって良かったんだ」

 

 うん。そうだね……。自分で言った事なのに、必死すぎて忘れていたかもしれない。

 

「それにメガロの偉ぶった奴らなんか放っとけ。教会のやつらもシルヴィアを当てにしすぎだ。いつまでたっても天使様離れできないぞ。奴ら自身のためにもならない。一生メガロに居るわけじゃないんだ、シルヴィアだって当てにされ続けたらいつか壊れちまう」

「そう、かな……?」

「領主ならば領民の生活を守る義務がある。だからといって、子供が熱を出したからって看病に行く領主が居るか?そんな馬鹿は居ないだろう。それをしていたのがお前だ」

 

 あう……。そ、そこまではっきり馬鹿って言わなくて良いんじゃないかな!?

 

「まぁ、そんなわけだから。もっと気楽に行こうぜ。ぶっちゃけ俺らが何もしなくても主人公様が頑張ってくれるんだ。やれる事だけやれば良いんだよ」

「そ、それはちょっと無責任すぎると思うよ!?」

「良いじゃないか。主人公様とやらに頑張ってもらえば。私はアンジェの為にしか頑張る気は無いぞ」

 

 エヴァちゃん。それはそれでどうかと思います……。

 

「……シルヴィアさん」

「麻衣ちゃん。ごめんね。それからありがとう」

「……はい!」

「それじゃ家に戻るぞ。エヴァの例えじゃないがお子様が風邪を引かないうちにな」

「お前だってお子様だろう!」

「はいはい、そうでした、お子様お子様」

「ぐ、なんだ。この負けた気分は」

 

 うん。皆が居る。あと1人の転生者がどんな人か分からないけれど、きっとその人とも友達になれるよね?

 

「そう言えば麻衣ちゃんは、そのパジャマはどこから出したの?」

「……着替えようって思ったら、着替えてました。……イメージしたら、覚えてる服に着替えられるみたいなんです。ちょっと、嬉しいです」

 

 そう言うと輪郭がぼやけて、微笑んだ顔の浴衣姿に変わる。それは便利そうだね~。記憶にある姿を取れるって事かな?思い付きだったけれど、意外と良かったかもしれない!

 

「それは何の服だ?ナツミ・マイ」

「……浴衣、って言います。夏祭りとか、夜着に着るんです」

「うんうん。あと日本は、ファミリーネームが先に来るから、麻衣ちゃんだよ」

「なるほど、それでか。変だと思ったんだ。改めてよろしくたのむ。麻衣」

「……はい!こちらこそお願いします。エヴァさん」

 

 談笑の中、長い一日の夜が更けていった――。


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