青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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文字数が少ないのですが、前後と纏めて投稿するには難しい内容だったので、移転前のままで投稿します。


第11話 私に出来る精一杯の願い

 ――精霊が教えてくれる。

 

 ――南西に2500m。マクダウェルって領主が居るお城。

 

 ――闇が泣いてる。

 

 ――闇が怒ってる。

 

「いっ……!」

 

 思わず頭を押さえてしまった。凄く荒れた精霊の声。普段は聞こえないのに、今日ははっきり叫びが聞こえた。

 

「こんな事は初めて。吸血鬼の力?とにかく全開!急いで行かないと!」

 

 置いた荷物に結界と認識阻害をかけて、ウェストポーチからナイフを取り出し封印する。

 

「良し!」

 

 思いっきり翼を広げて羽ばたき飛び立つ。イメージは後回し!とにかく急ぐ!

 

「間に合って!」

 

 胸騒ぎがする!エヴァンジェリンって人も気なるけれど、アンジェリカちゃんもきっと苦しがってる。理性を取り戻す!絶対に!

 

 

 

 

 

 

 ――マクダウェル卿の城、上空。

 

「凄い数の闇の精霊……」

 

 まるで私が生まれた時の様な、凄い数。これは絶対悪い事が起きてるよね!予感じゃない。確実に感じるよ!

 

「ぐぽぁ!?」

 

 小さな女の子が男性の胸を貫いていた。顔は見えないけど、泣いている様に見える。

 

「ぐ、ふふ……なん……だ、ちゃんと、化け物じゃ……ないか」

「ダマレ」

 

 あの子、凄く怒ってる。声に篭る怒りが伝わってくる。アンジェリカちゃんは……!?

 

「キャハハハハハハ!」

「――えっ!?」

 

 声に視線を送ると、赤い水溜りの中に狂気じみた笑い声が聞こえた。

 

「風の精霊21柱! 縛鎖となり 敵を捕らえて! 魔法の射手・戒めの風矢!」

 

 引き止める!これ以上、泣かせちゃダメ!

 傷付けないように魔力を抑え、拘束用の風の矢を放つ。

 

「アンジェ!アンジェェェェ!お願い!殺さないで!」

 

 必死の形相の小さな女の子が、女神様特製の服でも破れてしまうのではないかと思うほどの力で握り締めてくる。その子に向かって優しく諭すような声で問いかける。

 

「大丈夫だよ。暴れないように助けたの。貴女はだぁれ?」

「エヴァンジェリン。あの子の姉です!」

 

 この子がエヴァンジェリン!?吸血鬼って言ったら怪しいマントの怪紳士とか、もっと大人の美女で妖艶なイメージがあったけれど?

 

「貴女が?吸血鬼の?」

 

 吸血鬼の言葉にビクリと身体が震える。

 

 しまった、言わない方が良かったかな。でももう言っちゃったし……。

 

「天使様は。私達が吸血鬼だから。裁きに来たのではないのですか?」

「違うよ。あの子の理性を取り戻しに来たの」

 

 そう言うと、エヴァンジェリンちゃんの目が大きく見開かれる。

 

「お願いします!私に出来る事なら何でもします!アンジェを助ける力をください!」

「大丈夫、すぐに戻してあげるから。それに対価は要らないよ?」

 

 そう言うと何か難しい顔をしてからハッキリした声で言った。

 

「アンジェを人間に戻せるんですか?私なら何でもします!」

 

 元に……。それは、マッチョ神が先に設定した事だから。悔しいな。

 

「ごめんなさい。人間に戻す事は出来ないの。私に出来る事は、今ある状態から最善を尽くすだけなんだ」

 

 見るからに落ち込んだ表情になるのが分かった。それでも再び顔を上げて告げてくる。

 

「アンジェのこと、お願いします!」

「もちろん!」

 

 私には優しく微笑んで、応える事しかできなかった。

 

「始めるね?『セフィロト・キー』適応を開始……完了。『リライト』!」

 

 そう言うと、セフィロトが描かれた鍵状の杖が光に変わって、アンジェリカちゃんに吸い込まれていった。

 

「アンジェ!?」

 

 弾丸のように走り出したエヴァンジェリンちゃんが、倒れこむアンジェリカちゃんを支えて抱きしめる。眠る様に倒れた彼女を慈しむような目で見ている。

 

 『セフィロト・キー』を使った後の状態を確認すると――。

 

 

【『セフィロト・キー』の適応完了】

 

・転生時の枷『真祖に転化後は理性封印』を解除しました。

 

※以下は上位神による初期設定により変更不可能です。

 

・名前 アンジェリカ・マクダウェル

 

・種族 真祖の吸血鬼 女性

 

・転生特典

 一緒に居る事も出来る姉。

 

・真祖の魔力

 吸血鬼の能力。

 太陽光、流水、十字架などといった弱点が無効化される。

 

 

 良かった。人間に戻してあげる事は出来ないけれど、心が戻るならこれから受け止めることも、悲しみを受け入れることも出来るかもしれない。

 

「ありがとうございました」

 

 アンジェリカちゃんを抱えながら、エヴァンジェリンちゃんがそうお礼を言ってきた。

 

「ううん。私に出来たのはほんのちょっとの事だけ。頑張ったのはエヴァンジェリンちゃんだよ」

「……はい」

 

 この子は強いな。眼に宿っている意思がいつか見た歴戦の勇者の様だった。

 

「ねぇ?これから貴女達はどうするの?私としては、ちょっとお話したいなって思ってるんだけれども?」

「私達とですか?はい、分かりました。でも、この状態を何とかしないと……」

 

 そうは言われてもこの状況。赤い血溜まりと、形を残さない人。唯一原型があるのは、彼女が貫いた男の人だけだね。

 

「それじゃぁ、あなた達の着替えを持って移動しない?お城はこのままだと大騒ぎになるから、あまり良い気持ちでは無いと思うけれど、火を放って火事という事にして、弔いたいと思うんだけれど」

「火事、ですか。」

「うん、こんな身体のまま、残されて逝くよりは、形を残さない方が嬉しいんじゃないかな?」

「分かりました……」

 

 何処か納得がいかない様子にも見えたけれど、荷物をまとめに向かう。エヴァンジェリンちゃんの体格では、アンジェリカちゃんを抱き抱えると動き難いので私が預かると言うと、しぶしぶ預けてもらえた。

 

「それじゃ、火を放つね?」

 

 荷物をまとめた後城の外でそう言うと、エヴァンジェリンちゃんが呟いた。

 

「お父様、お母様。皆さん、どうか安らかに。あの男も一緒に弔われるのは気に入りませんけれど」

 

 あぁ、なるほど……。そこが気に入らなかったんだね。

 

「火精召喚 槍の火蜥蜴 255柱!」

 

 意思を持つ炎、サラマンダーを召還する。城に放つと、城門や窓から内部に入り込み、業火に包まれた。


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