青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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しばらく話が暗くなります。キャラクター上避けられないと思い、この様になりました。
また、この話には残酷な表現が含まれています。苦手な方はそれを踏まえた上でお読みください。


第10話 闇の福音

 ――1400年初頭。

 

 あれからフロウくんは魔法部隊や騎士団の人と模擬戦形式で特訓をしていました。メガロシステマっていう近接格闘術があるそうです。

 騎士団の人達も、竜種との仮想戦闘は良い訓練になるって事で、人間形態だけじゃなく竜の姿でも特訓をしてたみたい。でも元人間だからか竜形態でも半竜でも違和感が酷いそうです。

 私も翼に慣れるのにかなり時間がかかったから、生まれつきじゃないと難しいみたいだね。

 

「なぁなぁシルヴィア~」

「どうしたのフロウくん?」

 

 私と話す時は男の子っぽい口調だけれど、近頃は慣れないといけないからって、外向きは丁寧に話して『私』って言ってるみたい。シスターの教育に苦労してるのかな?

 

「1400年に入ってしばらく経ったけれど、本の反応は無いんだろう?それだったら、ちょっと日本へ行って来てくれないか?」

「日本?どうして急に?」

 

 日本かぁ~。今ってどのくらいだっけ?侍が普通に居る時代のはずだよね?

 

「もう数十年か100年単位で戦国時代になると思うんだ。それまでに現代でいう埼玉県にある『神木・蟠桃』って世界樹と土地を押さえておいた方がいいと思う」

「世界樹!?」

 

 日本にそんなのあったかな?埼玉県にそんなのがあったら大騒ぎというか、パワースポットで大流行だよね?

 

「俺たちが知ってる日本には無いよ。ここが『ネギま!』の世界だって忘れてないか?」

 

 あっ!そうだった。300年も魔法使いやってるから忘れてたよ。

 

「忘れてたって顔してるな。とにかくそこには未来で『麻帆良学園都市』ってのが出来る」

「それはこの間まとめた、覚えてる範囲の場所かな?」

「あぁ、そうだよ」

 

 ふむふむ。確かに魔法使いの学校が建設されるなら、確認しておく方が良いかな?

 

「でもまだ600年も後だよ?早すぎるんじゃないかな?」

「確認だけでも良いんだよ。世界樹はかなりの魔力を持っているから、今どうなっているかを観て来るだけでも価値はあると思うんだ」

 

 なるほどね~。世界樹って言うだけあるのなら、その魔力は地球を回っているだろうし。

 もしかしたら私の『神核』にも影響があるのかな?

 

「あと、ゲートはメルディアナだよな?それなら、前に言っていたヨーロッパの家を回収してくるのも良いだろう。今なら『ダイオラマ魔法球』だって買えるんだし」

 

 『ダイオラマ球』ね。あれならボトルシップみたいに、家や土地を丸ごと保存できるから、抱える程の大きさだけれど、本気で飛べば問題ないかな。

 

「うん、それじゃ確認に行ってみるよ。フロウくんは行かないの?」

「俺はいいよ。こっちでまだまだ修行したい事もあるし、せっかくメガロに居るんだ、後々の為に色々やっておいた方が良いだろう?」

 

 わーお。フロウくんが策士になってきてる。

 

「ちなみに世界樹の土地を確保しておくのは、人より長生きな俺達の生活費を、いずれ土地の借地代金で賄えれば金に困ることも無いだろうってね」

 

 真っ黒だよ!いつの間にこんな黒い子に!昔はあんなに無邪気な少年(?)だったのに!

 

「まぁ、麻帆良学園にはメガロ関係者も行くはずだし、どっちにとっても都合が良いだろう。しばらく離れても問題ない様にしておくから、数年かかっても大丈夫だ」

 

 ………………………………。本当に黒いよ。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、久しぶりにメルディアナにやってきました。100年経てば魔法使いの人たちは、協力者って立場で覚えてくれていたみたいだけれど、一般人や表の教会関係者には、「昔、この土地に天使様が舞い降りたんだ」って、自慢げに話されてしまいました。

 

 目立ちたいわけじゃないから良いんだけれど、これってまた時代が経ったら美化されて崇められてしまったりするのかな?天使的には良い事なのかもしれないけれど、自分の事だと正直どうして良いか分かりません。

 

「ダイオラマ球の梱包と運搬ありがとうございました」

「いいえ。これも仕事の内です。魔女狩り等を行う者もおりますので、注意して向かってください。」

 

 やっぱりまだ中世だからね。むしろこれからが本番だったりするのかな?

 

 飛行時に翼の邪魔になるので、肩掛けショルダーバックに外套を。薬草やちょっとしたものをウェストポーチに入れて、ダイオラマ球を抱き抱えると翼を広げて飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 ――ヨーロッパ上空。

 

 何だろう?何だか変な魔力を感じる。闇系の魔力かな。精霊も騒いでるし。もうしばらく飛び続けたら黒の森の家なんだけれど。

 

 思考の渦に捕らわれていると、出そうとしていないのに私の本がいきなり現れた。

 

「きゃっ!こんな飛んでる時に何でいきなり!?」

 

 いきなり本が出てきて驚いたけど、もしかして転生者!?本は浮いてるみたいだから大丈夫そうだけれど、急に出てくるなんて初めてだよ。

 

「とりあえず、近くの隠れられる場所に!」

 

 上空から林を見つけて降り立つ。そのまま荷物を降ろし、本を見てみると――。

 

 

・名前 アンジェリカ・マクダウェル

 

・種族 真祖の吸血鬼 女性

 

・転生特典

 一緒に居る事も出来る姉。

 

・枷 『真祖に転化後は理性封印』

 

 

 えっ!真祖の吸血鬼って、エヴァンジェリンって人じゃなかったの!?

 

 それよりもこの『枷』は酷い!理性の無い吸血鬼になる前に止めに行かないと!

 確か、フロウくんは城に住んでいたはずって、言っていたよね。よし!

 

「影と闇の精霊たち、集まって。お願い!私に彼女達の居場所を教えて!」

 

 そう言うと、視界いっぱいに闇が降りてきた――。

 

 

 

 

 

 

 ――遡る事10年前。

 

「まだか!まだ生まれないのか……!」

 

 妻が産気づいてから早数時間。初産とはいえここまで時間がかかると余計に心配が重なる。

 

「旦那様。もうすぐですわ。お掛けになってお待ちくださいませ」

「む、うむ。」

 

 気が付かない内にウロタエが行動に出ていたようだ。この年になって情け無いと思いながらも、本当にまだなのかと気を揉み続ける。

 

「おぎゃぁぁぁぁ!」

「ほぎゃぁぁぁ!?」

 

 聞こえた!赤子の声だ。それも2度も!

 

「旦那様。無事にお生まれになられました。双子のお嬢様です。奥様もご無事ですわ」

 

 それを聞いて思わず顔がほころびる。

 

「そうか!でかしたぞ!」

 

 男児ではなかった事が少々悔やまれる。しかし、2人も子を授かるなら僥倖だろう。

 

「あなた……」

「良くやった!この子達か……」

「金の髪を持つ姫様が姉君。やや茶金の姫様が妹君になります」

 

 ふむ…。考えていた名前の候補が捨てる事にならずに済んだか。

 

「では姉をエヴァンジェリン。妹をアンジェリカと名付ける。2人の未来に幸運があることを願おうじゃないか!」

 

 マクダウェル卿は知らなかった。生まれる前から決めれらた絶望を――。

 

 

 

 

 

 

 家族に会いたい――!

 

 『神様は何がほしい』って聞いてきました。だから私は家族がほしい。暖かかったママ。優しかったパパ。一人っ子だったから友達のお姉ちゃんに憧れていました。

 

「お前はもう死んでいるんだ。だから新しい家族を授けてやろう!」

「新しいママとパパ?私のママとパパには会えないの?」

 

 新しい家族?あの優しさには無くなっちゃうの?

 

「心配する事は無い。姉もいるぞ」

 

 『お姉ちゃん』ができる!私はその一言が何よりも嬉しかった。

 

「ハイ!」

 

 元気良く返事をして泉に飛び込んだ。気持ち悪い笑いを浮かべる神様に気づく事も無く。

 

 

 

 

 

 

 ここはどこだろう?体が全然動かないし、あったかくってとっても眠いよ。

 

 すぐ目の前には知らない男の人と、嬉しそうに微笑む女の人がいる。

 

「エヴァンジェリン、貴女はお姉様よ。その美しいブロンドの様に妹を守り、マクダウェル家の姫になるの」

 

 エヴァンジェリン!そうだ。マンガに出てきた魔法使いの女の子だ!それじゃぁ、魔法使いの女の子に会えるんだ!

 

「アンジェリカ、貴女のブラウニッシュブロンドもとっても綺麗よ。将来きっと美人になるわ」

 

 アンジェリカ?どこの外国の女の子?

 

「貴女は妹。お姉様を助ける優しい姫に育ってちょうだい」

 

 私がアンジェリカ!?この女の人が新しいママ?もしかしたらあの男の人がパパ?私、外国人になっちゃった!?あれ、でも言葉が分かる。神様が教えてくれたのかな?

 ――ダメ。眠くて考えられない。少しおやすみなさい。お姉ちゃん。ママ。パパ……。

 

 

 

 

 

 

 私はエヴァンジェリン。将来はマクダウェル家の家督を継いで女領主になる。……と思う。きっとアンジェはお嫁さんになっちゃう。寂しいけれど貴族の生まれ。そう習った。

 

「おねーちゃーん!あのね――」

 

 アンジェは良く笑う子。この子が悲しむ顔は見たくないと思う。だから私は守る。姉として。

 いずれ嫁いで行くかもしれない妹に、精一杯の愛情をこめて。

 

「どうしたのアンジェ?」

 

 そう言って精一杯の笑顔を送る。帝王学。貴族の子女として習いたくない事も習っている。

 アンジェにはそんな後ろ暗い貴族の面は知って欲しくない。けれどもいつかは社交界に出る事になる。それまでは私が――!

 

 

 

 

 

 

 ――10歳の誕生日。

 

 明日は私達の誕生日。そろそろアンジェも社交界デビューをする事になると思う。私は少し前にデビューを果たした。品定めをする様な貴族達の視線。どこが本音か分からない腹黒い台詞。

 

 こんな所にアンジェを置きたくなかった。でも、アンジェも少しづつ貴族の教育を受け始めてる。 何が危ないのか私が教えないといけない。アンジェ。貴女は私がが守ってみせるから!

 

 そうして私は、ベッドで眠りに付いた。

 

 

 

 

 

 

 ふと目が覚める。

 

 美味しそうな匂いが口の中いっぱいに広がっていた――。

 

「んむ?」

 

 口をもごもごと動かして品定め。

 何の味か分からない。ただとっても美味しかった。

 

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「キャァーーーーーー!」

「逃げ……あぁぁ――」

 

 唐突に聞こえた。たくさんの悲鳴。

 

「え、何!?どうしたの!?」

 

 思わず声をあげる。おかしい。今日は誕生日パーティーのはずであんな悲鳴が上がるはずは無い。 何か失敗して咎められたとしても、ここまで泣き叫ぶほどお父様は厳しい物言いをしない。

 

「アンジェは!?」

 

 何かが起きているならアンジェにも何か起きるのではないか?真っ先に妹の安否が頭をよぎった。

 

「……アンジェ!」

 

 ベッドから飛び起きて、格好も気にせず走り出す。その時の私は。息切れもせず、人よりも速く走る自分の体に気づいていなかった。

 

「アンジェ!」

 

 大広間に着いた時、アンジェが居た。

 

 それに、人の形をした”真っ赤なナニカ”もあった。

 

「すばらしい……。子供ながらここまでの力を持つか!」

 

 知らない声だ。その声に構う事無くアンジェを見る。

 

「キャハハハハハハ!」

 

 あれは誰?アンジェの姿をしたナニカは、大広間に居るナニカを掴み、切り裂き、潰し、投げ捨て、口に運び――違う!アンジェはあんな事をしない!

 

「なんだ、姉の方は失敗か?せっかく儀式が成功しても、化け物にならないんじゃ甲斐が無い」

 

 儀式?化け物?この男は何を言っているの?

 答えを切望して男を睨み。見上げる。

 

「真祖の吸血鬼。おめでとう、君たち姉妹は化け物になった。遠慮する事は無い。暴れて良いんだぞ?」

 

 今なんていった?化け物にした?吸血鬼?そんな御伽噺のような存在が――。

 

 そこまで思って、アンジェに視線を送る。あれはアンジェじゃない。

 本当に……バケモ――!?

 

パン!

 

 両手で頬を叩く。

 

 私は何を言いかけた!?アンジェが化け物?あれはアンジェだ!あんな事を喜んでする子じゃない!私が正気に戻して見せる!

 

「さて、私はそろそろ行くよ。狙われてはたまらない。楽しませてもらった。お誕生日おめでとう?化け物姉妹」

 

 ふざけるな!化け物にしたのはお前だ!お前だけは絶対に許さない!アンジェが許しても私が絶対に許さない!

 

 そう思った瞬間!吸血鬼の破壊の力が私を突き動かしていた。

 

「ぐぽぁ!?」

 

 男の口から赤い糸が流れ出る。気が付けば私の右手が、男の胴体を貫いていた。男の胸から手を引き抜き、無意識に舐める自分に嫌悪する……。

 

「ぐ、ふふ……なん……だ、ちゃんと、化け物じゃ……ないか」

「ダマレ」

 

 怒り。それ以外にこの男へ向ける感情は無い。

 

「……ハハ、良い出来だ」

 

 男はそう言うと事切れた。

 

「アンジェは!?」

 

 急ぎ振り返って、アンジェを見る。

 

「風の精霊21柱! 縛鎖となり 敵を捕らえて! 魔法の射手・戒めの風矢!」

 

 風が走る。風圧に押されながら目を見開くと、風の中でもがくアンジェと天使が居た。


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