問題児達+天帝が異世界から来るそうですよ!? 作:THE・Leaf
気にしたら負けですね。
―――”煌焔の都”練成工房街・第八八番工房。
煉瓦屋根の煙突から黄色の排煙が立ち昇る様子を、飛鳥は小躍りしながら見つめていた。
工業街の街道とは思えない華やかさを感じているのだろう。
その工房街のの中でも一際大きな倉庫に、神珍鉄の巨兵・ディーンは搬入されていた。
”アンダーウッド”の戦いで巨龍とぶつかり合い半壊した彼は”ウィル・オ・ウィスプ”に引き渡されて修理を受けていたのだ。
すっかり元通りに修理されたディーンを見て、飛鳥は歓喜の声を上げた。
「ディーン・・・・本当に直ったのね・・・・!!」
「DeN」
主人の呼び声に応じて一つ目に目が灯る。伽藍洞の体は固定されていたが、飛鳥が来たことでそれらもすぐに取り払われるだろう。
「あんなにボロボロになっていたのに・・・・優希君の言っていたプレゼントって、コレの事?」
「勿論そうだけど、それだけじゃないよ」
工場に吊るされていたキャンドルランプから炎が奔る。
ヤホホホホッ! と陽気な声と共にカボチャの悪魔・ジャックが優希と飛鳥の前に現れた。
「お久しぶりですねえ、飛鳥嬢! 黒ウサギ殿! それに、優希さん」
「ええ。その陽気な笑い声が聞けて嬉しいわ」
ウサ耳を伸ばして挨拶を交わす黒ウサギと飛鳥。
「俺はオマケか、ジャック」
「いえいえ。・・・・優希さんアレ使ってましたけど、どうでしたか?」
「ああ、やっぱり違和感を感じた。けど、イメージはアレでかなり整ったし。ありがとな」
「優希君、アレって何のこと?」
「ペリュドン狩るときに使った純白の剣だよ。終わった後すぐ壊れたやつ」
「なるほど。アレのことね」
「手伝うのも苦労したのですがね・・・・」
「形あるものは何時か壊れるっていうだろ」
「まあ、分かっていたことではあるのですが。それよりも今日お呼びしたのは、同盟条件の一つ。”金剛鉄(アンダマンティウム)”の錬鉄と、恩恵付与(ギフトエンチャント)の儀式が修了したからです」
そう、”ノーネーム”が六桁へ昇格するため連盟を作ろうとしている。
六桁に昇格するためには旗が必要なので、連盟旗を作ろうとしているのだ。
「本当ですか!?」
「ええ。発注を受けた新武装の他に、飛鳥嬢に二つのギフトを用意しました。・・・・とは言っても、”金剛鉄”は同盟締結まで採掘許可が下りません。そこで、”ノーネーム”の宝物庫にあった微量の鉄塊を使わせてもらいました」
カボチャ頭の瞳に真剣な火が灯る。
彼の言う鉄塊とは”六本傷”との会合(連盟承諾)で持ち寄った”金剛鉄”のことだ。
「ただし此方の鉄塊は非常用らしく、量が少なかったのです。そこで優希さんと十六夜殿と春日部嬢に承諾をいただき、飛鳥嬢を優先して作らせていただいていたのですヨ」
「それじゃあ・・・・私にギフトを三つも?」
「すごいのです! これで大幅に戦力アップなのですよ!」
ブンブンと両手を振る黒ウサギ。
想像以上の贈物に面食らって驚く飛鳥。
同時に不安がよぎった。もはや幾度となく言われてきたが、飛鳥の体は只の少女のものでしかない。どんな強力な武装を用意されたとしても、持て余してしまう可能性が高いのだ。
飛鳥は両手をモジらせ、珍しく遠慮した声音で呟く。
「そんなに一度に用意されても・・・・ディーンだけでも手に余っているのに。優希君や十六夜君、春日部さんに作ってあげた方が、」
「ですが飛鳥嬢。このまま魔王と戦い続けたら、貴女は本当に死にますよ」
――なっ、と言葉を呑む飛鳥。
「飛鳥、そんな落ち込むことはないよ。俺達四人はそれぞれ違う才能を持っている。その中でも飛鳥の才能は扱いが難しい稀有な才なんだ――言い換えれば、遅咲きの桜と言ったところかな」
と優希がフォローを入れるように言った。
「私が・・・・遅咲きの桜?」
「そうだよ。若い桜の蕾を開花させるために贈る恩恵――彼らの渾身の大傑作。そのギフトを手にすれば、飛鳥の抱えている苦悩と言う霧は、夜明けと共に朝露となって消えるだろう―――大丈夫だよ、自分に自信を持つんだ」
ジャックが、『言おうとしていた台詞全部言いやがって! 良いトコ全部持っていきやがって』的な顔で視線を送りつけられてる気がするが無視。
そして優希が飛鳥の手を握り、ワインレッドのギフトカードを手渡そうとした、その時だった。
「させr・・・・それだけは、させますかああああァァァァ!!」
というカボチャの声が聞こえた気がしたが、空間を操って壁を作り、行く手を阻む。
そして、何事も無かったかのようにギフトカードを渡して、空間を解除。
ジャックがフッー、フッー、とか言ってるのは決して気のせいではない。
「少し遊nゴホンゴホン・・・・少し報復したかっただけだ。悪く思うな」
「優希さん、貴方の作らなくても良いですかねえ!?」
優希は小さくフッと笑い、
「冗談だ」
と言った。
なんだかんだで優希も問題児だったりするな、とその場に居た全員が思った。
「兎も角・・・・ありがとう、ジャック。貴方が作ってくれたギフトは全て大事に使わせてもらうわ」
「ヤホホ、是非ともそうしてください! さすればあの二人も喜んでくれるでしょう!」
「二人?」
と優希が疑問の声を上げるが、スルーされる。
無視されたのは些か気に食わなかったが、どうせ分かる事だと思い、気にしない事にした。
「ささ、それでは舞台会場に向かいましょうか!」
「ぶ、舞台会場?」
「習うよりより慣れろ、ってことだよ。飛鳥」
「まさか・・・・ゲームに出場しろというの!? 本番ぶっつけで!?」
「命が懸かっていて本番。よりもずっと良いだろ? 参加チップは召集記念で無料らしいし、耀も出る”造物主の決闘”で一位と二位”ノーネーム”で独占するといいよ」
優希の言う『命が懸かっていて本番』というのは、魔王とのゲームのことである。
それは、あまりにも正しい。魔王との戦いで使い方や技を試行錯誤する時間など皆無だ。
それこそ本当に命を落とすことになりかねない。
すると、工房の奥から聞こえる剣呑な足音と、聞いた事のある声がした。
「はああぁぁぁ!!? ディーンと”城塞”を受け取るのがあの”名無し”どもだと!? 一体どういうことだ!? 僕は何も聞いていないぞ!?」
「お、お待ち下さい! 此処はジャック殿がお任せ下さいと、」
「五月蠅い! あの二つを修理したのはこの僕だ!! お前たちは黙ってろ!!!」
「駄目です、ルイオス様ッ!」
はい? と、飛鳥と黒ウサギは素っ頓狂な声を上げて顔を見合わせる。
「・・・・幻聴かしら、優希君、黒ウサギ。聞いたことのある下種な響きの名前が聞こえてきたわ」
「飛鳥、それは幻聴ではないよ」
すると、間髪容れず、奥の扉が蹴り破られた。
「久しぶりだな。何ヶ月ぶりだ? ”ペルセウス”(笑)のルイオス」
呼びかかられたルイオスは、憤怒の表情で優希達を睨みつけていた。
*
―――箱庭五四五四五外門舞台区画・”星海の石碑”前の闘技場。
煌くカットグラスで彩られた”煌焔の都”でも一際華やかな場所の一つに優希(過去召喚)と耀は足を運んでいた。この展示回廊を彩るのは鮮やかな硝子だけではない。星の輝きにも似た様々な宝石が、回廊を彩っているのだ。
歴代の術者たちが創造した数々のモニュメントが並ぶこの回廊は後の北側を支えた技術者たちの功績を残すために用意された区画だ。
誕生祭のときに耀と優希が参加した”造物主の決闘”などのゲームで優勝を飾ると、この展示回廊にコミュニティの名と旗印を刻む権利を得る。その他にも美術部門・技術部門が開催されており、ゲームで優勝すると、石碑の展示回廊にその功績を残す事が出来る。
優希と耀は数々の珍品名品をクルクルと見回りながら、耀がバツが悪そうに小首を傾げた。
「・・・・でもこのゲーム、私が出場してもいいのかな?」
「耀、一体何言っているんだい?」
「だって・・・・さ」
と耀が辺りに目を向ける。
「闘技場に集まってる人たち? も功績を残そうとしてる凄い人ばっかりだし。・・・・私みたいなのが混ざっていてもいいのかなーって」
「耀、自分を余り過小評価しない方が良いよ。耀は十分凄いよ。自信を持って良い」
「・・・・・・ありがとう」
耀の顔色が少し曇ったので、思わず聞いてみる。
「三毛猫のこと・・・・いや、何でもない。忘れてくれ」
が、不躾な質問だと思い言葉を濁した。
「――私はもう一人じゃない。これからは人間の社会の中で生きていかないといけない。そう、三毛猫に言われた」
唐突に耀は三毛猫のことを口に出した。
耀の隣にいた三毛猫は巨龍との戦いで重傷を負い、”アンダーウッド”で余生を過ごすと決めて大樹に残ったのだ。
「そうなんだ。・・・・迷惑じゃなかったら良いんだけど」
「何? 優希」
「俺じゃあ、駄目かい?」
「えっ・・・・・・?」
耀は凄く驚いた表情をしたと思いきや戸惑いの表情を見せた。
「やっぱり、迷惑だね。良いんだ、」
「どういう、意味?」
「えっ?」
「さっきの言葉どういう意味なの?」
「・・・・俺が耀の隣に居たら駄目かな? 彼みたいに」
「・・・・・・・・・、」
優希は次の言葉を発しようとしたが、それは耀の言葉によって遮られた。
「迷惑じゃないよ。・・・・全然、迷惑なんかじゃないよ。・・・・・・すごく、すごく嬉しい!」
と満面の笑みで答えてくれた。
その言葉を聞き安堵する優希。優希も笑顔で言う。
「これからもよろしく」
それから暫く歩いていると、唐突に思い出す。
「そういえば、お父さんのこと何か分ったのかい?」
「それが・・・・全然。此処に来ればお父さんの作品も見つかるかなと思ったんだけど・・・・やつぱり、簡単には見つからない」
二人が話しているのは耀の父親、春日部孝明(かすかべ こうめい)のことだ。
ガロロが友人を自称していたが、言われたのは
「――今はまだ、何も話せない。それでもコウメイを知りたければ、アイツの軌跡を追え。それだけで、アイツがどういう男か分る筈だ」
とそれだけだった。
「黒ウサギなら――」
と優希が言いかけたその時、何かが耀に向かい飛んできた。
それを瞬時に感知し、人差し指と中指と親指の三本の指で掴む。
それは十字架型で先端が丸い鈍器。有り体に言うなら”金槌”に近い形状だ。
むしろ、金槌そのものではないだろうかと思う。
「危なかったね、耀。怪我は――」
と言いかけている時に再び飛来。同じ要領で再び掴む。
「コソコソしやがって・・・・出てくるなら出て来い。何時までもそんなところに隠れているな」
瞬時に現れる場所へ空間移動する。耀の真後ろだったので、耀は驚きの表情をしている。
「・・・・大丈夫?」
すると見知らぬ少女が突然現れ、声をかけられた。
「ああ、問題ないよ。お嬢さん。俺が全部掴んだからね」
と優希が優しい声音と笑顔で答える。
「!!?」
「そんなに驚く程でもないだろう?」
そんな会話を傍目に優希は相手の分析を行っていた。
”見た目は”耀と同年齢で身長もほぼ同じ。
華の蜜の様に甘い童顔と、薄いウェーブを巻いたツインテ。幼さの際立つ容姿に見合わないほどの蠱惑的なボディライン、且つ女性的な膨らみのある乳房。黒と蒼のレースで飾られたゴスロリの服は、際どいシースルーで胸元と美脚を惑わしてる。
・・・・明らかに誘ってる様にしか見えないな。止めて欲しいね、こういうの。目に毒だろ。
そんな事よりも人間じゃなくて、偶像(アイドル)――小悪魔がそのまま形を成した少女・・・・というのが気になるな。
「それよりも、コレ・・・・お嬢さんのかい?」
手に持った金槌を少女に見せて問う。
コクン、と頷く少女。
(非常に愛らしい動作だが止めて欲しい事この上ないな)
「そう。けど、危ないから止めるんだよ?」
「・・・・・・うん。・・・・貴女も、ゲーム出る?」
コクリ、と頷いた後、耀に向かって尋ねる。
「・・・・ゲーム? ”造物主の決闘”のこと?」
コクリ、と首肯。無垢な瞳が覗き込むように見つめている。
(あんなに見つめられたくは無いないものだな。・・・・それにしても口数が少ない少女だ。耀よりも無口なんじゃないのか? いや、情報アドバンテージを取れれない為に、作為的にそうしているのか。だとしたら、かなりの少女だ)
出場を決めかねていた耀は、その瞳に背を押されるように頷いて返す。
「・・・・そう。出るんだ」
少女はうっすらと微笑を浮かべ。
「よかった。これでコウメイとの約束が果たせる」
「何!?」
そんな優希の声を振り払うかのように。
「消えた!?」
「逃げたか!」
耀と優希の声がハモる。
「えっ? 逃げた? 消えたんじゃなくて?」
動揺を隠せない耀。思わず優希に尋ねる。
「ああ、彼女は消えてなどいない。そう感じるだけだ。彼女は”境界門”で移動するのと全く同じ原理を応用している。だから、消えたように見せかけた移動だ」
「優希の空間移動のようなもの?」
「それに近しいと思ってくれて良い。だけど、耀・・・・気をつけるんだ。あの口ぶりは恐らくいや、確実に彼女もゲームに出場する」
「うん、分ってる」
「さあ、会場に向かおうか。彼女は耀のお父さんの事も知っているみたいだったしね」
耀は決意のある、迷いの無い眼差しで頷き。
「行こう!」
優希も同じく頷き返す。
二人はエントリー会場に向かうのだった。
前書きと後書きを考えるのが面倒な私です。
むしろ、見てる人いるのかな? と疑問に思ったりします。
別に見てもらわなくとも、大した内容では無いので良いのですが。
兎も角、3月12日15時55分頃更新しました。